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『清宮万太郎くんの事情』
…5…

 

 

 1月半ばの周五郎様の変化は、僕たち「ナカノ」の社員にとって大きな衝撃だった。

 誰もがいきなりイマドキの若者に生まれ変わった彼に腰を抜かさんばかりに驚いたが、面と向かって理由を訊ねられる者などいない。年齢的には「若造」と言われても仕方ない彼ではあるが、頭の中に精密な回路が仕込んであるとしか思えないほど何もかもに精通している。若手社員にとっては「雲の上の御方」なのである。

 そうなると、彼らが次に向かうのは僕のところだ。お抱え運転手をしてるくらいだから、プライベートなことも詳しいと思われているらしい。でも、いつでも僕の傍にぴったりと吸い付いている田所様に阻まれて、真相を確かめられる社員はいなかった。……っというか、実のところ、僕自身も詳しいことは知らなかったのだ。

 


「ふうん、機密事項、ってことなのかぁ」

 エプロン姿の愛美花ちゃんは、それほど落胆した様子もなくそう言った。ああ、なんて可愛いんだろう。一応料理をするからと、後ろで無造作にひとくくりにした髪の毛。耳元で踊る後れ毛がとってもキュートだ。

「は〜いっ、出来ました! 帝国ホテルのシェフが作ったパスタですよ」

 ほかほかと美味しそうに湯気を立ててるスパゲッティーのお皿。浅めのどんぶりみたいなかたちで、ピンクとブルーの色違い。お皿がペア、それだけでワクワクしてくる。彼女の言い分もはったりじゃないんだ。だって、確かにスパゲッティーソースの包みにはそうやって書いてある。コックの帽子をかぶったシェフの写真入りだ。

「美味しそうだね、いただきます!」

 リビングダイニング、白木のテーブルの上。スパゲッティーの他にはサラダにスープ。それから僕のお土産の白ワイン。特別な食事じゃないけど、愛美花ちゃんが僕のために作ってくれたんだって思ったら、それだけでおなかがいっぱい。……ああ、そんなこと言ってられない。残さず綺麗に食べなくちゃ。

 

 クリスマスからちょうどひと月。週末の僕は当たり前みたいに彼女の部屋に泊まるようになっていた。そんなときは今日みたいに料理を作ってごちそうしてくれる。どうも彼女なりに、年末の僕の散財を気にしているみたいだ。中途就職でボーナスも出なかったのにかなり無理をした。それも彼女のためだと思えばなんてことないが、タバコの銘柄のランクを下げたことに気づいたみたい。

 お正月は一緒に初詣。愛美花ちゃんはちゃんと晴れ着で来てくれた。成人式の着物を着ないともったいないから……なんて言い訳してたけど、もうローズピンクの華やかな柄がぴったりで新春のTV番組のタレントさんみたいだった。道行く人が振り向いても、ココア色のマフラーで顔を半分隠してたから、ちょっと余裕だった。

 

「職場のお友達にもしつこく聞かれるのよね、広報部の子とか。私、おしゃべりだから、万太郎くんが何も言わないでくれた方が助かるわ」

 暖まった空気にほんのりと色づいた頬。僕だけに見せてくれる笑顔。いいのかなって、今でも時々不安になるけど。……でも、彼女は僕のもの。窓硝子の結露がゆっくりと流れ落ちる夜、一晩中愛美花ちゃんを温めてあげるのは僕なんだから。こんな風に静かなしあわせが、ずっと続くといいな。

「……あ」

 彼女が食器を下げにキッチンに入ったとき、部屋の隅にそっと置かれた毛糸のかごを見つけた。この部屋を訪れるたびに、少しずつかたちになっていく作品。そんなに器用な方じゃないと自分でも言ってる愛美花ちゃんが、一生懸命に編んでくれてるんだ。

「バレンタインまでには、頑張るからね」

 内緒が見つかってしまって、ちょっと恥ずかしそうに微笑む。ううん、そんな、今のままで十分だよ。100年分のバレンタインを前借りしてしまったみたいに、今の僕は満たされてる。いつも僕を幸せにしてくれるのは、目の前にいる小さな可愛い女の子だ。

 

 ……僕も、何かしたいな、と思う。

 2月のはじめ、立春の日が愛美花ちゃんのバースディーだ。それくらいは、社内報のプロフィールでチェック済み。彼女は自分からは言わないけど、僕が分かっていることはうすうす感づいているんだろうな。

 ――クリスマスに、彼女にあげられなかった夢。リベンジと言うにはちょっと違うかも知れないけど、叶えてあげたいなと思っていた。一ヶ月前までなら、年休が取れる。届けを出しておけば、急な用事が入っても、他の運転手が僕の仕事をしてくれるんだ。だから、とっくに手配済みだった。

 どんなにか、喜んでくれるだろう……その日を想像しただけで、胸がいっぱいになる。

 

 ふくらむばかりの夢。登るばかりの幸せへの階段。全てが順調に見えた僕の未来が怪しい雲行きに覆われていくのは、それからすぐのことだった。

 


「ごめん、明日の約束、キャンセルしてもらえないかな?」
 その晩、仕事が上がってから、愛美花ちゃんに連絡した。携帯を持つ手が震える。自分の言葉が自分でも信じられなくて、口惜しくて仕方なかった。

「え〜、どうしたの? だって、明日は周五郎様がオフだって言ったじゃない。どうするの、パスポートには日付が入っているんだよ?」

 愛美花ちゃんが、顔なじみのお得意先様から頂いた東京ディズニーランドのチケット。僕は知らなかったけど「ウィンターナイトパスポート」と言って、1月22日から2月20日の間、午後5時から利用できるものだそうだ。頂いた先の方は関連企業の人間らしく、宣伝用の日付入りの限定のものを渡してくれた。

 明日、28日は、丁度週の半ばの水曜日。比較的仕事も楽で、休みを取りやすい。ふたりとも早退して行こうと話が付いていた。愛美花ちゃんはとても楽しみにしていて、明日のために新しいワンピースを新調したんだと言ってたっけ。

「うん……そうなんだけど……」
 僕はどうしてもその次の言葉を発することが出来なくて、尻つぼみにごにょごにょしてしまった。携帯越しに、はあっとため息が漏れる。ああ、がっかりしただろうなあ、愛美花ちゃん。

「まあ、何言っても仕方ないわ。今からならどうにかなるでしょ、誰か他の子を誘ってみる、プーの友達とかもいるから、何人か当たればどうにかなるわ。気にしないで、大丈夫よ」

 明るくはきはきとそう言ってくれる、彼女の笑顔が目の前に浮かんで来るみたいで切なかった。鼻の奥がじんとする。

「このごろ……こういうの、多いよね。本当に、お仕事なの?」

 でもそのあと、探りを入れられるみたいにそう付け加えられて、どっきりしてしまった。

 もしかして、愛美花ちゃんは何かを知っているんだろうか、まさか、どうして……? 心拍数が急に上がる。良かった、面と向かってじゃなくて。顔に出やすいタチだから、きっと隠しきれない。

「まっ、……まあ。その辺りは、ご想像にお任せするから。じゃ、じゃあ、本当にゴメンね!」

 

 慌てふためいて、携帯を電源ごと切る。本当は周五郎様の運転手としてそんなことをしては失格なんだけど……今は、混乱した頭の中をきちんと整理するために、ひとりっきりになる時間が必要だった。

 


 一度絡まってしまった思考の糸は、無理に解こうとすると、どんどんごちゃごちゃになってくる。だから今日、愛美花ちゃんにホールで声を掛けられたときも、上手に微笑み返せなかった。でもそんなぼくを知ってか知らずか、彼女はいつも通り、楽しそうに隣を歩く。行き先は彼女のお気に入りのサンドイッチショップだ。

「ナイトイリュージョン、すごく素敵だったの。万太郎くんにも見せたかったな。ロッカーにお土産買ってあるから、あとで渡すね?」

 結局は学生時代の友達を誘ったのだと言った。それが男だったらどうしようと、一瞬思ってしまったが、今の僕にそれを問いつめることは出来ない。彼女に対して後ろめたい気持ちがあるからこそ、言えないのだ。

「……ねえ、万太郎くん? このごろ、とっても忙しいみたいだけど……来週の約束、大丈夫なの?」

 大きな目でじーっと見つめられると、何もかもどばばっと吐き出してしまいたくなる。そんな自分が嫌になる。何度も何度も考えたんだ。だから、今は言えないんだ。でも……。

「う、うん。それはもちろん! だって、ちゃんと有給を取ってるんだから、誰にも何も言わせないよ。愛美花ちゃんも早退できるんでしょ? 5時頃には落ち合えるかな……」

 僕は彼女の不安げな瞳をまっすぐに見つめて、力強く言った。

 そう、そうだよ! 来週の水曜日の約束だけは、何があっても譲れない。僕にとって、きっと一番大切な日になるんだから。愛美花ちゃんの23回目の誕生日、ふたりで祝おうと決めたのにはそれなりの意味があるんだ。彼女だって、同じ部署の仲間たちがパーティーをしてくれると言うのを断ってくれたんだから。

「そう、ならいいんだけど」
 ホッとしてこぼれる笑顔。ああ、本当に荒んだ心が洗われて行くみたいだ。愛美花ちゃんと一緒にいると嫌なことが全部吹き飛んで、最高に幸せになれる。

「あんまりひとりにしないでね、私、寂しくなっちゃうから」

 うわわっ! 上目遣いでそんな風に……! もうこれだけで、ぎゅいーんと心拍数が上がるぞ! 今すぐにでも抱きしめたいよ、でもこんなオープンカフェでそんなこと出来るはずないし……!

 1月の終わり。でも愛美花ちゃんの周りは一足早く春が来たみたいだ。久々に風もない穏やかな日和に包まれて、キラキラして。

 

 ……ごめん、もうちょっとなんだ。だから、何も言えない僕を許して!

 受付カウンターに戻っていく後ろ姿を見つめて、僕は心の中で詫びていた。

 


 だけど、幸せの余韻は長くは続かなかった。運転手の待機部屋にいたら、突然呼び出される。慌てて出て行ってみると、そこに立っていたのは一番お目に掛かりたくなかった人間。まともに目を合わせることも出来なくて、俯いたままの僕。

「お前に折り入って話がある」

 押し殺した低い声は、田所様のもの。ああ、たった2時間の待機時間、残り45分。どうしてこんなに用事が建て込むんだよ。しかも相手が……。

 服装チェックをされるだけで、縮み上がるほどなのに、もう話を切り出される前から何かありそうなこの不穏な空気。逃げ出せるものなら、今すぐどこかにとんずらしたい。これがゲームだったら「逃げる」コマンドを使えるのにっ!

 しかし、くるりと背を向けてずんずんと歩き出した彼に、僕は無言で従うしかなかった。周五郎様はお得意様と面会中。今日は気の置けない仲の相手なので、田所様は席を外されても余り支障がないらしい。彼としては周五郎様に悟られないようにコトを運びたかったのかも知れない。よくよく思い起こしてみれば、何度か機会を伺っているようなそんな素振りがあったような気もする。

 わざわざ、本社の外の喫茶店に出向き、窓際の席に向かい合って座る。彼はこちらに訊ねることなく、メニューの一番上にあるブレンドをふたつ注文した。表向きは部下を激励する優しい上司の姿……に見えないでもないか。だが、僕の心はぶるぶると震え続けていた。

 

「近頃、周五郎様はあれこれ独自に調べているようだが――清宮、お前はそれに一枚噛んでいるのか?」

 うわっ! 突然、本題! 下を向いたままだったので、青ざめ切った顔が更に白くなるのは確認されなかったと思うが。どうして……というか、やはり。田所様を出し抜くなんて、出来るわけがないんだ。周五郎様だって、それくらい長い付き合いなんだから、分かっているはずなのに。

「まあ……いいだろう」

 僕が何も答えないでいると、田所様は静かにそう言って、ブレンドにミルクとシュガーを入れた。ええとっ、この場合、シュガーは僕が入れて差し上げるべきだったのだろうか。もう遅いけどっ……、げげ、山盛り3杯もいれてる!!

 ようやく呼吸の整った僕が恐る恐る顔を上げると、彼は全然笑っていない目でこちらを見据えていた。

「お前は……頭取の口利きで入社することが出来た人間だ。知っての通り、ナカノ本社にはお前よりもよっぽど有能な運転手が掃いて捨てるほどいる。不景気で人員削減が囁かれている今、どうして新規採用に踏み切ったのか、分かっているのか?」

「は……はぁ……?」

 少し話の流れが変わったと思ったが、やはりその内容はよく分からない。僕はなんと言って返答したらいいのやら、ぼんやりとしてしまった。

 まあ、僕としてもこの件についてはとても疑問に思っている。そりゃあ、父は長年周五郎様の運転手としてやってきた男だ。社長賞とかも頂いている。家ではのほほんとした人だったが、仕事は出来たらしい。でも、僕は彼の息子と言うだけで、別段優れた腕前を持っていた訳ではない。だいたい、フリーターの身で自分の車すら持っていないのだ。頭取との直接の面識ももちろんない。

 次にどんな風に話が進むのだろう……? 僕がドキドキしながら見守っていると、田所様はふっとその視線を窓の外に向けた。今日は金曜日、週末の昼下がりだ。学生らしい若者たちが、通りを過ぎていく。同世代なのに、あっちはなんと自由気ままにしていることか。

 昨日は博多に出張だった周五郎様も、今日一日は本社にいらっしゃる。まあ、明日はまだ午後から大阪だと言うから忙しいなあ。田所様ももしかすると、彼らとそんな多忙な周五郎様を比べているのかも知れない。

「あの方は、大人たちの中でお育ちになった。ご両親を早くに亡くされ、ご兄弟もなく、ただただナカノの跡を継ぐために必死で頑張ってこられた。このまま話がまとまれば、夏には奥様も迎えられる。――今、あの方に一番必要なものは何だとお前は考えるか?」

 

 ……そんなことを言われたって。

 僕に周五郎様のような素晴らしい方のことが分かるわけないじゃないか。父から話は聞いていた。僕と同じ年なのに、全てにおいて優れていて、礼儀作法もしっかりしている。どこに出してもおかしくない素晴らしい御方だと。そして、実際にこうしてお会いしてお世話をさせて頂くようになって。僕はますます周五郎様に対して憧れを持つようになっていた。

 

「頭取も、お前には期待をしているそうだ。何しろあの清宮の息子だからな。ナカノのために誠心誠意を持って仕えてくれると信じていらっしゃるんだろう。有り難いことではないか、その恩に十分に報いなければならないのは分かっているな?」

「は……はあ……?」

 やっぱり、言ってることが意味不明だ。眠たい社会学の教授の講義だって、もうちょっと理解できた気がする。何かとても重要なものを奥歯の間に挟んだまま、田所様は話し続ける。

「そういえば、お前。例の受付嬢との交際はどうなっているんだね?」

 げげげっ、今度はそっちか!? もう、いい加減にしてくれよ、愛美花ちゃんのことまで難癖付けるんじゃないだろうなあ……僕が彼の真意を知りたくてまた顔を上げると、予想に反してにこにこと笑っている老人がいた。

「いやぁ……あの子は可愛いね。私たち上層部の間でもよく話に上がるんだよ。それに外部のお客様にも評判がいい。どうもね、縁談の話もちらほらと来ているらしいよ……ほら福崎商事の営業部長、あの方が息子さんの嫁に欲しいと私に口利きを頼んでこられてねえ――」

 ちら、とこちらを見る。口元は笑っているのに、目は笑っていない。だからすごく怖い、この方には逆らえないといつも思っていた。

「彼女も、ナカノで周五郎様の運転手をしているお前だから、気に入ったんだろう。私の考えいかんでは、お前の将来などどうにでもなる。それを……分かっているんだろうな? 間違ってもあの御方が道を踏み外すことなどないよう、しっかりと見張っていてくれ」

 伝票を手にすると素早く席を立つ。彼が精算を済ませて店を出て行っても……僕は椅子から立ち上がることが出来なかった。

 


 何度も何度も、携帯に連絡した。でもずっと留守電になっている。一体どうしてしまったんだろう、何があったんだろう。僕は公用車の中で、ひとりでパニックに陥っていた。

 

「周五郎様がご自宅に戻られてないのだが、行き先を知っているのか?」

 そんな連絡が田所様から入ったのは日曜日の午後9時過ぎのこと。僕はもう自分の家でのんびりとしていた。今週末は愛美花ちゃんとの予定を入れなかった。大阪に向かった周五郎様が最終で戻られるというので、東京駅までお出迎えをしなくてはならず、土曜日に泊まりに行けなかったのだ。

 まあ、何はともあれ、約束の水曜日は今週だ。僕の机の上にはちゃんとプレゼントの包みが用意されていた。何を忘れてもこれだけは忘れない。ホテルのディナーも予約済み。部屋は普通のツインだけど、一番高いフロアを指定した。

 当日に着ていくスーツはどれにしようかなんて、あれこれと想いを巡らせていたときに、いきなりの呼び出しだ。しかも……周五郎様が戻ってないって? だって、今日は迎えはいらないって言われた。僕もたまには電車とやらを使って、庶民の暮らしを体験してみるんだとか。休日の呼び出しだったし、その言葉に甘えることにしてしまったんだ。

 確かに。朝、ご自宅にお迎えに上がったのは僕だ。周五郎様の指示で、何度かお送りしたことのある本社と並びの場所にある美容院まで車を進めた。朝の10時過ぎだったと思う。

「まあ、……周五郎様も立派に成人された御方だ。一晩くらいどこかに行かれたからと言って、いたずらに騒げばナカノ全体の恥となる。頭取もそう申されて、警察などに届けるのは控えることにした。だが……本当に知らないのか? どちらに行かれたのか」

 

 取るもとりあえず、その美容室まで車を飛ばしてみた。でももう店のシャッターも降りている。今更家人を叩き起こすのも良くないかと遠慮してしまった。でも、どちらに行かれたんだろう――まさか。

 僕にはひとつだけ、思い当たることがあった。だけど、それを田所様に告げることはどうしても出来ない。僕と周五郎様の秘密だった。

 

 ――私の考えいかんでは、お前の将来などどうにでもなる。それを……分かっているんだろうな?

 喫茶店で、射るような瞳で僕を見た田所様の姿が蘇る。まさか……まさか、そんなことが。でも、……!

 

 どかっとシートに身体を埋めた。明日は周五郎様も定時にご出勤になる。どこに行かれていたとしても、必ず一度はご自宅に戻られて着替えなければならないだろう。今夜はもう、車内で過ごす覚悟だった。いつでも連絡があればどこまでだって駆けつける。僕を信じてくださっている周五郎様のために、出来ることは何だってするんだ。

 

 その時。沈黙を守っていた僕の携帯が、けたたましく音を立てた。


 

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