なぎビカリアミュージアムで、化石発掘体験

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 9月30日、Kさんと一緒に岡山県北東部の奈義町にあるなぎビカリアミュージアムに行きました。
 大阪駅よりJRの中国ハイウェイバス 津山駅前行に乗り、2時間40分ほどで美作ICに到着、そこで下車してタクシーに乗り、15分ほどでなぎビカリアミュージアムに着きました。事前に見学したい旨連絡しておいたこともあり、館長さんはじめスタッフの皆さまにとても歓迎されました。平日で来館者も少なくゆっくり見学でき、また当日は60%の雨の確率でしたが、幸いにも雨にも降られず外で発掘体験もできました。
 地元の人たちにはこの付近でビカリアなど多くの貝の化石が出ることはよく知られていたそうです。化石がよく出るこの地区は「柿」という地名ですが、江戸時代にこの辺で大きなカキ(牡蠣)の化石が出ることから、(たぶん音が同じということで)名付けられたそうです。20数年前(1997年)に化石を保存しまた子供たちも手軽に発掘体験もできる施設として開館し、地元の化石好きの人たちが中心に運営しているようです。展示されている化石にはほとんど触れることはできませんが、スタッフの皆さんが自身のコレクションを持ってきておられて、それを私はいろいろ触らせてもらいました。
 館内ではまず、生態系ジオラマ。マングローブの茂った1600万年前の亜熱帯の海で、砂浜には貝など見えているようです。今はこの付近は海抜200数十メートルありますが、当時は津山海という内海の岸辺近くで浅海が広がっていたようです。1600万年くらい前の地図もあって、それによれば、広島県西部から岡山県、兵庫県南部、大阪府まで、海が広がっていたようです(ごくおおざっぱに言うと、今の瀬戸内海を北にずらしたような感じかな、と言っていました)。
2000万年前から1500万年前にかけて、西南日本は時計回りに、東北日本は反時計回りに大きく回転するように動いて、大陸との間が広がって日本海ができてきたようです。奈義町の南の津山付近はもともと低い土地で淡水の湖があったようですが、1650万年前くらいから温暖化が進み海水準が上がってきて、北側(日本海側)から海水が流れ込み、津山付近を中心に、今の瀬戸内海のような多島海ができ、亜熱帯の浅海の環境ができたようです。温暖な時期は300万年くらい続き、その後は寒冷化して海退が起こり、たぶん奈義付近は陸化したでしょう。その後、おそらく600万年前以降になってこの地域は隆起し始めて現在に至っているようです。
 次に、いろいろな化石が種類別に展示されているようです。ビカリアなどの貝類、ハサミシャコエビなどエビやカニの仲間、植物の葉の化石、サメやワニやパレオパラドキシアの歯の化石(パレオパラドキシアはカバに似たような姿で、鉛筆を束ねたような歯だとか)、クジラの骨(アカボウクジラの脊椎コツだとか)など展示されていました。中には、発掘体験で化石を見つけた方の名前入りの化石もたくさんあるようです。面白いと思ったのは巣穴化石で、ドーナツ状に螺旋が巻いて重なったようなのが展示されているとか。
 次に、私の好みの地層壁(残念ながら触れることはできませんでした)。近くの山の、化石が見つかっている崖の露頭壁で、下から順に、泥岩、礫岩、砂岩、凝灰岩(火山灰も含まれる)となっているそうです。泥岩層が幅広く、化石が見え、断層も斜めに走っているそうです(断層の部分は鉄分が酸化して茶色っぽくなっているとか)。[この辺りに広く分布する泥岩層中心の地層は勝田層群と呼ばれている。勝田層群は、下(古いもの)から順に、植月層(1700万年くらい前で、川が湖に流れ込んでできた堆積物)、吉野層(1600万年くらい前で、河口や遠浅の海の堆積物)、高倉層(1500万年くらい前で、少し深くなって広くなった海の堆積物)に分けられている。ビカリアなどがよく出るのは吉野層。]
 
 その後、館長さんはじめスタッフの皆さんのコレクションに触らせてもらいました。まずビカリア。長さ10cm弱の、先のとがった細長い円錐形の巻貝です。6、7回くらい巻いていて、螺肋には縦に数列トゲのようなのが並んでいます。本来はほぼきれいな円錐形のはずですが、横につぶれたようなやや扁平な円錐形になっているものが多かったです。これは、地層が隆起する時の圧力で変形したものだそうです。(6、7cmくらいの大きさのアカガイで、前後方向に半分くらいつぶれたような化石もあった。)ビカリアはウミニナの仲間の絶滅種で、日本では新生代中新世中期、1600万年前後の短い期間生息したもので、示準化石となっています。なお、ビカリアとほぼ形が同じでやや小型のビカリエラにも触りました(ビカリアよりもトゲが少ないようだ)。
 ビカリア関連で興味あるのは、「月のおさがり」と呼ばれるもの。これは、ビカリアの貝の殻の内側の空洞の部分の形がそのまま宝石のようにきれいに化石化したものです。私が触ったのは、片側にはビカリアの殻が残り、片側は殻がなくなって、殻の内部の形がつるつるした太めの紐を螺旋状に巻いたようなものになっていました。このようなものはすでに江戸時代から知られていて、月の神の落としものなどと考えられ月のおさがりなどと呼ばれるようになったそうです(月のお下がり)。月のおさがりは、ビカリアの殻の内部の空洞にゆっくりと珪酸が沈澱してゆき、回りの石灰質の殻が溶け出して内部の珪酸分がオパール化あるいはメノウ化してできたもののようです。
 ちょっとびっくりしたのは、シャコエビ?の仲間らしいものの巣穴化石。厚さ3〜4cmで、縦横とも10cm弱くらいの大きさで、四方にぼこぼことでっぱりがあります。触った感じは堅い泥の塊。泥の中であちこち動き回っていたのでしょうか?巣穴化石は生痕化石の一種で、エビやカニ・ゴカイなどの巣穴に砂や泥が入ってきて化石化したものです(生痕化石は、生物体そのものではなく、生物が活動していた痕跡が化石化したもの。這い跡や足跡の化石、糞化石などもこれに属します)。巣穴の回りも泥や砂で、巣穴の中も同じ泥や砂が入ってくるのに、なぜ巣穴の部分だけが回りから別れて化石になるのか尋ねてみました。それは、時間差のためだろうということです。まず回りの泥や砂がある程度固まってからその後で巣穴の中に泥や砂が入ってきて固まるから、はっきり境界ができるのだろうということです。
 次にノジュールについて。ビカリアの化石には、しばしば堅い石の塊の中に入っていて、その一部から化石が露出しているものがありました。私が触ったのは、片側が楕円体を縦半分にしたようなざらついた石の塊で、もう一方の側にビカリアの片側の化石が出ているものでした。これはノジュール(nodule:団塊。英語では concretionとも)と呼ばれているもので、ふつうは丸っぽい堅い石の塊です。私は直径10cm弱もあるほぼ球形のごつごつした感じのノジュールを触りながら、ノジュールについての説明を聞きました。小さな化石や砂粒など核になりそうなものがあると、その回りに堆積岩中から特定の成分(炭酸カルシウムや酸化鉄など)が集まってきて、中心の核から放射状に外側に向って成長し、多くはほぼ球形の団塊になるそうです。小さいものは直径1cmくらいのものから、大きなものだと1mを越えるものもあるとか。ノジュールは回りの岩石よりも堅く、ノジュールに化石が入っている場合、化石を取り出すのはけっこうたいへんだということです。
 その他、長さ15cm近く、厚さ5cmくらいもある大きなカキの化石、植物の葉の化石、トクナリヘナタリなどの小さな巻貝類の化石などを触りました。(この辺の勝田層群の化石は大部分が汽水性のものだが、一部に海性や淡水性のものもあり、この辺りは川が海に流れ込んでいる河口だったのでは、ということでした。)
 
 続いて、お楽しみの発掘体験!屋外には近くの化石のよく見つかる山から運んできたという土や石がたくさんあり、土をかき分けたり、石を割ったりして化石を探します。(土の中からは、石を割った時に出る破片や見落としたかもしれないような小さな化石が出てきます。)石は、平べったい形の泥岩で、いくつか層になっています。しばしば泥岩の表面に化石の一部が露出していることがあり、その近くで泥岩の層の境目を探して、そこにハンマーの先が当たるようにたたきます。石はとてもやわらかく、軽く数回たたいただけでも割れることがあります。さらに、たたいた衝撃で化石がばらばらに壊れてしまうことさえあります。(私は調子にのってたたき過ぎて、やや大き目のビカリアの化石を4個に分列させてしまいました。ちなみに、この石には、よく触ってみると、ビカリアのほか、アカガイ?のような貝、植物の葉らしきもの、カニ?かなにかの巣穴化石のようなのも付いていました。)ポイントは、化石のすぐ近くをたたくのではなく、できるだけ遠い所からたたいて少しずつ割っていくことだそうです(最後は、やわらかいので手で力を加えただけで割れることもある)。
 体験の時間は1時間ですが、館長さんに見てもらいながらつい時間を忘れ、1時間以上、土の中を探したり、石を割ったりしていました。私は、土の中から3cmくらいの小さなカキの化石、石を割って5cmくらいの小さ目のビカリアの化石を出しました(このビカリアは、殻口が少しなくなっていて、そこが幅1cm弱くらい、つるうっとした月のおさがりになっています)。その他、館長さんが石の破片の中から、長さ3cm弱のトクナリヘタナリ、1〜2cmくらいのマドモチウミニナ、タテイワウミニナ、ヤマナリウミニナ、1cmほどのカニノ爪(2個)を見つけてくれました。化石を探しながら、館長さんのこれまでの化石とのかかわりなど、いろいろな話もうかがって、とても楽しい、おだやかな時間でした。
 いくつか採取した化石や、スタッフの方々のコレクションから頂いた化石を持ち帰りました。大切なコレクションにします。皆様、ありがとうございました。
 
(2020年10月8日)