解散

 宴もたけなわ、そろそろお開きに…という雰囲気になってきたが、肝心なことを忘れていた。それに気付いたのはカリファだ。
「チーフ、部屋割りを決めていませんが…」
「ああ? 部屋割り?」
「ええ…人数分の個室が手配できなかったので相部屋です」
 それを聞いて、一同の酔いはさっと覚めてしまった。これから疲れ切って眠るというのに、喧嘩相手やスパンダムと相部屋になることだけは避けたい。これは共通の心理である。さらに、まぁ一部の者にとっては、カリファとのハレンチな相部屋も魅力的であろう…。
「それではくじびきで…」
 カリファが紙を取り出す。部屋は全部で5室。CP9は9人であるから、1人は個室が確保出来る計算だ。
「ここはカリファを個室にしてやるのがいいよなぁ」
 そう言ったのは、意外にもスパンダムだった。スパンダムの発言にカリファさえも驚きを隠せない。だが、それに賛同する者はいなかった。カリファよりも、隔離したい人物がいたからだ。
「カリファには悪いが、チーフを個室にするべきじゃないか」
 ルッチが言うと、一同が賛同する。カリファもその主張の意味するところは察しており、異議を唱えることはしなかった。
「おいおい、ルッチ! それじゃカリファが可哀想だろ!」
 優しさ全開スパンダム。実は、さっきまで酔っ払って、カリファを可愛がっているのにセクハラセクハラ言われて悲しいと、散々ハットリに泣きついていたのだ。ルッチはジャブラと交戦中だったので、ハットリはポッポポッポ鳴くだけだったが、そこからスパンダムは何か悟ったらしい。
「わしは枕が変わると眠れんのじゃ、そういうわけで、カリファと相部屋で構わんぞ」
 カクがにっこり笑う。その笑顔に、ああ〜それなら仕方ない…と納得しかかったものの、言動のおかしさに気付いた途端一斉に…。

 「お前の枕はカリファか!!」

 総ツッコミを食らったカクは、ダークな空気を漂わせて…
「チッ…」
「うわ、こいつ舌打ちしたぞ!」
「よよい! 妬みや嫉みはぁ、男の名折れだぁぜぇ〜!」
「チャパパパー、カクの計画は失敗してしまったー」
「油断ならねぇっしょ、カクさん!」
「なんじゃ、四式イタチが…。わしに何か用かのう? また犬と猫の大喧嘩に巻き込まれたいのかのう…」
「ひぃっ」
「ぎゃはは、また出た、カクの腹黒!」
「うるさいわい」
 ぎゃあぎゃあ騒いでいる彼らをよそに、カリファは黙々とくじを作っていた。ブルーノとルッチは深いため息をついている。この人らも当然、ツッコミは入れたものの、誰かがカリファと相部屋になることに変わりはない。その辺をどうするかが難しいところだ。
「なー、カリファ、俺が個室でもいいのか? 俺は心配だぞ、お前が」
「ご心配には及びません、ありがとうございます、チーフ」
 悟りの境地に至ったのか、さりげない心遣いのスパンダムにカリファは優しく微笑んだ。スパンダムは内心、俺が期待していた部下との関係はこれだー!キラキラー!てな具合ではしゃいでいたのだが、そこは威厳を保つために耐えていた。

 「ルッチ、帽子を貸してもらえるかしら」
「…? かまわんが」
 浴衣なのにそばに帽子を置いていたルッチが不思議そうに首を傾げながら帽子を差し出すと、カリファはその中にくじを入れた。
「ありがとう、ルッチ」
「…なるほど」
 いささか心外な使い方ではあるが、まぁ仕方ない。
「さぁ、くじをひいて頂戴」
 カリファが言うと、今度はわっとくじをひく順番で揉め始める面々。ジャブラとカクとネロが話をややこしくしているようだ。フクロウは間に入って揉め事を大きくし、クマドリは、止めようとして止められない己の不甲斐なさに、切腹! 鉄塊! 無念!の繰り返しである。
「あー! うるせぇうるせぇ! そんなに揉めるんなら実力行使でどうだ!」
 スパンダムの提案に一同静まり返る。実力行使となると、かなり大事になりそうだ。ルッチも、何を言い出すんだこの人はと言いたげに顔を歪めた。
「温泉っつったら、あれだ! 卓球だろ? お前ら…卓球で勝ったヤツからクジひけ! 対戦相手は…もう俺が決める! カリファ!」
「はい、どうぞ」
「まず、ジャブラ対ルッチ!」
「好カードだな」
「おもしろそうじゃわい」
「んで、ブルーノ対カク!」
「…お手柔らかにな」
「そっちこそのう」
「フクロウ対カリファ、クマドリ対ネロだ。審判は俺がする! 俺はこう見えても、世界政府卓球同好会の前副会長だったんだ!」
「…ちなみに、副会長の規定はどのように」
「任期一年の交代制だけどな、ワハハ!」
 腕前をかわれて副会長になったわけではないようだ。しかしルールは知っているようだし、ここは従うのがいいだろう。一同はぞろぞろと遊戯室へと移動して行った。

 卓球台のセッティングや対戦表などは、カリファが素早く整えてくれた。スパンダムは上機嫌だ。
「ルッチ、てめぇ卓球できるのか?」
「フン、貴様のように不器用じゃないからな…」
「何を〜! 俺の殺人サーブ受けてみろ!」
「サーブで人が殺せるのか、大したヤツだ…」
 ルッチとジャブラは卓球なのに死人が出そうな勢いで殺気立っている。宴会中から揉めていたので仕方がない。それぞれ卓球台につき、審判のスパンダムはうろうろと各台を徘徊してジャッジを下すようだ。

 「のう、ブルーノ、わしと相部屋になったらドアドアの能力使わせてくれるかのう?」
「…何を企んでるのか知りたくもないが…想像は出来るな」
「なんじゃ、お堅いのう。ほれ、いくぞ、油断するな、ブルーノ」
 カクの鋭いサーブにブルーノが打ち返す。軽快なリズムで打ち合う二人を見て、スパンダムはうんうんと満足そうに頷いた。
 
 「クマドリさん、お願いするっしょ!」
「いくぜぇぇえ〜、よよい!」
「シャウ!」
「いよぉ〜!」
「貰ったっしょ!」
「まだまだああぁ〜!」
 この台はまるで餅つきか何かのように交互に叫んでいてやかましい。先取したのはネロだ。その途端、案の定、クマドリは無念だと泣き崩れて切腹未遂をしている。

 さて、スパンダムが一番楽しみにしていた台がこちら。カリファとフクロウの台だ。温泉旅館で卓球とくれば、当然、浴衣である。優しい理想的上司なスパンダムの仮面は所詮やはり付け焼刃で、欲望にはいつも忠実なのが彼だった。わくわくしながら覗いてみると…。
「チャパパ!」
「フクロウ…いい加減になさい」
「チャパパー、今のは600道力だったー」
「な、何してんだ、お前ら?!」
「あ…チーフ…、フクロウが打ち返さずに全部受けてしまうんです」
「チャパパー受けてしまったー」
「フクロウ! お前がしっかりやらねぇと、カリファの浴衣でチラリ☆ポロリが見れねぇじゃねぇか!!」
 思わず本音炸裂した瞬間、スパンダムの顔目掛けてカリファのサーブが…!
「へぶっ!!」
「…失礼」
「チャパパー、カリファ、わざとかー」
「拘束具に当てましたので、怪我はありませんよね、チーフ」
「わざとだったー、チャパパー」
「だ、大丈夫だ…! いいから試合続けろ…!」
 痛かったものの、サーブの瞬間にカリファの方を見たのでちょっとイイ事のあったスパンダムであった。…彼が見た光景がいかなるものだったかは、他に知る者はない。

 さて、好カードだったルッチ対ジャブラは混戦模様だ。取って取られて、まさに死合の様相。
「うりゃあ!」
「遅い!」
「何を…!」
 こんな感じで打ち合っているのだが、そのピンポン球は風を切るスピードで、二人とも剃を駆使し、万が一、ピンポン球が当たっても大事無いように鉄塊もしているのだ。
「なんじゃ、ここはまだ終らんのか?」
 試合が終った他のメンバーはもうくじも引いてしまい、ルッチ達の試合を見学中だ。さすがにこれは怖いので、審判だと言いながらスパンダムはブルーノの後ろに隠れて見ていた。

 ルッチとジャブラの試合はまったく終わる気配を見せない。さすがに見ている方も疲れてきた。そろそろ就寝時間で、この遊戯室も明かりが落ちる。
「チーフ、チーフ、二人の試合、どうにかしてっしょ!」
「な?! 俺が?!」
「チャパパー、チーフは審判だー」
「どうぞ、審判」
「あら…二人とも、本気になっているわ」
「ぬわ!」
 カリファに言われて改めて見てみると、ルッチもジャブラも悪魔の実の能力まで使っている。獣達の卓球・・・もはや卓球とは言えない。だからと言って、非力な(道力9)のスパンダムにどうこう出来る筈もない。まごついていると、見かねたようにカクがため息をついた。
「カリファ、手伝ってくれるかのう?」
「ええ、いいわ…何をすれば?」
 何やらこそこそと相談するカクとカリファ。そして、カリファが前に歩み出た。

 「ジャブラ」
「アァ?! 邪魔すんじゃねーよ!!」
 呼ばれて、律儀に視線を向けたジャブラはその光景に手を止めてしまった。
「な…、カリファ! てめぇ…どうしたんだ、その髪はぁ!」
 顔を真っ赤にして後退りするジャブラ。
「失礼ね」
 首を傾げたカリファの肩から零れる金髪…の、おさげ髪。ジャブラが大好きなおさげがそこにあった。おさげに気を取られている隙にルッチに点を奪われ、そのままルッチの勝利だ。
「チクショー! カリファが俺を誘惑しなけりゃ…!」
「こうでもしなくては決着がつかなかったもので」
「なっ…! 俺の心を踏みにじりやがって!」
「純じゃのう、ジャブラ」
「別に揺らいじゃいねぇよ! 俺にはギャサリンがいるんだ!」
「ジャブラはギャサリンに振られてしまったーチャパパー」
「黙れ、フクロウー!!」
「フン、勝ちは勝ちだ…力の差を思い知ったか、野良犬風情が」
 ルッチは汗を拭ってにやりと不敵に笑った。
「くじびきの順番決めるくらいで、熱くなる方がどうかしてるんだ! バーカ!」
 負けじとジャブラは、舌を出して挑発する。またガルルル…と一触即発の雰囲気になる二人…いや、もう二匹と言ってもいいだろう。
「おやめなさい、二人とも!」
「お前ら、あんまり待たせるからあれだぞ? もうくじみんなひいちまって、あと二枚しかねぇぞ」
 スパンダムがルッチの帽子を持って欠伸をした。一時休戦とばかりにそっぽを向き合い、まずはルッチがくじをひくため、帽子を受け取った。
「つーか、もうくじいらねぇしな。よーし、みんな、寝るぞ! 明日は朝8時にさっきの宴会場で朝飯だからな! んで買い物タイムで、それから俺達はエニエス・ロビーへ。ルッチ達は、ウォーターセブンだ! おい、ルッチ達は明日帰ったらすぐ店開けろよ」
「…チーフは?」
「バカ! 俺はエニエス・ロビーに帰るんだよ!」
「…了解」
 いきなりくたびれる予定を聞かされて、ウォーターセブン組は項垂れてしまった。まぁ仕方ない。
「…ところで、くじがいらないとはどういう意味です」
 ルッチが言うと、スパンダムがくじを取り出して広げて見せた。
「もうみんなひいちまったからな、残ってるのこれだけで、お前ら、相部屋だ!」
「?!」
「寝るぞ、寝るぞ! おやすみー!」
 個室のスパンダムは大きく欠伸をしながら遊戯室を出て行った。その後に続いたのは、ブルーノとクマドリだ。


「今宵一晩、お世話にぃ…」
「…よろしくな」
 どうやらこの二人が相部屋のようだ。割と馬が合いそうな気もする。
「なんじゃ、わしはお前とかのう…」
「チャパパー、カクと相部屋になってしまったー」
「まぁ面白い話が聞けそうじゃな」
「チャパパー喋ってしまうぞー」
 フクロウから仕入れた秘密で、一体何をしようというのか…。恐ろしい組み合わせが生まれてしまった。

 ということは、あと残ったのは…。
「シャウ! よ、よろしくお願いするっしょ! カリファさん!」
「よろしく…、それじゃあ部屋に行きましょう、ネロ」
「はい! シャウ! 俺、ツイてるっしょ!」
 ネロははしゃぎまくっていた。無理もない。ルッチ達から離れられただけでも嬉しいのに、カリファと相部屋なんて身に余るほどの幸運。今まで不運だったのは、このためじゃないかとさえ思ってしまうほどだ。
「…四式坊やが」
「なんだよ、もうおさげほどいたのかよ、カリファのヤツ…」
 彼らを見送るルッチとジャブラ。気持ちはちょっと違うけれど、なんだか寂しい感じなのは同じだ。仕方ないので、部屋に行くことにしたが、どっちが鍵を持つかでさっそく揉めている。

 大騒ぎの部屋割り卓球大会が終わり、うっかり湯に静寂が訪れる。宿の明かりも落ちて、風情ある情景だ。
 ブルーノとクマドリは布団を並べて敷いて、さっそく眠ってしまった。二人とも、朝が早いタイプなので、朝食前に朝風呂に出向く約束をしているようだ。
 カクとフクロウも仲良く布団と並べて、こちらは寝転がりながら何やら談笑中。二人とも、夜に強いタイプらしく、結構盛り上がっている。



 そして、ジャブラとルッチは…、一応布団は敷いたものの、畳のこっちから出てくるなだとか、ぎゃーぎゃー喚き合い、一応、布団に入ったものの、二人とも寝付けないでいた。むしろ、寝たら負けかなぐらいの気でいるようだ。そんな二人に構わず、ハットリは眠っている。

 さて、カリファとネロの部屋はというと…。
「シャウ、やっぱりカリファさんは女の人だし、仕切りがいるっしょ!」
 そう言って、ネロは部屋の中央にカーテンのような布を吊り下げて簡単な仕切りにした。一応、布団は隣同士に並んでいる。
「ありがとう、嬉しいわ」
「いや〜、当然のことっしょ! じゃ、お休みなさいっしょ!」
「お休みなさい…」
 明かりを落として横になったものの、ネロはドキドキして眠れなかった。カーテンの向こうで横になるカリファの姿が、少し透けて見えるのがなんとも…。緊張してしまうので、カリファに背を向けて丸くなって目を閉じるネロ。今日はいい夢が見られそうだ。
「…もう、眠ってしまったかしら…?」
 優しい声が聞こえて、ネロは目を開けた。
「カ、カリファさん?!」
「無粋ね…大きな声出すなんて」
「す、すみませ…、え? でも、ええ?!」
 ネロは困惑した。隣で寝ていた筈のカリファが、なんと自分の上に…!!
「一人寝は寂しくて…添い寝してくれるかしら」
「よ、よ、喜んで! カリファさん、大胆っしょ…!」
「よかったわ…」
 浴衣から覗く白い肌、艶やかな唇、誘惑の眼差し…、これって、まさか、そういうこと?! これがウワサの据え膳ですか?! ネロ、一世一代の大チャンス到来?!
「幸せっしょ〜!! シャウ!」

 「…どんな夢を見ているのかしら…セクハラね」
 カリファはカーテンをめくって、何やら寝言を言っているネロを見て笑った。ネロは枕を抱き締めて悶えている。…いい夢は見られたようだ。ネロに幸あれ…。

 ところで、一人個室のスパンダムはというと…。すでにイビキを立てて眠りこけていた。この人、悩みもなくて幸せそう。そんな彼の背後に忍び寄る気配が…! 命を狙う暗殺者か、はたまた、夜這いか…。その影は、スパンダムの隣に横になり、ぴったりと背中にくっついた。
「ん…んん?」
 さすがに何かの気配か感触を感じて、寝ぼけた顔で振り返ったスパンダム。そこにあったものは…。

 「んんん…!」

 大アップで、白目を剥いたクモ男!!

 「ぎゃー!!」
「んん、んんん」
「な、な、なんだお前ー!!」
 そう、この部屋は実は番頭のゲダツの部屋なのである。人数分の部屋を用意出来なかったばかりか、三人部屋になる恐れまで出てしまったので、気を利かせてゲダツが相部屋を申し出てくれたのだ。カリファがスパンダムに個室を譲ったのは、これも理由のうちだった。
「なんでお前が寝てるんだよ!!」
「騒ぐな、青海人! ここは生存率30%、俺の部屋!」
「生きて朝を迎えられねぇのか?! 誰か、誰か俺を守れー!」
「んんんん、んんーん?」
「わかんねぇ! 誰かー!!」
 スパンダムの夜は、やかましく過ぎていくのであった…。

 一夜明けて、朝食の時間。ゲダツに叩き起こされたスパンダムもきちんと揃って、みんなで楽しい朝ご飯タイムである。
「…しかし、なんじゃ、ジャブラもルッチもひどい顔じゃのう」
「うるせぇ!」
 ジャブラは叫んでごはん粒を飛ばす。カクはそれをひょいっと避けたので、ごはんマシンガンは幸せネロに命中だ。
「シャウ! ジャブラさん、汚いっしょ!」
「眠れなかったようね、ルッチ」
「…むしろ、先に眠った方が負けだった…」
 ルッチの目は据わっている。長い戦いに挑んだ男の目がそこにあったが、実に不毛で無駄な戦いだ。主人の寝不足を、肩でハットリが心配そうにしている。
「飯食ったらな、土産買いに行こうぜ!」
 スパンダムに言われて気付いたが、彼らはアラバスタまで来ていながら、何も買っていなかった。スパンダムは着いて早々にカリファに着せようと踊り子の衣装を買ったが、あとはカジノでも何も買っていない。謎の集団、バロックオフのチラシを手に入れたくらいのものだ。
「アラバスタのナノハナは香水が有名らしいわ」
「ここでも手に入るようじゃよ、アラバスタの名産品が揃っとるそうじゃ。わしはメスカルサボテンが欲しいのう」
「…それはマズイんじゃないか、カク…」
「ブルーノは何を?」
「そうだな…バーのメニューに使えそうな食材や酒か」
 おみやげというのは、旅の思い出に自分用にも欲しくなるものだ。みんな、誰に買っていこうとかわいわい楽しそうに話している内に、和やかなムードで朝食が終わった。CP9全員で食べる、最後の食事である。

 出発までの時間、うっかり湯内にあるおみやげセンターで買い物をするCP9。カリファはやはり香水や装飾品を見ているようだ。その他にも、SUPAYAで配れそうな個別包装のお菓子なんかも買っている。カクは楽器や珍しい動物の載っている図鑑を見ている。グランドラインの島々は交易が難しいので、独自の生態系や文化が残っていることが多い。アラバスタは繁栄した国であるが、その一方で砂漠の中に息づく奇想天外な動物達の宝庫でもあるのだ。
「なんだ、こりゃ…空島名物?」
 ジャブラが見つけたのは、番頭のゲダツを模した形の饅頭だった。それには空島名物うっかり饅頭と書かれている。
「なんで空島なんだ?」
「チャパパー、空島なんてないぞー」
「そういやぁ、あの男、背中に、羽がぁ…」
「ワハハ! お前ら面白いモン見つけたな! エニエス・ロビーで配ってやろう! 空島に行ってきたなんて言ったら連中、驚くだろうな!」
 ゲダツが空島から降って来たことを知らないどころか、空島の存在自体を知らない彼らにとっては、この空島名物も単なるジョークに過ぎない。まぁ、実際、このうっかり饅頭はうっかり湯でゲダツによって生産されているわけで、空島の名物だったことはないのだが。

 うっかり湯を後にした面々を迎えに来たのは、政府の船が二隻。ここで、エニエス・ロビー組とはお別れだ。今日はスパンダムもエニエス・ロビーに帰ることになっている。すっかり仲良くなったクマドリとブルーノは無言で別れを惜しみ、フクロウとカクは何やらひそひそ話をして、お互いの健闘を称えあった。ジャブラとルッチはというと。
「いいか、次に会う時ゃ、俺は貴様には負けん!」
「弱い犬ほどよく吠える…覚えておけ、単細胞」
「てめぇが発注間違えても直してやらねぇぞ、ルッチ!」
「バカヤロウ、そっちこそチーフのバカな発注を鵜呑みにして☆護ちゃん海列車なんぞ出してくるな! 殺すぞ」
「なにぃ、やるか?!」
「望むところだ…!」
 惜しむどころか、また再燃して喧嘩である。やはり、悪魔の実を食べたことで何か反発し合ってしまうのだろうか。
「じゃあお前ら、SUPAYA頼むぞ! 俺は明日出勤するからな!」
「お疲れ様でした、チーフ」
「よーし、慰安旅行解散だ、CP9!」
「了解」
 それを合図に、それぞれの船に分かれて乗船し、船は各々の目的地へと出航したのであった。

 ウォーターセブンに戻ったルッチ達は、さっそくSUPAYAへと向かっていた。
「だるいのう…」
「シャウ、俺は元気っしょ!」
「だったらお前が一人で店を開けろ、四式イタチが」
「そんなの平気っしょー!」
 よほどいい夢を見たのか、ネロはご機嫌だ。そのテンションの高さに、SUPAYAが誇る腹黒ーズが眉間に深い皺を刻む。

 「…? あれは…なんだ」
 黄色い店が見えてきたところで、それに気付いたのはブルーノだった。
「どうしたの、ブルーノ」
 カリファが尋ねると、ブルーノが無言で指を指す。見ると、そこにはファンクフリードと…何かがいた。その何かは、随分とファンクフリードと仲が良く、どうやらファンクフリードの餌にと置いてきた果物を分け合って食べているようだった。
「…パウリーじゃな」
「こんなところで、何をしているの、パウリー」
 カリファの声に地面に座っていたパウリーが顔を上げた。その顔は心なしかやつれている。
「ぶっ…、カリファ! てめぇ、また性懲りもなくそんなハレンチな…、…だめだ、力出ねぇ…」
 そう言ってパウリーはばったり倒れてしまった。
「こりゃいかん、ブルーノ」
「ああ」
 ブルーノが倒れたパウリーを担ぎ上げる。その途端、パウリーの腹の虫が盛大に鳴った。
「なんだ、行き倒れていたのか、ポッポー。店の前で迷惑だ、パウリー」
 ルッチがハットリを介して言うと、担がれたパウリーがバッと顔を上げて叫んだ。
「お前らが勝手に臨時休業なんかするからだろ! 俺は…CDの買取に来ただけだ!」
「…またギャンブルか、ポッポー…」
「うるせぇ、ルッチ!」
「落ち着いて、パウリー。これでも一ついかが」
 カリファがアラバスタ土産のお菓子を出すと、パウリーはそれを箱ごと奪って貪るように食べた。心優しいパウリーは、ファンクフリードの果物をたくさん取るようなことは出来なかったのだろう。
「買取、してくれよな!」
「さぁ、店を開けるぞ、クルッポー」
「了解!」
 ルッチの命令でそれぞれが持ち場につき、SUPAYAのシャッターが開く。臨時休業の張り紙は破り捨てられて、またウォーターセブンに黄色い店が戻ってきた。
「待ってました! 買取買取!」
 一番乗りでニコニコしているパウリーが背負っている山盛りのCDを前に、戻ってきた日常に少し安心するCP9の面々であった。

つづく


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