はしもとみおさんの動物肖像彫刻

上に戻る



 2月24日、 東大阪市民美術センターで開催されていた「木彫りどうぶつ大集合!はしもとみおの世界展」に行きました。
 はしもとさんは、生きている動物のそのままの姿を木彫で表わす動物肖像彫刻家です。もう5年ほど前になりますが、一宮市にある三岸節子記念美術館で、はしもとみおさんの「動物たちからの手紙」展を見学したことがあります(三岸節子記念美術館の常設展とはしもとみお展――絵のジオラマに触る )。
 展示会場は人も多く、皆さん熱心に見ているようです。写真はかなり自由に撮ることができ、また一部の作品は絨毯?の敷かれた床に直接置かれていて自由に触ることができます。
 作品の動物たちにはすべて固有名詞があり、またそれぞれの動物について生活暦?のようなのが書いてあります(作品のタイトルのようなのは見当たらないようだ)。はしもとさんの作品はすべて実在の(あるいは実在した)動物たちがモデルになっていて、自身が飼っている犬などをはじめ、動物園にいる動物たち、また出張先などで見た動物たちです。言葉を語らず消えゆく動物たちの命、そのひとつひとつの命をリアルな彫刻で表現し、形あるものとして残し伝えようとしています。
 はしもとさんは1995年、15歳の時に阪神・淡路大震災に遭います。近所で飼われていた犬や猫がいなくなり、街から動物たちの命の気配が消えてしまいます。「医学は亡くなってからでは取り戻せない、震災以前の動物のいる風景を残したい」と美術の世界にひかれ、東京造形大学美術学部に進み彫刻を専攻したとのこと。
 数百点はある作品の中で一番の人気は、「シュウ」君のようです。シュウ君は、三重県大紀町にある大内山動物園の人気のウマグマだとのこと。ウマグマとは初めて聞いた名前、大内山動物園のウマグマのページによれば、「中国奥地の高原や山地に生息。他のヒグマと比べて体は小さいが、頭は大きい。胸に月輪模様のある個体もいる。雑食性で、他のヒグマと同じように魚から木の実、昆虫まで食べる。馬のように走る事からこの名がついたと言われている。」とのこと。シュウ君の獣舎には、大きなプールやタイヤ、木の柱などがあり、よくタイヤで遊んでいるそうです。そして、とても人に慣れていて、飼育員が手から餌をあげることができるそうです。
 その「シュウ」君の作品は、高さ120cmくらいはあるでしょうか、後脚を広げて座り、その膝の上に前脚の手を乗せています。直径1m以上ある回りをぐるうっと回って触ることができるようになっていて、多くの子どもたちが回りながら触っていました。広げた後脚の膝の間には台があって、その上に半分に切られたりんごが、また台の前にはバナナのふさが置いてあります。胸には月のような形があり、リースがかかっていました。そして、このどっしりとしたシュウ君の身体の表面のあちこちに、いろんな小さな動物たちがくっついているのです!子どもたちが、「ここにもいた!ここにもいた!」と探し回っています。背中のほうには、大きく広がったモモンガ?や小さなヤマネ?、手の大きなモグラ?、横のほうにはリス?、イタチ?、前のほうにもウサギ?、トカゲ?など、10種近くあったように思います。大いに楽しめる作品です。材料はクスノキで、とてもいいにおいがします。
 身近な動物では、はしもとさんが飼っているという黒柴の「月」君はじめ、多くの犬や猫たちがいろいろなポーズで展示されていました。2匹の猫が向かい合って抱き合うように寝ていて、全体がきれいな円形になっているもの(1匹は目を少し明け、もう1匹は目をつむっていた)、2匹の犬が並んで寝そべっている姿のものなどいろいろでした。また直径30cmくらいの亀がいて、その甲羅の模様や、顔をちょっと出している姿が印象に残っています。触ることはできませんでしたが、アラブ首長国連邦のラクダ、オランウータン、またミーヤキャットの音楽隊とかブレーメンの音楽隊とか、たのしそうな作品が多数並んでいます。
 また、彫刻とともに、多くのスケッチが並んで展示されていて、これがなんともうまいとのこと。写真を使わず、このさらさらっと描いたスケッチをもとに彫刻をしているそうです。絵でも十分にやって行けそうですが、はしもとさんは「震災で亡くなった子に会いたい、触りたいと思った時に絵では物足りない」と彫刻を選んだ理由を語っているそうです。
 別の部屋では、あのシュウ君の制作過程などが上映されていて、チェーンソーやノミなどの音がします。小さな身体でこれらを使い、主にクスノキを材料にしているようです。また、1階ではいろいろなミニチュアの動物たちもはんばいされていて、これらにもちょっと触れました。本当はもっといろんな動物たちに触ってみたかったですが、ちょっと残念でした。でも、回りの人たちが真剣に見入っている様子からも、はしもとさんの動物たちに共感しその命を感じているのだろうとうかがい知ることができました。

(2019年3月8日)