関西バード・カービング展――自然の中の鳥たち
5月7日から12日まで、大阪市中央公会堂で「関西バード・カービング展」が開かれていました。10周年ということで、400点近くも展示されるとのこと、もしかすると鳥のいろいろな姿に触れられるのではと期待してしまいます。
5月10日土曜日の午後、バードカービングに詳しいMEさんと関西バードカービング展に行きました。結果としては、期待通りあるいはそれ以上に、素晴しい作品をいろいろ触り楽しむことができました。
最初、関西バードカービングクラブの事務局のHさんに電話したときは、展示品は基本的には触われない、触ることのできる概形だけのものを10点ちかく用意しておきます、ということでした。それぞれ個人が数ヶ月かけて作ったとても大切な作品ですから、主催者のがわで触ってもいいですよ、とは言いにくいだろうし、やむを得ないことと思いながらも、内山さんのタッチカービング(詳しくは「資料室」のタッチカービングの項を見てください)のことを少し話し、できれば鳥が飛んでいる所とか実際の姿に触れたいということを伝えました。そうすると、その方自身の作品の、羽を広げたハヤブサは触っていいですよ、という真にうれしい返事をいただくことができました。
土曜日ということもあってか、会場はかなり混雑していました。初めは事務局のほうで用意しておいてくれた、キクイタダキとかメジロとかウグイスとか、概形だけのバードカービングを触りました。概形だけでも十分特徴はつかむことはできて、10種近くでしたが、じきに触って区別がつくようになりました。
その後、触われなくてもとにかくどんな作品があるのか説明してもらおうと会場内を回り始めました。いっしょに行ってくださったMEさんが、インターネット上で知っているバードカービングの製作者の山上さんという方に声をかけてくれました。そして、山上さんに説明していただきながら、結局その方の10点くらいの作品をほとんど全部触らせてもらいました。中には、木の葉にわずかにくっついているだけの、羽を広げて飛び立とうとしているオオルリとか、触るのがとても難しいのもありました。ちょっと触っただけでもゆらゆら揺れるし、翼はたぶん厚さ2mmくらいしかないほど薄いようで、わずかに指先を飛び飛びに触れながらごく大ざっぱな概形をつかむといった感じでした。その方の作品は、鳥だけでなく、それが居る環境、木の実をついばんでいるところとか、枯れ葉の中にいるところとか、カワセミが魚をくわえているところとか、とにかく実際の自然の中の鳥の姿を再現した作品で、とても具体的にいきいきとイメージできました。
その他にも、TさんとかUさんがご自身の作品を持って来て触わらせてくれたり、皆さんの好意でとても楽しい時を過ごすことができました。
以下、その時の記憶、触覚による記憶をできるだけ文章にしてみます。(いっしょに行ったMEさんや山上さんに私の文章を見てもらって、一部訂正・補足してもらいました。だいたい私が触った順番に書きます。)
●事務局のHさんの概形だけを示したもの
(だいたい小さいものから大きいものの順に並べてみました。と言っても、10cmから15cmくらいまでのもので、触った感じで並べてみただけですので、あまり正確とは言えないと思います。材料は檜で、大きさばかりでなく重さも実物とだいたい同じとのことでした。)
・キクイタダキ: 頭に菊の文様があるのが特徴で、日本で一番小さい鳥だそうです。(菊の紋様は彫られていないが、その部分はちょっと大きくふくらんでいて、触ってもよく分かる)
・メジロ: 全体にほっそりした感じ。
・ミソサザイ: 尾羽を跳ね上げているのが特徴。嘴も細い。
・コガラ: 頭を回して嘴を背側の羽の中に入れている。寝ている姿勢とのこと。こんな姿勢で寝るとは!
・キビタキ: ちょっとずんぐりした感じ。
・コゲラ: 嘴が垂直に曲がっていて、実際の姿勢は木の幹に脚で木と平行に止まっていることを教えられる。日本で一番小さいキツツキだそうです。
・ウグイス: 尾羽が長いのが特徴。
●Tさん
・カワセミ:羽を広げたものと閉じたもの。嘴はとても長い。羽を広げたのは、脚を体側にぴたっとくっつけていた。羽の表も裏も細かい筋のようなものまで、とてもくっきりと彫られていた。羽を広げた形は、私が小さいころ触った模型の飛行機を連想させた。羽を閉じたものは、全体がかなり太く感じた。
●山上さん
私が触った作品はすべて以下のホームページで見られるようです。
「山上家の道楽工房」
・ハイタカ: 木から飛び立とうとして、右脚を伸ばしかけ羽をわずかに開きかけている。1枚1枚の羽がよくわかる。嘴は鉤形に内側に曲がっていた(でも思ったより小さかった)。全長30cm以上あったかな?
・オオルリ: 製作過程。鋸で概形を切り出したもの、素彫りしたもの、着色前の細かい所まで彫ったもの。
・オオルリ: 木の葉にわずかにくっついて、空中に飛び立とうと羽を広げたところ。両翼端の距離は20cmくらい。羽はとても薄かった。ちょっと触るだけでもゆらゆら揺れる感じなので、さわるというより、ほんの少し指先で飛び飛びにふれてそれを頭の中でまとめてイメージを作る。
・ヨタカ: 枯れ葉の中で卵を抱いて暖めている様子。体がとても太かった。こんな大きなのが、垂直に立てかけてある額の中におさまっていたのが印象的。(私はこの作品を触りながら、宮沢賢次の「よだかの星」、あのかわいそうな夜鷹を思い出していた)
・スズメ3羽: 柿の実が2こ着いている柿の木に、普通に止まってるもの、体を傾けて下?を見てるようなの、羽を広げて止まっているもの。柿の葉も、虫に食われたとか、いろいろな形のものがあった。背景の額の絵とセットになっているようです。
・シジュウカラとコゲラ: 太い幹の下と上にシジュウカラが、その間にコゲラが止まっている。コゲラは木にしっかり脚で止まって垂直に立っていて、嘴は水平に曲げていた。
・メジロ2輪: サザンカの花の蜜を吸いにメジロが来ていて、頭のほうは花粉だらけ、花粉のために触われないとのこと。メジロにはほとんど触れなかったが、サザンカを触ってみると、きれいにカーブした葉とともに、花や蕾もきれいに作られていたし、葉の先にはとても小さな、たぶん直径2mmくらいの球形の水滴もあった。
・ツグミ:柿の実を啄もうとしている所。柿の実は一部食べられているようで、欠けていた。もう1羽、地面の上の落ち葉の中にいるツグミもいた。
・ヒレンジャク: 紅葉した桜の枝に止まっている。頭に冠羽があるそうで、そこはちょっと帽子のようになっていて、後ろのほうは3角形にとがっているのが印象的。
・ハクセキレイ: 意外と大きく感じた。水面の上に出た岩に止まっている。(水面は水平なすべすべした面で、その周りはざらざらした砂の部分になっていた)
・カワセミ(雌と雄):水蓮が2本あり、その1本のつぼみに雌が止まっている。水蓮の葉はとても大きく、以前池の表面に広がった水蓮の葉を触った時のことを思い出す。雌とちょうど向い合って見つめ合うように、何かの木に雄が止まっている。雄は小魚を嘴にくわえていて、雌にその魚をプレゼントするのかな?上下の嘴が根元の所から(たぶん5cmくらいはあった)から開いて、魚をくわえていたのは驚きだった。魚には水滴まで付いていた。
※私からの感謝と問合せのメールにたいし、山上さんから次のような返信がありました。
(ここから引用)
私も小原さんと知り合うことが出来、感謝しております。
タッチカービングは知っていたのですが、実際、全盲の方にバードカービングを見ていただいたのは初めてです。
正直言ってこちらも感動しました。私の作品を触っていただき、イメージを広げて行かれる姿を見て、新たな可能性を発見した思いです。
目の見える方にバードカービングを見ていただき、自然の大切さを感じていただきたいのは当たり前ですが、今回のように触って鳥を知るなんて、こんな嬉しいことはあるでしょうか。印象的だったのは小原さんが「目の見える人は写真などで思い出すことが出来るが、私たちは触った感触だけを頼りにしなければならない。」と言う言葉は驚きでした。
(中略)
こちらも新しい作品の意欲が出て参りました。頑張りますので応援してくださいね。
(引用終わり)
私にとっても素晴しい出会いでした。次の作品を楽しみにしています。
●Uさん
コハクチョウ: 実物の5分の1くらいとか。長い長い首、水平に細長く広がった翼が特徴。翼端が5つか6つに分かれていた。
●Hさん
・ハヤブサ: 羽を広げたところ。体長は50、60cmくらい、羽を広げた左右の長さは1mくらいあった。羽がカワセミやオオルリなどに比べてとても厚かった(とくに前のほう。それだけ羽の力があるように思った)。嘴が鉤形になっていた。
・フンボルトペンギン: 2本脚で立っている感じ。小さな羽?が腕のように横についていたのが印象的。嘴も、上の方が下のより広くなっていた。直径30cm前後の松の木から切り出したもので、他のバードカービングとはまったく違った感じ。
※いっしょに行ったMEさんが、顔の特徴について「精悍な」とか「かわいい」とか言っていましたが、私は顔の特徴はあまりとらえることができず、そのような表現もよく理解できませんでした。これについて後で尋ねたところ、
「ハヤブサの顔の精悍と言ったのは、眼窩が深くくぼんで目も大きく瞳は黒いが、いわゆる白目の部分が黄色いので、感覚を研ぎ澄まして獲物を狙っていると言った表情を表しています。」
というような答えでした。このように説明してもらっても私にはほとんど分からないのですが、次の機会には顔を中心にじっくり触って、それなりの感触(見える人の感じ方とは違っているかもしれませんが)を得たいと思います。
今回のバード・カービング展では、鳥の形だけではなく、山上さんの作品に表されているような、自然の中の鳥の実際のいろいろな様子を触り、私なりにイメージできました。これまでにはない体験でした。
関西バード・カービング展は来年もあるようですので、今回出会った作品と再会するために、また新たな作品と出会うためにぜひ行きたいと思います。
このような機会を与えてくださった、Hさん、山上さん、Tさん、Uさん、またいっしょに行ってくれたMEさん、ほんとうにありがとうございました。
(2003年5月19日)