| 激突 コスプレ本屋、バロックオフの開店は明日である。 SUPAYAの面々はいつになく緊張していた。今までこの土地に根付いてやってきたというのに、そしてようやくガレーラカンパニーへの出入りも認められるほどにアイスバーグ氏に接近できたというのに、ここでどこの馬の骨ともわからない連中に、計画を乱されたのでは、諜報部員として名折れである。 「カリファ、例の件どうなっている」 「ええ、ルッチ。演奏用のピアノは手配済みよ。当初は舞台を外に作ってチーフに演奏していただく予定だったけれど…」 「雨になったらシャレにならんからのう…」 スパンダムの凶運を見越して、当初は外にステージを組み、ピアノ演奏を披露してもらう予定だったのだが、ルッチの判断でピアノはSUPAYA店内に置かれる事となった。ブルーノやクマドリ、フクロウが棚を移動してスペースを作っている。 「シャウ、ここにピアノがくるっしょ!」 「俺はグランドピアノがいいって言っただろ、ルッチ!」 「入りませんので」 「間抜けー!」 グランドピアノでないのが不満らしく、スパンダムはそんな風に悪態をつく。ルッチの目の色が変わり、周囲の空気も変わる…。 「…白いピアノですよ、チーフ」 「なんだそうか! ならいいんだ、ワハハ!」 ルッチから見れば嫌がらせにしか思えない白いピアノも、スパンダムは気に入ったらしい。SUPAYAもバロックオフを迎え撃つ準備を着々と進めていた。 さて、そのバロックオフは…。 「クハハ、財力のねぇ奴等は哀れだな…」 カジノ経営で財を築いたクロコダイル。人海戦術もお手のもので、日々、ウォーターセブン中に開店カウントダウンのチラシをばら撒いている。 「ふふ…ご機嫌ね、サー・クロコダイル…。いいのかしら、SUPAYAは政府が絡んでいるのでは…?」 「フン、俺は七武海だ…。政府は俺を信頼してる。…油断だけはするな、オールサンデー」 「ええ…全員に通達しておくわ…」 クロコダイルの野心に燃える瞳に、ロビンは少し笑った。二人が組んだのは四年前。クロコダイルは頭の切れる腹心を求めていて、ロビンも自分を隠せる大きく深い組織を求めていた。その点で七武海に匿って貰える点が大きい。しかし、政府の役人らしいSUPAYAの連中と顔を合わせるのは有難くないところだ。 「オールサンデー、店はお前に任せる…俺は…」 そう言いながら体を砂にするクロコダイル。どうやらおでかけのようだ。 「連中の顔を拝んでくる…。クハハハ! 間抜けヅラをな」 「…そう…、サー・クロコダイル…。従います」 ロビンにとっては結果的に政府の役人に顔を合わせず済む結果になりそうだ。クロコダイルの姿は部屋から消えていた。 その頃、SUPAYAでは…ついに真っ白なピアノが運び込まれていた。 「…これでいいでしょう」 調律したのはルッチ。実はCP9の面々も楽器の心得はあるのだ。潜入捜査が基本の諜報部員ゆえの知識だ。だが演奏するのはスパンダムだけ。他の面々は接客やら客引きやらに回さなくてはならない。 「試しに…チーフ、何か弾いていただけますか」 「ワハハ、なんだ? 聞きたいのか?」 スパンダムは上機嫌で笑いながらピアノの前に腰を下ろした。一同、真剣な表情でスパンダムに注目している。 「まさかここにきて、弾けんなどというオチではないじゃろな…」 「嫌なこと言わないで、カク」 「ありえるから恐ろしい…」 「ブルーノまで…」 「静かにしろ、始まる…」 息を飲むルッチ達。そして…おもむろにスパンダムは呼吸を整えると鍵盤に指を下ろした。 その響きは一瞬にしてSUPAYAの黄色さを吹き飛ばし、まるでどこか格調高いホールで行われている演奏会にきているのかと思わせるほどだった。いつものドジっぷり、トラブルっぷりはどこへやら…真剣な表情のマスク怪人スパンダム(チーフ)が織り成すハーモニーはまさに一級品だったのである。 「ふぅ、久々に弾いたら腕が鈍ってるな…。まぁこんなもんでいいかぁ?」 スパンダムがいつものように笑って言う。だがみんな、呆然となっていてすぐには反応できなかった。 「な、なんだぁ?!」 反応のなさに不安になるスパンダム。ようやく我に返ったルッチ達は…思わず拍手喝采だ。 「やるじゃねぇか、チーフ!」 ジャブラは涙まで流して感動している。 「素敵です、チーフ…」 カリファの頬が少し赤い。 「チャパパー! 意外な特技なのだー!」 興奮気味のフクロウ。 「よよいっ、おいらぁ…演奏の向こうに天国のおっかさんがぁ見えたぜぇぇ〜!」 むせび泣くクマドリ。 「シャウ! 感動したっしょ! かっこいいっしょ!」 手が痛くなるほど拍手をしているネロ。 「大したモンじゃのう…、わしはまたいつものように失敗かと思うておったが…」 感心しながらも失礼なカク。 「うちのバーでも演奏して欲しいものだ…」 店の場所を思わず教えてしまいそうになるブルーノ。 「…これなら完璧です、チーフ」 ルッチさえも、あのルッチさえも拍手をしてスパンダムを称えている。 「ワハハ! 大袈裟だな、お前ら! そうか? そんなにすげぇか! 俺はあれだ…、そんな…なぁ? ワハハ!」 照れ捲くるスパンダムは案の定、身悶えた拍子に椅子から転げ落ちてしまった。やっぱりいつものスパンダムだ。 「とにかく、バロックオフオープン当日にはこちらはチーフの生演奏を推していく。ブルーノ、そっちの準備はどうだ」 「ああ…、明日は飲み物サービスを予定している…。仕入れは終わっているから大丈夫だ」 「ブルーノのドリンクサービスは評判がいいものね」 SUPAYAのCD屋という特性を生かし、生演奏とドリンクサービスを打ち出したのはいいものの、ルッチはまだ何か足りないと感じていた。当日はチラシも大量に撒かれるだろうから、それに対抗するために再びファンクフリードを連れて宣伝に出るのもいいかも知れない。しかし自分達は店を離れるわけにもいかないので…。 「ジャブラ」 「あァ?」 「貴様ら三人はファンクフリードを連れて街に出て宣伝活動だ」 「それくらいならやってやらなくもねぇぜ?」 「…貴様はツラが悪いから、犬型になって歩け」 「誰が犬だぁっ?! つーか、狼が象連れて歩くのか?!」 「よよい、やめねぇか〜! こんな時にぃ」 「チャパパー、人獣型なら仮装みたいで面白いのだー」 以前、牛仮面やがくがくドクロで練り歩いたルッチ達。まんまる巨体のフクロウとイチイチオーバーアクションな巨体クマドリがいるのだから、人獣型のジャブラがいてバランスもとれそうだ。象が目立たないくらいで。 「それでいこう。遊びじゃねぇんだ、気を引き締めろ!」 「了解!」 スパンダムが見事な演奏を披露出来るとわかり、一気に志気の高まるSUPAYAだった。 しかし、そこに招かれざる客が舞い込んだ。 「クハハハ…失礼する、ここが…SUPAYAか、薄汚ぇ店だ…」 一陣の風と共に店内に姿を現したのは、アラバスタで一悶着あった七武海の一角、クロコダイルその人だった。 「…オーオー…、見た顔だな…。ここは政府の役人がやってる店か…? 通りでしけた店だ、クハハハ」 クロコダイルは葉巻を咥えて、煙を吐き出した。クロコダイルと面識があるのはカリファとルッチだ。だがクロコダイルは優秀なロビンにSUPAYAの従業員全員に関する情報を集めさせていた。ジャブラ達エニエス・ロビー組はチーフスパンダムと一緒に政府専用海列車でエニエス・ロビーに帰るわけだし、素性を探ることはそう難しくないだろう。ただ、彼らはただの政府の役人ではないが。その辺りの素性が割れているのはチーフのスパンダムだけだ。彼は元々、別のサイファーポールで主管を務めていたので、諜報部員だということがばれている。しかし他の面々の所属まではいかにロビンでも掴むことは出来なかったようだ。それも当然、SUPAYA一同は暗躍機関CP9の諜報部員なのだから。そこまで容易く割れてしまっては格好がつかない。 「…アラバスタではお世話になりましたね、サー・クロコダイル…。まさかここまでご足労いただけるとは思いませんでしたよ…」 ルッチはそう言ってクロコダイルに近付くと、彼の口元から葉巻を奪い、握り潰した。 「…失礼ですが店内は禁煙です…」 「クルッポー」 ルッチに続いてハットリが鳴く。クロコダイルは険しく顔を歪めた。 「あぁ…まぁいい。この店ももうじき潰れてなくなる…。そうなりゃてめぇらも職を失うわけだが…、その時は…頼ってきてくれても構わねぇ」 クロコダイルはにやりと笑って、名刺を差し出した。そこにはバロックオフウォーターセブン店の住所と電伝虫番号が書いてある。 「…お心遣い感謝いたします…。サー・クロコダイル。開店日には…立派な花輪をお届けしますよ」 「そんな金があるようには見えねぇが。それじゃあ諸君、楽しみにしてる…クハハハ! 邪魔したな」 現れた時と同じようにさぁー…と砂になって消えていくクロコダイル。圧倒されてネロは腰を抜かしてしまった。スパンダムはファンクフリードに抱きついている。 「…小賢しい真似を」 「下らんのう…」 苦々しく呟いたルッチとカク。 「…私達は私達の出来ることをやるしかないわ…。準備しましょう」 「シャウ! そうっしょ、みんなこの店が大好きっしょ!」 「チャパパー、もっと色々飾り付けをするのだー」 「よよい、おいらぁ紙吹雪を撒くぜぇぇ〜!」 「掃除が大変だな…」 それぞれが作業に戻る中、ルッチは何やら考え込んでいた。そんな彼に気付いてカクが声をかける。 「どうしたんじゃ、ルッチ。今更何か思案したところでどうにかなるものかのう」 冷たいようだがカクの言葉は正論だ。確かにバロックオフは敷地面積も大きいし、財力も並外れている。しかし地域に根ざした時間やその密度はそう簡単に奪えるものではないはずだ。 「…地域、か」 ルッチはそう呟いた。ここはウォーターセブン、造船で一時代を築き、復活を遂げた島だ。この島で一番人気なのは船大工。大人も子供もガレーラカンパニー1番ドックの職長達に憧れている。一番難しい依頼を受けるのがそのドックだからだ。 「…カク、ちょっとついて来てくれ」 「ん? まぁかまわんが…」 「ジャブラ」 「あァ?」 「指揮を任せる、在庫確認、清掃、ファンクフリードの段取り、音響の確認、それからチーフの面倒だ」 「おお、了解」 道力の順でいくと、ルッチとカクが抜ければその次に強いのはジャブラだ。指揮を任されてジャブラはどことなく嬉しそう。そうして、ルッチは目的も告げずにカクを連れて出かけて行った。 「なー、ルッチはどこ行ったんだ〜」 何かとルッチを頼りにしているスパンダムは、ルッチの不在が気に入らない。かと言って、代わりに頼られるのもジャブラ的には有難くないので距離をおきたいところで、なかなか扱いが難しい。 「明日の準備はそのまま進めろって連絡あったんで、その通りでいいんじゃねぇのか。あァ、なんかデカイもの持ってくるらしいから、そこ開けといてくれ!」 「よよい、心得たぁぜぇ〜!」 「チャパパー、ルッチ達はまた何か思いついたのだー」 「敵を欺くにはまず味方から…ということかしらね」 「シャウ、ルッチさんのことだからきっとすごいことっしょ!」 「ジャブラ、飲み物の件は何か聞いていないか…」 「あァ、それも予定通りでいいってよ。あ、忘れてたぜ、おい、明日は全員私服で来いってよ」 ジャブラの言葉に一同、首を傾げた。エニエス・ロビーから来ているジャブラ達とスパンダムを除いて、SUPAYA従業員は黒づくめに黄色いエプロンと決まっているのだ。ジャブラ達もCP9であるから当然、黒づくめである。まぁ、ジャブラとネロとスパンダムは…若干、個性が加わっているが。 「私服…、困ったわ、どんな格好にしたらいいかしら」 カリファは女性なのでやはり私服と言われても色々困る問題があるようだ。 「それとブルーノ! お前は酒場のエプロン持って来い」 「…何の為にだ」 「俺が知るかよ! ルッチに聞け!」 小隊長であり、今はルッチの代理を一時的にではあるが請け負っていながら、ジャブラは化け猫の考えなど知るかとばかりに怒鳴った。まぁそれももっともではある。 一同を混乱の渦に巻き込みながら、刻一刻と運命の日は近付いている。果たして、ルッチは起死回生のアイデアを思いついたのだろうか? またその意図とは? バロックオフ、ウォーターセブン店、グランドオープン当日…。 いつも静かなウォーターセブンの朝には、船大工達が道具を鳴らす音で始まる。だが今日は違った。 ドン! ドンッ! ドドンッ!! 砲撃かと思うほどの大きな音、そして打ちあがったのは朝だというのに賑やかな花火だ。それと同時に、コスプレ本屋の従業員達がビラを配りながら練り歩く。当然だが、その中にクロコダイルとニコ・ロビンの姿はない。 「キャハハ! 来てくれなきゃギロチンよ」 チョコ屋さんの格好した可愛らしい女の子の口からとんでもない発言が飛び出す。しかしすでにファンクラブが存在するミス・バレンタインデーの人気はさすがだ。 「まったくノロマだね! お前のノロマは腰に来るんだよ! このバッ!」 「ご〜め〜ん〜」 プリンセスの格好をした…女性と、速配ピザ屋の格好をした大柄な男性がもそもそと続く。その後ろには戦車のような犬のようなものが…。 「ラッスー、くしゃみするんじゃねぇぞ、火事の元だ」 そう言いながら後からついてくるのは、消防士の格好をしたMr.5だ。その他にも、正義のヒーローや画家、カフェの女主人など、なかなか面白いコスプレをした従業員が揃っている。あと、バレリーナの格好をしたデカイおかまもいるようだ。バラエティに富んだ面々、SUPAYAも負けてはいないのだが、コスプレ本屋は目をひくし、紅一点のカリファでは対応しきれない部分も確かにある。これは強敵だ。 SUPAYAに出勤してきた一同の話題はやはり今朝のバロックオフ出店宣伝についてだ。珍しくだいたい同じ時間に出勤してきたらしく、店に向かう道すがらで、ルッチとカクを除くメンバーが揃い踏みだ。みんな、それぞれ私服で出勤している。と言っても、スパンダムは普段と変わりないが。 「なんかすごかったみてぇだな、負けるなよ?!」 「セクハラです、チーフ」 「応援したのに?!」 「結局、ルッチはどうしたんだ?」 「チャパパー、ジャブラはリーダー代理なのに知らないのだー」 「うるせー!」 「そういえばカクは昨夜、部屋にも戻っていなかったわ」 隣の部屋に住んでいるカリファがそう呟く。 「まさか逃げたんじゃねぇよな?!」 スパンダムも本気でそんな風に思っているわけではない。しかし不安なのも事実だ。 「とりあえず店を開ける準備をしよう…」 ブルーノがそう言って、黄色い店の大きなシャッターを開けて、ドアを開いた。 すると…。 「困ります、お客さん、作業の邪魔です」 そう言って葉巻をふかしながら現れたのは…パウリーだった。 「何しているの、パウリー!」 カリファが驚いて言うと、パウリーは彼女の私服、それもやはり短いスカートで更にスリットの入っているハレンチな格好を見て…。 「ぶっ!! カリファ! てめぇ何ハレンチな格好してやがる! ここは男の職場だぞ! おいルッチ! てめぇもなんとか言え!」 「ポッポー、やかましい、文句言う前に手を動かせ、愚か者」 ハットリを肩に乗せて、真っ白なランニングシャツを着たルッチが出てきて、SUPAYAの面々は豆鉄砲を食らった鳩のように面食らった。 私服なの? それがルッチの私服? 「ぎゃははは! だせぇ!」 皆の心の代弁者となったのはジャブラだった。しかしルッチはパウリーの手前、腹話術で話すことをやめられない。 「どうした野良犬、貴様は私服もないのか、哀れな男だ」 普段の黒い道着によく似たカンフー着を着ているジャブラに、腹話術で嫌味をぶつけるルッチ。パウリーは相変わらずカリファの服に文句を言っているし…。とにかく何がなんだかわからない。 「一体、どうなっているんだ…」 現状を打破すべく口を開いたのはブルーノだった。ブルーノの低く渋い声に一同は静まり返った。 「おお、皆早かったのう。ちょうどこっちも出来たところじゃ、まぁ見てもらった方が早いわい」 鮮やかな色の服を着て、無邪気な笑みを浮かべるカク。普段、ブラックカクに苛められているネロもこれには驚く。 「シャウ! カクさんがにこやかっしょ!」 「なんじゃ四式イタチ…わしがどうかしたかのう?」 笑顔はチャーミングだが、そこから漂う空気には色々あるのだということを、ネロは身を持って学んだ…。 とりあえず、全員SUPAYAの店内に入って、その様子に驚いた。いつの間に作ったのか…恐らくは昨夜の間だろうが、店内にカフェが作られていたのだ。白いピアノが奥にあって、いくつかのテーブル席があって、棚の移動と設置の最終確認をしているのは、ガレーラカンパニー職長である、タイルストンとルルだった。 「うおおおー! こっちは全部終わったぞー!」 「うるせぇ、タイルストン!」 「ご苦労じゃったのう」 「なぁに、こっちも世話になってるからな」 そう言って、寝癖を押して別のところからにゅっと出すルル。 「どういう事なの、ガレーラの職長が3人も…」 カリファが呟くと、ハットリが羽を広げた。 「連中がコスプレ本屋なのはわかっていた話だ…クルッポー。今はそういうものが流行っているが、真似したのでは客も来ない。かと言って、物珍しさに対抗するにはピアノだけでは心もとないだろう?」 「それでのう、ルッチが思いついたのがブルーノのドリンクサービスを発展させた、この船大工カフェなんじゃよ」 船大工カフェ? ウォーターセブンはご存知、世界政府御用達の造船会社、ガレーラカンパニーのある島である。船大工はこの島の憧れの的。いかにコスプレ本屋といえども、こちらは現役本物の船大工、しかも一番ドックの職長がいるのだ。ルッチとカクもそれぞれ職長に扮しているが、それもなかなか様になっている。 「チーフにはピアノの演奏を、そしてドリンクサービスにはこの一日限定船大工カフェということか…」 ブルーノが感心して呟くと、ハットリはまるでルッチのアイデアを誉めろといわんばかりに胸を張った。 「シャウ、でも本物の船大工達がよく力貸してくれたっしょ」 ネロの疑問はもっともだ。 「ああ、だって借金それでチャラにしてくれるって言うからよ! な、ルッチ!」 パウリーはにかっと笑ってルッチを見た。ルッチはパウリーの飲み友達らしく、時々、ギャンブル好きなパウリーにお金を貸しているらしいのだ。カクも酒の席を同じくする事が多いらしい。 「化け猫に友達がいるってのが意外だな」 ジャブラが思わず呟くと、ネロとフクロウがうんうんと頷いた。 「よよいっ、あ、やめねぇかぁ〜、お前達ぃ〜! いかにルッチといえどもぉ、血の通った人間じゃあねぇかぁ〜! 友の一人や二人、いても不思議はねえぇ〜」 なんだかんだで、結構失礼なことを言うクマドリ。しかし反論も出来ないルッチだった。 借金の返済に労働することになったパウリーと、そんなパウリーに頼まれて、そして気のいいアイスバーグさんの許可もあって、タイルストンとルルも協力してくれるという。 「ワハハ! 心強いな!」 スパンダムは上機嫌だ。ジャブラ達は船大工カフェのチラシ配りと、敵状視察を命じられた。そして残ったメンバーでいよいよ、バロックオフを迎え撃つ。 「遊びじゃねぇんだ、気を引き締めろ、ポッポー!」 部外者がいるので腹話術なルッチ。いまいち引き締まらないが、そうも言っていられない。決戦の火蓋は切って落とされた。 人獣型になり、ファンクフリードを連れて街を練り歩きながらチラシを配るジャブラと、その一行。フクロウのユニークな外見や、自在に動くクマドリの髪もなかなか目をひくらしく、ギャラリーが寄って来る。 「今日はあのSUPAYAで一日限りの船大工カフェがオープンだ! ぎゃはは、チラシ持ってくとポイント3倍になるぜ!」 すかさずチラシをばらまくジャブラ。そして遠くまで届くように吹き飛ばすファンクフリード。 「あ…あとチーフもピアノを弾くのだー」 思い出したように小さくチャックを開けて呟くフクロウ。 「よよいっ、いつもの勢いはどうしたんだぁ〜、フクロウ〜! チーフにピアノをもっと宣伝しねぇぇとぉ〜!」 「いいからお前等もチラシ配れ!」 ジャブラは月歩で飛び上がり、川を飛び越えて反対側まで行ってチラシ配りだ。子供達は大きな狼男や珍獣?達に目を輝かせている。 「おっと、兄ちゃん、二枚もチラシいらねぇだろうが! こっちにしとけ」 ジャブラはバロックオフのチラシを持っている人から、それを奪って代わりにSUPAYAのポイント3倍チラシを押し付けて、にやりを笑って脅していた。結構、営業力のある男である、ジャブラ。 そして、開店したSUPAYAはというと…、ルッチの読みが当たったというべきか、子供から大人まで、幅広い年齢層のお客がどっと押し寄せていた。手にはジャブラ達が配ったチラシを持っている。 「いらっしゃい、ご注文は」 パウリーがお客の注文を取るが、相手が若い女の子だと、ハレンチだなんだと騒ぐので、そこは他のメンバーで上手くカバーしなくてはならない。 「コーヒー2つですね、ただいま見積書をお持ちしますんで、少々お待ちを。おい、ルッチ! コーヒー2つ発注だ」 「クルッポー、了解した」 ルッチの肩の上のハットリが敬礼をして見せる。ルッチは無表情のままだが、ブルーノからコーヒーを受け取り、それをパウリーに渡した。 そんな調子で始まった船大工カフェだが、本物の船大工と話が出来る上、リクエストすれば好きな曲をピアノ演奏してもらえるとあってなかなかに好評だ。しかも、スパンダムの演奏は本当に素晴らしくて、多くのお客が聞きほれている。 「お前のところの上司、ピアノ上手ぇな!」 パウリーさえもそう感心するほどだ。 「意外なほどにのう…」 「一つくらい取り得はあるものだな…クルッポー」 「ルッチ、カク、パウリー、お客様をご案内して」 秘書スタイルなカリファに言われて、立ち尽くしていたルッチ達はすぐに案内に入る。ちなみに、お客に船について話題を振られることもあるが、その辺りはルッチもカクもパウリーと付き合いがあり、そこそこ理解出来ているのがよかった。ドリンクを用意するブルーノの手伝いをしているのはネロだ。ネロは船大工でもないし、知識もないのでバックヤードのお仕事になったらしい。 「船大工カフェなんてどうかと思ったけど…意外と盛況っしょ!」 「そうだな…この街の住人は…船大工を誇りに思っているようだ」 しかしブルーノが何より意外に思っていたのは、やはり、チーフのピアノの腕前である。 「ンマー、随分にぎやかだな」 そう言って現れたのは、アイスバーグだった。 「アイスバーグさん!」 店内も、英雄の登場に色めき立つが何より騒がしいのはパウリーだ。 「どうしたんですか、アイスバーグさん! ドックで何か?」 「いや、遊びに来た。お前等、ちゃんとやってるか? ルッチ達の足引っ張ったりしてねぇだろうな、パウリー」 「大丈夫ですよ! むしろ、ルッチ達の方が足引っ張ってるくらいで…」 パウリーの調子いい言葉に、ルッチは無言で拳骨を食らわせた。 「げふっ!」 「ポッポー、失礼。ああ、ようこそアイスバーグさん。どうぞ奥のお席へ」 「飲み物は何が良いかのう? まだ昼間じゃから酒は勘弁じゃよ」 ルッチとカクがアイスバーグを奥の席へと案内する。そこは白いピアノの真ん前の席だ。 「シャレたピアノだな」 アイスバーグがそう言うと、カリファが紅茶を持って現れる。 「恐れ入ります、アイスバーグさん。紅茶はいかがですか?」 「ンマー、さすがだな、カリファ!」 ガレーラカンパニーに出入りしているためか、元々洞察力のあるカリファ。アイスバーグの好みは熟知しているようだ。 「一曲、弾いてもらえねぇか?」 「ワハハ、弾いてやりましょうとも!」 上機嫌すぎて、意味不明な言葉遣いになるスパンダム。髪をオールバックにし、顔に拘束具、そしてマントをつけて白いピアノの前に陣取っている男は、どう見ても怪人なのだが…まぁそれで臆するアイスバーグでもない。 「お前、何でも弾けるのか?」 「誰に物を言ってるんだっ? 弾けねぇ曲なんかあるか、ヴァ〜カ」 とてもピアノを演奏出来る男とは思えない発言をするスパンダム。もちろん、アイスバーグは動じることはなく、余裕だ。 「ンマー、じゃあ弾け」 そう言ってアイスバーグさんは鼻に指を…。 「なぁにぃ?」 誰に物を言っているんだと言わんばかりに顔を顰めるスパンダム。しかしここはピアノの腕前で黙らせてやるのが得策と考えたのか、スパンダムは得意の一曲を披露した。その心地好い音は黄色いSUPAYAを優しく包み込み、一流のホールのように思わせてしまう力がある。 ![]() 「上手ぇもんだ…」 アイスバーグは感心して、それから紅茶を口に運び、こっちも美味いと付け足して笑った。 何にしても、ピアノの演奏も紅茶もこの街の市長、アイスバーグに気に入ってもらえたのはSUPAYAにとって大きい。今日ばかりはチーフの功績も称えたくなるルッチだった。アイスバーグが来店してからというもの、SUPAYAには一気に客が押し寄せ、船大工カフェはもちろんのこと、CDレンタル販売共に、この日、今までの最高記録を塗り替えた。 一方、チラシを配り終わったジャブラ達は、敵状視察に出向いていた。 「チャパパー、この本はすごいのだー! 暴くぞ暴くぞ、袋とじの秘密ー」 「やめろフクロウ! そういうのは買ってから破くモンだろうが!」 「あ、そうだぜぇぇ、やめねぇかぁ〜!」 「どうしても見たいのだー、クマドリ、見え易く広げて欲しいのだー」 「あ、了解〜! 生命帰還、髪縛り〜!!」 クマドリの髪が伸びて、フクロウの手から本を奪い、器用に袋とじ部分を膨らませて覗きやすくする。ジャブラとフクロウが覗き込んだその時だ。どこからか複数の手が出てきて、本を奪い去ってしまった。 「なんだぁっ?!」 「チャパ!」 「今のはぁ、一体何事だぁぁぁ〜!」 「困るわ、お客様…。袋とじは買ってからのお楽しみよ…」 現れたのは副店長のオールサンデーことロビンである。ジャブラはロビンの顔を見て、顔を顰めた。 「チャパパー、ジャブラの好みなのかー?」 フクロウが小さな声で囁くと、ジャブラは顔を真っ赤にして怒鳴る。 「うるせぇ! 俺はギャサリン一筋だっ!」 「他のお客様の迷惑になるようなら…強制退去させていただくわ」 ロビンの手から手が…ふわりと。ハナハナの実の能力全開である。ここで面倒を起こすのもバカな話だ。 「いいや、邪魔したな! 行くぞ!」 ジャブラはそう言ってクマドリとフクロウを連れて出て行こうとした。しかしふいに足を止めて、ロビンを見た。 「あんた店長か?」 「いいえ、副店長よ…。何か?」 「あァ、この店、デカイ割には…無駄なスペース多いな。そっちの仕切りで隠してる方は…ただの書庫か?」 SUPAYAの何倍ものスペースがあるバロックオフ。しかし本を置いてあるスペースが全てというわけではなく、店内は間仕切りをして隠してある謎の部分があったのだ。ジャブラは人懐っこい顔で尋ねた。 「…ふふ、ここには常設のカフェ…スパイダーズカフェがオープン予定よ…」 「へぇ! そりゃ楽しみだ…」 ジャブラは内心、その情報にどきっとした。店内を回るのはコスプレした店員達。となると、常設となるそのカフェの正体も自ずとわかってくるものだ。これは一刻を争う。 ジャブラ達が気になる情報を入手したその頃、SUPAYAの船大工カフェではガレーラカンパニーでは日常茶飯事となっているある光景が再現されていた。 「今日は金ねぇよっ!」 「待て、パウリー!!」 お客としてやってきた借金取りが、船大工カフェで接客していたパウリーに取り立てを始めたのである。 「やかましいのう…」 「ンマー…、却って迷惑かけちまったな…」 「ポッポー、大丈夫です、アイスバーグさん…。お客様も喜んでいるようですから」 街中を逃げ回るパウリーと借金取りの追いかけっこは名物と言ってもいいほどで、住人も慣れたものだ。 「けれど…いつまでも暴れられては困るわね…」 「なールッチ! ピアノまだ弾いちゃダメか!」 騒がしくなったのでピアノを弾くなとルッチに言われたスパンダムは、とりあえずブルーノから冷たいミルクティーを貰って飲んでいた。熱いコーヒーを白いピアノに溢す事態を回避するためのチョイスである。 「…どうにかせんとのう」 カクは自分がどうこうするつもりはないらしい。ルッチは小さく息をついた。 「俺が行こう…」 「ンマー、ルッチ、すまねぇな」 アイスバーグさんの手前、そう手荒な真似も出来ないが…。ルッチは逃げ回るパウリーに手を伸ばし、耳を引っ張った。 「いでで! 耳を掴むな、ルッチ!」 「クルッポー、他のお客様に迷惑だ、パウリー。お前達もだ、やるなら外でやってくれ…」 「てめぇ、ルッチ! この薄情者ー!」 「走るの好きだろう、パウリー。ひとっ走りしたらまた戻ってきて手伝え、俺からいくら借りてるか…わかっているのか、愚か者、ポッポー」 ルッチはそう言ってパウリーの耳を掴んだまま引きずっていくと、彼を店から放り出した。慌てて借金取りも外に出て行く。これで一件落着だ。 「そうしていると、お前もカクもうちの船大工みてぇだな。よかったらたまに遊びに来い。なかなか筋もよさそうだ」 アイスバーグはそう言って笑った。ルルやタイルストンと共に、簡単な作業を披露するショーをやったのだが、それが目をひいたようだ。 「廃業しても行くアテが出来たわい、のうルッチ」 「バカヤロウ…。…アイスバーグさん、お気持ちは有難く」 「ああ、カリファも…うちの秘書になってくれると助かるんだが」 「恐れ入ります」 アイスバーグはSUPAYAのメンバーをかなり気に入っているようだ。これは後々のことを考えても、そして、本当にSUPAYAが廃業になっても困らないいいアテになりそうだ。 「もう一曲、弾いていただけますか、チーフ」 ルッチがスパンダムに耳打ちすると、スパンダムは待ってましたとばかりに笑った。 「よーし、何がいい?」 本当に何でも弾きこなせるスパンダム。お客のどんなリクエストにも華麗に応えるその様は、普段の仕事の出来なさからは想像不可能。すべてが順調に回っている。 そう、順調に回っている時こそ、怖いのだ。 ジャブラ達が戻ってきて、船大工カフェは更に賑やかさを増す。街を走り回ったパウリーも戻ってきたようだ。 「ルッチ、ちょっといいか」 ジャブラはルッチを手招きして呼んだ。ここでは腹話術を使わずに話せないので、店の裏へと回る。 「バロックオフの様子はどうだった」 ルッチもちょうど腹話術に疲れていたので、地声を出してふぅっとため息をついた。 「あァ、それがよ、あのデカイ店の一角がどうやら常設のカフェになるらしい。何でも、アラバスタに以前あったスパイダーズカフェが移転してくるんだと。そこのポーラとかいう女主人の紅茶ってのがすげぇらしい」 ジャブラの報告にルッチは目を丸くした。 「どうした?」 「…いや、お前がカフェに詳しいというのが意外でな」 「うるせー! ギャサリンに聞いたんだ!」 ジャブラの想い人、ギャサリンはエニエス・ロビーのアイドル給仕である。年頃の乙女らしく、話題のスポットやカフェなどの情報には敏感だ。 「…調査を口実にその女と喋りたかっただけじゃねぇのか、バカ犬」 「そんなわけあるかぁっ!!」 真っ赤になって怒鳴るジャブラ。ルッチは冷ややかな目で見ていたが、しかしその情報は確かに気になる。 「カフェのスペースは大きいのか」 「結構なモンだぜ? それにきっとコスプレ店員がそっちにもいるんだろ。あっちは常設、こっちは限定だ。軌道に乗ったら厄介だぜ」 ジャブラの言う通り、根付いてしまうと断ち切ることは難しい。かと言って、今更新規事業に参入するほどSUPAYAには時間も金もないのが実情なのだ。 「今までこつこつ貯蓄してきたが…それも今回でほとんど使い切っている。今日の売上で対抗し切れるものでもねぇだろう」 「消しちまえば済む話じゃねぇのかい」 ジャブラがばきっと指を鳴らして、にやりを笑った。確かにこちらは政府公認の暗殺集団。七武海がバックにいようとも、それなりの理由付けさえ出来れば…、そしてそういうことはスパンダムが得意なのだが、バロックオフを消すことも出来なくはない。盛況なSUPAYAの賑やかさの中で、ルッチは深く思い悩んだ。 結局、その日、ルルとタイルストンに結構なお礼を支払ったにも関わらず、SUPAYAの売上は最高額を更新した。バロックオフはオープン初日にしては出足を挫かれた形になっていたようだ。 「ワハハ! これも俺のピアノ演奏の素晴らしさのお陰だな!」 「本当にすごいっしょ、チーフ!」 「今度ばかりは見直しました…チーフ、セクハラです」 「見直してくれたのに?! ま、まぁいい! この勢いで明日からも頑張れよ! 今日は無礼講だ!」 お祭り好きのスパンダムは、片付けのまだ残っているSUPAYAでどこから用意したのか酒を飲み始めた。他の面々も今日ばかりは祝杯をあげたい気分だったようで、酒を口にしている。 「どうしたルッチ! お前も飲め!」 スパンダムに進められて、しかしルッチは顔を顰めた。 「祝杯という気分でもないですね…。まだ安心は出来ませんので」 「何ぃ?」 「確かに今日はあなたのピアノ演奏に助けられた…。しかし敵もまだ隠し玉を持っている。この状況で浮かれるのはどうかと」 「ワハハ! 心配症だな、ルッチ! そうなりゃまた俺がピアノ弾いてやる! 船大工カフェだってお前…、友達なんだろ? また頼め、ルッチ!」 すっかり酔って出来上がっているスパンダムを見ていると、ますます不安になるルッチだった。 そして翌日、ルッチの心配は現実のものとなる。 「…どういうことだ…」 店番に入ったブルーノはあまりの人の少なさに呆然となった。 「ただ事じゃないぞ…」 今日から通常通りのシフト制で、ブルーノとネロが入っていたのだが、異常事態にブルーノはルッチの子電伝虫に連絡を入れた。 「…ルッチか、俺だ…。至急SUPAYAに来てくれ」 ルッチの子電伝虫の向こうはやけに賑やかだ。嫌な予感がして、ブルーノは尋ねた。 「ルッチ、今どこに」 「…バロックオフだ…。スパイダーズカフェがオープンした。話はそっちでしよう。ブルーノ、全員召集をかけてくれ。チーフには…俺から言っておく」 「了解…」 ブルーノは受話器を置いてため息をついた。ネロはおろおろしている。 「…嵐になるな…」 天候は晴れ、穏やかな一日であるが、SUPAYAにとっては大荒れだ。 召集されたSUPAYAの面々は、エニエス・ロビーの執務室そっくりなチーフルームに集められていた。店は開店休業状態。閑古鳥鳴きまくりだ。 「どういうことだぁっ! これはぁ!」 ばんっと机を叩くスパンダム。叩いた机は石造りであるから当然…。 「いてぇ! この…クソ机がぁっ!」 今度は石造りの机を蹴るスパンダム。懲りない男だ。 「はぁはぁ…、おい、どうなってる、ルッチ!」 名指しされたルッチは、他のメンバーと同じように椅子に腰掛けたまま動かずに口を開いた。 「…今朝、街中にカフェ開店のチラシと飲み物無料券が空からばら撒かれました。ばら撒いたのはハゲタカとラッコのコンビだったそうです…。コスプレカフェにコスプレ本屋…住人の気持ちが動くのも無理はないかと」 「わしとルッチで見に行ってきたんじゃが…、驚いた事にクロコダイル自らが海賊王のコスプレをして店内におったんじゃ。あれだけなりふり構わずやられてはのう」 カクとルッチは今日は非番だったが、チラシを見てすぐに視察に向かったようだった。 「ガレーラのドックでもその話で持ちきりだったわ…。女の子が多いのは魅力みたいね…」 セクハラだとは思いつつも、いつも自分のところにきてくれていた大工達が鼻の下を伸ばしてコスプレの話をしているのを見るのは、あまり気分のいいもんじゃない。 「チャパパー、海列車でも駅でもバロックオフの話題で持ちきりだー。今日はその噂以外聞こえないのだー」 「シャウ…、俺達、負けたっしょ…」 ネロが呟くと、それを打ち消すようにクマドリが声を張り上げた。 「申し訳ねぇぇ〜! おいらの力が足りねぇばかりにぃぃ〜! ここはおいらが腹ぁ切って〜!」 「やめろクマドリ! てめぇ一人なりふり構わずやったところで、どうなるもんでもねぇだろうが!」 ジャブラが制止すると、その言葉を待っていたかのようにゆっくりとスパンダムが立ち上がった。 「よく言った…。そうだ、お前等、聞け。俺達はSUPAYAだ…そしてCP9だ…。負けるわけがねぇ! だがそこに驕りはなかったか? このくらいしておけば大丈夫だろう…何の保障もねぇのに、そんな風にタカをくくってなかったか? お前等に必要なのはなりふり構わずに挑むその心構えだ! それがあるか?! ええ?! ルッチ!」 いつになく厳しい顔をしてスパンダムが、まるで長官のようなことを叫ぶ。それに応えるようにルッチの表情も…まさしく、世界政府が誇るCP9そのリーダーの気迫をたたえていた。 「目的遂行の為、ここで最善を尽くす気構えです、チーフ」 ルッチの言葉に一同が無言で頷いた。ついにCP9が本気になった瞬間だ。たきつけた癖に、思わずスパンダムの背中を冷たいものが走る。 「それでこそCP9だ! よし…これより俺がとっておきの作戦を言い渡す…。お前等がそれを完遂した時…、バロックオフはこの街にはいられねぇだろう! ただし…大きな危険を伴う作戦だ…。お前等…プライド捨てる覚悟があるか?!」 「それは先ほどの答えでおわかりでしょう、チーフ」 「よぉし…、だったら新たな指令を言い渡す…名付けて…」 今まで諜報部員として様々な任務をこなしていたSUPAYA…いや、CP9一同。しかし今回は恐ろしい作戦になりそうだ。緊張が高まる。 そして、長官、いや、チーフスパンダムから言い渡された、衝撃の大逆転策とは?! 「お前等…、お笑いって…知ってるか?」 つづく |