六甲山の上美術館の「さわる絵」の展示会

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 10月2日から28日まで、六甲山の上美術館で「Feel Me Painting (絵を手で感じてください)」というさわる絵の展示会が開かれています。
 私は10月3日にMさんと一緒に行って、10点ほどのさわる絵を鑑賞しました。出品者は、笠原千佐代(かさはら ちさよ)さん、岡本弥生(おかもと やよい)さん、吉用明敏(よしもち あきとし)さん、出口 修(でぐち おさむ)さんの4人です。
 アクリル絵具などを使って、凹凸や輪郭が触って分かるように描かれています。額には入っていますが、上にガラス板のようなのはなく直接触れるようになっています。大きさは、いずれもA4サイズくらいのものです。
 説明を聞きながら触ると、絵の全体の校正や各部分の少し細かいところまでかなりよく分かりましたし、また、大きさの違いや浮出しの高さの違いを注意深く確かめるように触ると、遠近感なども分かりました。なお、各作品には点字の簡単なキャプションも付けられています。また、一部の作品には、その作品のテーマとなっている実物資料も添えられていました。
 以下、各作品について点字のキャプションも参考にしながら紹介します。
 
●水鳥
 画面中央に大きな水鳥(鴨)が描かれ、回りは水面になっています。鴨は、向って左にくちばしがあり、それをたどってゆくと目があり、さらにその右には羽が広がっています。鴨が泳いでいる方向(左側)には同心円のような水の波紋があり、また下のほうにも水平な数本の波紋があります。鴨の下には、水面に映ったその影も描かれています(影の頭や尾の部分は触って少し分かる)。
 
●孔雀
 大きな孔雀の胴から上の部分が描かれています。右を向き、くちばしを大きく開けています。頭の上には数本の飾り羽があり、また左にたどってゆくとたくさんの羽があります。
 この作品には、本物の孔雀の羽が並べて展示されていました。
 
●紫陽花
 中央に大きな紫陽花の花があり、その奥の左右にも紫陽花の花があります。紫陽花の花は、4枚くらいの花びらからなる小さな花がたくさん集まっています。回りには、大きな葉もあります。
 上からは細い線が何本も伸びていて、これは雨を表しているようです。(雨は、視覚では斜めから角度を変えて見ないと分からないそうです。雨は見た目よりも触ったほうが分かりやすいのではということでした)。
 この作品にも、紫陽花の乾燥させた花が一緒に展示されていました。
 
●ひまわり
 中央に大きなひまわりの花。その花の中央には、ひまわりの実のようなつぶつぶがたくさん並んでいて、その外側に細長い花びらがたくさん重なるように取り囲んでいます。茎や葉も描かれていて、画面上のほうでは、葉のこちら側の面と裏側の面が並んで描かれていました。(ひまわりの花は、私が小さいころ触っていたあの大きなひまわりとは、ちょっと触った印象は異なるような気がしました。)
 
●ストレリチア
 極楽鳥花とも言われる花で、私はこの絵で始めて知りました。下のほうには細長い楕円形のような葉が数枚あり、途中から長い茎のようなのが右上に伸びて、その先に、まるで鳥が羽を広げたように、10個くらい細長いオレンジ色の花びらが放射状に広がっています。
 この作品の横にも、ストレリチアの葉が置かれていました。この葉は、葉脈に当たるような所が斜めに細長くふくらんでいて(対応する裏側はくぼんでいる)、全体としては波打ったような感じになっています(絵では、葉のところどころがちょっと盛り上がっていた)。
 
●胡蝶蘭
 胡蝶蘭も、私はよく知りませんでした。いくつか花が重なって描かれていて触って分かりにくいですが、中央にほぼ円い形の花びらが4枚、手前の左右に2枚、向う側の上下に2枚、それぞれ対称形にあります。胡蝶蘭という名前は、その花が蝶が舞っているように見えることに由来しているそうですが、確かに蝶が羽をひろげているようにも思われます(ちなみに、胡蝶蘭の学名はPhalaenopsisで、これはギリシャ語phalaina(=蛾)とopsis(=似ている)で「蛾のような」の意だとのこと)。
 画面左下にはつぼみが2個あり、右下と上のほうには葉があります。
 
●オニオオハシ
 大きな鳥(オニオオハシ)が左を向いて木にとまっています。くちばしがとても太くて長く、これにはびっくりしました。オニオオハシは南米の熱帯雨林の林冠に住んでいて、くちばしは黄・オレンジ・赤などカラフルで、また背側は黒、胸側は白で、とても美しい鳥だそうです。くちばしは太いですが、中はハニカム構造(ハチの巣のように6角形の穴が並んだ構造)になっていて、太く長い割には軽いつくりになっているとのこと。
 オニオオハシがとまっている枝はざらざらした感触で、幹から左右にほぼ水平に伸びていました。
 
●蓮
 画面左上に、上向きに花が咲いています。その下の左右に、つぼみが1つずつあります。5枚の大きく丸い葉が全面に重なり合って描かれています。右下には、つぶつぶした感触で小さな蓮の種が描かれています。
 蓮の葉が重なり合っていて、触って理解するのは初めはなかなか難しかったです。
 
●明石市立天文化学館
 縦長の作品です。触ってまず、建物らしい絵ということがすぐ分かりました。真ん中はほとんど画面上端近くまで高くなっていて、塔だということです(ゆるやかな弧状のドームらしきものも分かりました)。向って右側には、石壁なのか煉瓦なのか分かりませんが、1cm四方くらいの菱形がたくさんきれいに並んでいます(触ってとてもここちよい)。その左上のほうには縦向きと横向きに四角い板のようなのがあります(これは看板だそうです)。建物の左側は玄関に向って上り坂になっているようで、その坂の途中に、大人2人と子ども2人、さらにその上のほうに小さく3人が描かれています。一番手前には、道が真っ直ぐ横に伸びています(歩道もあって、そこには点字ブロックもあります)。また、画面左上には大きく松が描かれています(右側にもかなり小さく松が描かれているそうですが、触ってはあまり分かりませんでした)。
 
●富士山
 画面中央に大きく富士山が描かれています。山の輪郭とともに、山肌を表しているらしい細かい線やつるうっとした部分なども分かります(上のほうのつるうっとした部分は雪のある所かも)。
 画面の下(手前)には湖がひろがっていて、小さなヨットが浮かび、その帆がすうっと高く伸びて富士山の中腹よりも上まで達しています(帆は、帆柱を真ん中にして細長い三角形が2つ背中合わせになっているような形です)。
 全体として、近景の湖とヨット、遠景の富士山という風景が想像できるような絵で、気に入りました。なお、キャプションによれば、この絵は、ガラスの上に金属の板を張り、その上に金箔・銀箔を張って描かれているとのことです。展示会の直前にようやく仕上がったとかで、触ると一部絵具が取れかかってしまうような部分もありました。

●いちょう
 3本のいちょうの木が並んでいます。向って右から、枝に多数の葉がついている木、葉が落ちて枝と幹だけになったき、さらに枝もほとんど落ちてわずかの枝と幹だけになった木です。真ん中の木の下には、実物の葉が2枚張ってありました。3本の木を順に触っていくと、時間の経過も感じられて、なかなかよかったです。
 この絵は、磨かれた金属板の上に描かれているとのことです。

 以上、11点の「さわる絵」を紹介しました。これまでは見えない人たちが絵を鑑賞する場合、言葉による説明、あるいは言葉による説明とともに立体コピー図版(絵そのもののコピーではなく、おおまかな輪郭や特徴的な所だけを絵の中から取り出して作成する)も合わせて触るという方法が多くなされてきました。
 私のように、絵そのものを実際に視覚で見たことのない者にとっては、やはりまず実物の絵そのものを触ってみたいと思います。でも、実物の絵を触ってもほとんど分かりません。今回の展示会では、画家が、見えない人たちが触っても分かりやすいように、実際に絵を描く時に使われている各種の絵具や材料を使って描いた〈本物の絵〉を触っているわけです。見えない人用にリフォームされた絵らしきものではなく、本物の絵を触っているという実感があります。今後もできれば、触ってもある程度は分かる本物の絵に触る経験を積んで、私の絵の世界、イメージの世界をひろげてゆきたいです。ありがとうございました。

(2015年10月6日)