宇治観光――宇治観光ボランティアガイドクラブの取組み――

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 7月6日、ある研究会のイベントで宇治観光をしました。宇治と言えば平等院などこれまでも行きたいと思っていた所なので、楽しみにして参加しました。
 JR京都駅でみやこ路快速(奈良線)に乗り換え、11時前に宇治駅に到着。参加者は30名余、2班に別れ、宇治観光ボランティアガイドクラブの皆さんの案内で出発です。
 宇治観光ボランティアガイドクラブは、発足からまもなく20年にもなるということです。一般の人たちの観光だけでなく、平成18年ころから福祉部会を作り、車椅子使用者や白杖使用者等障害のある人たちが快適に宇治を楽しむことができるよう、いろいろな活動をしているとのことです。
 車椅子使用者など身体に障害のある人やその介助者の手引となるように、また案内するボランティアガイドの手引きとして、さらに今後のバリアフリーのための問題提起として、宇治の観光社寺・施設などでどのような設備や配慮がなされているかを調べて、「宇治観光福祉マップ」を作成し、宇治市のホームページでも公開しています(宇治観光福祉マップ)。
 このマップは、実際にクラブの会員の皆さんが車椅子を使って確認しながら作成したということで、具体的で分かりやすくなっています。また、視覚障害者のためには、実物を触れられなかったり大き過ぎて全体を確かめられないものについて、立体コピーや立体模型を作っています。上記の福祉マップによれば、
立体コピーとしては、
 ・平等院…鳳凰 梵鐘 雲中供養菩薩(数点) 阿弥陀如来 十円硬貨など
 ・萬福寺…総門 摩伽羅(マカラ) 開梛(カイパン)布袋像 卍などの勾欄
 ・宇治上神社… 拝殿 本殿 蟇股など
立体模型としては、
 ・鳳凰堂 ・鳳凰
 ・宇治上神社(拝殿、本殿、覆屋)
 ・萬福寺
などが用意されています。
 また、宇治を体感・体験してもらうプログラムとしてお茶コース(茶室で抹茶と季節のお菓子を楽しむなど)、坐禅コース、源氏物語コース(学芸員による講演と「総角(あげまき)結び」を体験)などが用意されています。視覚障害者は仏像の前でその印を模倣したり、総角の結び方を体験したり(総角の結び方は、実際にしてみると、なかなか難しかったです)、宇治川の流れの音を聴いたり実際に流れに触れたり、橋の擬宝珠や源氏物語などの場面を表した像などに触れたりできます。
 観光ガイドは、団体だけでなく個人でもしてもらえるとのことで、これは私のようにふだん1人で行動している者にとってはとても良いサービスだと思います(ガイド料は無料。交通費としてガイド1名につき1000円を負担)。また違う季節の時に、ぜひ宇治に行こうと思っています。
 
 さて、本題の宇治観光ですが、宇治駅前から、宇治橋通り商店街 → 夢浮橋ひろば・宇治橋 → 平等院表参道 → 平等院 → 鮎宗で昼食 → 宇治市営「対鳳庵」で茶室体験 → 喜撰橋 → 中の島・十三重の塔 → 朝霧橋 → 宇治上神社 → 源氏物語ミュージアム → 宇治橋、そしてJR宇治駅に戻ってくるというコースでした。でも、こんな風にスポットだけを書いてみても、地図もありませんし、私の頭の中では位置関係はほとんど分かっていません。また、いろいろ体験・体感したことは印象にけっこう残っていますが、それがどの地点でのことだったのかよく覚えていないこともあります。というわけで、以下の文章中では場所については一部不正確なことがあるはずですが、そのへんはご容赦ください。
 暑い陽射しのなか、まず宇治橋通り商店街を、回りの壁や門などに触れたり、旧道の話を聞いたりしながらそぞろ歩きしてしばらく進んで行ったら、山田園本店で冷たいグリーンティーを頂くことができました。甘味もあり、ちょっとばて気味の身体にはとても美味かったです。店の中では、丸い粒状のてん茶に触り、それを石臼で挽いている様子を見学しました(私は手に取ったてん茶をちょっと噛んでみましたが、けっこう美味しかったです)。
 平等院表参道に入ると、とても良いお茶の香り、その香りを深く吸い込んで、身体全体に行き渡らせようとしてみました。この通りは、室町時代から続く宇治茶の老舗が並んでいて、環境省のかおり風景100選にも認定されているそうです。
 そしてようやく平等院です。表門から入って間もなく阿字池という変った形(といっても私はよく分からなかったのですが)の池があります。池の東側はこの世で、そこから池向こうの西側(極楽浄土)をのぞむと、鳳凰堂の中堂の小さな円窓を通して中にある本尊・阿弥陀如来像の面相を拝することができるようになっているそうです。
 この池の近くで、ハスの花に触ることができました。実はこのハスの花が、今回の宇治観光で私にとっては一番印象に残るものとなりました。開きかけのものから開いてしまって花びらや雄しべが落ちてしまっているものまでいくつか触りましたが、一番よく観察できたのはわずかに開きかけたものです。花は全体としては直径10cm余くらいの球形に近い形で、大きな花びらが、たぶん十数枚、少しずつずれて重なるようになっていて、二重・三重の球のようになっています。その内側と外側に指をかるく当てて二重・三重になっている花弁をちょっとすり合わせるようにしてみると、とてもつるつるした感じできれいです。内側の空洞には立派な雌しべがしっかりと立っています。根元のほうは太さ1cmくらいですが、上に行くほどすうっと広がっていて、上面は直径3cmくらいの台のようになっています。その台の上には5mm弱くらいのつぶつぶが十数個二重にリング状に並んでいて、けっこうべたついています。高さ7、8cmあるこの雌しべの外側には、長さ4、5cmくらいの、細くか弱そうな雄しべが何十本(もしかすると百本くらい)も取り巻いています。まるで雌しべを心柱とするような世界みたいで、雌の迫力・美しさのようなのを感じてしまいました。なお、ハスについてインターネットで調べてみると、以前はスイレン科に分類されていましたが(私もそう思っていました)、遺伝子の塩基配列による被子植物全体の系統解析の結果、スイレン科やモクレン科との直接の類縁関係はないそうです。
 池の近くではフジやモミジにも触りました。モミジの枝を触って幹までたどって行き、モミジの幹に身体をくっつけてちょっといやしも体感しました。私はやはり、草木や石や土や水など、自然が好きなようです。
 すっかり横道に入り込んでしまったようですが、全体に観光ガイドの進行はゆったりしていて、そんなにせかされることもなく、こんな自然の体感もできました。
 鳳凰堂(阿弥陀堂)は現在修復中ということで見学できませんでしたが、宇治観光ボランティアガイドの人たちが作った鳳凰堂の模型を触りました。東向きで、横幅30cm余(実際の横幅は40m余だそうです)、奥行き15cmくらい、高さ10cmくらいです。中央に中堂(入母屋造?)、その後ろ(西)に尾廊、中堂の左右(南北)に翼廊が伸び、その両端には前(東)に向って小さな建物(御堂?)が突き出しています。そして中堂の屋根の両側(南北)には鳳凰が立っているそうです(この鳳凰の立体コピー図版も用意されていました)。当初は、両翼の端あたりまで池が入り込んでいたらしいです。鳳凰堂が池に浮んでいるように見えたのでしょう。
 また、六角堂という小さな東屋のような建物で、鳳凰堂に使われていたという材木(欅4本と檜2本)に触りました。六角堂は、昭和25年から始まった鳳凰堂の解体修理で出た部材の中でまだ使えるものを集めて造ったということで、私たちが触った欅や檜はたぶん千年くらいも経たものだということになります。直径30cm弱くらいの太くて丸い柱が2m弱おきくらいに立ち並んでいます。表面の手触りは、欅がざらざらして細かい割れ目のようなのが多く感じられたのにたいして、檜は滑かで心地よいです。柱の下や上には、横木などがはめ込まれていたであろう大きな四角張った穴が貫通しています。
 それから、鳳凰堂の中にある国宝級の名品が多数展示されているという「平等院ミュージアム鳳翔館」に入りました。梵鐘、鳳凰2点、多数の雲中供養菩薩像たち(全52体のうち26体が展示されているそうです)など多くの展示品が間近に見られるようです。それらにはもちろん触れられませんが、幸い修復中ということで、解体中の一部の部材などに触れることができました。
 まず触ったのが、幅30cm余、長さ80cmくらい、厚さ5cmくらいの板です。平安時代のヒノキ材で、天井に使われていたものだそうです。多数細い溝のようなのが走っていて、ちょっと湿り気があるようで、なんとも古そうです。江戸時代のものだという、30cmくらいの大きさの鬼瓦もありました。ほんの少しですが、牙?の先端が欠けていました。屋根の下の軒の端に付けるという、唐草模様のようなのが切り込まれた直径5cm余の薄い金具もありました。そして最後に触ったのが、実物の3分の1くらいの大きさの鳳凰の模型。高さは30cmくらい、頭は鶏風ですが、くちばしは猛禽のように鉤型になっています。両側に大きな翼があり、また背から尾にかけて、長く弧状に翼のようなのが連なっています。
 
 平等院見学後、ようやく鮎宗(あいそ)で昼食、宇治茶そばと鰻の飯蒸し(いいむし)です。おそばは、冷たくてとてもいい味でした(鰻は私は嫌いなので、残念ながら飯蒸しは他の人に回しました)。その後は、宇治市営「対鳳庵」でゆっくりと抹茶と季節のお菓子を頂きました(山荘流」とか言っていましたが、よくは分かりません)。とても落ち着いた場所で、丁寧に茶器や茶釜などにも触れました。茶器はやや平たくて、手前の外側の面と、その真向かいよりやや左にずれた内側の面に、五つ星のような同じような模様が浮きだしていました。
 それから、宇治川の橋を渡り、十三重の石塔の下のほうに触れたり(各壇は1mくらいで、全体では15mくらいもある大きな塔のようです)、鵜飼の鵜の声を聞いたりしました。鵜飼に使用される鵜は、そのへんにいる川鵜ではなく、茨城県日立市の鵜の岬で捕獲された海鵜で、全国十数箇所で行われている鵜飼の鵜はすべて鵜の岬の捕獲場で捕えられた鵜だそうです。なお、宇治川の鵜飼の鵜匠は2人いるそうですが、2人とも女性で、全国的にも珍しいとのことです。
 また、寄り添った男女の像と、レリーフに触れました。これは「宇治十帖モニュメント」だとか。男女の像は、匂宮が浮舟を抱いて小舟で漕ぎ出す場面をモチーフにしたもので、とてもかわいい感じです。レリーフは、たぶん屏風絵のようなものなのでしょうか、冠を付けた男の人(薫君)が御簾ごしに女性たちを覗き込んでいる場面を表したものです(とくに御簾を示す縦線が触って好ましかったです。)。
 そして、宇治川の小さな船着場のような所まで降りて行って川面を杖で触ってみたりなどしながら、ようやく宇治上神社に到着。宇治上神社でも拝殿は改修中ということでしたが、まず本殿と拝殿の精巧な立体模型を触らせてもらいました。本殿のほうがやや小さめでしたが、印象に残ったのはその屋根の形です。横から触ってみると、屋根の形は左右対称ではなくて片側にだけにゆるやかに長く伸びていてとてもきれいです(「流造」あるいは「片流」と言って、神社建築ではしばしば見られるようです)。また、立体模型で、蟇股(かえるまた)という、屋根の下の支えともなる部分で細かい飾り模様なのがあるものも教えてもらいました。本殿の中には、左殿、中殿、右殿という3つの内殿があって、本殿はそれら3つの小さな神社の覆屋(左右の側面と屋根は共通)になっていて、格子ごしにそれらの社が見えるそうです。本殿は、年輪年代測定によれば、1060年ころに造られたとても古い神社建築だとのことです。
 拝殿は鎌倉時代初期(13世紀初め)に建てられたもので、神社建築としてよりも、当時の貴族や武士の住居に見られた寝殿造の様式を残すものとして価値があるとのことでした(外側から触っただけではあまり特徴は分かりませんでしたが、切妻屋根の回りに縋破風(すがるはふ)というふわあーっとした感じの屋根が伸び、また回りには回廊ののようなのがめぐらされ、正面には階段があって中に通じていました)。なお、本殿も拝殿も桧皮葺で、そのごく小さな実物にも触りました。
 
 その後、予定より1時間以上遅れてようやく源氏物語ミュージアムへ。ここでは、源氏物語を解説した映像を見ることになっていましたが(この映像は見えない人たちにも好評だそうです)が、時間がなくて取り止め、六条院の模型を説明してもらったり(春・夏・秋・冬と季節によって住む場所を替えていたとか)、上に水平に開いた格子戸のようなものから垂れ下がっている総角に触ったり、手袋を着けて平安時代の牛車に触ったりしました。牛車の車輪がとても大きいことにびっくり、直径2m近くもあり、金属製かもしれませんが、表面に漆を塗っているためでしょう、触ってとてもきれいでした。また、牛車に乗っている、姫君の衣装や顔などにも触れることができました。
 これで一連の観光を終えて、宇治駅に向いましたが、途中、橋(何という橋だったかはよく分かりません)を渡ったへんで紫式部像があり、それにも触りました。十二単を着た女性(顔の掘りがとてもくっきりしていてきれいに感じた)が両手に巻物を持っていて、広がった巻物が少し垂れていました。(同じような式部像は石山寺でも触ったことがあります。)
 
 私はこれまでいわゆる〈観光〉にはあまり積極的ではありませんでしたが、今回の宇治観光では、ただあちこちの名所をめぐり歩くのではなく、自分たちのペースで時には寄り道もしながら回りの自然なども体感し、また各社寺などでもごく一部ですが実物に触れたり立体模型に触れたりして、それなりにその地の文化や歴史にもふれることができました。ただ、自分たちの歩いているコースや各スポットの配置などがあまり分からず残念でした。事前に簡単なルートマップのようなものに触れられたらと思いました。日本にもすでに何十箇所も世界遺産があります。それらの自然・文化遺産をできれば順に体感してみたいものです。そのためにも、宇治観光ボランティアガイドの方々がしている活動が全国にひろく知られ、さらにそのような取組みが全国に普及することを期待しています。
 
(2013年7月18日)