情報文化センターのわろう座の企画で木彫を展示

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 8月26日、私の以前の職場である日本ライトハウス情報文化センターのわろう座の企画「触って“観よう・知ろう・楽しもう”」に、木彫6点を出展しました。この触る企画では、建築物の模型、彫像類のレプリカ、地形模型や地図・地球儀、それに私の木彫作品の、4つのコーナーが設けられていました。
 午前10時から11時半、午後12時半から2時、2時半から4時の3回で各回とも定員8名で、原則2人1組で各コーナーを順に回るという形式で行われました。
 
 展示した木彫作品は、次の6点です。
「ひろがる」 (2022年9月)
 (幅40cm、奥行30cm、高さ19cm)
 ソテツやシュロのように、多数の葉が伸びひろがっている様子をイメージしてつくりました。これらの植物は、何億年もの間生き延びてきたもので、生命力の強さを感じます。地球温暖化もなんのその、植物たちは元気です!
 写真はこちら
 
「落ちる」 (2018年3月)
 (幅 33cm、奥行 13cm、高さ 22cm)
 歩道をブロック塀沿いに歩いていて、急に左脚が穴のような所に落ちてしまった時の情景を作品にしたものです。左側のブロック塀と波板の間の隙間に左脚が落ち、ほとんど右膝だけで全体重を支えるような姿勢になって、右膝が激痛に襲われショックのようになりました。救急車が呼ばれ、車道にあるのは救急車からやってきたストレッチャーです。
 全体の写真はこちら
 左脚がブロック塀と波板の間の溝に落ちている写真はこちら
 
「生まれ出る:身とぬけがら」 (2020年3月)
 (直径14cm、高さ22cm)
 新たに身を産み出すイメージです。一方は、身を裂きやつして、ぬけがらになり、他方は、大きく成長して新たな身となり、さらに上に飛び上がろうとするようなイメージで彫ってみました。
 身とぬけがらが一緒になっている全体の写真
 少しずつ回して、2つに別れてゆく途中の写真
 2つに別れたところ。左が大きく成長した身、右がぬけがら
 
「風の音」 (2018年1月)
 (横34cm、縦24cm、厚さ5cm レリーフ)
 草原のような所を風に向かって疾駆している馬に、横笛を吹く人が乗っている姿をイメージして作りました。馬は、小さいころちょっと触れたり、お腹の下に入ってみたりしたことがあるくらいで、駆けているところはほとんど想像できず、手元にあるレリーフを参考にしたり、数枚の馬の絵の写真を立体コピーにしてもらって触ったりしました。できるだけ風を感じ、風に乗って流れてくる笛の音まで聞こえてこないかなあと思ってつくりました。
 写真はこちら
 
「住み家 U」 (2020年9月)
 (高さ40cm、幅 13cm、奥行 6cm)
 木の中に、人ばかりでなく、鳥や虫などいろいろなものが住んでいるイメージで彫ってみました。
 写真はこちら
 
「あやうい」 (2018年9月
 (直径25cm、厚さ5cm)
 平皿の上にたまごが6個乗っていて、そのうち2個は皿からはみ出して転がり落ちそうです。日常のどこにでもある、あやうい感じを表現してみました。
 写真はこちら
 
 その他に、予備として、「考える手」写真はこちら)と「巻貝」(写真はこちら)の2点も用意しました。
 
 午前午後合わせて、計20名ほどの見えない人たちに鑑賞していただきました。私はそれぞれの方の手をしばしば誘導しながら、説明しました。そして、鑑賞者のいろいろな感想も聞くことができ、私にとっても楽しいひとときでした。
 一番面白くまた示唆にとんでいたのは、「あやうい」についての皆さんの感想です。この作品は、平皿の上にたくさん卵を置くことで生じるあやうい状態をあらわそうとしたものですが、まず、皿の上に置かれているのが触って卵だと感じた人は皆無でした。餅、饅頭、おはぎ、パンなど様々で、だれも卵とは言ってはくれません。卵の上面が水平に近くなっていて、実際の丸みをおびた卵とは結びつかなかったようです(卵の片方の先はややとがっているのですが、それは言われないと気付かないようです)。さらに、当然ですが卵の下面は皿とくっついていて、触ってはびくとも動かず、あやういと言うよりも、かえって安定を感じるという方も多かったです。(卵の下面と皿との間は深くえぐったようになっていて、見た目にはちょっとあぶなっかしく見えるようだ。)見た目と触って得られる印象がこれだけ違っている、真反対とも言えるというのは、制作者としてはなかなか面白かったですし、いろいろ考えさせられました。
 その他の作品は、おおむね好評のようでした。「ひろがる」は、その大きく伸びひろがるボリュームから、生命力のようなのを感じていただけたようです。「落ちる」は、類似の体験をしている方も多く(中にはホームから5回も落ちたことがあるという方もいました)、共感しながら触ってもらえたようです。「生まれ出る」は、実際に一体から回転させながらぬけがらと実に分け、またぬけがらと実を一体に戻すということをやってみると、皆さんすごいなあと驚いたようすでした。「風の音」は、全体に風になびいていることを感じ取っていただけたようです。「住み家 U」について、ある方は「小さな木に祈りを込められた生きとし生けるものへの讃美を感じました」という声をお寄せいただきました。
 
 時間があれば木彫以外のコーナーも見学してみたいと思っていましたが、数分地形模型の所に行ったくらいでした。(桜島、御嶽山、富士山に触りました。それぞれ縮尺の違うものがあり、山だけでなく広く周辺の地形も分かるようになっていました。またつくり方としては、切削によるものと積層によるものがありました。)その他、彫像のコーナーからバイヨン四面像をほんのちょっとの間お借りして触りました(高さ20cmほどの、4段くらいある円筒形で、一番下の円筒の側面全体を4分割して、お互いの耳同士がぴったり接するように、横幅の広い顔が浮き出していました。)。とにかくあわただしく過ぎてしまった感じで、できればもっとゆっくり楽しみたかったです。
 
(2023年8月31日)