国立科学博物館 かはくモノ語りワゴンを体験

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 10月28日、国立科学博物館に行って、「かはくモノ語りワゴン」を体験してみました。
 国立科学博物館には、もう40年ほども前、高校の修学旅行で一度立ち寄った記憶がうっすらあるくらいです(炭層を触ったような気がする)。かはくモノ語り体験だけでなく、できれば常設展示も少しでも見学してみたいとわくわくしながら行きました。幸い一緒に行ってくれる方がいて、修学旅行と思われる多くの子どもたちなどで混雑しているなか、12時過ぎから2時半近くまで、かはくモノ語りワゴンを体験しながら、日本館と地球館をあちこち回ってみました。もちろん、なみしろ展示スペースは広くて、そのごくごく一部しか回ってはいませんが、所々に触れられる展示があり、点字でタイトルや簡単な説明も付されていて、見えない人たちへの配慮もされていました。ただ、点字は、たぶん子どもたちが興味本位で強く削るように触ったりするためなのでしょう、あちこち点がなくなっていて、とても読める状態ではありませんでした(そのような状態になっていることは、帰りに総合案内に知らせておきました)。また、こんなに来館者が多く展示場も広いなかでは、見えない人が1人で希望する展示場や企画展などに行くことはとても無理で、見えない人たちを誘導してくれることもしてほしいです。
 かはくモノ語りワゴンは、昨年末から始まった企画で、科博のボランティアたちが、各展示場の展示のポイントを、実物の標本や模型を見たり触ってもらいながら、紹介するというものです。毎日10時、11時、午後1時、2時の4回行われていて、場所と内容は日によって異なりますが、毎日10種近く行われているようです。
 
 私はこの日、3つのモノ語りワゴンを体験しました。またその付近の常設展示で触れられるものを中心に見て回りましたので、それらも加えて以下に紹介します。
 
●骨からわかること(日本館2F北翼)
 まず最初に、縄文人、弥生人、それに現代人の大腿骨と脛骨のセット(左脚)が並べられていて、それを比べてみました。(もちろんいずれもレプリカで、ちょっと安心)触ってまず気付いたのは、縄文人の骨がとてもつるつるしていること、でもこれは、縄文人の骨がいつも手前に展示されていて、来館者がもっとも触ることが多いためだそうです。次に気付いたのは、縄文人・弥生人・現代人と、骨の長さが長くなっていることです(大腿骨では、弥生人は縄文人より2cmくらい長かった)。そして、ボランティアの方に言われて気付いたのですが、大腿骨の背面には細長い縦長の隆起があり、それが縄文人ではちょっとつまみ上げられるくらい5mm余飛び出しているのにたいし、現代人ではそんなに飛び出していません(弥生人は縄文人とあまり変わらなかった)。この細長い隆起には筋肉が付いていて、縄文人のほうが筋肉がずっと発達していたことを示しているということです。
 次に、縄文人の足の骨の模型に触りました。多くの小さな骨が組み合さっています。足首の上面のやや外側の部分がゆるやかに窪んでいます。これは、縄文の人たちが日常的に蹲居(かかとを地面に付けたまましゃがむ姿勢。相撲の蹲居の姿とは異なる)の姿勢をしていたために、脛骨に押されてこのようになっただろうということです。竪穴住居ではほとんど蹲居の姿勢で生活していたのでしょう。なお、人差指の骨が親指の骨よりもかなり長くなっていたのですが、これについてはボランティアの方ははっきりしたことは分からないということでした。
 男女の骨盤の模型があって、それを触り比べてどちらが女性でしょう?と問われました。全体にきゃしゃで、骨も薄く重さも軽いですが、外側にすうっと開いたような形になっていたので、こちらが女性だと答えると正解でした(大きくてがっちりしたほうが女性と答える方が多いそうです)。
 近くにもいろいろ触れられる展示がありました。
 約2万年前の港川人、縄文人、現代人の顔の模型がありました。顔の右半分は頭骨だけで、左半分は皮膚や髪までの部分も含んだ全体の形になっています。港川人は、顔の横幅が広く全体として角張っているような印象です。鼻の上の窪みが、港川人では深く、縄文人・現代人と浅くなっていて、現代人では鼻がすうっと下に長く伸びています。
 縄文人・弥生人・現代人の上顎・下顎骨が歯が付いた状態で展示されていました(顎が閉じた状態のものと開いた状態のものがありました)。いちばん印象的だったのは、縄文人の抜歯に触ったことです。前歯(切歯)の中央の2本、あるいはそれとともに検視の2本が、完全になくなっています。やはりちょっとすごい顔だなあという感じです。その他違いとしてはっきり分かったことは、前歯の裏側の窪みが、縄文人のほうが深くなっていることです。顎の大きさが現代人のほうが小さいということでしたが、さっと触っただけではよく分かりませんでした。
 
●化石ってなに?(日本館3F北翼)
 化石の基準として、1万年以上前の物で、人間の手の加わらないものだということを初めに教えてもらいました。遺跡から見つかる骨や貝類などは、たとえ石のようになっていても、人間の手が加わっているので化石とは呼ばれません。また、石のように堅くなっているかどうかは関係なくて、琥珀の中に閉じ込められている昆虫や、凍土の中で氷漬けになっているマンモスの体なども化石だということです(例としてマンモスの毛がありましたが、ケース入りだったので触れませんでした。マンモスの毛には、昨年末に多賀町立博物館で触ったことがあります)。
 アンモナイトや三葉虫などの化石のように生物本体が石化した物は体化石と呼ばれますが、生物が生きていたことを示すいろいろな痕跡も化石(生痕化石)とされます。その例として、恐竜の糞の化石に触りました。恐竜の糞と言ってももちろん臭いはなく、泥が固まったような感じです。触ってはよく分かりませんが、小さな木の実や種のようなのが見えるようです。糞を調べると、どんな物を食べ、どの程度消化しているかなどが分かるそうです。次に触ったのが、とても薄い層が多数重なったような平たい石です。この表面には、細い縦長の、刻み目を連ねたようなざらざらした筋があって、これは三葉虫が這った痕だということです。この石の反対側の面には、多数の入り組んだ盛り上がった筋があって、これは何かの巣穴の痕跡らしいです。別の厚さ3cmくらいの石があって、その表面はほぼ平らですが、裏面にはぽっこりと膨れた団子のようなのがあります。これは、三葉虫が丸くなって休んでいたような状態が窪みになって、その窪みに泥が堆積して石化したものだとのことです。
 その他、恐竜の歯の化石にも触りました。細かい鋸歯が付いたもの(肉を噛み切るのに適している)や数本縦の細い筋のようなのがあるもの(木の葉などを食べるのに適しているそうです)などがありました。「デンタルバッテリー」という、変ったものにも触りました。幅20cmくらい、奥行10cm弱くらいの大きさで、まるで靴の裏の滑り止めのように、細い平たい突起が多数並んでいます(表面の感じはナウマン像などの臼歯に似ている)。これは、草食性の一部の恐竜の口の奥のほうにある予備の歯で、木などをばりばり食べたりして歯が摩耗してくると、このデンタルバッテリーの小さな歯が入れ替わって役目を果たすようになるようです。なんとも便利ですね。
 
●きになる植物の進化(地球館B2F)
 3億年前のシダ植物、2億年前の針葉樹、5千万年前の広葉樹の化石を触りました。いずれも木の幹を切断したような断面で、表面はつるつるして、触っては違いはほとんど分かりませんでした。針葉樹と広葉樹の表面には年輪がはっきりと見えているそうですが、シダ植物の表面には年輪はなく、中央部に維管束がいくつも見えているようです(触ると、5mmほどの小さな円っぽい線のようなのがあり、これが維管束のようです)。3億年前(古生代石炭紀)には、このようなシダ植物(木生シダ)が大森林を作っていたそうです。でも実際は、維管束中心の茎だけでは不安定で、木生シダ類では茎の回りに根(不定根)が密生するように生えてしっかり保護していたらしいです。木生シダの標本の直径は20cm弱でしたが、周囲の1cm幅くらいは黒くなっていて、中央部とは違うことが見て分かるそうです。現在でも沖縄には、高さ10mにもなるヒカゲシダという木生シダが自生しているとのことです。
 ちなみにこのつるつるの木の化石は、いずれも樹幹が珪質化した珪化木ですが、木の化石としては、炭酸カルシウム化した物、黄鉄鉱化あるいは褐鉄鉱化した物などがあります。
 近くにリンボクの化石があって、触ってみました。高さ2m弱、幅1m近くくらいある大きな板のような表面に細かい菱形のような模様がびっしりきれいに並んでいます(これが鱗状に見えて、鱗木と言う)。この模様は、葉が落ちてしまった痕らしいです。
 
 かはくモノ語りワゴンでは、その他に「コケ?きのこ?そうか!地衣類だ!」(日本館3F南翼)も興味があって行ってみましたが、触れられるものはないということで、参加を取りやめました。
 
 以下、常設展をあちこち回って触った物を紹介します。
 直径1m近くもある大きなアンモナイトの化石がいくつもありました。さすが国立科学博物館ですね。表面が剥がれて内部が露出している大きなアンモナイトの化石もあって、これは詳しい方に説明してもらうと、触って内部の様子などいろいろ分かるのではと思いました。ほかにも、40〜50cmもある大きなイノセラムス(2枚貝)、トリゴニアという三角の形をした2枚貝がびっしり並んでいるような化石、サンゴが多数入っているという秋吉台の石灰岩(サンゴがどの部分なのか触ってよく分からなかった)などありました。
 恐竜の展示もとても多いですが、触れられる物は限られていて、恐竜の全体像をつかむというようなことはできません。私が触ったのは、ステゴサウルスの尻尾の両側に2対ある、スパイクという三角形の先のとがった板状のもの(背中にはとても大きな板のようなものもあるそうです)、名前は忘れましたが尻尾の近くに何本も棒を束ねたような物があるものなどです。
 触ることはできませんでしたが、縦や横に不規則に巻きの方向を変えるニッポニテスというアンモナイト、泥の中から1m近くも垂直に殻を伸ばしているカキの仲間などには興味をもちました。
 富士山をはじめ日本各地のいろいろな火山の火山弾や軽石が展示されていました。火山弾にはいろいろあって、面白かったです。だいたい直方体のような形をしていますが、各所に割れが入っているもの(パン皮状火山弾と呼ばれ、表面が急冷されて緻密な皮殻になり、内部はゆっくり冷えたため発泡してスポンジ状になっている)、丸っぽいもの、紡錘形のもの、曲面がいくつも連なってうねうねとした面になっているもの、平たく広がった形のものなどいろいろありました。とくに印象深かったのは、下の面にごく細いものから5mmくらいの太さのものまで、いろいろな大きさの水滴のような形のものがぶら下がっていて、これを触っていると、どろどろと溶けている状態で空中を飛んでいる物が途中で冷え固まっただろうことがよく分かりました。中には、1mくらいもある大きな火山弾もあって、このような物が数キロも飛んで来るのですから、火山の力、被害のすごさが想像されます。
 ちょっと面白い展示がありました。ガラスケースに小さな穴が開いていて、そこから指を入れて魚の口の中を触れるようになっています。2つあって、1つは口の上下の内側に小さなつぶつぶの突起がたくさんあります。これはイシダイで、貝類など硬い殻のあるものをがりがりと噛み砕くようにして食べるそうです(石のような硬いものまで食べるということから石鯛という名になったとか)。もう1つは、歯先の部分が弧状に連なり、歯先がややとがっています。これはナンヨウブダイで、サンゴに付いている海藻お削り取るようにして食べるそうです(このようにして藻類を食べてもらうことが、サンゴ礁の保護に役立っているとか)。
 
 今回の国立科学博物館の見学は、とても楽しかったです。かはくモノ語りワゴンでのボランティアの解説をもっといろいろ体験してみたいですし、またもっとゆっくり各フロアを系統立てて少し詳しい方に説明してもらうことができればと願っています。
 
(2016年11月3日)