国立民族学博物館のアメリカ展示の像たち&カヌーをつくるワークショップ

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 3月25日、国立民族学博物館でMMPの案内でアメリカ展示を見学し、また同日に開催されたワークショップ「みんなでつくろう!帆付きアウトリガーカヌー」に参加しました。
 アメリカ展示としてまず触ったのが、探究ひろばに展示されているホッキョクグマ。カナダの先住民イヌイットのナレニク・テメラという方が制作されたとのこと。頭部を上げ、地にどっしりと伏しているような姿勢です。大きさは、長さ60cm余、幅30cmくらい、高さ30数cmくらいだったと思います。左前足は爪が前に出、右前足は爪が後ろを向いています。後ろ足は大きなお尻の下に隠れているようです。顔は口を大きく開けて歯もよく分かります。全体に滑らかな曲面で、部分によって表面はさらさらしていたりつるつるだったりして、触って心地好いです。
 イヌイットの美術については、ジェームズ・ヒューストン(James Archibald Houston: 1921〜2005年)の貢献が大きかったようです(詳しくは、ジェームズ・ヒューストンと「イヌイット美術」の出発参照)。1948年にイヌイットの小さないろいろな彫刻に出会ってその美術としての素晴しさを発見し、彼らに石彫刻品の制作を奨励し、また紹介することにつとめました。この大きなホッキョクグマもそのような背景のもと制作されたのでしょう。アメリカ展示にはイヌイットの版画も展示されていますが、これもヒューストンが日本の浮世絵版画を参考にしてイヌイットに勧めたもののようです。
 アメリカ展示場では、最初に触ったのが「十字架とシャーマン太鼓」。これはインパクトのある作品でした。制作者はカナダのイヌイットのヨアネシー・ツルガクで、制作年は1989年だそうです。高さは、50cm近くあったでしょうか、母子像になっているようです。母親は右手に十字架、左手に円い太鼓を持ち、揚げています。顔は左右が細く前後が長くなっていて、シャーマン太鼓のほうを向いています。母の前には大きな顔の子供が、母の服に下からすっぽり包まれています。キリスト教の十字架と伝統的なシャーマンの太鼓、どちらを選ぶのか、また子供をどちらに託すのか、迷っているようでもありますし、そして本当は母の心はシャーマンのほうにひかれているのでは、と思いました。
 次は、イヌイットの石ランプ。これは実際に使われていたものだそうです。幅50cm余、奥行20cm余の楕円形のお皿のような形で、中は窪んでいます。その窪みには黒い煤の跡が付着しているそうです。苔にアザラシの脂肪を染み込ませて燃やし、灯にしたとのことです。
 次に、メキシコ南部の木彫の動物たちです。これは鮮やかに彩色されていて展示場の物は触ることはできず、特別に触察用の品が用意されていました。それは、耳もふくめて高さ30cmくらいあるウサギです。細くとがった両の耳が真っすぐ上に15cm余も伸びています。全体に、グレーブルーの地に黄色の水玉が多数あり、その黄色の水玉の中にも赤い斑点があるとか。なんともにぎやかな彩色のようです。これらの木彫の動物たちも、1950年代以降現地の人たちが作るようになり、人気を博しているそうです。
 その後、ペルーの北西部ピウラ県のチュルカナスの人たちが制作した陶製の作品を数点触りました。2ヶ月近く前に、岡山県備前市日生にあるBIZEN中南米美術館に行った時にエクアドルやペルーの土器について説明してもらいましたが、チュルカナスの陶製の作品たちにも、轆轤を使わず手や型を使って成形する、表面の文様を出すのにネガティブ技法を使うなど、古代から使われてきた手法との共通性も見られるようです。実際、チュルカナス周辺ではビクス文化(紀元前後から7世紀ころ)の土器片が多数出土しており、それらに見られるネガティブ技法が、1970年代以降盛んになった陶製作品の制作に生かされているようです。なお、チュルカナスでの陶製品の制作過程については、南米土器の旅 チュルカナス編で分かりやすく解説されています。
 最初に触ったのが、「チチャ売り」(サントディオ・パス作、1993年)。これは造形的にすごい作品だなあと感じました。「チチャ」はトウモロコシから作った醸造酒で、その売り子が表わされています。全体は、高さ50cm余の大きな甕そっくりですが、その全体でもって女性の身体も表しています。(甕の口が開いていたので中に手を入れて触りましたが、中はつるつるしてとても滑らかです。中に石を入れて内側から当て、外側からたたいて成形しているそうです。)甕の首のくびれた部分に女性のやや横に広がった顔があります。顔から下に両腕が伸び、左手にお椀のようなものを持ち、右手からは棒のようなのが下に伸びて薄く前に出た鍔のようなものの中に入っているようです(これは、甕の口にひしゃくを入れて酒をくむところを表現しているようです)。長い髪が2つに分かれて両肩にたっぷりかかり、下の方で紐でむすんであるようです。表面全体は磨き上げたかのようにとてもつるつるしています。触っては分かりませんが、表面には茶色に白地(粘土の色)の文様が見えているようです。
 次は「農婦」。全体は、高さ50cmくらい、直径30cmくらいの滑らかな円柱のような形で、そこに女性が表現されています。表面には凹線が彫られていて、描かれている物の輪郭が触っても少し分かります。左腕にひょうたんを、右腕に振り分け袋を抱えています。後ろには髪が腰のあたりまで長く垂れています。
 次は「マリネラのパートナー」(マルティン・フロレス作)。マリネラはペルーを代表する舞踊だとのこと、YouTubeでちょっと聞いてにましたが、とても快活そうで心地好い8分の6拍子の音楽に合せて踊っているようです。向って右に女性、左に男性が並んでいます。高さは40cmくらいだったでしょうか。男女とも右手にハンカチを持って揚げるようにしています。女性は左手でダンスの衣装のスカート?の裾を持ち上げパアーとひろげています。また首から胸にかけて、三つ編みにしたような髪が2本すうっと垂れています。男性は左手を腰の辺に当て手のひらを外側(女性のほう)に向けています。
 次に「太ったチャラン」(フアナ・ソサ作)。チャランとは騎手のことで、この地方では馬の展覧会や競技がしばしば行われていて、その乗り手を表わしているとのことです。高さ40cm弱。大きな鍔のある帽子をちょっと斜めにかぶり右手を帽子に当てています。左手は腰に当てています。首からお腹のあたりにかけて何本ものきれいな曲線が同心円が広がるように並んでいますが、これは着ているポンチョにできる襞のようなものだとのことです。首にはネッカチーフのようなものが巻いてあります。
 「豊穣」(ヘラシモ・ソサ作)。これはすごい作品です。全体の大きさは、高さ30cmくらい、直径50cmほど(前後よりも左右のほうが径がやや長い)です。中央に女性、その回りにたくさんの酒壺が配されています。女性はやや上向きで、頬がふっくらととても大きく、口を開け、胸もお腹もぷっくりと前に出ていて、なんとも堂々とした感じです。頭には花飾りがあり、髪も後ろに豊かに垂れています。酒壺は、今もこの辺で飲まれているというチチャを入れるもので、数えてみたら14個くらいありました。高さ3cmくらいのものから10数cmのものまで、小さなものから大きなものへと、そしてほとんど横向きになっているものから次第に上向きになっているものへと、女性の左前から右へ、そしてぐるうっと後ろを回って左側へと一周しています。女性は左手を、左端の一番大きな直立している壺に当てています。(右手は下ろして腰のあたりです。)豊かな収穫の喜び、そして女性の豊穣さを感じる作品でした。
 
 帆付きアウトリガーカヌーを作ってみるワークショップは、この日午前11時からと、午後2時からの2回行われ、私は午前のほうに参加しました。私以外は、みんな小学生(とその保護者)で、MMPのHさんが中心に、数人のスタッフの方も協力して進められました。(私にはYさんが付きっ切りでガイドし補助してくれました。ワークショップといえば多くは子どもたちの参加ですが、これからは高齢者も参加して楽しめるものが増えたらと思います。)
 まず、展示場にみんなで行って、本物のアウトリガーカヌーのチェチェメニ号を見学しました。その大きさ、横に伸びているアウトリガーの先にある太いフロートなど思い出しました(チェチェメニ号については、以前民博で学ぶ―オセアニアと朝鮮―で詳しく書きました)。
 ワークショップの会場に戻って、各参加者には、袋に入った部品が配られます。船体と横に伸びるアウトリガー、3角形の帆、帆柱になる細い棒、それに薄い板数枚です。船体は両端の部分は省略されています。またアウトリガーの先には船体と平行にフロートが付いています。帆の1辺は細い棒と結び付けられています。これらの部品をHさんの指示に従って、組立てて行きます。アウトリガーに薄い板を、船体を中心に長いほうに3枚、短いほうに2枚接着剤で張り付けます。(接着剤が乾く間は、気分を変えてみんなであやとりです。これがけっこう難しい!)その後、船体中央部にある穴に帆柱の細い棒を入れて立てます。船体の端のほうにあるやや斜めに開いた穴に帆の1辺の棒の片端を斜めに入れ、他端を帆柱の先の所と組み合せます。そして、帆を船体の中央部やアウトリガーの先と糸で結び付けます。(この糸で結ぶ作業が一番難しかったです。)
 これで手作りカヌーが完成、ワークショップは終わりかと思ったら、参加者みんなで外に出て、建物のすぐ近くにある池でなんと進水式!それぞれのカヌーを池に浮かべて、風の力で運ばれてゆくカヌーに目をうばわれているようです。私には見えませんが、少し斜めにふくらんでいる帆に風を受けて流れていくカヌーの様子を思い浮かべることができました。最初から終わりまで、とても考えぬかれたワークショップでした。
(2018年4月5日)