市民が企画・運営する展示

上に戻る


 
 8月12日、吹田市立博物館で開催中の夏期展示「めぐる・かわる・つながる わたしたちの自然環境と生きものたち」を見学しました。展示のタイトルからは、具体的な内容はほとんど分かりませんが、ホームページによれば、この展示のために市民が実行委員会を組織し、企画・運営しているとのこと。そして、地球規模から吹田のごく身近な生物まで多様な展示がされているようで、興味を持ちました。
 予定より少し遅れて10時40分くらいに博物館に到着、実行委員会のOさんが案内し説明してくださいました(館のスタッフの方も一緒に回り、適宜コメントしてくださいました)。導入として、吹田市に生息している動物ということで、タヌキとキツネの剥製が展示されているそうです。キツネは今は珍しくなったようですが、吹田の狐坂の民話の中にも出てくるとか。
 まず、国連の主導で世界的に注目されているSDGs (Sustainable Development Goals) に関する展示がありました。面白い展示で、SDGsの17の目標を、50〜60cmほどもある大きないろいろな多角形の箱17個にそれぞれ示し、それらの箱を4段くらいにでしょうかうまく積み合わせて全体の安定した形にするというパズルのようなものです。これら17の目標は、環境から、社会・経済・人権など多様ですが、下の段を環境関係のものにするとうまく積み上がるようで、実行委員会の主張がうかがえるようです(実際にどのような配置になっていたのかはわかりませんでした)。参考に、Wikipedia より、 17の目標を以下に記しておきます(さらにこれら17の各目標を実現するために、169のより具体的な目標が数値も入れて設けられている)。
1 貧困をなくそう (No Poverty): あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
2 飢餓をゼロに (Zero Hunger): 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
3 すべての人に健康と福祉を (Good Health and Well-Being): あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
4 質の高い教育をみんなに (Quality Education): すべての人々へ包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
5 ジェンダー平等を実現しよう (Gender Equality): ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
6 安全な水とトイレを世界中に (Clean Water and Sanitation): すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに (Affordable and Clean Energy): すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
8 働きがいも経済成長も (Decent Work and Economic Growth): 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する
9 産業と技術革新の基盤をつくろう (Industry, Innovation and Infrastructure): 強靱なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及び技術革新の推進を図る
10 人や国の不平等をなくそう (Reduced Inequalities): 各国内及び各国間の不平等を是正する
11 住み続けられるまちづくりを (Sustainable Cities and Communities): 包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市及び人間居住を実現する
12 つくる責任 つかう責任 (Responsible Consumption and Production): 持続可能な生産消費形態を確保する
13 気候変動に具体的な対策を (Climate Action): 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
14 海の豊かさを守ろう (Life Below Water): 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
15 陸の豊かさも守ろう (Life on Land): 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
16 平和と公正をすべての人に (Peace, Justice and Strong Institutions): 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
17 パートナーシップで目標を達成しよう (Partnerships for the Goals): 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
 
 次に、気候変動の影響をもっとも強く受けている極域(南極と北極)の環境や生き物に関する展示です。氷が融け氷山などが融けて、クマやアザラシやペンギンなどの生活に大きく影響していることが示されているようです(コウテイペンギンとアザラシの輪郭を切り抜いたパネルも展示されていて、それには触りました)。ここには、私も行ったことのある東近江市の西堀栄三郎記念探検の殿堂から借用したという西堀栄三郎の執務机が展示されていて、その上にあった1958年の大型の分厚い観測日誌に触りました(触りながら、私が小さいころ話題になった、南極観測船宗谷がソ連の砕氷船オビ号に救出されたこととか、カラフト犬タロとジロのことなど思い出しました)。また、昭和基地で退院が使っていたという防寒具も展示されていて、触ることができました。
 続いて身近な環境に移って、吹田市の主要な河川安威川と神崎川の生き物や環境についての展示があります。安威川は、源流は京都府亀岡市で、茨木市を南北に流れ、それから摂津市、吹田市を流れて神崎川と合流しているようです。私が住んでいる所は、おそらく以前は安威川の氾濫原だった所で、すぐ近くの安威川の河川敷をよく散歩していて、身近な川です。
 安威川・神崎川は大阪湾、さらには太平洋につながっていて、海と川の間でいろいろな生き物が行き来して生活しているとのこと。例えば、アユ、ニホンウナギ、モクズガニ、テナガエビなどで、だいたいは幼体は海で生活し、大きく成長して川にのぼってくるようです(サケやマスも遡上しているとか)。水質は、昭和30年代以降よくなっているそうです。私の個人的な体験ですが、今から30年近く前(1990年代)、安威川にもたくさんメダカがいて、川に入って大きな袋で川の水とともに一度に数十匹ものメダカをすくったこともあります。しかし数年後にはメダカはほとんどいなくなってしまいました。その間にとくに水質が悪くなったとは思えませんので、メダカを食べる(外来の?)魚が増えたとか、護岸工事や川に流入する水路の整備などで生息環境が変ったことなどが影響しているかも知れません。
 川で見られる鳥としては、アオサギ、マガモ、ユリカモメなどが紹介されていました。これらの鳥は安威川でもよく見られて、私は散歩中これらの鳴き声をしばしば聴き、また、大きなサギやカモが着水したり泳いでいる音を聴くこともあります。(ユリカモメは、以前は集団になって大きな鳴き声を聞くこともありましたが、最近は減っているような気がします。また、増水して水が濁ると、魚を求めてでしょう、しばしば鵜も見られるようです。)安威川の周辺では、以前よりも鳥の全体の数も増え、種類も増えているのではないでしょうか。
 また、吹田市内の主な道沿いの池や公園などで見られる動植物も紹介されていました。キツネは見ることが極めて少なくなり、外来のミシシッピアカウミガメ、ウシガエル、アライグマなどがよく見られるとか。植物では、ヤマサギソウ、アイナエ、ヒキノカサなど、絶滅危惧種になっている珍しいものが最近見つかっているとか。
 
 さらに、時間的に大阪をみる展示もあって、大阪のかなりの部分が縄文時代には海だったことが紹介されていました。吹田は丘陵部が多いですが、低い所は海抜10mくらいで、現在の吹田市域の3分の1くらいは海だったろうということです(阪急吹田駅付近が陸地の突端部らしかったとか)。海だったことを示す貝の化石のほか、大阪市立自然史博物館から借用したナガスクジラ?の大きな肋骨の化石(長さ1.5mくらい。展示したスタッフの方によると、堅い石のようなのではなく、多くの小さな穴があいたような脆そうなものだとか)も展示されていました。クジラと言えば、5年余前に太地町立くじらの博物館を見学した時にさわった「『さわってまなぶくじらの本』という触図付きの解説書も展示されていて、ちょっと驚きました。
 
 生物に学ぶということで、バイオミメティクスが紹介されていました。動物や植物の形態や構造が、無駄のない合理的なもので、そこに人間も学ぶべきではないか、持続可能な生活のヒントがあるのではないだろうかという趣旨のようです。バイオミメティクスを利用した製品がいくつか展示されていました。
 ヨーグルトのカップの蓋の裏側は、ハスの葉の表面をまねたもので、濡れたり汚れたりしません(ハスの葉の表面にはワックスのような成分とともに微細な凹凸構造があり、葉についた水は葉をぬらすことなく、よごれなども包み込みながら表面張力で丸まってころころと流れ、葉の表面はいつもきれいになっている)。
 汚れのつかない外装タイルは、カタツムリの殻を真似たものだとか。(ちょっと調べてみると、カタツムリの殻の表面には、約0.5mm間隔で並ぶ成長線などの小さな溝と、約0.01mm間隔のしわ模様が無数にあり、これらの溝としわによって殻の表面に水がたまりやすくなって薄い水の膜が常に表面を覆っている状態になるため、泥などの汚れが殻にこびりつくことはなく、しかも汚れを含んだ水は溝をつたって自然に流れ落ちるそうです。)
 また、光を反射しない蛾の眼(モスアイ moth-eye)をヒントに、反射したり写り込みすることのないテレビの画面やコンピュータのスクリーンが開発されているとか。(蝶も蛾も、目は6角形の小さな目がたくさん集まってできる複眼だが、夜行性の蛾の複眼は、可視光の波長よりも短い300nm程度の微細な凸凹構造になっており、外から眼に入ってくる光を何度も屈折させて眼の奥まで届くようにしていて、外には光を反射させない仕組になっており、月明かりのようなごくわずかな光の中で相手に姿を見られずに自由に飛べるとか。)
 高速の新幹線も、騒音対策として、パンタグラフにフクロウの翼の構造を、先端の形にカワセミのくちばしの形を取り入れています。(フクロウは消音で飛ぶことが知られているが、それはフクロウの風切り羽根にあるノコギリ状のギザギザが空気を拡散して音を散らしているためで、これを真似て新幹線のパンタグラフをギザギザのついた翼型にしている。また、カワセミは、餌を採るために、ほとんど水しぶきも立てずに高速で水中に飛び込むが、それはカワセミのくちばしの形が空気抵抗を極めて小さくしているためで、新幹線の先端の形をカワセミのくちばしの形にすることで、トンネルの出入口を通過するさいのドンというような音・振動を解消している。)
 ハニカム構造(honeycomb structure. 2枚の薄い板の間に、蜂の巣のような六角形の穴が連なった部材をはさみ込むことで、軽くて丈夫な材料になる)を体験的に理解してもらうコーナーもありました。
 
 展示の最後には、水の流れの音がして、淀川水系の生き物たちの生態展示が行われていました。ナマズ、ウナギ、ギンブナ、トウヨシノボリ、アカハライモリ、テナガエビ、その他カニ類などいろいろ展示されているようです。吹田市のボランティアたちは、「まちなか水族館」を市役所などで行っているとか。
 生態展示ではありませんが、「チリメンモンスター」という面白いものもありました。ちりめんじゃこやシラス干しに混じっている他のいろいろな生物を探してみよう、というものです。私が触ったのは、B5くらいの大きさの2枚の透明なフィルムのようなものの間に、ちりめんじゃこなどをぴっちりはさんだものです。フィルムを通して触ってもいろいろな形が分かり、これはエビかなとか、いろいろ思ったりしました。岸和田自然資料館が子供たち向けのワークショップ形式で始めたもので、虫眼鏡も使いながら、図鑑などとも照らし合わせていろいろな生物を探します。多種の魚の幼魚やエビやカニ類の幼生などいろいろ見つかって、海の生き物がどんな風に成長するのかとか、また海の生態系などについても考えるようです。
 
 今回の展示は、なにしろ地球規模から吹田の身近まで、範囲が広く、焦点が定まらないぼんやりした印象を受けてしまいましたが、実行委員会の方は、この展示をきっかけに、皆さんが家族をはじめ回りの人たちと自然や環境、気候変動などについて話したりしてくれればよいということでした。そういう点では、十分に役割を果たしているような展示だと思いますし、実際私も帰ってから展示されていたものについて家族と話しました。今後も、このような市民三角の展示を期待しています。
 
(2023年8月18日)