温泉

 レインディナーズから脱出したSUPAYA一行は、船でサンドラ河を行き、次の目的地ユバに向かった。ユバから海底トンネルを通って温泉島のうっかり湯へ赴く為である。先のカジノでは大なり小なりトラブルがあったものの、身包み剥がされたスパンダムを見ていると、どうでもよくなってくるから不思議だ。

 「…で、てめぇらはあのカジノで何してやがった」
 エニエス・ロビー組のリーダーであるジャブラは、恐らく今回の件を仕切っていただろうルッチを睨みつけた。遊んでいたとはいえ、そこを隠れ蓑にされたようで腹が立つ。何を言っても無愛想なポーカーフェイスなところがさらに苛立たしい。ジャブラは同じリーダーとして、どうもルッチと相容れないものを感じ始めているようだった。
「サー・クロコダイルに面会していただけだ…」
「クロコダイル? 七武海じゃねぇか」
「あのカジノは彼の隠れ家なのよ…」
「そりゃ知ってるが…七武海相手に何の探り入れてんだ」
「わしらの任務は古代兵器の設計図を手に入れる事じゃからのう…。この国にはポーネグリフがあるそうじゃし、奴の有り余る財力が気になってのう」
「…手ごたえは」
「奴が何か企てている事は間違いないが、七武海にまで登りつめた男だ…。そう簡単に手の内は見せないだろう」
「そうじゃ、そういえば、ブルーノ」
「ああ…カジノの奥でこんなものを大量に見た…」
 ブルーノの手にビラが一枚。みんなで顔を近づけて奪い合うようにそれを見た。

 そこには、謎なマークが。



 「…これは…」
「なんというか…」
「デジャブじゃな」
「そうね…、ええ、そうだわ」
 ビラを見てなんともいえない感じになってしまうのも無理はない。そこにはドクロと羽根をモチーフにしたマークが描かれていたのだ。こういうマークなら彼らも馴染み深いものがある。
「…同じじゃな」
「ええ、同じね」
 みんな、クロコダイルにスパンダムと同じ匂いを感じていた。謎のマークは本のようなものを持っている。そして、『バロックオフ』の文字…。
「…本屋かのう」
「きっと本屋ね…」
「…」
「更に言えば…ただの本屋ではないんだろうな」
「だろうな…、我々と同じで」
「同じじゃのう」
「同じなのね…」
 微妙なセンスと計画性が似通った二人を思い、無口になるCP9…もとい、SUPAYA一行。ちなみにエニエス・ロビー組はエプロン着用などの義務がない為、あまりSUPAYAマークには馴染みがない。羨ましい限りだ。

 詳細はわからないまでも、なんとなく察する事が出来る『バロックオフ』に思いを馳せ、なおかつ自分の身の振り方なんかも考えたりしている間に、船はユバ近くの港に着いていた。ここからは歩いて砂漠を行き、海底トンネルの駅を目指すことになる。さすがに砂漠、砂の海…暑いし歩きにくい事この上なしだ。

 「あっついぃ〜…なんだ、この暑さはぁ!!」
 身包み剥がされたりした割には元気にスパンダムは、肌が焼けるのも構わずに軽装だ。他のメンバーはきちんと砂漠対策にフードを被っている。
「お前ら、よくそんな長いだらだらしたの着てられるな!」
「…チーフも着た方がいいですよ…。火傷になります」
「そりゃ大げさだろ! つーか、暑くてそんなモン着られねーよ!」
「…却って、これの方が涼しいのですが」
「これ歩くのかよ、トンネル見えないぞ、ルッチ!」
 無駄な元気だけはあるスパンダムにうんざりするルッチ。そこに1頭のラクダが現れた。見ると、首には札を下げている。トンネルへの案内役をしているようだ。2人までなら乗る事も可能とあるし、まさに渡りに舟だ。
「チーフ、あのラクダに乗ってはいかがでしょうか」
「お? そうだな、ラクダなだけに楽そうだ!」
「…今の笑うとこか?」
「そうじゃろのう…」
 ジャブラとカクは遠い目をして、ラクダによじのぼるスパンダムを見ていた。ラクダは、よじのぼって手綱を掴んだスパンダムの頭にがぶりと噛み付いた。
「あだだだだ!」
 驚いたスパンダムはそのまま砂の海へダイブ。
「いてー! あちー!」
 焼けた砂が顔や腕について大騒ぎだ。仕方なく、ルッチはカリファにタオルを出すよう命じて、それをスパンダムに巻きつけた。
「…おい、このラクダ…女以外は乗せないらしいぞ」
 注意書きに気付いたのはジャブラだった。わらわらと野郎連中でラクダを囲むと、ラクダはあからさまに嫌そうな顔をする。そして視線の先にカリファを捕らえるなり、目をハートにした。
「カリファさん、せっかくだし、乗るっしょ!」
「ついでに荷物を積めるといいが」
「わかったわ」
 カリファはみんなの荷物を堆く積み上げ、ラクダの背中に乗せた。そしてひらりと飛び乗ると、優しい手付きでラクダの頭を撫でた。
「重いでしょうけれど…お願いするわ」
「ヴォ!」
 ラクダは興奮したように息を荒げて、荷物の重たさも気付かずに歩き出した。荷物がなくなったので他のメンバーも歩きやすい。だがラクダで楽が出来なかったスパンダムはだらだらだ。
「よかったのう、カリファ。しかしセクハラじゃなんだと言う割に、特別扱いじゃのう」
 カクがラクダに添って歩いてカリファを見上げると、カリファは笑った。
「特権を利用しない手はないもの」
「あ〜俺もファンクフリードがいたらな〜砂漠歩くなんて聞いてねぇしよ〜、だったら最初っから温泉島に行けばよかったんだよ…だろぉ?」
 誰に話しているのか、スパンダムは誰もいないところを見ながら喋っている。歩みも随分不安定だ。
「チーフ、しっかりっしょ!」
「チャパパー、チーフは歩くの苦手なんだー」
「うるせぇな! 俺はお前…作戦考えたりすんのが仕事なんだよ!」
「こっちっしょ、チーフ。誰と喋ってるんだ、シャウ!」
「チーフの体力のなさは存じておりますので」
「おおお…カリファ…! お前、ちょっとは歯に衣着せたらどうだ…」
「セクハラです」
「受け答えしたから?!」
 驚愕のあまりに、そして振り絞った大声で体力を使い果たしたのか、スパンダムはばたんと砂の中に倒れこむ。
「チーフ…歩いて下さい」
「いやだ! もーいやだ!! おいルッチ! お前、豹になって俺を運べ! ブルーノ! ドアしろ、ドア! も〜こんなところ、歩いてられっか!」
 わがままスパンダム本領発揮。砂を蹴散らしながら暴れる体力があるのなら素直に歩いてくれればいいものを…。だがそううまくいかないのがスパンダムだ。しかし暑いのはみんな同じ。ルッチとて、この暑い中で毛皮にはなりたくない。
「…仕方ありませんね。…手を貸せ、ジャブラ」
「ああ? …しょうがねぇな」
 二人はスパンダムに近付くと、彼の足首を掴んだ。右はルッチで左はジャブラだ。そして、そのままスパンダムを引きずって歩き出した。
「いててて! あちぃ! ルッチ! ジャブラ! お前ら、何やって…あぢぃ!!」
「申し訳ねぇ、チーフ! ルッチ、ジャブラ! なんて事をぉ…! ここはぁ腹を切って詫びを…! 切腹! 鉄塊! 無念、死ねぬぅ〜」
 ルッチとジャブラの暴走を止めて入り、更に暴走するのはクマドリだ。ルッチとジャブラはスパンダムを離し、クマドリに任せる事にした。クマドリはスパンダムを背中に背負ってやっている。だが背負われているスパンダムは、クマドリのふさふさヘアが絡み付いて気持ち悪くて仕方ないようで、不満たらたら。その度にクマドリは切腹しようとするので、なかなか前に進まない。本当にスパンダムには困ったものだ。

 ようやくトンネルの入り口にたどり着くと、今度は大きなカニの海底バスに乗る。へばっていたスパンダムもこれにはおおはしゃぎ。ルッチ達ももうじき温泉かと思うとほっとする。
「アラバスタの繁栄はすごいわね」
「本当じゃな、おまけに温泉行きのトンネルもあるんじゃ、ますます発展していくんじゃろな」
「…そこに根付いているクロコダイル…侮れないな」
「ブルーノ、もう一度、あのビラを見せてみろ」
「ああ…」
 何度見ても怪しいビラだ。クロコダイルには有り余る財がある。その金で起業する事は不自然ではないが、彼は海賊あがりの王下七武海。事業家ではない。ああいう連中の企みというのはロクなものじゃないのが常だ。
「アラバスタにまで足を伸ばした価値はあった…。この件についてはウォーターセブンに戻った後、継続して調査する。…カリファ」
「政府に報告しておきます」
「シャウ! 何の話してるんですか? カリファさん」
 仕事熱心なウォーターセブン組にいながら、蚊帳の外のネロは、カリファだけは優しく接してくれる事に気付き、すっかり彼女に懐いている。
「…」
 無言の圧力で、話さなくていい、とルッチの指示があり、カリファはネロに少し笑って見せた。
「何でもないわ…。もうすぐ出口みたいね」
「俺、温泉初めてっしょ!」
「なんじゃ、風呂も入らんのか、四式イタチ」
「ち、違うっしょ!」
「チャパパー、聞いてしまったー。ネロは風呂に入らないそうだー」
「フクロウさん! 誤解っしょー!」
 地味に悲惨な噂を流されて慌てているネロを見て、仕掛け人のカクと、傍観者のルッチはにやりと黒い笑みを浮かべるのだった。全ての業はスパンダムに起源がある。巡る巡る悪循環。断ち切る術がないのがまた悲しい。

 そんなこんなで、ようやくついたのが本日の最終目的地にして宿泊場所。温泉島のうっかり湯である。森の番長、土の番長、空の番長が力を合わせた集大成として生まれたのがこのうっかり湯。広大な敷地を持ち、湯の性質もかなりのもの。アトラクション性のある造りで人気も高く、アラバスタからの直通海底トンネルだけでなく、遠くの島からも観光客が押し寄せる、今、一番熱いスポットだ。宿泊施設としても人気が高いが、部屋数が少ない為に予約を取るのが難しいのだ。そこはスパンダムの特権でもってごり押ししたのだが、それでも人数分は取れなかったので相部屋だ。
「よーし、入るぞ温泉! 俺が一番だぁ!」
 そう叫んで走っていったのはスパンダム。復活した僅かな体力を一気に使ってしまうバカっぷりにため息をつきながら、ルッチ達も後に続いた。
 まず、最初にあるのが番台だ。ここで入館料(入湯料込)を支払い、男女別の建物に入る事になっている。番台にたどり着いたスパンダムは番頭さんに向かって何か言い出した。
「俺は政府の役人なんだ! 特別にもてなせよ、ワハハ! 混浴にしろ、混浴に!」
 実際、混浴になったらカリファも一緒に入る事になるわけで、他のメンバー的には目のやり場に困るし、それ以上に混浴を言い出したスパンダムが温泉に沈むのはちょっと困る。ルッチ達がスパンダムを止めようとした時だ。なぜかスパンダムは勝手に番台から飛び退き、勢い余って地面に頭を打ち付けた。
「ぎゃー! 白目!!」
 何の事かわからず、とりあえず沈黙している番頭さんを見てすべてわかった。そこにいた番頭さんは、クモのような髪型をしており、なぜか白目を向いて唇を噛み締め、腕を組みたいのに出来ないのか、すかっすかっとやっていたのだ。…確かにこれは怖い。チャパパといい勝負だ。
「おい、おい、ゲダツ。またうっかりしてやがるな」
 ゲダツを後ろから小突いたのは、温泉を掘り続けていたゴローだ。注意されて気付いたのか、ゲダツはかぱっと口を開けて目を開いた。
「うっかり!」
「お客さん、すまないな、こいつはうっかりが過ぎて仕方ねぇ。まぁ気のいい奴なんだ、気にしねぇでやってくれや」
 ゴローがそう言うと、スパンダムは声を上げて笑った。
「ワハハ! うっかり?! なんだ、お前、うっかりしててそんな風になるのか?! ワハハハ! バカだな!」
 自分のドジっぷり&運のなさを忘れてスパンダムは大笑いだ。さすがにゲダツもここまでバカにされてはうっかりもしてられない。
「ジェットパンチ!」
「へぶぅっ!!」
「…飛んでいったのう」
「…そうだな」
「…カリファ」
「はい。…予約していたSUPAYAです…。9名…いえ、今1人いなくなったので8名です」
「いらっしゃい! ここは沼の試練…」
「違うだろ、ゲダツ。ああ、ウォーターセブンからのお客さんか、話は聞いてるよ。部屋も用意してあるがまずはひとっ風呂浴びてきたらどうだ? その間…こいつがぶっとばしちまったあの人はこっちで面倒見とくからよ」
「それは助かります…」
「…鬼じゃな、カリファ」
「…俺はチーフの容体確認を命じたつもりだったんだが」
「意思疎通が出来ておらんのう。しかし…、嘘をつくと鼻が伸びるぞ? わしはそんなルッチは嫌じゃ。キャラが被るわい」
「…鬼はお前だ、カク」
 
 とりあえず、ぶっとばされたスパンダムをうっかりゲダツとゴローに任せてルッチ達は温泉に入る事にした。建物の造りは海軍本部のような雰囲気で、趣がある。番台に向かって右側が女湯で、左が男湯になっている。暖簾をくぐると広い廊下があり、灯篭と池のある中庭を眺めながら進むと脱衣所にたどり着く。
「ほぉ、見事なもんじゃな」
「渋いっしょ、温泉! シャウ!」
「チーフもいない事だ…ゆっくり羽根を伸ばすとしよう…」
 服の脱ぎ方一つでもそれぞれ性格が出るもので、ネロはぱっぱと脱ぎ捨てて、近くにいたルッチに鬼の形相をさせている。ルッチの脱衣籠にはルッチを折りたたんだような状態で…最後に帽子が乗っている。カクは湯上りに着る順番に服をたたんでいるようだ。ジャブラは普段から前を開けて腹筋見せている格好の癖に、服を脱ぐのは遅いようだ。
「何を恥らっている、ジャブラ。…気持ち悪い」
「恥らってねぇよ、うるせぇ、ルッチ!」
 そう叫んで振り返ったジャブラの黒髪がふわっと広がる。まるで乙女のように…。



 ジャブラは長いおさげ髪を解いていたのだ。軽くウェーブのかかった髪に、なんだか変な気持ちになってルッチ達はジャブラを残して先に温泉に入った。

 掘り当てた天然温泉の良さをそのまま生かした造りの温泉は、間欠泉のように吹き上がる湯もあるし、休憩所もあるし、至れり尽せりだ。
「大したモンじゃな、ああ、四式イタチはかけ湯もせんのか、汚いのう」
「かけ湯って何っしょ、シャウ!」
「基本のなってねぇ奴はこれだからな…」
「みんなの湯じゃから、まずは体を流してから浸かるのが礼儀なんじゃよ。ほれ、これじゃ」
 そう言ってカクはネロに手桶を使って湯をかけてやった。
「シャウ!! つめてーっしょ!!」
「わはは、すまんすまん、水じゃったわい」
「ナイスだ、カク」
「心臓止まるっしょー!」
「止まってもこちらは一向に構わない、四式坊やが」
 すでにかけ湯をすませて、悠々と温泉に使ってルッチとカクがにやりと笑う。とことんまでネロをいたぶる二人…腹黒ーズは旅先でも健在だ。
 フクロウはちょっと流れのある湯に入って、たまに浮いて流されたりしている。クマドリはうたせ湯で修行を始めた。各々、温泉の楽しみ方はあるものだ。ようやく髪を解き終えたジャブラはその長い髪をずるずるしながら湯に浸かった。
「汚いな、髪を結え、ジャブラ」
「ああ?」
「そうじゃよ、湯に髪が浸からんようにするのも礼儀じゃ。ほれ、クマドリを見てみぃ」
 言われて、うたせ湯修行中のクマドリに目をやると、確かに髪を結わえている。ジャブラは舌打ちをした。
「わかったよ…。くそ、濡れたから上手くまとまらねぇ」
 長くて濡れた髪は重く、ジャブラは悪戦苦闘している。そこに復活したらしいスパンダムが豪快に現れた。
「ワハハ! 楽しんでるか?!」
「…お加減はよろしいので、チーフ」
「おう、ルッチ! 心配かけたな! 聞いてくれよ、気がついたら…なんだっけ、さっきの…番頭のなんだか言う奴の膝枕で寝ててよ! 白目向いてやがって…怖ぇのなんのって!」
 かけ湯もそこそこに温泉に入ってくるスパンダムにルッチ達はため息をついた。せっかく静かだったのに…彼らの癒しタイムはここで終了のようだ。

 「ぬおっ?! ああ、なんだ、ジャブラか!」
 スパンダムは濡れた髪を掻き揚げていたジャブラを見て驚いたように飛び退いた。
「…なんすか、誰だと思ったんです」
「いやお前…ロン毛だしよ、なんで女がいるのかと思ったぞ、ワハハ!」
「どちらかというと、怨念のこもった幽霊のようだがな」
「そうじゃのう、井戸が似合いそうじゃ」
「てめぇらな…」
「チャパパー、ジャブラは髪の手入れに熱心なんだーチャパパ」
「てめぇ、フクロウ! 何喋ってんだよ! この、沈め!」
 漂いながら喋っていったフクロウを追いかけて、ジャブラは本当にフクロウを湯の中に沈めていた。チャパパバチャバチャブクブクと大騒ぎだ。
「…そういえば、長髪が多いようじゃな」
「ああ、クマドリも髪長いよな!」
「面目ねぇ、おいらぁ、手入れには疎いもんでぇ…!」
「切腹はすんなよ、クマドリ!」
 フクロウに制裁をくわえたジャブラが戻ってきてそう言った。クマドリは大人しく修行…いや、うたせ湯を続けている。
「ルッチ、ルッチ! お前も髪、あれだろ、長いし、くるくるってなってるよな! 天然パーか!」
「…天然パーマか、天パか、考えて喋って下さい」
「で、どうなんだ?」
「…元々癖はありましたよ…。これはあててますが」
「そうか! 俺も天然パー気味でよ! 大変なんだよなー、朝とか! こう…ごわーっ!!ってな。な!」
「…髪質の問題じゃないですか、それほどでもありませんから」
「あれとかやってんだぜ? パックとか…トリートメントとか! それなのに、痛んでるだのなんだの言われてよぉ。若い頃にバリバリに色抜いたりしたからなー」
「ああ、それが原因かも知れませんね」
「禿げんでよかったのう。チーフ」
「カリファも髪綺麗だよな」
 隙あらばカリファにおさげ髪をさせたがる、おさげ髪マニアのジャブラも会話に加わった。男だらけの裸でお洒落髪談義…ちょっと異様な光景だ。ちなみに、特異な髪型のネロとブルーノは一緒に洗い場で髪を洗っていた。フクロウは相変わらず漂っている。



「カリファは金髪だから、また髪質も違うんだろう」
「結構さらっとして見えるよな」
「カリファの使っとるシャンプーがええんじゃよ、わしは髪質は固いんじゃが、あれを使ってちょっとはマシになったわい」
「カク、カリファと同じの使ってんのか?」
「借りたんじゃよ、わしはカリファの隣の部屋に住んでるんじゃ。」
「そうなのか?! お前…ダメだぞ、うちは社内恋愛禁止だからな!」
 妙なところで上司意識のあるスパンダム。だが、アンモラルなところも持ち合わせているのがこの人だ。
「あ〜、カリファの奴は女湯なのか? 一人じゃ寂しいんじゃねぇかな」
「さぁ…一人の方がゆっくり出来るのでは」
「いーや、きっと寂しいと思うぞ、俺は! よし、おい、ブルーノ! ブルーノ!」
「…なんです、チーフ…」
 まだ頭を洗っていたブルーノは嫌そうにスパンダムを見た。スパンダムは妙にハイテンションだ。嫌な予感ビンビンである。
「隣のよぉ、カリファが寂しいだろうから、覗いてみようと思ってな! お前、ドアドアやれ!」
「…犯罪ですよ、チーフ…」
「なんだよ、冷たいな! じゃあいい、壁をよじのぼってやる!」
「チーフ、チーフ! それじゃ犯罪っしょ、シャウ!」
「うるせぇ! やるったらやるんだ! だいたい、温泉なのに混浴じゃないなんてどうかしてる! そうだろ、お前ら?!」
 誰か賛同するとでも思っているのだろうか。勿論、賛同する者など皆無だ。しかしそれで思い直すスパンダムではない。本当に女湯のある方の壁によじ登り始めたのだ。カリファだけなら恐らく、スパンダムを撃破する程度で済むだろうが、他に客がいたら組織の名前に傷がつく。
「止めるぞ、カク、ジャブラ」
「命令すんな! いくぞ、フクロウ、クマドリ!」
「…俺達も行こう」
「シャウ! チーフ、やめるっしょ!」
 CP9総がかりでスパンダムに群がり、なんとか思いとどまらせようとするのだが、スパンダムはまるで壁にはりつく生物として生まれ変わったかのように剥がれない。
「チーフ! これでは本当に犯罪者になってしまいます!」
「いいや、これは温泉の醍醐味だぞ!」
「どうしてもご理解頂けないのならば、指銃も辞さない構えです!」
「ワハハ! お前達に俺が攻撃出来るものか!」
 現実を知らないというのは恐ろしい…。みんなそう思って一瞬、手を緩めてしまった。その隙にスパンダムは壁に懸垂状態で女湯に顔出した。ああ、全て終わりだ!

 「あぎゃー!!」

 珍妙な声と共に、スパンダムの体は宙を舞い、男湯の温泉にダイブした。
「…な…、カリファか?」
「何事です、男湯の方が随分と賑やかね」
 女湯の方からカリファの声が聞こえる。一同は息を飲み、代表してルッチが声をかけた。
「…今のは、お前か? カリファ」
「いいえ、クンフージュゴンよ、ルッチ」
「ジュゴン?」
「ええ、こちらにはたくさんいるの…クンフージュゴン。ねぇ、ハットリ」
「クルッポー」
 いつの間にか、ハットリは騒がしい男湯を抜け出して堂々と女湯に潜入して、文字通り羽根を伸ばしていたようだ。とりあえず、女性客は女性客でもクンフージュゴンだったのなら大した問題にもならないだろう。なんとか組織の面子は保たれたようだ。

 クンフージュゴンの鉄拳制裁を受けたスパンダムをひとまず、休憩所に運んで寝かせ、それからまたルッチ達はゆっくりと温泉を楽しんだ。どうせ復活力だけはあるスパンダムの事、この後も大騒ぎするのは目に見ているのだから…。

つづく


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