兵庫県公館の彫刻たち

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 6月16日土曜日、兵庫県公館に行ってみました。
 兵庫県公館は、明治35年(1902)年に兵庫県本庁舎として建設された建物です。設計は文部技官山口半六(フランスに留学後185年文部省に入り、学校建築で活躍するも、この建物建築中の1900年に42歳で亡くなる)で、中庭を中心とする回廊式のフランス・ルネッサンス様式の建築だということです。この本庁舎は、1945年3月17日の神戸大空襲で基礎や外壁以外は焼失してしまいます。戦後修復されて南庁舎として使われてきました。老朽化のため一時は解体して公園の一部にすることも考えられたようですが、古い写真などをもとに内装や外装を竣工時の姿に復元して、1985年に迎賓館と県政資料館からなる兵庫県公館として会館しました。当時はバブルの初期、それも幸いしたのでしょう、明治の調度品などとともに、兵庫県出身の作家を中心に多くの美術品も収蔵されました。今も内外からの賓客の接遇や県政の重要な会議や式典に利用されている(毎年1月17日には阪神・淡路大震災の県主催の追悼式典がここで行われている)るとともに、毎週土曜日には無料で迎賓館と県政資料館が見学できます(県政資料館は平日も見学できる)。
 JR元町駅から歩いて数分で兵庫県公館へ。北側には県庁舎があり、回りにはほかにも由緒ありそうな建物などあるようです。私のお目当ては、正門に向って右側、東庭園にある彫刻たちです。以下その彫刻の紹介です。
 
ブールデル(1861-1929) 「アダム」(1889年): 両脚を広げて岩に腰かけている高さ2mくらいの男性像。顔を左下に向けて、左手で顔を覆うようにして(4本の指先を額に、広げた親指を頬に当てている)、顔を伏せるようにしている。右腕はごく自然に体側に沿って垂らしている。なにか深く思い悩んでいるような様子です。禁断の木の実を食べた人間の原罪を思っているのでしょうか?制作年は1889年で、ロダンの助手になって数年後、ボリューム感のある広げた脚や胴など、少しロダンの作風も感じられるような気がしました。
牛尾啓三(1951- 兵庫県生まれ) 「オウシ・ゾウケイ ランダム」2010年): 題名の意味がよく分かりません(「うしおけいぞう」という名前をたんにランダムにもじったのかも知れません)。直径1m余、太さ20cm余の石のリングのようなものです。見た目はドーナツそっくりのようです。そしてこのリングの全周にわたって、直径3cmくらいの穴が、おそらくは70〜80個くらい、少しずつ連続的に角度を変えながら貫通し、しかもその連続する穴のちょうど真ん中に沿ってリングが二つに切られています。これはいわゆる「メビウスの帯」(帯を1回ねじって両端を合わせてできる環)の造形のようです。なんだかよくは分からない作品ですが、とても面白い!によって
中ハシ克シゲ(1955- 香川県生まれ) 「Dog Nights」: 犬が犬小屋から出て、たぶんだれかを待ち続けているような作品です。犬は陶製でしょうか、全体に表面の手触りが心地好いです(ブロンズ製ですが、表面に耐光性の塗料を塗っているため、陶のような質感になっているそうです)。体長70cmほどの細身の白い犬です。胸からお腹にかけて小さな乳房が7、8個ぽこぽこと触ってよく分かります。背から胸やお腹に向う毛並みのようなのも少し分かります。首が長く前に伸び、顔を下に向け、また尾も垂れています。犬小屋は金属掣で、長さ1m弱、幅40cmほどの小さめのものです(犬小屋は、まず木で犬小屋をつくり、それを一枚ずつ剥がしてブロンズに鋳造し、それらを溶接したそうです)。屋根はしっかりしていますが、回りは廃材になった板切れをいくつも組合せて作ったようなもので隙間だらけです(廃材のような感じが触ってもよく分かる)。犬小屋の前が開いていて、犬がその前でいつ帰ってくるのか分からない人を待っているような、なんともかわいそうな感じのする作品でした。(その時は気がつかなかったのですが、この作品には実は、犬を照らす角度で、人の背丈より高い柱に丸いかさつきの電灯があって、当初は夜になると点灯するようになっていたそうです。)
新宮晋(1937- 大阪生まれ) 「時の木 U」(1989年):高さ5mくらいはある作品で、中心の鉄柱以外は触れなかった。中央の鉄柱の途中から2つに枝分かれし、それぞれの枝がまた2つに枝別れし、さらに計4つの枝先にプロペラが付いているそうです。そしてわずかの風でも、作品全体、それぞれの枝、それぞれのプロペラが回っているそうです。それぞれの枝やプロペラの部分にごく小さな鈴のようなものを付けておけば、風を音でも感じることができたのになあ、と思いました。風や水の力で動く立体作品をつくっていて、しばしば公園などに展示されているそうです。
岡本参千峰(みちほ) 「人・鳥・雲」(1987年) 高さ2m余の石の像で、タイトル通り、女性像、その上に鳥、さらにその上に雲が重なっています。石は全体につるうとした手触りで、女性と鳥は黒、雲は白だそうです。女性像は高さ1.5m、直径40cm余くらいの円柱のような形で、右手を広げて胸に当てています。顔はとてもきれいな感じで、かわいい唇、すうっと通った鼻筋、ぱっちりと大きく開いた目が印象的です。広げた右手と、丸い黒目の回りの楕円形の白目の部分が、白だそうです。女性の髪の毛の上には鳥の顔があり、くちばしがすうっと前に出ています。鳥の顔の両側にはちょっと斜めに波打つように翼があり、後ろには太い尾羽もあります。さらに鳥の顔の上に、幅70cmくらいもあるふわふわした軟らかそうな感じの白い雲が乗っています。全体にとても好ましく感じた作品です。
 
 庭園の彫刻たちを楽しんだ後は、公館の中に入って見学してみました。要所要所に説明をしてくれるボランティア?が配置されていてかなり細かいところまで解説してくれます。手の届く範囲でしか触れませんし、古い建物についてとくに興味があるということでもないので、十分には分かりませんでしたが、シンプルで落ち着いた重厚な雰囲気は伝わってきました。大会議室の大きな細長い楕円形のテーブル、ちょっとだけ飾りのついたよさげな椅子、ずっしりと重みのある厚地のドレープのカーテン、布製のシェードのついたランプなど、さわりがいがありました。階段の手摺を触りながら降りてみましたが、各踊り場に同じ形の丸い頭をした擬宝珠のようなのがあり、手摺の支柱に円い飾りがあるくらいで、シンプルでかえって好もしく感じました。
また、3階にある屋上庭園の噴水もよかったです。(この屋上庭園、創建当時中庭だった場所に吹き抜けの大会議室をつくったため、中庭を吹き抜けの上に移して庭園としたものだそうです。)噴水を囲む円形の縁に2、3m置きに、但馬、丹波、播磨、摂津、淡路(今の兵庫県に含まれる旧国名)の名が書かれた板があり、それぞれの板の向こうに40〜50cmくらいの大きさのシャコガイが置かれています(厚さ2cmくらいの厚みのある殻と、殻の縁が大きく波打つようになっていることから、シャコガイあるいはオオジャコだと分かった)。噴水の中心にはさらに大きなシャコガイもあるそうです。シャコガイはずいぶん高価なはずなのでどうやって手に入れたのかなあと思いましたが、これらのシャコガイは、兵庫県とパラオ共和国が1983年に友好姉妹提携を結び、その調印式でパラオ共和国の大統領から贈られたものだそうです(今はシャコガイ類はワシントン条約で保護されていて入手が難しい)。
 当日はよく分かっていなかったのですが、外の庭園だけでなく公館内にもいくつか彫刻作品もあるようです。触ることができるかどうかちょっと心配ですが、できればまた行って触ってみたいです。
(2018年6月18日)