六甲山の自然観察

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 六甲山自然保護センターでは、「山の案内人」というボランティアの方々が自然観察会を行っています。4月から11月までの毎週土曜と日曜、それに祝日に、午前11時と午後1時半からの2回、それぞれ約1時間行われています。
 また、六甲高山植物園でも、4月から11月まで、平日は午前11時と午後2時からの2回、休日は午前11時と午後1時と2時半からの3回、園のスタッフが見ごろの花を中心に約30分ガイドをしています。
 以下に、私が参加した六甲山自然保護センターの自然観察会および六甲高山植物園のガイドの記録を掲載します。
 
◆7月
 7月26日、六甲山自然保護センターの自然観察会に、私より10歳以上は上のMさんという方と2人で参加しました。
 私たちは、阪急の六甲駅から、神戸市バスで六甲ケーブル下駅、そこから六甲ケーブルで山上駅に行き、そこからは徒歩で20分くらいで自然保護センターに着きました。(ケーブルの山上駅からは、六甲山上バスに乗れば5分くらいで記念碑台に着き、降りてすぐの所です。)
 私たちは午前11時からの観察会に参加しました。Aコースだということですが、たぶん一番簡単なコースなのでしょう。そして、実際にはゆっくりあちこちで触りながら歩くこともあり、途中で引き帰して12時過ぎに戻りました。
 回りの草や木にいろいろ触り、土の道を踏みしめ、ときには木に身体をくっつけたり、また鳥や虫の鳴き声を聞いたり、私にとってはとても良い時間でした。案内をしてくれた方のお話も、触らせてくれるいろいろな物たちも、とても興味を魅くものでした。私は、小さいころ育った環境を思い出しながら、私にはこのような観察会がとてもフィットしているのだと、改めて感じました。今後も、できれば毎月1回くらいは行ってみたいと思っています。
 
 以下に今回触った植物たちについて書いてみます。一部不正確な所もあるかと思いますが、ご容赦ください。
 
●アジサイ(紫陽花)3種
 今回の観察会でいちばんなるほどと思ったのが、あちこちに咲き誇っていたアジサイたちについてでした。
 アジサイには、大きく分けて3種があります。原種とされるのがガクアジサイ(萼紫陽花)です。中心には小さなつぶつぶのような両性花(雄しべと雌しべがあり、結実する)が密集しており、その回りを4、5枚の花びらのようなものからなる花が取り巻いています。この花は装飾花と呼ばれ、花びらのようなのは萼が変化したものとのこと。また、この花の中心には小さなつぶのようなのがありますが、雄しべ・雌しべの役割は果さず、種になることはできないそうです。この装飾花の役割は、虫を引き付けて中心の両性花の受粉を助けるためらしいです(装飾花の花弁のようなのが下向きに引っくり返っているのもありましたが、この場合は中心の両性花がすでに結実し終わったものでした)。ガクアジサイの種子はとても軽くて風に飛ばされて、例えば高い石垣の途中や急な斜面などにもたくさんガクアジサイが見られました。
 ふつうのアジサイ(私が触ったのはテマリアジサイ)は、両性花はなくなり、ガクアジサイでは周辺にあった装飾花だけが、大きな房状に密集しています(ガクアジサイの装飾花の花弁よりもテマリアジサイの花弁のほうがつるつるしていましたし、また形も花らしかった)。なお、タマアジサイ(球紫陽花)というのもあって、これは、最初は本当に真ん丸い球の形で、それが次第に割れてきて、最後にはふつうのテマリアジサイのように房状になって咲いていました。(ふつうのアジサイは、どのようにして種を作るのかは分かりませんでした。)
 もう1種、コアジサイ(小紫陽花)というのにも触りました。これには装飾花はまったくなく、小さめの花が密集していました。
 一度に3種のアジサイに触れるとは、たぶんとてもラッキーなのでしょう。
 
●おおばこ
 子どもの時に、茎を2つに曲げて、互いに引っ掛けて引っ張り合って遊んだことのある、なんかなつかしい植物。葉や茎には強い繊維があるので、踏まれても踏まれても生き延び、路上などによく育っている(人に踏まれなくなると、他の植物に負けて消滅しやすい)。
 種は湿るとねばねばになって、人の靴屋動物の足にくっついて運ばれるという。
 
●クロモジ(黒文字)
 細い枝がぱきぱきと折れて、その折り口がいいにおいがする。お菓子などの楊枝は、この木が材料になっているとのこと。
 
●ブナの種
 下に4枚がくのようなのが広がっていて、上に3角錐のような形のものが2個開いている。この3角錐の堅果の形は、ソバの実に似ているので、そばぐりとも呼ばれるそうです。
 後で、ブナの若木の根元まで行って、まだ細い木の肌に触れる(小さなうろもあった)。また、記憶がはっきりしませんが、ブナの葉にも触った。20cm近くある長い葉で、回りはゆるやかにカーブした鋸歯になっていたと思う。ブナは温帯林の落葉高木の代表的な木で、この辺では1000m前後から1500mくらいの山で生育しているそうです。しかし最近は、六甲でも温暖化の影響で、ブナの元気がなくなっているそうです。
 
●マユミ(真弓)の実
 直径5、6mmくらい。円柱を2つ交差させたような形。マユミは、柔軟で、古くは弓の材に使われたと言われる(今は将棋の駒などに使われるそうです)。
 
●笹と竹の違い
 笹を触った。茎には節がありつるつるしているが、皮に被われている。これにたいし、成長した竹は外側が剥き出しでつるつるして皮がなくなっている(たけのこにはもちろん皮はある)。さらに、笹の葉は真っ直ぐ縦に裂けて並行脈であるのにたいし、竹の葉は縦にも横にも脈がある。また、青森では笹薮はいくらでもあったが、竹薮はあまりなかったように思う(竹は寒冷地には適していないかも)。
 また、「破竹の勢い」という言葉に関連して、竹の成長についてお話を聞きました。ふつう植物は、茎の一番上の成長点で細胞分裂して成長しますが、竹の場合は一番上の成長点とともに、それぞれの節の上に細胞分列して成長する所(成長帯というようです)があり、例えば節が20個あれば、20箇所で同時に成長するため、成長がとても早いということです。(1日に1m以上成長することもあるとのことです。)
 
●サルトリイバラの葉
 直径10cm弱で、先のとがった円い形。中心の太い葉脈の両側に、ゆるやかに内側にカーブした葉脈があって、両方でちょうど楕円形のようになっている。九州では、ちょうど柏餅のように、この葉を半分に折ってそこに餅をはさんで食べるとか。
 
●チゴユリの実
 直径5mmくらいの、つるつるした丸い形。その回りには、長さ5cmほどの細長い葉が交互に付いている。
 
●ウツギ(空木)の実
 直径5mm弱のざらざらした感じの丸い実。軸があって、上から見るとこまのような形に見えるとか。実がざらざらしているだけでなく、小さな葉も両面ともざらついていた。空木の木は、字の通り、中が空洞になっているとか。
 
●コシアブラ(漉油)の葉
 1箇所から5枚の葉が出ている(私のサンプルは、1枚が葉元だけで成長していない)。それぞれの葉は、長さ10cmほどの、先のややとがった卵形。葉は薄くて、斜めに走る細かい葉脈までよく触ってわかる。
 なお、漉油という名前は、この木の樹皮から樹脂液をとり、漉して塗料(金漆(ごんぜつ))をつくったことに由来するとのことです。新芽は食用となり、天ぷらにすると美味しいとか。
 
●エゴノキの実
 長さ1cmくらいのやや細長い形。もっと成熟すると丸い形になるとか。
 「エゴ」は「えぐい」から来ているらしい。果皮にはサポニンが含まれていて、えぐい味がして有毒。なお、サポニンとシャボン玉の語源は同じで、サポニンを水に混ぜて振ると泡立ち、むかしは石鹸の代わりに使われたこともあるとか。
 
●ヘクソカズラ:
 つる植物。葉をくちゃくちゃにしてにおいを嗅ぐと、「うっ」とするような嫌な臭い。この臭いから名前が付けられたようだ。葉をそのまま嗅いでもそんなに嫌なにおいではない。
 密生した花の1つ1つは5mm弱くらいと小さく、中心がピンク、回りが白で、その小さなピンクが灸の跡に似ているらしくヤイトバナの名もある。また、早乙女花とも呼ばれるとかで、それは、密集した花の群を遠くから見ると早乙女のかんざしのようにも見えるからだとか。
 
●ハキダメギク
 直径2、3mmほどの小さな花。帰化植物で、道ばたやごみ捨場によく生えている。大正時代に牧野富太郎が、世田谷の経堂の掃きだめでこの花を見つけて、このように名付けたとか。
 
●シシガシラ
 しだの仲間。全体は長さ40cmくらいの細長い形。魚の骨のように、中心の太い軸から横に斜めに5cmほどの葉が連なって伸びている。私にはこのようなしだの感触は好ましい。
 
●アセビの葉と実
 長さ6〜7cm、幅2cm弱の細長い葉で、葉の縁は細かい鋸歯状。葉の表面はつるつるしていて硬そう。1箇所から葉が多数出ていて密生している。その間に、直径3mmくらいの丸くてつるつるした実のようなのが数個ある。
 六甲山は花崗岩が風化した酸性土壌が多く、このような地ににもアセビは好んで繁茂し、その密生した枝葉のために陽が遮られ林床になにも育たなくなるとか。なお、枝葉にはアセボトキシンとかいう有毒物質があり、殺虫剤に使われたとも。
 
●オオバヤシャブシのなにか?
 花粉が出来ってしまったという、オオバヤシャブシのなにかを触りました。大きさは、直径1cmくらい、長さ3cmほどで、紡錘形をしています。表面はざらざらしていて、松ぼっくりのようなものなのでしょうか?よくは分かりません。オオバヤシャブシという名は初めて聞きましたが、この辺ではよく見かけるようでとくに珍しいことはないようです。花粉が大量に出て、花粉アレルギーの原因にもなっているとか。
 
 以上、観察会で触ったいろいろな植物を紹介しましたが、植物以外にも、ヒグラシ(蜩)のぬけがら(長さ2cmくらいで、小さい)に触ったり、エゾゼミの羽化したばかりと思われる成虫をつかまえてもらって、指の上ではわしてみたりしました。また、サンコウチョウ(三光鳥)という、鳴き声もとてもきれいで特徴のある鳥も教えてもらいました。(そのきれいなさえずりが「ツキヒホシ(月日星)ホイホイホイ」と聞こえるということから、この名が付けられたとか。雄の尾が長く見た目もきれいなようです。)
 
◆8月
 8月29日、今回も先月と同様、Mさんと六甲山自然保護センターの午前11時からの自然観察会に参加しました。今回も前回と同じくAコースでしたが、1時間半くらいかけて最後までゆっくり回りました。
 
●アジサイ
 ガクアジサイとコアジサイは、花は終わって、つぶつぶの実になっていた(その実の集まった形が水瓶型だと言っていました)。ガクアジサイの装飾花は、役目を終えたのでしょう、下向きになっていた。装飾花がなく両性花だけのコアジサイは、香りで虫を誘引しているとかで、花が咲いている時はとてもよい香りがするとか。(装飾花だけのテマリアジサイは、まだ咲いているものがかなりたくさんあった。)
 
●ブナの葉
 ブナの葉の付き方について、ブナの若木を触りながら、教えてもらいました。枝の1箇所から向い合わせで2枚の葉が出ています(対生)。そして、その下では、90度くらい方向を変えて2枚の葉が向い合わせで出ています。これを十字対生というそうです。(アジサイの葉も十字対生になっている。)
 触ったブナの葉は、ちょっと波打ったような感じの曲面になっていました。標高が千メートルもない六甲では、ブナはかなり減っていて、今は百本くらいしかないとか。
 
●ミズヒキ(水引)
 細い茎が、50〜60cmはあるでしょうか、すうっと長く伸びていて、下のほうは葉、上のほうに小さなつぶのような花がぱらぱらと並んで付いている。葉は、茎から少しずつ角度を変えて出ている(互生)。花は小さくて触っては分からないが、4枚のがく片からなり、うち3枚は赤、1枚は白。細長い花茎を見ると紅白に見えて、祝儀袋などに使うあの水引のように見えるのでのこの名になっているらしい。
 
●ハコネウツギ(箱根空木)の実と枝
 長さ3cmくらい、径4mmくらいの、バナナのように少し湾曲した形の実がたくさん並んでいた。後でそれを割ってみると、青臭いにおいがして、小さな小さな種がたくさん入っていた。
 径が6、7mmくらいの枝を折ってみると、中に径が3、4mmほどのかなり大きな穴が貫通していた。「空木」の名の通りだと思った。
 
●ノコンギク(野紺菊)
 50cmくらいあり、全体にばさばさしている感じ。葉は細長い楕円形で、両面ともざらざらしているのが印象的(硬い毛がある)。花は薄紫色で、この名があるとか。
 
●エゴの実
 エゴの実(長さ1cm、径5mmくらい)がたくさんあった。これを砕いてペットボトルに入れて振ると、ぶくぶくの泡になるとか。これは有毒で、以前には魚取りにも使ったとか。
 
●アセビ(馬酔木)
 密生している葉は、硬くつるつるで、縁はがたがたぎざぎざの感じ。漢字名の「馬酔木」は、馬がアセビの葉を食べると酔ったようになる、ということから。文学ではふつう「あしび」と言われ、万葉集にもいくつも詠まれているそうです。
 
●モリアオガエル
 道端の葉などにモリアオガエルの小さなあかちゃんがたくさんいる。(葉の色と一緒で、気を付けないと分からないらしい。)案内人の方にちょっとつかんでもらって、そっと触った。大きさは2cm余くらいか(まだ尻尾はあるらしい)。ぴょこっぴょこっと手の中で動き回る。私の手から離れて、また葉の上にうまく行ったとか。
 樹上で産卵し、白い泡上になり、オタマジャクシが孵って下の池に落下し、ちょうど8月下旬ころ池から上がってくるそうです。ちょうど良い機会にめぐり合わせたことになります。
 
●アカシデ(赤四手)
 径が30〜40cmはある大きな木。木肌は滑かで、材はとても堅そう。幹は、うねうねと、あちこち出っ張ったり凹んだりしていて、なんとも言えない形。(杉の木にも触ったが、そのほぼ円柱の真っ直ぐ伸びている幹とは対照的。)「赤四手」という名は、若芽が赤く、また花穂が注連縄などに付ける四手に似ているからだとか。
 
●サルトリイバラ
 茎の多数の小さなとげにそっと触る。葉には殺菌作用があって、餅を包むのに使われる。
 
●タンナサワフタギ(耽羅沢蓋木)
 細長い葉が何十枚も水平に広がっている。「耽羅」は、韓国・済州島(チェジュド)の古名(チェジュは、李氏朝鮮に征服されるまでは耽羅国という独立した国だった。朝鮮から差別的なあつかいを受けることも多かったのでわ)。また、葉が沢を覆うように繁茂するので「沢蓋木」という。確かに、水の流れの音のする所にこのタンナサワフタギがずうっと生えていた。たぶん、日本ばかりでなく朝鮮にもこの植物は多いのだろう。
 
●ミヤコザサ(都笹)
 50cm前後の細い茎の先端部に、細長い葉がまとまって付いている。最初比叡山で発見されて、京都の都に近かったのでこの名が付けられたとか。
 
●キクバヤマボクチ(菊葉山火口)
 1m近くもあって、葉がわさわさと広がっている感じ。大きな葉が、菊の葉のように掌状に裂けており、また、葉の裏面に密生している白い毛を集めて火口に使っていたので、この名になっているとか。たぶん花だと思うが、上には硬いかさかさした感じのつぶつぶの花がまとまって小さな卵のような形になっていたのがあった。
 
●リョウブ(令法)
 径が20cmくらいはある大きな樹。樹皮は滑かで、薄く縦に剥げ、剥げた所はつるつるになる。
 
●コウヤボウキ(高野箒)
 1m近くあって、枝葉がばらばらと別れている。枝には弾力があるようで、まとめて箒に使えなくもないような気がする。高野山では、竹など利益を産むような植物は植えてはいけないということで、これが箒に使われるようになって、そのことからこの名になったとか。案内をしてくださった方は、正倉院展で、このコウヤボウキの枝を束ねて玉で飾った「玉箒」を見たそうです。(コウヤボウキは、伏見の酒倉で、酒桶についたにごりの泡をふきとるのにも使われたそうです。)
 
●ゼンマイ(薇)
 「ゼンマイ」といえば、あのくるくると巻いている姿を想像するが、触ったのは、そのゼンマイが成長して葉がのびのびと広がっているもの。小さな葉が多数平面状にきれいに並んでいて、確かにシダらしいと思った。
 
●コツクバネウツギ(小衝羽根空木)
 茎の両側に、対生で細い葉が斜め上に向ってずらあっと並んでいて、魚の骨のように見えるとか。「空木」とあるので、茎の中がどうなっているのかと思い茎を折ってみたが、中は詰まっていた。
 
 その他にも、アキノタムラソウ(シソ科の植物で、細い茎は角ばっていた)やダイコンソウ(葉が大根の葉に似ているとか)、キイチゴ、また先月にも触ったコシアブラやクロモジなどにも触りました。一瞬でしたが、相思鳥の鳴き声も聞こえました(相思鳥はその美しい姿と鳴き声により飼い冬とされているそうです。逃げ出して野生化したものかも、とのことです。)
 
◆10月
 10月3日、Mさんと一緒に、六甲高山植物園の午前11時からのガイドに参加しました。
 六甲高山植物園は、六甲ケーブルの山上駅から六甲山上バスに乗り、「高山植物園」で降りてすぐの所です。東入口から入ったのですが、ガイドは西入口から出発するということで、あたふたと西入口に向いました。
 参加者は私たちのほかに2人くらいで、ガイドの方が、植物園内の花などは本来は触れないが、今日はいいですよと言ってくれて、触れてもよさそうなもの、分かりやすそうなものを選んで触らせてくれました。
 
●ヤマトリカブト(山鳥兜)
 ガイドの初めはヤマトリカブトでした。あわい紫の花が咲いているようでしたが、有毒だということで、触るのは控えました。(ちなみに、「鳥兜」とは舞楽に用いる鳳凰の頭をかたどった冠のこと。また、猛毒で矢毒などによく使われたが、薬草としても利用されたという。)
 
●リンドウ(竜胆)
 私は2本のリンドウに触りましたが、思っていたより背が低くか弱い感じがしました。高さは30cmくらいだったでしょうか?(野生のものは背が低いそうです。)葉は細くてざらついた感じ。花は小さくてふわっとした感じで形はよく分かりませんが、釣鐘型だとか。陽が射すときにだけ花が開くそうです。
 
●キクバヤマボクチ(菊葉山火口)
 ちょうど花が咲いていて、花はかさかさした感じの丸い塊のようなもの(頭花というらしい)。花は、針のように細いのが集まっている感じですが、表面に触ってもぜんぜん痛くありません。この丸い塊の上に、ふわふわとした毛のようなのが盛り上がっているものもたくさんありました。
 
●ヨシノアザミ(吉野薊)
 細長い葉の縁に棘があって、触りにくいです。紫色っぽい花が咲いていました。花のあとの実が熟すとふわふわの毛に包まれ、中には触っても分からないほど小さい粉のような種が入っていました(記憶がはっきりしなくて、別の花のものだったかもしれません)。ちなみに、名の「吉野」ですが、吉野地方の意ではなく、植物学者吉野善介に由来するとのことです。
 
●フジアザミ(富士薊)
 ヨシノアザミに比べるととても大きかったです(国産のアザミではもっとも大きい種だとか)。葉は、地面に平行に横に広がっていて、長さは50cm以上、幅も7、8cmはあったと思います。葉の縁には2cmくらいの鋭い棘が並んでいました。
 
●シャクナゲ(石楠花)
 花は5月ころに咲くとか。1箇所から長さ20cm余の細長い葉が5枚出ています(輪生)。その5cmくらい下からも同じように葉が出ています。葉はやや厚く、裏側は毛で覆われていて、触ってとても気持ちよかったです。
 
●ヤクシマシャクナゲ(屋久島石楠花)
 シャクナゲよりだいぶ小さくて、1箇所から長さ7、8cm、幅2cm弱くらいのかなり肉厚の葉が出ています。葉の横縁も先端も裏側にかなり反っています。葉の裏側には毛があります。
 
●イブキジャコウソウ(伊吹麝香草)
 地面に這うように細かい葉が密生しています。その葉に手を押しつけるようにして触ると、とても好い匂がします(ハーブとして使われるタイムと同じような匂)。喉が痛い時などの生薬にもなるとか。シソ科の植物だそうです。
 
●ニッコウキスゲ(日光黄菅)
 花はすでに終わっていて(朝開いて夕方にはしぼむ一日花だそうです)、種が熟していました。鞘のようなのを手の上で振ると、中からたくさん小さな角張ってつるつるした種が落ちてきました。
 
●ウラジロモミ(裏白樅)
 マツ科の常緑針葉樹ということだが、針葉は柔かくて、触っても痛くはありませんでした。少し強く触るとジントニックのような匂がしました。
 
●ホオノキ(朴の木)とトチノキ(栃の木)
 ホオノキとトチノキの落ちた葉を触りました。ともに大きな葉で、一見似ているように見えるとか(触ると、朴葉の縁はすうっとした曲線なのにたいし、栃の木の葉の縁は大きな切れ込みが並んでいます。また、葉の表面の感触も朴葉のほうがなめらかな感じ)。朴の木の葉は輪生で、1箇所から6、7枚くらいの葉が出ていて、それが1枚1枚別々に落ちるのにたいし、栃の木の葉は、茎から葉柄が長く伸び、その先に5、6枚の小葉に分かれた大きな葉になっていて(掌状複葉)、葉柄の付け根からまるごと一度に落ちる、ということです。
 *朴葉は、小さいころ朴葉味噌とか食べ物を包んで食べたりしたことがあって、懐かしいものです。朴葉の裏側にはやわらかな毛のようなのが全面にあったはずですが、触ったのが紅葉して落ちていた葉だったためでしょうか、毛は感じられませんでした。なお、私は朴の木で少し彫刻もしたこともあります。
 *今回は触りませんでしたが、あの大きな栃の実も印象に残っています。それを加工した栃餅はおいしいですよね。栃の実は、そのままではとても食べられませんが、縄文時代からいろいろ手を加えて食べられていたとのこと。ちょっと調べてみると、苦みの成分は非水溶性のサポニンとアロインで、水にさらすだけではまったく食用にならず、木灰でアルカリ中和して除かなければなりません。栃の実から栃餅を作る一連の過程は、種子の採取→水の中に浸けて虫を殺す→乾燥→皮むき→水でさらす→木灰で煮る→さらに灰を加えてそのまま2日ねかせる→木灰から取り出し、水洗→餅米を加えて蒸して餅にする・・、ということだそうです。
 
●ブナとイヌブナ
 大きなブナを身体で感じることができました。中央に直径1m以上はある幹、そこから直径50〜60cmはある大きな枝が左右に斜め上に向って対称的に伸びています。樹に身体を預けながら樹皮に触ると、これまたとても硬そうでなにかで磨いたかのような手触りです。横に細い筋のようなのが連なっている感じですが、大きな凸凹はなくつるつるした感じでとてもきれいです。色は白っぽいということですが、これは樹皮が地衣類で覆われていて、その色のようです(コケに覆われている所もあって、そこはちょっと緑色っぽいようです)。雨が降ると、このブナの木の幹を雨が流れ下り、ブナや地衣類やコケに含まれるいろいろな成分も含んだその水は地面に浸み込み、豊かな土壌をつくるそうです。樹皮がこんなにもきれいなのは、この流れ下る雨にもよるのかも知れません。なお、ブナは六甲山では今は百本余しかなく、このブナも貴重な1本ということになります。
 イヌブナは、葉に触っただけです。イヌブナは黒っぽい色をしていて(それでイヌブナはクロブナとも呼ばれるそうです)、樹皮はざらざらしていて、もっと凸凹もあるとのことです(植物名にしばしば付いている「イヌ」という接頭辞は、犬にはまったく失礼な話ですが、本種よりも劣った性質を示していて、イヌブナの材質はブナに比べると悪いそうです)。イヌブナとブナは、その葉の葉脈の数で区別できるとかで、私の触ったイヌブナの葉脈を数えてみたら、12〜13本ありました。葉脈が10本以上だとイヌブナで、10本以下だとブナだそうです。なお、六甲ではイヌブナはブナに比べてかなり多く、3000本以も上あるそうです(ブナのほうがずっと利用価値があるので、伐採されやすかったのかも知れません)。
 
●ツリフネソウ(釣船草)
 釣船草という名前は、その花の形が帆掛け舟をつり下げたように見えるからだということで花に触ってみましたが、か弱そうな花で形ははっきりとは分かりませんでした。種子は小さな鞘のようなのに入っていて、それがはじけると細かい種がたくさん出てきます(刮ハ(さくか)というそうです)。
 
●ガラス温室の中の植物
 小さなガラス室があって、中に入るとちょっと暖かい感じがします(あまり湿気は感じられず、ふつうの温室とは違って、けっこう乾燥していたように思う)。まず、シクラメンの原種(シクラメン・ヘデリフォリウムという種類)というのに触れました。茎は細く、また下を向いている花も小さくて、か弱い感じがします。驚いたことには、花が咲き終わった後は、茎が直径1cm弱の螺旋状にくるくると巻いていました。どうしてこんなことになるのでしょうか?(また、私が触ったシクラメンの茎にはなぜかまったく葉がなかったように思う。)
 食虫植物のムシトリスミレの葉に触りました。長さ5cmほどの楕円形で、地面すれすれに水平にひろがっています。表面はけっこう硬そうですべすべしていますが、陽射しのせいなのかかなり暖かくて、まったくねばねばした感じはありませんでした。
 レウイシア・コチレドンとかいう、サボテンのとげのないようなものにも触りました。分厚い葉のようなのが重なり合うように広がっていました。また、クモノスバンダイソウ(蜘蛛巣万代草)という、多肉質の寒さに強い植物にも触りました。葉先から長い毛が出て蜘蛛の巣状に覆うそうですが、触った感じは、鉢一杯に丸っぽい球のようなのがたくさんごつごつしている感じで、よく分かりませんでした。
 
 その他、マツムシソウの花やヤマラッキョウにも触りましたが、感触は少しは覚えているものの、よく分かりませんでした。
 30分余のガイドで、花を中心に本当にたくさんの植物たちに触れさせてもらいました。1度の解説では記憶がなかなかついて行かず、あまりよく文章にまとめることもできませんでした。それでも、いろいろな花たちに触れ、シクラメンの螺旋に巻く茎など、とても面白い触察体験もしました。春にはカタクリの花も見られるとのこと、来春にはぜひカタクリとも出会いたいと思っています。
 
◆10月
 10月26日にも、六甲高山植物園の午前11時からのガイドに参加しました。季節は進み、六甲では一部で紅葉がはじまっていました。しばしば落ち葉の上を歩き、そのふわふわした、ときにはすべすべしたような感触を足で楽しみ、またブナなどの木の実を拾ったりしました。同じ1本の木でも、上のほうは少し赤く黄葉し、下のほうはまだ緑のままの木、右側が赤く色付き、左側が黄色く色付いている木など、様々のようです(日当たりの良い側が赤く色付いているようです)。葉が赤くなるのは、気温が下がり温度差も大きくなると、葉の付け根に離層が形成され、葉で作られた糖類などの養分の移動が妨げられて葉中に蓄積され、その糖がアントシアニンという赤い色素に変わることによるらしいです。いっぽう黄葉は、日光の量が減って葉緑素のクロロフィルがなくなってゆくと、葉の中にもともとあったカロチノイドのために黄色くなるからのようです。
 前回も触ったキクバヤマボクチ(花が終わってかさかさした感じになっていた)やリンドウなどにも触りました。以下では今回新たに触ったものを中心に紹介します。
 
●マムシグサ(蝮草)
 茎の天辺に、直径5mmくらいの小さな実が多数まとまって、ちょうど小さなトウモロコシを思わせるような感じで付いています。茎は、直径2cmくらいで、長く斜めに地面まで1m近く真っ直ぐ続いています。茎の途中で1箇所だけ葉が左右に伸びていました(すでに枯れかけていましたが)。茎には縞になった斑模様があって、これがマムシの模様に似ているのでこの名になっったとか。また、この茎の模様や葉の形がコンニャクに似ていることから、ヤマコンニャクとも呼ばれるとか。
 マムシグサのこの実ですが、ちょっと軟らかそうでつい食べてみたくなりました。でもこれは、有毒で、口に入れると痺れるような痛みがあるとか。こんなにも目立つ実なのに、鳥などに食べられたような形跡がないのはそのためなのかも知れません。
 
●サラサドウダン
 サラサドウダンの葉に触りました。長さ3〜4cmくらいの先のとがった細長い葉が輪生しているようです。少し色付いてきれいなようです。ドウダンツツジの仲間だそうです。花の内側は淡黄色の地に紅色のストライプ模様が入っていて、これを更紗模様に見立ててこの名になっているとか。
 
●アカヤシオ(赤八汐)
 これもツツジの仲間だそうです。
 
●タムシバ
 タムシバの葉に触りました。10cmほどの細長い葉で、嗅ぐといいにおい(すっきりしたような感じのにおい)がしました。葉や枝を噛むと甘いような味がして、カムシバなどとも呼ばれ、それからタムシバに転訛したとか(ガイドの方が実際にワークショップで噛んでみたそうですが、とても甘いとはいえない味だったそうです)。また、花はコブシに似ていて、芳香があるので「ニオイコブシ」とも呼ばれるそうです。
 なお、タムシバだったかどうか記憶がはっきりしませんが(シャラノキ=ナツツバキだったようにも思います)、幹は樹皮があちこち剥けてしまったような感じですべすべしています。一部樹皮が残っている所も触るととても薄く剥げます。見た目は迷彩色のように見えるとか。ちょっとサルスベリの幹の感じに似ているようでした。
 
●シロモジ
 シロモジの葉に触りました。葉の先の部分が3つに別れています。その内の両側の2枚はそれぞれ先がとがった三角形のようになっていますが、中央のは外側が少し円っぽくなっていて、裂け目の根元のほうでは両側の別れた葉との間に少し穴が空いたようになっています。なお、この葉もちょっと良い香りがしました(クロモジの仲間だそうです)。
 
●コウヤマキ(高野槙)
 コウヤマキの幹に触りました。樹皮は軟らかく滑かで、触ってあたたかそうな感じがしました。樹皮は、3cmくらいの幅で縦に盛り上がった筋がいくつもきれいに並んでいるようになっています。このように樹皮は軟らかいですが、中の材はかなり硬いようで、建築材をはじめいろいろな物に使われ、よく寺院などにも植えられているそうです。また、弥生時代以降の遺跡で木棺や井戸の材料などとして使われたコウヤマキが出土していることも聞いたことがありますので、かなり耐久性にも優れていると思います。
 
●カナクギノキ
 初めて聞いた名前でした。カナクギノキの幹に触りました。乾いたがさがさした感じです。少し強く触るとぼろぼろと剥げ落ちてきます。クスノキの仲間だとか。
 
(2015年8月4日、8月31日、10月10、11月2日日更新)