心で観る美術展

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 11月11日と12日、静岡市役所静岡庁舎本館1階の市民ギャラリーで11月9日から13日まで開催されていた「心で観る美術展 目で見る・手で触れる・心で観る」に行きました。主催は、NPO法人 静岡県補助犬支援センターで、同センターでは2014年から緕R賀行先生の協力を得てこのような美術展を開いています。今回は彫刻(緕R賀行、熊坂兌子、小原二三夫)、に加え、トールペイント(望月和子)、ステンドグラス(関雪江)と多彩な展示でした。また、10日と11日に補助犬ミニ講座、12日にギャラリートーク(緕R先生と私が担当)、13日には「毛糸でつくる 段ボール編み コースターづくり」のワークショップと、盛りだくさんの内容でした。
 まず、彫刻では熊坂兌子(なおこ)さんの作品を中心に紹介します。熊坂さんは、1933年生まれで、現在89歳。1956年に東京芸術大学芸術学科卒業、1970年に渡米、メリーランド・インスティチュート・カレッジオブアートで制作。1978年彫刻家・画家のサール・シュワルツ(Sahl Swarz: 1912〜2004年)と結婚、鎌倉とイタリアのベローナに半年ずつ住んで制作活動をします。2008年より鎌倉に居住。日本でも個展を何回も開かれ、藤沢市などにはモニュメント彫刻もあるようです(参考:熊坂兌子〜彫刻がつくる地域のカタチ。今回展示されていたのは、ブロンズや石の彫刻10点。何が表現されているのか触って(たぶん見ても)理解するのは難しい作品が多かったですが、心に残る、いろいろと考えをめぐらせてしまうものもありました。
 「先祖」はブロンズの作品で、幅45cm、高さ25cm、奥行20cmくらいの大きさ。向って左側に正面向きの人、向って右側に右を向いている人、その間にフワアーと広がったスカートのようなのを着けた女の子が宙に浮いたようになっていますが、全体としてどういうことなのかよく分かりません。解説文には「左にいるのが先祖、右が現代の先駆けの人、真ん中の女の子がメディアを表し、現代人をけしかけているが、その先は断崖になっている。先祖がそれにブレーキをかけている」とありますが…。
 「チェス好きの家」は、幅30cm弱、高さ20cm弱くらいの大きさで、薄い銅板を何枚も組み合わせてうねうねと曲りくねった曲面(一部は二重や三重になっている)になっています。向って左側はカーテンのようなのが左側に開きかかっており、そのさらに左側の床には1辺が2cmほどのさいころのような立方体があります。中央の上には小さな四角い窓があり、その窓の向こうからだれか人の顔がのぞいています。窓の下には小さな駒のようなのがたくさん並んだ四角いチェスの盤?のようなのがあります。右側にはテーブルがあり、その上にワイン?の瓶とカップ、皿の上にパンらしきものがあり、人なのでしょうかテーブルに手をかけているような感じです。チェスなどして楽しそうな家の中をだれかうらやまし気に見ているのでしょうか。解説文によれば、イタリアの田舎での暮らしの風景だとのことです。
 「ひしゃげた門」は、幅25cm、高さ30cm弱、奥行20cmほどの石のかたまりのようなもので、正面と、上面の左側はすべすべしたきれいな手触りで、その他の面は自然の石そのままにごつごつとざらついていて、大き目の結晶のようなのも触って分かります。正面の中央の下半分は大きく窪んでいて、その先は穴になって向こうに突き抜けており、また左上のすべすべの部分も左斜め上にグニャーと傾いています。向こうへ突き抜けている穴は小さな門と言えなくもないですが、私は、すごい突然の爆風のようなもので一瞬で堅い石が抉られ拉げられたもののように勝手に想像しました。
 「立方体の母子像」は、ブロンズと石の作品で、もともとは1辺が25cmほどの立方体と1辺が15cmほどの立方体を上下に重ねたようなもののように思います。上の小さい部分が頭部と胸、その下の大きな部分がおそらくお腹から下半身で、この部分の中に子供が組込まれているのかもと思ったり…。
 「生きる喜び」はブロンズの作品で、幅25、高さ25、奥行10cmくらいの大きさ。中央と向って左に顔、向って右にぎゅっと曲がった腕のようなのを触って確認できますが、全体としてどういうことなのかよく分かりません。解説文には「女性の躍動感を表現」とありました。
 「村の祖人」は、ブロンズの作品で、一部石が使われています。幅25、高さ30、奥行25cm弱ほどの大きさで、台の上に半円形の屋根の建物があり、その正面にこけしのような形の人形がはめ込まれています。(この建物の後ろには、左に傾いた樹木かなにか分かりませんがざらついた物が立っている。)この人形は、解説文によれば、イタリアでの日本でいう道祖神で、通りがかりの人がお参りするとか。
 「太陽を抱いて駆ける女達」はブロンズの作品で、幅35cm、高さ25cm弱のレリーフのような作品。2人の女性が手足を伸ばして宙を走っているような感じでした。
 「母なる大地」はブロンズと石の作品で、幅10、高さ35、奥行20cm余くらいの大きさ。段になっている建物(教会かも)の上に人が座って手を組むようにしています。解説文には「母が小さな教会と一つになっている。母も教会もその中で人をはぐくんでいる」とあります。
 「凍ったエネルギー」はブロンズの作品で、いちばん印象に残っています。ブロンズの板をぐにゃぐにゃと何度もいろいろな方向に折り曲げ押し縮めて、15×15×7〜8cmくらいのかたまりのようになっています。飛び広がろうとするエネルギーを無理やり抑えてどうにかして閉じ込めようとしているようです。もしかすると、原発事故で暴走しそうになった原子炉をとにかく冷却して爆発しないようにしているのかも知れません。
 「豊穣」ははブロンズの作品ですが、表面全体がすべすべした手触りで、磨いた石のようにも感じました。高さ50cm余のお腹の大きな女性です。頭部はほとんど省略され、すぐ胸のふくらみが 2つ、そしてそのすぐ下から大きな大きな丸くふくらんだお腹です。大きなお腹に、小さなかわいい手を、左手はやや上に、右手はやや下に軽く握って当てています。お腹の下からはしっかりした下半身が伸び、支えています。お腹に当てた手で、その中で大きくはぐくまれている命の声を感じ取ろうとしているようです。解説文には「子どもを育む女性の姿から自然の豊かさを感じる」とあります。

 続いて私の作品が12点です。
 土器(直径16cm、高さ18cm)木で、土器の雰囲気が出せないかと思って作ってみました。いちおう火焔土器のイメージを参考にしました。
 かご(幅 20cm、奥行7cm、高さ9cm)竹で編んだようなかごを、木で作れないかと思って、彫ってみました。
合掌(幅12cm、高さ20cm、奥行16cm)地に座し、力強く、思いを込めて祈っている姿です。全体の形は、八戸の是川縄文館にある国宝の合掌土偶のレプリカに触った時の印象を参考にしています。頭の後ろにあるのは、合掌している小さな手3つです。
囚われの身(幅12cm、高さ32cm、奥行20cm)前に向って進もうとする人が、後ろから多くの目で監視され、手で抑えられ、ぎゅっとつながれている、そんな姿をイメージしてつくってみました。このようなイメージは、若いころから持っていました。
 住み家 U(幅 13cm、高さ40cm、奥行 6cm)木の中に、祈る人ばかりでなく、鳥や虫などいろいろなものが住んでいるイメージで彫ってみました。
 木=人(幅 34cm、高さ 28cm、奥行 7cm)下の逆さの人と、上の2人が一体につながって、大きく枝葉を広げた木になっています。(逆さの人は整った賢い?顔、上の2人の顔は野性的?のつもりでつくりました。)
 飛び立つ(幅16cm、高さ23cm、奥行13cm)小さいころにした組体操を思い出して作ってみました。後ろの人にしっかり支えてもらうと安心して、つい飛び立ってみたくなります。
飛行機(幅22cm、高さ16cm、奥行8cm)私は6歳で盲学校の寄宿舎に入りました。寄宿舎に入って間もなく、寮母さんに飛行機の遊びをしてもらいました。ちょっと怖かったけど、楽しい思い出です。
航(わたる)(幅30cm、高さ15cm、奥行7cm)大洋や天空をわたる船をイメージして作りました。船首の鳥と両舷の魚に導かれ、人がその導きに身を任せて天を仰いでいます。
風の音(横34cm、縦24cm、厚さ5cm レリーフ)草が風でなびいている草原を疾駆している馬に、横笛を吹く人が乗っている姿をイメージして作りました。できるだけ風を感じられるような作品にと思って作りました。
観る手(幅16cm、高さ20cm、奥行6cm)手は、ただ物に触ったり操作するだけではありません。私の場合は、手は、細かく観たり、大きく全体を観たりもしています。
考える手(幅13cm、高さ17cm、奥行11cm)考えている時の手の姿を想像して作りました。そして、考えている時の脳のはたらき、脳の中の神経が密に連絡し合いつながり合っている様子も思い浮かべながら、それを手のひらに刻印してみました。

 緕R賀行先生の作品は、木彫10点ほどとブロンズの作品5点が展示されていました。ほとんどの作品は、これまでにも触ったことのある作品たちでした。
 木彫では、先生の幼いころの風景や、若い時にヨーロッパを独り旅した時の遺跡などの風景から制作されたものが多かったです。仏像も3点展示されていました(聖観音、錫杖を持った地蔵菩薩、重厚な岩座と火焔の光背が印象的な不動明王)。また、リタイア犬のルーシーが丸まって昼寝?している「陽だまり」、カサゴをモデルにしたというグロテスクな「海の番人」もありました。
 ブロンズの作品では、男女2人が並んでそれぞれ揺り椅子に座っている「記念写真T」と、2人がぴったりくっついて立っている「記念写真U」、舞台上で5人がそれぞれ両袖を広げて蝶のように舞っている「夏のおどり」、高い丘の上で強い風に抗してぴったりくっついて立っている2人をあらわした「丘−風−」、壺を縦半分に割ったようなものの上縁にいくつも突起(楽人をあらわしている?)のある「楽人−古代壺より−」がありました。

 隣接する展示室には、望月和子さんのトールペイントと関雪江さんのステンドグラスの作品が展示されていました。それぞれ、作家さんに直接説明してもらいながら触っても鑑賞でき、とても楽しいひとときでした。
 トールペイント(tole paint)は、家具など身の回りの物に絵を描くアートです。トール(tole)はフランス語でブリキの意味で、本来はブリキにペイントすることですが、18世紀に開拓時代のアメリカで、古くなった家具やブリキ製品、陶器などを彩色して再利用することが始まり、それが一般にも広まったようです。今では、アクリル絵具でいろいろな品々に絵を描いているようです。
 まず最初に触ったのが、傘。ごくふつうの傘ですが、放射状に広がる骨を茎に見立て、そこから細長い葉が多数伸び、花も描かれています(アクリル絵具だと、着色している所としていない所の差は触って分かりますが、輪郭までたどることはできませんでした)。次に、幅50cm、長さ1.5mくらいの厚い布(掛け軸のようです)。中央に大きく鶴が描かれ(広げている羽は触ってはっきり分かった)、下には花?が描かれているようです。次は、一閑張りのかご。径が20cm余の竹製のかごに、和紙を重ね張りし柿渋を塗っているそうです(一閑張りでは、ふつう漆が使われる)。かごの裏に反古紙を張り、そこに「春」という字とハートのような形、花が描かれているとか。次は、長さ1mもある細長く伸びたひょうたん。古いひょうたんのようで、表面に細かく文字が書いてあり、それにボタンの絵を描いているそうです。また、ふつうは道に置かれているコーンが3個あり、それぞれに、サンタさん、熊さん、ハロウィンのかぼちゃが描かれているとか。
 その他にも、クリスマスツリーの形の大きな板に雪だるまや熊さんなどいろいろな形の小さな板が多数つり下がってカレンダーのようになっていて、アドベントを待ち望む心が伝わってくるもの、小さな石を使ったかわいらしい作品など、いろいろありました。日常の暮らしの中にアートがいっぱい、という感じで、楽しい作品たちでした。

 ステンドグラス(stained glass)は、文字通りの意味は「着色したガラス」。これまでも何度かステンドグラスのランプや窓などなんとなく触ったことはありますが、今回はその技法も説明してもらいながら丁寧に触ることができました。
 ステンドグラスのランプを触ってみると、数百個はあるいろいろなガラスのピースを組み合わせていることが分かります。まず、型紙に合わせていろいろな色ガラスをカットシます。それらのガラスのピースの回りを薄い銅(コパーテープと言う)で包むように巻きます。銅で巻かれた多くのガラスピースを図面に合わせて隙間なく並べてハンダ付けしてゆきます。ランプの場合半球のような立体なので、少しずつ角度を変えながらハンダ付けしなければならず、かなり難しい作業だと思います。
 最初に触ったのは、直径30cm余の「チェスナッツ」。ランプの上は金属の棒が中央から放射状に伸びていて、これが栗の木の枝になっていて、その先に多数の黄葉した葉や赤くなって枯れてきた葉が広がっています(向って左側は黄色の葉が多く、右側は赤や枯れかけた葉が多いとのことでした)。次に、直径40cm余の「バンブー」。節のある竹が中央から外側に何本も伸びていて、その回りが多数の竹の葉になっているとのこと(ガラスのピースの形は、節の部分は長方形、葉の部分は菱形のような形が多かった)。各ガラスのピースの表面はつるつるしていますが、裏側を触ってみるとちょっとざらついた感じ、これによって光が乱反射して輝きをもって見えるとか。
 「アクアリウム」は、20cm弱四方の箱の形で、側面の3面に大きく円っぽく熱帯魚が浮き出しています。水槽に魚が浮き上がって見えているのでしょうか?
 「UFOと猫」は、横40cm弱、縦70cmくらいの平面の鏡になっていて、その右下角に猫、左上角に大きさの異なる円弧が2個重なってあらわされたUFO(私は触って月か太陽なのかと思いました)が配され、下の猫がはるか遠くのUFOを見つめているそうです。「スヌーピー」は、横60cm弱、縦30cm余くらいの平面で、中央よりやや下に、画面の左橋から右橋まで犬が手から尾っぽまで伸ばして、まるで宙に浮いているようでした。「夜明け前」は、横40cmくらい、縦50cmくらいで、右下のほうに、直径3cm前後の半球が小さいほうから順に弧を描くように並んでいます。これは、太陽が次第に昇っていく様をあらわしているようです(右下と左下にも、やや大き目のふくらみがある)。全体はガラスの平面で、上から下に向って、ピンク、黄色、紫?、ピンク、黄色、ピンク…と色が変化していっているとか。「バラの庭園」は、直径40cmくらい、多くのつぼみや花々が二重三重に重なるように立体的に広がっていて、わあすごいなあ、という感じでした。でも、実際に色の変化や輝きを見られないのはやはり残念です。

 今回の美術展は、彫刻以外にもいろいろなアートに触れることができ、楽しかったです。また、ギャラリートークには多くの方が参加してくださり、その中には仏師から木彫の指導を受けているという盲導犬使用の女性の方もおられて、うれしく思いました。

(2020年11月17日)