愛知県陶磁美術館の鑑賞会 古代中国のいろいろな三足器に触る

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 5月25日、愛知県瀬戸市にある愛知県陶磁美術館で開催された「触れてたどる焼き物の歴史 外国陶磁編 第1回」に参加しました。同美術館では、2015年からほぼ毎年1回視覚障害者対称に「触れてたどる焼物の歴史」シリーズのプログラムを行っています。これまでは日本の古代から現代までの焼物がテーマでした(私は2019年3月14日に行われた第4回の現代のオブジェ作品の回に参加しました)。その後コロナ禍のため開催できない状況が続き、今回は久しぶりの開催で、古代中国の焼物がテーマでした。
 自宅を6時半前に出て、新幹線で8時半前に名古屋に到着、地下鉄東山線に乗り30分弱で終点の藤が丘駅、そこからはアートな美の方に案内していただき、リニモに乗り換えて15分ほどで陶磁資料館南駅へ、さらに10分余ほど歩き、10時過ぎに陶磁美術館の本館に到着しました。参加者は私も含め視覚障害の人が7名、アートな美の方々が10名くらいだったでしょうか。
 まず最初に、今回の企画の簡単な説明と、スタッフの皆さん(館長さんの佐藤さん含め学芸員4人)の挨拶。その後4グループに分かれ、各グループに学芸員の方が1人ずつ付いて、4つの作品について順番に、学芸員の方の説明を聴きながら実際に触って鑑賞しました。
 今回の作品は、いずれも古代中国の3本の足がある土器(三足器)でした。触ったのは4つの作品だけでしたが、三足器と言っても、いろいろな種類があることがよく分かる鑑賞会でした。以下、私が触った順に紹介します。
 
 最初に触ったのは、「灰陶鬲(れき)」という、両手にすっぽりおさまるくらいの小さな甕のような形をしたもの。高さ12cmほどで、上のほうは直径10cm弱の円形で、下に向かうにしたがって、底にある3つの足の位置を頂点とするようなゆるい三角形になっています(正三角形ではなく、二等辺三角形)。側面には5mmくらいの間隔で縦の溝が全面にわたって並んでおり、底の足の部分では足を包むような方向で溝が並んでいます。器の内側の面は平滑で、底の3つの隅は下にとがったような窪みになっていて、これが3つの足の内側の面になっていました。三足器と言えば、本体の下に3つの足を付けたものを想像していましたが、この「鬲」は、胴部と3つの足部が外側でも内側でもつながっていて、足部の外側の形に合わせて胴部の下の内側の面が深く凹んでいます。
 この三足器は、紀元前10世紀前後の西周時代のもので、黄河中流域出土らしいということです。この鬲の底の外側の面には火で黒くなった所があるとのこと。この器に水を入れ、その上に穀物を入れた甑(こしき。下に蒸気を通す穴がいくつもある)を乗せ、お湯を沸かして上の穀物を蒸したようです。(日本では直接土器で煮炊きすることが多い)。この三足器は庶民の墓の副葬品だったようで、一般の人たちが日常使っていた実用品だったということです。
 
 次は「原始青磁鼎」。直径が20cmくらい、深さが5〜6cmほどの深皿のような本体の下に、長さ5cmほどの足が3個付いています(これは私が想像していた三足器)。本体部分はまるで機械でつくったかのようにきれいな円形で、表面もすべすべした手触りです(素焼きとは異なり、硬そうだし、 高温のためでしょう、所々ガラス質を思わせるつるつるになっている)。側面には5mm幅くらいの帯が一周していて、その上にはごく小さな渦を連ねたような細い斜めの模様がほぼ等間隔に配されています(この器と同じような物が青銅器でもつくられていて、この模様は青銅器で使われていた型を使って施されたものらしい)。器の厚さもほぼ均等に1cmもなく、なにか技術の高さを感じます。上縁の1cm幅くらいの水平の面の内側には、蓋をうけるのにちょうどよいような高まりが一周しています。また、側面上部の両側には、上にぎゅっと曲がった取手のようなのが付いていて、その2つの取手には縦長の穴が開いており、その穴に棒を通して、たぶんお供え物を入れたこの器を神前に?運んでいたようです。
 器名は「青磁」となっていますが、日本で言う青磁・磁器ではなく、陶器に属するとのことです。色は明るいベージュがかった感じで、まったく緑ではないようです。3本の足は、それぞれ上のほうがなにか動物の顔のようにも思え、下のほうは蹄?とも思える形で、本体の内側の底面には、この3本の足に対応する部分に丸い膨らみがそれぞれあります。本体の底面をよく触ると細かな粒粒がたくさんあります(高温でガラス質になったのが急に冷えて固まったものでしょうか?)。
 この器は紀元前5世紀ころの戦国時代のもので、長江流域の出土らしいです。そして、地位のシンボルとして使われていたということで、王様は9個、その下の人たちは位に応じて、7個、5個、3個、そしてふつうの役人は1個持てたそうです。ということは、これと同じ器が数百とか数千とか多数つくられたということになり、同じ型の器の大量生産が行われていたのではないでしょうか。轆轤のようなのを使って整形していたのかも知れませんが、もっと効率よく、青銅器をつくるのに使うような型を使って大量生産していたのでしょうか?
 
 次は「緑釉温酒尊(りょくゆうおんしゅそん)」。これを触った時の第一印象は、まるで樽みたいだ、でした(「尊」は、酒樽、とくに神前に捧げる酒樽のこと)。直径20cm、深さ13cmくらいのほぼ円筒形で、側面の中央と下のほうにはまるで箍を思わせるようなふくらみが一周しています。この本体の下に3本足が付いていて、なにか動物(熊の顔と体のように見える?)を思わせる形でした。「緑釉」となっていますが、内側には全体にごく薄い緑が見え、外側は所々にほんのわずか緑が見える程度だとか。また所々きらきら光っているような部分が見えていて、これは、詳しいことはよく分かりませんが、土中で長年風化されることで生じる「銀化」と呼ばれる現象だとか(もしかすると、これにも構造色が関係しているのかもと思ったり)。なお、このような器には、本来、山を模したような蓋が付いていたそうです。
 この器は、紀元前後の漢の時代の黄河中流域の出土で、かなり身分の高い人のお墓の副葬品だったとのこと。そして同様の青銅器も多くつくられていたそうです。中国で「尊」としてつくられたこの器は、日本では幕末から明治のころにかけて、茶道具の1つに転用され、器の中に灰や墨を入れ小さな火鉢のように使っていたとか。(転用された例は他にもいろいろあるようだ。)
 
 最後に「白陶き」(「き」の漢字は私のパソコンではあらわせません。「き」の漢字の意味もよく分かりません)。その形と言い量感と言い手触りと言い、あっと驚くような素晴しい作品でした。紀元前2000〜3000年ころの黄河下流域の山東省出土の竜山文化期のものだとのことですが、その技術の高さとセンスのよさに心動かされました。お酒を注ぐ器で、全体の形の印象は、2本の前脚と1本の後脚または尾で堂々と立っている鳥のような感じです。注ぎ口も含めた高さは30cm余で、高さ20cmくらいの所に直径10cm弱の口があり、そこから斜め上に先が次第に細くなってゆく注ぎ口が伸び、後ろには10cmくらいの持ち手が斜めに付いています(持ち手にはゆるやかな螺旋のような線が数本ある)。前の2本の足と後ろの1本の足はずんぐりと膨れていて、しっかり支え安定感があります。また前の2本の足と後ろの足をぐるっと結ぶように帯のようなふくらみがめぐっています。さらに、注ぎ口の下の広がった両側と、2本の前足の間のやや上に、それぞれ円い突起のようなのがありポイントのようになっています。
 器の内側に手を入れて確認すると、最初の「鬲」と同様、器の胴部と足部がつながっていて、足の部分が大きく窪んでいます。また器の壁の厚さはどこも5mm余くらいで、とても薄いです。手触りはするするした感じで、たぶん磨いているだろうということです。色は全体に真っ白だとのこと。鉄分の少ない、緻密で良質のカオリンという粘土が使われているからだそうです。1000℃以上の高温で焼いて、とても堅い仕上げになっているようです。(竜山文化と言えば黒陶が多いはずですが、白陶はかなり珍しいものだと思います。)とても貴重な器であるようですし、祭礼のような場で使われたのでしょう。ちなみに、中国では(日本とは異なり)身分の高い人が下の人にお酌をするとか。
 
 昼食後、午後1時から館長の佐藤さんの案内で陶磁美術館の建物の特徴などについて説明していただきました。陶磁美術館は、東京国立近代美術館、東京国立博物館東洋館、博物館明治村などの設計で有名な谷口吉郎の最晩年の作品だそうです。和風建築と近代建築を独自に融合させたということですが、建物全体については私にはまったく分かりません。今回は、陶磁美術館の建物で特徴的な、タイルと、石を模した柱、エレベーターの銅板張りを触りました。
 タイルは、正確ではありませんが、4cm×15cmほどの大きさで、ほぼすべてのタイルがこの大きさだそうです。そして建物全体や建物各部の比率は、このタイルの縦・横の倍数になっているとのことです。石を模した柱は、今は吹き付けでつくっているそうですが、陶磁美術館の場合は、まずコンクリートに花崗岩などの小片を混ぜたものでつくり、それを職人さんが凹凸のあるハンマーで順にたたいてつくったものだそうです(触ってみると、順にたたいて行ったような筋のようなのがある)。エレベーターの銅板張りに触った時の感触は、これが金属なの?という感じでした。なにかあたたかみがあります。よく触ってみると、銅板全体にわたって、とても細い溝が密にびっしりと規則的に並んでいます(とても目の細かい茣蓙のようと言ってもよいかも)。これで金属表面を触った時のような冷たさが緩和されているのかもしれません。これも、職人さんのたたき仕事によるものだそうです。陶磁美術館は、来月中旬から2025年3月まで改修工事のため休館するそうですが、工事に当たって建物の特徴を損なわないためにも事前に建物の特徴をよく調べ確認しておくことが大切なのだと思いました。
 
(2023年5月30日)