やよいフェスティバルに参加

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 大阪府立弥生文化博物館で、3月24日から27日まで「第2回やよいフェスティバル」が行われていました。私は3月27日に弥生文化博物館に行って、午前10時ころから午後4時前まで十分に楽しませてもらいました。このイベントは一般向けのものでとくに視覚障害者の参加を考慮して企画されたものではありませんでしたが、メニューの中には見えない人たちでも楽しめそうなものもあったので、私の知り合いにメールで案内してみました。何人かからは楽しそうな企画でできたら行ってみたいというようなメールはありましたが、結局都合がつかなかったようで、残念ながら見えない人たちの参加は私だけのようでした。
 27日に行われたのは次のようなものです。弥生文化博物館のスタッフだけでなく、近くの博物館等の協力もあって、本当に盛りだくさんの内容でした。
 
 ・博物館バックヤードツアー: 博物館のバックヤード(収蔵庫)を学芸員の案内で限定公開。
 ・考古学屋台村: 弥生時代や古墳時代の遺物をオープン展示し、館員がやさしく解説。展示品を手に取って触ることもできる。(協力:財団法人大阪府文化財センター)
 ・卑弥呼登場: 卑弥呼に中国大陸からの使者が謁見している場面を等身大で再現した模型を特別公開。記念写真撮影も可。
 ・竪穴住居で写真を撮ろう!: 常設展示の原寸大竪穴住居模型に入って、弥生の家族とともに記念撮影ができる。
 ・海渡(かいと)君はどこ?: 海渡君が展示室のどこかにかくれてしまいました。探してください! (海渡君…遺跡から出土した弥生時代の犬の全身骨格をもとに復原した犬の模型)
 ・池上曽根探検ツアー: 和泉市教育委員会文化財振興課ならびに池上曽根史跡公園協会の協力を得て、第2展示室および池上曽根史跡公園での遺跡見学ツアーを実施。
 ・拓本教室(大阪府立近つ飛鳥博物館の出店): 拓本の取り方を指導。 (講師:大阪府立近つ飛鳥博物館職員)
 ・パズルコーナー: 土器パズル、銅鐸パズル、埴輪パズルに挑戦。
 ・石器で切れるかな?: 大昔の人々がナイフとして使ったサヌカイトや黒曜石。うまく野菜を切れるかな?
 ・絵で見る弥生文化博物館 & この絵どこの絵?: 地元・池上小学校の児童が授業の一環で当館を訪れ館内を描いた作品を展示。
 ・こんぺいとうを作ってみよう!: 手間ひまかけて作られる、かわいくて夢のあるお菓子。色つけと味つけを体験。
 
 私は弥生文化博物館にボランティア登録していて、ボランティアグループ「やよいの会」の人たちといっしょに活動しています。今回のイベントにもやよいの会としても協力するということで、私もその一員として、半分くらいは「考古学屋台村」で回ってくる人たちに説明などし、あとの時間は面白そうなコーナーに行っていろいろと楽しませてもらいました。
 「考古学屋台村」のコーナーには、実物の弥生土器と須恵器の破片(破片といっても、中にはごく一部だけが欠けているだけの物もあった)が20点くらい並べられていて、いずれも直接手に取って触ることができます。「触ってみてください」と言うと、子どもたちの中には片手で乱暴に持ち上げようとする人もいますが、多くの人たちは恐る恐るちょっと触ってみるといった感じです。片手で持つのではなく、全体に力が軽くかかるように両手で包むように持ってください、と言っています。
 触って弥生土器と須恵器を比べた時の違いとしては、須恵器のほうが硬くて、形もきれいな物が多く、一部にはツルツルした部分のある物もあるといったことを説明しました。その違いは、主に技術の違い、弥生土器が手作りで野焼きであるのにたいし、須恵器は簡単な轆轤を使い窯で焼くようになったことによるのだろうと解説したりもしました。須恵器の一部にあるツルツルした部分は、窯で焼くようになったため温度が千度以上になって、燃料とした植物などのガラス質の部分が溶けて自然釉となったもので、これは見てもぴかぴか光っているようで分かりやすいようです。また、高温で焼くようになったため、緻密になり水がそれだけ漏れにくくなって、容器としてもより優れた物になったことなども話したりしました。このコーナーには、大阪府文化財センターで長年発掘にも携わっている人がおられて、その方に私もいろいろと教えてもらって、私のこのような解説の一部はその方からの受売りだったのですが。
 もうひとつ、このコーナーで面白かったのは、土器や須恵器の破片から、その全体の姿を想像してみることです。その破片が土器のどの部分に当たるかをまず考え、それから全体の形や大きさを考えるのですが、これはなかなか難しそうでした。ただし、回りの展示ケースの中には復元品もあって、破片と、それから復元した全体の形の対応を確かめられることもあり、これはなかなか良い展示の仕方だと思いました。さらに、私はまったく気付きませんでしたが、20cmほどもある大きな二つの破片が、実は共に大きな壺の一部でぴったり合うということです。実際にやってみると、両方の長く伸びている切り口が隙間なく、繋がり目が分からなくなるほどぴったり合うのです。これには驚きました。
 
 次に、私が楽しんだ他の企画を簡単に紹介します。
 
●竪穴住居で写真を撮ろう!
 常設展示の原寸大の竪穴住居模型は、ふだんは触れられませんが、今回は開放されていて、中に入ることができました。写真を撮ることは私にはどうでもよくて、中にある物をいろいろと触りました。
 全体は、3m弱四方ほどの竪穴住居を縦に半分に切ったようになっています。隅の、屋根までの高さが低い部分には、色々な種類の土器、石の台やたたき石のようなもの、木製のスコップのようなものや鍬のようなものなど、生活用具が所狭しと置かれています。中央のほうには、掘っ立て柱と炉があり、炉の回りで弥生の家族4人(夫婦と女のこと男の子)が食事をしている様子が再現されています。4人は毛皮の上に座り、麻のようなちょっとごわごわした感じの服を着ています。身長はみな低めのようですが、がっしりしていて、とくにお父さんの腕は筋肉モリモリです。それぞれの人の前には、米や木の実の入った土器も置かれています。分かりやすいといえば分かりやすいですが、ありきたりという気もしました。
 
●拓本教室
 大阪府立近つ飛鳥博物館の人の指導で、拓本を体験しました。まず、発泡スチロール製の板に箸先で好きなように線を描きます(これが、凹線なのですが、触っても予想外にはっきりとたどりやすい線でびっくり!触知教材用になるかもと思うほどです)。きれいに描けたので、自分の名前も漢字で書いてみました。こうして線を描いたスチロール製の板の上に画牋紙を乗せ、水で湿らせて画牋紙とスチロールの紙がぴったりくっつくようにします。そして綿球に墨を染み込ませ、それを画牋紙の上にちょんちょんと順番に軽く当ててゆきます。そうすると、凹線の部分が回りより薄く出て白抜きの文字のようになります。
 次は、蓮華文の瓦の拓本です。おそらく飛鳥時代ころの遺跡から発掘された瓦を模して焼いたと思われる、直径20cm弱ほどの円盤状の瓦で、中央付近では幾重にも花模様が浮出しになり、周囲には小さな丸い突起が配されています(一瞬、以前近つ飛鳥博物館で触った三角縁神獣鏡の裏面の文様を連想しました)。この瓦の上に、上と同様に画牋紙を乗せ、慎重に水で湿らしながら、瓦の凹凸が紙に立体的に写るくらいまで軽く押えてゆきます。そしてその上から綿球で墨を付けてゆくと、浮出した部分がとてもきれいに写し取られたようです。私は直接には見られませんが、少し乾いてからそっと触ってみると紙にもかなりはっきりと浮出しの模様が出ていて、うまく出来ているだろうことがわかりました。満足のいく出来栄えでしたし、また拓本の手法は、触っても分かりやすい作品の製作のためのヒントにもなりそうです。
 
●石器で切れるかな?
 黒曜石やサヌカイトの破片に少し手を加えたナイフ様のものがいくつか置いてあります。私は黒曜石の一番切れそうなナイフ(刃の部分は絶対に触らないようにとのことでしたが、私はそっと触ってみました)で、大根を切ってみました。まるでカッターで切っているような感じで、そんなに力を入れなくてもきれいに切れました。このような物を使えば、肉を切ったり皮を剥いだりすることも意外と簡単にできそうです。
 
●こんぺいとうを作ってみよう!
 この企画は、大阪糖菓株式会社のこんぺいとうミュージアム(八尾市と堺市にあるそうです)の出前講座でした。こんぺいとうを作るといっても、色つけと味つけをするだけで、みんなで順番にするので時間も短く、大部分はこんぺいとうの歴史や作り方について、ビデオ視聴したり紙芝居風の解説を聞いたりでした。
 会場ではずうっと、ザザアー、ザザアー、というような音がしています。これは、直径1m弱のこんぺいとうを作っている大きな鍋が、30度くらい傾いてゆっくり回転し、それにつれて多数の小さなこんぺいとうたちが周期的に動いている音でした。(実際の工場では、直径2m、深さ40cm余もある大きな大きな鍋を使って、一度に100kgものこんぺいとうを作っているそうです。)私たちがこんぺいとう作りとして体験したのは、ほとんど仕上がっているこんぺいとうに、最後に好きな色と味を付けることです。私たちのグループは、青の色とパインの味を選びました。順番に、こんぺいとうを箆のようなもので掻き回しながら、天然の青の色素の液とパイン味の液を掛けてゆきます。そして出来上がったこんぺいとうは各自一袋ずつ持ち帰りました。
 こんぺいとう作りは、気の遠くなるほど単純でかつ気を遣う作業のようです。まず、こんぺいとうの芯になるものとしてグラニュートーの小さな粒を使い、鍋を回転させながら、これに砂糖液を掛けては乾かし掛けては乾かす工程を延々と繰り返します。一日に1mmほど成長し、製品になるまで十日くらいはかかるとのことです。私がもっとも興味をもったのは、こんぺいとうの角の数です。20個前後が普通なようですが、24個が理想的な角の数とされているそうです(24という数を聞いて私はすぐに偏菱24面体を連想しましたが、これはまったく的外れでした)。なぜ24個が理想の数とされるのかははっきりしませんが、たぶん角の数が多いほうがそれだけ球形に近くなってきれいだからでしょう。また、数の数がなぜ20個前後になるのか、これもよく分かりませんが、話によると、最初は小さな角が50個以上も出来るそうですが、より出っ張った角にはより多く砂糖液が付いて大きくなり、次第に角の数が減っていって最終的に20個前後になるとのことです。この説明は、雪の結晶の成長過程と同じようなもので、ある程度は納得できました。でも、なぜ20個前後で終わるのでしょうか?よく分かりません。
 
 こうして、一部はボランティアとして、一部は体験者として参加したやよいフェスティバルは、やよいの会の皆さんや館の内外のスタッフの助けもあり、私にとってとても充実した一日となりました。最近は、各地の博物館で積極的にいろいろなワークショップなどが企画されるようになり、その中には見えない人たちも楽しめそうなものもあります。しかし、企画する側は見えない人たちのことまで考慮して企画していないことが多いですし(というか、どんな風にすれば見えない人たちも参加しやすいかが分からない)、また、見えない人たちには各地でのワークショップなどの情報はほとんど届いていないようです。一般のワークショップにも何とかして見えない人たちも気軽に参加できるようにしたいものです。
 
(2010年4月5日)