三重県総合博物館の標本の展示

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 8月31日から9月1日にかけて、三重県津市に行き、31日午後に三重県総合博物館、1日午前に三重県立美術館を見学しました。両日とも、台風10号が上陸して悪天候となり、とくに31日午後は津市の道路が冠水しかかるような状態になりましたが、両館とも無事に見学はできました。
 三重県総合博物館(みえむ)では、開館10周年記念・第37回企画展「標本 あつめる・のこす・しらべる・つたえる」が開催中で、31日午後に「さわれる標本」というスポットガイドがあるということで、一部の標本には実際に触って説明も聞けるかもと思って行きました。しかし、博物館はもちろん開いていて来館者もけっこういましたが、台風10号接近による荒天ということで延期になってしまいました。なんとも残念ですが、仕方ありません。触れられるものはごく一部しかありませんでしたが、標本の企画展をざっと見学し、また以前見学したことのある常設展もざっと回ってみました(三重県総合博物館の常設展とカモシカの企画展示)。
 今回の見学で一番印象に残ったのは、オオサンショウウオのサンちゃんです。来館者にも人気のようで、皆さん立ち止まってよく見ているようでした。水槽の中でほとんどじっとしているサンちゃんは、体長120cm、体重10kgくらいもあるとのこと。説明によれば、体長の3分の1は尾で、前脚は指が4本、後脚は指が5本だそうです。オオサンショウウオは、カエルなどと同じ両生類で、生まれてからしばらくはオタマジャクシのように鰓呼吸をし、3年ほどで体長20cmくらいになって変態し、鼻や口から息をして肺呼吸するようになり、また皮膚でも呼吸するそうです。寿命は長く、確認されているものでは60年以上のものもいるとか。また、最大のものは体長150cm、体重40kg余にもなるとか。
 驚くのはその食餌、サンちゃんは、毎月1回ニジマス2匹分(300g)を摂るだけだとのこと!大きな体にもかかわらずなんと消費エネルギーの少ないこと!そのためなのかどうか分かりませんが、オオサンショウウオは3千万年前からほぼ現在の姿で、生きた化石とも呼ばれているそうです。野生では、夏でも水温が25℃以下の川の中・上流の横穴に住み、普段はじっとしていますが、目の前を通るカニや小魚などを素早く水とともに飲み込んでしまうとのことです。現在では、河川改修やダム工事などによる生息地の破壊のほか、食用のために移入された中国のオオサンショウウオとの交雑が進み、日本固有のオオサンショウウオは激減しているようです。
 また、常設展を回っていて、新たな事実を知りました。1400~1500万年前ころ、紀伊半島に巨大なカルデラができていたとのことです。カルデラ地形そのものは、激しい浸食作用によりほとんど残っていませんが、その付近の岩石には当時の火山活動やカルデラの痕跡がたくさんあって、それらを示すいろいろな岩石(火砕岩、流紋岩、花崗岩、花崗斑岩、柱状節理など)が展示されていました。調べてみると、激しい火山活動で、現在の三重県尾鷲市付近から、和歌山県新宮市付近、那智勝浦町付近にかけて、南北41km、東西23kmにも及ぶ巨大なカルデラができ、その噴出物の総量はなんと3000立方キロメートルにも達したとのこと。これは、火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index: VEI)で最大の 8の噴火規模で、地球規模での急激な寒冷化などによる生物の大量絶滅が起こるような巨大噴火です。
 以前にも触ったことのある、紀伊半島を中心とした立体の木製の地形模型もありました(地形模型のパーツになっている木材の大きさが以前のものと違っていたので、たぶん新しくつくられたものだと思う)。直径2m弱のほぼ円形で、円周上の4点に、東経135度から137度、北緯33度から35度の範囲を示す点字の表示もありました。陸ばかりでなく海も立体的になっていて、熊野灘や遠州灘、三河湾や伊勢湾の表示があり、海底にはいくつか溝も走っています。ただ陸のほうは、地名を詳しく確かめることはできませんでした。
 
 ようやく、標本をテーマにした企画展についてです。まず、標本とは、実物そのもの、あるいはその一部を保存・活用できる状態にしてつくられた資料のことで、実物を元につくったレプリカなども標本と言えるとのこと。恐竜の化石などをはじめ、昆虫の標本(とくにモルフォチョウなどチョウはきれいなようだ)、動物の剥製、植物(4~5mくらいもあるセイタカアワダチソウもあったとか)、岩石や鉱物、貝類など、様々なものが多数展示されているようです。そして、標本をどのようにして集めるか(オオスズメバチの大きな巣もあった)、どのようにつくるのか(植物の押し葉標本のつくりかたが解説されていた)、保存するのか、活用するのか(オオクワガタの30倍の模型があり、細かいところまで分かりやすく観察できる)などについての展示もあるようです。
 私は恐竜についてはほとんど知らないのですが、ちょっと面白そうな展示もありました。ヒパクロサウルスという恐竜の全身骨格が、発掘された状態で展示されているそうです(参考:ヒパクロサウルス全身骨格)。ヒパクロサウルスは白亜紀後期に北米に生息していた恐竜で、これはロッキー山脈の麓の粘土層から見つかったもので、実際には、骨はばらばらになった状態で全身の約70%が見つかり、欠けている部分は復元して実物の化石骨とともに組み立てたもので、半身が粘土に埋った状態で展示されているようです。また、マンチュロサウルス(白亜紀後期にアジアに生息していたハドロサウルス科の恐竜)が尾を引きずっている姿で復元されているのですが、この復元モデルは数十年前に製作されたもので、現在ではこの種の恐竜は尾を上げて歩いていたとされていて、壁面にはそのような姿のイラストも展示されているようです。 
 実際に触ることができたものとしては、まず植物の押し葉標本(搾葉標本と言うそうです)。搾葉標本はいろいろな種類のものがたくさんあって、それぞれファイルのようなものに入っており、それを少し厚いフィルムを通して触ることができます。しかし厚いフィルムを通してなので、おおまかな輪郭が分かるくらいで、葉などの細かい様子まではよく分かりません。それぞれのファイルには種名が点字でも記されていて、ときにはそれと対応する木の幹の断面も展示されていました。例えば、ヒメシャラ(落葉広葉樹)の幹は直径20cmくらい、樹皮がかなりツルツルしていました。また、ウラジロモミ(常緑針葉樹)も直径20cmほどで、樹皮はざらついた感じ、その押葉標本で葉を確かめてみると、松などのように鋭く細かくはないようですが、確かに針葉のようです。(展示では、低地から高地まで、高さによる樹種の違いが示されていた。)
 体験コーナーのような所も設けられていて、そこでは自由に触れました。触ってよかったのは、各種の種子(果実)の標本。ココヤシの果実(ココナッツ)は、高さ20cmくらいはあり、先はややとがり、下はずんぐりした三角錐のようなかたち、持ってみるととても軽くて、海流に乗って遠くまで運ばれ分布を広げます。同様に水に浮き海流で運ばれるものとして、サキシマスオウノキの種子もありました(長さ3cm余、やや縦長で、振ってみると中でちょっと音がして、種が入っているのかな)。もちろん、トチノキなど、果実が地面に落ちて生育するものたちもたくさん展示されていました。また、ニホンジカ、イノシシ、アナグマの前脚と後脚の骨、タヌキとニホンジカの足跡のレプリカも展示されていましたが、これらの特徴や違いについては、とくに説明はないようで、なかなか分かりにくかったです。
 
 岩石や鉱物、貝類、各種のレプリカなどの中には触っても問題ないものも多いと思いますし、もう少し触れる標本があればと思いました。また、ただ触っただけでは分かることは少ないので、触って観察する場合のことも考えての説明もあればと思います。
 
(2024年9月30日)