海の文化館訪問記

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 9月24日、兵庫県香美町にある海の文化館に行ってきました。JR香住駅で、以前山陰海岸学習館で案内してもらったFさんと待ち合せ、駅から文化館までの往復はFさんに案内してもらい、海の文化館では館内のIさんに解説してもらいました。
 その日は爽やかな天気で、駅から文化館までの、往復約6km弱の道を、しばしば海の音を聞きながら気持よく歩くことができました。海の音を聞いたのは久しぶりでした。その海の音ですが、行きのお昼ころは、ざあー、ざあーというような音でしたが、帰りの夕方ころには、少し風も出てきたのでしょうか、あるいは潮が満ちてきたためでしょうか、どおーー、どおーーというような低い音になっていました。また、帰りに立ち寄った岡見公園では、切り立った岩にに波が当っているのでしょうか、どおおおーーー、と途切れることなく連続した音でした。
 岡見公園辺りは、以前は市杵島という離島であったのが、矢田川と香住谷川が運んだ土砂によって陸とつながってできた陸繋島だとのことです。海の文化館からは10分くらいの所ですが、途中かなり急な坂があり、それを登りきってやや下った所が岡見公園でした。そこには大きな石灯籠がありました。3段になっていて、一番下は角礫岩の台です。その上の柱状の部分はたぶん泥岩のようで、所々に貝の入った空洞がありました(1つの大きめの穴からは貝を1個取り出すことができました)。さらにその上に大きな平たい石が乗っていましたが、回りの面を触った感じは、これまで幾度か触ったことのある柱状節理の標本と同じような感じでした。
 私たちは地面からちょっと突き出た広い石に座って一休みしたのですが、その石は、硬く平板で、あちこちに直線的に割れ目が入っています。所々薄く剥げたような所もあって、たぶん薄い層にもなっていそうです。表面の色は酸化されたような茶色だとのことですが、もしかすると日本海岸に広く分布するというグリーン・タフのような物かもしれないなどと話したりしました。
 岡見公園には、展望台のほか、香住天文台があったり、海防艦戦没者慰霊碑もありました。終戦前日の1945年8月14日の昼ころ、香住の沖合い3kmくらいの所で、海防艦2隻が米潜水艦の魚雷攻撃で沈没。乗員計400人余のうち55人は犠牲になりましたが、地元の漁師さんたちが一本釣り船を出すなど救助活動を行い、多くの人たちが助かったそうです。終戦前日にも、香住ばかりでなく、軍需工場のあった光市や豊田市、さらには大阪市京橋駅(死者800人前後)や岩国駅前(死者500、600人前後)などでは多数の一般住民も犠生になっています。私の生まれていないころの話ですが、戦争の現実を少し感じさせられました。
 
 前段はこれくらいにして、海の文化館見学に話を移します。
 私たちを案内し解説してくれたIさんは、声の大きな、とてもエネルギッシュな方です。Iさんの解説は、自ら実際に潜水して海の中で見た様子とか実際に食べた時の話など体験も織り交ぜた話で、とても面白かったです。
 まず2階から案内してもらいました。2階には、数百種の魚の剥製が、中央の展示台にも回りの壁面にもまた天井からも展示されています。Iさんの誘導で手の届く範囲にある剥製を次々に触りました。視覚障害者の場合は、館員の監視の下で触って良いとのことです。
 たぶん30〜40種くらいも触ったとは思いますが、それぞれの種についての話を十分にメモすることもできませんでしたし、形などの印象の記憶も混乱しがちなので、あまり正確とは言えませんが、私なりにまとめて以下に書いてみます。
 
◆形について
 魚と言っても、とにかくいろいろな形がありました。何十種類も触ったので、それなりに整理してみると、大きく分けて、魚の形としては次の4、5種の形があるように思います。
 まず、魚としてもっとも典型的なのが、泳ぐのに適した形のように思われる流線型ないし紡錘形です。カツオをはじめ、ごくふつうのイワシやサンマなどいろいろあります。
 次に、タイやカレイやヒラメ、それにマンボウなど、左右に扁平になって上下に広がった形です。それから、これとは逆に、アンコウやエイの仲間など、左右に広がって上下に薄くなった形です(私が触ったアンコウは、まるで湯たんぽのような形で、口も上を向いていました。)
 また、ウナギやチョウザメのように、頭から尾までまるで筒のように細長い形の魚もいます。さらに、トラフグのようにほぼ真ん丸の形(でもこれは、回りから刺激を受けて膨らんだ時の形で、そうでない時にはどんな形なのかはよく分かりません)もあるようです。(熱帯魚の中にもボールのような形のがあったように思います。)
 
◆口や目の形・位置で食性や生態を知る
 Iさんの話で一番印象に残ったことは、口や歯の形や方向・位置、目の大きさや位置で、その魚がどんな物を食べどんな生活をしているのかがある程度想像できるらしいということでした。例えば、メジロザメは上顎が下顎よりもずっと前に出て、口は下向きに開いていて、鋭い歯が3列くらい内側にも並んでいます。この三角の鋭い歯はやや内側に向いていて、肉食にとても適していそうですし、口の方向からすると上のほうから下に居る獲物を狙うのに適していそうです。口の方向には、真っ直ぐ前に開くもの、上向きに開いているもの、下向きに開いているものがあり、それぞれ、前・上・下側の獲物に適していると言えます。
 歯の形にも、鋭い歯が並んでいるもの、細かい歯がブラシのように多数あるもの、とくに口の先端の所の歯?が尖っているもの、歯がないものなどいろいろあるようですが、中までは触れないしあまりよくは分かりませんでした。
 また、深海にいる魚ほど、目が大きく上向きになっているようでした。これもたぶん生息環境に適応するためなのでしょう。
 
◆印象に残った魚たち
 当日のメモと記憶をもとに、以下印象に残った魚たちについて書いてみます。間違いや不正確な点も多々あるかと思います。(確認のために、時々 WEB魚図鑑 を参照しました。)
 
●メジロザメ:頭が上部は平板で幅広の長方形のように角張っている。上顎が下顎よりもずっと前に出て、口は下向きに開いている。鋭い歯が3列くらい内側にも並んでいる。触れたのは頭部くらいだけだが、横幅は30〜40cmくらいなのに厚さは20cmくらい。全長は2m余くらいあるようだ。
●エドアブラザメ:メジロザメよりかなり小さくて、1m余。
●ノコギリザメ:口の先が長く40cm近くも板状に前に伸びている。その板の両側には骨のようなとげが両側にずらあっと並んでいる。このノコギリ状の板で海底の泥を掘り起こしながら中のエビなどを食べる。口は下向き。全長は1m余。
●ネコザメ:長さは1m弱。下顎が下に垂れ下がるように開いていて、歯はざらざらした感じの塊状。たぶん海底にいる獲物を漁るのに適していると思う。鮫肌もはっきり触って分かる。
●タイワンザメ:長さ50cmくらいでとても小さい。鮫肌が触ってもっともよく分かった。
●ヒシコバンザメ:体長20数cmの小さなコバンザメ。頭の上面が平たくなっていて、その上に長さ10cm弱、幅4cmほどの楕円形(小判型)の吸盤のようなのが乗っている。吸盤面は、周りの縁がやや高くなり、中側には多数のいぼいぼのようなのがある。これで魚や船に、下からでも上からでも付着できる。胸鰭が2段?になっていた。
●チョウザメ:「サメ」という名が付いているが、ふつうのサメの仲間ではなく硬骨魚類。鱗の形が蝶に似ており、また口の位置や鰭の形がサメに似ていることからこの名になったらしい。長さ1.5mくらいのとても細長い形。
●トラフグ:ボールのように丸く膨らんでいる。皮膚はざらざらした感じ。触ったり回りからの刺激で膨らむとのこと。口はやや上向きで、歯はなく上に三角形に小さく開いてしっかりした感じ。貝を食べるとのこと。
●ハリセンボン:4〜6cmくらいのトゲがあちこちに立っている。両側に胸鰭、背鰭から尾鰭と、全体の形はきれいに感じた。
●ゴマアイゴ、タカノハダイ:20〜30cmほど。おちょぼ口で、海藻やそれに付いた小さな動物を食べる。
●クルマダイ:目がとても大きく、下顎のほうが大きくて口は上向き。このような目と口の形態は、深い海底に近い所で生息する種の特徴で、上にある獲物をとるのに適している。また色は赤いが、海面から数十メートル以深では、まず赤の光が吸収されて黒くなって見えにくくなってしまう。
●アオブダイ:口が前を向いて小さく開いている。サンゴを噛み砕いて中の褐虫藻を食べる。サンゴの白い粉を、鰓(胸鰭の内側になっていて触っては確認できなかった)から水とともに出しているのをしばしば見かけるとのこと。
●老成したアオブダイ:上のアオブダイよりも大きくて40cmくらい。口の上に、頭部が高く突き出している。頭部の形は上のアオブダイとは大きく異なっていて、触った感じでは同じ種の魚とは思えなかった。アオブダイは雄雌関係なく老成するとこのような形になるが、魚の中には雄が成長すると形を変え、その雄の成長した時のきれいな色や独特の形を手がかりに、雌が雄を選んでいる種もあるとのこと。
●ミズウオ:140cmくらいもある細長い体形。背から尾にかけて高さ10cmくらいの鰭がずうっと続いている。目がとても大きく、口は細く長く伸び歯は鋭い。
●セミホウボウ:全長は30cmくらいだが、胸鰭がとても大きく、その広がった姿はまるで飛行機のようだ。頭の上面が平べったくなっている。
●ヤイトハタ:体長1m弱もある大きな魚。細かい歯が多数ブラシのように並んでいる。たぶん小魚などを食べると思う。胴も、30×20cmくらいもあり、ずっしりした感じ。食べても美味そう。
●メガネモチノウオ:ベラの仲間で大きな魚。頭の上が膨らんでいて、2段になっているような感じ。頭部がフランスのナポレオンのかぶっていた帽子を思わせ、ナポレオンフィッシュとも呼ばれているとか。
●オオカミウオ:体長50cm以上はある細長い魚。頭部は大き目で、口が三角に大きく開いていて、大きな鋭い歯が上下に数本ずつあった。顔つきが恐ろしそうで獰猛なためこのような名が付けられたと思われるが、アイヌ語では「チップカムイ」(神の魚)とよばれるとのこと。
●ピラニア:体長30cmくらいで体は太い。口はやや上向きで歯が鋭い。
●オニカマス:体長1m以上もある大きな魚。口が尖っていて歯も鋭い。食用になるが、肉に毒があることもあるとか。
●アカヤガラ:1m以上はある細長い魚。とくに目から口の先までがとても長く伸びている(40cm近くもあった)。とても美味しい魚だとか。アカヤガラはやや深みの岩礁やその周辺の砂底に生息しているのにたいし、近縁のアオヤガラは浅めの所に生息する。
●エラブウミヘビとホタテウミヘビ:ウミヘビと呼ばれているものには爬虫類と魚類があり、エラブウミヘビは爬虫類(コブラ科)、ホタテウミヘビは魚類(ウナギ目)。どちらも直径3〜4cmくらいのうねうねと湾曲した筒状で、エラブウミヘビハ長さ1m以上もあり、ホタテウミヘビも1m近くある。表面もどちらもつるつるしているが、ホタテウミヘビは背から尾にかけて高さ1cmほどの鰭がずうっと続いている。ホタテウミヘビは、昼間は砂中に体を入れていて顔だけ出しているらしい。私は確認できなかったが、ホタテウミヘビの胸鰭がホタテガイの形に似ていることからこの名になったとか。
●ベッコウガメ(タイマイ):長さ1m近く、幅50cm以上もある大きな亀。甲羅はつるつるしていてとてもきれい。小さめのとがった頭部がまっすぐ斜め上を向き、4肢が鰭のように対称的に広がっていて、全体の形もとても整っている。甲羅の模様は、以前鳥取県立博物館で触った小さなタイマイとはまったく違っていた。中央に、大きな6角形の下の1辺が四角く張り出したような形の物が4、5枚縦に続き、その両側に、大きな5角形?のような形が並んでいる。これは十分に成長した時の姿だと思う。
 
 その他、キンメダイ、ツチホゼリ(口が斜上を向いている)、ハナブサギンポ(目が上を向いている)、オニオコゼ(口も目も上を向いている)、オニダルマオコゼ(横に太く広がっている)、イトヒキアジ(鰭の先が糸のように細長く伸びくるうっとカーブしている)、ヒラメやカレイ(これらは回りの砂の色に合せて10分くらいで体色を変化させる)、ウケグチウグイ(下顎が上顎より突き出て受け口になっている)などに触れました。
 海の文化館には貝類の標本も多数あるようですが、すべてケースの中で触れられませんでした。(ただ1つサルボウガイ(ぷくうっと膨らんだ感じの二枚貝)が展示台にあって、これにはちょっと触れました。)
 
◆漁具類
 1階では、磯見漁に使われるいろいろな道具に触れました。まず、船の上から海中を覗くための箱目鏡。底面の1辺が30cmくらい、上面の1辺が20cm弱の、ちょうど正四角錐台の形です。底面はガラス面で、上面は空いていて真ん中辺りに布製の紐のようなのが張ってあります。その紐には所々窪みがあって、それは、漁師さんが箱眼鏡で覗く時にぎゅっと紐を歯で噛み締めた跡だとのことです。獲物を採る道具としては、ワカメ鎌(先がゆるやかに湾曲した細い鎌)、ひらやす(先に3本の長い釘のようなのが並んでいる)、アワビ掛け(先がかぎ型になっている)、サザエ突き(先に四方に分かれた鉄の棒が付いていて、摘めるようになっている)、銛(先は鏃のようになっていて、抜けにくくするためでしょうか、カエシのようなのも付いている)がありました。銛の長さは1m余でしたが、その他の道具はどれも4〜5mほどもあるようです。片手で櫓を操りながら、箱眼鏡で海中を覗いてはもう片方の手でこれらの道具を使って漁をするようです。
 もうひとつ、ベニズワイガニのカニ籠にも触れました。(地元では香住漁港で水揚げされたベニズワイガニを「香住ガニ」としてブランド化しており、すでに香住ガニ漁は解禁されていて、あちこちに香住ガニ料理の案内がありました。)カニ籠は、底面の直径が1mくらい、上面の直径が60cmくらい、高さ40cmくらいの円錐台の形で、上面中央に直径30cmほどの穴が開いていて、その他は1辺が10cm弱の菱形の網目になっています。中にカニの餌となる魚を入れておき800〜1000mの海底に沈めるそうです。上面の穴から入ったカニは出られなくなりますが、幼カニなど小さなものは網目から自由に出て行くことができて、資源保護に良い漁法のようです。ちなみに、マツバガニ(ズワイガニの雄)のほうは、底曳網で漁獲するため、小さいのも根こそぎ獲ってしまうことになります。
 
◆山陰ジオパーク関連の展示
 香美町は山陰ジオパークのだいたい中央に位置し、文化館の1階にも関連の展示がいろいろあるようです。私は、縺痕化石、植物の葉や貝の化石、シカの足跡化石のレプリカに触りました。縺痕化石は20×30cmくらいの平たい石の上面にゆるやかな凹凸があるものでした。これは波の痕というより、2000万年くらい前の浅い湖の底の水流の痕だとのことです(まだそのころは日本海は出来ていなかった)。植物の葉や貝の化石は、泥岩の上に触ってもかなりはっきり分かる物でした。シカの足跡化石のレプリカは、横1.5m×縦1mくらいの板状の面で、その上には波のような文様があり、30〜40cm間隔でシカの足跡が4個並んでいました。
 
 今回は海の文化館見学が目的でしたが、香住駅から海の文化館までの行き帰りの道もなかなか楽しいものでした。難しいことですが、博物館の中だけではなく、実際に野外で完全なものではなくても本物の石や地層や植物などに触れ、体感できればなお自然を楽しみ深く知ることができるような気がします。野外観察や体感となると、見えない人1人では無理で、どうしてもガイドの方、それもある程度自然に詳しい方が一緒にいることが不可欠です。最近はあちこちの地区で観光ガイドが始められていますが、見えない人たちも参加できるような、野外の自然を観察し体感するようなガイドツアーがあればと思います。
 
(2012年10月2日)