参審制に思う――私も裁判員になれるのかなあ?

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 3月13日および14日付の朝日新聞(WEB版)によれば、司法制度改革審議会が検討していた、市民が刑事裁判に直接参加する制度の原案が明かになりました。この制度は、いわゆる参審制に近いものです。2年近く前から検討されていた一連の司法制度改革の一つで、国民の司法への直接参加の具体策です。

 私は、政治や行政や司法に市民が少くとも影響を与え、できるだけ参加していくようになるべきだと考えています。もちろん、この複雑な社会にあっては、プロの政治家・官僚・学者・法曹関係者等は不可欠なのですが、そういう人たちに任せっ放しにしたのでは、より多くの一般市民のニーズや思いからしばしば大きくかけ離れてくるのも事実です。その意味で、今回の参審制導入には多いに賛成です。

 ただ、私はこの記事を読んですぐに危惧の念を覚えました。そのことを皆さんに知っていただきたいと思い、この文章を書いています。

 裁判に参加する市民は「裁判員」と呼ばれていますが、その選び方は選挙人名簿からの無作為抽出です。そして、選ばれた裁判員は出頭義務や守秘義務を負います。また、裁判員は、職業裁判官と同等の権限を持ち、有罪・無罪の事実認定ばかりでなく、量刑についても票決権を持ちます。このように、裁判員に成ることは「国民の義務」であり、とても重い責任が担わされています。

 さて、裁判員の選出は選挙人名簿からの無作為抽出ということですから、選挙権を持っている人はだれでも裁判員になる可能性があり、しかもそれは「義務」なのです。もちろん、視覚障害者もふくめ、障害者も裁判員に選ばれることがある訳です。1回の裁判で3、4人の裁判員が選ばれるとして、ごく大ざっぱに計算してみると、視覚障害者が裁判員に選出される確率は 1% 前後、より広く障害者が選ばれる確率は 10% 前後になります。 

このような場合重要な事は、だれが裁判員に選ばれようとも、裁判員として充分なはたらきができるよう、様々な準備・対応がされていなければならない、ということです。念のため、司法制度改革審議会のページ(http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/index.html)で中間報告や議事録を見てみましたが、今のところ障害者が裁判員に選ばれた時の対策などについては検討されていないようです。

 たとえば、視覚障害者が裁判員に選ばれたとすれば、資料を点字あるいは音声に変換しなければなりませんし、聴覚障害者の場合なら、他の裁判官や裁判員とのコミュニケーション手段の確保が必須です。このような場合の対応をあらかじめ考えておかないと、せっかく裁判員に選ばれたにもかかわらず、内々に辞退するよう説得されたり、逆に障害者等の側から裁判員としての義務が果せないからと辞退したり、また裁判員として裁判に参加しても事実上お客さん扱いにされたりするかもしれません。もちろん、障害者等が裁判員になった場合の難しさを見越して、裁判員の選出法に条件を付けて、あらかじめ障害者等を排除しておこうといったことは、絶対に許されません。

 話しは変りますが、昨年 10月に行われた国勢調査で私は初めて点字で回答しました。それは〈気分壮快〉でした。それまでのことを振り返ってみると、下宿の大家さんや調査員や家族の者に代わりに書いてもらっていました。プライバシーの事はもちろんですが、当然自分ですべき事を個人的にだれか他の人に頼むのは、私としては心苦しいかぎりでした。

 国民としての義務や権利を行使するさいに、独力で、あるいは援助が必要な場合でも、個人的にだれかにお願いするのではなく、公的に保証された制度に支えられてできることがとても大切です。それは、市民の持つ権利や義務を実質化することであり、人権としても重要だと思います。