藤の雨漸く上り薄暑かな
更衣裾をからげて帚持ち
とり出して祭提灯埃吹く
大いなる新樹のどこか騒ぎをり
風鎮は緑水晶鉄線花
十薬の匂ひの高き草を刈る
日当れば実梅一々数ふべし
主人今暗き実梅に筆すすむ
河骨の花に添ひ浮くいもりかな
鮎釣の夕かたまけて去に仕度
継竿の華奢を競ひて鮎仲間
ところどころ瀬の変りたる鮎の川
卯の花のいぶせき門と答へけり
浅間嶺の麓まで下り五月雲
蛍火の鞠の如しやはね上り
鍬置いて薄暑の畦に膝を抱き
水車場へ小走りに用よし雀
田植留守庭の真中に鍬置いて
早苗饗のいつもの主婦の姉かぶり
早苗饗や神棚遠く灯ともりぬ
梅雨晴の夕茜してすぐ消えし
我生の今日の昼寐も一大事
手に当る五色団扇の赤を取る
己れ刺あること知りて花さうび
夏山を軒に大仏殿とかや
涼しさや熱き茶を飲み下したる
藍がめにひそみたる蚊の染まりつつ
いつ死ぬる金魚と知らず美しき
一杯に赤くなりつつ金魚玉