染織造形に触る

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 3月30日、京都国立近代美術館で開催された「手だけが知ってる美術館 第2回 染織」の午前の部に参加しました。これは、現在同館で開催中の企画展「京都の染織 1960年代から今日まで」の関連プログラムで、同展にも出品している野田睦美先生の作品を触って鑑賞し、さらに織の体験もしてみるというものです。
  *ここで私の誤解を披露しておきます。このイベントのタイトルの「染織」を、私は音声で聞いていてふつうに「染色」だと思い込んでいました。それで、イベント後半の体験ではたぶん染色の体験をするのだろうと思って、汚れてもいいようなかっこうで行きました。ところが、そんな必要はないとのこと、なんかおかしいと思ったら、「染色」ではなく「染織」で、体験は織りの体験だとのこと。しっかり1字1字確認しないと、こういうこともあります。(ということで、今回は染色のほうはできなかったので、別の機会にしてみようと思っています。)
 参加者は私をふくめ9人(見えない人は私1人だったようです)、それに館のスタッフお2人と、野田先生およびワークショップのアシスタントの方が3名でした。スタッフのMさんの進行で、初めに簡単な自己紹介とともに春を何で感じるかについて話しました(各自の春の感じかたがいろいろで面白かった)。
 次に野田先生から、タペストリーの歴史と素材について10分弱お話しがありました。野田睦美先生は、京都出身で、京都市立芸術大学美術研究科修了。文化庁新進芸術家海外派遣研修員に推挙されて、2012年9月から1年半パリに滞在、パリ国立美術高等学校とパリ市立工房竪機タピスリーで創作と作品発表を行ったそうです。現在は、広島市立大学芸術学部准教授。
 タペストリー(フランスではタピスリー)は、日本では綴織と呼ばれているものに相当。とても古い歴史があって、エジプトでは3世紀からコプト織(コプトはエジプトのキリスト教徒)が行われ、羊毛を染めて、幾何形態から人物までいろいろな表現がった。その技術は11世紀ころにヨーロッパに伝えられ、13世紀から14世紀にかけてタペストリーの最盛期を迎え、教会やお城の壁などの装飾に使われた。文字を読めない人たちに、そこに描かれている絵や図柄で、教会や王侯貴族の考えや権威?を伝えるという面があった。 2大タペストリーとして有名なのが、「貴婦人と一角獣」(15世紀にフランドルで織られた6枚の連作で、それぞれ6つの感覚をテーマとする)と「アンジェの黙示録」(14世紀後半、シャルル5世の画家だったジャン・ド・ブリュージュがヨハネの黙示録を題材に描いた下絵をもとに、ニコラ・バターユの工房で制作されたもので、7枚からなる計100メートルを越える長大なタペストリー)。その後一時は衰退気味だったが、第2時大戦後ピカソ等の画家や建築家ル・コルビュジエが注目して作品がつくられ、また1962年からスイス・ローザンヌで国際タペストリー・ビエンナーレが開催されるようになった(多様な繊維を使って立体的な表現も多く行れた。第16回?で終わっている)。
 タペストリーの素材は、繊維と染料。繊維の定義ははっきりしていなくて、細長いものは何でも(金属でも)繊維と言える。繊維には天然繊維と科学繊維があり、天然繊維には、植物(麻や綿)、動物(羊毛や絹)、鉱物(石綿など)がある。化学繊維は多様化し、日本はおそらく世界の半分くらいをしめているのではないか。繊維も染料も、光などによって劣化しやすいのが問題で、作品として展示する難しさがある。
 
 続いて、テーブルの上に置かれた野田先生の作品を、参加者みんなで、アイマスクをつけて触り、いろいろ感想など話し合いながら鑑賞します。それぞれ自分のいる所で手の届く範囲で触っていますので、それぞれ触っている部分は異なっています。しばらく触ってから、位置を変えて別の所でも触ってみます。私の目の前にあった部分は、竹籠などの編み目を思わせるような硬い手触りの細長い巨大な草履のようなもの。針金のような輪っかや紐の輪がたくさん着き、縁はしっかり縁取りされていて、さらにそこからクジラひげのような硬い繊維ややわらかい長い毛糸がたくさん伸びています(この毛糸などはなにかの尻尾のようにも感じた)。移動して触った所では、巨大な草履の上にとてもやわらかくてさらさらした感じのフリルのようなのが広がっていて、触ってここちよかったです。このような巨大な草履ないし大きな花びらとも思えるものが、確認したものだけでも5、6枚、おそらく全部で10枚くらいあるだろうと想像しました。
 ここで、野田先生が作品について説明されます。作品のタイトルは「南無不可思議光如来-再生の輝き」。横幅2メートルくらい、縦も1.5メートル以上ある大きなもので、本来は壁に掛けているもので、あの大きな草履ないし花びらのようなのは全部で9枚あるとのこと。またクジラひげのような線は形状記憶合金で、曲げるとその形に変形し、伸ばすともとに戻るとのこと(実際に曲げたりしてみるとその通りになりました)、私がとても快く感じたフリルのようなのはナイロン製のネット、針金のような輪っかはポリエチレン線で、止める時は熱で溶かしていて先が透明なガラスのようになってきれいに見えるそうです。
 私たちはテーブルに広げて置かれたものをあちこちから触っているわけですが、壁に掛かっている作品全体を見ると、だいぶ作品の雰囲気は違ってくるだろうと想像されます。そしてあの大きな花びらのようなのはそれぞれ 9つの仏の世界を表しているようにも感じました。この作品は、病院に展示されていて、実際に患者さんたちが作品に触れ、中には垂れ下がっている毛糸で髪を編むようにしたりする人もいるとか。色はよくは分かりませんが、全体に赤っぽい?らしく、銀糸も使われていてかなり鮮やかな感じがするかもと思いました。多面的で重層的な、面白い作品のように感じました。
 
 後半は、平織でショートマフラーをつくる体験です。まず、各自緯糸を12本くらい選びます。ほとんど触ったことのない高級なアルパカ(ベビーアルパカ原毛、アルパカ原毛)やヒツジ(メリノ原毛、植物染めコリデール原毛)などのいろいろな編み糸が並んでいて、好きなものを選べます。私は、まったく撚っていないそのままのアルパカ原毛がとてもふわふわした感じで気持ちよかったので3本も選び、また三つ編みのベビーアルパカ(生まれて3ヶ月くらいのもの)も3本、四つ編みのメリノ原毛などを選びました。
 各自の前に、経糸が6本張ってある長さ70cmくらい?の細長い木枠が置かれます。この経糸に先ほど選んだ緯糸を交互に通して織って行きます。この織りの作業は、皆さんなんとアイマスクをしてするのです!多くの人がほとんどアイマスクをはずさずに最後までやりとおしているようでした(私が見えていたとしたら、とてもできそうにありません)。撚っていないアルパカ原毛は、一つにまとまらなくて、また髪の毛よりも細い糸が経糸にひっかかったりして、なかなかスムースに折れませんでした。時々織りの順番を間違えてやり直したりしながらなんとか織り終わり、スタッフの方に経糸を止めてもらって完成です。とても手触りのよい高級なショートマフラーができました。今度の冬にはボタンを付けてネックウォーマーとして使ってもと思っています。
 
 今回のプログラムでは、染織造形というこれまで知らなかった分野の体験ができました。
(2019年4月8日)