京都市立芸術大学作品展

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 2月10日の午後に、Mさんと一緒に京都市立芸術大学に行って、2018年度京都市立芸術大学作品展を見学しました。美術学部の各科の院生や学部生の作品を展示するものです。日本画専攻の院生と学部生のお2人の案内で、触れられそうなものを中心に見学、とても楽しい、わくわくするようなひとときを過ごすことができました。
 これまではこの作品展は京都市美術館で開かれていたそうですが、市美術館が改装中ということで昨年から学内で開かれているそうです。そのため、展示されている作品だけでなく、その制作現場まで体験することができてよかったです。
 まず初めに入り込んだのが、ブロンズなどを鋳造する場所のようです。金属を溶かす1mくらいの炉。半円形の湯口があり、炉を傾けて湯口から溶けた金属を鋳型に流し込むのかな?。その隣りには鞴の役割をする、モーターで動く送風機のようなものがあります。鋳型の原形に使ったらしい10cm弱の粘土の塊のようなのもありました。その他、何にどう使うかよく分かりませんがいろいろ道具のようなのもありました。また、1年生が基礎学習で作ったという、ブロンズの歯磨きのチューブがありました。形と言い手触りと言い、本物そっくりでした。
 鋳造現場を出ると、多数の木の材料があちこちにあります。これらは昨年の台風でケヤキなど多くの木が倒れてしまい、その木の根などのようです。直径十数cmから1m弱くらいの木の根、折れた生々しい痕やチェーンソーの切断面(うまく切れなかったのか、いくつもの切れ込みが重なるようになっていたのもあった)。に触りました。古い木の幹や板なども多数あり、これらの中から適当なものを見繕って作品にするのでしょう。
 木彫でまず触ったのが、3本の腕のあるシーソーのようなもの。中心に、高さ1m弱の中央部がへこんだ臼のようなのがあり、そのへこんだ部分の上に、直径10cm、長さ2mくらいの3本の木の幹を中心で組み合せて3方向に伸びたものが乗っていて、ゆらゆら揺れるようになっています。その他、ヤギかなにかの動物の頭(小さな角があった)、いくつもの木を組み合せて全体で大きなオートバイのような乗り物で頭が動物になっているもの、直径1mくらいの木の幹を大きくえぐり込んで子どもが入れるくらいの雨露のあるもの、2つに枝分かれした幹の内部を刳り貫いて貫通させたものなどに触りました。
 なんだかよく分かりませんが、木や竹などでできたいろいろな形状の棒にも触りました。うねうねと曲がっていたり、表面が凸凹していたりつるうっとしていたり。中には、竹製なのにうねうねと曲がっている棒があって、どうやって作ったのだろうと不思議に思いました。
 
 近くで鶏の声がしきりにします。画題にするためでしょう、日本画の学生が尾長鶏を飼育しているそうです。金網越しに手に餌を持って立つと、その餌を尾長鶏がつついて、ちょっとふれあい体験も。赤いとさか、白い胴、黒くて長い尻尾、2m近く?あるようです。
 
 日本画の所では、案内してくださった学部生のSさんと院生のMさんの作品を触らせてもらいました。Sさんの作品は、上げ写しという方法で描いた模写作品で、原画は台湾の故宮博物院所蔵の、南宋後記の趙孟堅の水墨画「水仙」だそうです。原物は長さ 10mもある巻物で、水仙だけが、葉や花の向きや形を変えながら延々と描かれており、その中の 2m分を模写したものが、広げて展示してありました。そっと触ってみましたが、墨のある部分がごく微かに分かるかなあといった程度でした。ちなみに、上げ写しというのは、原画(多くの場合デジタルデータを印刷したもの)の上に薄美濃紙を重ね、(トレースするのではなく)原画を少しずつ見て頭の中にその像を焼き付け、その頭の中の像に従って描くという方法(しばしばうまく再現されているかを確かめる)だとのこと。そして、保存修復の方法には現状模写(原画を剥落などもふくめ現状のまま写し取る)と復元模写(色彩などもふくめ制作当時のままを復元する)があり、上げ写しは現状模写の一番最初の段階のようです。
 次に院生のMさんが描いた、3m四方もある大きな日本画「緋い追憶」を触らせてもらいました。背景は水色(草が生え始めたくらいのイメージ)で、中央下から鶏頭の太い白?の茎が伸びていくつにも枝分かれして葉が茂り、画面中央から上にかけて大きな赤くて丸い鶏頭の花が4個描かれています。背景にたいして、この鶏頭の緋が際立っているようです。触ってみると、太い茎、枝、先がとがった葉などがよく分かりました(花は輪郭はあまり分からず、全体にぼんやりこの辺かなという感じ)。このような大きな画をどうやって描くのか尋ねてみると、作品は床に水平に置き、乗り板という、両端に脚のある細長い板を渡して、その上に乗って作業するそうです。
 さらに、日本画に使う刷毛や筆や顔料も用意してくださり触ってみました。刷毛は幅7、8cmもある大きなもの、これで面を塗ります。細かい所や細い線は面相筆(先の軟らかいものとやや硬くてとがった感じのものがあった)を使い、さらに点を描く時は点描筆(先がピッととがっている)を使います。刷毛や筆に用いられる毛には鹿や猫?などの毛が使われ、さらにそれぞれの部位によっても使いごこちが違うそうです。顔料では、8番と12番の緑青に触りました。緑青は緑色の顔料、番の値が増えるにつれて粒子の径が小さくなるとのこと、8番はさらさら、12番はコナコナといった感じです。粒子径が小さくなるにつれて乱反射などのために白っぽく見えるとのこと(12番の緑青は薄緑色に見えている)、粒子の径や形と見た目の色合いなど、このへんの科学は面白そう。日本画は岩絵具中心かと思っていましたが、江戸時代以前は天然の植物染料もよく使われていて(鉛白は古くから使われていた)、いわゆる岩絵具がよく用いられるようになったのは江戸時代からだとか。明治以降は、天然の岩絵具に代わって、人工的な金属化合物を使った新岩絵具が主流となり、また顔料に混ぜる膠も今は天然のものはなくなり化学的に合成したものになっているとのこと。そして、天然の顔料や膠を使っていた時の色調とは、微妙にかつ明確に異なっているらしいです。
 また、このような3m四方もある大きな作品をどうやって描くのか尋ねてみると、作品を描くパネル?を床に水平に置き、それをまたぐように、両端に脚の付いた細長い板(乗り板)を置いて、その乗り板の上に乗って作業するそうです。なるほどですね。
 
その他、デザインの所では、いろいろな椅子、積み木などにも触れました。ちょっと変ったものに、エオリアン・ハープ(Aeolian Harp)がありました(ウィンド・ハープとも言う)。木製の箱(たぶん共鳴の役をする)の側面に数本の弦が張ってあり、その弦が自然の風に呼応して振動し音が出るというしかけです。自然の風ではなかなか音が出ないようで、扇風機を使っているとか。いくつかの音が交じったようなやわらかいブーンというような音がしていました。この製作には、音楽学部の学生にも協力してもらっているそうです。
 漆工芸の所では、つるつるの表面にいろんな虫が浮き出しで描かれている大きな作品に触りました。足が何十本もある虫(足の形がとてもはっきりした点点の連なりになっていて、この点点を使えばきれいな点字が表現できると思った)、きれいな形のトンボ(翅には多数の点点の模様も)、さらに10cmほども盛り上がった立体のクワガタやカブトまでくっ付いていました。なかなか面白い、漆の特徴もよく分かる作品でした。
 
 こうして若い、これからを担う人たちといろいろ話しながら案内してもらうことができ、とても楽しいひとときでした。
(2019年2月20日)