熊坂兌子の彫刻に触れる

上に戻る


 
 今年も、清里の森のギャラリーGakouで、5月1日から5日、および6月から10月までの第1土・日曜日に、『湘南の彫刻家 二人展 鎌倉/熊坂兌子 × 藤沢/緕R賀行』が開催されていて、私は5月1〜2日に清里に行きました。
 熊坂兌子(なおこ)さんは、経歴を調べてみると、1933年生まれ、現在86歳くらいの女性彫刻家。1956年に東京芸術大学芸術学科卒業、1970年に渡米、メリーランド・インスティチュート・カレッジオブアートで制作。1978年彫刻家・画家のサール・シュワルツ(Sahl Swarz: 1912〜2004年)と結婚、鎌倉とイタリアのベローナに半年ずつ住んで制作活動をします。2008年より鎌倉に居住。日本でも個展を何回も開かれ、藤沢市などにはモニュメント彫刻もあるようです。
 今回の二人展では、熊坂さんの作品が10点近く展示されていて、触ってみました。抽象的な作品も多くあまりよく分からないものもありましたが、日本の彫刻とはちょっと雰囲気が違うなあと思うもの、ヨーロッパの絵を思わせるようなものもありました。
 せわしない動き:高さ25cmくらい、幅20cmくらい。10cm弱ほどの棒の上に、3、4枚の薄い銅板を張り合せたようなつくりになっています。それぞれの銅板の端があちこち飛び出していて、とくに左上の先端がすうっと斜め上に伸びているのが印象的。この作品は、蝋で型を取り銅を流し込んでつくったもので、型の蝋は溶けてしまうのでたぶん 1点物ではないかということです。このようなつくりの作品が他にも数点ありました。
 Composition: 台の上に3個の石(大理石?)が配されています。形は幾何学的で表面はつるつるです。向って右に高さ15cm、太さ4cmくらいの8角錐台、左に高さ5cmほどの直方体、これらの後ろに、幅が20cmくらい、高さが左20cm、右10cm余、奥行が左10cm、右15cmくらいの台形があります。台形の上面のつるうっとした坂はここちいいです。台形の右手前は内側に巻くように細い円柱状になっていて、これもいい感じです。
 ご主人のサール・シュワルツさんの作品も1点ありました。恋人たち。12cm四方くらいのレリーフのようなブロンズの作品です。馬に2人の男女が乗り、手を組み顔を寄せています。西洋の絵に出てくるような場面の作品のようにも思いました。
 ラーニング:25cmくらいの自然石の一部に手を加えている作品。上には頭のようにも思えるきれいな半球があります。中央から下部にかけてトンネルのように切り取られています。何だかよくは分かりませんが、自然の形状とざらざらの手触り、人工の形とつるつるの手触り、特徴のある作品でした。
 母と子:高さ20cm、幅15cm弱のレリーフ状の作品。ちょっと分かりにくかったですが、母が子を抱き上げているようです。両側に広がった、肘を外側にぎゅっと張出したような 3角の空間が印象的でした。
 太陽とともに踊れ:幅35cmくらい、高さ20cmくらいのレリーフ状の作品。触った第一印象は、とても躍動的だなあ。3人がおもいきり手足を伸ばして踊っています。脚を大きく上げ、手を指先までピンと斜め上に伸ばしたり。向って右側の人の手には、直径5cm弱の円い盤状のようなもの(太陽?)がありました。これも絵のような作品に思えました。
 小さな王と王妃:高さ10cm弱、幅10cm、奥行5cmくらいの作品。上に小さな2つの突起があって、それらが王と王妃の顔の部分のようですが、その他はよく分かりませんでした。
 豊穣:高さ50cmほどのブロンズの作品。大きなお腹をした女性がすっと立っています。きれいに磨き上げられた石のような手触りで、初めに石の作品が作られ、その後にその作品の型を取ってブロンズの作品にしたのかもしれないということです。頭部はほとんど省略され、すぐ胸のふくらみが 2つ、そしてそのすぐ下から大きな大きな丸くふくらんだお腹です(妊娠10ヶ月?)。大きなお腹に、小さなかわいい手を、左手はやや上に、右手はやや下に当てています。お腹の下からはしっかりした下半身が伸び、支えています。インパクトのある作品です。
 チェス好きの家:幅30cm弱、高さ20cm弱。薄い銅板を何枚も組み合わせてうねうねと曲りくねった曲面(一部は二重や三重になっている)になっていて、家の内側からも外側からも見(触)られ、面白い感じがします。向って左側はカーテンのようなのが左側に開きかかっており、そのさらに左側の床には1辺が2cmほどのさいころのような立方体があります。中央の上には小さな四角い窓があり、その窓の向こうからだれか人の顔がのぞいています。窓の下には小さな駒のようなのがたくさん並んだ四角いチェスの盤?のようなのがあります。右側にはテーブルがあり、その上にワイン?の瓶とカップ、皿の上にパンらしきものがあり(静物画みたい)、人なのでしょうかテーブルに手をかけているような感じです(この向こうにも小さな四角い窓が開いている)。チェスなどして楽しそうな家の中をだれかうらやまし気に見ているのでしょうか、楽しそうな、ちょっとユーモらすな作品に思いました。
 
 桑山先生の作品は、大きいものから小さいものまで20点余あったでしょうか、大部分はこれまでにも触ったことがある作品、先生が案内してくれたりした作品数点を紹介します。
 窓シリーズ 2作品に触りました。「窓:叱られて」は、幅130cm、高さ100cm、奥行70cmくらいの大きな作品。外の台に女の子が腰かけ、その向って右側に下が割れた花瓶にひまわりがさしてあり、後ろには両開きの窓が内側に開いています。女の子の顔はちょっと幼そうな感じ、両耳の所で髪を大きく結い、両手をお尻の下に入れ、右足を左足の上に重ねています。右側の花瓶とともに、なにか物悲しいような感じがします。「窓:午後」は、縦・横・高さとも50〜60cmくらいの作品。内側に開いた窓の外の長椅子(ソファー?)に2人の男女が並んで座っています。男は女の肩に手を回し女のほうを見ています。女の人は男のほうを見るでもなく、やや左の遠くを見ている感じです。なにかゆったりした時間の流れが伝わってきます。
 折紙シリーズの「十五夜」が2点ありました。1つは直径25cm弱の満月を表す円盤の中央が四角く切り取られていて、その四角の中に、折紙の兎がいます。もう1点は、満月を示す金属製の径20cmほどのリングの前に、20cmくらいの長さのうねうねとした曲面の雲があり、その雲の向って右側の平らな所に折紙の兎が乗っています(こちらの兎のほうが耳が鋭くとがっていた)。雲を表している木は自然木で、その右側だけを平らに削って兎を乗せています。このような雲の雰囲気は人工ではなかなか表せないとのことです。
 ブロンズ製の「夏」もありました。制作年は1987年となっていて、小さいころのお嬢さんの姿でしょうか。高さは140cmくらい、ぱりっと糊のきいた浴衣のようなのを着て、胸の前で手を組んでいるようです。着衣の縁がすうっと直線的になっていて、糊がよくきいていることが分かります。後ろのほうでは帯がよく分かります。
 日本のなつかしの童謡シリーズの「とんがり帽子」の小さな作品にも触りました。15cm四方くらいの大きさで、手前になだらかな丘?がひろがり、その先が少し切れてその向こうに高い塔(時計台)があります。丘には両側に柵のようなのがあって、手前が広く先のほうが狭くなり、その向こうの時計台の下には小さな穴が空いていて、遠近法的に遠方まで見えているようになっています。柵の上には、小さな鳩?が3羽とまっています。
 外には、焼き物で、海辺シリーズが2点ありました。1つは70〜80cmくらいの大きさで、もう1つはそれより少し小さいです。砂浜がなだらかに広がり、その右手前に朽ちて砂に埋もれかかっているような家があります。出ているのは大きな3角の屋根くらいで、大きなほうの作品では、屋根に大きな穴が開き、また屋根の下には入口だったのか窓だったのか分かりませんが大きな穴があります。 2点ともザラザラ・ブツブツした手触りですが、粘土に石を砕いたものを混ぜて焼いたとか、海辺のさびしげな雰囲気がでているように思いました。
 
 5月1日は雨模様でしたが、2日はきれいに晴れたので、8時半過ぎには清里駅近くの宿を出て近くを散策しました。この辺はたぶん1300m前後の高さでしょうか、富士山までは見えませんでしたが雪山の姿がきれいなようです。いろいろな小鳥の鳴き声、澄んだ空気、とてもいいです。まず、日本聖公会の清里聖アンデレ教会に向かいました。小さな教会ですが、石造?のしっかりした建物のようです。私たちが行った時はだれもいませんでしたが、ほとんど毎日礼拝が行われ活動も盛んなようです(保育園もありました)。この教会の納骨堂には、清里の開拓にも尽力したポール・ラッシュ博士の遺骨が安置されているそうです(ポール・ラッシュ博士について詳しくは、ポール・ラッシュ博士を参照)。
 その後、清泉寮のほうに向って歩き始めました。牧場が見えてきて、羊やヤギたちもいます。年取ったヤギでしょうか、ゆっくり草を食んでいる音もします。ジャージー種の乳牛の牧場もあり、子牛たちが寄ってきます。この辺になると、東京方面から車で来た家族連れでにぎわっています。またドッグランが行われるのでしょうか、何匹も犬を連れた人たちも多いです。ファームショップでは、寒いのにソフトクリームもよく売れていました。私たちは八ヶ岳自然ふれあいセンターに向かいました。ここも多くの子どもたちで混雑しています。つくり物のようですが、いろいろな尻尾を触って(見て)それが何の動物かを当てるとか、クイズや体験的なメニューが多くあるようでした。日本全国のドングリ23種が展示されていて、ちょっと帽子(殻斗)に触ってみましたが、ほんとうにいろいろありそう、でも混雑していてゆっくり触れそうにありません。いろいろな松かさも展示されていて、ヒマラヤスギの松かさはバラの花のようできれいでした。また、世界1大きいというダイオウショウ(大王松)の松かさも展示されていました。高さ20cm余、直径10cm弱の大きな円柱形で、なんとも巨大。さらにダイオウショウの30cm近くもある長い3本セットの針葉も展示されていました(この長い葉を大王に例えて大王松と名付けられたそうです。なお、ふつう松の葉は2本で1組になっているが、大王松では3本で1組になっている)。このふれあいセンター、いろいろな森の情報満載のようですし、また込んでいない時にゆっくり見学したいものです。
 
(2019年5月7日)