三重県立美術館でダリの作品

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 11月29日、三重県立美術館で開催中の「西洋美術へのまなざし―開館40周年を記念して」展に家内と一緒に行きました。(昼前に津に到着、付近で食事をしようかと思っていましたが、うまく見つけられず、結局10分ほど歩いて美術館に到着、図らずもミュゼ・ボンヴィヴァンでランチをおいしく頂くことになりました。)
 お目当ては、サルバドール・ダリの「パッラーディオのタリア柱廊」(1937-38年)。私にとってダリの作品は、横浜美術館の「バラの頭の女性」(彫刻)と広島県立美術館の「ヴィーナスの夢」に続いて3点目です。この作品については、同館学芸員のSさんに解説をお願いしました。
 大きさは、縦120cmくらい、横1m弱。画面の左右に、下から上(手前から奥)に人物が並んでいて、その間は通路のようになっています。人物は手前のほうが大きく(長く)、奥のほうが小さく(短く)描かれていて、遠近法の効果により見る者の目を奥へと導くようです。人物たちはみな通路側(内側)を向き、左側に5人くらい、右側に7人くらい確認できるとか(暗くぼんやり描かれていてはっきりしないようだ)。ひらひらと服を着けているように見える者もいますが、骨や筋肉だけの者もいるとか(とくに、右側手前の人の脚の脹脛が白く目立っている)。人物の中には通路側に向かって腕を振り上げている者もいて、にょきにょきと伸びたその腕の先には髑髏のようなのも見えるそうです。(こんな人物たちの中を歩くなど想像したくもない)。人物の行列を通り過ぎた先は明るくなっていて、そこには踊るようにも見える女性(これは、ダリの作品にしばしば登場する縄跳びをする女性だとのこと)が見えます。
 この絵の構図の原型とも言える建築物があって、1936年スペイン内戦を逃れてイタリアにいる時に目にした、16世紀イタリアの建築家アンドレーア・パッラーディオの設計したヴィチェンツァの劇場テアトロ・オリンピコが下敷きになっているそうです。この劇場の舞台の後ろにはアーチ状の開口部があって、その両側の壁に人物像が遠近法的に並んでいるとか(写真も見せてもらいましたが、十分には分かっていません)。ダリがこの絵で何を表現したかったのか、少し亡霊めいた人物たち、その者たちに無理やりに誘われて行く先の縄跳びをする女性、…よくは分かりません。
 
 続いて、私が気にしていたミケル・バルセロの「人物」(1982年)についても解説してもらいました。(バルセロの作品は、昨年3月末、国立国際美術館で開催されていたミケル・バルセロ展を30分余ですがスタッフの案内で見学し、素材やテーマの自由奔放さ・オリジナリティに心魅かれ興味を持ちました。その後国立国際美術館のYoutubeチャンネルオンラインレクチャー ミケル・バルセロの仕事と私の簡単なメモなどを参考にミケル・バルセロ展の作品紹介>をまとめていましたので、これを機にアップします。)
 大きさは縦1m余、横80cmくらいですが、ふつうにキャンバスの上に描かれているのではなく、段ボールの切れ端のようなものを数枚つぎはぎしたようなもので、縁もがたがたしており、穴も見えているとか。そこに、女性が両足だけでなく両手も地につきそうになるほど深く屈んだ姿で描かれているとのこと。顔や胸も描かれてはいますが、ごく簡略なもので、さらに頭の上には段ボールの穴もあるとか。こんな這いつくばるような姿の女性を段ボールの上に描くとは、なにか荒っぽいというか、強制的な力のようなのも感じます。
 
 今回の展覧会ではこの他にも同館が所蔵する名画が多数展示されていました。その中からいくつか記憶に残っているものを挙げてみます。ルドンの「アレゴリー−太陽によって赤く染められたのではない赤い木」(1905年)は、赤い木が目を引き、布をかぶった女性と貝殻のようなのに立つ男性の姿で、なにか神話めいた印象を受けるようです。ゴヤの「アルベルト・フォラステールの肖像」(1804年ころ)は、宮廷画家だったころ注文に応じて描いた肖像画だそうですが、冷静にと言うか忠実にと言うか、どこか疲れているような顔にも見えるとか。ピカソの「ロマの女」(1900年)は、海沿いの道のそばで、ピンクのスカーフをし、背をまるめて膝を抱えるようにした女性(腕の中には赤ちゃんがいる?)が海を見つめていますが、表情はなにか寂しそうに見えるとか。この絵は、いわゆる青の時代の直前、ピカソ10代の作品で、全体に色彩は明るいが、解説文によれば青の時代の萌芽が見られるとか(この女性は差別されたロマ=ジプシー。青の時代にも、貧しい人、差別された人、目の見えない人も描かれた)。
 日本の画家では、岩橋教章(現在の三重県松坂氏出身の版画家)の「鴨の静物」(1875年)は、静物画を真似したもののようですが、太った鴨が逆さに吊り下げられていて、ちょっとドキッとしました。藤田嗣治の「猫のいる自画像」(1927年)は、丸眼鏡とすりよってくる猫、そして独特の乳白色で、一目見て藤田の自画像と分かるとか。その他にも、モネの「橋から見たアルジャントゥイユの泊地」、ムリーリョの「アレクサンドリアの聖カタリナ」、シャガールの「枝」、ミロの「女と鳥」など、これまでにも説明してもらった作品もありました。
 また、三重県はスペイン・バレンシア州と姉妹提携していて、今年はその30周年記念に当たり、その関連でバレンシア州の作家の作品も展示されていました。その中で私が興味を持ったのは、ミケル・ナバーロの「歩哨都市」(1993−97年)というインスタレーション。幅4〜5m、奥行6mくらいの範囲の床に、直方体や四角柱、円柱など、様々な金属の立体が多数並んでいるとのこと。6×5個とか7×10個とか、住宅団地か兵舎?のようにも見えるものがあったり、3、4本くらい、回りを見下ろすような2m近くもあるとても高い塔?のようなものもあり、中には窓のようなのや階段のようなのが見える建物もあるとか。この見張りをするような建物がこの都市の人たちを監視しているようにも思ったり、あるいは、都市全体が外に対して見張り防衛するようなシステムになっているかもなどと、いろいろ想像をめぐらしました。
 
 今回はダリをお目当てに行ったのですが、多くのよい作品にもふれることができてよかったです。
 
(2022年12月4日)