桑山賀行 彫刻展

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 5月9日、桑山賀行 彫刻展に行きました。桑山先生の作品は、これまでに、日展京都展、桑山賀行と土曜会展、六甲山の上美術館で何点も触っていますが、先生の個展は今回が初めてでした。
 会場は、東京の新宿パークタワーの1階で、オープンな、広くてゆったりしたスペースに、大きな作品ばかり20点が展示されていました。私は往復とも、新宿西口近くの三菱東京UFJ銀行前と新宿パークタワー間の無料シャトルバスを利用しました。会場に着くとすぐ桑山先生が出迎えてくれて、早速先生の解説で全作品を手で触れて鑑賞しました。各作品群にはそれぞれストーリーのようなのが感じられ、また、それぞれの作品に表現しようとした先生の気持、さらに先生が目指そうとしてきた世界にほんの少しふれたような気がして、とても素晴らしい展覧会でした。なお、桑山先生の展覧会では、視覚障害者は触って鑑賞できるようになっていて、大きな作品は台の上ではなく床に直接設置され、またどの方向からでも触れられるよう回りに十分なスペースがありました。
 
 今回の個展でもっとも印象に残ったのは、文楽の人形と人形遣い(実はふつうの3人遣いの文楽人形ではなく、1人で1体の人形を操作する八王子車人形をモデルにしている)をテーマに制作を続けてこられた「演者」シリーズです。2006年から2012年までの、計5点が展示されていました。2006年制作の演者は、人形の後ろの人形遣いが、黒子のように、頭巾を被って顔を隠しています。上演が終わって拍手を受けているところらしいです。2007年制作の演者は、前に人形遣い、その後ろに人形という変った配置になっています。人形遣いは目を瞑っていて、人形をどんな風に動かしたらと考えているのにたいして、後ろの人形がこんな風に動かせばいいんだよと教えてあげているところを表現してみたものだとのことです(この作品は内閣総理大臣賞受賞)。2009年制作の演者は、人形遣いが人形を横向きに抱きかかえています。人形の片手がだらりと下に下がっていました。上演前か後か分かりませんが、人形を持って移動しているところのようです。2011年制作の演者は、人形の着物など全体につるつるうっとした感じで、他の演者シリーズとは触り心地がかなり違います。真っ直ぐな姿勢の人形の首元辺に人形遣いの大きな右手と左手が上から真っ直ぐ伸びています。2012年制作の演者は、日展京都展および桑山賀行と土曜会展でも展示されていたもので、人形が左に体を傾け右上を見ている先に人形遣いの大きな右手が上から伸びてきている姿です。なお、六甲山の上美術館には、制作年は分かりませんが、同シリーズの「たそがれて」(人形遣いの右手に人形が乗っている)が展示されています。
 
 次に、放置されてしまった「かかし」をテーマとした作品が4点展示されていました。私はかかしには実際に触ったことがないのではっきりしたイメージは持っていませんが、童謡の「かかし」の歌詞(山田の中の一本足の案山子/天氣のよいのに蓑笠着けて/朝から晩までただ立ちどおし/歩けないのか山田の案山子)を思い出しながら作品に触っていました。「帆」は、倒れたかかしの着物が風をはらんでいるところを表した作品です。「独」は、倒れたかかしのお腹あたりに烏がとまっていて、顔はほとんど真っ逆さまのようになっています。「秋去りて」は、お腹あたりで棒が折れてしまって、顔の下の蓑笠も破れています。「寒烏」は、引っくり返ってしまったかかしの棒の先に、大きな烏が十数羽もいろいろな姿勢でとまっています。(かかしの顔は、目と口がわずかにあるだけでした。)
 
 以下、その他の作品を簡単に紹介します。
 「海の番人」は、六甲山の上美術館にも同名の作品が展示されていますが、それよりももっと頭の部分が大きく、長さが短かくなっています。横に大きく開いた花のようにひろがった胸鰭が印象的です。
 廃墟をテーマとしたような作品が数点ありました。「道」は、手前に女の子が向こう向きに立ち、その前にステンレス板の道が続き、さらに急な階段に向っています。回りは煉瓦のような壁になっていて、古い建物のようです。「昨日見た夢」も、手前に女の子が立ち、その前にざらざらした手触りの山のようなのがあります。これは瓦礫を表しているそうです(ざらざらした手触りは、木屑に接着剤を混ぜたものを付けて作っているとのことです。)瓦礫の向こうには煉瓦壁があり古そうな扉もあります。煉瓦の上には烏がとまっています。「道のり」も同じような作品だっと思いますが、手前に女の子が膝をそろえて腰掛けています。
 「窓」シリーズの作品が2点ありました。1点は、入口のひさしになっている所の下に女の子がこちら向きに立っています。その向こうに大きな窓が2つありました。もう1点は、窓が4つあり、その右上の窓には枯れかかったひまわりの花(茎がぐにゃあーと180度曲がってひまわりの花が下向に垂れている)が入った小さな花瓶があります。(桑山賀行と土曜会展にも「窓」シリーズの別の作品が2点展示されていました。)
 横たわっているような像が2点ありました。「風」は、女の人が、台の上にお尻を乗せ、左脚の上に右脚を重ねるようにして伸ばし、上半身は斜めに起こして、右腕で顔を被うようにし、左手で右手首をつかんでいます。「私」も、記憶がちょっとはっきりしませんが、片膝と片手をついて横たわっている像です。
 「夏の日に」は、ほぼ等身大の若い女の水着姿の木像です。鑿痕があまりなくて、とくに肩先などはすべすべしています。脚の筋肉などのふくらみ具合などとてもリアルな感じで、一瞬ロダンなどのブロンズの作品を連想したほどでした。初期の作品のようです。
 木彫のほかに、ブロンズの作品が2点ありました。「夏」は、浴衣姿の女の子です。腕を前で組んでいて、手は着物に隠れて省かれているようです(最初は人の各部分を丁寧に作っていたそうですが、次第に省ける所は省きたいと思ってこのような姿の像を作ったりしたとのことです)。「楽人 古代壺より」は、ブロンズの、ちょっと変った作品です。全体の形は、壺を縦に半分に割ったような形です。壺の上縁にいくつも突起が並んでいて、楽人を表しているようです。中央部にも横に大きく裂け目があって中に手を入れることができます。蝋で型を取ったとかで、ブロンズでもこれ1点しか出来ないということです。
 
 20点も触ったので印象がぼやけてしまっている作品も多いですし、作品の良さをうまく表現できていませんが、私にとってはとても素晴らしい展覧会でした。今年1月から先生に薦められたこともあって木彫を始めていますが、ほんのわずかでも参考にできればと思っています。先生に感謝です!
 
(2014年5月12日)