高浜虚子
旅戻り牡丹くづるる見て立てり
己れ毒と知らで咲きけり罌粟の花
老臣を犒ひたまふ花菖蒲
白にして大いなるかな花菖蒲
大夜宴主卓の花は杜若
田植笠竝びかねたる如くなり
いかだの音ゆるく太しや行々子
一しきり蠅打つことも日課かな
蚊帳吊りて有明しある座敷かな
緑蔭を出れば明るし芥子は実に
瓜畑のつづく野路の暑さかな
吹きつけて痩せたる人や夏羽織
魚鼈居る水を踏まへて水馬
雲そこを飛ぶ夏山の茶店かな
一柄杓先づ御佛に石清水
日よけ捲いて涼しき日なり沼の茶屋
山の蝶飛んで乾くや宿浴衣
山荘や南に夏の海すこし
暑はげし柳わくら葉落ちつづく