ジニ係数――どんな社会を目指すのか

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ジニ係数――どんな社会を目指すのか

●はじめに
 私が「ジニ係数」という言葉に初めて出会ったのは、メールマガジン「くまさんの英語で読む海外メディア」(http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/4112/ )のNo.44でです。6月2日付の「The Economist」の記事で、中国で貧富の差が拡大しており、危険な状況になっているという内容でした。
 その貧富の格差を示す指数として、ジニ係数が 0.39 だとか 0.458 だとか書かれていました。経済等を専門にされている方にはごく普通の用語なのでしょうが、私には初めてでした。

 最近、日本でも所得格差が拡がりつつあり、これまでの平等社会、総中流意識も崩れはじめているというようなことを聞くようになりましたが、それを客観化できる嗜数があるのか、と興味を持ちました。早速手持ちの百科事典やインターネットで調べてみました。
 ところが、と言うか毎度のこととも言えるのですが、ネット上での検索で数百件は見つかっても、ジニ係数の定義式や、それに関連するグラフや表はほとんど文字データでは書かれていないようでした。
 それで、ジニ係数についてコンパクトにまとめて書いていると思われる「ジニ係数って何?」というページ(http://ha9.seikyou.ne.jp/home/snoop/Gini.htm)の中の定義式をテキスト化してほしいと、いつも表のテキスト化をお願いしているKさんに依頼してみました。そうしたら、数式だけでなくグラフも読み取っていただき、とても良くわかりました。
 (参考のために、上のページの私が読めた状態Kさんがテキスト化してくださった状態を掲載しますので、興味のある方は見てみてください。数式については、いろいろな表言の仕方があると思います。この例がとくに最高のものだということではありません。)

 さて、定義式が判っても、ジニ係数にまったくなじみのない私には、実際にどんな所得分布でどんな値になるのか見当が付きません。それで、次の4つの場合についてジニ係数を計算してみました。人数が多いとたいへんなので、AからKまでの11人とし、所得の単位は百万円、平均は4例とも5百万円です。

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ジニ係数の計算例

A B C D E F G H I J K ジニ係数
例1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0.364
例2 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 9 0.331
例3 0 0 2 3 4 5 6 7 8 10 10 0.390
例4 0 0 1 1 2 2 3 3 4 4 35 0.640

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 一応、私のつもりでは、例1が基本で、例2は所得の再分配によりKからAに所得の一部が移転した場合、例3は競争の激化などによりBが失業してJにその所得が移った場合、例4は1人に極端に富が集中している場合を考えてみました。例4は現実的でないように思われる方もあるかもしれませんが、人口の数%が富の大部分を確保している社会はしばしば観られます。(なお、11人の場合、1人にすべての富が集中した場合のジニ係数は約 0.91で、これが11人の時の最大値になります。ふつう、人口はこれに比べてずっと多いので、ジニ係数の最大値は1に近似します。)
 さらに注意していただきたいのは、ジニ係数が同じでも、実際の所得分布には様々な場合が在りうるということです。図形的に考えれば、ジニ係数は、対角線とローレンツ曲線で囲まれた面積の2倍に等しいということですから、そうなることは明白なのですが、ここでは具体的に数字を使って示しましょう。
 たとえばジニ係数が 0.40 の場合を考えます。(上の例3はそれに近い値です。ここでは人口 N は普通の社会のようにきわめて大きいとします。ジニ係数の最大値はほぼ1となります。)
 いま社会が完全に上層と下層の2階層に分かれていたと仮定すると、人口の 10%が所得の 50%を占め残りの 90%が 50%を分け合っていても、人口の 30%が所得の 70%を占め残りの 70%が 30%を分け合っていても、また、1人が所得の 40%を独占しその他の人たちみんなで残りの 60%の所得を平等に分け合っていても、ジニ係数は 0.40です。
 社会が上・中・下の3階層に完全に分かれていると仮定すれば、

人口 所得 人口 所得 人口 所得
@ 上層 5% 30% 中層 60% 60% 下層 35% 10%
A 上層 10% 40% 中層 60% 61% 下層 30% 9%
B 上層 1人 20% 中層 75% 80% 下層 25% 0%

のどの場合も、ジニ係数は 0.40 になります。
 このようにジニ係数が同じ様々な場合について、その平等度は本当に同じなのでしょうか、あるいは人々はどのように感じるのでしょうか。このような場合を識別できる指標があるかどうか私は知りませんが、かなり難しい問題のように思います。

●日本の場合
 ジニ係数が(経済の専門家ばかりでなく)一般にも広く話題にのぼるようになったのは、1998年11月に刊行された、橘木俊詔著『日本の経済格差―所得と資産から考える』(岩波新書)がきっかけであったようです。
 この本を私は読んでいませんが、ネット上のいくつかの書評からその内容をある程度知ることができました。その重要な結論の一つは、日本は今やアメリカにも劣らぬほど先進国の中でもっとも不平等な社会になっているというものです。それをいわば客観的に示すためにジニ係数も使われた訳です。一般の人たちが感じはじめていた不平等感を〈客観的事実〉として、それもかなり先鋭的に示したため、一方ではベストセラーになるほど多くの共感をよんだのでしょう。
 しかしこの本の主張に対しては研究者の側からの批判的な論評も多く見られます。ここでは主に大竹文雄の「やさしい経済学」(http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~ohtake/paper/shotokukakusa.html)で展開されている議論等を参考にして、私なりに整理してみようと思います。
 前提としてジニ係数の時系列的な変化を確認しておきます。ごく大ざっぱに言うと、1970年代初めから1980年代半ばまでは概ね横這い状態(0.35前後)で、その後は増加傾向にあります(0.4近く)。
 ではこのジニ係数の増加傾向、言い換えれば不平等度の増加傾向はどのように解釈されるべきものなのか、次の諸点についてまとめてみました。

@国際的にみて日本は本当に不平等な社会なのか
 比較するのですから当然比較すべき所得の内容(課税前か後か、年金等の給付を含むか含まないかなど)が同じでなければなりません。所得の定義によってジニ係数も大きく変わります(例えば「平成11年版厚生白書の概要」では、1996年のジニ係数は、当初所得では 0.4412、再分配所得では0.3606と大きく異なっています)。内閣府や OECD の資料では、日本のジニ係数は先進国の中では中位に位置しています(上位はアメリカやイタリア、下位は北欧諸国)。

A日本社会は本当に不平等化しているのか
 80年代半ば以降のジニ係数上昇には、年齢構成の高齢化という要因がかなり(30% という試算もある)寄与しているようです。日本では、同年齢間の所得格差は若いほど小さく、年齢が高くなると共に大きくなるので、年齢構成が高いほうに移動しただけでジニ係数は大きくなり、一見不平等化が進行したように見えることになります。(逆に言えば、70年代ではまだ年齢構成は若かったので、ジニ係数に表れているほど平等ではなかったのかもしれません。)
 また、90年代になって日本でも、それまでの高所得男性と専業主婦の組合せに代わって、高所得のダブルインカム・カップルが増えた事も(世帯単位での)ジニ係数上昇の要因とされています。

B人々が不平等感を強く実感しているのはなぜか
 このように、ジニ係数の上昇に表われているほど日本社会は不平等になっていないという主張も多い訳ですが、しかし不平等感を実感している人々が多数いるのも事実です。
 その理由としては、(a)大卒40代という社会の中核ともいうべきグループで賃金格差が拡がっている、(b)正社員とパートの賃金格差が拡がっていてしかもパートの割合が増えていること等が挙げられています。
 (a)については、年功序列型から業績に基づく賃金体系への移行や、 IT化による一部専門職の地位の低下とフラット化といった要因が考えられます。
 (b)については、経済が継続してデフレ傾向にあるにもかかわらず、平均して賃金を下げるのではなく、正社員の賃金はなんとか維持しつつその人数を減らし、その分の仕事をパートに振り替え、さらに人件費引下げの圧力が彼らの側により強く負わされるからだと思います。今のような経済情勢下で不平等感を増大させないためには、正社員もふくめ平均した賃金の引下げができるような制度がぜひとも必要です。
 さらにもう一つ気になるのは、SSM調査(社会階層と社会移動に関する全国調査)で、教育・所得・職業威信間の一貫性が高くなりつつあるという指摘もあることです。ジニ係数が同じでも、これらの間の一貫性が低いほど不平等感は小さくなると考えられるからです。(ただし、今日のような絶え間ない技術革新は、高い教育水準と高所得との相関を弱めるようにはたらくかもしれません。)

●世界の場合
 次に、〈国〉レベルだけでなく、グローバル化が進みつつある〈世界全体〉の所得分布についてはどうなるのだろうと思い、ネット上で調べてみたところ、富山大学極東地域研究センター「東アジア共生へのシナリオ「の中に「全世界の所得分布」(http://www.ne.jp/asahi/hamamatsu/seiji/cfes/economic/step/gnpdist/gnpdist.html)というページがありました。
 そこでは、世界銀行のデータを使って、1999年の127の各国地域の所得から世界の所得分布についてジニ係数をもとめていました。その値は 0.7068 で、これは、ごく単純に上下2つの階層(たとえば先進国とそれ以外)を仮定して考えると、全人口の約 15% が全所得の 85% を占めていることになります(この時、2階層間の所得格差は約32倍です)。
 さらに、より日常生活での格差に近付くように購買力平価で換算した時のジニ係数ももとめています。その値は 0.5241 となっています(これは、上記のように2階層を仮定すると、全人口の 15% が全所得の 67.4% を占めていることになります)。
 いずれの場合でも、ジニ係数の値は少くとも先進国ではけっして許容され得ないような高い値です。さらに、国レベルでは、税制や社会保障制度等、所得格差を是正する制度によって不平等がある程度緩和されているのにたいし、世界レベルではそのような是正のための制度はほとんどありません(無償援助などはありますが、それも援助国側の利益としばしば結び付いています)。そしてこのような状態でグローバル化が進めば、市場経済という抗し難い力によって各国・階層間の所得差はますます拡がり固定するかもしれません。

●どんな社会・世界を目指すのか
 私がジニ係数に興味を持ちこだわっているのは、社会の平等や公平、差別への関心といった一般的な理由とともに、世界の各地に見られる貧困や難民等絶望的な状況について考える何らかの手がかりがほしかったからだと思います。
 私の中学・高校時代、1960年代にも、南北問題が注目され、それは先進国からの開発援助や途上国のリーダーたちのイニシアチブなどによってそのうち改善されるだろうと期待していました。しかしその後、先進国の経済は比較的順調に発展したのにたいし、いわゆるNIES諸国等一部を除き、途上国の経済は停滞し、かえって格差は広がりました。

 活気ある社会を維持していくには、ごく一般的に言えば、一方である程度自由な活動・競争を保証すべく機会の平等・ルールの平等を十分に確保し、他方で、その結果生ずる不平等については、それが社会の連帯感あるいは人間としての最低の生活を脅かさない程度に、制度的に是正されなければなりません。しかし、このような事がそれなりに実現できているのは今のところ国民社会のレベルまでです。しかも、〈国〉と言っても、国民社会としてはまだ脆弱な国が数多いのが現状です。
 世界規模で観るならば、いわゆる〈地球社会〉といったものへの所属が制度的にはおろか意識の上でもあまり確立されていないのに、市場経済(とそれを支える価値観)だけが拡大し、その〈ルール〉の下に競争が行なわれるだけで、その結果にはお構いなし、あるいはせいぜい事後処置的な対策がとられるにすぎません。市場経済は、第3世界の(エリートは別として)多くの人たちの生活をしばしば文字通り根こそぎ破壊し、彼らがそれまで持っていた様々な伝統的なきずなを無力化し、何らの拠り所も持たないまったくの〈個人〉にしてしまいます。このような個人は、ときに、極端な民族主義や原理主義の担い手となります。(貧困や飢餓の問題には、経済だけでなく、政治や環境等の要因も大きく関わっているのはもちろんです。)
 このような現状に対して、どのような改善策があるのでしょうか。とても大きな問題で私には十分見通せませんが、とりあえず次の二つを提案します。多様な生活様式(「文化」と言い換えてもいいでしょう)とその継続性の尊重、および一種の〈すみ分け〉(いわゆる「ニッチ」)的な社会構成です。この二つについては、世界レベルだけでなく、重度の障害者・高齢者・移民等ますます多様化する国民社会についても、一部有効な面があると思います。
 ここで一番問題になるのは、この二つの原則と市場経済との折り合いです。そのためにはまず、お金には換算しにくい様々な価値(福祉や教育や文化や環境等に関わる様々な活動)をも、部分的にお金と同じように交換したり貯めたりできるシステムを創ること、および人々のもっとも直接的な生活の場である地域社会がある程度完結した自立性を持ち、その上に国民社会やグローバルな社会が成立し、かつそれらと並行して企業や NGO など特定の目的のための横断的な組織も機能するといった形が望ましいと思います。現在様々に試みられはじめている「地域通貨」や「エコマネー」は、このような構想の参考になるかもしれません。

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●私が読めた状態

ジニ係数って何?


  「ジニ係数」とは簡単に言ってしまえば、ある社会の分配の不平等性を表す指標である。富の分配状況を把握するのに所得分布(所得のヒストグラム)を描いて見たとしよう。そして複数の社会の所得分布を比較したとする。ヒストグラムを眺めていただけでは、社会Aと社会Bとではどちらが不平等性が高いか?といったことは、なかなか正確には把握できない。

 ジニ係数は0〜1の間をとる数値で、この値が高いほど不平等の度合いが高いことを示す指標である。社会Aのジニ係数と社会Bのジニ係数を比較すれば、高い方が不平等性が高いと言えるわけだ。この係数がどのように定義されているかを簡単に解説しよう。

 いま、社会がn人で構成されているとする。そして社会における所得の分布がベクトルで表されているとしよう。ただしベクトルの要素はという具合に昇順で並んでいるとする。社会が十人で構成されており各個人の所得(単位はさしあたり万円としよう)が、 (1,6,3,4,2,5,1,8,4,7)であるとすれば、ベクトルyは昇順で並べるからy=(1,1,2,3,4,4,5,6,7,8)である。ここで;累積人員比率;累積所得比率;平均 と定義しておく。さらに分布yのローレンツ曲線も定義しておこう。直交座標平面(平面)で原点Oからn個の点()を の順に直線で結んだものをローレンツ曲線と呼ぶ。下の図の赤い線がローレンツ曲線である。対角線である青い線を「完全平等線」という。

ローレンツ曲線

ジニ係数の定義は、(1)である。この式の意味は、「n人の成員より片っ端からペアを取りだし、その絶対差を合計したうえで、標準化するために2μn2で割る。」というものである。(1)式を(累積所得比率)を使って表現すれば  (2)となることが知られている。 ((1)から(2)への証明はたくさんあるが、特に両式の理論的含意を明確化したものに、Kimura,K. 1994 "A Micro-macro Linkage in the Measurement of Inequality :Another Look at the Gini Coefficient," Quality & Quantity 28:83-97 がある。)   nが十分に大きければ1/nは、ほとんど0と見なすことができるので省略されることも多い。ローレンツ曲線は対角線を中心として、外側に位置しているほど(対角線より下方に位置するほど)不平等度が高いことを意味する。  今、二つの社会から二つのローレンツ曲線が得られたとしよう。曲線が交差していないとき、外側にある曲線はローレンツ劣位であるといい、内側にある曲線はローレンツ優位であるという。対角線(完全平等線)とローレンツ曲線で囲まれた部分の面積を二倍したものがジニ係数である。
  まず、ローレンツ曲線下部に棒グラフがずらりと並んでいるとしよう。(下の図がそれだと無理矢理思うことにしよう。随分隙間が空いてるが、これがぎっしりつまっているところを想像して欲しい。)各棒グラフの横の辺の長さは全て定義より1/nであり、縦の辺の長さは左から数えて何番目にくるかによって異なり、i番目にあたる棒グラフの縦の辺の長さは、定義より、φiである。したがって棒グラフの面積の総和は
買モi(1/n)
である。これを、完全平等線を斜辺とする直角三角形の面積(これは1/2である)から引いて二倍すれば(2)式とほぼ一致することがわかるだろう。

棒グラフ 

 ジニ係数は完全平等のとき、つまり全員が全く同じ所得を持っている場合に最小値0、完全不平等のとき、つまり一人が社会の富の総額を独り占めしているときに最大値1≒1−(1/n)をとる。

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●Kさんがテキスト化した状態

ジニ係数って何?

「ジニ係数」とは簡単に言ってしまえば、ある社会の分配の不平等性を表す指標である。富の分配状況を把握するのに所得分布(所得のヒストグラム)を描いて見たとしよう。そして複数の社会の所得分布を比較したとする。ヒストグラムを眺めていただけでは、社会Aと社会Bとではどちらが不平等性が高いか?といったことは、なかなか正確には把握できない。
ジニ係数は0から1の間を取る数値で、この値が高いほど不平等の度合いが高いことを示す指標である。社会Aのジニ係数と社会Bのジニ係数を比較すれば、高い方が不平等性が高いと言えるわけだ。この係数がどのように定義されているかを簡単に解説しよう。
いま、社会がn人で構成されているとする。そして社会における所得の分布がベクトルY=(Y1,Y2,・・・,Yn)で表されているとしよう。ただしベクトルの要素はY1≦Y2≦・・・≦Ynという具合に昇順で並んでいるとする。社会が十人で構成されており各個人の所得(単位はさしあたり万円としよう)が、
(1,6,3,4,2,5,1,8,4,7)
であるとすれば、ベクトルyは昇順で並べるから
Y=(1,1,2,3,4,4,5,6,7,8)
である。ここで
Fi=n分のi;累積人員比率
φi=n分の1シグマk=1からiまでμ分のYk;累積所得比率
μ=n分の1シグマi=1からnまでYi;平均
と定義しておく。さらに分布Yのローレンツ曲線も定義しておこう。
直交座標平面(F-φ平面)で原点0からn個の点(Fi,φi)をi={1,2,・・・,n}の順に直線で結んだものをローレンツ曲線と呼ぶ。下の図の赤い線がローレンツ曲線である。対角線である青い線を「完全平等線」という。
「ローレンツ曲線」
横軸F=成員割合,縦軸φ=累積所得比率
青い線=完全平行線:(F,φ)=(0.2,0.2)(0.4,0.4)(0.6,0.6)(0.8,0.8)(1.0,1.0)
赤い線=ローレンツ曲線:(F,φ)=(0.2,0.05)(0.4,0.1)(0.6,0.2)(0.8,0.5)(1.0,1.0)
ジニ係数の定義は
G=シグマi=1からnまでシグマl=1からnまで(2μn2乗)分の(Yi-Yl)・・(1)
である。この式の意味は、「n人の成員より片っ端からペアを取りだし、その絶対差を合計したうえで、標準化するために2μn
2乗で割る。」というものである。
(1)式をφi(累積所得比率)を使って表現すれば
G=1+n分の1-2シグマi=1からnまでn分のφi・・・(2)
となることが知られている。{(1)から(2)への証明はたくさんあるが、特に両式の理論的含意を明確化したものに、Kimura,K. 1994 "A Micro-macro Linkage in the Measurement of Inequality:Another Look at the Gini Coefficient," Quality & Quantity 28:83-97 がある。}
nが十分に大きければn分の1は、ほとんど0と見なすことができるので省略されることも多い。ローレンツ曲線は対角線を中心として、外側に位置しているほど(対角線より下方に位置するほど)不平等度が高いことを意味する。
今、二つの社会から二つのローレンツ曲線が得られたとしよう。曲線が交差していないとき、外側にある曲線はローレンツ劣位であるといい、内側にある曲線はローレンツ優位であるという。対角線(完全平等線)とローレンツ曲線で囲まれた部分の面積を二倍したものがジニ係数である。
まず、ローレンツ曲線下部に棒グラフがずらりと並んでいるとしよう。
「棒グラフ」
横軸F=成員割合:縦軸φ=累積所得割合
F=0.1:φ=0.03
F=0.2:φ=0.05
F=0.3:φ=0.09
F=0.4:φ=0.1
F=0.5:φ=0.18
F=0.6:φ=0.2
F=0.7:φ=0.35
F=0.8:φ=0.5
F=0.9:φ=0.75
F=1.0:φ=1.0
(上の棒グラフがそれだと無理矢理思うことにしよう。随分隙間が空いてるが、これがぎっしりつまっているところを想像して欲しい。)
各棒グラフの横の辺の長さは全て定義よりn分の1であり、縦の辺の長さは左から数えて何番目にくるかによって異なり、i番目にあたる棒グラフの縦の辺の長さは、定義より、φiである。したがって棒グラフの面積の総和は
シグマφi(n分の1)
である。これを、完全平等線を斜辺とする直角三角形の面積(これは2分の1である)から引いて二倍すれば(2)式とほぼ一致することがわかるだろう。
ジニ係数は完全平等のとき、つまり全員が全く同じ所得を持っている場合に最小値0、完全不平等のとき、つまり一人が社会の富の総額を独り占めしているときに最大値1≒1-(n分の1)をとる。

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(2001年10月14日)