出発

 ウォーターセブンのSUPAYAに、CP9のメンバー全員が集結した記念に催された納涼肝試し大会は大好評のうちに幕を下ろした。連日の暑さもあって、いらなくなったCDを片手にやってくる客が後を絶たず、おばけ…もとい、リアル牛やガイコツに扮したルッチ達も店頭に立ち、応対した。誰一人、チャパパおばけを攻略出来た者はいなかったが、レンタル半額券に気を良くして、更にCDを買ったり借りたいしていってくれて、結果的にSUPAYAは黒字になっていた。

 「ワハハ! お前らご苦労だったな!」
 顔をライトで照らして、べろべろばーをしているだけだったスパンダムも上機嫌だ。誰一人彼に構う者はいなかったらしいが、そんな切ない夏の思い出も忘れてスパンダムはコーヒーカップを振り回す。当然、中身をぶちまけて大騒ぎだ。しかし疲れきっていたルッチ達は微動だにしなかった。
「うわっちー!! あ〜…オホン、ここ数日、お前らは本当によく働いてくれたな。それでだ…そろそろジャブラ達もエニエス・ロビーに帰っちまうしだな、ここらで臨時休業をしようと思う」
「臨時休業…ですか」
「棚卸しか何かかのう」
 ルッチとカクと言葉に、スパンダムは得意な顔をしてチッチッと指を振った。ルッチとカクは顔を見合わせる。ブルーノとカリファもだ。

 嫌な予感がする。

 「せっかく儲かったんだ! これでぱーっと騒がない手はねぇだろ?! そうだよなー! 世間は夏だってのによー、毎日毎日、真面目に働いてんだぜ?! そこでだ、臨時休業をして、全員で旅行に行こうと思う!」
 でた。スパンダムの爆弾発言だ。予想はしていたので、今回はさほどダメージを受けずに済んだ。エニエス・ロビー組とネロは嬉しそうだ。結構お祭り騒ぎ気質で、相性がよさそうな彼ら。いっそ、ネロもエニエス・ロビー組に入ってしまえばいいと、いつの間にかルッチの眉間には深い皺が刻まれていた。
「…チーフ、お言葉ですけれど…今の時期、どこも予約で一杯ですよ」
 そう言ったのはカリファだった。そう、今は夏真っ盛り。ウォーターセブンには夏期休暇のような習慣があり、人によっては一週間ばかりバカンスを楽しんだりもするそうだ。
「諦めるんじゃな」
「バカか、お前ら?! 俺達は政府の諜報部員だぜ?!」
「保養所でもあるんすか」
 ジャブラがふんぞり返って尋ねる。いや、尋ねる態度ではないが、一応、尋ねてみる。スパンダムは察しの悪い部下達に、大げさなため息をついた。
「バカ正直に予約する必要はねぇだろうが! 特権だよ、特権!」
「長官はいつも特権でゴリ押しして予約を取っているぞーチャパパ」
「こ、こら、フクロウ! 余計な事を言うな!!」
 真っ赤になって怒っているところを見ると、フクロウ情報はデマではないらしい。全員の冷たい視線にスパンダムは見苦しくじたばたしている。
「ともかくだ、俺がお前らを旅行に連れて行ってやるって言うんだ! いいから、どこに行きたいか、言ってみろ! ワハハ、何泊でもいいぞ!」
「そうもいかんでしょう…俺達もエニエス・ロビーに戻ってからはSUPAYAの業務と…短期の任務も決まっている」
「ジャブラは本島の給仕のギャサリンに会いたいんだ、チャパパー」
「てめぇ、フクロウ! 何の為のチャックだ、この野郎!」
 ジャブラはフクロウの口を引っ張ってチャックを無理やり締めている。照れているのか、頬の辺りが赤い。意外に可愛いところがあるようだ。
「ギャサリンというと…」
「あの個性的な顔の女じゃな」
「変わった趣味だ…」
「ジャブラさん、ゲテモノ好きっしょ」
「うるせー!!! 女は顔じゃねぇ、おさげ髪だ!!」
 混乱状態だったのだろう、売り言葉に買い言葉か、うっかりジャブラは自分の好みを大激白だ。どうやらおさげ髪の女性がストライクゾーンらしい。言ってしまってから、ジャブラは咳払いをして、それからちらりとカリファを見た。
「…?」
「…惜しいな、カリファ…。お前がおさげだったらなぁ…」
「セクハラよ、ジャブラ」
「いててて!」
 四式使いのネロとスパンダムを除けば、いくら六式使いでも女性のカリファは力で彼らに負けている。だが、このメンバーの中ではかなり強い方だろうジャブラに対して、イバラの鞭でもって制裁を加える辺り、実はカリファが最強なのではとさえ思ってしまう。綺麗な花には棘があるもの、それがまた美しい…。カリファと共に仕事をしているルッチ達は、改めてカリファを怒らせないようにしようと心に誓うのだった。

 そんなこんなで、結局、スパンダムが張り切っているのだからと、旅行にいく事になったSUPAYA一行。カリファが色々なガイドを取り揃えてくれて、みんなで軽食を摘みながらの相談会となった。用意した軽食はカリファとブルーノが作ったものだ。ネロもちょっと手伝ったらしい。
「俺はリトルガーデン行ってみてぇな。恐竜がいるんだろ? 門番のオイモとカーシーから聞いたぞ」
 ジャブラはそう言ってリトルガーデンのガイドをめくる。
「わしは旧ドラムのサクラ王国かのう。スキーやスケートがしたいわい」
「俺はミラーボールアイランドっしょ! 最新ファッション! 流行の発信地っしょ、シャウ!」
「似合わないな…四式坊やが」
「またいじめるっしょ…」
「よよい、おいらぁ…キューカ島にぃ…、あ、行ってみてぇえ…!」
「俺はウィスキーピークがいいぞ、チャパパー。サボテン岩が見たいー」
「俺はレストランバラティエに行ってみたい…。バーのメニューを考えていたところだ」



「ブルーノのお店は中心街にあるし…、SUPAYAは休業でも、バーはお休みできるの?」
「一日二日なら大丈夫だろう…。元々、俺はオーナーの代理だからな」
「ルッチはどこがいいのかしら」
「…お前は?」
「私は…そうね、どうせなら…私達の目的に近づける場所がいいと思うわ…。ただの観光旅行で終わらせるのも勿体ないし…。…漠然としすぎているわね」
「いや、そんな事はない…。チーフ、アラバスタはいかがでしょう」
「あらばすたぁ?」
 なかなか意見がまとまらないものだから、すっかりだらけて石造りの机の上でごろごろしながら、しまらない顔で抜けた声を出した。
「ええ、砂の国、アラバスタです。七武海のサー・クロコダイルが巣にしている国でもあります…」
「おいおい、そんな暑いとこかよ! ただでさえ暑いのによー、仕事忘れてパーッとやろうぜ!」
「…空島でも行ってしまえばどうじゃ」
 カクがぽつりと皮肉って言う。連れて行ってやるなどといっているが、開店時のスパンダムバースデーで、会費をとられた過去もあり、カクはいまいちスパンダムのおごりを信用していないようだ。
「空島?! ワハハ、カクは子供だなぁ! そんなモン信じてるのか?!」
 こういう事ばかりはよく聞こえるスパンダム。まだ23歳とこのメンバーの中では歳若いカクをお子様扱いだ。だが実際はスパンダムの方が子供じみている事は…明白である。
「…バカにバカにされるとシャレにならんのう」
「嫌味の通じる人じゃない」
「お前ら、長官に無礼なぁあ! 長官、ここはおいらあ腹ぁ切って…!」
 腹黒ーズの容赦ない言葉に胸を痛めたのはやはりクマドリ。だが案の定、腹は切れないのだった。

 「そういやぁ…、アラバスタから温泉島へのトンネルが出来たとかギャサリンが言ってたな…」
 平行線を辿っている話し合いに飽きてきて、ジャブラがぽつんと思い出したように呟いた。
「温泉?」
 食いついたのはスパンダムだ。
「うっかり湯だかなんだか言う…」
「アラバスタには大きなカジノがあるっしょ! シャウ!」
「決めた! アラバスタ行くぞ、アラバスタ! んでカジノしてだな、温泉島で一泊しよう! 宴会だ、ワハハ! カリファ! お前、浴衣で酌しろ!」
「セクハラです」
「ワハハ、無礼講だ、無礼講!」
「…無礼講…わかりました」
 そう答えたカリファの目は鋭く光っていた。あれは絶対、お酌を了承した目ではない…。スパンダム以外の全員がそう思っていたが、誰一人それを口にする者はなかった。なんだかんだで、面白い事になればいいと皆が思っていたからだ。

 こうして、明日から一泊二日の社員旅行に出かける事となったSUPAYAの面々。スパンダムの特権を使って宿などの手配はカリファが全て取り仕切り、店には臨時休業の看板が下げられた。
「じゃあ明日、迎えの船が来るから港に集合だ! 時間厳守! 遅れるなよ!」
 一番遅れそうなスパンダムはそう言って、旅支度をする為にエニエス・ロビーへと帰って行った。しばらくウォーターセブンに滞在していたジャブラ達はもう旅行の準備も持っているので帰らずに、滞在中に泊まっている宿に戻って行った。
「やれやれ…せっかくの休みじゃが、疲れそうじゃのう」
「楽しそうっしょー! シャウ!」
「お前さんがおるだけで疲れるわい、四式坊や」
「お前一人残ればいいものを…空気の読めない四式坊やが」
「うわぁん、先輩達がいじめるっしょー!」
「おやめなさい、二人とも。あなたも来ていいのよ、ネロ。あの二人は気にしないで」
「カリファさぁん…!」
 すっかりカリファに懐いて庇われているネロ。当然、ルッチもカクも面白くない。特権を使っても急な旅行で、宿の部屋も人数分の個室ではなく相部屋だ。部屋割り一つでもぐったり疲れるのが目に見えている…。ここは一つ、ネロをいじめ倒すくらいの楽しみがなくてはやっていけない。腹黒ーズの暗黒オーラに背筋が凍るネロだった。

 「そういえば…ルッチ…、どうしてアラバスタに?」
 すっかり遅くなったものの、疲れていたルッチ達は癒しを求めてブルーノのバーへ立ち寄っていた。ブルーノも明日はバーを閉めていかねばならず、臨時休業の看板を下げて早々に店じまいをし、店内はルッチ達の貸切となっていた。ルッチ達、といってもそのメンバーにネロは含まれていない…。いじめっしょ!
「…お前の意見が最もだったからな。いくら七武海とはいえ、サー・クロコダイルの財力は目に余るものがある…。査察も抑止力にはなるだろう。我々はこのウォーターセブンに潜入し、プルトンの設計図を手に入れる事を任務としている…。その為には、プルトンに関わりのある場所がいいと思っただけの事だ。トムとかいう…魚人の事を調べるならば魚人島も候補にと考えたが、連中は種族主義。誰も口を割らないだろう」
「アラバスタとプルトンにどんな関係があるんじゃ」
「アラバスタには…ポーネグリフがあると聞く。そこには兵器に関する情報がある…」
「まさか、ルッチ、サー・クロコダイルが古代兵器を狙っていると?」
「さぁな…。すべて仮定の話に過ぎん。取り越し苦労ならいいが、出そうな杭も…打つべきだろう」
「なるほど…」
「じゃが、連中が遊び惚けておる間に、わしらだけ仕事というのも釈然とせんのう」
「本格的に探りを入れる必要はない。ただ怪しいと感じる事だけを洗えばいい…。査察を兼ねた社員旅行だ。あまり気負うな」
「了解」
「それじゃあ、旅の支度もしなくてはいけないし…そろそろお開きにしましょうか」
 カリファがそう言って席を立つと、続いてカクも立ち上がった。
「帰りましょう、カク」
「そうじゃな」
 そのやり取りにルッチとブルーノは顔を見合わせ、それからカリファ達を見た。
「なんだ、お前達…近くに住んでいるのか?」
「ええ、カクは私の部屋の隣よ」
「そうなんじゃよ」
 カクは無邪気な笑顔を振りまいている。二人は別の諜報機関で一緒だった事もあり、仲がいい。カリファを送って行った時、すぐにカクに見つかったのはそういう訳かと、今ごろ納得のいったルッチだった。
「そういえば、ルッチの部屋の下にもSUPAYAのメンバーがいるんだろう…」
 ブルーノがとぼけた顔でそう言うと、ルッチはめちゃくちゃ嫌そうに顔を顰めた。思わずハットリも飛び立つくらいだ。
「誰じゃ?」
「ジャブラ達…は、宿に泊まっているって聞いているけれど…」
 興味津々のカク達だが、ルッチは答えない。代わって、ブルーノがにやりと笑って教えてくれた。
「ネロだ」
「わはは! そうかそうか、あの四式坊やがルッチの下にのう」
「可愛がってあげなくちゃダメよ、ルッチ」
「なるべく会わないように気をつけているそうだ…。向こうはまだルッチに気付いていないらしい」
「…、下らん話はやめろ。明日遅れたら承知しないぞ」
 ルッチは怒ってしまったのか、そう言うとそそくさとバーを出ていった。続いてカクとカリファも連れ立って出て行く。ブルーノのバーの明かりが落ち、明日に向けてしばしの休息である…。

 翌朝、スパンダムは泣く泣く愛象ファンクフリードを船に乗せるのを諦め、SUPAYAに残してアラバスタを目指す政府の専用船に乗り込んだ。
「いくぞ、アラバスタ! 温泉、カジノ、グルメにお色気の旅だ、な、カリファ!」
「セクハラです」
「無礼講っつったろ、ワハハハ!」
「…チーフ、無事に生きて戻れるかのう」
「賭けるか? ポッポー」
「あ、ハットリ! いいよな、ハットリは小さくてよー。聞いてくれよ、ハットリ。俺のファンクフリードはでけぇから船に乗せられねぇんだ…」
「ハットリに話し掛けないで下さい。困惑しています、チーフ」
 船は賑やか。だが、着ている服はエプロンがないだけの真っ黒軍団だ。一体、これからどんな旅行になるのやら…。

 「うぉっ?!」
 ウォーターセブンのSUPAYAの前で、一人の男が奇声を上げた。彼は薪のように山盛りCDを背負っている。どうやら買取をしてもらおうと思っていたようだ。そんな彼の前にぶら下っているのは、臨時休業の札だ。
「な…なんだよ、臨時休業って…、おいルッチ! カク! ブルーノ、カリファ! いねぇのかよ!」
 崩れるように座り込んだ彼…パウリーの頭を、同じく取り残されたファンクフリードがもすもすっとしてやった。
「ぱぉ」
「…お前、買取できねぇよなぁ…」
 金欠パウリーの命運はいかに…。


つづく


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