聖夜

 慰安旅行から数ヶ月…。SUPAYAは相変わらずウォーターセブンで賑やかに営業していた。その異色の黄色っぷりも健在だ。

 水の都の冬は寒いので、最近は店内をファンクフリードが歩き回っている。
「おはよう」
 寒さにうんざりしたように顔を顰めてルッチがやってきた。最近はシフト制も定着して、うまく交代で休みを取っていたのだが、ここ数日、本業の方で動きがあったのでまた全員で出勤する体制に戻っていた。本業というのは勿論、CP9の方である。
「おはよう、ルッチ」
 準備をしていたカリファが言うと、ルッチは肩にかけていたゴージャスなコートを脱いでため息をついた。
「お前は寒くないのか、カリファ」
 相変わらずハレンチな格好のカリファにルッチは言った。カリファの私服も結構ハレンチなことを知っているので、それを踏まえての発言だ。
「寒くないわけではないけれど…、それよりあなたのその素敵なコート…少し問題じゃないかしら」
「問題ない」
「ハットリとお揃いとは豪勢じゃのう。リーダーともなると、わしらとはここの給料も違うんじゃろうか」
 そう言ってカクがハットリの肩からミニゴージャスコートを外した。ルッチは無言でそれを奪い返した。かなりお気に入りらしい。
「仕立てたんですって?」
「当たり前だ」
「たいした趣味じゃ」
「それで町を闊歩するのは…少し、問題ね」
「…そうか? 誰も何も言わんが」
 どこの偉いさんかと思って誰も何も言えないのだろう…というツッコミは心に秘めて、カクとカリファは顔を見合わせ、肩を竦めた。苦悩の人ルッチも、もしかしたらスパンダムに毒されているのかも知れない…そう考えると怖い。

 「…ところで、例の件はどうなった」
 ルッチは黄色いエプロンをつけてカリファに尋ねた。ここ数日慌しく調査報告が行われている例の件とは、この町で調査していた古代兵器プルトンの設計図に関することである。
「ええ…、やはりアイスバーグさんに間違いないわ」
「トムの弟子が、今や市長とはのう…」
「問題はアイスバーグにどう近付くかだな」
「そういうのはカリファが得意じゃろう、女じゃしな」
「セクハラよ、カク」
「冗談じゃよ」
「…冗談で済まなくなった場合、どうする、カリファ」
「…やれと言われれば何でもするわ、諜報部員よ」
「物騒な話をしているな」
 在庫を確認していたブルーノが奥から出てきて呟いた。その後ろには手伝いをしていたネロがいる。
「シャウ! その市長さんと仲良くなるために、贈り物とかパーティーとかしたらいいっしょ!」
「黙れ、口を開くな四式坊やが」
「そうじゃ、でしゃばるな、四式イタチ」
「シャウ!」
「やめなさい、あなたたち。どうしてそんなに苛めるの」
 カリファに庇われてネロは幸せそうだ。それが余計に腹黒ーズを暗黒面へと誘っている。ネロはあの慰安旅行でカリファと相部屋になり、その時見たという艶かしい夢を殊更語って、腹黒ーズの怒りを買っているのだ。数ヶ月前の話なのに、何ともしつこい。さらにルッチは、ネロが階下に越してきたので余計に苛立っているようだ。

 「お、揃ってるな、おはよう!」
 重役出勤してきたのはスパンダムだ。本業は忙しくなったというのにスパンダムはSUPAYAの業務に手抜きは許さんと暴れて、ルッチ達を困らせている。
「おはようございます、チーフ」
「あー、あのな! やっぱ俺はアレか、こう…人の上に立つ才があるってのかな! 生まれながらの司令長官とでもいうか!」
 突然、自分に酔いまくって熱弁をふるうスパンダムにルッチ達はきょとんとしている。まぁ慣れたものだ。
「…何の話です、チーフ」
「アイスバーグに近付くいい方法を思いついたんだ、ワハハ! 聞きたいか、ええ? 聞きたいだろ?」
 にやにやと笑って得意げなスパンダム。みんなうんざりした顔で見ているが、ネロだけは顔を輝かせている。
「聞きたいっしょ、シャウ!」
「よーし、聞けぃ! もうすぐクリスマスだ…、SUPAYAでクリスマスパーティーをするぞ! そこにアイスバーグを招待するんだ! ワハハ、どうだ?! プレゼントと接待で心を許さないヤツはいねぇからな!」
 それはあんたを基準に考えすぎだろう…と誰もが思ったのだが、事実、スパンダムはそういう手段で出世したらしいのであながち間違いとも言い切れない。仕えている身ではあるものの、世界政府を案じてしまうCP9だった。
「さすがっしょ、チーフ! ほら、俺も同じこと言ったっしょ!」
「さぁ、記憶にないな」
「思い違いじゃろ、図々しいのう、四式イタチ」
「シャウ!」
「ああうるせぇうるせぇ! とにかくだ! 盛大なクリスマスパーティーにするぞ! いいな!」
「了解…」
 そうとしか答えられず、ルッチ達はがくっと項垂れた。スパンダムは得意げに笑いながら、ファンクフリードにもすもすされていた。

 「…パーティーをするとなると、準備が必要だな」
 ルッチは眉間に深い皺を刻んでため息をついた。肩でハットリもお手上げのポーズを取る。店はすでに開いているが、元気なネロに店頭を任せてルッチ達は作戦会議の真っ最中だ。
「市長を招待するとなるとそれなりの規模のパーティーが必要だ…」
「そうじゃなぁ、いっそのこと、パウリー達を呼べばどうじゃ? ガレーラカンパニーとしての方が呼びやすいじゃろ」
「招待状、会場の手配、装飾…あとは料理と飲み物が必要よ…経費で落とせるのかしら」
「料理や飲み物はどうにか出来るか?」
 ルッチがブルーノを見ると、ブルーノは首を横に振った。
「酒くらいは用意出来るが…そんな規模で料理は無理だ」
「簡単な立食だとしても…ガレーラカンパニーは大所帯よ、それにカモフラージュするなら近隣の住民を多く呼ぶ方がいいんじゃないかしら」
「そんなでかい会場を押さえるのかのう? 今から?」
「…会場はここしかないだろう…。それならテーブルと装飾だけでどうにかなる」
「料理はどうするんじゃ」
「…仕方ない、今から予約出来るデリバリーを探して…」
「クリスマスじゃよ? どこも予約でいっぱいじゃろう」
 あまりにもぎりぎりすぎて、これから会場を押さえることもデリバリーの料理を頼むことも困難だ。ルッチ達は深いため息をついた。
「…ルッチ」
「なんだ、カリファ」
「増員は頼めないのかしら」
「…ジャブラ達か? 無理だな…任務が続いているそうだ」
「そう…」
「こちらも人手は欲しい。アイスバーグの周辺調査、例のバロックオフの動向も気になる…。パーティーの準備はイベント会社にでも頼むか」
「そんなに経費はかけれんじゃろ。バロックオフが出店してきた時の対抗手段に蓄えとるんじゃし」
 カクの言う通り、バロックオフがウォーターセブンに万が一出店してきた時のために、CP9に下りた予算やSUPAYAの利益を彼らはスパンダムに気付かれないよう蓄えていた。スパンダムはどこかボンボン気質で、金は湯水の如く使ってしまうのであえて隠しているのだ。
「私に任せてもらえないかしら」
「…お前に?」
「ええ、その代わり、私のSUPAYAのシフトを減らしてくれると助かるわ」
「…いいだろう、チーフに掛け合ってみる」
「なんじゃ、一人で準備する気かのう、カリファ」
「大丈夫よ、経理も私がしているんですもの。無駄なことはしないわ。それに、私の役目は情報の分析管理だし、あなた達ほど現場に出ることはないわ。パーティーの準備と両立出来ると思うの」
「しかし…大変だぞ、俺も手伝おうか」
 ブルーノが心配そうに呟くと、カリファは笑った。
「あなたはお酒の準備だけお願い、ブルーノ。あとは心配しないで」
 カリファ一人に任せるのはあまり気が進まないが、あれこれ悩んでも仕方がない。さっそくルッチはスパンダムにカリファのシフトの交渉をしに行った。最初はカリファがいないと華がないとゴネたものの、パーティーの準備だと言うと渋々承諾してくれた。言い出したのが自分だから認めざるを得なかったのだろう。

 こうして、人騒がせなスパンダム提案のアイスバーグ氏とお近づきになろうクリスマスパーティー大作戦(命名スパンダム)がスタートした。カリファのシフトはかなり削られて、彼女はほとんどSUPAYAに顔を出さなくなっていた。今までカリファの担当だった開店前と閉店後の掃除、事務全般なども残ったメンバーで分担しなくてはならない。掃除はカリファは自発的にやっていたのだが、やっぱり店は綺麗な状態がいい。カリファがいなくなった途端に、男所帯っぽくなるのもなんだか嫌だ。

 「よぉ、買取頼むぜ」
 そう言ってやってきたのはパウリーだ。
「また買取か、ポッポー。これはお前のCDか? どこかから盗んできたんじゃないだろうな」
「俺んだよ! 中には貰ったヤツもあるけどな」
「貰ったCDを売るな、クルッポー」
「いーだろ、別に! 高く買い取ってくれよ、ルッチ!」
 査定を頼んで、パウリーは店内をうろうろしていた。パウリーは買取メインで、その上、試聴魔なのだ。だが彼が気に入ったCDは後々、ヒットするので侮れない。
「…そういや最近、カリファ、店にいねぇな」
 きょろきょろと見渡してパウリーが言う。ルッチは査定で忙しくしていたので、品出しをしていたカクが代わりに答えた。
「カリファは野暮用でのう」
「あ、でもこの間、造船所にきたぞ、カリファ」
「カリファがかのう?」
「なんだったけな、そうそう、デカイテーブルが欲しいとかなんとか…。うちで余ってる木材あったし、まぁ見習いの練習にもなるから作ってやるって約束したんだ」
「なるほどのう、さすがカリファじゃ」
 カクは感心して笑った。経費削減を掲げてパーティーの仕切りを一挙に請け負っただけのことはある。レンタルで間に合わそうと思っていたが、余った木材でテーブルを作らせていたとは。
「何に使うんだよ、かなりデカイぞ」
「SUPAYAでクリスマスパーティーをすることになってのう」
「ああ、それでか! アイスバーグさんに話があるって言ってたのは! アイスバーグさんを招待するんだな」
「なんじゃ、カリファは段取りがいいのう」
「それって俺も行っていいか? カク〜!」
「気持ち悪いのう…。構わんじゃろ、どうせクリスマスの予定もないんじゃろう、パウリーは」
「バ、バカ言うなよ! クリスマスヤガラ大レースが…!」
「寂しい男だ、クルッポー」
「お前に言われたくねぇよ、ルッチ!」
「こちら買取できません、おとといきやがれ、ポッポー!」
「うわああ、ルッチ、許してくれぇ!」

 それから更に日が経ち、SUPAYAの奥でルッチはイライラしながら電伝虫を鳴らしていた。相手はカリファである。長い呼び出し音の後、ようやく繋がってルッチはため息をついた。
「カリファか、連絡はいつでも着くようにしておけ、バカヤロウ」
「…わしじゃよ、ルッチ」
「カク?」
「やかましいんじゃよ…隣の部屋で延々と電伝虫が鳴っておっては。カリファはこのところ、部屋には戻っておらんよ」
「…子電伝虫は持っていないのか」
「持っておるが…繋がらん。どうやらこの島を離れておるようじゃ」
「…そうか、パーティーの件で話がしたかったんだが」
「心配じゃのう、一人で無理しておるんじゃろうか…」
「…。わかった、今日お前はSUPAYAは休みだな、カク」
「ブルーノと一緒にまた調査じゃ。ルッチはネロと仲良くのう。カリファが戻ってきても、店が潰れておったら話にならんわい」
「…一言余計だ、バカヤロウ」
 ルッチは乱暴に電伝虫の受話器を置いた。ここしばらくカリファからの連絡は途絶えていた。ルッチの目の前には、パーティーの段取り表と招待客のリストがあった。恐らく、開店前にカリファが置いていったのだろう。
「なー、ルッチ、やっぱカリファがいねぇと寂しいな」
 スパンダムが店内を歩き回るファンクフリードに餌をやりながら言った。
「カリファさんは紅一点! やっぱいないと寂しいっしょ!」
 何かと庇ってくれるカリファがいないのでネロも腹黒ーズにこき使われて少々うんざりしているようだ。
「カリファはどこ行ってるんだ? この間、造船所にいたって話だったけど、今はこの島にいねぇのか?」
「そのようです…。最後の目撃情報は…ブルーステーションです」
「じゃあ買出しだな、美食の町、プッチだろ」
「サン・ファルドで飾り付けを買ってるのかも知れないっしょ、シャウ!」
「…それにしても少々、時間がかかりすぎでは」
「心配だなぁ、誰かカリファ探しに行かせるか?」
「それでは本末転倒です…。こうして段取り表を置いていっているところを見ると…、近々戻ってくるでしょう。それより品出しをお願いします、チーフ。…一体、品出しに何時間かける気だ、四式坊やが…!」
「ルッチは冷てぇなー、なー、ネロ!」
「そうっしょ! ねー、チーフ!」
 ノリが同じ二人に睨みをきかせて、ルッチはハットリと共にレジに入った。

 「あ、そうだ、クリスマスパーティーって言うとやっぱコスチュームだよな!」
 余計なことに気が付くスパンダムはにやっと笑って何やらカタログを取り出した。
「サンタの衣装と帽子は発注してあるんだけどな、あと何かねぇかな」
「…ネロはトナカイが似合いかと」
「シャウ?!」
「おお、それいいな! ネロはトナカイな!」
「みんなサンタで俺だけトナカイ?!」
「馬車馬のように働くんだな」
「あとはカリファの衣装だよなーやっぱミニスカサンタか?」
「カリファさんの希望がわからねぇっしょ…」
「だからどれがいいか投票しようと思ってよぉ!カクとブルーノにはもう聞いてあるんだ! ネロはどれがいいと思う? カリファの好みよくわからねぇんだよなー」
「シャウ、きっとどれも似合うっしょ! あ、これがいいっしょ!」
「サンタドレスタイプかー。まぁスカート長ぇけど、スリット入ってるしいいか。なぁ、ルッチはどう思う?」
 振って欲しくない話題ナンバー1だったが、やはりこのメンバーでは振られても仕方ない。ルッチは白目剥きそうになりながら、カタログを覗き込んだ。そこにはミニスカサンタやらサンタドレスが載っている。正直、どれがいいかなんてルッチには見当もつかなかったので、もう面倒になって…。
「チーフがいいと思うもので…」
「俺と同じのに一票か! ワハハ、そうかそうか!」
 妙に浮かれているスパンダム。きっとミニスカサンタだろうなと思いながら、ルッチはため息をついた。カリファがいなくても、セクハラは健在である。

 寒さが一段と厳しくなる。クリスマスパーティーの当日。ついにカリファと連絡を取る事は出来なかった。だがすでに招待状は届けられているし、ブルーノの酒場にはカリファから酒を注文する詳細なメモが届けられていた。この日は、みんな不安で、別に示し合わせたわけでもないのにいつもよりかなり早くに出勤してきていた。
「…早いな」
 ゴージャスコートを羽織ってルッチが言うと、ばったり出くわしたカク、ブルーノ、ネロは笑った。
「なんじゃ、やっぱり心配しとったのか、ルッチ」
「表情に出ないからな、ルッチは…」
「実はルッチさん、シャイっしょ! シャウ!」
「…殺すぞ」
 寒さもあって不機嫌なルッチは思い切り指銃の構えでネロを脅した。ネロは慌てて剃でSUPAYAの中に逃げ込んだ。

 店内はすでに明かりが灯されていた。そして、部屋の中央には大きなテーブルがあり、壁や天井にはクリスマスらしい飾り付けがされている。ルッチ達は呆然と立ち尽くした。昨夜までは確かにCD屋SUPAYAだったのに、今日は棚も移動されて立派なクリスマスパーティーの会場に変身しているのだ。

 「あら、ずいぶん早いのね、驚いたわ」
 そして、明るい光の中にカリファがいた。
「カリファ! わしは心配で夜も眠れんかったんじゃよ」
「ごめんなさい、カク」
「大変だったろう、カリファ」
「お酒の準備をしてくれたのね、ブルーノ。ありがとう」
「カリファさん、おかえりなさいっしょ!」
「ただいま、ネロ。ルッチ達に苛められなかったかしら」
 いつもの活気が戻ってルッチはほっと胸を撫で下ろし、コートを脱いでエプロンをつけた。
「待ってルッチ、みんなもよ、今日のコスチュームが届いているわ」
「…ああ、そうか、サンタがどうのこうのと言っていたな」
「お願い、コスチュームを持ってきてくれるかしら」
 カリファは店の奥に向かってそう声をかけた。誰かいるのだろうか。一同首を傾げる。

 そして、奥から箱を抱えて出てきたのは…。赤いサンタ帽子を被って、サンタの赤い上下を着た…エニエス・ロビー組だった。
「ジャブラさん達、サンタっしょ!!」
「似合わんのう、ジャブラ…。というか、それでも前を開けてネクタイをするのは何のこだわりなんじゃ」
「うるせー! てめぇらの分だ、とっとと着ろ!」
 ジャブラは顔を真っ赤にして箱を投げつけた。ネロは顔面で受けて倒れこんだが、みんな軽々と受け止めてサンタのコスチュームを取り出し、微妙な顔をした。

 それぞれ着替えてみると、大柄なブルーノは非常にサンタらしくて似合っている。フクロウやクマドリもなかなか様になっている。カクのサンタはちょっと可愛い感じ。ルッチのサンタは…サンタというより、夜中にこんなのが来たら逃げ出してしまいそうな感じに仕上がっていた。
「恐ろしいのう、ルッチのサンタは…。まだリアル牛の方がマシじゃよ。ハットリサンタはかわいいのう」
「ぎゃははは! 似合ねー!!」
「貴様も似合ってねぇぞ、ジャブラ」
「シャウ! 本当に俺だけトナカイっしょ!」
「似合うじゃないか、ネロ…」
「ブルーノと並ぶといい感じだー、チャパパー」
「おいらぁ…この帽子がぁ小さすぎて…、ここぁ腹ぁ切って…!」
「クリスマスに腹切るな、クマドリ! どうせ切れねぇんだからじっとしてろ!」
「楽しそうね」
 更衣室で着替えたカリファが出てきて、一同、彼女に視線を釘付けにして止まってしまった。

 フードのついたボレロタイプのサンタの上着を素肌に纏い、ヘソ出しで可愛いハートのポイントがついた真っ赤なミニスカートを穿いて、さらにガーターベルトで赤と白のクリスマスカラーのストライプストッキングだ。



 「…おかしいかしら?」
 カリファが不思議そうに肩を竦めた。ゆったりとしたボレロの袖がふわっと広がる。ボレロだけなので、かなり際どい格好になっている。普段のハレンチ具合を上回る勢いだ。
「…どうしたんじゃ、カリファ。チーフに脅されでもしたのかのう」
「いいえ、みんなが投票して私のコスチュームを選んでくれたって聞いたから…」
「わしはミニスカサンタに入れたんじゃが」
「俺は普通のサンタ服に」
「おいらはサンタワンピースにぃ」
「トナカイにいれたぞーチャパパー」
「俺はドレスタイプっしょ!」
「俺はメイド服に入れたぞ、どうせ給仕すんだろ」
「…マニアじゃな、ジャブラ。おさげと給仕のマニアじゃったか」
「違ぇよ!!」
「あら、じゃあこれはチーフの独断だったのかしら?」
「チーフだったらきっと、下着みたいな格好に入れてるっしょ!」
「下着よりはマシだと思ったわ…」
「ん? ああ、ここに集計した紙あるぞ」
 箱の中から集計用紙を見つけたジャブラは、汚いスパンダムの字に目をしばしばさせていた。
「カリファ! やっぱりそれ、チーフの…、お、もう一票…。…!」
「なんじゃジャブラ、早く言わんか」
 みんなわらわらと用紙を覗き込む。…ルッチ以外は。ルッチは全身、いや〜な汗をかいていた…。そう、あの時適当に、チーフと一緒でいいなんて言ってしまったのが間違いだった。綺麗に票が割れてしまったので、チーフが押していたこの衣装が、ルッチの票の後押しで堂々通ってしまったのだ。
「どうかしら、ルッチ。気に入ってもらえたかしら」
「バカヤロウ…! 俺はチーフに任せると言っただけで、お前にそれを着せろとは一言も言ってねぇ…!」
 珍しく顔色を変えて叫ぶルッチ。真っ赤なのか真っ青なのか、わからない感じで、ひどく痛々しい。いつものリーダーっぷりからは想像も出来ない姿だ。たった一度、選択を誤っただけでこのありさま…。スパンダムの呪いだろうか。
「あ、弁解はぁ男の名折れだぜぇぇ、ルッチィ」
「そうじゃよ、チーフのせいにしてはいかんのう」
「ルッチはそういう趣味があったのかーチャパパー」
「喋ってみろ、そのお喋りな口に重石をつけて沈めてやる…!」
「ムキになってやがる、ぎゃはは! バカめ!」

 大騒ぎしていると、そこに呑気にトナカイコスのファンクフリードを連れてサンタスパンダムがやってきた。
「みんな揃ってんな! お、カリファ! 似合ってるぞ!」
「セクハラです、チーフ」
「ワハハ! それ言われるのも久しぶりだとなんか嬉しいな!」
「セクハラです」
「おおう…、もうちょっとソフトにしてくれるか、カリファ…」
 調子に乗ってしまって、結構グサッと傷ついたスパンダム。とにかく、メンバーも全員揃ったことだし、クリスマスパーティーに向けてラストスパートだ。

 酒はブルーノが用意したものだったが、食事は全てカリファが作っていた。ウォーターセブンで借りている部屋のキッチンでは間に合わないので、一時、エニエス・ロビーに帰っていたのだという。当日になって任務を終えたジャブラ達が運搬を手伝ってくれたそうだ。飾りも全てカリファの手作りで、さらにその上、調査資料のまとめまでしていたのだから彼女は実に有能な諜報部員である。
「まさかここまで一人でするとはな…」
 ブルーノが感心して呟くと、全員が賛同した。今度ばかりはカリファに感謝してもしきれないほどだ。これで安心してクリスマスパーティーが出来る。

 パーティーの時間になると、ガレーラカンパニーの面々がぞろぞろとやってきた。やはりアイスバーグは出来た人で、手ぶらでくるような真似はせず、立派なクリスマスツリーとケーキを持ってきてくれた。
「ンマー、カリファ、お招きありがとう」
「ようこそ、アイスバーグさん。お待ちしていました。テーブルもそちらで作っていただいたのに、その上…、ありがとうございます」



「用意させてくれと言ったのはこっちだ。気にするな。…それにしてもカリファ、思い切った格好だな」
「ぶはっ! カリファてめぇ! ハレンチにもほどが…!! 足を隠せ、ヘソもだ!!」
 アイスバーグの後ろにいたパウリーの視界に、カリファのハレンチサンタが入ったらしく、パウリーはのたうちまわっている。可愛い人だ。
「失礼…。ルッチの趣味です」
 カリファの言葉は聞こえていたものの、ルッチは人生の選択について思い悩んで硬直していたのでまともに反論することも出来なかった。
「クリスマスじゃというのに暗いのう、ルッチは」
「しばらく放っておいてくれ…ポッポー…」

 賑やかな面々が集い、始まったSUPAYAクリスマスパーティ。アイスバーグからの贈り物であるクリスマスツリーとケーキも揃って、ムードが高まる。カリファが腕を揮って作った料理の数々は船大工達にも好評だ。招待客はどんどん増えて、SUPAYAの中は満員御礼。店内にはクリスマスソングも流れて和やかだ。
「カリファはだいぶアイスバーグと親しくなったみてぇだな!」
 遠巻きに様子を窺いながらスパンダムが言う。ルッチはやけ酒を呷りつつ、彼らに目をやった。
「確かにそうですね…。思い切ってカリファをアイスバーグの秘書にでもすればどうです、チーフ」
「秘書はだめだ! セクハラされたらどうすんだ、ルッチ!」
「…本当にカリファを可愛がってるつもりなんですね、チーフ」
「当たり前だ! つーか、つもりってなんだ、傷ついたぞ、俺は…」

 ズン♪ズン♪ズズズン♪ ズン♪ズン♪ズズズン♪…

 クリスマスソングの合間を縫うようにして聞こえてくる、別のリズム。それは外から聞こえてきていた。最初は、どこかで別のクリスマスパーティーをしているのだろうくらいにしか思っていなかったのだが、徐々に客達が騒ぎ出す。
「うわぁ、このリズムは!!」
「まさかそんなバカな!!」
「どこにいるんだ?!」
 口々に叫んで混乱するパーティー会場。異変に気付いたルッチ達は素早く表に飛び出して状況を確認した。

 「うわぁぁ、出たー!!」
「リズムに乗ってるー!!」

 そこにいたのは、ウォーターセブンの裏の顔、解体屋フランキー一家の頭、フランキーとその妹分達だ。
「おう、お兄ちゃん達・・・ずいぶんとスーパーな真似をしてくれたじゃない」
「何のことじゃ、フランキー」
「この俺様を除け者にしてクリスマスパーティーとはやってくれるじゃねぇか! もォ〜ダメだ、今週の俺はもう止められねぇ! スーパーなCDの揃ってるいい店だったのによぉ、ぶっ潰さなねぇことにはこの怒りはおさまらねぇ!」
 まるで、誕生日のお祝いに呼ばれなかった魔女のごとく、フランキーは怒り狂っていた。フランキーはSUPAYAの会員ではあるが、その横行ゆえにクリスマスパーティーには呼ばなかった。それに、彼らは一家でパーティーをするという情報を入手していたのだ。だが呼ばれなかった事実が気に入らなかったのだろう。ここで暴れ出すつもりらしいフランキーに、ルッチ達はため息をついた。
「止めても無駄のようじゃのう…」
「誰がやる?」
「俺がやってもいいぜ、面白ぇ」
 パーティーよりも戦闘が好きなジャブラがにやりと笑って歩み出る。だがそれを制止して飛び出していく影があった。
「シャウ! こいつは俺に任せて欲しいっしょ!」
「大丈夫かのう、四式イタチで」
「任せるっしょ、俺が本当は強いってところ見せてやるっしょ!」
「話はそこまでにしときな、お兄ちゃんたち。ストロングハンマー!」
「紙絵! 嵐脚」
「うおォォウ」
「シャウ」
「フレッシュファイア!!」
「剃!」
「あ? あいつなんで崖の方に」
「月歩!」
「何で空中で跳ね返ってきたんだ! 意味がわからん」
「嵐脚でなぜ切れねぇ…あいつの体、何やらおかしいっしょ!」
『てめぇ一体…何者なんだぁ!!』

 外で始まったネロ対フランキーの壮絶バトルに、町の人たちは呆然だ。ルッチ達は意外に強いネロにちょっと感心していた。
「やるじゃねぇか、ネロのヤツ! あいつの同期がCP7にいるんだが、そいつの話じゃ、ネロは正義の殺し屋とか呼ばれてたらしいぜ、ぎゃはは、似合わねぇー!」
 ジャブラの言葉に一同頷く。殺し屋と呼ばれるにはまだまだ荒削りだ。ここにいるCP9はいわば殺しのプロである。ネロが甘く見えるのも仕方がない。
「ンマー、騒がしいな、一体どうした」
 それまで店内にいたアイスバーグが外に出てきた。
「大したことじゃありません、アイスバーグさん。どうぞ中へ、ポッポー」
「フランキーじゃねぇか! おい、手ぇ貸そうか」
 アイスバーグの後を追って出てきたパウリーと、船大工達が言う。だが手を借りるまでもないだろう。
「大丈…」
「アルティメットハンマー!!」
 ドゴオオーン!!
 ルッチの言葉を遮って、爆音が轟く。見るとネロが負けていた。ルッチの眉間に皺が刻まれる。
「負けてやがる、バカめ!」
「元より期待もしておらんがのう…」
「オゥオゥ、次は誰がかかってくるんだ?!」
「アニキー! やっちまえだわいなー!」
 妹分のスクエアシスターズの声援を受けてますます調子に乗るフランキー。ここは痛い目を見てもらうしかないだろう。ルッチが指銃の構えを取る。その時だ。
「フランキー!!」
「あン? …ゲッ!」
「ウォーターセブンの面汚しめ…。俺が市長である限り、てめぇの好き勝手にはさせねぇぞ!」
「…くそっ、あ〜あ〜、燃料切れだ! 帰るぞ!」
「アニキ、どうしたんだわいな」
「いいから帰るぞ!」
 どうしたわけか、フランキーはアイスバーグに一喝されてすごすごと立ち去っていった。人々はアイスバーグを称えて大喜びだ。些か気になりはしたが、これも彼の人柄の成せる技なのだろう。ルッチ達も大人しく引き下がった。当然、負けたネロは外に置き去りである。

 ジャブラやフクロウ、クマドリは船大工達と一緒になって盛り上がり、なんだかよくわからない芸を披露したりで、クリスマスパーティーは忘年会のような盛り上がり方をした。
「ンマー、今日は楽しかった。いい夜だ」
「ありがとうございます、アイスバーグさん」
「ああ、そうだ。うちの船大工達もこの店には世話になっててな…。よかったら、時々造船所の方に出張してきてくれねぇか」
 アイスバーグの申し出にカリファは驚いた。ガレーラカンパニーに出入り出来ればアイスバーグの身辺も探りやすい。何より、このクリスマスパーティーを足がかりにしてアイスバーグと親しくなる目論みは見事成功したと言えよう。
「願ってもない申し出です、アイスバーグさん。…ちょっとお待ち下さいね。…ルッチ!」
 パウリー達と喋っていたルッチは呼ばれて、アイスバーグとカリファの元に近付いた。
「アイスバーグさんが造船所にSUPAYAを出張営業させてみないかと」
「…それはこちらも助かります、ガレーラカンパニーの皆さんにはよくご利用いただいていますし、もっと身近に、手軽に出来ないものかと思案していました、クルッポー」
「ンマー、それなら問題ねぇな。うちの方で許可証を出すから、それを持っていつでも好きな時に来るといい。社員も喜ぶ」
 アイスバーグは笑ってルッチに手を差し出した。握手は苦手なのだが、これは契約成立を意味する握手だ。断わる訳にはいかない。ハットリに握手させるのもアレだし…。ルッチは渋々だったが、アイスバーグと握手した。
「ありがとうございます、ポッポー」

 握手して、それから船大工達を率いて帰っていくアイスバーグを見送り、ルッチはふと気が付いてカリファに尋ねた。
「…出張営業の話はチーフにした方がよかったんじゃないか?」
「あら、実質仕切っているあなたの方が話が早いと思ったのよ」
「…言っておくが、本当にその服は俺の希望じゃ…」
「わかっているわ、ルッチ。…ごめんなさい、少し誉めて欲しくて」
「?」
「パーティーは成功でしょう?」
 準備に奔走したこの数週間。それがやっと実を結んだのだ。カリファはどうやらルッチが労いの言葉の一つもかけてくれなかったのが、気に入らなかったらしい。ルッチはため息をついた。
「…ご苦労、よくやった、カリファ」
「恐れ入ります」
 カリファは満足したように笑うと、客のいなくなったSUPAYAを見渡して、それから何やら綺麗に包装された包みを取り出した。
「…はい、ルッチ。こっちはハットリによ」
「…なんだ、何の仕返しだ」
 コスチュームの件があって慎重になっているルッチが顔を顰める。カリファはくすっと笑った。
「クリスマスプレゼントよ」
「なんじゃなんじゃ、カリファ。ルッチだけずるいのう」
 目敏いカクがカリファを覗き込む。カリファはそれを待っていたかのように、包みをたくさん取り出した。
「これはカクの。こっちはブルーノよ。ネロはまだ外にいるのかしら…」
「ここにいるっしょ、カリファさん!」
「よかったわ、はい、ネロ。それから…ジャブラ」
「あァ?」
「これはあなたに。フクロウとクマドリの分もあるわ」
「よよい、すまねぇ、カリファ〜」
「チャパパーもらってしまったー」
 みんなその場で貰ったプレゼントを開けた。出てきたのは、それぞれによく似合うマフラーだった。
「チャパパー大きくてあたたかいー」
「編むのが大変だったわよ、フクロウ」
「カリファの手編みかのう」
「ええ、全部ね」
「よよい! 大したぁ腕だぁ、有難く頂戴するぜ、カリファ〜!」
「ずいぶん可愛らしいマフラーだな…」
「ブルーノは酒場の店主もしているから…そのキャラクターに合わせてみたのよ。…あら、ジャブラ。ネクタイもしてマフラーもするの?」
 サンタの服の上からマフラーを巻いているジャブラは、何かおかしいかと言わんばかりに顔を歪めた。
「あなたの場合、腹巻の方がよかったかしら」
「いいんだよ、これで!」
 みんなでわいわい嬉しそうにしているのを、ファンクフリードに乗ってスパンダムが眺めていた。それまで楽しく騒いでいたのだが、カリファのみんなへのプレゼントを見て少々ヘコみ気味だ。
「いいな〜…お前らみんな、いいよな〜」
「…チーフ」
「あ?」
「…どうぞ」
 カリファはそう言ってスパンダムに二つの包みを渡した。
「…へ」
「チーフとファンクフリードの分です…」
「カリファ、お前…っ!」
 スパンダムは感極まって涙と鼻水を垂らしている。いいトシしたオッサンなのにそりゃないだろうといった有様だが、素直に喜んでいるのだから大目に見てやって欲しい。
「ありがとな、マフラーなんてお前…貰ったことねぇよ! うお! 見ろ、ファンクフリード! お揃いだぞ、ワハハ!」
 スパンダムはご機嫌でファンクフリ−ドにマフラーをしてやり、自分も颯爽とマフラーを巻いた。スパンダムのマフラーには、子供のマフラーのような可愛いボンボリがついている。
「すげぇなカリファ、こんなん編めるのか! こりゃいつでも嫁にいけるな!」
「セクハラです、チーフ」
「ワハハ、嬉しいなー! 俺はこれから海軍本部で忘年会があるんだ。これつけて行っちゃおうかな〜」 
 スパンダムは上機嫌だ。パーティーの後でまさか忘年会をやるとは思わなかったが、まぁそれもいいだろう。
「よし、お前ら! 今日はご苦労だったな! そういうわけだから、お前らも忘年会するといい!」
 スパンダムは自分の財布を出して、そこから何万ベリーかをカリファに渡した。
「それで忘年会しろ! ワハハ!」
「ありがとうございます、チーフ」
「ワハハ! じゃあ俺は行くぞ! メリークリスマス!」
「ぱぉー」
 トナカイファンクフリードを連れたサンタスパンダムのはしゃぎようったら恥ずかしいくらいだ。よほどマフラーが嬉しかったのだろう。忘年会の会費を貰ってルッチ達もちょっと嬉しい。なので、スパンダムをお見送りだ。
「チーフ、ドアにボンボリを挟まないように気をつけて下さいね」
「ワハハ! 大丈夫だ、カリファ! 俺がそんな間抜けなことするわけないだろ!」
 あ、するな。とみんなが思った。きっとファンクフリードだって思った筈だ。案の定、ボンボリが閉まるドアに挟まってスパンダムは身動き出来なくなっていた。どこまでも外さない人だ。いやいや、それでもCP9の長官、SUPAYAのチーフ。忘年会のお金もくれたことだし、今日はみんなで助けてあげた。クリスマスプレゼントのようなものだ。

 スパンダムを送り出し、せっかく彼がお金を出してくれたのだからとみんなでブルーノの店で忘年会をすることにした。ジャブラ達も今日はこちらに残るようだし、CP9でわっと忘年会をするのもいいだろう。クリスマスだけど。
「明日も店はあるから…ある程度片付けてからにしましょう」
 カリファが掃除を始めたので、みんなそれに続いて皿などを片付け始めた。全員でかかれば大して時間はかからない。残った食べ物なんかはこのまま忘年会に持っていってもいいだろう。

 そんな中、ルッチは何か釈然としない様子で顔を顰めていた。
「なんじゃルッチ、まだ人生の選択を悩んでおるのかのう?」
 皮肉たっぷりでカクがからかうと、ルッチはものすごく険しい顔で彼を見た。
「バカヤロウ…。…カリファのことだ」
「カリファの?」
「パーティーの準備を一人でこなして…。その上、これだ」
 ルッチはカクのマフラーを指差した。パーティーの準備だけでも大変だっただろうに、まさか手編みのマフラーをメンバー全員に作っているとは。このまま、貰いっぱなしでいいのだろうか?
「確かにこのまま貰いっぱなしはいかんのう」
「かと言ってこの時間では…何か用意するにも遅いな」
 その時、ルッチ達の耳にカリファとネロの会話が聞こえてきた。何気ない会話が。
「外は寒いっしょ! シャウ!」
「本当ね、雪でも降ればロマンチックなのに」

 雪?

 「…おい、ジャブラ」
「なんだぁ、ルッチ」
「ちょっとツラを貸せ。貴様も貰いっぱなしは性に合わんだろう?」
 ルッチの言葉にジャブラは顔を顰めたものの、密談の輪に加わった。それがなかなか面白い計画だったものだから、ジャブラからクマドリとフクロウへ。カクからブルーノへ、そしてネロへと伝えられていく。みんながこそこそしているのにも気付かず、カリファは手早く丁寧に片付けを進めていた。

 ようやく店内がSUPAYAらしくなり、カリファはふぅっとため息をついた。大きな机やクリスマスツリーなどは他のメンバーが運び出してどこか倉庫に持って行ったようだったが、いつの間にか店内はがらんと静まり返っている。あのうるさい連中の声も、気配さえも感じられない。
「…先にブルーノの酒場に行ったのかしら…」
 見れば、サンタのコスチュームも綺麗に箱に仕舞われている。きっとみんな着替えてもう行ってしまったのだろう。カリファも着替えると、もう一度店内のチェックして外に出た。カギをかけてシャッターを下ろす。外の空気は肌を刺すような冷たさだ。
「自分のマフラーも必要ね…」
 ぶるっと体を震わせて白い息を吐き出し、カリファは空を見上げた。綺麗な月がそこにある。今なら空飛ぶソリも見えそうだ。

 突然、ふわっとカリファの肩に何かが舞い降りて彼女を包み込む。それはルッチご自慢のコートだった。
「…ルッチ?」
 コートが降ってくるなんて、どういうことだろう? カリファはSUPAYAの屋根を見上げた。

 「ブルーノ、フクロウ、クマドリ、やれ」
「行くぞ」
 次の瞬間、カリファの視界に映ったのは、空に投げ出された巨大な氷の塊だった。カリファは目を丸くした。

 巨大な氷の塊は月を遮り、歪ませる。SUPAYAの屋根から7つの影が飛び出して、その氷を囲むように月歩で飛んだ。

 『嵐脚!!』

 大きな風が起こり、7つの影はまた屋根の上に戻る。カリファの真上にあった氷の塊は、パッと散るように砕けて…。

 「チーフ、お願いします」
「よーし、ライトアップだ!」

 ポーッ!! 海の方から海列車の音が聞こえる。海列車から明かりが伸び、砕けた氷を照らし出す。その細かく散った花弁のような欠片は、照らされてまるで…

 「…雪…」

 水の都の聖夜に降る、一瞬だけの雪。



 海列車が遠ざかり、雪を照らすものは月明かりだけになる。カリファは掌で溶けてしまった欠片に、微笑み、屋根を見上げた。7つの影がそこにある。どの影も、風にマフラーを揺らしていた。
「…まるで正義のヒーローね」
 カリファはそう言って笑ったが、雪に濡れたのか、慌てて俯いて目元と頬を拭った。どうやら、このクリスマスプレゼントは喜んでもらえたようだ。

 屋根から下りて来たルッチ達に、カリファはさっそくこのサプライズを企画した張本人を探すべく、尋ねた。
「あんな大きな氷をどうしたの?」
「チャパパー、大将青キジが近くにいたから作ってもらったー」
「彫刻でもよかったんじゃが、四式イタチは指銃が出来んからのう」
「シャウ! だから嵐脚で雪を作ろうって話になったっしょ!」
「ちょうどチーフが海列車に乗ってたから、電伝虫で連絡してライトアップを頼んだんだ! どうだ、なかなかだろ!」
「あら、ジャブラの案なの?」
「バカ! 俺はあんな小細工考えるのは嫌いだ」
「…そう、じゃあ…」
 カリファは何も言わないルッチを見た。きっと彼が今回の発案者なのだろう。
「あー腹減った! 忘年会と行こうぜ! 鍋だろ、やっぱ」
「シャウ! 鍋の締めにはラーメンっしょ!」
「お、わかってんじゃねぇか、ネロ! ワンゼのラーメンだよなー!」
 ぞろぞろとブルーノの酒場に向かって歩き出す一行。カリファは肩からコートを外して、ルッチに差し出した。
「ありがとう」
 色々と含みのある言葉だ。ルッチは顔を顰める。
「…預けておく。俺にはこれがあるからな」
 そう言ってルッチはカリファがくれたマフラーを撫でた。ハットリも得意そうに同じ動作をする。それが可愛くて、カリファは吹き出すように笑った。

 ブルーノの酒場で忘年会鍋パーティーを楽しみ、カリファはカクと共に帰ってきた。部屋の前でおやすみの挨拶をして、カリファは自分の部屋に明かりを灯す。すると、電伝虫が鳴った。
「…はい」
「カリファか?! どうだった、ライトアップ綺麗だったか!」
 海軍本部の忘年会会場からだろうか。何やら騒音と共にスパンダムの声が聞こえてくる。カリファは預かったコートを掛けて、それから丁寧にスパンダムに礼を言った。
「とても…素敵でした。わざわざありがとうございます…、長官」
「ワハハ! そんな改まって言うな!」
 どうやら照れているらしい。チーフではなく長官と呼ばれるとまた嬉しい。
「あ! それでな! あれだけじゃなんだから、お前の部屋によぉ、プレゼント、届けさせたからな! それでいいクリスマスをな! ワハハ! じゃあな、おやすみ!」
「はい、おやすみなさい…」
 受話器を置いて、カリファは郵便受けの中に入っているクリスマス用のリボンがついた包みに気付いた。これがスパンダムからのプレゼントだろうか。

 ベッドに腰掛けて開けてみると…。中から出てきたのは、クリスマスにぴったりな、ハレンチな下着のセットだった。…セクハラだ。

 だがカリファはいつものようには言わず、ただため息をついて、それを仕舞うと…。

 「…まず恋人を作る時間が欲しいわね…」

 カリファが恋人とクリスマスを過ごせるのは、いつになるのやら…。

 HAPPY HOLIDAY!!

つづく


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