魚たちの世界を楽しむ―和歌山県立自然史博物館と神戸市立須磨海浜水族園

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 昨年12月1日に和歌山県海南市にある和歌山県立自然博物館へ、また12月24日には神戸市立須磨海浜水族園へ行ってきました。
  和歌山県立自然博物館の第1展示室は水族館になっていて、その中に「手で見る魚の国」という魚などのレプリカや剥製を触察できるコーナーがあります。このことは以前から知ってはいたのですが、遠いこともあり、今回ようやく行ってきました。片道3時間半かかる長旅でしたが、十分に楽しめました。
  さらにその後、ネットで調べていたら神戸市立須磨海浜水族園にも魚のレプリカがあることが分かり、こちらにも早速行ってみることにしました。両館とも係の方に詳しい解説をしてもらうことができ、これまで断片的だったイメージや知識がかなりしっかりしてきたように思います。

◆和歌山県立自然博物館の「手で見る魚の国」
  このコーナーは、魚をはじめ様々の海生動物の模型や剥製を触察できるコーナーです。
  数十点ある模型や剥製がたぶん10メートルくらいはある直線状に並べられています。展示台の前にはガイド用の手すりがあり、また台には各展示品の名前を記した点字ラベルがはられていて、見えない人たちの移動しながらの触察によく配慮していることがわかります。

 会館当時(1982年)はヘッドホンで各展示品についての詳しい解説を聞けるようになっていたそうですが、今は壊れて使えないということでした。でもその代りに学芸員のYさんが解説してくれました。Yさんの解説の後、ガイド用の手摺と点字ラベルを参考にしながら、独りでもう一度ゆっくり展示品を触察し直すことができました。このような場・設備があれば、見えない人が独りでも展示を楽しめることを実感しました。

 以下、私が触った魚たちを紹介します。
●マダイ:長さ40cmくらい。口、目、背鰭、腹鰭、胸鰭、尻鰭、尾鰭がとてもよく分かります。全体の形がきれいだし、左右対称で美しさを感じました。

●マダイの骨格標本:上と同じ大きさのマダイの骨が板上に貼り付けられています。背骨とその両側の骨、さらに各尾の細かい骨までよく分かります。口の中の細かい歯も触って分かりました。
  上のマダイの模型とこの骨格標本を左右の手で同時に比べながら触ると、その対応がとてもよく分かって良かったです。

●マアジ:マダイの体は平たかったのにたいし、アジの体はずんぐりしていました。中央から後ろの両側面にはゼイゴのぎざぎざもはっきり分かりました。
*ゼイゴ:アジの尾に近い側線上に1列に並ぶ、とげ状の鱗。
*側線:魚類・両生類の体の両側に線状に並んでいる感覚器官。水流や水圧の変化、振動などを感じとる。 魚類では、側線上に中央に穴の空いた鱗が一列に並んでいる。これらの穴は裏側に通じて長い管になり、この管の中には粘液が充ちていて、外からの刺激が中にある細かい毛を持った感覚細胞に伝達されるしくみになっている。

●タチウオ:長さ50cm以上あるとても細長い形。細い胴の上に背鰭から尾鰭までが長く連なっている。レプリカの材質のせいだと思うが、これはまるでビニールの膜のように感じました。この細長いタチウオが、垂直の状態で背鰭をひらひらさせて泳いでいるとのこと、なんとも面白そうな様に感じました。

●ヒラメ:目が片側(左側)に二つあり、口は斜めについている。体の左面を上にして(両目とも上を向いている)展示されていましたが、ヒラメはだいたい水底で暮らしているとのことで、こういう形・姿勢のほうが餌がとりやすいのだろうと思いました。背鰭と腹鰭等がだいたい左右対称の形になっていたことにもなるほどと思いました。
  *ヒラメも子どものころは目は体の両側に一つずつあり、他の普通の魚と同じような泳ぎ方をしているそうです。一ヶ月くらいして右目がだんだん動いて体の中心部を越えて左面に移動し、海底での生活に適した形になるようです。

●カツオ:長さ60cmくらいでかなり小さく感じました。とてもきれいな形で、流線型と言うのに相応しい形なのだと納得しました。

●チョウチョウウオ:直径15cmくらいの円盤状で、背鰭・尾鰭・腹鰭等がつながって円形に広がっていました。

●トラフグ:私はフグはもっと体が膨らんだ感じだと思っていましたが、そんなに太くはありませんでした。長さ40cmくらいでかなり小さ目のもののようです。体はずんぐりしていて表面はかなりゴツゴツした感じでした。

●カサゴ:長さ20cmくらいはあり、大きいと思いました。各鰭が四方に広がり、それらの鰭には何本も細長いトゲのようなのが並んでいるのもよく分かりました。

●マンボウ:背鰭と尻鰭が上下に50cmくらいずつ長く伸び、尾鰭のようなもの(背鰭と尻鰭の一部が変化したもので、舵のようなはたらきをしているとのこと)が後ろに広がり、全体としては直径1m余の円形に近い形でした。マンボウとしてはかなり小さめのようです。泳ぐ時は背鰭と尻鰭をパタパタさせているとか。

●コビレゴンドウの頭部:長さ50cmくらい、幅30cmくらいで、かなり大きく感じました。上顎と下顎の歯がよく分かります。歯はどれも他の魚の歯と同じく円錐形で犬歯のような形でした。これについて、Yさんは、もともとは哺乳類で臼歯などもあったと思われるが、海で生活するようになって魚類と同じような形態の歯に変わっていったのだろう、収斂進化の一例だろう、と説明してくださいました。
  この近くには、比較のためだと思いますが、サメの歯(化石のようで、長さ3cmくらい)とマッコウクジラの歯(長さ10cm余で、とてもつるつるしていてきれい)が置かれていました。
  *収斂進化:複数の異なるグループの生物が、同様の生態的地位についたときに、系統に関わらず身体的特徴が似通った姿に進化する現象。(Wikipediaより)

●スナメリ:長さ1m強。ハクジラ類に属し、鯨類の中では一番小さな種類だとのこと。体は流線型で形は魚のようですが、胸鰭と水平に大きく広がった尾鰭があるだけで、背鰭の部分は少し細長く隆起してちょっとざらざらしているだけです。魚の尾鰭は上下に広がっているのにたいし、クジラ類の尾鰭はなぜ水平に広がっているのだろうかと、疑問に思いました。

●ヒゲクジラのひげ:先のほうの手触りはまるで箒のような感じで、1本1本のひげはかなり堅い感じでした。根本のほうは、薄い板が何枚も隙間を置いて重なっています。これで、オキアミや小魚等を海水から大量に濾し取って食料にしているとのこと。

●バショウカジキ:全長2mくらいはありました。上顎がまるで槍のように前に40cmくらい伸びています。背鰭は上に向って大きな薄い扇の様に広がっています(これがバショウカジキという名前の由来になっているとのこと)。尾鰭も細く広がっています。細い棒のような腹鰭が下に垂れ下がっています。

●アオウミガメ:甲羅の直径50cmくらい。4本の脚の先は鰭のように薄く広がっているが、よく触ると指の骨のようなのが数本隆起していることが分かります。

●タイマイ:甲羅の直径は40cmくらいで、上のアオウミガメよりやや小さめ。甲羅はとてもつるつるしていて、鼈甲として珍重されていることに納得。4本の脚の先には、指ばかりでなく爪のような所も触って分かりました。口の部分はアオウミガメより細くなっていました。

●アオザメ:体長2mくらい。体は全体にずっしりした感じで力を感じさせます。(頭部は、歯の部分が触っては危険だとの理由で、ガラスケースに覆われていましたが、隙間から手を入れて歯も少し触ることができました。ショップで、小さなサメの、歯の付いた顎の標本を購入、歯が何層にもなっていることが分かります)。

●カブトガニ:雌の背中の上に重なるように雄がくっついている状態で、とても面白い形(このような体勢を抱合と言うそうです)。それぞれ背中側は平べったいお椀のような形の堅い甲になっているが、雌はその直径が25cmくらいなのにたいし、雄のほうは20cmくらいで、雌のほうが明らかに大きいです。ともに、40cm近くはある細く堅い剣状のギザギザの尾が伸びています。腹側には5、6本脚のようなのがぶらぶらしていました。

●貝のなかまたち
  次にいろいろな貝も触りました。
・アラフラオオニシ: 巻貝の中で最大の物だとか。以前は飲み水を運ぶのに使われていたそうで、その長い水管は水の注ぎ口としても適しているように思いました。
・スイジガイ: 左右に細長い突起が出ていて、その形が「水」の字に似ているところからこの名前になっているそうです。
・タガヤサン−ミナシガイ: 10cm余の長さで円錐形に巻いているような感じ。イモガイの種類に属するとのことで、毒があるのかもしれません。
・ヤコウガイ: 内側が真珠色に輝いていて、螺鈿に使われたりするとか。
・サザエ
・アワビ: アワビが巻貝だとは知りませんでした。巻貝を広げた状態だと言えば言えなくもありませんが。どれにも穴が空いていて、数えてみるとだいたい7個ぐらいありました。
・ホラガイ
・タカラガイ: その卵のようなコロッとした感じは、いつも手におさまりがいいです。
・シロチョウガイ: 直径20cmくらいあって思っていたより大きかったです。殻がとても分厚く、3cmくらいの所もありました。以前はボタンなどの材料になったそうです。
・ヒオウギガイ: 触った感じはホタテガイとほとんど同じですが、色がとてもきれいだとのこと。
・シラウミガイ: 小さいですが、シャコガイの仲間だとのことです。
・マガキ
・アコヤガイ
・ハマグリ: おなじみの貝ですが、二枚貝の中では左右非対称だとのこと。言われてみるとすぐ分かることですが、これまで何回も触っていたのにまったく気がついていませんでした。

*実は、和歌山県立自然博物館を訪れる10日ほど前には西宮市貝類館に行っていて、もっとたくさんの貝に触りました。両館で同じ種類の貝にも触っていて、貝の世界がとても身近で楽しくなりました。

 和歌山県立自然博物館で一番良かったことは、最初にも書きましたが、このようなコーナー・設備があれば、見えない人が独りでもある程度展示を楽しめることでした。

◆神戸市立須磨海浜水族園の魚のレプリカなど
  神戸市立須磨海浜水族園へはKさんといっしょに行きました。
  入ってすぐ大水槽が現われ、ゴゴー、ゴゴーという音もします。常時波が立っているようで、その波の音のようです。イワシの群が泳いでいたり、サメやエイのような魚がこちらに向って泳いできたり、見ていてなかなか迫力がありそうです。
  私の感心をまずひいたのは、ホホジロザメの大きな頭部のみの標本です。1m近くもありそうな大きな頭部が上からぶら下がっているようです。そして、その全身の長さは4.8mもあるとのことでした。さらに驚いたことには、このサメのお腹の中からは120cmもの大きさの胎仔が見つかり、しかも兄弟同士で共食いをしていたらしい、というようなことが説明文に書いてありました。
  私は魚といえば卵生なのだろうと思っていましたが、これは卵胎生ということなのだろうと考え直したりしました。
  後で、魚のレプリカなどを説明してくださった方に尋ねてみたところ、ホホジロザメは胎生で、このサメの胎仔の腹の中からさらにサメの歯が出てきて、この胎仔は別の胎仔を食べていたことが分かる、とのことでした。
*卵胎生と胎生の区別・境界は微妙なようです。大辞泉では、卵胎生は「受精卵が母体内にとどまって発育し、孵化し幼体となってから母体外へ出ること。母体とはつながっておらず、養分を主に卵黄からとるものをいう。」となっています。この説明の前半部分は胎生でも同じことのようなので、卵胎生と胎生との違いは後半部分、すなわち胎仔の栄養が卵黄から来るのか母体から来るのかのようです。しかし、ホホジロザメなどでは母体から子への栄養供給があるようですし、また上の例のように他の胎仔を食べて栄養にしているので、単純に卵胎生とは言えないようです。説明してくださった方も胎生と言っていましたし、胎生のヴァラエティの一つと考えたほうが良さそうです。

 大水槽を見てから、インフォメーションに行き魚のレプリカを見たい旨を伝えたところ、解説もしたほうがいいですか、とのこと、もちろん解説もお願いしました。
  魚のレプリカなどを置いてある部屋を教えてもらい行ってみると、数人の係の方が来られました。
  まず、カニなどの殻の乾燥標本を見せてもらいました。
●イガグリガニ: これは、その名の通り全身がすべて細い棘で覆われています。大きさは10cm余ですが、棘のために脚など細かい部分は触ってはよく分かりません。ヤドカリの仲間で、後ろの脚ははっきりとは分からないようです。

●イシガニ: ワタリガニの種類だとのことで、触ってこれは食べたことのあるカニだと思いました。イガグリガニが円っぽかったのにたいし、これは横広でした。

●アサヒガニ: 長さ15cm余の縦長の形。けっこう大きいですが、甲羅の形は丸っぽくて気に入りました。はさみも脚の先も平べったくなっていて、この平べったい脚の先で後戻りするように砂底を掻いて砂の中にもぐっているそうです。

●タラバガニ: 40cmくらいはある大きなカニでした。もちろん食べたことはありますが、これだけ丁寧に全身を触ってみたのは初めてです。これもヤドカリの仲もだそうです。

●トラフカラッパ: 長径10cmくらいの横長の半球状の甲羅で、脚などはその中に隠れている感じでした。左のはさみで巻貝などを固定し少しずつ回しながら、右のはさみで殻を少しずつ割り砕いて食べているそうです。

 次に魚のレプリカを10点余触りました。タイなど、和歌山県立自然博物館で触った物と重複するものもありますので、とくに印象に残っているものについて書きます。
●エイ: 直径30cmくらいの円盤状の体から40〜50cmくらいの尾が長く伸びていました(エイとしてはかなり小さいもののようです)。尾の付け根には3cmくらいの針のようなのがありました(毒針なのでしょうか)。
  体の形については、係の方やKさんと話していて、普通の魚を上下につぶした(あるいは左右に引き伸ばした)形だと思えば理解しやすい、ということになりました。すなわち、胸鰭が左右対称に大きく伸び、背鰭はほとんどなくなり、両眼は体の上面に、口は下面になっています。

●ネコザメ: 私はこれを触った時、主翼の小さな飛行機の形に似ていると思いました。意外と胴(とくに頭のほう)が太く(係の方によれば、水族館で飼われているとどうしても野生のものより太ってしまうとのことです)、それに比べて鰭が薄くべたーっと広がていたからでしょう。眼が頭の上のほうに付き、両側面には鰓が5対はっきり分かりました。胴の下後方には、腹鰭から5cm近くある1対の突起が伸びていました(これは交尾の時、と言ってもネコザメは卵生だそうですが、などに使われるということでした)。

●サメの歯: イタチザメとアオザメの本物の顎、そこに生えている歯を触りました。イタチザメの歯は、1本1本は、先が鋭く尖った1辺が3cmくらいの三角形の薄い歯で、しかも歯の縁には鋸状の細かいギザギザがありました。そしてその歯の内側にはさらに三重くらいに重なって別の歯が生えかけていました。アオザメの歯は、イタチザメの歯よりは厚く、縁には鋸状のギザギザはないようです。こういう歯にはふつうは手を切りやすいということであまり触れられる機会はないですが、爪の背側を使ったりすると安全に触れることができます。

●オオサンショウウオ: 体長60cm余の何とも存在感のあるものでした。指の数が前脚は4本、後脚は5本だと教えてもらいました。(私はこれまでに何度かオオサンショウウオの模型を触っていて、その時指の数を数えてみると4本だったり5本だったりして、それは模型が不完全なためだろうと思っていました。)

●スナメリ・マイルカ・ザトウクジラ(ミニチュア): これらの鯨類を触って教えられたことは、スナメリやマイルカなどハクジラ類は噴気孔が一つであるのにたいし、ザトウクジラなどヒゲクジラ類は噴気孔が二つあることです。なぜそのような違いがあるのでしょうか。

●肺魚: まず南米に住むというレピドシレン・パラドクサというのを触りました。50〜60cmくらいの長さの棒状で、胸鰭・腹鰭が紐のように長く伸び、しかもその紐の回りはさらに細かい糸状になっています。次にアフリカに住むというプロトプテルスという種の肺魚に触りました。これは形はレピドシレン・パラドクサとだいたい同じなのですが、胸鰭・腹鰭は細長いだけで先は糸状にはなっていませんでした。これらの肺魚は、乾期になっても地中にもぐって肺呼吸で次の雨期まで生き延びるそうです。
  肺魚にはこのほかにオーストラリアに住む種もあり、これら南米・アフリカ・オーストラリアに住む肺魚は大陸移動説の一つの傍証になるとのことです。(南極大陸などもふくめ、南米・アフリカ・オーストラリアが一つのゴンドワナ大陸であった時代に棲息していた肺魚が、大陸移動後それぞれの場所で少しずつ異なって進化したのでしょう。係の方によれば、南米・アフリカ・オーストラリアの肺魚を比べてみると南米とアフリカのものがより類似しているとのことですが、これは、ゴンドワナ大陸がまず南極やオーストラリアをふくむ部分と南米やアフリカをふくむ部分とに分裂し、その後で南米とアフリカが分裂したこととも符合しているようです。)

 こうして、係の方に1時間近く解説してもらい、いっしょに行ったKさんとともにとても楽しい時をすごすことができました。

(2008年1月12日)