高浜虚子
牡丹花の雨なやましく晴れんとす
牡丹花の面影のこし崩れけり
柏餅家系賤しといふにあらず
山里や軒の菖蒲に雲ゆきき
背の順に坐り並びぬ糸取女
用心の寒さ暑さもセルの頃
どでどでと雨の祭の太鼓かな
風折々汀のあやめ吹き撓め
一院の静なるかな杜若
松の雨ついついと吸ひ蟻地獄
徳川の三百年の夏木あり
大木の幹に纏ひて夏の影
羽抜鳥卒然として駈けりけり
青簾一枚吊れば幽かなり
ぼうたんに葭簀の雨はあらけなし
頭にて突き上げ覗く夏暖簾
雷雲に巻かれ来りし小鳥かな
夏山の谷をふさぎし寺の屋根
夏山のおつかぶさりて土産店
鯉の水涼しく動きどうしかな
世智辛き浮世咄や門涼み
丹波の國桑田の郡氷室山