手で実感する美術展:私の鑑賞ノート

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 8月8日から11日までの 4日間、日本ライトハウス情報文化センターで「手で実感する美術展」が開催されました。
 この美術展は、神戸に本店のあるジュエリー貴樹の矢野茂樹・貴美子夫妻を中心に、世界的な美術品を手で触れて見ることの出来る美術館の開設を目指して活動を始めている「KAGUYA PROJECT TEAM」が主催するものです。
 矢野さんは、二十数年前に、ドイツ連邦共和国宝石研究所に留学して、伝統的なカメオの技術などを習得し、同研究所ディプロマを取得した方です。帰国後「ジュエリー貴樹」を設立、その作品は二十年近く前からドイツのイーダ・オーバシュタイン博物館に展示され、また2005年の愛知万博のドイツ館に公式出展されるなど、高い評価を受けています。
 
 今回の美術展では、ジュエリー貴樹所蔵の貴重な瑪瑙のカメオをはじめ、石の彫刻品や極めて精巧なアルミ製のレプリカも展示されました。私もこれまで何度かカメオには触れたことはありますが、きれいだとは思うものの、それらは小さくて何が表現されているのか触ってはよく分からないことがほとんどでした。今回展示されたカメオはかなり大型で、その精緻な作り様が触ってもかなりよく分かり、物語などのシーンや情景を立体的にイメージすることができることも多かったです。
 私は、 9日の午後にゆっくりと解説してもらいながら回り、さらに10日と11日の昼休みに、自分の記憶のイメージを確かなものにするために、説明してもらいながら触り直しました。私ばかりでなく、来場者全員にたいして、スタッフの方々は丁寧に解説を繰り返していました。 4日間対面で同じような説明を繰り返すのは本当にたいへんなことだと思うのですが、それを最後まで手を抜くことなくしてくださっていたようです。
 
 以下に、各作品について私なりの鑑賞ノートを記します。実際に触って分かったことを中心にしましたが、もちろんそれは対面で解説してもらいながら理解できたことが大部分ですし、また、矢野貴美子さんが作ってくださった各作品についての解説文も大いに参考にしました。実際に文章を書いている時は、実物無しで、頭に残っているイメージに基いて書きましたので、一部間違っている箇所もあると思います。
 *2012年6月5〜9日に、日本点字図書館でカグヤ主催の「触れる美術展」があり、そこにも10点弱瑪瑙のカメオが展示されていました。(この美美術展では、瑪瑙のカメオのほかにも、江田挙寛さんの高松塚古墳の壁画を再現した石創画、柳澤飛鳥さんの浮出しの多数の絵画作品、高橋りくさんのスナエが展示されていました。私も石創画5点を出展しました。)展示されていた瑪瑙のカメオの中に「サマリアの女」という初めて触った作品がありましたのでそれを追加し、瑪瑙のカメオの作者についての簡単な解説も追加しました。
 
1.前足を上げた馬 (10×11×1cm)
 薄い板状の、翡翠製の彫刻です。つるつるして、とても硬い感じです。
  馬が前脚を上げて、岩を飛び越えようとしている状態を表しています。下に岩が二つあり、後脚はその間にあります。そこから体が斜め上に伸び、前脚は空中に躍り上がっています(右脚がやや上になっている)。頭がぐっと上に伸び、その後ろには、ほぼ垂直に、多くの細かい斜め線として刻まれている鬣が続いています。とても躍動感を感じます。
 
2.サモエド犬 (26×15×10cm)
 どっしりとした石の彫刻です。ホワイトオブシデアンという石だとのことですが、初めて聞きました。オブシディアン(obsidian)は黒曜石のことなので、辞書で黒曜石を調べると、「黒曜石のなかで黒地に褐色の網目があるものをマホガニー・オブシディアン、黒地に小さな白色球状の斑点を含むものをスノーフレーク・オブシディアン、大きな白い斑点を含むものをフラワー・オブシディアン、油膜のような多彩色を示すものをレインボー・オブシディアンといっている」(『日本大百科全書』小学館)とのことですが、ホワイトオブシディアンはネットで調べても見当たりません。矢野さんによれば、これはたぶんカルセドニー(玉髄)ではないかとのこと、底面の切口を触ってみても黒曜石のつるつるした感じや滑かな曲面などがまったく感じられなかったので、少し納得しました。
  サモエド犬はシベリア北東部原産の犬で、エニセイ河畔に住んでいたサモエード人がトナカイ猟やそり犬用として飼育していたものだとのことです(神戸でも飼っている方がおられるとか)。
 全体がふさふさの長い毛に覆われているようで、その毛の流れの曲線が触ってとてもきれいに感じます。また、瑪瑙や翡翠などの彫刻のつるつるした感じとはまったく違って、表面全体がさらさらしたような触感で、これも触り心地がいいです。
 犬は伏せをしているような姿勢で、どっしりとした感じです。両耳が立っています。尻尾はくるりと巻いていて、お団子のような大きな塊のようになっていて、これもいい感じです。
 
3.女の子の横顔の肖像画
 アルミニウム製のカメオで、3パターンが置いてありました。これらは瑪瑙のカメオの精巧なレプリカです。
 一つは直径4cmほどの小さなカメオ(これが普通サイズ)、もう二つはそれを触って分かりやすいように 4倍に拡大したものです。
 3パターンとも同じ女の子の横顔です。頬のふくらみの曲面、カールした髪の流れがきれいに感じます。顎の下当たりには花が三つ浮き出しています。
 拡大した 2点のうち一つは、触って分かりやすいように輪郭が強調されているようですが、そのままの拡大のほうが作品の良さを感じられるように思いました。
 
4.マヤ (11×7cm)
 瑪瑙のカメオで、小さな楕円形の板状です。スペインの画家フランシスコ・ゴヤの裸のマヤをアレンジした作品だとのことです。
 裸の女性が横たわっている様子が描かれています。左肘を突いて上半身を起こしかけ、左正面を見ているようです。両足を真っ直ぐ横に伸ばし、右手もその足に沿って伸ばして、手の先には花のようなのを持っています。裸婦の肌は、触ってとてもきれいに感じます。
 裸婦の奥、画面左から中央にかけて、多数の細い線でカーテンの襞が描かれています。左端のほうの襞はほぼ真っ直ぐな縦線ですが、右に行くとともに次第に各襞が大きく右側に湾曲し、カーテンが風に吹かれてなびいていることがよく分かります。
 裸婦の手前には、いくつかクッションのようなのがあります。絵全体としては、おだやかな、ゆったりした雰囲気を感じます。
 
5.海の神ネプチューン (直径16cm)
 瑪瑙のカメオで、ほぼ円形の板状です。
 一番左に、海の神ネプチューン(ポセイドン)の象徴である三叉の鉾が真っ直ぐ上向きに立っています。その右にネプチューンが描かれています。ひげが生えた顔の男性ですが、脚は魚の尾ひれの形になっていて、くるうっと左向きに湾曲しています。ネプチューンと三叉の鉾の下には、小さな波が細かく描かれています。
 ネプチューンの右には、彼の恋人であるメドゥーサが描かれています(メドゥーサは少女の頃はアテナが嫉妬するほどきれいで、ネプチューンもその美しさに魅せられ、アテナの神殿で彼女を抱いたとか)。メドゥーサは三叉の鉾の所まで左手を伸ばし(その腕の大部分はネプチューンに隠れています)、岩の上に右手をついて座っている状態です。ネプチューンは魚を手で抱えるように持ち、右足を踏み出してその魚をメドゥーサに捧げているようです。
 画面の右下には白鳥が描かれています。羽を大きく広げ、長い首を上に伸ばし、右を向いています。白鳥の羽の筋は触ってとてもきれいです。
 
6.バッカス (直径16cm)
 瑪瑙のカメオで、お椀状に窪んだ形になっています。
 酒の神バッカスが葡萄の収穫のお祝いを楽しんでいる様子を描いたものだとのことです。
 中央にバッカスが立ち、その両側に女性が描かれています。バッカスは左手に大きな酒盃を掲げるように持ち、右手は画面左側の女性を後ろから抱えるように伸ばして女性の腰当たりを手で支えています。
 左側の女性はほぼ正面を向き、左手を伸ばして葡萄を取ろうとしています。
 右側の女性は上半身を起こし、足を曲げて座っています。後ろ向きで、左手を上のほうに伸ばし小さな酒盃を持っています。彼女は画面の縁ぎりぎりに描かれているので、窮屈そうな印象を受けました。
 画面の縁に沿って円を描くように、葡萄の木のツタや葉や葡萄が描かれています。
 
7.パリスの裁き (19×13.5cm)
 瑪瑙のカメオで、板状です。ペレウス王の結婚式に自分だけが招待されなかったことを恨んだ不和の女神エリスが、宴席に黄金のりんごを投げいれ、そのりんごに「最も美しい女性に」と記されていたため、3人の女神が美を競い合うことになり、ゼウスがトロイアの若い王子パリスにその審判をさせた、その模様を描いたものだとのことです。(この時のいざこざがやがてはトロイア戦争に発展していくようです!)
 この作品は、全体としてとてもバランスが良くて、私には好ましく感じました。
 中央には 3人女神が並んでいます。そして、右端にパリス、左端に王が配されています。画面上部には、木の葉が多数茂っています。
 右側に位置するパリスは、座って左の女神たちを見ています。彼の後ろには柱が立ち、柱の上は木の葉に続いています。
  3人の女神のうち真ん中の女神は、両腕を上に伸ばしてすっくと立っています。両手先は頭の上で組んでいるようになっているかもしれませんが、木の葉に隠れてよく分かりません(両腕の輪郭が菱形になっていて、形として美しく思います)。正面やや右下を見ているようです。
 右側の女神は、石の上に膝を曲げて座り、左の方を見ています。
 左側の女神は、右側を向き、髪を束ね、髪は腰まで伸びています(髪の毛を示す何本もの曲線の流れがとてもきれいです)。両腕をクロスし、自分の乳首を隠すようにしています。左腕に布をかけ下半身は布に覆われています。
 画面左端にも柱があり、王の像があります(触ってはかなり分かりにくいです)。
 
8.ダイアナ (12.4×7.7cm)
 瑪瑙のカメオで、小さな楕円形の板状です。
 画面の縁は全体にわたって高くなっていて、木や葉が描かれているようです。その奥にダイアナと天使が描かれています。
 ダイアナは、画面中央よりやや左の位置で、上体をやや起こして足を右に真っ直ぐ伸ばした状態で、矢のようなのを真上に向けて持っています。ダイアナの左、背中の下当たりに小さな天使が描かれています。
 ダイアナの奥には岡が描かれ、その上には雲が広がっています。
 
9.アダムとイブ (23×22×8.5cm)
 瑪瑙のカメオで、大きな深いお椀状になっています。
 旧約聖書の『創世記』のアダムとイブの物語を表したもので、蛇がイブに近づき、神から食べてはいけないと言われた善悪の知識の木の実を食べるよう促され、イブ自身がその実を食べた後、アダムにも木の実を勧めている様子を描いたものです。
 右側にイブ、左側にアダムが立ち、その 2人の間、奥のほうに太い木が画面の下から上までいっぱいに描かれています。木の上の方は枝葉が広がり、さらに画面の上縁に沿うように蛇が描かれています(一部木の枝葉で隠れています)。
 イブは左手を高く上げ、手の先が枝に付いた 2個のりんごに触れています。その枝には蛇の頭が伸びてきています(蛇のうねった体には細かい線のようなのが多数彫られ、鱗を表しているようです)。
 イブは右手にりんごを持ち、木の前で、アダムの左手にりんごを渡そうとしているようです。アダムは、左足を大きく前に踏み出して膝を曲げて立ち、左を向いてイブのほうを見ているようです(顎にはひげのような縦の細かい線が感じ取れます)。
 アダムの脚などは太く、また凹凸も大きく描かれているので、逞しさを感じます。
 
10.鉄の矢を作るペーパイストとアフロディテ (23×18×4.5cm) 
 瑪瑙のカメオで、大きなお椀状になっています。
 ゼウスとヘラの息子であるペーパイストは、鍛冶の神として大変な技能の持ち主で、この絵は、ペーパイストが英雄達のために矢を製造している様子を描いたもののようです。
 左側から順に、ペーパイスト、アフロディテ、天使、一番右に戦士が描かれています。
 ペーパイストは立って右手に金槌を持っています。ペーパイストとアフロディテの間に四角い鉄の板のようなのがあり、その上に細長い角張った棒(やっとこだとのことです)があります。
 中央のアフロディテは左手に水入れのようなのを持ち、その水入れには鏃の先が浸されているようです。右手には矢を持っています。
 アフロディテの右に位置する天使は、右のほうを向き、画面の下から上まで達する長い矢を持っています。天使の足は長く、三角の羽はかわいく感じます。(私のイメージでは、天使に長い矢というのはどうもしっくりきません。)
 一番右側の戦士は、兜をかぶって立ち、左を向いています。
 
11.チェリー (11.5×13×4cm)
 瑪瑙のカメオで、やや小さめのお椀状です。
 ミュシャの描いた「チェリー」をカメオにした作品だとのことです。(私は「チェリー」という作品名からさくらんぼを連想して触ったので、最初戸惑いました。なお、ミュシャ(1860〜1939年)はアール・ヌーボー期のグラフィックデザイナーで、多くのポスターや装飾パネルなどを制作しています。)
 ほぼ真正面を向いていますが、左の肩が突き出しているので、体を少しひねっているように思います。膝の上に肘を突き、手の上に顎を乗せているとのことです。肩の当たりから下までずうっと服に覆われているようで、いくつもの襞のようなのが感じ取れます。服の上から、膝を曲げている左足と右足がかすかに分かり、何かに腰掛けているようです。
 
12.サマリアの女 (12.8×4.6cm)
 瑪瑙のカメオで、縦長の板状です。
 これも、ミュシャの「サマリアの女」というポスターをカメオにしたものだそうです。「サマリアの女」は、聖書(ヨハネの福音書第4章:ユダヤからガリラヤに向かう途中、井戸のそばに座るイエスにサマリアの女・フォティナが水を与え、さらに彼女がサマリア人を改宗させる)に題材を得た演劇で、その一場面を描いているようです。
 中央に、サマリアの女・フォティナが立っています。髪や衣が少し触って分かります。頭部の背後には光臨のような円が描かれていて、その周りには細かな模様のようなのがあります(実際はヘブライ文字のようです)。
 サマリアの女が水瓶を持っていて、その中にうずくまるようにしているイエスが描かれているようですが、触ってはほとんど分かりませんでした。
 
13.ビーナス (16.8×11.4×3.5cm)
 瑪瑙のカメオで、やや縦長のお椀状です。
 ビーナスが大きな帆立貝の貝殻に乗ってキプロス島まで運ばれる様子を描いたものだとのことです。
 中央に、帆立貝にしっかり足を乗せてビーナスが後ろ向に立っています。背中はつるつるで、背骨の所が縦に長く少し窪んでいます。顔は左を向いています。
 女神は両手に綱を持ち、その綱を 2匹のイルカが引っ張って、貝に乗ったビーナスを運んでいます。イルカは、左下に1匹、女神の足の向こうに大きなのが1匹(そのイルカの体は足に隠れ、右側にうねった尾、左側に頭部が触って分かります)描かれています。
 
14.半漁人とトリトンに抱えられるアフロディテ (19×16.3×6.3cm)
 瑪瑙のカメオで、やや深めのお椀状です。
 海の神のポセイドンの息子トリトンが、美の神アフロディテを抱えている様子を描いたものだとのことです。
 左から順に、半漁人、アフロディテ、トリトンが描かれています。
 半漁人は、顔はほぼ正面を向いていますが、体はひねられて後ろ向きに近い状態で、右手でアフロディテの右腿の当たりを支えています。足は魚の尾鰭になっていて、先はくるっと巻いています。下には波が描かれています。
 アフロディテは右を向いて、両手で布のようなのを掲げ、その布がたれているようです。アフロディテはトリトンの肩の当たりに乗っているようです。トリトンとアフロディテの足が重ねて描かれていて分かりにくいですが、アフロディテのぴんと伸びた左足の足裏がはっきり分かり、また少し曲げている右足先の爪がよく分かりました。トリトンの体は斜めになっているように感じました。
 
15.ラピテース族と戦うケンタウルス (17.5×14×3cm)
 瑪瑙のカメオで、ごく浅いお椀状です。
 左にラピテース族の人物、右に半人半馬のケンタウルスが描かれています。
 ラピテース族は左脚を真っ直ぐ伸ばして立ち、右脚は膝を折って岩の上に乗せているようです。顔はほぼ正面を向いています。
 ケンタウルスは左(ラピテースのほう)を向き、両手で分厚そうな大きな盾を持っています。顔にはひげが生えているようです。体と両脚は馬になっています。首当たりにライオンの生革を巻きつけているようです(ライオンの頭と尾がほぼ同じ所にあって、ライオンの体は折り曲げられているようです。)
 ケンタウルスとラピテース族の戦いは、ギリシア神話の中でもよく知られた話のようです。
 
16.聖セバスティアヌス (16.6×7cm)
 瑪瑙のカメオで、縦長の板状です。
 聖セバスティアヌスは、 3世紀末のキリスト教の殉教者で、これはその処刑の場面を描いたものです。
 画面上下いっぱいに木が描かれ、その木の前にセバスティアヌスが正面を向いて立ち、それぞれの腕の辺を綱で木に縛り付けられています。セバスティアヌスの体の右側に 4本矢が突き刺さっています。一番上の矢は右肩から刺さって左胸下に矢先が出て、貫通しています。さらに、腰当たりに 2本、膝上当たりに 1本矢が突き刺さっています。表情までは触って分かりませんが、こんな痛みの中でもしっかりと真っ直ぐ立っていることが印象的です。
 
17.水晶の上に止まる鷲 (16×8×10cm)  
 高さ15cmほどある水晶の石の上に、ホークスアイ(鷹目石)で作られた重そうな鷲が、足先から分かれた細い指でしっかりと止まっています。
 羽は閉じていますが、多数の小さな羽が丁寧に彫られ、羽を撫でるととても良い感触です。
 顔はやや右を向き、くちばしは鉤形に下にぎゅっと曲がっています。
 
18.狐の親子 (10×8×8cm)
 瑪瑙の彫刻品です。母狐の下に、子狐がほとんど仰向けになって、足を空に向けています。無心に甘えているような感じです。尻尾が太く曲がっていて、とくに母狐のぐにゃっと曲がった太い尻尾は体をも支えている感じです。
 
19.般若の面 (23×13×20cm)
 アルミニウム製の精巧な能面のレプリカです。「嫉妬や恨みの篭る女の顔」としての鬼女の能面です。
 頭から太い角が 2本生えています。頭には血管が浮き出していて、怒りのすごさを感じさせます。
 目は大きく開き、真ん中には小さな穴があります。
 口は少し開いて、左右とも斜め上に裂けている感じです。歯も大きく、とくに下の犬歯は鋭くとがっています。
 とても怖い感じで、長い間触っているのが耐えられないほどでした。
 
20.ラオコーン (8.5×7.5cm)
 瑪瑙のカメオで、やや縦長の板状です。
 アポロンの神殿の神官ラオコーンはトロイア戦争でアテナの怒りを買い、アテナが大蛇を使ってラオコーンを襲わせます。その戦いの様子を描いたものだとのことです。
 中央にラオコーン、その両側に息子たちが立ち、その 3人を長い長い蛇がぐるぐる巻きにしています。ラオコーンは、左手で蛇の頭を、右手で胴体を持ち、蛇と闘っています。(結局は、まず息子たちが、次にラオコーンも蛇に食べられてしまうそうです。)
 このような、大蛇と戦うラオコーン群像は、ギリシア彫刻として有名なもののようです。
 
21.茸の上のかえる (4×3×4cm)
 モリガナイトという石の彫刻品だとのことですが、モリガナイトの名は初めて聞きました。Wikipediaや英英辞典で調べてみると、「モルガナイト(morganite)」という宝石があるので、たぶんそのことだと思います。モルガナイトは、ピンク色のベリル(緑柱石)のことだとのことです。
 小さな蛙がきのこの上にしがみつくように足を広げて乗っています。蛙はつるっとした手触りです。
 
 以上、本美術展のすべての出展作品20点に、2012年に日本点字図書館で開催された美術展での新しい作品1点を加えて、矢野さんの解説文や辞書類なども参考にしながら、私なりの鑑賞ノートを書いてみました。ギリシア神話やキリスト教に関連したテーマも多く、これまでは言葉としては聞いたことがあっても具体的なイメージとしてはほとんど持っていなかったものについても、かなりリアルにイメージできるようになったものもあります。西洋の伝統的な美術や絵画を理解するためにも、とても良い勉強になりました。またもちろん、瑪瑙のカメオの素晴らしさ・表現力の豊かさも感じ取ることができました。
 この瑪瑙のカメオはすべて、ドイツのイーダ・オーバシュタイン市のマイスター、アレイ・ドーマー(Array Dommer)作だとのことです。最近はストーンカメオの多くはコンピュータを使った機械彫りが主流だとのことですが、ドーマーさんはストーンカメオの手彫りの伝統を受け継ぎ、ワンピース・ワンデザインをモットーに、分業することなく、最初から最後まで独りで制作するそうです。石の中にねむっている美を命ある芸術作品として彫り出すマイスターと言えそうな方のようです。芸術的価値のあるこんな貴重な作品を、だれでも自由に触ることができる美術展、本当に素晴らしい機会でした。
 また、アルミニウム製の能面のレプリカは、神戸の中小企業のメーカーがデータに基づいて製作したものだそうです。とても精巧な仕上がりで、触ってもとても分かりやすかったです。普段は触ることのできない物についてこのようなレプリカをもっといろいろと作ってもらえればと思います。
 
 私がこのような鑑賞ノートを書くことができたのは、なんと言っても、その都度スタッフの方々が丁寧に説明してくださったからです。貴重なカメオの作品をはじめすべての展示品を好きなだけ触ることのできるこのような機会を提供し、また来場された皆さん一人一人に丁寧に各作品の説明をしてくださったスタッフの方々に心から感謝します。ありがとうございました。
 
(2010年8月24日、2012年6月11日一部追加)