■コラム1:さえない主人公


○盗むシステム・・・
町の人と「話す」行為と「盗む」行為の並列。盗んだ物によって物語が展開。

○大筋 ・・・
私立勇者養成学校に新たに開設された「盗賊講座」。そこに集う新米学生とベテラン教師の物語。

○キャラ@ 主人公・・・
「楽してもうけたい」という理由で入講。性根が曲がっている。しかし意外と仲間思いで人情家な所がある。

○キャラA 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以下略。


2000年3月7日。
「盗人講座」に関する初めてのメモ。そして「RPGツクール2000」発売と同時に制作はスタート。





5月。
主人公を「王子」に変更。
街の設定や帝国突入のクライマックスまで今度こそ一通りの大筋も決まった。しかしその後も盗人講座の中の主人公像は刻々と変わっていくことになる。


各講座間に起こる様々な事件を主人公とその仲間たちが次々と解決していく。
各事件の度に主人公の見せ場がビシッと用意されている・・・。最初はそんな設計で盗人講座のシナリオは考えていた。
だが強制イベント「闇商人の麻薬事件」を作成中、主人公に違和感を感じ始めた。
「こいつは事件をどんどん解決していける器なのか・・?」

ミストで起こる事件は特定の人物のそれまでの人生に根づいたものや、人生観を浮き彫りにするものが多かった。主人公に事件を解決させ見せ場を作ることは、事件当事者のキャラ達を救うことでもある。「王子」として大切に育てられ、人の悪意を知らぬ主人公トレドが人生の紆余曲折を経験した周りの盗賊達にどれだけのことが言えるのだろう?

闇商人を戦闘で撃破したあと、悪者にトドメを刺そうとするミトン。
6人分の人生を知る少女はそれが最も正しい、いや、適切な処置だと考えた。しかしトレドは思わず彼女を制し、思い止まらせた。
彼女の行動の善悪、正誤に明確な答えを出したのではなく、指輪に操られる彼女に憤りを爆発させて。
ミストに来て自由を手に入れたトレドも、抑圧された幼少期の思い出は根底に根付いている。 目の前で他人の記憶に囚われ、人を殺そうとする少女を見てはいられなかったのだ。

自分なりに納得のいくイベントの締めくくりにはなった。
けれどトレドという主人公をその実力以上に「見せよう」とすることはやめることにした。以後、彼が解決していく予定だったイベントを修正、主人公は少し大人しくなった。 自作品の愛しい主人公だ。時折、彼のいいところを入れたくなる。だが欲張ることはしないよう終始気をつけた。





その後の展開
酒場でとある盗賊の昔話を聞く。暗い話にも心温まる話にも、彼が介入する部分などはない。
同級生の女の子に日記帳を集めるよう指示される。 彼はそれを手伝い組合員のことをより深く知ったが、それで組合を乗っ取ったわけではない。
生きるために盗みをするアイゼル達の話を聞き、彼は自分のお気楽さを嘆く。そして部下であるアーサに励まされる。
会議室の裏側から親しい人の思いや過去を知る。だが彼が先輩達を救うことは出来ない。彼一人では天使は勿論、一人の少女を救うことも出来ない。

さえない主人公トレド。 彼の見せ場はないものの、彼の周りにはシリアスとコメディー、様々なエピソードが生まれた。 イベント豊富なゲームとしては面白いことになってきた。一抹の不安を残しつつも・・・。


ある人がトレドを評して曰く、「謙虚な聞き手」だと。
ああ、なるほど聞き役なのか・・妙に納得する作者。

では彼は物語の「引き立て役」なのか?そうではない。彼は主人公でありながら自己を主張するわけでもなく、 謙虚に誠実に、時にはお節介に・・・スリはしつつも・・・街の中を動き回った。

新米盗賊トレド・ナッパルパは様々な人と出会い、彼らの生き様に触れていく。 少しずつ、未熟ながら学習し、自分の中で自分の意思を確立していく。帝国襲撃におののく街の民の前で彼は叫ぶ。大切なものを抵抗しないまま投げ出すのか・・・と。 ミトンの時と変わらない。彼は自分の範囲でしか物事を語れなかった。
だが彼の未熟ではあるが、まっすぐな想いは再び他人の気持ちを強く動かした。そんな男だったから、傷ついたミトンは指輪を彼に託すことが出来たのだ。
主人公は指輪を受け取り、7人分の知識と記憶を手に入れる。そして再び王子の姿へと戻り、自分の役割を見定め最後の戦いへとその身を投じた。
彼が街の民に発した叫び、戦いの覚悟。それは全て「聞き手」として多くの人々の想いを聞いてまわったから生まれたまぎれもない彼自身が成長した「証」だった。


難産の末、生まれた主人公。世に並ぶ数々のRPGの中で、ただ戦闘でのみ成長する主人公にはしたくなかった。さえない、けれど愛すべき謙虚な主人公トレドはこうしてクライマックスに最高の見せ場を手に入れた。



( 完 )



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