鳴く虫の観察会に参加して

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 10月11日、Mさんと一緒に、高槻で活動している「TKK自然観察会」の定例の観察会に初めて参加しました。この会は、1971年に設立された「高槻公害問題研究会(TKK)」にさかのぼるもので、毎月1回の定例の自然観察会のほか、淀川鵜殿ヨシ原ツル草抜き取りや高槻市内のヒメボタル生息調査など、環境保護活動や生き物調査もしているようです。
 10月の観察会は、芥川緑地での鳴く虫たちの観察会ということで、Mさんに誘ってもらいました。午後5時にJR高槻駅に集合、参加者は10数人のようです。バスで10分余で南平台の現地に到着、5時半から2時間くらい、稲本雄太さんという若い昆虫の専門家の案内と解説で、虫たちの声に耳をかたむけ、また実際に虫に触れたりしながらいろいろと話を聞くことができました。
 芥川は、高槻市を北から南に流れて淀川右岸に注ぐ一級河川だそうです。私たちが観察会をした辺りは、水音からすると、そんなに川幅も広くはなさそうですし流れもそんなに急ではなさそうです(たぶん中流といった感じでしょうか)。川に沿った土手のような道を歩きはじめると、虫たちのいろいろな声が耳に入ってきます。稲本さんがパソコンでその場で聞こえている虫たちの鳴き声を再生しながら、それぞれの虫の声の特徴について説明してくれます。エンマコオロギ、ツヅレサセコオロギ、シバスズ、アオマスムシなどのようです。その他に名前ははっきり覚えていませんが、かなり高音で鳴いていて、私の耳ではよく聞こえないような虫も鳴いているようです。
 ネットで調べてみたら、私たちが芥川で聞いた虫たちの鳴き声は次のページ鳴き声検索 で全部聞くことができます。それぞれの虫の音を単独で聞くと、かなりよくそれぞれの虫の鳴き声の違いは分かりますが、実際には数種の虫の声が一緒になって聞こえてきますし、少し離れた所で鳴いている虫の音は小さくてなかなかききわけられないです。
 今回の観察会は、たんに虫の鳴き声を聴いて虫についていろいろ話を聞くというだけではありませんでした。実際に虫を捕獲し、それをみんなで見たり触ったりしながら観察し、その虫の生態についても解説してもらえました。
 観察会が始まって間もなく、ざああというような音がします。それは、スウィーピング法という方法で虫たちを一挙に捕獲している音でした。スウィーピング法は、長さ2m近くある竹竿に直径60cmほどで深さが1m以上はある大きな網を付けたもので、草原などにたたきつけるようにしながら横に薙いで掬い取る方法です。一度にたくさんの種類の虫が網に入っていました。(虫たちにすればまったくの天変地異のようなものですね!)
 また、木の枝など高い所の虫は、ビーティング法と言って、木の枝などを叩いて虫たちをその下のネットに落す方法が使われていました。アオマツムシという外来種(明治時代に中国南部から来たらしい)の虫で、他の風情のある虫たちの鳴声を圧するほどの大きな声で鳴く虫を捕獲しようと何度もビーティング法を試みていましたが、うまく行きませんでした。
 
 私が今よく覚えている鳴き声は、エンマコオロギ、ツヅレサセコオロギ、シバスズ、アオマツムシ、カネタタキなどです。他にもかなり多くの虫たちの鳴き声を聞いているのですが、あまりよく覚えていません。というわけで、以下では私が実際に触った虫たちのことについて書きます。
  *以下の文章中のそれぞれの虫の大きさについてですが、私は生きている虫を動いている状態で触っているので、頭や足先や翅先など、とにかく実際に一瞬触れた時の感覚で書いています。ですから、正確ではないのはもちろんですが、どちらかというと大き目に書いていることが多いと思います。
 まず、産卵管についてです。産卵管は、それぞれの虫で形や大きさが異なり、また何にどんな風に卵を産み付けているかによって異なっていることを教えてもらいました。私が触ったのは、ツユムシ、オナガササキリ、ホシササキリ、エンマコオロギ、ツヅレサセコオロギです。
 ツユムシは、2cmもない小さな虫です。産卵館は触って分かるか分からないかくらいの細い毛のようなものでした(長さは1cm余くらいだったと思います)。この軟らかい細い管を、イネ科の植物の葉(けっこう薄いはずです)の表面と裏面の間の葉肉に刺して平たい卵を産み付けるそうです。なんともすごい芸当ではないでしょうか!(ツユムシの鳴き声を上の鳴き声検索のページで聴いてみると、周波数が高いためでしょう、左耳でも右耳でもまったく聞こえませんでした。)
 ホシササキリは、大きさは2cm余のようです(前翅に黒の点々があって、この名になっているとか)。産卵管は、長さ2cmくらい、幅3mmくらいのとても薄いものでした。これで、イネ科の葉と茎の間(葉鞘)に挿し込む様にして卵を産みつけるそうです。(ホシササキリの鳴き声を上の鳴き声検索で聴いてみたら、左耳ではまったく聞こえず、右耳でかすかに「ジイイー」というような鳴き声が聞こえました。まるで自分の聴力検査をしているみたいですね。)
 オナガササキリは、大きさは3cmくらいのようでやや大きいです。そして、産卵館は体長よりも長く4cmくらいはあって、幅も5mmくらいあり、ちょっとカーブしていたように思います。この長い産卵館をイネ科の根元のほうの葉と茎の間に深く挿し込んで卵を産むそうです。さらに、その触角を触らせてもらってびっくり!細い薄紐のような触角を親指と人差し指の間にはさんで先へとたどって行ったら、10cmくらいもありました。体長に比べてこんなにも長い触角はどんな風に使うのでしょうか?(なお、オナガササキリの鳴声を上のページで聴いてみると、高温で小さなきれいな鳴き声が聞こえてきました。)
 次に、コオロギの仲間です。エンマコオロギは、大きさは4cmくらいあって、私の手の中で元気よく動き回っていました(私が小さいころ、つかまえて土の入った箱の中でしばらく飼っていたのはこのエンマコオロギだったようです)。エンマコオロギの産卵館を触らせてもらうと、それは細いやや硬めの針のような感じで、2cmくらいはありました(先端に近い所でちょっとかくっと曲がっていたように思います)。この産卵管を軟らかい土の中に深く刺し込んで卵を産むそうです。なお、エンマコオロギの両前脚の脛(すね)にあたる付近に小さなくぼみがあって、そこが耳(鼓膜)だそうです。両側にあるということは、音の方向を探知するのに便利なのかもしれません。
 ツヅレサセコオロギは、エンマコオロギよりだいぶ小さくて大きさは2cm余のようです(私の手の中ではエンマコオロギほど活発ではありませんでした)。産卵管はエンマコオロギ同様細い針のような感じで、1cm余くらいあり、同じく土の中に刺し込んで卵を産むそうです。ちなみに、ツヅレサセコオロギには6月くらいから鳴くものもあって、以前はツヅレサセ1種類とされていましたが、今は6月から鳴くのは「ナツノツヅレサセ」、8月末から鳴くのは「ツヅレサセ」、と2種に分けられているそうです。(帰ってから、私の家の回りの虫たちの鳴き声を聴いてみましたが、ツヅレサセがもっともよく鳴いているようでした。)
 
 その他、触ったり解説を聞いたりなどして面白いと思ったことなどを紹介します。
 まず、形についてですが、ツヅレサセコオロギの頭とハラオカメコオロギの頭を触ってその形を比べてみました。ツヅレサセの頭部は、きれいな球形でヘルメットのようなのを被ったような感じです。ハラオカメコオロギの頭は、ちょっと丸いぽちのようなのがあるだけですうっと平たくなっていました(私が触ったのは雌ですが、雄のほうがもっと平たくなっているようです)。
  コオロギの仲間やキリギリス類は、2枚の前羽をこすりあわせて鳴き声を出します。右側の翅の裏側にあるやすり状にぎざぎざした部分と左側の翅の表面をこすり合せているそうです。このことを稲本さんが、つかまえたクビキリギリスで実演してみようとしました。小さく「ぎしっ」「ぎしっ」というような音が聞こえます。私には、バッタ類が出す音のようにも聞こえました(バッタ類では音の出し方が違って、後足のももの内側のやすり状の部分と前翅の外側をすり合せているらしいです)。なかなか本物のキリギリスのような鳴き声には聞こえません。きれいに鳴くには、力の加減や動かし方など極めて微妙なのかも知れません。なお「クビキリギリス」という名前ですが、噛みつく力が強くて、無理に引き離そうとすると首の所でちぎれてしまうことから来ているそうです。
 ケヤキの大きな木がありました。触ると表面は全体にざらざらしていて、小さなつぶつぶのようなのがびっしりくっついている感じです(ちょっとこするとぼろぼろと剥がれてきます)。かなり年数を経た樹なのかも知れませんし、あるいはなにか地衣類のようなのが付着しているのかも知れません。このケヤキの木に、私は触りませんでしたが、ヨコヅナサシガメというのが群生しているそうです(たぶん幼虫だと思います。これから越冬するのでしょう)。私は、このケヤキの木にくっついているウスバキトンボの幼虫の抜け殻に触りました。とてもとても薄そうな皮で今にも壊れそう、大きさは2cmくらいでした。ウスバキトンボの幼虫は池や沼のような所にいるのに、どうしてこんな所に幼虫の抜け殻があるのか、稲本さんも不思議がっていました。ウスバキトンボは、私の故郷青森でも、夏の終わりに群れ飛んでいて「ショウリョウトンボ」と呼ばれていたもののようです。
 ツチイナゴに触りました。6、7cmくらいあったでしょうか、けっこう大きいと思いました(小さいころはよくイナゴに触っていました)。体は直径6mmくらいの円筒形の堅い棒のような感じで、いくつか節があり、強くて長い後ろ足で逃れようとしていました。触角は2cmもないくらいで、短いと感じました。ツチイナゴは、この成虫のままで枯れ草の下などで冬を越すそうです。
 その他、私は触っていないものですが、桜の木に毛虫が群れているようです。毛虫が桜の葉を食べつくしてしまうと、葉がすっかり落ちてしまってもまだ暖かいと、休眠する間もなく春だと勘違いして咲くことがあるそうです(いわゆる狂い咲き。秋にも咲くシキザクラという種もありますね)。
 とても大きなチャタテムシがいました(触ってはいません)。チャタテムシにはいろいろな種類があって、家の中で鰹節や本に着いているもの、さらに障子などに止まって体をぶつけて「シャ シャ」と音をたてるものもいるそうです。この音が茶を点てるときの音に似ているというとことから「チャタテ」という名になったとか。また、この音から「小豆洗い」とか「菜刻み」とか言われて小さな妖怪のように思われてもいたらしいです。
 
  今回の鳴く虫の観察会、私は実はどうかなあ?と思いながら行ってみました。私は音には鈍感だし耳もあまりよくないし、また虫に触るのもちょっとひいてしまうなあと思いながらの参加でした。
 ところが、ただ触るのではなく(虫はただ触ったら手の中であちこちぴちぴち動き回っているのが分かるだけで、何が何だかほとんど分かりません)、稲本さんに触る場所とか特徴を説明してもらいながら触ると、本当に楽しかったです。虫は、小さいころは、偶然クモに触ってしまって刺されたり、カミキリ虫にはさまれたり、物干し竿に止まっていた蜂に偶然触ってしまってすごいショックを受けたり(蜜蜂だったりすると刺されてもたいしたことありませんが、それは足長蜂のような種類だったのでしょう、電気に打たれたようなショックでした)されたり、どちらかというと痛い目にあったことが多かったです(もちろん、私自身、虫にたいしてかなり残酷なこともしましたので、お相子のような気もしますが)。今回の観察会では、稲本さんの指導で、虫について、話ばかりでなく、触って観察しても本当に面白いのだなあということを実感することができました。このような観察会、できればまた参加したいと思っています。
 
◆鵜殿の葦原での鳴く虫の観察会
 2017年10月9日、Mさんと一緒に、高槻で活動している「TKK自然観察会」の定例の観察会に行きました。上の同会の鳴く虫の観察会からもう2年も経っているのですね。案内と解説は前回と同じく稲本先生、久しぶりに若いさわやかな声を聞きました。
 今回の観察会の場所は淀川右岸の鵜殿という地域。4時半ころJR高槻駅の南口からバスに乗り、20分ほどで終点の道鵜町へ。そこから5、6分歩いて淀川の堤防、そして河川敷に到着しました。淀川沿いのこの辺りはむかしから鵜殿のヨシ原として有名で、鵜殿のヨシは篳篥(雅楽で使われる笛)の吹き口のリードとして珍重され、またヨシズも生産されていたそうです。しかし、淀川の河川改修工事が進み、大雨で冠水するようなことがほとんどなくなり、湿地が乾燥化してヨシ原もだいぶ減少し、入れ替わって外来種もふくめいろいろな植物が繁茂しているようです。ヨシ原焼きも毎年行われているそうですが、その面積はだいぶ減ってきているとか。
 淀川の堤防沿いでまず触ったのは、アレチウリ(荒地瓜)の果実でした。アレチウリはウリ科の蔓性の植物で、ぐるぐる巻いたつるの先に、直径2cmくらいの、やや卵型の実があります。表面には短い毛のようなのが密生していて、鋭いとげが十個くらいあって、ちょうど金平糖をを思わせるような形でした。アレチウリは北アメリカ原産の外来種で、1950年代に日本に入り、その後各地の川岸などやせた荒地に広がり、2006年には駆除すべき「特定外来生物」に指定されているそうです。
 広い河原では、クズなどつる性植物中心の藪(背丈の高い草木の回りに発達するこのようなつる植物や小低木の群落をマント群落というそうです)が広がっているようで、その辺りから、クツワムシをはじめ、マツムシ、カンタンなどの声がしきりに聞えてきます。とくにクツワムシの鳴き声は、ガチャガチャと騒々しいくらいです。虫の声を頼りに、高さ1m近くある藪の中に踏み入ってだいぶ歩きました。積み重ねた布団の上をふわふわと歩いているような感じで、なかなか心地よかったです。セイタカアワダチソウもかなり生えているようで、中には太さ2〜3cm、高さ3m近くにも育って、触ってちょっと細い木?と思うほどのものもありました。ヨシ原の中に入ってヨシにも触りました。太さ5mmくらい、高さ2m余くらいのようで、むかしよく触っていた茅のような感じでした。
 稲本先生がニレの木の葉に「優曇華の花」と通称されるクサカゲロウの卵を見つけました。5cmくらいの葉がたくさんあって、その裏を触ってみると、もやもやした毛のようなのがあり粉のようなのも感じられます。クサカゲロウ(臭蜻蛉)は、つまむと独特の臭いを発することもあって、このような名になったとか。薄い透明な翅を広げてひらひら飛ぶようです。クサカゲロウは、細い糸のようなものの先についた卵を、アブラムシなどがたくさんついている木の葉に産み付け、卵のついた多くの糸状のものが雄蕊がひろがっているようにも見えて、仏教でいう 3千年に 1度咲くとされる優曇華の花になぞらえられ、吉兆のしるしとされたようです。
 今回の観察会では、ツヅレサセコオロギ(2cm余くらいの大きさで触ってもよく分からなかった)、エンマコオロギ(ツヅレサセよりはだいぶ大きかった)、バッタ(太い足を触っていたら強くかまれてしまった)などに触ったほか、あのガチャガチャと大きな声で鳴くクツワムシをよく触察することができました。大きさは、翅までふくめると5〜6cmくらいはあるでしょうか、触った感じでは翅がかなり大きいように思いました(幅が2cm以上はあった)。翅の表側からでも多くの脈のようなのが触って分かり、裏を触ると太い翅脈があり、さらに奥のほうにちょっとざらついた部分があります。これが翅をすり合わせて音を出す部分のようです。また、胸は幅は1?cm弱もないですが、高さは2cmくらいはあって、ちょっとした箱のようにも思えるくらいで、あの大きな声に役立っているのかもと思ったりしました。ツヅレサセコオロギなどでは触って分からなかった触角も、クツワムシではよく分かりました。細い細い毛のようなのが5cmくらいは伸びていました。皆さんは、クツワムシをはじめツヅレサセコオロギなどが、実際に翅をすり合わせて鳴き声を出しているところをよく観察していました。さらに、クツワムシの耳の部分も教えてもらいました。前足の直角に曲がった下、ちょうど脛に当たる部分の外側に縦に爪でごくかるく触って分かるようなわずかなくぼみのような所があり、その部分だとのことです。コオロギやキリギリスの仲間はこの部分に耳があり、バッタの仲間では後ろ足の付け根辺にあるそうです。
 また、帰り近くになって、横に倒れているセイタカアワダチソウの茎にツヅレサセコオロギが産卵しているところを見つけて、皆さんよく観察していました。5分くらい経ってもまだ同じ姿勢で産卵をしているようでした。ツヅレサセコオロギは2cm余くらいの大きさで、触ってはよく分かりませんでしたが、産卵管を触らわせてもらいました。先のとがった1cm余の細いちょっと軟らかめのものでした。これを茎の間に刺して産卵するそうです。
 今回の観察会で印象に残ったのが、河原の植物群の間を通っている広い道路についてです。帰りに通ったこの道路で、それまで稲本先生がなかなか見つけられなかったマツムシがまず見つかり、続いてツヅレサセコオロギやカンタンなど、次々に見つかって、皆さん喜んで観察していました。なにかの理由で草原を移動していて広い道に出てしまい、反対側の草原あるいはもとの草原に戻れずに迷っているのかもしれません。このような広い道路は、生息地を分断し、狭めているようです。また、この広い道路に出て、生暖かいもわもわしたような空気が下から湧き上がってきているように感じました。その日は昼は30度近くまで気温が上がり、私たちがその道を歩いていたのは夜7時過ぎでしたが、まだまだ道の上では熱気が感じられました。道路に面した草原では夜になっても気温があまり下がらない状態が続いていて、生態系にも影響を与えるのではと思いました。どの程度関係あるかどうかは分かりませんが、形はオンブバッタとほとんど同じですが後ろの翅のねもとがやや赤いアカハネオンブバッタを稲本先生が見つけました。この種のバッタは沖縄など南西諸島に生息していたものですが、最近は大阪周辺で見つかっているそうです。
 今回の鳴く虫の観察会では、虫の鳴き声を聞いたり触ったりしながら、生態系や気候のことなどについても考えさせられました。
 
(2015年10月18日、2017年10月13日更新)