年始

 新しい年が明けて、最初のSUPAYA営業日。いつもより静かで、町全体が生まれたばかりの光に包まれて輝いているようだ。そんな中、集まった正義の闇に生きるCP9達は、初日の出に照らし出されて、光線でも放ちそうな黄色いSUPAYAに向かっていた。

 「新年明けましておめでとうございます、チーフ」
「おう、ありがとう!」
 おめでとうと言われて、ついありがとうと返してしまうご機嫌なチーフは、店内でファンクフリードと戯れていた。
「今年もボケ炸裂じゃのう、チーフ」
「誰がボケだ?!」
 自覚がないのがまた厄介。だが誰もそれ以上言わなかった。今日はSUPAYAの仕事始めにして、新年会である。営業は午後からで、午前中に宴会をしようという訳のわからないタイムスケジュールである。
「ところで…、なぜお前達までここにいるんだ、ジャブラ」
「あァ? いちゃ悪いか」
「…悪くはないが…、気分が悪い」
「てめぇ…!」
「やめんか二人とも、新年早々…」
 ルッチとジャブラは年末に、フクロウに気持ち悪い噂を流されてしまい、お互いに更に反発を強めているのだった。他にも、ジャブラが送ってきた荷物に間違いが多かったり、ルッチの小姑のような細かい指示が気に入らなかったり、ネコだったりイヌだったり、相容れない箇所はかなりあるらしい。
「お前ら、だめだぞ! CP9はお前らだけなんだからな! 仲良くしろ! チームワークだ!」
「こいつがウォーターセブンに来なければ何の問題もありませんが」
「俺だって来たくて来たんじゃねぇ!」
「だったらエニエス・ロビーに帰れ、野良犬」
「なんだとぉ…! この化け猫がぁ! やんのか、こら!」
「おやめなさい、二人とも!」
「そうだぞ…正月から何をやってるんだ…」
 遅れてきたブルーノとカリファに一喝され、ルッチとジャブラは一時休戦だ。ブルーノは大きな鍋を持っていて、カリファは風呂敷包みを持っていた。二人とも着物姿で、実に華やかだ。
「どうしたんじゃ、二人して。同伴出勤かのう」
「おせちとお雑煮を持ってきたのよ」
「カリファが作ったのか?」
「ブルーノと一緒にね。彼に教えてもらったの」
「ワハハ! さっそく食うとするか!」
「その前に、餅がないから…餅つきを」
「餅つき?」
「必要なものはもう用意してあるから…、ルッチ、わかるか?」
 ブルーノに振られて、ルッチは顔を顰めた。餅つきなどしたことはないが、文献で読んでなんとなくわかってはいる。
「カクとネロ、フクロウとクマドリは店内を片付けておけ。後の者は餅つきで外に出ろ」
「シャウ! カリファさんの着物姿、綺麗っしょー!」
「あら、お世辞でも嬉しいわ。ありがとう、ネロ」
「お世辞なんかじゃないっしょ〜!」
 顔を真っ赤にして照れまくるネロ。カリファはたすきがけをしながら、嬉しそうに微笑んだ。

 「…なぁルッチ、知ってるか?」
 いつの間にかスパンダムがルッチの側に忍び寄っていて、小声で囁く。
「…何をです、チーフ」
「着物ってな、こう…下着のラインとか出るだろ? だからな、下着つけねぇらしいぞ!」
「…存じておりますが」
「バカ! 鈍いな、ルッチ! つまりだなぁ、カリファは今、ノーブラ、ノーパ…」
 どか、ばき、ごきっ!!
「お、お前ら…なにす…!」
 スパンダムの言葉を遮ったのは、ルッチとカクとブルーノだった。何事かとカリファ達がこちらを見るが、何でもないと言い聞かせる。
「失礼しました、チーフ。言ってはならない言葉が聞こえそうだったもので」
「新年早々、カリファにのされたくはないじゃろう?」
「怒らせると怖いからな…、カリファは」
「お前らこそ…、してはならんことをした気がするぞ…?」
「気のせいです、チーフ」
「気のせいじゃよ」
「…」
「そうかぁ…?」
 今年一発目の自業自得な災難に見舞われたスパンダムを、慰めるようにファンクフリードがもすもすしてやった。

 やる気まんまんで袖を捲り上げているルッチに、ブルーノは杵を渡した。こねる役はカリファとブルーノがやるようだ。
「早くしろ、カリファ」
「先に始めてちょうだい、ジャブラが…」
「またあの野良犬か、何をしている」
 ため息をついて、杵を担いだまま様子を窺うルッチ。カリファはジャブラにハチマキをせがまれたらしく、タオルをハチマキ代わりにしようと畳んでいるところだった。
「労働者姿が様になりそうだな、ジャブラ」
「うっせぇ!」
「もう、やめなさいったら! 動かないで、ジャブラ。巻けないわ」
「ああ…、そうだ、餅つきはいいが、この中に年男はいなかったか…」
 ブルーノが何気なく呟く。ルッチは振り返った。
「どうかしたのか、ブルーノ」
「いや、俺の生まれた場所じゃ身内に年男年女がいる年は餅つきをしなかったんだ」
「あら、どうしてなの?」
「餅は突くだろう? それが突き殺すを連想させるから…」
 ブルーノが言い終わらないうちに、ルッチはどすんっ!と臼の中でほかほか湯気をあげている餅米に杵を振り下ろした。周囲の沈黙の後、ルッチはおもむろに杵を高々と掲げると再び力任せに振り下ろした。繰り返し、繰り返し、だんだんテンポが上がっていく。そりゃもう、親の仇のような勢いだ。
「今年は…っ、戌年っ、だな…っ! ジャブラァッ!!」
 どすどすと突きまくるルッチ。滲み出る憎悪。もう、豹化しそうな禍々しい餅つきだ。宿敵相手に己の力を極限まで発揮し、血沸き肉踊る戦闘の真っ最中に身を置いているような表情に、丑の刻参りで自分を裏切った憎くてたまらない誰かを呪う執念深さをミックスした感じである。長年ルッチと連れ添っているハットリさえもひきまくって青ざめている。



 「突き殺されるー!! 絶対、あいつ、俺を突き殺す気だー!!」
「はは…迷信だから…」
 ブルーノが困惑顔で宥めるが、ジャブラはかなりびびってしまった様子。元々、巷の噂とかを信じやすい性分なのだ。
「ルッチのヤツは本気じゃよ…。恐ろしいのう」
 いつの間にか、餅つきを見学にきたカクまで脅して、ジャブラを追い込む。
「うぉぉ、そいつを近付けんなー!!」
「誰が近付くか、バカヤロウ!」
「やめなさい、ルッチ。そんな乱暴についたら台無しよ」
 怒ったカリファに窘められて、ルッチはふぅっと息をつき、杵を離した。
「もしかして、ジャブラも餅つきしたことないのかしら」
「俺はあるぞ!」
 威勢がいいのは言葉だけ、ルッチに近付くのが嫌でジャブラの体はひけている。イヌの本能がそうさせるのだろうか。
「そう、じゃあ代わってちょうだい」
 カリファは構わずに手に水をつけて餅をならす。突きまくられてエライ事になった餅がなおされ、今度はタオルをハチマキにしたジャブラが杵を振るった。
「よいっしょ!」
「はい」
「ほいっ!」
「はい」
「おらぁ!」
「はい」
 確かに、餅つきをしたことがあるというだけあって、なかなかテンポもいい。さっきまで、餅つきで殺されると怯えていた男とは思えない。しかし、力の入れ方が均等でないので整えるカリファも大変そうだ。ジャブラも慣れない動作にだんだん疲れてきた。
「代わろうか、ジャブラ」
「代わってくれ、ブルーノ! ルッチだとまた何するかわからねぇからな!」
「…」
 ルッチは腕組みをして肩にハットリをのせて、ジャブラを睨みつけていた。
「なんだ、その顔はー!」
「この顔は元々だ、貴様に顔がどうとか言われたくないな、ポッポー」
「ハットリになってんじゃねぇよ!!」
 腹話術で返されて、ジャブラは尚更つっかかる。ブルーノとカリファはもう放っておいて餅つきを続けることにした。着物を着た二人がすると、なかなか風情があっていいものだ。ブルーノはかなり慣れているらしく、安定しているので見ていて安心だ。

 ようやく餅つきが終わって、彼らがつきたての餅を丸めて店内に持って入ると、そこには不思議な光景が広がっていた。
「ワハハ! どうだ?! 快適だろう?!」
「チーフ、これは…」
「シャウ! あったかいっしょ!」
「よよい、これぞ冬の醍醐味だぜぇぇ〜」
「チャパパー! こたつに入ってしまったー!」
「あーズルイっしょ、フクロウさん!」
 きゃっきゃと騒ぐ店内片付け組。いつの間にか店内には丸い巨大こたつが用意されており、そこにはカリファの持ってきたおせちの入った重箱と雑煮の入った鍋がが置かれ、餅を焼くための七輪まで用意されている。
「…だから見張っていろと…!」
 いつの間にか外で餅つきを観戦したり、餅を丸める手伝いをしていたカクにルッチが呟く。カクは知らん振りだ。実はカクがそそのかしてこたつを準備させていたのだ。今年も侮れない男だ、カク。

 こうなってしまったものは仕方ない。みんなで丸いこたつに足を突っ込んでぬくぬくしながら、おせちと雑煮三昧だ。これはこれでなかなか楽しい。つきたての餅は美味しいし、言うことなしだ。これで酒が飲めればいいのだが、この後店を開けるのだからそうも言っていられない。
「なんだ、お前ら飲まねぇのか?」
 そう言ったジャブラは勝手にお屠蘇でいい気分になりつつある。彼は店頭に立たないのだから飲んでも問題ない。
「貴様のように暇じゃないからな」
「可哀想になー!ぎゃはは!」
「…突き殺してやる」
「ぶふっ!」
 酒を吹き出すジャブラ。どうやらこの呪文は使えるようだ。

 「あ〜、そういや去年はクリスマスにアイスバーグと親しくなっただろー?」
 チーフは店頭に出ていてもたいして仕事をしていないので、いきなり酒を飲んでいる。すでに酔っ払い気味だ。
「それがどうかしましたか」
「ここらでもう一歩、お近づきになりてぇよなー。だから、お年始っていうのか? 新年の挨拶を贈ろうと思うんだ!」
「いい考えじゃのう」
「だろ?! で、だ!」
 スパンダムは目を輝かせて何やらカタログを取り出した。
「これな! 海列車で即日配達してくれるギフトカタログなんだよ、すげぇよなー海列車は! 下手なモン贈るわけにもいかねぇだろ、だからまずは試食といこうぜ!」
 美食家でもあるスパンダム。年始の挨拶とかよりも、そのギフトカタログで取り寄せるご馳走を食べて見たかったのだろう。最初から試食が目的なのだ。何も食べ物でなくてもいいだろうに…。
「アイスバーグは何が好きかなー」
「クリスマスパーティーの時は、特に好き嫌いなく召し上がってました」
 さすがカリファ、きちんとアイスバーグの行動を見ていたようだ。
「うちの店に来る時も…特に決まった酒を飲むわけじゃないな…」
 ブルーノのバーにはアイスバーグもよく訪れる。ブルーノはきちんと店主の仕事も諜報部員の仕事も果たしているのだ。

 好物とかわからないけれど、とりあえず…ということで。おせちをつまみながらみんなでカタログを囲んで、こたつであれやこれやと談義が始まった。なかなか幸せな正月だ。
「市長なんだろ、そいつ。だったら結構色々貰ってんじゃねぇか?」
 ジャブラの言うことは確かに一理ある。
「シャウ、だったらみんなで食べられるものがいいっしょ!」
「たまにはいいこと言うのう、四式イタチ。ガレーラは大所帯じゃ」
「一番手軽なのは酒だが…」
「あ、それじゃあ、あんまりにも芸がねぇえ〜」
「チャパパー、インパクトのあるものがいいぞー」
「エニエス・ロビーには特産もないし…、かといってこの町の特産品を市長に贈るのもナンセンスだわ」
 美食の町プッチと交易があるので、ウォーターセブンの食文化は多様化している。少々値段は張るが、揃わない食材はないほどだ。
「まだまだ寒いしよぉ…これ、どうだ?」
 スパンダムが指差したのは、豪華特選カニ鍋セットだった。
「カニですか」
「甲殻類は好き嫌いがあるっしょ、シャウ!」
「お前さんは好きそうじゃのう…」
「カニ大好きっしょ!」
「俺もカニ好きなんだよなー! 最近、食ってねぇよなー、そうだ! お前ら、俺への年始の挨拶はカニでいいぞ、ワハハ!」
 大胆な要望を言い放つスパンダムに、みんな知らん顔だ。
「…カニはこの町でも食べるが…、こういう鍋は珍しいかも知れないな」
「なぁ、俺へのお年始…」
「そうね、鍋なら職長達で囲んで食べられるだろうし…」
「なぁ…俺にカニを…」
「試しに食ってみるんだろ? 今頼めば、夕方の海列車で届くらしいぜ」
 ジャブラが申し込み要項を読んでそう言う。
「カリファ」
「はい、注文します」
 ルッチの指示でカリファがカタログ片手に電伝虫で注文を入れた。
「カニ! カニ頼んでくれたのか!! なぁカリファ!」
「セクハラです」
「ワハハ! そうかそうか、頼んでくれたのか! え、ええ?!」
 自分へのお年始ではないが、とにかくカニが食べれるとあってスパンダムは大喜び。うっかりセクハラです、を聞き逃すほどだ。とにかく嬉しいらしくて、チーフはこたつに潜って蠢いている。
「チーフ、退いて下さい。こたつを一時撤去します」
「なんでだ、ルッチ!」
「…今から店を開けるのに、店内にこたつがあっては邪魔ですので」
「斬新だろ!」
「斬新すぎで引くわい」
 自分がそそのかした癖に、軽く言い放つにカク。スパンダムは渋々こたつから出た。ジャブラ達によってこたつは一時、エニエス・ロビーそっくりに改装されているチーフルームに放り込まれた。
「お餅、結構余ってるっしょ。もう固くなってるっしょ」
「焼いてお客に振る舞えばいい…」
「それはいいのう」
「きっとパウリーが喜ぶわ」
「…お前らは夕方まで何をするんだ、ジャブラ」
 ルッチが眉間に皺を寄せて言うと、ジャブラはまだ食べていた餅を喉に詰まらせそうになった。
「大丈夫? ジャブラ」
「やっぱりあいつ、俺を殺す気だ!」
「考えすぎよ…、多分」
「多分?! チクショー! いいか、ルッチ! お前には負けん!」
「…だから、夕方までお前らはどうするんだと聞いている」
「あァ? …そうだな、ここにいてもする事ねぇし…。町ん中回って情報収集でもするか。行くぞ、フクロウ、クマドリ!」
「よよい、情報収集ならぁ、任せてくれぇ!」
「…」
 フクロウは口を閉じている。あの三人が町に出るのは些か不安だが、店内にいられても困るだけだ。スパンダムはと言うと、よほどこたつが恋しいのか、チーフルームに篭ってしまった。恐らく、お屠蘇でいい感じになっているのだろう。

 「開店準備だ」
「了解」
 ルッチの指示で、残りのメンバーは忙しく開店の準備をする。棚を戻し、商品のチェックをして、新春セールや特別割引の札を下げ、ブルーノとカリファは餅を焼く準備と、あんこやきなこ、しょうゆやのりなんかを用意していた。

 今年最初の営業日、一番にやってきたのはガレーラカンパニー1番ドック職長のパウリーだった。彼は試聴と買取専門の客だが、彼は顔が広く、宣伝上手だった。
「よう、おめでとう!」
「おめでとう、パウリー。今年もよろしく」
「今年もよろしくな! で…、餅、それ配ってんのか?」
「さすがに目敏いのう、ウォーターセブンの借金王」
「今に一発当てるんだよ!」
「無理だな、ポッポー。今年もギャンブル運のない顔だ」
「うるせぇな、ルッチ! いいから、餅、それくれよ」
「味はどれがいいんだい?」
「全部!」
「欲張りじゃ」
「欲張りだな、ポッポー」
「おなか壊すわよ、パウリー」
「大丈夫だって! 美味そうだなー!」
「今日は買取か? ポッポー」
「ん? いや! 今日は何か借りようと思ってな」
 餅をさっそく頬張ってパウリーはにかっと笑った。
「どういう風の吹き回しだ、ポッポー」
「これは天変地異の前触れじゃな」
「なんでだよ?!」
 パウリーが反論しようと怒鳴ったその瞬間。

 ドドーンッッ!!

 ものすごい閃光と劈くような轟音! 一同、びっくりして動きが止まってしまった。チーフルームにいたスパンダムも、何事かと飛び出してくる。
「なななな、なんだぁああ!!」
 恥ずかしいくらい取り乱し、ブルーノの背後に隠れるスパンダム。
「…雷ですね」
「落雷じゃな」
「ウォーターセブンに雷落ちるのは珍しいな!」
「ほれ、パウリーがCDを借りるなどと言うからじゃ」
「俺のせいかよ! 意地でも借りていくからな!」
 パウリーは怒りながら、目ぼしいCDがないか棚を探し始めた。しばらく様子を見たが、雷は一度だけのようだ。
「外は晴れてるっしょ! イタチの嫁入りっしょ! シャウ!」
「キツネの嫁入りじゃろう、それは天気雨じゃ、不勉強じゃな、四式イタチ」
「シャウ?! カクさん、頭いいっしょー!」

 その頃、ウォーターセブン散策中だったジャブラ達は、落雷の瞬間を見ていた。突然、青空を縫うように稲光が走り、轟音と共に廃船島の一角に落ちたのだ。
「すげぇな…! おい、様子見に行くぞ、フクロウ、クマドリ!」
「よよい、よさねぇかぁ、ジャブラ〜! 危ないぜぇえ〜!」
「チャパパー! ジャブラは火事やケンカも見る野次馬だー」
「喋るな、フクロウ! いいから行くぞ!」
 現場に駆けつけたジャブラ達。その前に広がるのは人気のない廃船島の雑然とした光景だ。大抵の船が原型を留めて寝そべっているのに大して、恐らく落雷によって焼き払われたのだろう、その一角だけは妙にがらんとしている。
「…あァ?」
 ジャブラは顔を顰めた。
「よよい、どうしたんだぁ、ジャブラ〜」
「あそこに…人が…」
「チャパパー本当だー」
 三人は青白い光に包まれる人影を見た。背中から奇妙なものを生やし、風に棚引く長い…、…耳?
「なんだ、ありゃ!」
 思わず叫ぶジャブラ。それとほぼ同時に、人影は光となって姿を消した。
「消えたぞ、おい!?」
「チャパパー! 見えてしまったー!」
「ありゃあ、きっと、船幽霊ってぇやつじゃあねぇかぁ!」
「あれが幽霊か!! 幽霊って耳長ぇんだな!」
「チャパパー! ルッチ達に自慢してやるのだー!」
 三人は廃船島で目撃した幽霊?に興奮気味。だがいつまでもそこにいても仕方ないので、町の方へと歩いて行った。

 一方その頃、SUPAYAでは、パウリーが借りるCDを選んでいた。会計を済ませて、それからパウリーはぽんっと手を打った。
「ああ! そういやアイスバーグさんがお前らに年始の挨拶してぇってよ!」
「ポッポー、律儀な人だな」
「当たり前だろ! でよぉ、お前ら今年から造船所に出張してくんだろ? その時に屋台みてぇな店舗でもありゃいいんじゃねぇかって話になってて、今、アイスバーグさんが図面描いてんだ」
「そんなことまで…? お世話になりっぱなしだわ」
「まぁ気にすんなよ! お前らが来るまでにはきちんと作っておくから、楽しみにしてろよな! それをお前らへのお年始代わりにって言ってたぜ、アイスバーグさんが」
 どうやら先を越されたようだ。なんと気の利く男なのだろう、アイスバーグ。ルッチ達は顔を見合わせた。こっちはまだ、試食用のカニを注文した段階だというのに…。

 夕方、海列車からカニを受け取ったジャブラ達が戻ってきたので、ルッチ達は店を閉めることにした。また店内にはこたつが出現だ。
「デカイっしょ、シャウ!」
 大きなカニに喜ぶネロとスパンダム。カニを囲んで踊っている。調理するのはブルーノだ。
「なぁなぁブルーノ! 俺にも持たせてくれ! ワハハ!」
 スパンダムはそう言うとブルーノからカニを奪い取って抱えて大笑いだ。
「どうだ、このデカさ! 俺の顔よりデカイぞ!」
「うまそうっしょー!」
「あ…チーフ…そのカニ…」
「ああ? なんだ、ブルーノ!」
「…生きてます」
「あだだだ! 挟まれた! あだだだ!」
「チーフが挟まれたっしょー!!」
「やれやれ…」
 巨大なカニに挟まれた慌てふためくスパンダム。その周りでパニックを起こすネロ。ブルーノは冷静にカニをとってやり、深いため息をついた。ブルーノが持っているカニに、スパンダムはおたまを使って攻撃をしかけている。挟まれた仕返しのようだ。
「…食べ物にそんなことをすると…バチが当たる…」
 ブルーノはまるでお母さんのようにそう説教すると、カニ鍋の調理を始めた。隣でカリファもお手伝いだ。

 「本当に見たんだっ! なぁ、クマドリ! フクロウ!」
「チャパパー、見てしまったー」
「あ、本当にぃ、この目で見たんだぁぁぜぇ〜!」
「…何の騒ぎだ?」
 ジャブラ達、散策組がカクに必死になって何かを言っている。そこにルッチが加わった。どうやらジャブラ達は昼間廃船島で見た例の幽霊について話しているらしい。
「面白味のない話じゃ、聞くだけ損じゃよ、ルッチ」
「わかってる…、所詮、野良犬の戯言だ」
「チクショー! 本当に見たんだよ!! …たく、せっかくいいネタ仕入れてきてやったのによぉ!」
「…いいネタ? なんじゃそれは」
「信じてねぇ奴には教えてやらねぇよ!」
「またケンカしているの? いい加減にしなさい」
 カニ鍋の準備が終わり、カリファ達がこたつに集まる。さっそく、アイスバーグさんへの贈答用に相応しいかカニの品評会が始まった。

 「カニうめぇぇ!!」
「シャウ! 本当に美味しいっしょー!」
 カニ大好きなスパンダムとネロはばきばきカニを食べてご満悦だ。この大所帯でも十分な量のカニがあるので、取り合いにはならない。だがガレーラに贈るには少々少ない。
「確かに美味しいけれど…、これをどのくらい贈ればいいのかしら」
「パウリーの話じゃと、アイスバーグさんはわしらの為に出張用店舗を作ってくれとるようじゃしのう」
 そこまでしてくれるということは、かなり親密になっているということなのだろうか…。それともウォーターセブンの人間というのはみんなそこまで気のいいものなのだろうか。
「ワハハ! 何をごちゃごちゃと! いいじゃねぇか、仲良くなっちまえばこっちのものだ! そうだな、カニとプッチ産の肉でも贈りゃいいだろ! 向こうからこっちに近付いてくれてんだから楽なモンだ! な!」
「そうっしょ、シャウ!」
 スパンダムとネロはカニを殻ごと口に入れて、ばきばき噛みながら食べている。カニフォークとかは使わない、豪快な野郎を演出しているが、べたべたで見た目は非常に格好悪い。
「…そういえば、ジャブラ。いいネタがどうとか言ってなかったか」
 酒を飲みながらルッチが言うと、ジャブラは得意げににやりと笑った。
「おう、お前らが喜びそうなネタだ!」
「もったいぶらずに話さんと、ルッチに突き殺されるぞ、ジャブラ」
 カクがからかうと、ジャブラは慌ててルッチに紙を投げつけた。
「…バロックオフ…!」
 ルッチの顔に焦りの色が滲む。ジャブラが投げつけてきたその紙切れは、あのバロックオフが近々ウォーターセブンに出店してくるという宣伝チラシだったのだ。
「…ついに来たのね…」
「奴らはアラバスタ全土で手広く商売をしている…。主に新古書に力を入れているようだが、ここに打って出るとなると…当然CDを強化してくるだろう」
「コードネームで呼び合う謎めいた社風と徹底した上下関係のシステム、それに…女性店員が多いことでも人気のようよ」
「わしらに劣ってる点があるとしたらそこかのう。紅一点じゃ」
「ワハハ! 何を辛気臭い顔してんだ! それにカク! カリファは劣ってなんかねぇぞ!」
 酔っ払いながらスパンダムは素晴らしいフォローをいれた。思わずカリファも胸キュンな表情でスパンダムを見ている。
「なんてたって、お前、カリファは今日、ノーパンだぞ?!」
「セクハラです。それから、今は着物用の下着がありますから」
「なにー!! 男の夢を返せ、カリファ!」
「セクハラです、チーフ。全てが」
「すべて?!」
「阿呆じゃ」
「アホだな」
「…」

 アイスバーグに取り入る作戦も大事だが、それ以上にバロックオフの出店が現実の問題となった今、SUPAYA存続の危機とも言える。ルッチ達ウォーターセブン組はネロとスパンダムを除いて気が気じゃなかった。だがその日に備えて資金も溜めてあるし、いざとなったら暗躍機関の本領を発揮するという最終手段もある。

 そんなこととは関係なく、たらふくカニを食べたスパンダムはこたつの温もりもあってだらだらぐでぐで。そろそろ海列車の時間なのだが、外は寒いから嫌だなーとかごねている。どうやら泊まっていきたいらしい。ジャブラ達はクリスマスにカリファに貰ったマフラーをして、帰る準備をしている。
「ジャブラ」
「あァ? なんだぁ、ルッチ」
「必ずチーフを海列車に乗せろ…」
「わかってるよ! イチイチうるせぇんだよ、てめぇは…」
「もし…乗り遅れたりしたら…」
「あァ?」
「…突き殺すぞ…!」
 指銃の構えで、かなり本気の顔をしているルッチ。ジャブラは一気に酔いもさめて、青ざめ、スパンダムをこたつから引きずりだした。
「のあー!! 何すんだ、ジャブラ! 寒い! 死ぬ!!」
「チーフが乗ってくれねぇと俺が死ぬんだ! 帰ろうぜ、チーフ!」
「いーやーだー! 寒いー!」
「クマドリ! フクロウ!」
「あ、おいらに任せてくれぇぇ!」
「チャパパー、ジャブラはルッチが怖いんだー」
「バカ! 誰だって怖ぇだろ、あの顔!」
「…」
 無言で睨みをきかせるルッチ。ジャブラ達は必死にスパンダムを担ぎ上げると、大慌てでブルーステーションへと向かっていった。

 残された鍋やこたつを片付けて、明日から通常営業に向けて店内を整えていく。いよいよ本格的な活動をする時がやってきたようだ。気持ちをしっかり持ち、それぞれ決意を新たにするSUPAYAの面々。

 遠くの空で、青白い光が走る。

 今年も、一波乱ありそうである。

 本年もよろしくお願い申し上げます。

SUPAYA 一同

つづく
 


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