古袷著てただ心豊かなり
鉄線を咲かせて主書に籠る
更衣したる筑紫の旅の宿
山さけてくだけ飛び散り島若葉
天草の島山高し夏の海
美しき故不仕合せよき袷
風薫る甘木市人集ひ来て
蛍飛ぶ筑後河畔に佳人あり
緑蔭にありて一歩も出でずをり
大岩に根を下したる夏木かな
梅雨暗し床の隅なる古き壺
親蟹の子蟹誘うて穴に入る
旅鞄開けて著なれし古浴衣
自ら風の涼しき余生かな
汝はいかにわれは静に暑に堪へん
蠅叩われを待ちをる避暑の宿
山寺に避暑の命を托しけり
大昼寝して次の間の話し声
一切を放擲し去り大昼寝
力無きあくび連発日の盛り
勤行の責め打つ太鼓明易き
我を見て舌を出したる大蜥蜴
襟首を流るる汗や天瓜粉