11月14日、滋賀県甲賀市水口にある「みなくち子どもの森」に、Mさんと一緒に行きました。前日から雨で、その日も天気予報ではかなり雨の確立が高かったのですが、幸運にも、行き帰りにも、また野外の自然観察の時にも、ほとんど雨に降られず、十分に、目いっぱい楽しむことができました。
草津駅で待ち合わせ、貴生川駅から徒歩で向い、30分ほど歩いてようやく午後1時過ぎにみなくち子どもの森の自然館に到着です。みなくち子どもの森は、20年ほど前に、休耕田や雑木林だった所を子どもたちが自然を体験し学ぶことができる場として整備しようと計画され、2001年に開園しました。博物館としての自然館とともに、回りにはコンパクトに、水田や畑、草地の広場、スギやヒノキの人工林、広葉樹の多い雑木林など、多様な自然環境があり、季節に応じていろいろな観察会や体験ができます。名前は「子どもの森」となっていますが、私のように自然を体感したい者には魅力的な施設です。
まず、自然館の展示を、触れられる物を中心に、館長の小西さんに案内してもらいました。入ってすぐ、隕鉄があります。角張った感じの10cm余くらいの大きさですが、持ってみるととても重いです(たぶん7、8kgはあったように思います。ふつうの石の数倍の重さです)。次に、35億年前の石(片麻岩だそうです。堅そう)です。
その後は、話に聞いていた化石トンネル。地層を模したというFRPの壁面に、ほぼ古い順に、いろいろな化石が付いています。初めに触ったのは、三葉虫。古生代オルドビス紀(5億年前から4億4千万年前ころ)やデボン紀(4億年前から3億6千万年前ころ)の三葉虫が10個以上展示されています。触ってもはっきり分かるようにと、大きめのものが多いようです(大部分は10cmくらいはあった)。種類もいくつかあるようですし、姿も、真っ直ぐなもの、くるっと丸まっているもの、背をそり返すようにしているものなどありました。また目も、小さなのから大きなものまでいろいろでした。中でも私が注目したのは、ファコプス類で、複眼がはっきりと分かるものです。目は前を向き、直径1cmはある大きな半球のような表面全体に小さな粒々が多数密に並んでいます。触って複眼をこんなにはっきり確認できたのは初めてです。また、ちょっと面白いと思った展示として、三葉虫の雄型と雌型、それに一部が割れているノジュール(堅い石の丸っぽい塊で、中に化石が入っていることがある)もありました。
三葉虫の隣りには、石炭紀(3億6千万年前から2億9千万年前ころ)のシダ植物です。べたあっと広がっている感じで触っては分かりにくいですが、丁寧に触ると、細い葉?が密にきれいに並んでいるのが分かります。その次は中生代に繁栄したアンモナイト。これも、いろいろな大きさのものが10個くらいはありました。その隣りに、中生代白亜紀(1億4600万年前から6500万年前ころ)の魚(ブラネリオン Brannerion という名前のようです)。長さ40cmくらいはある大きなもので、頭部は三角のような形で、歯や目が分かり、また鱗が多数きれいに並んでいるのが触ってよく分かります。
化石トンネルに続いて、230万年前ころのこの辺りの森の様子が再現されているようです。大木(たぶんメタセコイア)があり、その根元にはワニがいて、そのワニの頭部に触ることができました。口を大きく開けていて、歯がよく分かります。体全体は 3〜4mくらいありそうです。(その隣りには、40cmくらいの長さのワニの子どもがいて、それは全体を触ることができました。)実際にこの辺の200万年前ころ(鮮新世)の古琵琶湖層群の地層からワニの歯などの化石が見つかっており、現在よりも少し暖かかったようです(とくに冬は)。
*古琵琶湖層群は、三重県伊賀盆地から滋賀県近江盆地にかけて分布する、湖底や沼地に堆積した粘土・砂・火山灰などの地層です。400数十万年前ころに、伊賀市の大山田付近に断層により陥没が出来て浅い湖となり、その後南から北へ向って窪んだ地形が50km余ほど順次移動していって、40万年前ころに今の地に琵琶湖ができたということです。古琵琶湖層群には、400数十万年前から現在までの湖底や周辺環境を知る手がかりが含まれているわけです。(古琵琶湖層群については、
琵琶湖の変遷 などを参考にしました。)
また、アケボノゾウのレプリカも展示されていて、これはなかなかの優れ物のように思いました。1993年に、水口から北北東に30kmくらい離れた多賀町で、180万年前ころの古琵琶湖層群の粘土の中から、ほぼ1頭分のアケボノゾウの骨格が発見されました。その全身各部の骨化石のレプリカと、それらを組み立てて復原したアケボゾウの全身像が展示されています。まず、太い脚の骨、大きな臼歯のある頭蓋骨、椎骨、60cmくらいの湾曲した肋骨、1m50〜60cmくらいあると思われる長い湾曲した牙などに触りました。そしてその後で、それらから復原したゾウの全身の姿を触りました。高さは2mくらいで、現在のアジアゾウやアフリカゾウよりはだいぶ小さいようです(アケボノゾウは、現在のゾウとは別の、ステゴドン科に属し、その化石は今のところ250万年前から100万年前の日本でしか見つかっていないそうです)。胴がとても太く、脚はやや短目のようです。目が横向きに付き、長い牙が前にすうっと1m20〜30cmくらい伸びています(牙の根元のほうは深く頭蓋骨の中に入り込んでいるので、表に出ている部分が短くなっている。なお、ゾウの牙は犬歯ではなく切歯)。(アケボノゾウについては、
常設展 - 多賀町立博物館 で詳しく紹介されています。)
博物館に行って、個別のもの、部分部分には触れても、全体、まとまった姿はよく分からないということがしばしばあります。そういうてんで、このように部分部分と全体の両方に触れられるというのは、とても良い展示方法だと思います。
1階の展示では、触れられる物としてその他に鉱物がありました。黄鉄鉱(スペイン産。1辺が2〜3cmくらいの立方体の結晶がたくさん連なっている)、水晶(ザンビア産。10cm近くある大きな結晶がたくさん集まっている。紫色とのこと)、孔雀石(コンゴ産。直径1cmくらいの球状の結晶が多数重なっていて、孔雀石の結晶としてはとても良いものだと思った)、閃亜鉛鉱(アメリカ産。1辺が1cm前後の正方形の面が多数重なり合っていて、立方晶系らしい)、ラピスラズリ(アフガニスタン産。15cmくらいある大きな塊で、触っては結晶は分からない)です。ラピスラズリ以外は、どれも大きな結晶の形がよく分かるもので、触って観察するのにはとても適しているものでした。
午後2時からは自然観察会が始まるということで、それに参加しました。私たちのほかには、親子連れが数人参加していました。
歩き始めてすぐ、ころっとしたどんぐり(堅果)を拾いました。それはシラカシのどんぐりだそうです。シラカシ(白樫)という名は、材が白いことからだとのこと(でも樹皮は黒っぽくて、黒樫とも呼ばれるそうです)。次に、メタセコイアの樹皮と葉に触りました。樹皮は杉のような感じで軟らかく、縦に裂けています。葉は、細い枝の両側にずらあっと並んで付いています。針葉とはいっても柔らかく、葉の中央は緑が残っていますが、回りはオレンジ色に変わっていてきれいなようです。手でしごくようにすると、簡単に枝から葉が落ちてしまいます。近くにメタセコイアと同じような樹形のヌマスギがあって、その葉にも触りました。メタセコイアの葉とあまり変わらない感じですが、もっと柔らかかったです。その後、コブシの芽に触りました。2cm余の細長いぷくっとした感じですが、表面はふわふわした毛のようなのに被われていて、触って気持ちいいです。これは花の芽で、冬を越して春一番に真っ白の花になるそうです。表面に毛のないつるつるの芽もあって、これは葉の芽のようです。コブシという名は、果実(集合果)の形が握り拳に似ていることからだそうです。
林の中に入って、まずコナラの葉とどんぐりに触りました。葉はつるつるしていてやや硬めで、縁には1cmおきくらいに小さな鋭い切れ込みがあります。どんぐりは直径5mm余の細長い円筒形で、お皿のような殻斗にきれいにおさまっていました。また、このコナラの木をホダ木(原木)にして、しいたけの栽培もしていました。60〜70cmくらいに切ったコナラの木が横木に立てかけるようにして三角に組み立てられていて、コナラの木にはいくつか太いしいたけが育っていました。
ヒノキの林でもいろいろ体験しました。まず、落ちているヒノキの枝葉に触りました。わさわさと扇状に広がっていて、触っていると手がなんだか油っぽくなってきます。さらに強く押しつけるようにすると、手がべたべたになり、においを嗅いでみると独特のいい香りです。ヒノキにはかなり油分が多いことを実感しました(以前はヒノキは発火台や発火棒として使われたようです)。倒れたヒノキがあって、あちこち樹皮が剥がれてきれいな木肌が露出していたのですが、さらにその樹皮を手で強く引っ張って剥いてみました。そうすると、樹皮と材の間は、ぬるぬるした液がいっぱいで、甘いようないいにおいがします。上を見上げると、空がぽっかり空いている所があって、そういう所の下はヒノキが伐られたり倒れたりしている所だということです。そんな所にあった切り株を触って年輪を数えてみると、30本近くありました。直径は30cm近くあったでしょうか、回りの部分と中央の部分では材の色がはっきりと異なっているとのことです。ヒノキ林では最後に、参加者みながじっと座って、回りの風やいろいろな鳥の鳴き声などに耳を傾けて音観察をしました。
30分ほど自然観察会に参加してから、私たちは観察会の皆さんと別れて、小西さんの案内で地層の観察に向いました。ちょっと小高くなった所にある高さ1m余の斜面に約200万年前の古琵琶湖層群の地層が露出しています。粘土層と火山灰層が交互になっていて、粘土層はつるつる、火山灰層はさらさらした手触りで、かなりよく区別できます。一番下は粘土層が10数cmあり、その上に火山灰層が10cm近くあります。その上は、4、5cmから10cmくらいの粘土層と1〜2cmくらいの火山灰層が交互に重なっていて、一番上は厚い火山灰層になっていました。一番下の粘土層は当時の湖ないし沼にゆっくりたまった泥で、その上の火山灰層はたぶん遠くからの火山灰が降り積もったもので、その上の薄い火山灰層は、洪水などで上流から流れ込んだものかもしれないということでした。一番上の火山灰層はむかしは鍋などの磨き粉として使われたり、さらには仏像の仕上げや精米にも使ったとか(この火山灰には、とがったガラス質の荒い粒子が多いからのようです)。地層観察に来る人たちは10円玉をこの火山灰で磨いてみるということで、私たちもしてみました。表面がぴかぴかになっているようですが、10円玉の表面にはもともと凹凸の模様があるので、触ってつるつるになっているかはあまりよく分かりませんでした。でも、10円玉の縁を触ってみると、確かにはじめよりつるつるになっていて、納得です。
地層観察の後、再び自然館に戻り、2階の展示を見学しました。ここでも、触ってこれはすごい!と思うものに出会いました。
まず、大きな木(メタセコイアらしい)の根の化石です。根は3m余の範囲に広がっており、真ん中辺に直径1m前後の幹らしきものが分かります。これは、愛知(えち)川の川床から見つかったもので、実際はこれよりもだいぶ大きな根で、トラックで運べる大きさに切られたものだとのことです。愛知川では、台風の雨による増水で河床の泥が流されて、それまで隠れていた化石樹が何十本も露出することがあるそうです。木はもともと生育していた場所から流されて別の所で化石になることが多いですが、この場合は自生したままの状態で化石になったものです。近くからはゾウの足跡なども発見されていて、当時(180万年前)の状態がよく分かるようです。
その他、直接この地方と関係するものではありませんが、いろいろ興味ある物に触りました。
そのひとつは、始祖鳥のレプリカ、およびそれを基に復原した立体的な模型です。実は、みなくち子どもの森見学の2日前に、化石研究者のT先生から、始祖鳥も発見されたドイツのゾルンホーフェン石灰岩の石板を頂いていたのです(その石板には、サッココマという浮遊性のウミユリの仲間の化石がたくさん付いていて、直径1cm弱の窪みの回りに多数放射状に細い腕のようなのが伸びているのが触察できる)。始祖鳥が入っていたというジュラ紀後期(1億5千万年前ころ)の岩石に触れることができるのはもちろん興奮することですが、でもやはり始祖鳥そのものについてもなんとか知りたいと思っていたところでした。
平たい板状のレプリカが壁に掛かっています。触ると、はじめに大きく広がった羽が分かりました。両翼端の間の距離は40cm余はあったと思います。羽を触っていると、これは鳥だなあと思います。丁寧に触ると、細い足、さらに口が分かり、鋭くとがった歯もわずかに分かります。このレプリカを基にしてバードカービングをしている方が作ったという復原模型があるのですが、これは羽などとても細かく薄い部品を多数組み合わせて作られていて、触察するのにはかなり難しいものでした。私は指先でわずかにピンポイントで触れるという仕方である程度観察することができました。羽には鋭い爪のある指が2本?あり、また脚にも鋭い爪があります。口には鋭い細かい歯がたくさん並んでいます。尾のほうは、魚の背骨?のように両横に細い突起が並んでいるだけで、鳥の尾羽とはずいぶん違います。形としては羽などを触っていると鳥のようにも思えますが、復原模型で細かく各部を触ると鳥とはだいぶ違うこともよく分かってきました。
次に、マンモスの臼歯と、それが付いた頭蓋骨を触りました。臼歯は、長さ20cm弱、幅10cmくらい、高さ15cmくらいの大きさで、持ってみると、5、6kgくらいあるでしょうか、とても重いです。歯の表面はまるで滑り止めが並んでいる靴底のような感じです。マンモスに限らずゾウはこの臼歯が上顎と下顎の左右に1本ずつ計4本あり、その他には上顎に牙(切歯)が2本あるだけで、歯は全部で6本しかないとのことです。ただし、ゾウの臼歯は上下左右に1本ずつしかないのではなく、時間が経つと後ろから生えてくる新しい臼歯に押し出されて今までの臼歯が前側に抜け落ちます。そして、一生の間に臼歯が5回生え変わるそうです(結局、臼歯は上下左右にそれぞれ6本ずつあることになる)。なお、牙は一生伸び続けて生え変わることはないとのことです。
恐竜の椎骨も触ったのですが、私がうまく触察できずに人などの椎骨と違っていると言ったら、小西さんがもっと分かりやすいように猪の全身の骨格を用意してくれました。そして、猪の頭蓋骨から椎骨、肋骨、肩甲骨、上腕骨、さらに骨盤や大腿骨などのつながり方や付き方などについて説明してもらいました。とくに面白いと思たことは、頭蓋骨を触っていて、耳の部分は小さくあまり盛り上がりもないのに、鼻の部分は前に長く伸び、中には膜のようなのが広く複雑に発達しているらしいことです(鼻の内部は壊れやすいということで触ることはできませんでした)。猪はたぶん、音よりも臭いのほうに敏感で、臭いのほうがより大切だということなのでしょう。
こうして、3時間くらいにわたる体感見学を終えました。アケボノゾウやメタセコイアの化石樹、始祖鳥など、触ってすごい!と思える展示が多くありましたし、また、自然観察も楽しいひとときでした。その季節ごとの植物や回りの音なども楽しませてもらいましたし、落ちている実などを拾って持ち帰ることもできるのはいいですね。発破や木の実などは、なにしろうまく管理すれば自然が作ってくれるので、いつまでも来館者が利用したり触ったり持ち帰ったりできます。屋内の展示とともに、回りの自然環境をうまく利用して継続的に触察もふくめた体感型の観察を行うことは、見えない人たちにもとても有効ですし、よろこばれると思います。
(2015年11月23日)