宴会

 湯から出ると、脱衣籠の前に番頭のゲダツが立ちはだかっていた。彼は白目をむいて、手には色とりどりの浴衣を持っている。
「なんじゃ、何か用かのう」
「ここはうっかり湯! 温泉には浴衣がつきものだ!」
 ゲダツはそう言い放つとカクに浴衣を押し付けた。そして腕を組もうとしてスカスカしている。
「…何がしたいんじゃ」
「シャウ! きっとこの辺りの踊りか何かっしょ!」
 ネロはそう言うとゲダツの横に立って、同じようにスカスカやってみせた。間抜けな光景に一同はため息をついた。

 とりあえず、郷に入っては郷に従えとも言うし、やはり温泉宿と言えば浴衣だろう。カクがまとめて渡された浴衣に全員で群がり、お前はそれがいいだろう、俺はこれだと女学生のように盛り上がる一行。それぞれ選んだ浴衣に袖を通してみる。大柄なフクロウ、クマドリ、ブルーノ用の大きなサイズも用意されており、なかなか気が利いている。
「浴衣着たのは初めてだーチャパパー」
「今夜は宴会なんだろ? どこの部屋に行けばいいんだ?」
 髪を結い終えたジャブラが言うと、まだ腕をスカスカやっていたゲダツが、カッ! と目を見開いた。
「俺が案内しよう! ついて来い! 青海人!」
 さすが元・空番長。気合の入った声に一瞬たじろいでしまう。浴衣に着替えた面々はぞろぞろとゲダツについて行った。残ったのはクマドリとスパンダムだ。クマドリはクンフージュゴンにぶっとばされたスパンダムの看病をしていた。優しい男だ。

 宴会場に案内されている途中で、ルッチは女湯から出てきたカリファを見つけた。カリファは見事な中庭を見ているようだ。髪を結い上げて、カリファも浴衣を着ていた。
「…チーフもいなくてゆっくり出来ただろう」
 ルッチが声をかけると、カリファは湯上りで桜色に染まった艶やかな笑みで彼を見た。
「どうかしら…、あなたが喜んでくれるんじゃないかと思って…思い切ってしてみたのよ」
 そう言ってカリファはルッチに浴衣姿を披露する。ルッチは目を細めたが、ふっと息を漏らすように笑った。
「ああ…、よく似合う」
「そう、よかったわ」

 「ああ? ルッチのヤツ、どこ行きやがった?」
 いつの間にかいなくなったルッチに気付き、ジャブラが騒ぎ立てた。先頭を行くゲダツは立ち止まり、腕をスカスカやっている。そこで待っていてくれるのだろうと思い、ジャブラ達はルッチを探した。

 探した…というか、結構あっさりとルッチを見つける事は出来たのだが、ジャブラ達は声をかけずに物陰に隠れて様子を窺っていた。ルッチとカリファが親しげに話しているのだ。別に同じ組織の人間同士、親しくてもおかしくはないのだが、ちょっとゴシップ的な匂いがしないでもない。
「おいおい…あの二人、何語らってんだよ」
「シャウ、怪しいっしょ!」
「チャパパー、暴くぞ暴くぞ、二人の関係」
「…なんじゃ、ここではよく話が聞こえんのう」
「お前達…そっとしておけ」
 ブルーノが嗜めても誰も聞かず、壁を壊しそうな勢いで寄りかかって聞き耳を立てている。漏れ聞こえてきた会話から推察するに、カリファが浴衣姿をルッチに見せて、ルッチがそれを誉めているようだ。
「SUPAYAは不純異性交遊はダメなんじゃなかったのか?」
 ジャブラはルッチの弱みを握ったのが嬉しいのか、にやりと笑みを浮かべてカクを見た。
「あんな顔して案外器用じゃのう、ルッチは」
「お前、そりゃひどくねぇか、同じ店の仲間だろうが…」

 「…温泉はゆっくり出来たのか」
「ええ、あなたに見せてあげたかったわ…。人気者だったのよ」
「そうか」
「頭に小さな手ぬぐいを…ちょっとおにぎりみたいだったわね」

 「おにぎり?」
「カリファのヤツ、変わってんな」

 「それにしてもよく浴衣のサイズがあったな…」
「裁縫は得意なので、手ぬぐいで作りました」

 「手ぬぐい?!」
 驚いてジャブラ達は自分達の浴衣を見た。とても手ぬぐいで出来ているようには見えない。きちんとした浴衣だ。驚いたその声が大きくて、ルッチ達に気付かれてしまった。
「…そんなところで何をしている」
「セクハラよ」
「クルッポー!」



 ルッチとカリファの間にいた、手ぬぐいで出来た浴衣を纏ったハットリが飛び出してきた。そして旋回してルッチの肩に止まると、小さな手ぬぐいを頭の上に載せた。…おにぎりみたいだ。どうやらルッチとカリファの会話はハットリの話題だったらしい。
「紛らわしい話すんじゃねぇよ!」
 ジャブラは勝手に切れてしまい、ずんずんとゲダツの方へ行ってしまった。ルッチ達は訳がわからない。だがハットリがご満悦なのでよしとしよう。

 「さぁ入れ、ここは生存率30%、宴会場の試練!」
 ゲダツはそう言うと襖を開けた。目に眩しい畳の色、空気が凛として身が引き締まる思いがする。部屋の中心には大きなテーブル、その上にはアラバスタの料理が並べられていた。
「珍しい料理ね…」
「さっさと食おうぜ、腹減った」
「クマドリがいないー、チャパパー」
「チーフもまだだな…」
「…全員席についていろ、チーフが来られるまで待て」
「ちょっとくらいならいいだろ」
 ジャブラがつまみ食いしようと手を伸ばす。素早くカリファがジャブラの手を叩いた。
「いてぇ!」
「子供みたいな真似しないで、ジャブラ」
「うるせぇ、お節介だぞ、カリファ!」
「ガキじゃな、ジャブラ」
「何ぃ?! てめぇこそガキじゃねぇか、カク! やるか?!」
 血気盛んなお年頃のジャブラはすぐに頭にきてしまうらしい。だが年の割りには冷めているカクは相手にしない。フクロウにまでチャパパと笑われて、すっかりへそを曲げたジャブラはどかっと座布団の上に腰を下ろした。
「席順はどうするっしょ?」
 年功序列なのか、それとも五十音順なのか、ネロはどこに座っていいかわからずうろうろしていた。上座に座るのは当然、まだ伸びているだろうスパンダムだ。
「エニエス・ロビー組とウォーターセブン組で分けるか」
「チャパパー強い者順はどうだーチャパパー」
「それいいっしょ! シャウ!」
「やれやれ身の程知らずじゃな…」
「まったくだ、そんなに末席に座りたいのか、四式坊や…」
「ひどいっしょ!」
 そうは言ったものの、末席になれば腹黒ーズの魔の手からは逃れられる予感がする。心中複雑なネロだった。
「けれど…どうやって強さを測るというの」
「六式遊戯手合!」
 突然、フクロウがルッチ達に飛び掛ってきた。

 「チャパ!」
 反射的に蹴ってしまうカリファ。
「チャパパ」
 反射的に殴ってしまうブルーノ。
「チャ…」
 反射的に肘鉄を食らわせてしまうカク。
「パガ!」
 反射的に蹴り飛ばしてしまうルッチ。

 フクロウは吹っ飛ばされて、上手い具合にジャブラが開けた襖の隙間から中庭へと転がっていった。そしておもむろにむくっと起き上がると、目を閉じて何やら呟いている。
「…なんなんだ、一体」
「ああ、あれでフクロウのヤツは俺達の強さを数値化出来るんだ」
「チャパパー、ジャブラやクマドリも測ってあるから誰が強いかわかってしまったーチャパパー」
 上座がスパンダム、その次がルッチ、ジャブラ…というようにフクロウは次々にメンバーを強さ順に並べて座らせた。看病しているクマドリの席は開けてある。やはり末席はネロだ。
「これで完璧だーチャパパー!」
「シャウ、よろしくっしょ、カリファさん」
「ええ…よろしく」
 四式使いのネロを除いて、六式使いの中で一番弱いのはカリファだったようだ。だがそのお陰でネロはカリファと仲良し席になっていた。
「面白くないのう…」
 そう呟いたのはルッチの隣にいるカクだ。このメンバーで面白くなる事もそうそうないのだが、隣はカクで、近くにスパンダムがいて、向かいがジャブラというのはルッチにとってかなり劣悪な環境だった。
「合コンだったら冷めるな」
 そう溢したのはジャブラだ。
「ほう、そうやっておさげ髪を物色する訳か、大した道楽者だな」
 嫌味全開のルッチにジャブラも嫌悪感剥き出しだ。
「何を〜! 悔しかったらハト連れて合コン来てみやがれ!」
 槍玉にあげられたハットリはルッチの肩の上で驚いたように声を上げた。
「ポッポー!」
「ポッポーじゃねぇよ!」
「ポッ!」
「やめんか、ジャブラ。ハットリ相手にムキになるな」
「何かしら、あっちは騒がしいわね」
「シャウ! フクロウさんとブルーノさん、それにクマドリさんの席が間にあるから向こうの事はあんまりわからねぇっしょ!」
 それを幸せと言わず、何を幸せと言うのだろう。ネロは今、この世の春を謳歌していた。ギスギスした腹黒い世界は、体の大きなメンバーによって遮られ、ネロの前に広がるのは豪華な料理と浴衣美女。思えばCP9に入ってからこんなにいい思いをした事があっただろうか。ネロは思わず涙ぐんでしまった。

 「おー待たせたな! みんな、揃ってるか?!」
 ようやくスパンダムのお出ましだ。クマドリに支えられて登場したものの、上座に座るなりいきなりビールをぐびっとやってしまった。乾杯もまだだというのに…。
「ぷはー! やっぱ風呂上りはこれだな! な!」
「…チーフ、そろそろ始めて下さい」
 ルッチはスルーという技術を体得していた。もはやスパンダムを制御する事は出来ない。適当なタイミングで打って響かせるしかないのだ。
「じゃあ始めるか! 乾杯!」
 カラになったビールグラスを掲げてスパンダムが陽気に叫ぶ。みんなちょっと項垂れた感じでグラスだけは高く掲げて小さく乾杯の音頭をとった。
「なんだよ、カリファ! お前、随分遠くにいるな! これ何順だ?」
「強さの順番で座っています…」
「チーフの道力は9だーチャパパー!」
 道力とは体技を数値化したものである。武器を持った衛兵の強さが10であるから、スパンダムは立派に弱い。
「言うな! 俺はいいんだ!」
 スパンダムが真っ赤になって叫ぶ。
「それでしたら…チーフに相応しいのは上座ではなくこちらです」
「おお〜…、お前少しは俺を敬ったらどうだ、カリファ」
 傷ついた様子のスパンダム。カリファはふふっと小悪魔的な笑みを浮かべた。いくらカリファの近くに座れても、上座を追われるのはなんだかチーフや長官の地位からも追われるようで嫌なものだ。

 アラバスタ料理に舌鼓を打ち、酒も進んでほどよく酔った頃、スパンダムは思い出したように何やら箱を取り出した。
「何すか、チーフ…」
 手酌で呷るように酒を飲んでジャブラが尋ねると、スパンダムは含みのある表情で笑った。こういう時のこの人は、絶対ロクな事をしない。
「なーに、ちょっとしたボーナスだ! アラバスタで高級フルーツの詰め合わせ買ったんでな、お前らに食わせてやろうと思ってよ!」
 得意顔で箱を開けたスパンダム。側にいたジャブラとルッチ、カクが覗き込み、顔を見合わせた。確かに箱の中は果物の香りでいっぱいだったが、肝心の高級フルーツは見事なくらいに潰れていた。様々な色が混ざり合って、泥水のような色合いになっている。
「ぬおー!! 高かったんだぞ!!」
 悔しがるスパンダム。悔しさの余りに仰け反ったところに柱があり、ぶつかるのは目に見えていたので仕方なくルッチが後頭部を支えて押し戻してやった。だがちょっと力を入れすぎたようで、スパンダムはどろどろフルーツ箱に顔を突っ込んでしまった。
「ぶっ!!」
「何をやっとるんじゃ、ルッチ」
「手が滑っただけだ…。大丈夫ですかチーフ」
 箱からスパンダムの顔を引きずり出すと、ルッチは彼の襟首を掴み、ずるずると廊下へ連れ出した。顔を拭くものを取りに行きたかったのだが、それよりスパンダムを持って行った方がいいと判断したのだろう。
「あでで! ルッチ、こら! 引きずるな!」
「タオルを一枚いただけますか、ポッポー」
「承知した!」
 スパンダムの事はとりあえず無視して、通りかかったゲダツにハットリを通してタオルを頼むと、ルッチはため息をついてスパンダムから手を離した。廊下に倒れこむスパンダム…慰安旅行なのに癒される暇もない。

 「ふてぶてしい野郎だ、ルッチめ」
 ジャブラはそう言うと、箱の中のどろどろフルーツに指を突っ込んだ。カクが顔を顰める。
「やめんか、ジャブラ。そんな気色悪いもんを…」
「ちょっとくらいいいだろ、どうせこうなったらもう誰も食わねぇだろ」
「カリファに頼めばジュースか何かにしてくれるじゃろ」
 そう言ってカクはカリファに目をやった。カリファはネロと談笑していてこちらの騒動には気付いていないようだ。間を隔てる山のごときCP9大男達が防音壁の役割を果たしているのだから仕方ない。山を隔てて、こちらは大騒ぎ、あちらは楽しげ。山は黙して語らず…。同じ部屋で行われている同じ組織の宴会とは思えない。
 カクがカリファに視線を移している隙に、ジャブラは箱の中のどろどろフルーツをすくって舐めていた。高級フルーツのなれの果てだ、腐っても鯛。そこそこ美味しい…筈だったのだが…。
「ぐあああっ! マズ! なんっじゃこりゃ!!」
「うるさいのう、ジャブラ…。…なんじゃ、食ったのか、行儀が悪い奴じゃ」
「そ、それより水!! 水寄越せカク!」
「何をそんなに慌てておるんじゃ」
「ま、まずいんだよ!! クソみてぇな味がするぞ!」
 カクが差し出してやった水を一気に飲み干し、それでもまだ口の中が気持ち悪いらしく、ジャブラはばたばたと廊下に駆け出して行った。入れ違いで、スパンダムとルッチが戻ってきた。ジャブラの騒ぎに、全員興醒めだ。
「なんだ? ジャブラどうした?」
 元凶の主はけろっとしているからたまったモンじゃない。
「…その箱の中身を舐めて大騒ぎじゃよ」
「…チーフ、これは一体、何なんですか」
 ルッチが問うとスパンダムはどかっと腰を下ろしてまた不敵に笑った。全員の視線が集中する。
「これはなぁ! アラバスタの高級フルーツと、悪魔の実だ!」
「?!」
「こっち来る前によぉ、悪魔の実の支給があってな、誰に食わすか考えてたんだけどめんどくさくなってよー、だから他の果物と一緒にしといて、誰が食うか運を天に任せたって訳だ!」
「それで潰してしもうたんじゃ、大した損害じゃのう」
「ワハハ! まぁ、いいか、お前ら、実なんか食わなくても十分に強いだろ?」
 呑気に笑うスパンダムの体が忽然と消えた。いや、剃で突然彼の前に立ちはだかったブルーノとルッチによって、スパンダムは壁にがしゃんと縫い付けられ、首を押さえられていた。



「く、苦しい!! こら! ルッチ、ブルーノ!! 離せ!」
「チーフ…、あんた我々を殺す気ですか!」
 見る間にルッチの姿が豹人間へと変化していく。かなり本気で怒っているようだ。ブルーノもスパンダムを締め上げる手に力を込めた。
「な、何の事だ?!」
「悪魔の実の能力者が…二つ目の実を口にすると体が跡形なく吹き飛んで死ぬ」
「実一つの呪いを思えば、二つ目を食おうなどと欲深い事は考えないものだ…。だが、まさか…」
 ルッチはスパンダムを睨みつけた。正直、この豹人間とドア大男の上司である事をこれほど恐怖し、逃げ出したいと思った事は後にも先にもこれっきりだ。スパンダムは目を白黒させていた。
「およしなさい、ルッチ、ブルーノ! チーフも知っていてやった訳ではないわ」
「か…カリファ…ナイスだ…!」
 助け舟に涙を溢さんばかりに感激するスパンダム。仕方なくルッチもブルーノもスパンダムを解放した。スパンダムは床に崩れ落ちるように倒れこみ、激しく咳き込んで慌ててお茶を飲んだが案の定、それはあつあつで、やけどして転げ回るのだった。

 「まったく、困ったモンじゃなチーフにも」
「それよりジャブラはどうしたのかしら…実を全部食べた訳ではないし、まさか能力者になってはいないでしょうけど」
「そうじゃのう、あんな一口でどうこうなるとも思えんな」
「…何の実だったんです、チーフ…」
 まだ殺気が隠し切れないルッチに聞かれて、スパンダムは冷や汗たらたらだ。まるで立場が逆転してしまっている。今のルッチに尋問されたら聞かれてもいない事まで喋ってしまいそうだ。
「あ、あれは…動物系で、確か、イヌイヌの実、モデル…」
 スパンダムが答えていると、そこにジャブラが戻ってきた。戻ってきたジャブラはどこも変わった様子もない。一同はほっと一安心だ。ジャブラはルッチを見下ろし、そしてルッチはジャブラを見上げていた。

 次の瞬間

 「ガルルル…!」
 ジャブラの体が獣の姿に変化した。それに反応するように豹ルッチも再出現だ。
「どういう事かしら、液状化した悪魔の実は特別なのかしらね」
「さぁのう…、じゃが相当不味かったようじゃし、その上、あんな姿になるとはジャブラも運のない男じゃ」
 カクとカリファは知らないようだが、悪魔の実は最初の一口を食した時点で能力の伝達が確定し、その後はただの不味い果物になってしまうのだ。直前にスパンダムが顔を突っ込んだものの、口には入っておらず、見事につまみ食いをしたジャブラが第一号となったわけだ。
「ネコとは犬猿の仲っしょ、シャウ!」
「チャパパージャブラが能力者になってしまったー」
「あ、やめぇねぇかぁ〜、二人共ぉ〜!」
「やめなさい、二人共! せっかくの宴会なのよ」
 カリファにお母さんのように窘められて、ジャブラとルッチは牽制し合いながらもなんとか獣の衝動を押さえて元の姿に戻った。
「怖かったしょー…」
「ネコに犬…お前さんはイタチじゃろ、よかったのう、仲間が出来て」
「シャウ?!」
 嫌な予感がしてネロが飛び上がる。カクはにっこりと笑うと、ネロの襟首を掴んでルッチ達の方へ押しやった。
「カクさん?! 何するっしょー!」
 手を離されて、思わずよろけるネロ。そしてルッチとジャブラの激戦区にどしんと乱入だ。
「あァ?」
「何のつもりだ、四式坊やが…」
 能力者になりたてで、かなりご機嫌斜めのジャブラと、犬に吠え掛かられて不機嫌極まりないルッチ。ああ、ネロの行く末はもはや…。
「さぁ飲み直すとするかのう、カリファ」
 ちゃっかり自分の席をネロに押し付けて、大男山脈に隔たれていたネロの席をゲットしたカクは、カリファに杯を差し出した。カリファはルッチ達を気にしているようだが、あっちはあっちで、ダークに声を殺したような笑いに満ちているので、入りにくいのも確かだ。
「ルッチ達は放っておけ…、ジャブラもまだ戸惑っているんだろう」
 同じ能力者であるブルーノはそう呟いてビールを飲んだ。そこに、やはり上座は居心地が悪かったのかスパンダムが転がり込んできた。
「なー、カラオケしねぇか、カラオケ」
「チャパパー、チーフは☆護ちゃんメドレーを歌う気だー」
「いいだろ、別に!! なー、しようぜ、カラオケ!」
「カラオケセットならほれ、そこにあるじゃろ」
「わかってねぇな、カク! ほら、親睦会でやったみてぇに、鳴り物とか掛け声とかしてくれねぇと盛り上がらねぇだろ!」
「わしは今、酒を飲んどるんじゃ」
「カリファ〜」
「セクハラです」
「!! …ブルーノ、フクロウ、クマドリ!」
 最後の望みをかけて、もう縋るような心境でスパンダムは彼らを見た。それまで沈黙して食ったり飲んだりしていた彼ら。ここは付き合ってやるか、と折れてくれる心の優しい大男達だ。
「…どうぞ、歌って下さい…」
「チャパパー」
「合いの手なら、おいらに任せてくれぇ〜」
「ワハハ! そうかそうか! よーし、歌うぞ!!」

 大男3人の掛け声で、愛する△護ちゃんの曲を歌いまくるスパンダム。奥で飲み比べのように酒を飲むカクとカリファ。

 そして…。

 「いいか! 道力ではてめぇに負けたが、これで俺も悪魔の実の能力者だ…! てめぇには負けん!」
「やれやれ…野良犬は物覚えが悪くて困るな…。俺も能力者だ。忘れたのか」
「何を〜!! おい、おい、ネロ! てめぇもなんとか言ってやれ!」
「シャウ?! お、俺は関係ないっしょ〜!!」
「なんだ…、俺に何か言いたい事でもあるのか、四式イタチ野郎」
「ひぃ!」
「言ってやれ、言ってやれ! てめぇの大事なハト、食っちまうぞ!とか言ってやれ!」
「クルッポー!」
「食べないっしょ!」
「ハットリに何かしてみろ…、お前を腹話術の人形にしてチーフにくれてやるぞ」
「だから何もしないっしょ、俺はー!」
「面白ぇ、受けて立つぞ! なぁ、ネロ!」
「誰か助けてっしょー!!」

 …ご愁傷様。

つづく
 


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