近江八幡に行きました――絵画鑑賞にYouTubeも役立つ

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 6月21日、近江八幡に行って、ボーダレス・アートミューシアムで開催されている展覧会を見学しました。
 JRで1時間ほどで近江八幡に到着、そこからバスに乗り、10分弱で小幡町資料館前で下車。近くには、近江八幡市立の郷土資料館と歴史民俗資料館および旧西川家住宅があり、とくに旧西川家住宅は込んでいるようでした(西川家は、16世紀後半に創業、早くも1615年には江戸・日本橋に出店。今も布団の西川として有名)。観光客もかなり多いようで、近江八幡は健在という印象を受けました。
 私たちも、近くのヨシ(葦)などの製品を扱っている店に入ってみました。そこではヨシの筆や笛など売っていましたが、そこでなんとイケチョウガイ(池蝶貝)に触ることができました。長径20cmくらい、短径10cm強のかなり大きくひろがった感じの貝です。貝の厚さも1cm以上はある所もあり、貝細工にも使えそう。そして、貝の内面はつるうっとしていて、そこに、長さ4cmくらいと2cmくらいの細長い2つの真珠の盛り上がりがあります。この真珠は、丸い核を入れてつくるものではなく、細胞を入れてつくった無核の真珠だということです。貝から取り出した真珠もあって、これは、直径3mmくらい、長さ2cmほどの細長いもので、頭の部分が丸く膨れていて、私はこけしのような形を連想しました(色はふつうの真珠のように白っぽいようです)。また、やや小さいイケチョウガイで、内面に蒔絵でカイツブリが描かれているものにも触りました。イケチョウガイは琵琶湖の特産種で、昭和初年から真珠母貝として使われるようになり、昭和40年台には年間6トンも生産されて主に海外に輸出されていたそうですが、その後琵琶湖の水質の悪化や安い真珠におされて生産量が急減、ほとんど生産されなくなったとのこと(最近見直しの動きもあって、少量生産されているようだ)。私が触ったのは、30年くらいは前のイケチョウガイだということです。
 コロナ禍のなか、ほとんどの博物館で展示品はもちろん、展示ケースやガラスにまで触ってはだめという昨今、こんな素晴しいものに触れて感動、近江八幡のなにかホスピタリティのようなものを感じました。
 
 その後、道をたずねながら、やや遠回りをして、ボーダレス・アートミュージアム NO-MAに到着。この会場では、昨年木彫の展覧会をさせてもらい何回も行きましたので、なつかしかったです。現在、「Co-LAB #1,2,3」が開催されています。これは、2人展を3期に分けて開催する展覧会のシリーズで、私たちはその第1期 #1 Symbol(象徴): 小幡正雄×吉原長次郎を見学しました。(詳しくは、Co−LAB #1,2,3参照)。
 小幡さんも吉原さんも故人、施設で暮らし、それぞれ特徴のある絵を描き続けた方です。小幡さんは段ボールに主に赤で、人物、とくに男女のペア、子どもも入った家族、また鳥のような、飛行機のような乗り物、海のような風景(船や飛行機も見えている)などを描いています。吉原さんの絵では「丸」がテーマになっているようで、太陽(その中に顔も描かれている)、日の丸、非常ベル、達磨、金魚鉢、旗や踏切の遮断機も描いています。それぞれの絵について私はやはりしっかりした印象を持てなかったのですが、一緒に絵を見た方はかなり良い印象を持っていたようです。
 彼らの作品についてあまりよく分からなかったので、帰宅後 NO-MAのホームページをみてみると、この 2人の作品について学芸員が詳しく解説している動画がアップされていました。小幡正雄編 、および吉原長次郎編
 コロナの影響で美術館や博物館が長期間休館することになり、作品や展示物について動画で紹介するページもしばしば見かけて、私もいくつか試聴してみましたが、音声で聴けるのは、ごく簡単な解説ないしヒントのようなもので、作品や展示物について具体的に詳しく知ることはあまりできませんでした。それに比べて、この NO-MAの動画は、作家についても作品についてもかなり詳しく解説されていて、私のような見えない者にとっても、作品について、十分とは言えませんが、ある程度具体的にイメージを持つことができて、とてもよかったです。見えない人たちにももっと分かりやすくするためには、さらに各作品のタイトル、必要に応じてですが、作品の大きさなどもほしい情報です。また、例えば小幡さんの絵の中の「虹」の描き方の特徴について「真正面から描いている」などと言って感心しているのですが、もっと具体的に形が分かるように「縦に描かれている」などと補足したほうがいいです。平面作品は、直接触れてもほとんど分かりませんし、また立体コピーの図版にしてもおおまかな形が分かるだけですので、どうしても言葉による解説が必要です。言葉による解説として、このような学芸員による作品解説が多くの美術館で行われるようになれば、見えない人たちにとっても美術館がだいぶ親しいものになると思います。
 
*8月30日にもNO-MAに行き、この CO-LABの第3回「#3大井康弘×桝本佳子=x Image(えくす・いめーじ)」を見学しました。
 今回は立体作品だということで楽しみにして行きましたが、面白そうな作品たちだけに、実際に触れられるものがなにもなくて作品の良さをあまり感じ取ることができず、ちょっと残念でした。学芸員による展示解説も参考にしましたが、展示されている実際の作品についてはっきりとしたイメージを持つことはできませんでした。
 大井さんは施設で暮らしている障害のある方で、作品表現が身体表現の一部、生きていることの一部になっているのではと感じました。人体などの様々なパーツを組み合せた平面作品と、パーツの粘土をどんどんくっつけて行って、放っておけばまったくなにがなんだか分からなくなるような立体作品のようです(実際は支援員が適当なところで止めているらしい。「ガネーシャ」というタイトルの作品がたくさんあったが、まったくそれとは分からないものもあるようだ)。とくに印象深かったことは、粘土作品は新聞紙を丸めたような芯材に粘土をどんどんくっつけて行って作っているのですが、その芯材の新聞紙の中には木の実や自分の体毛などが入っており、また粘土を焼く前に支援員が芯材を取り除いているところを見ると「痛い」と反応するとか!身体性を強く感じます。
 桝本さんはプロの陶の作家のようです。皿や壺といった伝統的な陶器と、雁、燕、アリゲータ、毛蟹、蛸、カジキマグロ、朝顔など動植物を一体に組み合わせたり、中には壺とスペースシャトルを一体にしたような作品もありました。ふつう皿や壺などに動植物を組み合せる時は、表面に模様や浮き出しで表現することが多いと思いますが、桝本さんの作品では皿や壺と動物などが、装飾的な模様などだけでなく、動物の体と器が立体的に完全に合体したような感じで、器から動物の体の一部が大きく飛び出たり、器の中を動物の体が貫通したりしているようです。もちろん、このような器はまったく実用にはなりませんし、ふつうの陶器を見慣れている人たちにはびっくりものだと思います。
 今回の立体作品の展示では、実物には破損のおそれなどのために触れられないのは仕方ないかもしれませんが、それらの作品の制作方法や特徴が少しでも分かるような、模式的なキットのようなのを別に用意してくれれば、だいぶ理解しやすくなるのではと思います。
 
(2020年6月24日、8月31日更新)