毎週日曜日朝(2019年4月からは土曜日朝)、NHKで5時半過ぎから「いきもの☆いろいろ」が放送されています。いろいろな植物、魚、昆虫、鳥などについて、各専門家の方とアナウンサーが対話形式で解説します。とくに、写真やときには実物資料を持ち込んで、それらを見たり触ったりしながら解説してくれるので、リアル感もあります。(魚類など水生生物は東海大学海洋学部 客員教授・西 源二郎、鳥類はバードカービング作家・鈴木 勉、昆虫は昆虫写真家・海野 和男、その他動植物は千葉県立中央博物館・尾崎 煙雄)
だんだんとあちこちに出かけて植物などに触れる機会が減ってきたので、私にとっては居ながらにして楽しめるよい番組です。しばらく前からメモを取りまとめるようになりましたので、それを適宜アップして行きます。
●9月23日(日)「北海道の湿原に棲む鳥〜タンチョウ〜」
タンチョウ(Grus japonensis; red-crowned crane)は、全長150cm以上になるものもあり、翼を広げると2mにもなる。
タンチョウは、アイヌでは「サロルンカムイ」ないし「サルルンカムイ」(湿原の神)、日本語の丹頂は、頂が赤いという意味(牡丹の丹で、丹は赤・紅の意)。赤い部分は、羽がなくて皮膚が裸出している所で、その面積は興奮状態になると広がる。
タンチョウは今は道東にだけ分布するが、以前には本州にまで広く見られ、神話や家紋などに取り入れられ、また将軍が丹頂狩りをしたという話もある。
タンチョウの鳴き交わし:「クーカ」ないし「クーカッカ」と聞える。「クー」は雄、「カ」「カッカ」は雌の声で、ペアで聞える。(姿で雄と雌を区別するのはなかなか難しい。雄がわずかに大きい。)
急減し一時は絶滅したかと思われたが、1924年に釧路湿原で十数羽が再発見され保護が始まった。しかし当初はなかなか増えなかった。1952年の冬からは給餌が始められ、次第に増えて今は2千羽くらいになっている。冬は給餌場に集まっているが、夏はペアごとに湿原のあちこちに散って家族ごとに生活している。
●10月7日(日)「サメ類の繁殖」
サメの雄は、腹鰭の先が変化して交尾器(左右1対)になっており、体内受精する。
受精後は、卵生のものと胎生のものがある。卵生が4割、胎生が6割。
胎生はさらに、卵黄依存型と母体依存型に別れる。卵黄依存型は、自分の卵黄だけで体内で成長する。
母体依存型は、卵黄のほかに母体からなんらかのかたちで栄養をもらうもので、次の3つに別れる。子宮の中で卵黄で育ってある程度大きくなった後、母親の子宮内で出来てくる無精卵を栄養にする卵食タイプ、子宮中に出てくる特殊な栄養のある液を特殊な構造の皮膚や口で摂取する子宮ミルクタイプ、卵黄を栄養にした後卵を包んでいる膜が胎盤に変わり、その胎盤を通して母体から栄養をもらう胎盤タイプ。
ナヌカザメの卵とネコザメの卵。ナヌカザメの卵は、長さ10cm、幅3cmくらいの細長い財布型で、両端に螺旋状の紐のようなのがある。全体に白っぽくて中が透けて見え、中にいくつもの金色の卵が見える(外側は卵殻)。紐を昆布などに巻き付けて岩などの突起物にくっついている。財布の中に金貨があるように見えるので、「人魚の財布」と呼ばれる。ネコザメの卵は、昆布のような黒色で、長さ20cm弱、太い所で10cmくらいの大きなねじないしドリル型。これ1個で1つの卵で、孵化するまで半年から1年かかるので、大きな石の間などにねじを入れるようにして安定させている。卵の形としては、ナヌカザメのような財布型が多い。
*『ほぼ命がけサメ図鑑』(沼口 麻子 著、2018年5月、講談社)を読みました。22種のサメについてのデータがあり、その内繁殖方法が不明なツラナガコビトザメ(ツノザメ目 ヨロイザメ科)とミッシェルエポレットシャーク(テンジクザメ目 テンジクザメ科)を除いた20種について以下に紹介します。
ホホジロザメ(ネズミザメ目 ネズミザメ科):胎生(母体依存型・卵食)。1度に2〜10尾を出産。
カグラザメ(カグラザメ目 カグラザメ科):胎生(卵黄依存型)。サメの中では多産で、雌の体内に最大108尾の胎子が確認された例がある。
サガミザメ(ツノザメ目 アイザメ科):胎生(卵黄依存型)。 1度に12尾を産んだ例がある。
ミツクリザメ(ネズミザメ目 ミツクリザメ科):胎生(母体依存型・卵食)と考えられているが、詳細は不明。
ラブカ(カグラザメ目 ラブカ科):胎生(卵黄依存型)。 1度に2〜12尾を出産。妊娠期間が非常に長く、3年半と言われている。
メガマウスザメ(ネズミザメ目 メガマウスザメ科):胎生(母体依存型・卵食)と考えられているが、詳細は不明。
ネコザメ(ネコザメ目 ネコザメ科):卵生。
カスザメ(カスザメ目 カスザメ科):胎生(卵黄依存型)
オオセ(テンジクザメ目 オオセ科):胎生(卵黄依存型)。 1度に20尾ほどを出産。
シロワニ(ネズミザメ目 オオワニザメ科)。胎生(母体依存型・卵食)。体内の子ザメは卵を食べるだけでなく子宮内で共食いをし、その結果、2つある子宮の中でそれぞれ生き残った1尾ずつが生まれる。
ハチワレ(ネズミザメ目 オナガザメ科):胎生(母体依存型・卵食)。 1度に2〜4尾の子ザメを産む。
ジンベエザメ(テンジクザメ目 ジンベエザメ科):胎生(卵黄依存型)。体内から 1度に300尾もの胎子が発見されたことがあり、多産なサメとして知られる。
ダルマザメ(ツノザメ目 ヨロイザメ科):胎生(卵黄依存型)。 1度に6〜9尾を出産。
ウバザメ(ネズミザメ目 ウバザメ科):胎生(母体依存型・卵食)。 1度に6尾ほどを産む。
アブラツノザメ(ツノザメ目 ツノザメ科):胎生(卵黄依存型)。1度に 2〜12尾を出産。
ネズミザメ(ネズミザメ目 ネズミザメ科):胎生(母体依存型・卵食)。 1度に 2〜5尾を産む。
ホコサキ(メジロザメ目 メジロザメ科):胎生(母体依存型・胎盤)。 2年に1度、1〜2尾を産む。
ヨシキリザメ(メジロザメ目 メジロザメ科):胎生(母体依存型・胎盤)。ふつうは15〜30尾を産む。最大135尾の胎子を妊娠していた個体の記録がある。サメの中でも交尾がとくに激しいことで知られ、成熟した雌には体に雄に噛まれた歯形が付いていることが多い。
アカシュモクザメ(メジロザメ目 シュモクザメ科):胎生(母体依存型・胎盤)。 13〜32尾を産む。
ドチザメ(メジロザメ目 ドチザメ科):胎生(卵黄依存型)。 10〜24尾を産む。
上のリストには、子宮ミルクタイプはありませんが、卵食タイプのホホジロザメは卵食を始める前に栄養源として子宮内ミルクを利用しているそうです。またイタチザメ(メジロザメ目 メジロザメ科)は卵黄依存型ですが、卵黄ばかりでなく子宮ミルクからも栄養を得ているそうです。
*シュモクザメやトラフザメでは、単為生殖(雄がいなくても雌だけで子供を産む)が行われることがある。
●10月14日(日)「ヤマブドウ」
世界で一番生産量の多い果物はブドウ。食べるとともに、ワインの原料ともなる。果物として栽培される品種の多くは、ヨーロッパ原産のヨーロッパブドウがもとになっている。
日本にはもともとはヨーロッパブドウはなく、日本の野生のブドウの代表はヤマブドウ。ヤマブドウは、北海道から本州、四国にかけて、やや寒い所(東京付近では千メートル以上の山地)に成育する。つる性の植物で林道付近の陽当たりのよい森で樹木に巻き付いている。ヤマブドウの実はとてもおいしい。最近はヤマブドウの実を使ったワインも作られている。ヤマブドウには雄と雌があり、雌の株にしか実は付かない。
ヤマブドウは秋に赤くきれいに紅葉し、真っ赤なカーテンのように見える。葉は、付け根がハート型、先が少し3つに別れていて、5角形のような形。大きいものは直径30cmくらいのもある。枯れたヤマブドウの葉は、冬ごもりする生き物にとってよい住み家となっている。つるからぶら下がった枯れてしわしわになった葉や、地面に落ちて丸まった葉の中に、カミキリムシ、ゴミムシ、ハサミムシなどがよくいる。大きい葉がくるうっと丸まっていると、その中では雨風や寒さがしのぎやすい。くるうっと丸まった葉の中からコウモリが出てきたこともある。
ヤマブドウの見られない低地にはエビヅルというブドウが分布する。葉や実はヤマブドウよりも小さいが、実はおいしい。古い日本語ではブドウのことをエビと言ったようで、ヤマブドウの別名にエビカズラがある。
さらに野山のどこにでも見られるものに、ノブドウがある。ヤマブドウとエビヅルはブドウ族だが、ノブドウはノブドウ族。
ブドウ族の実は1本の軸から房状に多数付いているのにたいし、ノブドウ族の実は1個ずつ花火のように全体に広がって付き、房状になっていない。ヤマブドウとエビヅルの実は熟すと黒っぽくなるが、ノブドウの実は紫ないし青緑で、宝石のようにきれいなのもある。でも、食べるとまったくおいしくないし、実の中には昆虫が寄生していることが多い。
●10月21日(日)「ケラ」
体長4cmくらい。胴体が太く、とくに胸が大きい。前足が大きくてシャベルのようになっており、モグラと同じように前足で土を彫りトンネルをつくる。体表には産毛のような細かい毛があって触りごこちがよい。
湿った地が好きで、田んぼの近くにもいる。彫った穴に水が入ってくると外に出て、大きな前足を使って泳ぐ。また親になると飛んで移動もする(明りにも集まる)。コウロギに近い仲間で、雄・雌ともにジーと鳴く。地中、水中、空のどこでも活動できる。
●10月28日(日)「秋に渡ってくる鳥〜ガンの仲間〜」
ガンはカモの仲間で、シベリアから越冬するために日本に来る。
ガンの大きさは、カモより大きく、ハクチョウより小さい。
日本にやって来るガンの種類としては、マガン、カリガネ、ヒシクイ。マガンは数が一番多く、額は白くて英名はwhite-fronted gooseカリガネ(雁が音)は、マガンより一回り小さいく、形はよく似ている(英名は、lesser white-fronted goose)が、目の回りに黄色いリングがあるのが特徴。ヒシクイ(菱喰)の「ヒシ」は、水辺の植物のヒシで、名前はその実を食べることからつけられたマガンよりも大きい。。
宮城県伊豆沼でマガンの何万という大群が飛立つ時の鳴き声。
雁にまつわる言葉として、「雁行」がある。雁の飛び方を表していて、渡りの時、高い空をV字型の編隊を組んで飛ぶ。ガンのような翼の先が少しとがった長距離を飛ぶのに適した鳥は、羽ばたくと翼の先端から上向きの渦ができ、それを利用して後ろの鳥がくっついて飛び、さらに順に後ろの鳥が連なって、自然にV字型の編隊になる。V字の先端から両側に、順々に上向の気流が後に続く鳥を助けている。先頭の鳥は疲れてくるので、順に入れ替わって飛んでいる。
地上に降りてくる時の様子を表したのが「落雁」。ふつう鳥は、降りる時は、徐徐に高度を下げて斜めに降りてくるが、ガンは、空から枯葉がひらひらと落ちてくるように舞い降りてくる。垂直に近く急降下するように。この姿を表わしたのが「落雁」。ガンは植物食で、草や田んぼの落穂などを食べている。
ガンの数は、一時は5千羽くらいまで減ったが、最近急増し、2010年は10万羽くらい。温暖化のために、シベリアの繁殖地が子育てしやすくなり、日本には遅く来て早く去る(越冬期間が短い)ようになっているようだ。
●11月4日(日)「ウニ」
ウニは、波打ち際から深海まで、世界中の海に約900種がいる。日本人はむかしからウニを食べていて、縄文時代の遺跡からもウニの殻が出てくる。私たちが食べているのはウニの生殖巣(卵巣と精巣)。世界のウニの消費量の約80%が日本で、大部分を日本人が食べている。
ウニの生態:ウニのとげは、身を守るとともに、上から落ちてきた物のクッションになったり、海底を移動する時に使われることもある。ただ、とげだけでは海底に十分に固定できず、とげの間には髪の毛くらい細い管足がある。管足の先端には吸盤のようなのがあって、それで岩などにくっついている。
とげを取ってしまったウニの殻の観察:カボチャのミニみたい。表面に凸凹があり、いぼのような所がとげの部分で、その間に小さな穴(管足?)があり、その凸凹が殻の中央から5つの方向に放射状に規則的に並んでいる。これは、ウニとヒトデなどが同じ仲間であることの証拠になる。ウニ、ヒトデ、ナマコは、棘皮動物という同じ仲間で、見た目はかなり違うが、5つの方向に放射状の構造になっている。ウニの殻の上面の中心に小さな穴があり、それは水を出し入れして呼吸する項であるとともに肛門にもなっている。殻をひっくり返して下面を見ると、中央に大きな穴があり、それが口。口には歯があって、その中はアリストテレスの提灯と呼ばれる(アリストテレスは動物もよく観察し、ウニの口器を観察してランタン、提灯)。アリストテレスの提灯の標本を観察:上は傘状になっていて、その先に小さな爪のようなのが5つ付いている(これが歯)。この5つの爪を中心に集めるようにして硬い物もかじる。ウニはふつうは植物食で海藻などを食べているが、お腹がすくと水槽のチューブやガラス面に入れているパテをかじったり、ときにはガラス面に傷を付けることもある。
タッチングプールではしばしばウニがいる。ムラサキウニなどはとげが太くて触っても痛くない。とげの間にそっと指を入れて殻に触れていると、ゆっくり指の回りのとげが動いて指を包み込むようにする。これを「ウニと握手する」と言っていて、ウニが生きていることを実感できる。
●11月11日(日)「マツの黄葉」
ヒメコマツの研究をしている。ヒメコマツは5本の葉が1組になっているゴヨウマツの仲間。ヒメコマツは庭木として植えられていることがあって、葉が急に黄色くなってしまったが、枯れるのでしょうか、という質問を受けることがある。これに対して、それは古い葉が落ちる前に黄葉しているだけで、心配することはありませんと応えている。
松と言えば、いつも緑という印象を持つ。緑の葉の中には、緑の色素である葉緑素、あるいはクロロフィルがある。また、緑の葉の中には黄色の色素としてカルテノイドもある。葉の寿命が近づく、枯れていくと、クロロフィルは分解するが、カロテノイドは分解が遅くて、そのため緑が抜けて黄色が残り、黄葉になる。さらに、カロテノイドも分解されると茶色の葉になる。
紅葉の仕組みはどうなのか?クロロフィルが分解する所までは黄葉の場合と一緒だが、その後真っ赤になるのは、アントシアニンという赤の色素が新しくできるから。
松のような常緑樹でも、1枚1枚の葉には寿命がある。環境条件によっても違うが、アカマツの葉は2年未満、クロマツやヒメコマツはやや長くて2〜3年。松の木は毎年春に新芽が出る(枝先に芽があって、これが伸びて、新しい幹や枝になる)。伸びた新しい枝先には螺旋状に新しい葉が出る。これが1年生の葉。翌年にも新しい葉が出、前年の葉は2年生になる。さらに翌年も新しい葉が出て、3年生、2年生、1年生の葉が付いていて、その中で2年生や3年生の葉が寿命を迎えて黄葉する。モミジなどは木全体が紅葉するが、松などは一部の葉だけが黄葉している。枝先は1年生の葉は青々していて、下のほうの2年生や3年生の葉が黄色くなる。
松以外の針葉樹も黄葉する。杉の葉の寿命は3〜4年、ヒノキの葉の寿命は4〜6年。枝の下、密生した葉の奥をよく見ると、例えば4年生の黄葉した葉が見られる。さらにモミの木は7年、ハイマツは10年と葉の寿命が長く、葉のごく一部だけが黄葉するだけなので、黄葉に気が付くことはほとんどない。
松の木の葉の全部が急に茶色になるのは、マツガレ病、正式にはマツザイセンチュウ病。マツノザイセンチュウという1mm以下の虫が松の木の中に入ってその材の中で増殖して枯らしてしまうという病気。マツノザイセンチュウは北米原産で、20世紀後半に日本に来て、各地の松林を枯らしている。マツノザイセンチュウの運び役をするのがマツノマダラカミキリなどのカミキリムシ。[松枯れ病は単純に松食虫?かと思っていましたが、現在日本各地で問題になっている松の枯死は、カミキリムシに寄生するマツノザイセンチュウが原因なのですね。]
●11月18日(日)「フンコロガシ」
フンコロガシは、日本にはいない。自分よりも大きいまん丸の糞の玉を後ろ向きになって逆立ちするようにして後ろ脚で転がしていく姿が有名。ファーブルが『昆虫記』の中で研究したスカラベ・サクレ(タマオシコガネやフンコロガシという和名が充てられて紹介され、有名になったが、その後にサクレはファーブルの誤同定であったことが判明し、和名もヒジリタマオシコガネへ改められている)は、体長2cm余。エジプトから地中海岸を中心に、朝鮮半島まで生息している。遊牧民と一緒になって広がったのではないか。フランスで何度も観察したが、新鮮な羊の糞を丸めて置いておくと、どこからかフンコロガシが飛んでくる(飛んで来なければ、そこにはフンコロガシはいないということ)。そしてそこでは糞を食べずに、糞を頭で丸く切り取り(頭は切るのに適したぎざぎざのあるスコップのような形をしている)、前脚でさらに形を整え、その糞球を長くカーブした後脚で押え、前脚で突っ張るようにして逆立ちの姿勢で前脚を後ろ向きに交互に動かして後ろ向きに運んで行って地中に穴を掘って埋めてから食べる。糞を転がす前足は大きく、のこぎりの歯のようなぎざぎざがある。
子どもを育てる時は、地中に穴を掘って特別に質の良い糞球を作る。繊維質の少ない糞を選び、それでも繊維が入っている時はそれを除いてきれいな糞球にし、さらにそれをねかしておいて発酵させて臭いもしないきれいな糞球にする。そして、洋ナシとそっくりの形にして、その上の窪みに卵を産む。卵からかえると幼虫は糞球の中の糞を食べて育つ。1シーズンに数個のこども用の糞球を作り、卵も数個しか産まない。昆虫の中では産む卵の数がとても少なく、環境の変化に弱い。都市部ではまったく見られなくなったし、また羊の遊牧が減ったので激減している。糞虫はこのほかにもいろいろいて、本来は土の上の糞は糞虫が片づけてくれる(糞虫は糞の掃除屋さん)ので、コンクリートの道路は別として、ふつうの地の部分では糞をとくに片づけなくてよい。
*スカラベは、洋ナシ型の糞球の中で、幼虫から蛹、成虫になる。秋になって雨の時期になると地中の巣穴の中の糞球も湿ってきて、中の成虫はようやく球を破って外に出られる。古代エジプトでもスカラベはたくさんいて、スカラベが羽化してくる時期はナイル川の氾濫の時期に当たる。氾濫した水が回りの地面に染み込むと、地中の糞球の表面が湿ってやわらかくなり、新しいスカラベが地上に出てくる。これを見て、古代エジプト人は、一度土の中に入って死んだスカラベが生まれ変って再度出てくるのだと思い、「死と再生」のシンボル=ケプリ神(太陽神の一つで、顔がスカラベの形になっている。毎日太陽の球を東から西まで転がしていく神)の化身として信じた。
*フンコロガシは日本にはいないが、動物の糞を食べる糞虫は160種くらい知られている。その内60種近くが鹿が多く生息する奈良公園にいて、鹿の糞を掃除している。2018年7月、ならまち糞虫館開館。2019年1月26日午後に、奈良町糞虫館を見学。フンコロガシの糞球に触る。直径3cmくらい、時間が経っているので完全に乾燥していて、とても軽くにおいもまったくない。糞球は直径5cmくらいのものもあるとか。奈良公園にいる糞虫は数mmくらい(シカの糞のひとかけは1〜1.5グラムくらい)だが、世界には10cmくらいもある糞虫がいる(例えばゾウの糞のひとかけは1kgくらい)。
●11月25日(日)「里に降りてくる鳥 〜ビンズイとアオジ〜」 (省略)
●12月2日(日)「ヒトデ」
ヒトデは、世界では1500種くらい、日本では250種くらいいる。波打ち際だけでなく深海にも見られる。ウニ・ヒトデ・ナマコは、深海にもわりあい多く見られる。生命力が強く、1個体を2つや3つに切ってもそれぞれが1個体として再生する種類もいるようだ。
5本の腕を持っているのが基本型だが、中には8本の腕を持つヤツデヒトデ、20本くらいの腕を持つニチリンヒトデもいる。足は、腕の裏側にある細くて軟かい管足で、2列に並んでいる。管足の先には吸盤があって、歩いたり、岩にくっついたり、呼吸をしたり、においなどを感じる感覚器にもなっている。(管足は、ウニの管足と同じような役割をしている。)
口は、裏側(下側)の中央にある(ウニと同じ)。肛門は背中側(表=上側)にあって、下から食べて上から排泄する。ヒトデには、歯がない。肉食で、2枚貝や死んだ魚などを食べる。小さなものはそのまま口に入れて胃に送るが、大きなものは、胃を自分の体の外に出して、その胃で食べ物を包むようにして消化し摂取する。口より大きいものは、外に胃を出して身体の外で消化して食べる。
餌は、目で見ているのではなく、においなどで感じているだろう。それぞれの腕の先端に眼点という光を感じる所があって、明るさを感知して動いている。
ヒトデには前後左右はあるのだろうか?それはない。ウニやヒトデは、5放射相称になっている。哺乳類や昆虫など動いて餌を取る動物は、移動する進行方向が細くなっている(前後幅よりも左右幅が小さい)が、あまり動かずに餌を取っているイソギンチャクなどは(どの方向でもいいように)円い形をしている。移動しない植物もまるく広がっている(花も5弁のものが多い)。ヒトデやウニはあまり動かずに、いわば植物のような生き方をしている。ヒトデの星型の形は、その生活に適した形だと言える。
ヒトデは水族館では触れられる動物の代表。オニヒトデは別として、その他のヒトデは刺されたり噛まれたりすることはない。ヒトデをひっくり返すと、ゆっくり身体を反らしながら(ヒトデのイナバウアーと言うとか)、10分から十数分かけて元に戻る。
●12月9日(日)「センダン」
センダンは、高さ7、8メートルくらいの樹木で、やや暖かい海岸近くに育つ(関東では人里や公園などに植栽されている)。「栴檀は二葉より香し(かんばし)」ということわざがあるが、この栴檀はセンダンではなくビャクダン(白檀)のこと。白檀(サンダルウッド)はインド原産の香木。このことわざの意味は、白檀は二葉のころから良い香りを放つが、それと同じように、将来大物になる人は幼いころからその才能の片鱗を示すというたとえ。中国ではセンダンにもビャクダンにも栴檀という字が当てられていて、それが日本に入って来てビャクダンも栴檀と書かれたのだろう。
センダンは、センダン科の樹木で、ヒマラヤ、中国、朝鮮南部から日本という広い生息範囲を持つ。熱帯から亜熱帯にかけての樹木で、日本では南西諸島から九州、四国にかけて自生している。東海から伊豆半島、関東南部にかけても見られるが、どこまでが自生なのかはよく分からない。
センダンは落葉樹で、この時期は葉を落している。そして、葉を落したこの時期はセンダンがとくに目立つ。それは実で、1個の実は長さ1.5cmほどの俵型で、熟すと黄色っぽくなる。各実には数センチの柄が付いていて、それが数十個集まって枝に房状に付いていて、目立つ。雄雌あって、実がつくのは雌だけ。花は目立たないが、5月ころ咲く。外側が紫、内側が白の小さい花がたくさん咲くが、葉が茂っているので、あまり目立たない。
冬に実が目立つと、鳥たちの好物になって、ヒヨドリやムクドリなどが群になってセンダンの実を食べているのをよく見かける。
センダンの実は人にも役に立つ。むかしは、センダンの実を風呂に入れて入浴した(身体が暖まって風邪をひかない)。またセンダンにはいくつか薬効があるようで、実を揉んで中の果肉をしもやけに付けた。また、樹皮を煮てその液を飲むとお中の中の虫が下り、虫下し用に使われたりした。このように身近に役立ったりするので、千葉県でも植栽されたのではないか。
注意してほしいことは、センダンの実は鳥は好んで食べるが、人や家畜には毒なので食べてはいけない。
●12月16日(日)「マダガスカルの昆虫」
先月マダガスカルに行ってきた。マダガスカルは特殊な所で、その動植物の8割くらいはマダガスカルにしかいない。
マダガスカルは、赤道より南、アフリカの東のインド洋上の島国で、アフリカ大陸との距離は400kmしかない。それでもアフリカと一度もつながったことはなく、インドなどとのつながりも見られる。
とにかく独自の多彩な生物が多い。インドとつながっていたのは8800万年前までで、日本の1.5倍ほどもある大きな島が1億年も他の大陸とつながりがないというのは、珍しいことだ。
捕食者である肉食の動物は少なく、フォッサが最大。フォッサは外形がネコによく似た、マダガスカルマングース科の動物で、体長は70〜80cm、長も同じくらい長い。(トラやヒョウなどはおらず、あまりきびしい生存競争はなく、古いものが生き残ったのではないか。)
オナシアゲハという蝶を見たかった。オナシアゲハはアジア(とくに熱帯)に広く分布し、またアフリカにはアフリカオナシアゲハもいる。アゲハ蝶にはふつう翅に尾状突起があるが、オナシアゲハにはこの尾状突起がない。ところがマダガスカルには、尾状突起のあるオナシアゲハが3種もいる。
昆虫で生存競争がはげしくないことを示すような例はないのか?アフリカには広くオスジロアゲハがいる。名の通り、雄だけが白くて、雌は他のいろいろな毒蝶に擬態して鳥などに食べられないようにしている。ところがマダガスカルのオスジロアゲハは、雌も白くて技態していない。たぶん鳥などの捕食圧力が少なくて、技態せずもとのままなのではないだろうか。
また、マダガスカルにも、いろいろな植物を食べるゾウムシと呼ばれる各種の甲虫がいるが、コケの生えたゾウムシを見た。たぶん、1本の樹にじいっと長い間動かずにいるのでコケが生えたのではないか。
マダガスカルは、動物にとって安全なので、古い形質のままを留めていたり、のんびり生きているような気がする。日本からマダガスカルへは24時間くらいもかかるが、なぜここにこんな昆虫や動物がいるのか、むかしの地誌なども考えて観察するのにはとても良い場所だ。
●12月23日(日)「日本にいる小さな鳥たち」
世界で一番小さい鳥は、ハチドリの仲間のマメハチドリで、全長5cm、くちばしが長い鳥でそのくちばしお取って立った姿勢では3.5から4cm。
日本で一番小さい鳥は、全長(くちばしから尾までの長さ)10cmないし10.5cmの、ミソサザイ、キクイタダキ、ヤブサメ。
ミソサザイは、全体に赤茶けて黒い斑点があり、地味。住んでいる所は、深い山の沢や渓流で、大きな水音に負けないくらい甲高く透き通ったような響く声で鳴く(鳴き声が放送される。ミソサザイの聞きなしは「ピピスクスケスチルチルピョロピョロピリピリリリ・・ルリリル」)。ミソサザイはさえずる時に尾を上げて、かわいい。
アイヌでは、ミソサザイは勇敢な鳥として崇められていた。 熊があらわれた時、オオワシやタンチョウは尻込みしてしまったが、ミソサザイは勇敢にも熊の耳の中に飛び込んで行き、それを見たオオワシやタンチョウが加勢して熊を退治したという言い伝えがある。一寸法師の鬼退治みたい。
キクイタダキ(菊戴)の名は、頭の上の真ん中に黄色い菊の細長い花が乗っているように見えるところから。英名でも gold crest(黄金の冠)あるいは kinglet(小さな王様)、学名は Regulus regulus(little king の意)。ヨーロッパでは小さな鳥の王様と呼ばれていて、ルクセンブルクでは国鳥になっている。頭の上の黄色部が王冠のように見えるからだろう。
キクイタダキが住んでいるのは亜高山帯の針葉樹林で、ミソサザイも同じだが、渡りをするのではなく、標高の高い所から冬には低い所に移動する漂鳥。冬になると里でも見られるが、やはり針葉樹の林で見られることが多い。1円玉7枚=7グラムが、キクイタダキの重さ。
ヤブサメは、見た目はウグイスそっくり。尾が抜けたように短く(これで10.5cmにおさまっている)、全体にころんとした感じ。ヤブサメの声は、変った特徴がある。(ヤブサメの鳴き声)鳥の声とはぜんぜん違って、虫のよう。シ シ シ シ と、だいぶ周波数の高い声で鳴く(他の鳥と比べて2、3倍も高い8〜10kHzくらい)。
キクイタダキは標高の高い所で繁殖するのであまり見ることはないだろうが、ミソサザイやヤブサメは意外と近くで見られる。ミソサザイの大きな声、ヤブサメの虫のような声も聞いてほしい。
●12月30日(日)「コトヒキ」
コトヒキはスズキ目シマイサキ科に属する沿岸の魚、わりあい浅い所にいる魚。関東から南、西太平洋からインド洋まで広く分布。南の魚なので、中部日本では体長は20cmほどだが、沖縄などでは40〜50cmくらいのものも見られる。南のほうでは、刺身にしたり塩焼きにしたりして食べている。
この魚の一番の特徴は鳴くこと。(ここでその声が放送される。「ク グ グー グー ブウ ブウー」といったような声。)鳴く魚としてはホウボウもいる。ホウボウはうきぶくろに振動する筋肉があってそれで音を出しているが、コトヒキはうきぶくろの外に発音筋があってそれを振動させてうきぶくろで共鳴させて音を出している。これがコトヒキの名の由来になっていて、その鳴き声が琴の低音に似ているということらしい。
なぜ鳴くのか?たぶん繁殖期に雄と雌が伝えあったり、外敵を威嚇する時に鳴いているようだ。意識して鳴いているので、それなりの役割があるはず。詳しい研究はされていない。
この魚は肉食で、海底のゴカイなどや小魚やエビやカニなどを食べている。ちょっと変っているのは、他の魚の鱗を少しふくらんだ口でかじって食べる。鱗そのものには栄養はないが、それにくっついてくる表皮や肉片に栄養がある。
背の上に頭から尾にかけて、弓なりの線があるのが特徴。また、幼魚は汽水域(海水と淡水が混じり合っている区域)や淡水域にいる。10数センチに育つまでは、河口から川でも見られる。淡水のほうが大きな魚が少なくリスクが少ないのだろう。コトヒキだけでなくスズキやボラなども幼魚の時は淡水域にも入る。
●2019年1月6日(日)「ツバキ」
この時期に花をさかせる木、ツバキ。ツバキにはいろんな園芸品種があるが、野生のツバキについて話す。
野生のツバキは「ヤブツバキ」。ヤブツバキは、地域にもよるが、早い所では11月から咲き始め、遅い所では5月まで咲いている。開花時期が半年もあって長い。もちろん1つの花がずっと咲いているのではなく、次々と咲いては散りを繰り返しており、つぼみがたくさんある。
目立つ花を咲かせるのは、花粉をだれかに運んでもらいたいためで、多くは蝶や蜂など虫が運んでいる。ツバキは虫の少ない時期に咲いているが、ツバキは花粉を鳥に運んでもらっている。メジロなどの小鳥。
ツバキの花のつくりは、花粉を鳥が運びやすいようになっている。花びらは5枚あり、雌しべを取り込むようにたくさんの雄蕊があるが、たくさんの雄蕊は根元でくっついて筒形になっている(ちょうど茶筅のような形)。蜜は雌しべの根元付近にあり、鳥は筒形の雄しべの中に顔を入れて蜜を取らなければならず、顔は黄色の花粉だらけになる。そして花粉を付けたまま別の花に顔を入れるので、雄しべから雌しべへ、花から花へと花粉を運ぶことになる。
ヤブツバキは本州から南西諸島に分布し、北限は青森県の夏泊半島。
ツバキと言えばその葉がテカテカしているという印象を持つ方が多い。ツバキの葉はワックスを塗ったような光沢があり、それはクチクラ(cuticula, cuticle)層が発達して光沢がある。このような葉を持つものを照葉樹と言う。照葉樹には、ツバキのほかに、シイ、カシ、モチノキ、クスノキの仲間などがある。これらの照葉樹が多くふくまれる森林を照葉樹林と言い、かなり広く分布する。西はヒマラヤの中腹から中国南部、南は東南アジアの山地、さらに日本もふくめ東アジアの温帯に分布している。アジアの東の端、温暖で湿潤な地域に広く分布し、日本はその北限になっている。ヤブツバキは照葉樹林の中でも代表的な種で、しかも北限まで分布する種。
日本の日本海側は冬は豪雪で知られるが、そこにもヤブツバキの仲間のフユツバキが分布している。フユツバキにはいくつか特徴がある。1つは背丈が低いこと(せいぜい2mくらい)、たぶん背丈を低くして雪に埋もれることで寒さをしのいでいる。冬の間は雪に埋もれているので、花は4月になって咲く。フユツバキの花には鳥はあまり来なくて、おそらく花粉は虫が運んでいるだろう。ヤブツバキの雄しべは筒形になっていたが、フユツバキの雄しべは筒形になっておらず虫が入り込みやすくなっている。ツバキは暖かい照葉樹林の代表だが、日本のヤブツバキは日本の冬にも適応している。
● 1月13日(日)「モルフォチョウ」
モルフォチョウは世界で一番美しいと言われている蝶。(写真を見ながら)この色はモルフォブルーとも言われ、ぴかぴか光る青色(金属的な青)。この色は、他の蝶にはない。翅全部がこの青で、飛んでいる姿はなんともきれい。
この青色は、色素の色ではない、すなわち本当の色ではない。青く見えているのは、光が翅の鱗粉の中で乱反射したり干渉したりなどして青く見えている。
以前、この蝶の標本の翅のアップの写真を撮ろうと思って強いストロボをたいたら、鼠色になってしまった。それは、ストロボの熱で多層膜構造になっている鱗粉の粒子が溶けてもとの灰色になったから。この蝶の青は構造色と言って、例えば色のないもの、CDやDVDを斜めにして光を当てたり、シャボン玉が虹色に見えたりするのと、同じ原理。
青く見えるのは翅の表の面だけで、裏はじみな茶色。だから翅を閉じてとまっている時は目立たず、飛んでいる時だけぴかぴか青く見える。
この写真は、南米の一番北、フレンチギアナで撮ったもの。そこではモルフォチョウをたくさん見ることができた。撮影はとても難しい。この蝶は(他の蝶も同じだが)大きな翅を1秒間に10回から15回くらいはばたかせ、そのたびにぴかぴか青く光るが、この蝶は胴体が小さく、胴に比べてとくに翅が大きいので上下動が激しく、ピントがとても合わせにくい。そして、飛んでいる時は上下動が激しいので、たぶん捕食者なかせ、鳥なかせではないだろうか。
翅の一部が黒く見えるモルフォチョウもいて、これは林の中を飛んでいる。全体が青く見えるのは、森の外の明るい所を飛んでいる。
ユーゲニアモルフォチョウは、朝5時から6時ころ、まだ日の出前の月明かりの中で飛んでいる。暗い月明かりの中でも青く光っている。ただし、その青は、月明かりに合わせてだろう、やや薄い青。
この青の美しい色にはどんな理由が考えられるだろうか?雄同士がコミュニケーションしている色ではないか。1ぴきの雄が飛ぶと、同じ所に数ひきの雄が飛んできて、くるくると回ってその場所を取り合って、勝った1ぴきが雌を呼んでいるようだ。
南米にはいく種類ものモルフォチョウがいて、中には町の裏山で見られるような種類もあるので、ぜひ見てほしい。
● 1月20日(日)「日本にいる大きな鳥たち」
日本で一番大きな鳥は?高さ(地上から頭までの高さ、立っている時の高さ)ではタンチョウ、全長(くちばしから尾羽までの長さ)ではハクチョウ、翼を広げた大きさ(翼の端から端までの長さ)では猛禽のオオワシ(翼を広げると、2.5m)、重さではハクチョウ(12kg)(ハクチョウは 2冠)。
オオワシについて:翼を広げると2.5m、飛んでいる所を見た感じは、畳がふわあっと浮いてすうっと横にスライドしている感じ。オオワシなど大型の鳥は、小鳥のように羽をばたばたはばたかせずに、フワッ フワッと飛ぶ。(オオワシの鳴き声:複数がグワクワグワクワといった甲高い声で鳴き交わしている)。姿も美しく、全身黒っぽいが、くちばしと足が黄色くて、額、肩、尾が純白。
よく似た鳥にオジロワシがいて大きさもほぼ同じだが、よく見ると、オジロワシは年齢とともに白い部分が増えるとか、オオワシは肩が白いとか違いがある。遠くから見ると、オオワシの広げた翼の後ろのほうがまるくふくらんでおり、また白い尾羽がとがっている。
オオワシは、サハリンもふくめ極東ロシアで繁殖し、厳冬期に1700羽から1800羽くらい北海道にやって来る。本州でも、琵琶湖や諏訪湖で単体で見られることがある。主に魚食で、ときには飛んでいるカモメや小型の哺乳類を襲って食べることもある。今問題になっているのは、鉛注毒で、北海道でハンターが射ったシカなどをオオワシが食べて鉛注毒になっているという報告がある。銃弾には鉛が多く使われていて、射たれたシカなどが放置されたままだと、それをオオワシなどが食べて、鉛注毒になってしまい、今も数羽だが、鉛注毒で死亡したオオワシが運ばれてくる。現在は、北海道では鉛弾の使用が禁止され所有も禁止されている。鉛注毒による死亡がなくなることを願っている。
● 1月27日(日)「トラフグ」 (省略)
● 2月3日(日)「オニシバリ」
千葉の野山を歩いていて、春だなあと感じさせる植物の1つが、オニシバリの花。オニシバリはジンチョウゲ科に属する低木で、落葉樹林の林床によく成育している。九州から四国、福島以繊の本州に分布している。
ジンチョウゲは中国原産の植物で、日本には園芸植物としてもたらされ普及した。ジンチョウゲに近縁の種も日本にも数種自生していて、その1つがオニシバリ。
オニシバリは、高さはせいぜい 1mくらいで、2月から4月に花をさかせる。千葉県では早い所だと立春のころには花をさかせる
花はジンチョウゲに似ていて、萼が4つに別れていて、正面から見ると4枚の花びらが星型に見える。ジンチョウゲは、外側が薄紫、内側が白い花だが、オニシバリは全体が緑がかった薄い黄色、クリーム色と言ってもよい。花によっては緑色とも言えるものもあって個体差はあるが、ジンチョウゲとは花の色が異なっていて、クリーム色系の色。香りは、ジンチョウゲほどではないが、鼻を近づけるとよい匂がふわあっとする。
「オニシバリ」の名の意味は、鬼を縛るほど丈夫、という意味。これはこの植物の特徴をよく表わしていて、オニシバリの樹皮の繊維はとても強くて、枝を実際にいくら強く引っ張ってもちぎることはできなかった。ジンチョウゲの仲間には繊維が丈夫なものが多く、ミツマタやガンピは和紙の原料として知られている。和紙の原料になるほど強くて長い繊維を持っているということで、樹皮の強い繊維がジンチョウゲ科の共通の特徴かも知れない。
オニシバリによく似た植物にナニワズがある。ナニワズは、オニシバリの成育地の北、北陸から東北の日本海側、北海道に分布。ナニワズも落葉樹林の林床に成育するが、高さは50cmほどと低く、花は黄色、花の咲く時期は4月から5月と遅く、雪解けを待って咲く。
オニシバリとナニワズには、「ナツボウズ」という共通の別名がある。夏に丸坊主になるという意味。どういうことかというと、オニシバリもナニワズも、冬に緑の葉を付けていて、夏には葉が落ちてしまう、坊主になってしまうということ。このような植物の性質を、「冬緑性」という(彼岸花も冬緑性)。落葉樹は冬には葉が落ちるので、落葉樹林の林床は冬には明るく、これらの植物はその光を利用しているのではないか。「ナツボウズ」という表現は、このような植物の特徴をよく表わしている。
*ヒガンバナは秋のお彼岸のころ咲くが、花の時期には葉がまったくない。花が咲き終わると、ヒガンバナはいったん地上から姿を消す。晩秋、何もなくなった地面からにょきにょきニラの葉のような細長い葉が伸びてくる。ヒガンバナは秋から春にかけて葉を繁らせ、夏には枯れる。そしてお彼岸のころ、忽然と燃えるような花が現れる。
●2月10日(日)「ラフレシア」
ラフレシアが主にあるのは、インドネシアとマレーシアの間の熱帯雨林のジャングルの中。
今回は、マレーシアのサラワク州(ボルネオ島)のクチン(猫という意味)という町に行った。花は直径1mくらい、真赤な大きな花びら5枚で、花びらは分厚くてランドセルの皮くらいあるかな?
ラフレシアの花は強烈なにおいがあるとされるが、そんなに強いにおいではない。熟したような、ちょっとくさいにおい。ラフレシアは、このにおいで集まるハエに受粉してもらう。ラフレシアの花期はとても短くて、咲いてから4日目くらいが限界で、今回は花期に遅れてしまって、赤い花は見れず、真っ黒くなっていた。(その後、40年くらい前に初めて冒険のようにラフレシアの花の観察に行った時と、現在のラフレシア情報が豊富な状況での見学の仕方の違いや注意点などについて話があった。)
●2月17日(日)「日本にいる最大級の鳥」
日本にいる最大級の鳥はハクチョウで、日本にはオオハクチョウとコハクチョウの2種がいる。(以下略)
● 2月24日(日)「ナマコ」
日本ではナマコは食用として知られている。中国料理では乾燥ナマコが使われる。
海底をゆっくり這いまわっていて、素早い動きはできない。海岸線近くから深海まで栖んでいる。ウニやヒトデと同じく、棘皮動物。世界では1500種、日本では200種くらい知られている。
ウニは縄文時代から食べられていたが、証拠はないがたぶんナマコも同じころからあるいはそれ以前から食べられていたのではないか(ナマコにはとげや殻がないので、遺物・記録としては残らない)。
ナマコは、海底にたまっている有機物(魚の糞とか死骸とか降り積もってくるいろいろな有機物)を食べている。ナマコは体が細長くて、前のほうが口、後ろが肛門になっていて、口の回りの触手で集めて食べたり、海底の泥をまるごと食べて栄養分を摂取し残りを糞として肛門から出す。る。
ウニやヒトデは、口が下面、肛門が上面にあったが、ナマコはそれを横にして長くしたような感じ。ウニやヒトデは5放射構造になっているが、ナマコも同じ構造をしていて、垂直に輪切りにすると5放射になっていることが分かる。
殻や骨のない肉のかたまりのようなナマコは、どうやって身を守っているのか。肉のかたまりのように見えるが、表面は分厚いコラーゲンの皮膚になっていて、触るとタイヤのように硬くなる。さらにもっと触っていると、急に軟らかくなってどろどろに溶けたスライムのようになる種もある。このようにして、攻撃されると岩の間に入り込んだり、一部だけを食べられたり、硬くなって食べられにくくしたりしている(硬さを変えることで身を守っている)。さらに積極的な防御の方法もあって、一部の種類、熱帯にすんでいる種では、キュビエ器官というのがあって、攻撃されると、肛門?から白いべとべとした糸のようなのを、自分の体の2倍くらいの距離までパッと吐いて、それで相手の体を絡めて動けないようにする。サンゴ礁で潜っていてナマコを触ってやられたことがあるが、べとべとしたものを取るのに苦労した。
よく食べるマナマコにはキュビエ器官はないが、その代わりに、内臓を吐き出して、それを食べさせて相手を満足させて身を守っている。食べられた内臓は、肛門のほうからは前に向って、口のほうからは後ろに向って消化管が再生していって、 1月ほどで前後がつながってもとに戻り、さらにその回りの器官も次第に再生して2、3月でほぼもとの体に戻るらしい。すごい生命力、ユニークな生存戦略だと言える。
ナマコは水温が低い時が活動期で(そろそろ繁殖期)で、水温が高くなると岩の間や砂中に隠れて夏眠して体重も減(夏の冬眠のようなもの)、水温が下がってくればまた活動する。
● 3月3日(日)「サカキとヒサカキ」 (省略)
● 3月10日(日)「ハサミムシ」
ハサミムシはわりと身近にいて、落ち葉の下とか、庭で草を積んでおくとその下などにもいる。腹の先端、お尻の所に大きなはさみがあり、開いたり閉じたり動く。はさみは何に使うのか?けんかというより外敵を威嚇するのではないか。獲物を捕る時にはさみを使うというのは見たことがない。ハサミムシは雑食で何でも食べる。
今の季節は、ハサミムシ、とくにコブハサミムシの観察にいちばん適している。河原の上流のほうでごろごろした石のある所で石を持ち上げると、石の下で、コブハサミムシのお母さんが卵を守っているところが見られる。2月末ころから3月末にかけて、卵から幼虫が生まれてくる。(写真を見ながら)石をひっくり返すと、その下に窪みができていて、そこに卵が入っていてそれに寄り添うようにお母さんがいる。黄色い卵が山のようになっていて(100個くらいあるかな)、その横にお母さんがいる。お母さんハサミムシは、卵を産んで孵化するまで1ヶ月以上かかるが、その間ずうっと何も食べずに寄り添っていて卵を守ることに専念する。石を持ち上げて土がぽろぽろ卵の上に落ちたりすると、おおあわてで卵の上の土をどけたり卵を並べ替えてきれいになめて、数時間後にはなにごともなかったかのようにきれいなもとの状態にしている。
他の虫が来た時にどうするかは見たことがなかったが、ハサミムシを飼っていて卵を守っている時に上からアリを落としてみたら、お母さんはあわててアリをはさみではさんで外に放り出した。それで、はさみはそういう防御のためとか敵を追い払うのに使うのかなと思った。
1ヶ月ないしそれ以上飲まず食わずで卵を守った後に、ガラス細工のように透明できれいな小さな赤ちゃんがたくさん生まれてくる。生まれたての時はちょっとハサミムシの形とは違うが、次の日には黒くなってハサミムシの形になっている。卵がかえった後もお母さんはそのままこどもの所にいて、2日ほどすると、こどもがお母さんの背に上りはじめかじったりする。お母さんは翅を持ち上げその下のやわらかい所をこどもが食いついたりする。そうして、お母さんは子どもに食べられてしまう。お母さんは食べられることを分かっているのか、みずから自分の身を差し出す。卵を産む前から1ヶ月以下何も食べていないので体力がなくなり死んでしまうので、死んでしまう体を無駄にしないシステムがこのハサミムシではできている。[卵を守り続けるのは多くのハサミムシ類がしているが、卵がかえった後に自分の体をこどもの食料にしているのはコブハサミムシだけのようだ。]
外で観察を続けるのは難しいので、石の下から卵とお母さんを連れてきて、プラスチックの箱に土を入れて窪みを作りそこに卵とお母さんをおいて、その上に石を置き、時々石をひっくり返して様子を観察してみると良い。
● 3月17日(日)「山の渓流で見られる野鳥」
今朝取り上げるのは、カワガラスとキセキレイ。
カワガラスは渓流でわりとふつうに見られる鳥。渓流のごろごろした石の上をぴょんぴょん飛んだり水に潜ったりする。ずんぐりむっくりのじみな姿のわりには、意外ときれいな声で鳴く(鳴き声を聞く:烏とはまったく違うキュルキュルというようなとてもきれいな声)。
カワガラスは、同じスズメ目ではあるがカラスの仲間ではない。色が黒っぽい焦げ茶色なので、そこからカラスという名が付けられた。大きさは22cmほどでツグミやヒヨドリと同じくらいだが、体形が違う。カワガラスは今が繁殖期。小鳥の多くは虫が出てくる初夏が繁殖期のことが多いが、カワガラスは早いものでは1月ころから繁殖行動に入って、今がピーク。これは、カワガラスが住んでいる渓流という場に関係していて、渓流にはカワゲラやカゲロウ、トビゲラなどの水生昆虫がいて、この時期川底にそれらの幼虫が大量に発生し、それに合わせて繁殖期になっている。
日本で見られるセキレイの仲間は、セグロセキレイ、ハクセキレイ、キセキレイの3種で、これらは環境によって棲み分けている。キセキレイは、渓流、川の上流から中流域にかけて、セグロセキレイは(キセキレイとかぶることもあるが)川の中流域、ハクセキレイは下流域ないし水辺から離れて市街地でも見られることがある。外見では色で見分けられて、キセキレイはお腹の部分がきれいな黄色。セグロセキレイとハクセキレイはとくに夏になると見分けにくいが、頬を見ると、セグロセキレイは黒、ハクセキレイは白(セグロセキレイは頬だけでなく顔全体が黒)。セグロセキレイは日本にだけ棲み、渡りをすることもない。
キセキレイは全長20cmくらい、セキレイの仲間ではやや小さい。セキレイは全長の半分近くが尾で、キセキレイも細身で尾が長い。英語ではキセキレイは gray wagtail(wagtail は尾を振る鳥の意で、セキレイ)で、背の灰色からこのように名付けられ、背が黄色のツメナガセキレイ(yellow wagtail)と区別される。和名と英名がこのように異なっている。
最後に、チイ チイというような、キセキレイの繊細できれいな鳴き声。
● 3月24日(日)「アカエイ」
エイは世界に450種くらい。全体に平べったい形で、大きく広がった胸鰭と体が一体となって、どこまでが鰭なのかどこからが体なのか分からなくなっている。鰭をひらひら波打たせるようにして泳いでいる。種類によっては、マンタの仲間のようにはばたくようにして泳ぐものもいる。アカエイの仲間は波打たせるようにして泳ぐ。
アカエイは日本でもっともふつうに見られるエイで、この季節、春から夏にかけて産卵期を迎える。北海道から日本各地、東南アジアの大陸の縁辺に棲息する。体長は1mくらいで、後ろに長いむちのような尾鰭があって、これもふくめると2mくらいになる。浅海に棲み、ふつうは砂地にうずもれている。肉食性で、貝やエビやカニ、小さな魚を食べている。
エイの体は、鱗がなくて、すべすべしている。体の裏側は、全体は白っぽいが赤ないし黄色の縁取りになっていて、アカエイという名はここから来ているらしい(エイの仲間は、全体に黒っぽいものが多い)。
むちのように長い尾は何の役割をしているのか?尾の途中に数cmから10cmくらいの、1本から3本のとげがあって、外敵が来るとこれで刺す。とげは、のこぎりの歯のように、かえしになっていて、いったん刺さるとなかなか取れにくく、また強い毒も持っている。水族館で、エイの水槽を長靴をはいて掃除している時に、長靴を貫いてかかとを深く刺された人もいて、とても丈夫なとげのようだ。浅い海でアカエイがいることが分かっている時は、足を激しくバシャバシャさせながら歩いたほうが、アカエイが逃げていくので安全なようだ。
産卵について。サメ・エイの仲間は、卵を産むタイプと子どもを産むタイプがあり、アカエイは子どもを産むタイプ(胎生)。胎生には、卵黄だけを食べて胎内で成長するタイプ、別の卵を栄養にするタイプ、子宮から出てくるミルクを栄養にするタイプ、胎盤を栄養にするタイプがあるが、アカエイは子宮ミルクタイプ。親魚の中でかえった稚魚は口でそのミルクを摂取する。
サメ・エイの仲間は、魚の形をしているのがサメ、平べったい形のがエイと言っていいが、その中間の形のものもいて、ノコギリエイは、エイでありながらサメのような恰好をしている。ノコギリエイは、体が細長くてサメのような形をしているが、鰓の位置が違う。サメは体の横に鰓があるが、エイは体の裏側、お腹の側に鰓がある。アカエイもノコギリエイも体の下側に左右に5つずつ鰓がある。ノコギリざめは体の横に、ノコギリエイは体の下に鰓がついていて区別できる。
アカエイの体の裏側を見ていると顔のようにも見えてくる。目のように見えるのは鼻の穴。口は裏側にあり、目は表側にある。大きな胸鰭を波打たせるようにして泳ぐが、とても器用で、前に進むだけでなく、回転したり後ろ向きに泳ぐこともできる。
● 3月31日(日)「ミツマタ」
ミツマタは和紙の原料として有名。教科書に出てくる「コウゾ・ミツマタ」として名前は知っているが、実物は見たことがないという人が多い。実は私たちは毎日ミツマタの繊維に触れている。紙幣の原料はミツマタで、私たちはふだんミツマタの繊維に触れている。もちろん手漉き和紙にも使われている。
ミツマタは中国原産の、落葉性の低木。古くに日本にもたらされて、日本各地に野生化している。和紙の原料としての産地は、中国・九州地方に多い。高さはせいぜい2メートルくらいで、枝がすべて3つに別れる(名の由来もここから)。分類としてはジンチョウゲ科に属し、オニシバリと同じ仲間。オニシバリは鬼を縛るほど強いが、それは樹皮の繊維が長くて強いからで、同様にジンチョウゲ科のミツマタも樹皮の繊維が丈夫で、それが和紙の原料として使われる。
今の時期はミツマタの花のころ。冬に落葉し、3月から4月にかけて葉が出る前にかわいい花が咲く。4cmくらいの球状だが、小さな花の集まりで、ひとつひとつの花は、長さ1.5cmくらい、筒形で、内側が鮮やかな黄色、外側が光沢のある白で、それが30本ほど集まってボール状になっていて、全体として黄色く見える。中には、花の内側が赤で、全体に赤く見える赤花種もある。
ミツマタの花にはいろいろな虫が訪れる。筒形で蜜は奥にあるので、口が長い虫、蝶の種類やビロードツリアブという口の長い虫がやってくる(成虫は春にだけあらわれ、いろいろな花から吸蜜する)。また、コハナバチ(ミツバチの半分くらいの大きさ)など、口が長くなくて花の奥に入れるほど小さくない虫は、花の入口でうろうろして花粉を集めている。さらに、これらミツマタの花にやってくる虫たちをクモが花にとまって待ち構えていることもある。ミツマタの花を見ていると、春が来たなあと感じる。
* 4月からは放送時間が毎週土曜日5時台になりました。
● 4月6日(土)「シデムシ」
暖かい地方では、今ごろからシデムシが地面を歩き回っている。これは、森の掃除屋さん。
モグラやネズミなど小さな動物は、死んでも死体が地面に落ちているのを見つけることはあまりない。モグラはよくけんかして穴から追い出されて地上に出てきてもとに戻れないと、すぐに死んでしまう。朝に地上に出てきて午後に死ぬと、夜のうちにシデムシが死体を見つけて地面に埋めてしまい、翌朝には死体は見つけられなくなっている。
それは、何のためにするのか?子育てのため。モグラの死骸がシデムシの子どもの餌になる。
(写真を見ながら)モグラの死体がある。長さ20cmくらい。その脇に小さな甲虫が見える。これはモンシデムシの仲間で、黒色のベースに赤いオレンジの紋が入っていてわりあいきれいに見える。大きさは2cmくらい(モグラの10分の1ほどの長さ)。シデムシは夜行性で夜に活動するので、昼のうちにモグラの死骸をシデムシよりも先に確保して、シデムシが来るのを待って写真に撮った。
(写真にはないが)モグラの下にもう1匹シデムシがいる。モグラの所でシデムシの雄と雌が出会い、ペアで協力して、モグラの下を掘り横を掘って次第に沈めていって土に埋めてゆく(すごい仕事量。次の朝には埋まっていた)。夜行性なので、視力は使わず、死んだものの臭いにやってくるらしい。シデ虫は「死出虫」と書く。
モグラを土の中に埋めた後、毛や皮をはがして肉だけにしてしまう。卵はモグラを埋めた土の中に産む。卵から幼虫がかえると、お母さんがチイチイと音を立てて呼び、幼虫がお母さんの回りに集まってきて口を出し、まるで鳥のように、お母さんが幼虫にモグラの肉の餌を直接与える。基本は雌が子育てするが、雌がいなくなると雄が子育てするという話もある。今回の観察では、雄は途中で出て行ってしまったが、雌が死んでしまった後雄が引き継いだという研究もある。ファーブルもシデムシの研究をした。
今回の観察では、1ヶ月弱、幼虫が蛹になるまで雌が寄り添って餌を与えていた。昆虫はふつう多くの卵を産む(ときには数千個)、このような子育てをする虫では卵の数は少なく、今回は20個以下だったように思う。
人間の家族にいちばん近いような昆虫に思えるが、けっこう合理的で、餌のモグラが小さくて餌が足りなさそうな時は、チイチイと音を出して呼んだ時にすぐにこなかった子どもを食べて、共倒れにならないように調整している。これが、脈々と命をつなげてきた虫なりの方法なのだろう。
● 4月13日「ホオジロの仲間」 (略)
●4月20日「ヒラメ」
ヒラメは、今は、食べごろを過ぎて産卵期。千島列島から南シナ海まで太平洋から日本海に広く分布。産卵期も場所によって違い、九州ではすでに始まっており、北海道ではこれから7月ころまで。高級魚だが、生息域は広く身近。
前回のアカエイは、同じように海の底にいるが、上から押しつけたように平たく、これにたいし、ヒラメやカレイは体を横に倒して平たくなっている。その体の表側が左か右かということで、左ヒラメに右カレイという言葉がある。
カレイもヒラメも表になっているほうが黒く、下になっているほうが白い。表を上にして置いて、目の後ろにエラがあり、エラの切れ目が手前になっているとき、左を向いていればヒラメ、右を向いていればカレイ。(ヒラメの仲間にも○○ガレイというのもあるので注意。)
ヒラメは、横になった体全体をしならせるようにして泳ぐ。背鰭と腹鰭を波打たせるようにして泳ぐ。胸鰭は、底にぴんと伸ばしてヨットのキールのように、泳ぎを安定させている。
ヒラメの仲間は、世界で85種くらい、日本で10種くらい。カレイ目ヒラメ科で、その中に○○ガレイというのもいてややこしい。種類はカレイのほうがずっと多い。
生まれてしばらくは、ふつうの魚と同様、体を縦にして、左右に目がある状態で泳いでいる。 1月くらいするころから、目が移動しはじめる。右目が1週間ほどかけて背中側に動いて行って、背中に来た時に、右側には目がなくなるので、左側を上にして海底に着底する。それまでは波に浮かんでいて透明だったが、海底に着くと回りの色に合わせて表面が茶ないし色になってくる。
高級魚なので、全国で栽培漁業が行われていて、全国で年間2千万匹くらい放流されている。放流された生は、裏側に黒い部分が残ることが多く、体表の色を調べることで、天然か放流魚かが分かり、全国平均では1割くらい、瀬戸内海では2割以上が放流魚。このような栽培漁業もあって、ヒラメは以前よりは身近な魚になっている。
水族館でヒラメを観察する時は、ヒラメは体全体を波打たせて泳いでいること(アカエイは、体のへりの鰭だけを波打せている)や、砂地で飼育している時は目だけが出ていることなどを見てほしい。
● 4月27日「タケ」
タケノコは竹の若い稈(かん:竹・稲・麦・黍などイネ科植物の茎に見られるような、節と節の間が中空の茎)。いわば竹の幹のような部分。タケノコを縦に割ってみると、中は中空になっていて、ほぼ等間隔に節がある。このタケノコを上にぐんぐん伸ばして何十倍にもすると、竹の稈になる。春に地上に顔を出して、2ヶ月くらいでぐんぐん伸びて10mくらいまでも伸びる。もっとも盛んな時期は、1日に1mも伸びることがあるという。
竹の稈にある節は、タケノコの時にすでに出来ていて、その数は増えずに竹の稈になる(竹の節の数はタケノコの時に決まっている)。さらに、竹林に行くと何本も竹が見られるが、地下ではそれが全部づながっている。地下茎(地下を横に伸びている茎)で 1まとまりの竹林の竹がすべてつながっていることもある。私たちに見えているのは地上にある稈だが、竹という植物の本体はむしろ地下にある地下茎で、そこから地上には光合成をするための葉を持った稈が伸びているし、地下には水や養分を吸う根を出しており、これらすべては地下茎から出ている。私たちが見ている竹は、竹の地下茎から伸びた枝?みたいなものだと思ってもよい。
そして、地下茎があるからこそ、あんなにタケノコがぐんぐん早く成長できる。(地下茎には栄養が蓄えられていて、それを利用できるから。)
世界には、主に熱帯を中心に千種ほどの竹があり、日本など温帯にも分布している。分類学的にはイネ科の中のタケ類の仲間。日本にもたくさんの竹の種類があるが、日本の代表的な竹は、モウソウチク、マダケ、ハチクの3種。
竹の花が60年に1度咲くというのは、おおよそ正しい。モウソウチクについては2例だけ観察例があって、2例とも、種を蒔いてから67年目に花が咲き種ができ枯れた。その1例は、東京大学千葉演習林のもので、1930年に種を蒔いて、1997年に開花して種ができ枯れたという結果が出ている。そしてこの実験は今も続いていて、今は2世代目の竹が青々と茂っている(次に花が咲くのは、67年後だとすると2064年)。この実験は、300年続けることになっている。(竹の研究はたいへん!)
マダケとハチクについては正確には分かっていないが、120年に1度くらい咲くだろうと言われている。しかも、日本ではマダケもハチクも、それぞれほぼ同じ時期に一斉に開花するらしい。マダケは、1960年代に日本で一斉に(5、6年くらいの幅はあるが)開花して話題になった。120年周期が正しいとすると、次は2080年代。
竹はイネ科なので、その花もイネやムギと似ている。小さな花が集まって穂のようになる。糸のようなおしべが外側に垂れるので、それを見て花が咲いていると分かるだろう。モウソウチクの花は、今年も日本のどこかで咲いているかもしれない。また、ハチクは120年周期と考えられているが、前回は明治時代の終わりころに咲いたという記録があるので、そろそろ咲く時期。実は、一昨年くらいから全国でちらほら咲いているという情報がある。今年は運がよければハチクの花を見られるかもしれない。
● 5月4日「ツノトンボ」
ツノトンボは、トンボの仲間ではなく、ウスバカゲロウの仲間。ただし、雄はカゲロウよりもトンボによく似ている。
(キバネツノトンボの写真を見ながら)日本には3種類ほどツノトンボがいるが、その中でいちばん美しいのがキバネヅノトンボ。ぱっと見た目はトンボのよう。トンボよりも美しく、はねには黄色の帯のようなのがある。頭から2本の長い触角が伸びている(それでツノトンボと言う)。その長さは胴体と同じくらいも長く、その先端は蝶と同じように丸くふくらんでいる(たぶんここににおいなどの感覚器官が集まっているのだろう)。
トンボとの違いとしては、この長い触角のほか、幼虫が水中ではなく地面にいること、成虫は休む時にはねを屋根型に閉じる(蛾のように)。また、頭にはたくさん毛があって、前から見るとかわいいと言う人が多い。
ウスバカゲロウはきゃしゃだが、ツノトンボ、とくにキバネツノトンボは昼にびゅんびゅん飛び回って空中で虫を捕えて食べ、その点はトンボと同じ。
ツノトンボは、生まれた時からパワフル。ウスバカゲロウは、幼虫の時は地面にすり鉢を彫ってその中に隠れて落ちてくる虫を捕えて食べるが、ツノトンボの幼虫は地面を歩き回って虫を捕える。(写真を見ながら)キバネツノトンボの幼虫が小さなコオロギをつかまえている(見た目はウスバカゲロウの幼虫のアリジゴクと似ているが、それよりやや大きい)。
成虫になるまでに、正確なことは分からないが、2年くらいかかるのでは。肉食の幼虫は成長が早いが、ツノトンボは虫をつかまえるのがたいへんで成長が遅いかも。成虫が見られるのは、5月初めから6月中ごろくらいまでで、短い。その他の時期は幼虫だけ。主に休耕地に見られる。休耕地は毎年耕さずに数年は放っておくので幼虫が2年から3年かかって成長できる。今は都市部ではほとんど見られなくなっている。休耕地があるというのは、ツノトンボにとってはとても良い環境。
● 5月11日「アオバズクとコノハズク」
アオバズクという名は、木々が茂る青葉のこの時期にやって来るということから。冬の間は日本にいなくて、この時期に日本に来て繁殖・子育てをする。
アオバズクもコノハズクもフクロウの仲間。フクロウとミミズクの違いについて、フクロウは耳がなくミミズクは耳があるという言われ方をすることがあるが、アオバずくには耳がない。今耳と言ったが、これは耳のように見えるだけで、耳ではなくて羽角という飾り羽。
アオバズクの大きさは30cm弱くらいで、カラスより少し小さいくらい。フクロウのなかでは、中型。大きな黄色の目が特徴で、全身は焦げ茶色で、お腹は白いが焦げ茶色の斑点がある。(鳴き声を聴く)「ほ ほ ほ ほ」というような、やや高いすんだ声。大型のフクロウだともう少し低音になる。
(コノハズクの鳴き声)水の流れとともに、 3拍子の鳴き声。「ブッポーソー」と聞きなされている声。コノハズクは日本のフクロウでいちばん小さくて、全長20cmくらい(ツグミやヒヨドリと同じくらい)。コノハズクは、その名のように体に枯葉のような模様があり迷彩服のように森の中に溶け込んでいる。
アオバズクもコノハズクも、フクロウの仲間は夜行性。闇夜でも見えるように目に特徴がある。眼球の形が楕円形で、より多く光を取り込めるようになっており、さらに、網膜の視細胞の中の杆体細胞が人間の100倍近くもあると言われていて、人の100倍くらいの感度で光を認識し細かく物を識別できる。(杆体細胞は光を感知し、錘体細胞は色を識別する。)
コノハズクは深い山の中にしかいなくて、実際に会うのは難しい。アオバズクは身近なフクロウだったが、今はとても少なくなっている(カブトムシなど昆虫を食べるので、その食べ物が減っているためかもしれない。カブトムシの頭や角など食べ残しの様子から、それを食べたアオバズクが推測できる)。
●5月18日 「アメフラシ」
大きさ20〜30cmもある黒いかたまりで、巨大なナメクジのようなもの(大きなものは、40cmにもなるという)。アメフラシは軟体動物に属し、その中のサザエなど巻き貝と同じ腹足類(お腹のところで這って歩く)の仲間。ただ巻き貝は殻を背負っているが、アメフラシにはこれはない。だから、カタツムリに対するナメクジのような関係、海にいるナメクジのようなものになる。
(写真を見ながら)全身、黒ないし焦げ茶色であちこちに白い斑点がある。大きさはふつう20〜30cm、中には40cmにもなるものがいるという。本州から九州までの浅い海で、潮だまりなどで見かける。
「アメフラシ」という名の由来について:アメフラシをいじめると紫色のしるを出す。そのしるが出るのが、雨雲が広がるように見えるのでこの名になったという説がある。このしるの中に、敵をいやがらせる物質が入っていて、エビやカニなどに襲われた時にこの紫色のしるを出して敵をいやがらせて身を守っているようだ。
(写真を見ながら)2本の角のようなのがあり、それが触角。触角のある所が頭で、頭の下のほうに口があり、ノリのような軟かい海藻を食べている。貝の仲間のサザエやアワビはコンブなどのかたい海藻の表面を削るようにして食べるが、アメフラシは軟かい海藻を口から吸い込むようにして取り込み、口の奥にあるやすりのような歯舌で砕いて食べる。
ちょうど今ころが繁殖期で、卵を産んで親は夏には死ぬ。子どもは海の中で漂うプランクトン生活をし、その後海底に着く。人の目につくようになるのは春先で、小さいものが海藻を食べて急激に大きくなり(数ヶ月でみるみる成長する)、卵を産んで夏にはいなくなる。
孵化して間ない幼生は、ほとんど透明で色はないが、海底で生活するようになると黒くなって回りから目立たなくなる。
卵はウミゾウメンと呼ばれる(細長い素麺をかたまりにしたような感じ)。(写真を見ながら)瓶に入っていて、鮮やかなオレンジ色で、インスタントラーメンのかたまりが水に入っているような感じ。よく見ると、1mmくらいの細い麺の中に小さなつぶつぶがいっぱい入っている。このつぶつぶは卵が詰まっているカプセルで、このカプセルの中に小さな卵がたくさん入っている。片手に入るくらいのひとかたまりのウミゾウメンの中には、数万個の卵が入っている。(カエルの場合も紐状のものの中にたくさん卵が見られるが、ウミゾウメンの場合は、さらにそのつぶつぶの中に卵がある)。(素麺だと麺が互いに離れるが、ウミゾウメンはお互にくっついてひとかたまりになっている。)
アメフラシは、1つの個体の中に、雄と雌の生殖器を持っている。頭のほうに雄の生殖器が、背中のほうに雌の生殖器がある。交尾する時は、頭を前の個体の背にくっつけ、背に後ろの個体の頭が乗るというかたちで、複数の個体が「連鎖交尾」する。(複数個体が連なっている時、1つの個体の前のほうは雄のはたらき、後ろのほうが雌のはたらきをしている。)今の時期、水族館や海辺で、連鎖交尾やウミゾウメンが見られるかもしれない。
● 5月25日「キイチゴ」
キイチゴはノイチゴとも言う。ケーキなどに乗っているイチゴとは別の仲間。フルーツとしてのイチゴはオランダイチゴで、ヨーロッパで産み出されたもので、草の仲間。キイチゴは、これとは違う木の仲間で、北半球の温帯に広く分布し、世界では数百種、日本でも40種類くらい分布。代表的なものは、モミジイチゴ、バライチゴ、クサイチゴ、クマイチゴ、エビカライチゴ、ニガイチゴ、フユイチゴ、リュウキュウイチゴ、エゾイチゴ等々。
リュウキュウイチゴは沖縄(九州の南端にも一部)。エゾイチゴは、北海道を中心に、本州や四国の高い山、さらにユーラシアの温帯地域に広く分布しし、ヨーロッパではラズベリーと呼ばれる。
キイチゴは、高さ数十cmからせいぜい1mくらいの低木で、おいしく食べられる実をつける。イチゴの実は野生動物の大好物で、クマ、サル、タヌキ、テン、さらに、ムクドリ、シジュウカラ、メジロなど鳥もよく来る。
実のなる時期は種類によって幅があり、今ごろはモミジイチゴ、夏から秋にかけて熟する種類もあり、冬にはフユイチゴ。実の色も、多くの種は赤くなるが、モミジイチゴやカジイチゴは黄色くなり、クロイチゴは、熟すと真っ黒になる。花は多くは白で、花びらは5枚。桜や梅に似た感じ。
食べているイチゴとキイチゴの実はまったく異なるできかたのもの。オランダイチゴの実は、花の土台の部分(花托。上に雄蕊や雌しべなどがある)が大きくなったもの。イチゴのつぶつぶは、それぞれ1個の果実。キイチゴは、花托の部分は膨らなくて、雌しべの部分が膨らんだもの。キイチゴの花托にはたくさん雌しべができて、それぞれが膨らんでたくさん(数十個から百個くらい)の果実になり、それが集まって1つの実のように見えている。
赤い実をつけるヘビイチゴは草の仲間で、毒ではないが食べても味がなくおいしくない。
●6月1日「ビクトリアトリバネアゲハ」
(略)
●6月8日「ゴイサギとササゴイ」
今回紹介するゴイサギとササゴイは、長い首と長い足のふつうの白いサギたちとは異なり、全体に(首がないような)ずんぐりむっくりの姿。(写真を見ながら)細長い楕円形で、足も短い。お腹は白いが、背のほうはなんとも言えない青緑色でとてもきれいで、頭には白いリボンが流れているようなきれいな冠羽もある。これは成鳥の姿で、幼鳥は全身茶色で白い斑点があり、見た目はまったく違う(星のように白い斑点がちりばめられているのでホシゴイ(星五位)とも呼ばれる)。幼鳥は全体にくすんだ感じで、これからきれいな成鳥の姿は想像しにくい(成鳥の美しい羽色になるのに3年くらいかかる)。目の色は、成鳥は赤色で特徴的だが、幼鳥は黄色。また足の色はともに黄色だが、成長は繁殖期になると足先がピンクになる。
ゴイサギの成長の全長は60cmほどだが、見た目はカラスくらいの大きさ(ふつうは首をすぼめているので、その時の大きさ)。本当は、ふつうの白いサギと同様に首は長くて、首を伸ばすと胴体(首をすぼめている時)の倍くらいの長さになる。ふつうの白いサギもゴイサギも首の骨は16個あるいは17個で同じ(ふつうの白いサギのほうが、首の骨1個の長さはほんの少し長いようだ)。[ゴイサギは、ふつうは首の骨をS字状に折り曲げていて、魚の餌を取る時などにその首を伸ばす。]
ゴイサギは主に夜に活動し、英語では black-crowned night heron。五位鷺の名前については、次のような逸話がある。 醍醐天皇(在位897〜930年)が神泉苑(平安京の御所の中の庭園)に行った時、池にサギがいるのを見つけ、部下に命じてその鳥を捕らえようとしたが、簡単には捕らえられなかった。それで部下がサギに「これは勅命である」と言ったところ、サギはおとなしく捕まったとのこと。この様子を見ていた天皇は感心して、そのサギに五位を与えた。
ササゴイ(笹五位)は色はゴイサギと同じような群青ないし緑で、羽が笹を重ねたような感じで、それが笹五位の由来。大きさはゴイサギよりだいぶ小さくて、鳩くらいの大きさ(首を伸ばすとその倍くらいになる)。ゴイサギの仲間は餌を待ち伏せして取る鳥で、首をぐっと伸ばして魚やエビなど水生の餌を取る。ササゴイは、変った餌の取り方、釣りをする。ササゴイは、木の枝や葉や羽などを水辺に投げ、それによってきた魚を捕らえる(すべてのササゴイがするわけではない)。
[熊本の水前寺公園にいるササゴイは、パンや麩、クモ、カゲロウ、ミミズなどを水面に投げ入れ、それを食べようと近づいてくる魚を捕まえる。この投げ餌釣りのほか、木の葉や羽毛を使ったフライフィッシングもする。ミミズなどはそのままでササゴイの餌になるが、それで魚を釣った方が食べ応えがあることを知っているのかも。釣りをするササゴイは水前寺公園だけではなく、日本各地、さらにアメリカのフロリダ、シンガポール、南アフリカでも観察されている。]
●6月15日「ネンブツダイ」
スズキ目、スズキ亜目、テンジクダイ科に属するタイで、テンジクダイ科は世界中で270種、日本でその1/3くらいの90種近が棲息する。大きさは10cmくらいで、大きくなっても15cm弱。本州全域とその南、朝鮮半島から南シナ海にかけて分布し、沿岸の主に岩場、砂地でも石がごろごろしている所にいる。
(写真を見ながら)ぱっと見、金魚みたい。細長い姿で、お腹のあたりがぷっくりしていて、少しピンクがかった朱色。目元から背にかけて黒い線がある。見た目が金魚に似ているので、海金魚と呼ばれることがある。小さな魚なので、群をつくり、ときには何千びきも群れている。夜行性で、昼は岩の間あるいはホンダワラなど1m以上ある海藻の根元に隠れていて、夜になると岸や表面に出てくる。今の時期は繁殖期でもあり、昼でも表面に出てくることがある。
ネンブツダイは、小さいのでほとんど食用にはされない。磯で夕方に釣りをしていると、群れているネンブツダイが次々と餌に食いついてしまって狙っているもっと大きな魚が釣れず、外道として釣り仲間には嫌われている。(食べてみると、手間はかかるが白身で味は悪くないという。)
ネンブツダイ(念仏鯛)の名前は、この魚の子育てと関係がある。ネンブツダイは5月から9月が繁殖期で、今がピーク。まず雌が何匹かの雄にちょっかいを出し、30分ほどで相手を決める。相手を決めると2匹で群から離れて海底の岩の陰などに隠れる。4、5日すると雄が雌に求愛行動をする。その間に雄は口を開いたり閉じたりする。これは準備で、ペアになってから1週間ほどで雌のお腹が膨れてきて、雌は口で雌のお腹に触れて刺激する。そして雄雌がV字型にお腹の辺で交差するようにして産卵と放精をする。雌の産む卵は塊になっていて、雄は雌の後ろに回ってその卵塊を開いた口の中に入れて放精した精子とともに受精させる。そして孵化するまで1週間くらい口の中に入れておくが、口を閉じたままだと水が入ってこないので、口を開け閉めしてつねに水が循環するようにする。雄はこのように口をもぐもぐさせて卵塊を育てているが、その姿が念仏を称えているように見えるからこの名前になった。約1週間、口に卵塊をいっぱい入れてもぐもぐし続けているので、その間は雄は餌をまったく取れない。雌は産卵後しばらくするとその場を離れてしまい、雄だけが卵を育てる(究極の育メン)。雄は、ペアになってから1週間、産卵してから1週間、計約2週間の繁殖行動を、繁殖期に何度か繰り返す。このシーズン、水族館で雄のネンブツダイが卵を口に入れてもぐもぐしている姿を見られるかもしれない。[口の中で卵を孵化するまで育てる、あるいは口の中で仔魚を育てるやり方を、マウスブルーダー(mouthbrooder: 口内保育)と言い、両生類や魚類に見られる。]
●6月22日「モリアオガエル」
モリアオガエルは、木の枝に泡状の卵を産むということで有名。モリアオガエルは、日本の本州と佐渡島だけに棲んでいる。どちらかというと、太平洋岸よりも日本海岸のほうに多く分布する。
大きさは、雌が大きくて、雌は8cmくらい、雄は6cmくらい。アオガエルという名の通り、背は緑色。個体差・地域差があって、緑一色ではなく、不規則に斑模様のあるものもある。
モリアオガエルの「森」は、森に棲んでいることから。蛙というと水辺で生活するものだと思われがちだが、そうでもなくて、モリアオガエルは、卵の時期とオタマジャクシの時期以外は水辺では暮らさない。水辺から離れて1匹ずつ木に上って、クモや虫など食べて孤独に暮らしている。モリアオガエルの指の先には吸盤が付いていて、それで木にくっつき上るのが得意(モリアオガエルを捕えて手に乗せると、その吸盤で腕などにピタッとしがみつくように上られる時の感触がここちよい)。
卵は、池や沼などの水面の上に張出している木の枝の上に産む(卵から孵化したオタマジャクシがそのまま落ちるとちょうど水面になっているような場所)。
まず1匹の雌が1個の卵の塊を産む。そうすると雄がやってきて雌の背の上に抱きついて放精し受精する(カエルは体外受精)。この時、1匹だけではなく5匹以上の雄が1匹の雌の背にしがみついて受精することもある。産みたての卵はきれいなメレンゲ(卵白に砂糖を加え泡立てたもの)状で、泡におおわれている。1個の卵は白いつぶつぶの数mmくらいの大きさで、泡に包まれた1つの卵塊の中に数百個の卵が入っている。[1つの卵塊は大きいものでは直径10cmくらいもあり、その中に500個ほどの卵が入っている。]
泡の原料は、雌が卵とともに排出する粘液で、それを雌にしがみついている何匹もの雄が後ろ足でかき混ぜ泡立て、メレンゲ状にする。この泡で、乾燥からも外敵からも卵を守ってくれる。
卵は1〜2週間くらいで孵化してオタマジャクシになり、オタマジャクシはその都度ポタッ、ポタッと水面に落ちる(泡状の卵塊の表面は乾燥してかさかさになっているが、オタマジャクシは酵素を出してかさかさになった卵塊を溶かして下に落ちてゆく)。こうして水面に落ちてくるオタマジャクシを待っている敵もいて、例えばイモリなどがパク、パクと食べてゆく。生き残ったオタマジャクシはカエルニ成長すると、上陸して水辺を離れ森に行く。小カエルが大きくなって繁殖することができるようになるまで数年かかるが、その間は池に戻ることはなくずうっと森で生活する。
日本には、モリアオガエルをふくめアオガエルが5種類いる。アマミアオガエル、オキナワアオガエル、ヤエヤマアオガエルはそれぞれその地方に棲息。そしてモリアオガエルのほかにシュレーゲルアオガエルがいて、本州では両種がともに見られる地域もあって、見分けるのが難しいこともある。(ここで両種の鳴き声を聞く。)モリアオガエルは、「コ コ コ カッカッカ」というようなすんだとぎれとぎれの声、シュレーゲルアオガエルは「コロコロロロ」というようなカジカのようなきれいな高めの声。カエルで鳴くのは雄だけで、鳴き声は雄から雌へのラブコール。
●6月29日「蝶を呼ぶ庭づくり」 (略)
●7月6日「ハシビロコウ」
(ハシビロコウのバードカービング=全長は10cm余と小さい、実際はコウノトリの仲間で全長140cmもある)を見ながら、全体にグレーで、羽は黒に近い濃い色。くちばしがっ太く、英名の shoebill または shoebillwhaleheaded stork は、くちばしが靴(アルプスの少女ハイジが履いていた木靴)のような形をしていることから[whaleheaded は頭も大きいことから。漢字では、嘴広鸛]。(くちばしは象牙色をベースにちょっと赤味がかった部分もある。)見た目は、強面に見える。実際に接してみるととてもかわいい。
この鳥の一番の特徴は、動かないこと。実際に見られる姿は、立ちすくんでじいっと動かないでいる姿が多い。これは、餌の捕り方に関係している。ハシビロコウの原産はアフリカ中央部の湿地帯で、水辺で魚や蛙などの水生動物を餌にしている。その中でもとくに肺魚を好んで食べる。(肺魚は肺で呼吸するので)肺魚が出す空気の泡が水面にプクプクと出てくるのをじいっと待っていて、それを頼りにそれをめがけてがばっと俊敏に餌を捕える。ほとんどの時間は、待ち伏せして動かないでいる。
この鳥は指が長くて、2本の脚の指が交差して重なっていることがある。見ていると、前に出ようとして、下になっているほうの脚を出そうとして、その上に重なっている別の脚の指のために出られないでいることがあり、何度か試みてようやく上に重なっているほうの脚を出して前に踏み出していることがある。伊豆シャボテン公園で飼育しているハシビロコウを観察するために何度も通ったが、ハシビロコウはよく覚えていて、こちらがお辞儀をするとハシビロコウも返してくれ、さらに、「ビル」(このハシビロコウの名前)と声をかけると、コウノトリの仲間に特徴的なクラッタリング(くちばしを上に向けて、上下のくちばしを合わせてカ カ カと音を出す)をしてくれたこともある。
●7月13日「ウミヘビ」
ウミヘビには、魚類に属するグループと爬虫類に属するグループの2グループがある。
(写真を見ながら)魚のウミヘビには、鰓があり、また背には背鰭もある(腹側にも鰭がある)。魚のウミヘビは、細長くて、ウナギの仲間。
爬虫類のウミヘビは、ヘビ亜目のコブラ科の仲間で毒を持つ。コブラ科のウミヘビ亜科に属し、日本にはウミヘビ亜科が9種いる。写真は2枚ともエラブウミヘビで、1枚は黒と白の縞模様、もう1枚は黒と茶の縞模様。黒白の縞模様は若く、年を取ってくると褐色ないし黄色になってくる。地元ではエラブウナギとも呼ばれ、1.5mくらいの長さまで大きくなり、南西諸島からフィリピン、オーストラリア、インド洋にまで分布。
爬虫類のウミヘビは肺呼吸で、水面に出てきて呼吸する(短いと30分に1度、長いと1時間から2時間に1度呼吸するために海底から水面に出てくる)。陸のヘビよりもウミヘビは肺がだいぶ大きいようだ。ウミヘビはサンゴ礁のあるような所に住んでいて、夜行性で夜になるとサンゴ礁の間にいる小さなたくさんの魚を餌にしようとして海に適応していったのではないか。毒が強くて、ハブの80倍、コブラの10倍も毒性が強いという。噛まれても血清がないため、死ぬこともあるという。ただし、ウミヘビは寝込んでいる小さな魚を餌にしているので、陸のヘビのように敏捷でなく攻撃的でもない。無謀なことをしないかぎり、噛まれたりすることはない。沖縄や奄美では、古くからこのエラブウミヘビを燻製のようにして食べていて、今でも郷土食として出されることがある。
● 7月20日「ネジバナ」
ネジバナは、名前(捩花)の通り、螺旋状にねじれて花がさく草。町中の公園や庭や芝生など背の低い草地の中に生えていて、身近な花。別名「モジズリ」とも言う。
(写真を見ながら)草地に垂直に緑色の茎が立っていて、その茎を中心にぐるりぐるりと、小さな花が30個前後(多い時は40個くらい)回りに螺旋状に付いている。草丈は、大きいもので30cm前後(それより小さいものもある)。
螺旋の向きは、右巻き左巻きの両方があって、調べてみると、だいたい半半くらいの割合。巻き具合はいろいろで、二重・三重に巻いているものもあるし、中には巻かずに片側だけに花が薙刀のように連なって付いているものもある。花は5mmもないくらい小さくて、虫眼鏡で見ると、花びらは6枚で、そのうち1枚は白く、その他5枚はピンク。その白い1枚は、少し大きくて縁がフリルのように波打っている。この白い花びらは唇弁と呼ばれ、唇弁はラン科の植物の特徴。ネジバナもランの仲間。ランの仲間には、コチョウラン、カトレア、シンビジウムなどいろいろあるが、いずれにも変った、色も異なった唇弁がある。ネジバナにもちゃんとランの特徴が見られる。
ネジバナは、ほぼ日本全土に分布。ただ奄美以南にはナンゴクネジバナという変種がある。また、たまにピンクではなく全部が白いものもあって、シロバナモジズリなどと呼ばれる。
ネジバナは南ほど早く咲くが、だいたい5月から8月にかけて咲き、関東地方では今ごろ。これとは別に、9月から10月に咲くものもあって、アキネジバナとか秋咲きネジバナと呼ばれているが、これは種類が違うのではなく、同じ品種で花の時期が異なるもの。
ネジバナにも菌(キノコの種類)が共生している。植物と菌類には深い関係があり、例えば、ランの仲間のキンランと菌の関係、松と松茸の関係など。ネジバナの種は、1mmの何分の1くらいのごく小さなもので、ほこりのようなもの。とても軽くて中に栄養になるものがなく、菌から栄養をもらって発芽している(菌に助けられている)。ネジバナは芝生などでかたまって見られることが多いが、おそらくネジバナの親のすぐ近くには菌類があって、そのおかげで子どもが育ちやすいからだろう。
*キンランやギンランは、自ら光合成を行い、緑色植物にも見えるが、菌類からの栄養が無いと生育できず、部分的菌従属栄養植物と呼ばれる。
●「7月27日セミの観察」 (略)
●8月3日「アジサシ」
アジサシは日本には夏鳥としてやってくる。今ころよく見かける。アジサシは、世界で44種、そのうち日本で見られるのは20種ほど(日本は海に囲まれた島国なので、アジサシがよくやってきて世界のアジサシ大国と言える)。その20種のうち、日本で繁殖が確認されているのは8種くらい。アジサシは南方系の鳥なので、南西諸島や小笠原諸島で大部分は繁殖し、本州で繁殖するのはコアジサシとアジサシ。
アジサシは渡りをして、日本にも繁殖や通過で来ているが、キョクアジサシは、北極で繁殖し、南極で越冬する。そして、北極と南極の間を渡りするが、その距離は最近の発信器を付けた調査で6万キロにも及ぶことが分かった。(北極と南極の間は直線的に真っすぐ行けば2万キロだが、地球には貿易風などいろいろの大気の流れがあって、それに乗って飛んだほうが省エネになり、遠回りしているようだ。)
コアジサシは一番小さなアジサシで、全長23cmくらい(ツグミなどと同じくらい)。(写真を見ながら)黄色のシャープなくちばしで、羽が鋭角に伸びている。
アジサシの「アジ」は、魚の鯵、「サシ」は「鳥刺し(竹ざおの先に鳥もちを塗って鳥をとらえる方法)」の「刺し」で、魚を(刺すのではなく)つかむようにとることから。アジサシは空中にホバリング(空中停止飛行)をして狙いを定めて魚をつかまえる。(アジサシは生きた魚しか食べない。)
(写真を見ると)黄色のくちばしは先がとがっていて、このとがったくちばしで突っ込んで行って魚を刺すのかと思ったが、そうではなく、くちばしでくわえている。
東京都の下水道処理場の平らな屋上で2001年から(都やNPOの環境団体の協力もあって)コアジサシが繁殖して子どもが巣立っている。できれば、自然の環境で繁殖して増えてほしい。
●8月10日「魚の親子」
魚は大部分は卵で生まれるが、サメやタツノオトシゴなど一部は子どもを産む。子どもを産む場合は、親と子はほぼ同じ形。卵から孵化してしばらくの間は、透明な体でプランクトンとして浮遊生活をする。その時期が過ぎて、体に色が着いてくると、親と同じような形、同じような模様になってくる。アジやタイなどその例だが、中には形は同じでも、模様が大きく異なる、あるいは一部模様が異なるものもいる。見た目はまったく似ていない親子の話。
チョウチョウウオ:サンゴ礁に多く、扁平な形で、ひらひらと泳いでいる。(写真を見ながら)体は扁平で、黄色と黒のコントラストが目立つ。幼魚は、体の後ろのほう(尾鰭の上の辺)に、回りが白く縁取られた黒の円い模様があり、目立つ。これは目に似ているので目玉模様と呼ばれる。他の魚がこの目玉模様を見て、こちらが目のある頭部だと思って襲うと、幼魚は後ろから襲われて、本当の頭のほうに向って逃げて行ける。このような防御のために、目玉模様があるのではと考えられる。
親とまったく異なる模様のあるものとして、まずベラの仲間。この仲間もサンゴ礁に生息するカラフルな魚。成長とともに斑紋が大きく変化していく種が多い。カンムリベラの親子の写真。親は青味がかったグレー、幼魚は白っぽくて鮮やかなオレンジ色の斑点がありまだら模様にもなっている。どうしてこんなに親と子で見た目が違うのか?
次に、タテジマキンチャクダイ。これもサンゴ礁にいるきれいな魚。親は40cmくらいになり、鮮やかな黄色、一部ブルーの筋の縞模様になっている。幼魚の時は、サザナミヤッコの幼魚とほとんど同じ模様で、青の地に白の渦巻きのような曲がった白の筋が入っている。
タテジマキンチャクダイとサザナミヤッコは、見た目は親では違うが、子どもではほとんど同じなのはなぜか?青い色は、ウミウシなど毒を持った生き物に多く、それに似せているのかもという説がある。また、親は、海藻やカイメン、ホヤなど動かない植物的なものを餌にしていて、自分の縄張りを持っており、そこに自分と同じかっこうのものがいると追い出そうとするので、幼魚は親の強い縄張り性を避けるためにまったく異なった姿になっているのかも。(サザナミヤッコも、スズキ目キンチャクダイ科で、キンチャクダイ科の多くは成魚と幼魚とでまったく違う模様をしている。)
*サザナミヤッコの外見(Wikipediaより):体は左右に平く体高が高い。体長は成魚で40cmほどになる。全体に暗褐色だが体の中央に白色の太い横縞が入る。白色の部分には黒色の、暗褐色の部分には水色の斑点が多数ある。鰭や鰓は青い蛍光色で縁取られている。目の周りにもアイシャドーのように青色の縁取りがある。口吻は黄色で小さい。背鰭と臀鰭が後方に伸びているため全体は砲弾のような形をしている。幼魚のときは体の模様が全く異なり、黒地に白色と青色の湾曲した細い横縞が多数入る。
●8月17日「ヤマゴボウ」
色水(植物をつぶして色を出す)でよく使われるのが、ヨウシュヤマゴボウ。成人の背丈近くまで大きくなって、30cm近くもある楕円形の葉をつけ、径が7、8mmの実がブドウの房状になって垂下がって着く。実は表面は黒だが、中には濃い赤紫の果汁が入っていて、、その実をつぶして赤紫の色水にした。
ヨウシュヤマゴボウは、北米原産で、明治時代に入ってきた外来種。日本には、ヤマゴボウ科の植物として、このヨウシュヤマゴボウ、ヤマゴボウ、マルミノヤマゴボウの3種がある。ヤマゴボウは、おそらく中国から生薬として持ち込まれたもの。マルミノヤマゴボウは、日本原産だが、山でしか見られない(ふつう道端などで見られるのはヨウシュヤマゴボウ)。マルミノヤマゴボウは、丸い実が、ブドウの房状に垂下がるのでなく、それぞれ直立してたくさん着く。
野菜として売れているゴボウは、菊科の植物で正式名もゴボウ。山菜として食べる(漬物の)ヤマゴボウは、通称はヤマゴボウだが、ヤマゴボウ科とはまったく別で、アザミの仲間の根をヤマゴボウとして食べている。ヨウシュヤマゴボウなどヤマゴボウ科のものは、野菜のヤマゴボウの根に似ているので、ヤマゴボウと名付けられた。ヨウシュヤマゴボウなどヤマゴボウ科の植物には毒があり、山菜として食べるヤマゴボウのように根を食べてはいけないし、実も食べないほうがよい。
● 8月24日「ハイイロチョッキリとコナラシギゾウムシ」
2種類とも、ゾウムシという甲虫の仲間。ハイイロチョッキリは、チョッキリゾウムシと呼ばれる仲間。コナラシギゾウムシも、シギゾウムシというゾウムシの仲間。
8月末から9月初めに、雑木林の道の上に、ナラやクヌギなどの、緑の葉が4、5枚付き緑のどんぐりが付いた枝がいっぱい落ちている(枝がすぱっと切れている)。これは、ハイイロチョッキリがどんぐりに卵を産み、その枝を切ったもの。葉の付いた枝が落ちていたら、それはハイイロチョッキリの仕業だと思ってよい。
ハイイロチョッキリは、木の10m前後もある上にいるのでなかなか見られない。(写真を見ながら)どんぐりの上に、1cmもないような、黒い頭をした緑っぽい甲虫がいる。口が長くて、これはどんぐりに穴を開けるため。長い口を、ペンチや釘抜きのように使って、どんぐりに穴を開け、枝を切っている。これをするのは雌だけ。
卵を産みつけたどんぐりを切り落とすのは、卵から育った幼虫は地面の中に入って蛹になるが、あらかじめ地面の上に落としておいたほうが幼虫のためになる、また、地面のほうが木の上よりも乾燥しないから。
どんぐりが単体で落ちていて、それに穴が開いている時は、コナラシギゾウムシの仕業。コナラシギゾウムシがどんぐりに穴を開けて卵を産み付けるのは、ハイイロチョッキリよりも10日くらい遅く、どんぐりが少し熟してちょっと堅くなっている。どんぐりの中の卵から幼虫になって間もなく、どんぐりが地面に落ちて、その中で幼虫が大きくなって、地面の中に入って育って蛹になる。コナラシギゾウムシは、長い口を持っているが、それをドリルのように使って穴を開ける。地面の中のコナラシギゾウムシの幼虫が蛹になるのには時間がかかって、次の年あるいは次の次の年になることもある。
● 8月31日「ハト」
日本で見られるのは、ドバトを含めて8種類。ドバトは堂鳩から来ている(以前はお寺や神社など限られた場所にいたが、今は増えて都市にふつうに見られるドバトは、もともとカワラバトなどを人が管理・飼養していたもので、それが今は半野生化している)。また、埼玉県の一部にはシラコバトがいるが、これは海外から移入されて居ついたもの。日本にむかしからいた野生の鳩は、キジバト、アオバト、カラスバト、ズアカアオバト、キンバト、ベニバト。
(キジバトの鳴き声を聴く:デデーボッボーというような感じ。)(キジバトの写真を見ながら)全体は茶色がかったグレーで、羽は濃い焦げ茶色で先のほうは赤味がかっていて薄くなっている。大きさは全長35cmくらいで、ドバトなどと同大。一見茶色系で地味だが、近くでよく見るととてもきれいで、茶色に見える所にも、ベージュや赤や青など色の変化が見られる(バードカービングで腕の出しどころ)。
次に、アオバト。番の写真を見ながら、頭部は黄色に近い緑色で、羽から尾にかけては濃淡のある緑色。雄のほうは、羽の肩口の辺が赤紫になっている。(鳩はふつう羽の色は雄と雌で区別はつかないが、アオバトは雄と雌で羽色が違う)。
アオバトの行動で特徴的なのは、海水を飲むために、山から海岸にわざわざ降りてくる。(海水を飲みにくるのはアオバトだけ)海に口をつけるとかではなく、ごくごく海水を飲んでいて、時には波にさらわれたり(ハヤブサなどに襲われたりする)リスクをおかしてまで海水を飲んでいる。その理由は分かっていないが、アオバトは穀物食で、ミネラル分を補うために海水を飲んでいるという説もある。さらに、全国どこでも海水を飲むのが見られるのでなく、主に神奈川県の大磯海岸でよく見られる。また、飲みにくるのは、だいたい繁殖期に限られている。
多くの野鳥では、虫が大発生する初夏から夏にかけて繁殖する種類が多い(それは、栄養価の高い虫を餌にするから)が、鳩の場合は、繁殖期が長くて9月末までは十分に繁殖している。鳩の子育てには特徴がある。鳥の消化器官では、胃の前にそ嚢というもの(食べた物を胃に送る前に一時的に貯めておく器官)があるが、鳩の場合は、そのそ嚢の内壁が剥がれて液体を生成する。その液体を雛にあげることで子育てをしている。その液体はピジョンミルクと呼ばれ、ミルクと言われるようにその液体は栄養価が非常に高く牛乳と同じくらい栄養価があると言われている。このようなミルクを子育てに使っているのは鳩以外の一部の鳥(フラミンゴ)にも見られるが、鳩はピジョンミルクを使うことで繁殖期を長くすることができている。鳩の親は、そ嚢から吐き戻したピジョンミルクを口移しで雛に与えている。
● 9月7日「フジツボ」
フジツボは、海岸で岩にたくさんまとまってくっついている。干潮の時には海面の上に出てくるので、足を切ったりなどしないよう注意しなくてはならない。堅い殻があるので貝のようにも見えるが、エビやカニの仲間、甲殻類。節足動物、甲殻類、フジツボ亜目に属し、世界で200数十種、日本で30数種いる。
(写真を見ながら)水槽の側面に、富士山のような円錐形のものがくっついている(大きさは 1cmくらい)。よく見ると、富士山の山頂のような所から、もやもやした触手・紐のようなのが出ている。これは蔓足と言って、蔓のように身体の中に巻いておいてそれを伸ばして外に出し、それを熊手のように使って海中のプランクトンを集め、食べる。蔓脚にはいくつも節があり、その節でかくかくと曲げて身体の中に収納できる。このように節があるので、節足動物。蔓脚がエビの足に当たり、貝の殻のように見えるのがエビの甲羅に当たる。
19世紀初めころまでは、(エビなどと形があまりに違うので)貝の仲間と科学的にも考えられていたが、子どもを育ててみると、幼生はエビなどと同様で、また身体の中には節のある蔓脚があることからエビの仲間と認められるようになった。フジツボは、脚を上にし頭を下にして岩にくっついている。
どのようにしてくっついているかと言うと、自分で接着剤を海中に出して、堅い殻を岩にくっつけている(中には、岩ではなく、亀の甲羅や鯨にくっつけるものもある)。堅い殻をこのように水中でしっかりと岩などにくっつける接着剤(水中接着セメントと呼ばれる)は、人間はまだ作れておらず、フジツボの接着剤を参考に研究されている。
一度くっついてしまうと、離れられず動けない。どうやって相手と交尾するのか。フジツボは雌雄同体で1つの身体の中に雄と雌の器官がある。また群でたくさん密着して集まっている。それで、1つのフジツボが、雄の生殖器を伸ばして隣接するフジツボの雌の器官に精子を送り込む。雄の生殖器は自分の体の数倍も長く伸びて隣りの雌の器官に達するという。生殖後、卵が雄の器官から産まれて、エビの幼生と同じようなプランクトンになり、1月ほどして、自分の仲間がいる岩場に着底する。
フジツボは、エビやカニと同じく食べられる(味噌汁に入っていたのを食べたことがあり、エビのような味がするとか)。ミネフジツボという大型の種は「ツボガイ」と呼ばれて食べられている(主に青森県産)。
チリでは、世界最大のピコロコというフジツボがあり、食べている(ピコロコの殻を持参。大きさは10cm近くもあり、たたくとカチカチと堅そうな音がする。見た目は大きな石ころのようで、歯のように硬い感じだとか)。
● 9月14日「クルミ」 (略)
● 9月21日「クロアナバチ」
クロアナバチは、黒くて穴に住む蜂。今ころ、巣をつくり、獲物を捕え、卵を産み、子育てをする。クロアナバチは狩り蜂として有名。クロアナバチがつかまえる獲物は決まっていて、クサキリ、ウマオイ、ツユムシといった小型のキリギリスの仲間。 フジツボは、エビやカニと同じく食べられる(味噌汁に入っていたのを食べたことがあり、エビのような味がするとか)。ミネフジツボという大型の種は「ツボガイ」と呼ばれて食べられている(主に青森県産)。
(写真を見ながら)頭部は白っぽく、黒い大きな目。胴体はほぼ黒。細長くて、25〜30mmくらいの大きさ。(クサキリを狩りしている数枚の写真を順に見ながら)クサキリに背中から覆いかぶさるようにして捕え、クサキリの首にクロアナバチの尾の先端が刺さっり、麻酔がかかっている(死ぬわけではない)。幼虫は10日くらいかけてこの獲物を食べて育つが、殺さずに麻酔をかけて動けない状態だと、ずうっと新鮮なまま食べることができる。虫には首の所に運動神経節があり、そこに麻酔効果のある毒を注入すると動けなくなる。
クロアナバチは、狩りをする前に地面に穴を掘る。それも、地面に巣穴として3本掘り、実際に使うのは真ん中の穴だけで、両側の穴はフェイクで、幼虫の敵になるハエなどに食べられるリスクを少なくしている。
真ん中の穴は50cmくらいは掘り、その先に、1つから3つの部屋があって、その1つに卵を1個産む。そしてその穴に予め獲物のクサキリなどを入れておく。卵を産んだ後は、また別の穴を彫り、獲物を捕えて穴に運び、卵をむ。そうすることで、卵を少なく産み安全に育てることができる。
クロアナバチの穴は、乾燥した草のない地面をクロアナ蜂が歩いているのを見つけると、その近くに見つけることができる。ほぼ毎年、8月から9月にかけて、同じ場所に穴を彫っている。
● 9月28日「カケス」
日本にはカケス類としては、カケス、ミヤマカケス、ルリカケスの3種が主に見られる。カケスは、主に本州、四国、九州に、マミヤマカケスは北海道に分布し、ルリカケスは世界でも鹿児島県の奄美大島と徳之島だけにいる珍しい種。
カケスの鳴き声を聴く。ゲエー ゲエーというような、しゃがれた声。むかしこの鳴き声をガゲー」と聞きなして、それに鳥を意味する接尾辞「す」を付けて「カケス」になったとか。
ルリカケスはカケスよりやや大きくて全長38cm(尾が少し長い)。全体にきれいな青で美しい。
カケス類はくちばしがずんぐりしていて、どんぐりを好む。どんぐりを丸呑みして貯食しておく(カケスの貯食については、
野鳥シリーズ52 カケス参照。カケス類がドングリを広い範囲に分散貯蔵することで、ナラなどの森の育成に貢献していると言う。)
●10月5日 「オニオコゼ」
オコゼ料理に使われるのは、ほとんどこのオニオコゼで、高級魚。
(写真を見ながら)驚きの見田目。全体に丸いが、表面がごつごつしている。房状の突起やイボなどがあって、サバなどすらっとした体形ではなく、体がごつごつしている。
オニオコゼは、海底にじっとしていることが多い。そのため、回りの岩肌に似せたり、砂の中に潜っていることも多いので、それに似せているのかも。色は灰色で砂に同化しているよう。目は上を向いて突き出ており、大きな口が横に広がって上向きに開いている。(何度か触った桑山先生の「海の番人」という木彫は、このオニオコゼを参考にしているようで、以上の説明とほぼ同じような形だった。なお、オニオコゼという名は、その顔が鬼のように怖そうなことから。)
半分砂の中に潜って、上を通る魚を上を向いた目で見つけ、それを大きく開いた口で丸呑みする。全長は20cmくらい、もっとも大きいものでは30cmくらいになる。胸鰭の一部が指のように2本別になっていて、それを動かして砂の上を這うように動く。少しは泳ぐ。
見た目では、とげとげしい背鰭も目立つ。とげの先は毒腺になっていて、刺されるととても痛い。背鰭はふつう1枚に連なっているが、オニオコゼでは指を広げたようにいくつかの突起が立っている。この毒腺は、餌を取るのには使わず、外敵に襲われた時にだけ使われる。
5月から7月ないし8月までが繁殖期。オニオコゼは高級魚で栽培漁業が行われており、卵を孵化させてこの時期に3〜5cmくらいになった仔魚を海に放つ。ふつう魚は放流するとその場から離れてどこかに行ってしまうが、オニオコゼは海底にじっとしていることが多く、放った場所近辺に居続け、また、他の魚に比べて、(背鰭に毒があるので食べられそうになってもはなしてしまうことが多いようで)生き残る割り合いが高く、栽培漁業者にとっては育てやすい魚。西日本では100万匹くらい放流しているのではないか。
● 10月12日「カラスウリ」
今は、里山を歩いていると、カラスウリの熟した実が目立つ時期。橙色で、長さ6〜7cmくらいのラグビーボール型の実がたくさん見られる。
カラスウリは名前の通りウリ科の植物で、東北地方から九州まで広く分布。つる植物で、光を好むので、陽当たりのよい林の縁で樹木に巻きついて成育する。
カラスウリの橙色のきれいな実はよく知っていても、カラスウリの花を見た人は少ないだろう。カラスウリの花は夏に咲き、とても目立つが、昼には咲かず、日暮れてから開き、夜明け前に閉じる。でも、夜見るととても美しい花!
(写真を見ながら)純白の花で、5つの花びらに別れ、花びらの先端や縁から糸状のレースのようなのが垂れて、全体としては直径10cmくらいになっている。見方によっては、線香花火の火花が散ったように見えるかもしれない(線香花火の火のところが花びらで、そこから火花が四方に散っている)。
カラスウリの実を割ってみると、やわらかい赤い果肉の中に黒い種が入っている。種は面白い形をしていて、長さ1cmくらいで、クロワッサンのような形。これを、七福神の大黒さんが持っている打ち出の小づちに似ているとして、財布に入れておくとお金がたまると、縁起物にもなっている。
カラスウリには雄株と雌株があり、実がなるのは雌株だけ。カラスウリはこの種でも増えるが、つるの根元、地中に芋があり、この芋でも増える。カラスウリの地上部は冬になると枯れるが、地中の芋は残っていて、春になるとその芋からつるが伸びてきて増える。さらに、つるは春から夏にかけては上へと伸びるが、秋になるとつるが下のほうに伸びて、つるの先が地面に着くと、そこから根を出して芋をつくり、増えてゆく。だから、種でも増える、芋でも増える、つるの先からできる芋でも増えると、とてもたくましい植物。
カラスウリの仲間に、黄色の実ができるキカラスウリがある(北海道から九州まで分布)。このキカラスウリの芋の澱粉は、天花粉(今のベビーパウダーに当たる)に使われていた。今はベビーパウダーには鉱物などが使われるが、キカラスウリの芋から取った澱粉を以前はベビーパウダーとして使った(天花粉は天瓜粉とも書く)。
● 10月19日「世界でもっとも怖い虫」 (省略)
● 10月26日「カラス」
今の時期は、夏鳥が去り冬鳥がまだあまり来ていない、いわば鳥の端境期で、カラスの存在感が増す時期。日本には5種類いて、ハシブトガラス、ハシボソガラス、冬になるとやって来るミヤマガラス、コクマルガラス、ワタリガラス。
ハシブトガラスとハシボソガラスの違い:ハシブトは額からくちばしにかけてそれぞれふくらんでいるが、ハシボソは額からくちばしにかけてすうっとつながってくちばしが流線形になっている。鳴き声は、ハシブトはカアー カアーと、すんだ響きわたるような声、ハシボソはガアアア ガアアアと、濁ったざらついたような声。また鳴く時の姿勢も違っていて、ハシブトは身体を前のめりにして前傾姿勢で鳴くのにたいし、ハシボソは上体をおこして立ち上がった姿勢で鳴く。
ハシブトとハシボソは一緒に見られることも多いが、ハシブトは都心に、ハシボソは郊外の開けたような場所に多く見られる。ハシブトは英名でも Jungle Crow と呼ばれるようにもともとは樹林帯に住み雑食性だったが、都心のビル群と多くのゴミ(雑食がいっぱい)の環境に適応したとされる。
カラスは知能が高いことでも有名。ニューカレドニアにいるカレドニアガラスは、道具を作ることで知られている。枝などの素材を加工して、フック状の道具を作り、餌となる虫を狭い場所から引きずり出して食べる。また日本でも、クルミの木の下からひろってきたクルミを、車に轢かれる可能性の高い道路に置いて、車に轢かれて割れたクルミを食べることは有名。
● 11月2日「マツカサウオ」
大きさは10cmくらい、大きいものでも15cmくらい。一般には食用にはされずあまり知られていないが、ユニークなかたちをしている。(写真を見ながら)横に平たくて、全体に淡い黄色で、黒の網目のような模様が見える。全体にごつごつした印象。黒く見えているのは、1つ1つの大きな鱗の縁が黒く縁どられているから。立てて見ると、松ぼっくりそっくりに見える。
キンメダイ目マツカサウオ科。世界にわずか4種、日本には1種のみ。夜行性で、昼間は岩穴や岩の間にいて、夜に小さなエビなどを食べる。北海道南部から南日本日本、さらにインド洋まで広く分布。鱗はよろいのような役をし、丈夫。各鱗の中心部が盛り上がり突起があり、そのとげがほぼ直線的に列になっている(7列くらい見える)。さらに背鰭と腹鰭には、太い大きなとげがある。岩陰などで相手に襲われると、この背鰭などのとげを立ててロックし倒れないように固定する。
体がとても硬いために、ふつうの魚のように体そのものを曲げて泳ぐことはできず、尾鰭などを振ってしか泳げず、泳ぎはへた。守る戦略で生き延びてきたと言える。
もう1つ特徴があり、この魚は発光する。下顎の黒い所のあたりに米粒ほどの発光器を持っていて、発光細菌を共生させて光る。チョウチンアンコウなどと同じだが、その光はとても弱く、回りをほぼ真っ暗にすると、下顎あたりが黄色く光っているのが見える。マツカサウオが発光することは、大正時代に魚津の水族館で夏に停電があり、その時に暗い中でマツカサウオが光っているのが偶然見つかったとのこと。こんなにも弱い発光が何のためなのか、油壺マリンパークの人が調べてみた。明るい所では発光せず、暗い所で発光し、餌のある時に明るくなるという。少しの明りでも、小さなエビなどが集まってきたり、あるいはそれらお食べるのに役立っているかもしれない。
● 11月9日「ガマ」
「因幡の白兎」の話:サメに皮をはがされて痛がっていたウサギに、大国主命が、体を水で洗って蒲の穂を敷いてその上を転がったら治るよと教えた話。ここで言う蒲の穂は、ガマの実の集まり。(ガマの実の写真を見て)見た目はフランクフルトソーセージにそっくりで、表面に焦げたようなパウダーが付いている感じ。
ガマは、ガマ科に属する多年草で、池や沼などの湿地を好み、以前水田だった所にもよく見かける。大人の背丈ほどにもなる草で、ガマの実は秋から冬にかけて熟す。ガマ実は1mmくらいととても小さく、それが何万個も集まったのが、このソーセージのようなガマの穂。
ガマの実の1つ1つにはそれぞれ綿毛がついているが、実が外側、綿毛が茎に近い内側になっていて、見えているのは実の部分だけ(タンポポでは、種についている綿毛は外側になっていて、全体としては綿毛がまとまって球形に見えている)。このガマの穂は、熟して乾燥してくると、指で触れるなどちょっとした刺激で、はちきれるように綿毛が外側に反転して、ふわふわの食べかけの綿菓子のようになる。こうして、実を広く散布する。むかしは、このふくらんだ綿毛を集めて布団に詰めたという話もある(ふとんは蒲団とも書く)。
因幡の白兎の話に戻って、このふわふわのガマの綿毛はウサギの毛になりそうな気がするが、そうではない。因幡の白兎の話は『古事記』に出ているが、そこではガマの穂ではなく「蒲黄(ほおう)」となっている。蒲黄はガマの花粉のことで、これは漢方薬としては止血効果がある傷薬とされる。ということは、大国主命は白兎にガマの穂ではなくガマの花をすすめたことになる。ガマの花は7、8月ころに開花。ガマの花には雄の花と雌の花があり、茎の上のほうに雄の花が集まり、下のほうに雌の花が集まって、2階建てのようになっていて、雌の花がソーセージのようなガマの穂になる。今は雄の花の痕跡として穂の上に軸があるだけだが、花の時期にはこれに黄色の花粉がいっぱい付いていて黄色く見えていた。
●11月16日「ナナフシ」
枝そっくりの擬態する昆虫。わりあい身近な所にいて、都市の公園などにもいる。(写真を見ながら)緑の枝にもう1本枝がくっついているように見える。(これはエダナナフシと呼ばれる種類で、緑のほかにも茶身などいろいろある。ナナフシと言えば、多くはエダナナフシ。)よく見ると、棒から足4本が見える。さらに、頭の部分から前足2本をまっすぐ伸ばし、2本の足をぴったりくっつけて1本の棒のように見える(前足の付け根部分は細く湾曲していて、その間に頭がすっぽり入るようになっている)。
ナナフシは夜行性で、昼は枝にぴったりくっついて休み、夜に動き回って食べたりする。暖かい地方では冬にも動いているが、寒い地方では冬には卵になる。(卵の写真を見ながら)見た目は植物の種みたいで、数mmの小さな楕円形で黒くつやがあり、地面に落ちていて、識別するのはなかなか難しい。(これも擬態のよう)。(別の種のナナフシの卵を見ながら)小さなしわしわで模様になっている。
ナナフシをつかむときには、足に触わらないようにする。足はとても取れやすくなっていて(とくに前足)、足が取れやすい仕組みになっているようだ。鳥などに襲われると、足をはずしてそれに注目させて、隠れている。ナナフシは何回も脱皮するので、その度ごとに足は再生する(とかげの尻尾切りみたい)。ただし、脱皮を終えてしまった大人は再生できない。
●11月23日「赤い鳥いろいろ」
●12月1日「タチウオ」
●12月7日「ビワ」
◆2020年
● 1月4日 「センリョウ」
センリョウは、赤い実を付け濃い緑色の葉が付いた枝を正月飾りとしてよく使われる。赤い鮮やかな実はおめでたい感じがする。クリスマスの時のヒイラギも赤い実と緑色の葉。日本やヨーロッパのような、寒い冬と暖かい夏がある温帯地方では、寒い冬に赤い実と緑の葉を飾るというのは共通していて、おそらく生命力の象徴としてこのような緑の葉と赤い実が好まれるのだと思われる。
しかし、センリョウは亜熱帯の植物で、東南アジアから日本にかけて自生し、日本では北限が関東の南(神奈川県の南や千葉県の南端)。常緑性の低木で、1mくらいにしかならない。自生の北限は関東南部だが、切り花の千両の産地は茨城県の南部で、自然の分布域からははずれている。。この地域では千両を畑で生産しているが、畑の四方および上を竹簀(葦簀は葦の茎を紐で編んでシート状にしたものだが、細く割った竹で同じように作ったもの)で覆っている。千両は亜熱帯の暗い森に生えている低木で、強い光を嫌う。強い光だと焼けたり乾燥したりするし、強い風も嫌う。竹簀で風除け・日除けした薄暗い畑で大事に育てられる。竹簀で亜熱帯の森を再現しているとも言える。
千両の赤い実を取ってそのまま地面にまいても、中に種が入っているにもかかわらず芽は出ない。(このような植物は、千両以外にも多い。)赤い実の果肉の中には発芽を抑制する物質が含まれている(木の枝に実が付いている時に発芽してしまうと困る)。鳥がこの赤い実を食べると、果肉は消化してして、種は堅いので消化せず糞と一緒に出てきて、それが発芽する。真っ赤な実、真っ赤な果肉は鳥にたいするアピールで、その赤い果肉を鳥に取り除いてもらうことが大事。
奄美大島など亜熱帯の常緑の森の中は冬は陽も弱くて薄暗く、その中で赤い実はとても目をひく。
●1月11日「縁起の良い昆虫」
縁起の良い虫としては、日本ではまずタマムシ。黄金虫のようなかたちで細長い体で、色が鮮やかな虹色というか、赤・緑・青など、とても美しい。玉虫色は、このタマムシから。日本にはタマムシが何種もいるが、その中でヤマトタマムシが一番美しく大きいく、一般にタマムシと言えばヤマトタマムシをさす。タマムシは古来より珍重されてきていて、例えば、箪笥の中に入れておくと着物に虫がつかないとか、着物が増えるとか言われたりする。そういう伝承は各地にある。また、一番有名なのは、法隆寺の国宝の玉虫の厨子。タマムシの翅を厨子に張ってとても美しいもの。1960年ころ?このレプリカを作ろうとして、そのときには5348匹のヤマトタマムシのはねが使われた。
美しい昆虫ばかりでなく、自然の中の美しいものをいろいろ飾りに使う例はよくある。昨年の10月末にニューギニアの最西端にある西パプアに行った。パプアニューギニアでは、踊りをする時に着飾る。頭に、カナブンのような緑色の黄金虫を並べて作ったベルトのようなのをつけ、その後ろに棒をさして、その棒の先にゴクラクチョウの美しい羽をつける。ときには、ゴクラクチョウの羽だけでなく、途中にトリバネアゲハ(蝶)の翅をつけることもある。西パプアに行ったのは、このトリバネアゲハの撮影のため。
今日紹介したいのは、その中の1種、ロスチャイルドトリバネアゲハ。(撮影した動画を見ながら)花から飛び立つ瞬間。黒が基調で、鮮やかな緑と黄がはえている。全体にパキッとした感じ。大きさはトリバネアゲハの中ではそんなに大きくはなくて、雄は十数センチ、雌は20センチ近く。
ロスチャイルドトリバネアゲハは、ロスチャイルド家にちなんだ名。ロスチャイルド家の2代ライオネル・ウォルター・ロスチャイルド(1868-1937年)は、幼少のころから動物が大好きで、銀行業には興味がなく動物の研究に没頭。今はロンドンに、ウォルター・ロスチャイルド動物学博物館がある。2代ロスチャイルドは、昆虫だけでなく鳥や動物など世界から大量の標本を集め、その中には今は絶滅した種類のものもかなりある。蝶だけでなく、ロスチャイルドの名の付いた昆虫はたくさんある。もちろん自分で行って見つけるのではなく、だれかを派遣して世界各地から集めた。1800年代末から収集し、このトリバネアゲハは1911年にこの名前が付けられた。その後、1970年までロスチャイルドトリバネアゲハは1匹も報告されていなかった。
花が開いて雨の中を飛ぶロスチャイルドトリバネアゲハの雌の動画:
ロスチャイルドトリバネアゲハのメスの飛翔(海野和男のデジタル昆虫記)。そこに添えられていた解説文:「ロスチャイルドトリバネアゲハはゴライアストリバネアゲハなどと比べて小型のトリバネアゲハだが、メスはやはり大きく立派だ。西パプア、アルファック山、標高2200m。」
●1月18日「冬に見られるフクロウ」
今の冬の季節に見られるフクロウとして紹介するのは、コミミズクとトラフズク。ともに「ズク」がついているが、この「ズク」については2つの説がある。「耳が付く」からきているという説と「耳が突く」からきているという説。ここで耳のように見られているのは、本当は耳ではなく、「羽角」という飾り羽。実際の耳は、目の下に左右大きな穴が開いている所があって、そこが耳。フクロウの耳は、左右の耳が上下に少しずれてついている。ずれていることで、左右の音の時間差で音を立体的にとらえることができ、狩りに役立てている。この2種のフクロウとも、ネズミをよくとらえて食べるが、この耳はネズミが落ち葉などでかさかさ音を立てるのによく反応しているようだ。2種とも狩りをするのは夜。夜行性のフクロウには夜に狩りをするのに適した体の仕組みがいろいろあって、今の耳のほか、よく見える目、音を出さずに飛ぶ羽の構造などある。
(コミミズクとトラフズクの写真を見ながら)両者はとてもよく似ている。1つ違いとして目立つのは、飾り羽、羽角がコミミズクのほうが小さい(コミミズクの名はこのことに由来する)。(以下略)
●1月25日「ネズミザメ」
ネズミザメは、ネズミザメ目ネズミザメ科ネズミザメ族。名前の由来は、体の色が鼠色であることと、顔がちょっと鼠っぽいから。(写真を見ながら)体色はグレー、鼠色、顔は鼻先が少しとがっていてなんとなく鼠かなあという感じ。大きくなると3mくらいになり、体重は170kgくらい。全体の形は、典型的なサメの姿。このサメの仲間には、ホホジロザメやアオザメなど、代表的なサメが多い。
このサメの鰭はフカヒレスープの材料にされる(フカヒレに使われるのはこのサメだけではない)。筋も淡白な味で、よく食べられ、また練り製品にも使われる。
ネズミザメは、北の海、ベーリング海、アラスカ海、オホーツク海、東北地方の太平洋岸から日本海岸に、海岸から外海の表面近くで30〜40個体の群で生息している。餌は、北の海にいるサケ、ニシン、ホッケなど、また北の海にまで行くスルメイカやサバなどおいしい魚とされているもので、人間からは害魚としてあつかわれる。雄は、5、6年で1.6mくらいになり成熟する。また雌は2mくらいになって成熟する。3mくらいまで大きくなるのには20年近くかかるのではないか。
ネズミザメは、寒い所にいるので、体温を回りの水温よりも高く維持している。(ふつうの魚は体温は水温と同じ)魚はふつう白と赤の筋肉で、鯛などは赤い筋肉が表面近くにあるが、サメは赤い筋肉が真ん中のほうにあり、持続して泳ぐのに使われる。中の筋肉の運動で出た熱で血液が暖かくなる。中の暖かい血液が外に向う流れと、体表近くの冷たい血液が中に向う流れがあり、内から外に向う暖かい血液のすぐ近くを流れる外から内に向う冷たい血液を暖め、体温を高く維持している。そうすることで、サケやニシンなど大型の魚を寒い海でも追跡して捕える運動能力を得ている。
*ネズミザメの生殖について、胎生で、母体依存型・卵食。子は母ザメの子宮内で自分の卵黄を消費して孵化するが、その発育はまだ未熟で、子宮の中に卵黄が卵巣から供給され、子ザメはこの卵黄を母体内で食べ、60センチメートルくらいになって春期に産み出される。生まれる子ザメの数は4、5尾である。
● 3月21日「カイロウドウケツ」
(標本を見ながら)白い網を編んだような筒状の物体。全体にラッパ状の筒の形をしているが、網目になっていて中が空洞で、透けて見える。大きさは、広いほうの直径が3cmくらい、長さが15〜20cmくらいで、硬いようだが、根元のほうは筆のような毛のようになっている[これは長い根毛状の骨片の束で、これで海底に直立している]。
これは海綿動物。海綿動物は多細胞動物の中でもっとも単純なもので、神経も筋肉もない。ゾウリムシのような単細胞生物は1つの細胞で餌を食べたりするが、そういう細胞がたくさん集まって体をつくっているような、あまり分化していないもの。
海綿は化粧などの時に使われるスポンジ。カイロウドウケツはスポンジにはならないが、普通海綿(モクヨクカイメン)から作られる。普通海綿は海綿動物の95%くらい。
カイロウドウケツは六放海綿綱(ガラス海綿とも呼ばれ、二酸化珪素でできている)に属するもので、形が変わっていたのでむかしから飾りなどに用いられていた。とてもきれいな造形なので、 Venus's flower basket(ビーナスの花籠)と呼ばれていた。深い所に住んでいて、それがたまたま海面に打ち上げられた理して手に入った。
カイロウドウケツは、水深数百メートルから千メートルくらいの海底、泥の海底にいる。日本では、ヤマトカイメンなどが駿河湾や相模湾、九州のほうにもいる。また、マーシャル海綿はマーシャル諸島のほうにいる。海底で移動はできない。
鞭毛を持っている細胞があって、それが集まって餌を取るところを作っている。回りはスケスケになっていて、そこから海水が入ってきて、鞭毛の動きで入ってきた水が上のほうの口から出て行くようになっていて、その途中で水に含まれている有機物を鞭毛で取って餌にしている。海の中では餌となる有機物はいつも流れてくるので、植物のようにいったんある場所に固着すると動かなくてもよい。(サンゴやイソギンチャクなども同様。)[ちなみに、リンネは『自然の体系』(1735)の初版で「海綿は海あるいは流水中に産する花も実も知られない植物である」とコケの仲間に入れていた。海綿類を最初に動物と認識したのはイギリスの動物学者エリスJ. Ellis。また、尋常小学読本(1887)〈文部省〉六には「海綿は、もと海底に生ずるものにして、世の人始めは、みな植物なりと思ひしが、近き頃に至りて、其動物なることを知れり」とある。]
じっと動かないでいることをいいことにして、カイロウドウケツの空洞を住処にしている動物がいる。そこに住んでいるのは長さ2cmほどのエビで、1匹のこともあるが、2匹入っている時は雄雌のペアになっている。いったんカイロウドウケツに住みつくと、そこで大きくなり繁殖し年を取って一生狭い空洞から出ることなく一生を終える。これが「偕老同穴の契り」という中国の言葉になった。ともに年を取り、死しても同じ穴に葬られるという意味。いちど夫婦になったら一生別れないという意味。この言葉は本来はエビについて言った言葉だが、それが住んでいる海綿をカイロウドウケツと呼ぶようになった。
● 4月4日「哺乳動物に魅せられて」
今回から登場の今泉忠明先生は、哺乳動物の本などをたくさん書かれていて、とくに「ざんねんないきもの事典」シリーズは、こどもたちの大人気。
どんな生物も進化していくなかで優れたものになっていくが、そのぶん、置き忘れてきたものがある。その点に注目したもの。例えば、ゴリラは非常に知能の高い動物だが、とても繊細ですぐお腹をこわして下痢をする。オオカミは、よく「一匹狼」と言われるが、オオカミは群をなすことで進化してきたので、オオカミは1匹では弱い。そういったところに焦点を当てた。生き物には完璧なものはいない、強いところと弱いところ、すごいところと残念なところを合せ持っている。
父の今泉吉典、兄の今泉吉晴もともに動物学者。小さいころから高尾山などに行って遊びでネズミなどを探す競争をしていた。海洋学者でアクアラングを発明したクストーのドキュメンタリー映画『沈黙の世界』を見て、海にあこがれ、東京水産大学へ。また、父などの調査の助手のようなことを続け、運転からテントの設営、罠をかけるなど、何でもした陸から海、陸に戻る。
現在 76歳。月に1回、奥多摩と富士山に行っている。奥多摩には10年ほど前から行っていて、最初に行ったときに、アライグマ(柿の木に下って柿を食べていた?)を見つける。それまではアライグマは確認されていなかった。今なにが生息しているかを詳しく記録。富士山では、高さによってどんな動物が生息しているか、その変化を記録。一番高所には高山動物、その下の森には、上のほうにニホンカモシカ、下のほうにイノシシ。
何のためにしているかというと、まずは自分の楽しみ、そして記録を残しておけば、何かがあって変化した時に、元の状態がどのようであったかが分かる。元の状態が分からないままでは、元に戻すと言っても、どうしたらよいか分からない。大切にしていることは、現場に行くこと、現場に行って調べて、本に書いてあることと比べる。生き方のモットーは、「正直」、動物はうそをつかない。
● 4月11日「種とは何か」
昆虫と言えば多様性の極致と言われ、世界で100万種、1000万種とも言われる。
では種とはなにか。むかしは原生動物くらいしかいなくて、それが進化して多様な種に別れてきた。
生物学的に言うと、まず見た目で分ける。見た形がぜんぜん違うとか、さらに細かく、虫で言えば生殖器の違いを見て分けたりする。もうひとつは、子孫を残せるかどうかで、子孫を残せなければ見た目が同じでも別の種ということになる。もうひとつは、遺伝子の解析ができるようになって、遺伝子の配列がどのくらい違えば別の種と言えるかということ。
地球上には多くの種がいるが、それらがどのようにしてできてきたのか、その起源を考えたのがダーウィンの進化論。進化論は、種は不変ではなく変化するものである、つまり種は変っていくものだということ。種がどのようにして変わっていくかを、ダーウィンは自然選択説、その時代・環境で生きていくのに有利な性質、有利な形態をしているものが増えていく。例えば、キリンの首はなぜ長くなったと言えば、高い所にある餌が食べられるからとか。環境に適応するため、自らの形態を変え、別の種になっていったというのが、自然選択説。
自然選択説が書かれた『種の起源』をダーウィンが発表したのは1859年。実は、その1年前に進化論をとなえた人がいる。アルフレッド・ラッセル・ウォレス(Alfred Russel Wallace: 1823〜1913年)という人で、イギリスの探検家で、いろいろな動物をつかまえに歩いていた人。前に取り上げた温泉に集まるアカエリトリバネアゲハを見つけた人でもある。19世紀には、貿易が発達し、船で世界のあちこちに行けるようになった。ウォレスはまずアマゾンに行って、いろんな動物や昆虫や植物を集めてそれをイギリスで売って活動資金を稼ぐ採集人だった。当時はこのような採集人がかなりいたが、ウォレスには他の採集人とは違って目的があった。それは、種とはなにかということを調べること。これを使命にして採集を行った。アマゾンはうまく行かなくて、せっかく集めた標本は船が沈没してすべて失われる。めげずに、1854年から次のターゲットをマレーシアからインドネシアの島々に決めた。1854年から1862年までの8年間、主にインドネシアの東のほうの島々、ニューギニア島の近くまでめぐり歩いた。そして、とくに昆虫について、どうしてこの島にはこの種がいるのか、別の島にはいないのか、など考えて、1858年2月に「変種がもとの型から限りなく遠ざかる傾向について」という論文を書き、ダーウィンに送った。種は一定ではなく、どんどん変わっていって、元の種からは限りなく遠く離れた別の種になるというもので、自然選択説に基づくダーウィンの進化論とほとんど同じもの。この論文を見てダーウィンはびっくり、自分があたためてきた考えとほとんど同じで、さらに先に行っていると。そして5ヶ月後には、リンネ学会というロンドンの生物学会でダーウィンとウォレスの共同で発表した。
昨年の11月に、私(昆虫写真家海野和男)のフェイスブックに知らない人からメールが来た。内容は、「おまえは1980年にテルナテ[インドネシアのモルッカ諸島(香料諸島と呼ばれた)の島。1858年2月にダーウィンに送った論文はここから出された]にいただろう。その時ウォレスが使っていた井戸の写真を撮らなかったか」というもの。テルナテに、ウォレスがいた家を再現して博物館にして観光名所にもしたいらしい。私は1980年にウォレスの足跡をたどってインドネシアのテルナテに行った。それまでに、ウォレスの足跡をもとめてテルナテに行ったのは、イギリス人1人だった。最近世界でウォレスへの関心が高まっている。[ウォレスについては、
ダーウィンになれなかった男を興味深く読んだ。]
● 4月25日「ホタルイカ」
ホタルイカは、頭足類ツツイカ目ホタルイカモドキ科に属し、世界で40種くらい、日本で12種くらい知られている。日本海全体と土佐湾以北の太平洋に住んでいる。とくに、富山県の滑川市周辺と、1984年以降は兵庫県などの日本海側で多く水揚げされている。
産卵期以外は外洋に住んでいて、昼は200〜600mの中層にいて、夜になると餌を求めて30〜60mくらいの浅い所にくる。だから基本的には暗い場所でのみ生きている。
ホタルイカが光っている所は、腕の先と腹側の皮膚と目の裏で、それぞれに違う発光器がある。(ホタルイカが光ている写真を見ながら)青白いネオンのように光っている。全体に点々と光ているが、腕の先にまるく強く光っている所がある。お腹あたりの皮膚は小さく点々と光っている(目の裏が光っているのは見えない)。
腕先、第4腕と呼ばれる腕の先には、1.4mmくらいの発光器があり、これは身を守るために使われる。魚に襲われた時に、暗い中で強い光を出して敵に位置を知らせ、自分はその間に逃げて行く。明るい所にいるイカは、襲われると黒い墨を出して自分は透明になって逃げて行くが、ホタルイカは暗い所で明るい光をぱっと出して、それで敵がその位置に行っている間に自分は別の所に逃げる(暗い中で光のダミーになっている)。
腹側の皮膚の発光器は、昼に200〜300mくらいの所にいるが、下から水面を見上げるとわずかに薄明るくてイカのシルエットが見えるが、それを消すために腹側の皮膚が発光する。イカは、背中側に光の強さを測るセンサーを持っていて、深さや時間帯によって変化する明るさと同じ光を発光して、自分の体が薄明りの中にとけこむようにして位置を分からなくしている。いる。目の裏側の光の役割については、まだ分かっていない。
発光の仕組みは、体の中で発光物質おつくり、発光器の中だけで発光している。ホタルイカは、雄雌ともに光り、繁殖には使ってはいない。自分の姿をくらますためとか隠すために使っている。
ホタルイカは今が旬。富山湾に繁殖の時期に浅瀬に集まってきていて、これだけ大量のホタルイカが集まるのは世界でもここだけ。産卵し終わった後砂地に多くのホタルイカが打ち上げられることもあって、これをホタルイカの身投げと言い、そのような時は岸からホタルイカをすくうことができる。富山県の魚津水族館ではホタルイカの飼育展示をしている。
●5月2日「ツツジ」
5月はツツジの季節。ツツジ科ツツジ目で、世界で1000種、日本では40種以上が分布。例えば、ヤマツツジ、モチツツジ、ミツバツツジの仲間など。北海道にはエゾムラサキツツジ、琉球列島ではケラマツツジなど、全国には多くの種がある。
ふだん見慣れている、庭や公園やマンションの植え込みなどに植栽されているツツジは野生の種でなく、人工的に交配された種で、交配種にもいろいろあるが、いちばんよく見かけるのはオオムラサキという種。白、薄桃色、赤紫など鮮やかな色でとても目立つ。
ツツジに共通の特徴について。ツツジの花は、横向きでラッパのように広がっている。そして先が5つに切れ込んでいる。ラッパの根元のほうはすぼまっている。ラッパの根元から長い雄しべと雌しべが突き出している。雌しべは1本で長く、雄しべは10本で長いのと短いのがあり、だいたい5本は長く5本は短いという組合せになっていることが多い。[近くのマンションの植え込みでツツジを触察。花は大きいので直径6、7cmくらいあり、5つに別れている。雌しべは長く7、8cmくらいもあった。雄しべは5、6cmくらいのと3cmくらいのとがあった。花の付け根の下あたりはねばねばしていて、少し毛のようなのがあった。]
このようなツツジの花の特徴は、花を訪れる昆虫と深い関係がある。雄しべと雌しべの付け根、つまり花の一番深い奥に蜜がたくさん出る。このたっぷりの蜜を目当てに様々な昆虫が来る。なかでもアゲハチョウなどの蝶はツツジに取って重要な訪問者で、蝶の長く伸びるストローで花の奥にある蜜を吸っている間に、長い雄しべの先の葯にある花粉が蝶の体に付いて、別の花の雌しべに運ばれる。また、蜂や虻の仲間もやってくる。これらの昆虫は花の奥に潜り込んで蜜をなめる。短い雄しべがあるのは、これらの昆虫に合わせているのだと思われる。それから、ツツジの花の内側、5つに別れた花びらの上側の1枚の内側にヒョウ柄のような斑点がある。この模様は、蝶や蜂に蜜がここにありますよ、といことを指し示す役割をしていると考えられる。しかし、昆虫の中には蜜にやって来ても花粉を運ぶ役を果さないものもある。例えば、蟻。蟻は体が小さくて長い雄しべには触れることはなく花にとっては利益がない。ツツジの花にはこのような招かざる昆虫を抑止するしかけがある。花の萼や花の柄に毛が生えていてべたべたする粘液を出す。蟻などはこのべたべたに触れると動けなくなる。ツツジは昆虫が蜜を食い逃げするのを防ぎ花を守る仕組を持っている。[ムシトリナデシコにも、茎上部の葉の下に粘液を出す部分があり、同様の役割をしている。]
●5月9日「ハダカデバネズミ」
名前は、裸で、歯が出張ったネズミということ。(写真を見ながら)ほんとうに毛がなくて、ピンク色、2本の歯が出張っているのが特徴で、目は黒ごまみたいにぽつんと小さい(明暗を感じるくらいで、視力は弱い)。体長10cmくらいで、生きているウィンナーソーセージを想像してもらえばいい。
日本にはいなくて、東アフリカの北、ソマリア、エチオピア、ケニアの北の砂漠に住んでいる。裸だが、完全に地下に住んでいて、そういう所は温度があまり変化しないので裸でもだいじょうぶ[体温調節ができず、温度が下がると重なるように密集し、温度が上がると離れるという]。かえって毛がないほうが、ダニなど虫が付かなくて、清潔。これは、動物学的にはネズミだが、習性はモグラ。歯で土を彫り、歯は削られるが、伸びるからだいじょうぶ。
声でコミュニケーションしているらしい。埼玉県こども動物自然公園で飼われているハダカナキネズミの声を聴く。ケージの中に録音機を入れ、その回りにハダカデバネズミが集まってきたときのもので、「これは何だろう?」と言っているかもしれない鳴き声。ピヨピヨ、ピー、チューというような鳥のような鳴き声、数回カーッ、カーッというような音もする。この音は録音機に歯が当たっている音かも。これは何だろうとふつうは目で確認するが、ハダカデバネズミはほとんど視力がなくて、録音機の所に集まってきてこれは何だと探るように頭をぶつけたり歯で探ったりしていて、これは何だとみんなで言いあっているのでは?。最近の研究だと 17〜18種の声を出していて、地下で互いに相手を確認するなどコミュニケーションしているのではないか。[ハダカデバネズミの鳴き声:
鳴き声をきく]
自然界でも、集まって、群で暮らしている。そして、群の中に階級がある。このような階級社会はミツバチやアリではふつうだが、ハダカデバネズミでも、女王ネズミ、働きネズミ、兵隊ネズミがいて、それぞれ役目を分担している。1つの群は平均して70匹くらい(女王は1匹。そのほかに、繁殖用の雄=王?が数匹いる)。女王は子どもを生み育てるのが仕事。働きネズミは、子どもの世話、食べ物の調達が仕事、兵隊は敵(敵は主に蛇)が侵入してきた時に戦う(蛇には実際は食べられ、自ら犠牲になる)。)。人間の社会と同じように役割を分担しているので、社会性動物と言う。
ふとん係の仕事をするネズミもいて、自ら女王の敷布団になる。自ら横たわると、その上に女王が寝て眠る。女王は働きネズミの倍くらい、80gくらいも重さがある。このような役割分担を制御しているのは、女王の糞ではないかと考えられている。ハダカデバネズミは糞をよく食べ、女王の糞を食べると女王のホルモン、子育てホルモンのようなのが入ってきて、おもわず子どもを世話する仕事をするのではないか?。
女王は寿命が30年くらいで、働きネズミは3年くらい、10倍ほども長い寿命。これについては、最近の研究では修復遺伝子(病気になると、修復遺伝子がけずられて、治ってゆく。癌も修復遺伝子で進行が止められ、それがなくなってしまうと癌が発症するのではないかと考えられている)が女王は多い。ちょっとした傷などあっても、その修復遺伝子がある限り、どんどん治して長生きする。このメカニズムを人間も利用すれば、けがも癌も治せるのではないかということで、盛んに研究されている。[ハダカデバネズミの長寿命・老化耐性については、例えば、
老化・がん化耐性研究の新たなモデル:ハダカデバネズミと長寿]
● 6月13日「カバ」
カバは、毛がほとんどなく、超敏感肌。人間の女性より3倍から5倍敏感で、太陽の光を浴びるだけですぐひび割れ、やけどのような状態になってしまう。カバの肌は、人間と比較すると、3倍から4倍の速さで水分がなくなっていく。カバの皮膚には、人のような皮脂腺(脂を出す)や汗腺(汗を出す)はない。カバは、血のような汗のような、ふしぎなものを出す。体の表面にある粘液腺から分泌されるアルカリ性の粘り気のある赤い物質が入った液を出す。この粘液は乾くと皮膚が赤く見えるが、これは赤い色素が沈着したもので、この赤色素は紫外線を遮断する効果があり、強い日射しから皮浴を保護している。
カバは、水の中でも排便をするが、汚れた水の中でも感染症にかからないのは、この色素が感染防止の性質をもっているからだと考えられる。乾燥に弱くて、つねに水や泥で湿らせておかないと皮膚の表面がひび割れを起こすので、この粘液で皮膚を保護するようになっている。(超敏感肌だが、自分で日焼け止めと感染防止のスキンケアをしているようなもの。)
カバの敵は、ライオンなどいるが、一番の敵は太陽の光で、乾燥を防ぐために、日中は、目と鼻は水上に出して、身体はほとんど水中。野生のカバは、草原の川や湖の近くだけで生息している。夜になると、水から出て来て、餌場に行って主にイネ科の植物を食べる草食動物。生息地は、アフリカの西はセネガル、東はケニア、南は南アフリカの範囲内の、サバンナの水辺。カバは群をつくって生活していて、ふだんは10頭から15頭、乾季になって水が不足してくると150頭くらいの群も見られるようになる。体長 4m、体重 2tで、陸上動物ではゾウに次ぐ重さ。
カバによる事故が多い。カバが歩くとカバ道ができ、夜に町で飲んで帰ったりする時に、近道をしようとカバ道を歩くと、カバに出会ってカバに踏みつぶされてしまう事故が多い。
カバには糞飛ばしの芸がある。これは自分のなわばりを主張するための行為だが、動物園のカバは朝、寝部屋から運動場に出て来た時に、尻尾をワイパーのように高速で左右に動かしながら糞を飛び散らし、壁にやわらかい糞があちこちにくっついてしまい、それを飼育員がきれいにするのがたいへん。
(野生のカバが糞を飛ばしている音声を聴く)水の流れのような音や小鳥の鳴き声(たぶん朝だろう)とともに、ジャブジャブと水を動かしているような音、さらにビチビチというような、飛び散っているような音がする。
野生のカバは、なわばりを主張するだけでなく、夜に餌場に行く時にも糞飛ばしをする。これは、道しるべで、ライオンなど見えると、この道しるべを頼りに、いっしんに水辺の避難所に突進して行く。糞飛ばしも、生きるために必要なこと。(排泄物を、生きるために有効活用している。)
●6月27日「鳥の繁殖・カッコウ」
目も開いておらず羽も生えていない状態で生まれてくる場合と、餌も自分で取れる状態で生まれてくる場合の2つがあるが、その他に、これらには属さない繁殖方法、托卵がある。托卵は、自分で子育てをしないで、別の種類の鳥に子育てをしてもらう方法。他の種の鳥の巣に卵を生んで、代わりに子育てをしてもらう方法。
日本で托卵する鳥は4種類いる。もっともよく知られているのはカッコウ(カッコウの鳴き声)。その他、カッコウの仲間の、ホトトギス、ツツドリ、ジュウイチ。
カッコウが托卵する鳥は、現代では主に、モズ、オオヨシキリ、オナガ。以前は托卵していたが今は托卵していない鳥もいて、その代表がホオジロ。文献では、江戸時代にはカッコウが主に托卵する鳥はホオジロだった。しかし今は、ホオジロに托卵することは少なくなった。
カッコウはばれないように托卵しているが、ホオジロにはばれるようになった。カッコウの卵はベースは白味で、そこにまだら模様と縦縞模様がある。この縦筋の模様はホオジロに托卵していたころの名残だと言われている。カッコウは、托卵するために卵の模様を進化させてきたようだ(托卵する鳥の卵にだんだん似てくるようだ)。現代托卵をしているモズ、オオヨシキリ、オナガの卵はそれぞれ微妙に違っていて、カッコウの卵が違うものであることが見破られることもあるが、いったん生まれてしまうと、刷り込みによって親はせっせと餌を運んでしまう。
カッコウがオナガに托卵するようになったのは、ここ20〜30年ほど前からのこと。カッコウが本来棲んでいるのは高原・草原といった比較的高い所だったが、低い所にも棲むようになり、いっぽう、オナガは平地から山のほうに住処が移っていて、カッコウとオナガの棲息域が重なるようになったことが、カッコウがオナガに托卵するようになった所以と言われている。
オナガはカラスの仲間で、賢い鳥。実際、カッコウに托卵され続けてきた地域のオナガは、カッコウが来ると集団で追い払ったり、ときにはカッコウの卵を識別して放り出すなど、対抗手段を取るようになった。[カッコウの卵は大きさや模様などが少しずつ違っていて大きな変異があり、オナガは、小型で自分の卵にはない綿模様のたくさんあるカッコウの卵を放り出すようになった。オナガは卵を識別できないと自分の子孫を残せないし、カッコウはオナガに受け入れてもらえる卵を産むことで子孫を残せる。このように自然選択が強く働くようになると、数十年といった短い時間にカッコウの卵がオナガの卵により似てくるかも知れない。]
カッコウは自分で卵を育てられないのか?海外にはカッコウの仲間で自分で子育てをするものもおり、ずっと以前はカッコウも自分で子育てをしていたかも知れないが、いつのまにか托卵する方法を身につけ、自分で子育てすることは今はまったくできなくなった。托卵先はこれからも変っていく可能性があり、カッコウの托卵は、わりと短い時間で進化の過程を見ることができる貴重な現象。カッコウと、托卵される鳥との間で、生存をかけた知恵比べが続く。
●7月11日「ゴンズイ」
ゴンズイは、簡単に言えば、海に棲むナマズの仲間。ナマズは一般的には淡水に棲むが、ゴンズイは海に棲むごく少ないナマズの仲間。
(ゴンズイを横から撮った写真を見ながら)茶褐色で、頭部から尾にかけて黄色の2本(左右で4本)の線が特徴的(海ではこの黄色い線はとても目立ちそう)。ナマズの仲間ということだが、それらしく口元にちょっと短いひげが上下左右に2本ずつ、計8本ある。
体長は最大で20cm余くらいで、淡水のナマズよりはスマートに見える。見た目にはかわいらしく見えるが、胸鰭と背鰭のとげには毒を持っている。刺されると、かなり痛くて赤く晴れる。
ゴンズイは、太平洋側では房総半島より南、日本海側では能登半島より南の九州までに棲む。そして、沖縄のほうに行くと、もう1種違う種類のゴンズイがいる。浅い岩場や、港の岸壁の近くの岩場にもいる。釣りをする人は、夜釣りでかかることが多いので、知っている人が多いかもしれない。
ゴンズイは夜行性で肉食で、小魚やゴカイやエビ・カニなどを食べる。毒で餌を取るということはなく、身を守るためかも。
入手しやすい魚で、水族館ではよく見られる。見どころはゴンズイ玉。(ゴンズイ玉の写真を見ながら)ゴンズイが数十匹群れていて、それがぎゅっと集まって黒っぽいかたまりのように見える。形が球状なので、ゴンズイ玉と言う。イワシなどは群れて泳ぐが、わりあい広がって泳ぐ。ゴンズイはぎゅっとかたまって泳ぎ、間隔が狭く、それでいてみな同じ方向を向いている。小さなゴンズイが群になっているのは、スイミー[レオ・レオニ作の絵本「スイミー 小さなかしこいさかなのはなし」中の黒いかしこい魚。小さな魚たちの群の目になって、食べられないようにする。]みたい。
スイミーと一緒で、ゴンズイも幼魚が一緒になってかたまることで外的をびっくりさせて逃れる効果があるだろう。(ダイバーも、岩陰から急にゴンズイ玉が出てくると、ぎょっとする。)
ゴンズイは今(5月から7月)が産卵期。雄が大きな岩の下などに穴を彫って巣(産卵床)をつくり、そこに雌を誘って、卵を産む。卵はサケの卵より少し小さく、3mmくらいの黄色の卵。20日ほどで孵化し、7mmくらいの子どもが生まれる。生まれた時は、サケなどと同様、お腹にぷくっとふくれ卵黄がついている。10日ほどで卵黄がなくなって、薄黒っぽくなり2本の線も見えるようになり、泳げるようになる。泳げるようになった数cmくらいまでの幼魚がつくるのがゴンズイ玉。1つの群で多い時には数百匹が集まる。ゴンズイ玉は、集合フェロモンを出してそれで濃密に集まっており、群によってそのフェロモンが違っているらしく、違う群を2つ一緒にしても、ばらばらになってしまう。餌を食べる時は、ゴンズイ玉が海底に降りてきて、同じ方向を向いて全体でぐるぐる回りながら前に進んで、前のものが砂に口をつっこんで食べ、次々と後ろのものが前に進みながら餌を食べて進むという、規則的な動きをする。全体でボールを転がすように海底を進んで行く。
[ゴンズイは、胸鰭の棘の基底部と肩帯の骨とをこすり合わせて特有な音を出す。この音から、地方によってはググとかギギとか呼ばれる。]
●7月18日「シイタケ」
(森に生えていた野生のシイタケの写真を見ながら)じくが太くて立派。苔の生えている木からにょきっと出、粉をふいたようなカサが特徴的。シイタケのカサの表面には白い綿くずのようなのが付いていて、茶色よりも白が目立つよう(店で売られているシイタケとはちょっと違うよう)。
シイタケはシイの木に生えるきのこなので、シイタケと呼ばれる。日本で生えるシイの木には、スダジイやツブラジイがある。シイの木は常緑樹で、関東から北陸よりも西、南は沖縄まで分布する。売られているシイタケは栽培されたもので、栽培されたシイタケはシイの木からのものはほとんどなく、コナラやクヌギなどの落葉樹の丸太に菌を植えて栽培しているものが多い。このように丸太で栽培する方法を、原木栽培と言う。最近は、菌床栽培と言って、おが屑に米糠などを混ぜた菌床で栽培したものが増えている。
野生のシイタケに出会うことはそんなに多くはない。今回の写真のシイタケは、スダジイの枯木に生えていたもの。スダジイやツブラジイなどのシイの木は、ブナ科に属していて、ブナ科には他にブナ、ナラ、カシなどが含まれている。ブナ科の木の特徴は、ドングリがなること。野生のシイタケは主にこのブナ科の枯木に生える。
とはいっても、シイタケを原本栽培している時に、支えに使っていたスギの木にシイタケが生えていた例もあり、いろいろな木の枯木に生えるようだ。
シイタケは人間が食べるだけでなく、他の動物、サルなども食べる。猿は、シイタケの柄の部分だけを食べて、カサの部分は捨てる。
シイタケは木材腐朽菌と呼ばれるが、木材腐朽菌は多くの動物が食べている。例えば、多くの昆虫、カタツムリ、ナメクジ、ダンゴムシなどの小動物がきのこの上にいる。
木材腐朽菌は、枯木を分解して栄養を得ている生物。私たちは木材を食べることはできない。それは、木材のリグニンやセルロースを消化できないから。シイタケのような木材腐朽菌は、これを分解して栄養にできる。つまり、食べられない木材をおいしい食材に変えてくれるありがたい存在だ。さらには、それだけでない。シイタケのような木材腐朽菌がもしもいなかったら、地球上は分解されずに残った枯木だらけになってしまう。木材腐朽菌は、地球上になくてはならない存在だとも言える。[3億年前には地球は大森林におおわれていたが、そのころはまだ現在のようなきのこは存在せず、枯木は分解されずにそのまま地中に埋もれて石炭になったようだ。]シイタケなどの木材腐朽菌は、おいしいだけでなく、自然にとってもとても大切な役割をはたしている。
●7月25日「ホッキョクグマ」
ホッキョクグマは、北極にいる動物なのに、なぜ日本の動物園にいてもだいじょうぶなのか?プールがあればだいじょうぶ。プールに入って体をぬらしていれば、水分が体表から蒸発する時に気化熱を奪い体温を下げてくれる。
ホッキョクグマは陸上にいる動物だが、生涯のほとんどを海上の氷の上で過ごしている。雄の体長は約2m、体重は約400kg。雌はやや小型で、雄の体重の半分くらいの体重。
大好きな食物はアザラシ。嗅覚がとてもすぐれていて、30km先にいるアザラシの脂肪のにおいを嗅ぎ分けると言われている。流氷の上で休んでいるアザラシを見つけると、水中を泳いで行って近づき、浮き上がりざまにパンチをくらわせて仕留める。
ホッキョクグマは雪のように白く見えるが、毛の下の肌は真っ黒。(毛を剃ると黒熊になる。)太陽の熱を吸収できるように黒くなったと考えられる。実は、毛の色も白ではなく、ガラスのように透明。透明な毛がたくさん集まっているので、光をきらきらと乱反射して白く見えている。1本1本の毛は、中が中空・空洞になっていて、そこに暖かい空気をため込み、外の寒気を遮断している。こうして寒さから身を守っている。
夏などには、体から出たよごれや脂などで黄色っぽくなることがある(黄熊になる)。さらに、ごくまれに、緑になることがあった。夏にはプールの水の中でコケが繁殖することがあり、そのコケの胞子が、1本1本の毛の側面にある細かい穴から毛の中に入り込み、毛の中でコケが成長したために、緑色になった。だから、洗っても緑色はおちない。古くは1979年にアメリカのサンディエゴの動物園で見つかり、シンガポールの動物園、日本では名古屋市の動物園、姫路市の動物園で緑色になったことがある。(動物園ではふつう、5日に1回、少なくとも1週間に1回、プールの水を替えているが、それでも夏の天候によっては水の中でコケが繁殖することがあるようだ。)
ホッキョクグマは、主に肉食で、ほとんどモノクロでしか見えていないと考えられ、たぶん自分の体表が緑になっていることには気がつかないだろう。(健康にはまったく問題ない。)秋になると、夏の毛が生え変わり、冬の毛が生えるので、透明な白い毛に戻る。
●8月22日「イチジク」
今がイチジクの季節。私たちがイチジクの実と思っている、あのごろんとしたかたまりは、イチジクの花、より正確に言えば花の集まり。イチジクを割ってみると、中にたくさんのつぶつぶがあり、そのつぶつぶは、イチジクのミのようなものの皮の内側から生えているブラシ状の白い毛のようなものとつながっている。そのブラシ状の毛の1本1本がイチジクの1つ1つの花で、1つ1つのつぶつぶは本来そのそれぞれの花の果実に相当する。イチジクの花は、たくさんの花が集まって嚢状になり、その内側に咲いている。このような特殊な形の花の集まりを、花嚢と言う。
旧約聖書には、アダムとイブがイチジクの葉で腰蓑を作ったという話が出てくる。そのことからも分かるように、イチジクは中東原産の樹木。イチジク族は世界の熱帯から亜熱帯にかけてとても繁栄していて、世界に700種以上が知られている。日本にも、本州以南に十数種類のイチジクの仲間が分布している。イチジクの仲間に共通な特徴が、花嚢という特殊な花を持つこと。
花が嚢の中に咲くイチジクは、どのようにして受粉するのか。イチジクの仲間は他の多くの植物同様種子で殖える。
イチジクの花嚢の中に隠れて咲く花には蝶や蜜蜂のような花粉を運ぶ昆虫はたどり着けないし、杉の花粉のように風に花粉が飛ばされるということもない。ここで活躍するのが、イチジクコバチ。
イチジクの花嚢は、完全には閉じていない。よく見ると、先端部分に小さな穴がある。ただし、この穴の回りには鱗状の鱗片がたくさん生えていて、外見上は穴が開いているようには見えない。イチジクコバチの雌は体長わずか2mmくらいで、この穴からイチジクの花嚢の中に潜り込むことができる。この時、イチジクコバチの体に付いていた他の花の花粉が雌しべに付いて受粉する。イチジクの花嚢はイチジクコバチの産卵場所になっていて、花嚢の中に入ったイチジクコバチの雌は雌しべに卵を産みつける。そしてイチジクコバチの幼虫はこの雌しべを食べて成長する。イチジクには、イチジクコバチの幼虫の餌用の雌花と、受粉をして種子をつくる繁殖用の雌花がある。だから、やがて成長した幼虫が成虫になって出てくると、雌と雌が交尾し、雌だけが花嚢から出て他のイチジクノ花に飛んで行く。雌は交尾以外ほとんど仕事はなくて、花嚢から出ることもない。
イチジクコバチはイチジクがなければ生きてゆけない。また、イチジクはイチジクコバチがいなければ種子をつくれない。このように互いに切っても切れない関係、共生関係にある。さらに、多くのイチジクの仲間には、それぞれの種に対応して専門の別種のコバチがいる。例えば、ガジュマルという木にはガジュマルコバチ、イヌビワにはイヌビワコバチ、イタビカズラというつる植物にはイタビカズラコバチというように、それぞれのコバチがいる。このような、植物と昆虫の1対1の関係をみると、進化の不思議を感じる。
売られているイチジクの実にはコバチは入っていない。なぜなら、イチジクは中東原産で、この花を専門とするイチジクコバチは日本にはいないから。そして、日本で栽培されているイチジクの多くは、コバチが来なくても花嚢が大きくなる種。
*イチジクは、日本には、16世紀末あるいは17世紀初めにポルトガル人によって伝えられたようだ。いちじくには、受粉して雌花に稔性のある種子が形成されていなくても花嚢が肥大成長して熟果となる品種もあり、日本ではこの単為結果性のイチジクが栽培されている。繁殖は挿木で簡単にできるという。
日本に自生するイヌビワの仲間は関東以西の里山のふつうの植物で、ちょうど今ころ小指の先から親指の先くらいの実を付けていて、花嚢を割って観察するとイヌビワコバチを見つけられるかもしれない。
●8月29日「シマリス」
秋になると動物たちも木の実などに囲まれ食欲が旺盛になる。頬袋にいっぱい木の実を入れているリスも見られるようになる。
シマリスはリスの中でも独特。日本に住んでいる野生のリスは6種類いる。ニホンリス、エゾリス、エゾシマリス(北海道にいるのでこう呼ばれる)、ムササビ、エゾモモンガ、ニホンモモンガ。(モモンガはネズミではなく、リスの仲間)
この6種類のリスの仲間の中で冬眠するのは、シマリスだけ。習性が違うので、同じ所に同じ仲間の数種が住むことができるとも言える。
シマリスは落ち葉そっくりの茶色で、背中に黒い5本の縞があり、5本の黒い縞の間に白い縞があって、これで自然の中にすっかりとけこんでいる。体の大きさはだいたい12cmくらい、尻尾も11cmくらい。北海道のほぼ中央にある大雪山系の黒岳にロープウェイで上ると、上の駅の回りに野生のシマリスがいっぱいいる。
シマリスの暮らし方はケンカが少なく、平和主義。北海道のシマリスはエゾリスとうまく共生している。シマリスは主に森の地面で生活していて、木の上にいるのは主にエゾリス。基本的に、シマリスは地面に落ちているどんぐりを食べ、エゾリスは木の上になっているどんぐりを食べる。だからケンカは少ない。
頬袋には、ミズナラという小さめのドングリなら左右に3こずつ、計6個入る。なぜ頬袋にどんぐりを入れるのかというと、その場では食べずに安全な場所に移動してから食べたり、あちこち地面に小さな穴を掘ってそこに埋める。これを分散貯蔵と言うが、シマリスはどこに埋めたか忘れてしまうが、そのおかげで春になると芽を出すどんぐりがあって、森が新しくなっていくのに役立つ。
日の長さが影響していると思われるが、8月後半になると冬眠の準備が始まる。日が短くなってきて涼しくなるのがきっかけだと思うが、新しい巣を彫ったり古い巣を改造したりしはじめる。巣の中に枯葉を敷いたりして巣の中にどんぐりを溜めはじめる。北海道ではちょうど今ごろせっせとどんぐりを運んでいる姿が見られる(。シマリスは冬が来ることは知らないので、結果的に冬眠の準備をしていることになる)。はたらきもののシマリスは、1日に40回、合計17個のどんぐりを集める。
どんぐりをたくさん食べて体が太る、どんぐりがなくなる、寒くなる、この3つがスイッチになって自動的に冬眠に入る。シマリスは1年の半分くらい冬眠する。この間は、体温がどんどん下がって、脈拍も呼吸の数も少なくなり、エネルギーの消費を節約している。活動期は体温が37度前後あるが、冬眠中は5度から6度に下がってしまう。呼吸も1分間に1回から5回(これは平均してのことではなく、1分間すると5回とか1回、まとめてする)。ずうっと眠っているわけではなくて、冬眠スイッチがオフになることがある。1週間から10日に1回、体温が上昇し目を覚し、貯蔵していたどんぐりを食べ、またトンネルの中で尿と糞を排泄する。ちなみに、熊の冬眠は、食べ物をまったくとらず、春まで眠ったまま。冬眠する動物は世界に180種くらいいるが、眠り方もいろいろ。
●9月12日「ブッポウソウ」
(写真を見ながら)とてもカラフル。頭は黒っぽい色をしているが、胴体は光沢のあるきれいな青色。目をひくのが、くちばしの鮮やかな赤色。この写真は枝にとまっているブーポウソウだが、その脚もこの鮮やかな赤。ブッポウソウのきらきらした青色は、カワセミの仲間に見られるもので、カワセミもブーポウソウもブッポウソウ目。ブッポウソウの赤い脚もカワセミと同じ。ただし、クチバシはカワセミのようには長くなくて、見た目はだいぶ違う。全長もだいぶ長くて、30cmくらいある。
ブッポウソウという名前は、その鳴き声から来ている。
ここでブッポウソウの鳴き声を聞く。「が ガガ ガガガ ガガガガガ」といった感じで、カエルの鳴き声に似ているようにも思う。次にコノハズクの鳴き声。これはまさに「ブッポーソー ブッポーソー」。コノハズクはフクロウの仲間。このコノハズクの鳴声がブッポウソウのものだと思われて、その名前になった。
ブッポウソウもコノハズクも、日本に繁殖のためにやって来る夏鳥で、その繁殖の環境としてブッポウソウもコノハズクも同じような環境を好む。住んでいる地域が同じ。ただし、ブッポウソウは昼に活動するが、フクロウの仲間のコノハズクは夜行性で夜活動する。昼に活動する鮮やかな色のブッポウソウが、夜になって姿が見えなくなると、同じ森から「ブッポーソー」という鳴き声が聞こえてくることから、間違われた。これが間違いだということが確実に分かったのは、1935年[この年の6月7日と8日にラジオで生放送された「ぶっぽうそう」の鳴き声がきっかけとなる]。
ブッポウソウは以前は人里近い森にも住んでいてそんなに珍しくはなかったが、里山周辺が開かれてブッポウソウが住みにくくなり、数がとても減っている。とくにブッポウソウは子育てを木の大きなウロでするが、そのような大きな樹がなくなってきた。巣箱をかけてブッポウソウを増やそうとする活動も各地で行われているが、ブッポウソウも住めるような里山を回復させていく活動が必要。
参考:
ブッポウソウの鳴き声と
コノハズクの鳴き声
● 10月24日 「シャコ」
シャコは今がおいしくなる季節(すし種としても人気)。シャコは5月から8月が産卵期で、夏の間は繁殖のために巣穴の中に入っていて水揚げ量も少なく痩せている。それが秋になると、巣の外に出てきて餌も取り身もついておいしくなる。
シャコは、潮間帯から水深50mくらいまでの、泥まじりの砂地に住んでいる。シャコは、シャコの仲間でもっとも北の海域に住む種で、ロシアの沿海州から台湾まで生息している(だから日本ではほぼ全国に分布)。1匹ずつ個体ごとに、海底に長い(U字形の)トンネル(巣穴)を掘って生活している。その長さは体長のほぼ5倍くらい。シャコは今均して10cmくらい、一番大きいものだと18cmくらいになるので、1mくらい、実際の観察では1m10cmのものもあるという。
(シャコの写真を見ながら)エビに似ている印象。シャコは、節足動物シャコ目シャコ科に属する。エビと同じく甲殻類だが、体の前のほうの脚が顎脚と呼ばれる捕脚になっていて、それがエビやカニと違うところ。(写真をを見ながら、頭の左右に出ている細長いへらのような部分。)そのへらのように見えるのが、カマキリの鎌のようになっていて、獲物を捕えるための脚になっている。
シャコは、巣の入口で待ち構えていて、目や触角だけを外に出して獲物が通るのを見極め、カマキリの鎌のように折りたたまれた脚を伸ばして一瞬で捕えて食べる。餌は小さなエビや小魚や2枚貝などで、それらが通りかかると顎脚で捕えて巣の中に持ち込んで食べる。獲物を見つけてから捕脚を出して捕えるまでの時間は、0.03秒から0.3秒とごく短い時間。
シャコの仲間は日本に56種、世界で450種くらいいるが、餌の取り方が大きく3種類に別れる。いずれも捕脚を使い、捕え方は住む場所によっても違う。先ほどの泥まじりの砂地に住んでいるものは、カマキリの鎌の突起のようなのが発達していて、飛びかかった獲物をそれではさみ刺して食べる。主にサンゴ礁にいるシャコの仲間は、捕脚が3つくらいに折りたたまれるが、肘のようにハンマー状にふくらんでいる所があって、それで貝などをたたき割って食べる打撃型。また、この両方を使って、餌によってはさむやりかたと打撃型を使い分ける中間的なものもいる。いわゆるシャコ(狭義の)はこの中間型。シャコパンチが話題になるが、この打撃はカメラなどでは撮らえられないほど速い。捕脚の一瞬のスピードがとても速い[秒速20mくらい]ので、周囲の水圧が下がって気泡ができるキャビテーション(cavitation)という現象が起きる。一瞬の早業で、怖そう。
いちめん、けなげな面も見られる。シャコのおかあさんは、産卵後自分はずっと餌を食べずに世話をする。巣穴の中で雌は仰向けになって2、3時間かけて卵を産むが、その卵は紐状になって出てくる。そのかたまりをぐるぐる引っぱりながら形を整え、直径10cmくらいの円盤状にする。丸いかたまりのままだと中のほうは水に接しないので、薄い円盤状にする。その円盤の中には4万から5万の卵がある。おかあさんはこの円盤状の卵のかたまりを回転させて、つねに新しい海水に卵をさらすという保育行動を餌も取らずに巣穴の中で続ける。巣穴の中は水通しが悪いので、つねにそうしないと卵は酸素不足で死んでしまう。孵化までは、温度によって違うが、20度で3週間くらい、その期間餌をとらない。シャコの寿命は3年くらいで、2歳、10cmくらいになると卵を産みはじめ、その雌は次の年まで生き伸びて、もう一度産卵する。2回産卵したシャコはすぐには死なず、秋くらいまで生きているようだ。
[キャビテーション:液体の急激な運動によって、液中が局部的に低圧となって、気泡を生じる現象。気泡内は蒸発した気体、分離した溶解ガスなどで満たされる。]
● 10月31日「イチョウ」
公園や街路樹として植えられているイチョウの黄葉が美しい季節。イチョウは黄色く黄葉する扇形の葉を持っていて、ギンナンとして知られる丸い実をつける樹木。
イチョウは、サクラ、カエデ、マツのどれに一番近いか?黄葉はカエデに、実の形はサクラに似ているが、葉も実の形もぜんぜん似てはいないマツにもっとも近縁な種。マツとイチョウの共通点は花のつくり。花の中には将来種になる胚珠という部分がある。その胚珠がカエデやサクラではめしべにすっぽり被われ守られていて、これを被子植物と言う。これにたいして、マツの花では胚種は完全にはめしべに包まれておらずむき出しになっていて、これを裸子植物と言う。
裸子植物は被子植物に比べて原始的な植物と考えられているが、イチョウはサクラやカエデよりも、マツに近い裸子植物の仲間。日本で見られる裸子植物の大半は、マツやスギなどとがった葉を持つ針葉樹と呼ばれる仲間。イチョウは、針葉樹に含まれない裸子植物。
イチョウは世界各地に分布しているが、それはイチョウというただ1種だけ。ところが、中世代には多様な種類のイチョウが繁栄していたことが化石の証拠から分かっている。その中でわずかに生き残った1種の末裔がイチョウ。イチョウは生きた化石と呼ばれている。
イチョウが生き残ったのは、中国の南部だと考えられている。しかし現在の中国にはイチョウの原生林と思われるものは残っていない。だから、この場所で中世代のイチョウが生き伸びてきたという場所は残っていないが、その代り古くから人の手によって植えられてきてそれが生き残っている。日本にも少なくとも室町時代には中国からもたらされ、各地の神社や寺に植えられ、樹齢数百年、600年とか700年とか言われる大木が各地にある。そして17世紀末、日本からオランダにイチョウが運ばれ、その後ヨーロッパ各地に広がり、やがて北米、アメリカやカナダにも広がり、今では北極と南極、それに熱帯を除けば、ほぼ世界中にイチョウが植えられている。
ギンナンはイチョウの実とふつう言われているが、植物学的には正確ではない。ギンナンは実ではなくて、種子、種。ギンナンの回りにあるオレンジ色の臭い部分は果肉ではなく(果肉は被子植物にしかない)、外種皮と言って、中の堅い種子が被っている皮。
●[補足]宝満山のヒキガエル(11月ころのNHK第1放送の朝 5時台の放送より)
福岡県太宰府市と筑紫野市にまたがる宝満山 829.6m。古来より地元の方に愛されている山。この山のふもとで生まれたカエルが山を登って頂上に行くことが見つかり、話題になっている。今年太宰府市の市民遺産になった。
宝満山ヒキガエルを守る会事務局長の森田正嗣さんの話。
毎年、1月末から2月ころに、親のカエルが山から下りてきてふもとの池で産卵する。その池で生まれた子カエル(1cmくらい)が、梅雨時、5月下旬からだいたい40〜50日をかけて、829mの頂上を目指して登山道を登って行くという現象。
生まれた時は、推定だが10万匹くらいいて、それが登るのだが、カエルにとってはたいへんなサバイバルで、少しでも乾くとカエルが身動きできなくなるし、蛇など天敵がおり、登山する人間に(踏まれたりなどして)殺されてしまったりで、頂上に上れるのはせいぜい1000匹くらいではないかと思われる。
この現象に気付いたのは10年くらい前で、山のふもとに住むワタナベさんという方が、カエルが山から降りてきて池で産卵しているのを見つけ、もしかするとこのカエルは山に上がって行ったカエルなのではないかと思う。そのことに、佐賀大学名誉教授の田中明さんが興味を示し、2016年から毎年追跡調査をし、カエルたちが上まで上がることを立証し発表した。
カエルの大きさは1cm余、池のある所から頂上までの標高差は600〜650mくらい、距離は2kmくらい。人間の身長を170?cmとして換算すると、カエルの2kmは170km、標高差600m余は51000mになる。
ふもとの池はすでに江戸期にあったということは確認済み。おそらくそれより前から登っていたのではと思われる(確認されてはいないが)。
ここは九州でも人気の登山スポットで、人や車がかなり多くて、知らずに人や車に殺されてしまうことも多く、カエルにとっては生き伸びにくい状況になっており、またけなげにも登っているカエルたちに目を向けてほしいということで、市民遺産(地域固有の物語や文化遺産など、放っておけばなくなってしまうようなものを、保護する活動など)に申請、10月14日に認定された。
● 11月28日「ハタハタ」
ハタハタは東北の方にはなじみの魚。秋田のしょっつる(魚醤)の材料にもなる。ハタハタは、ちょうど今ころ、11月から12月が漁の最盛期で、今旬の魚。
1976年ころから漁獲量が減り出して最盛期の 1割以下になった。それで、1992年から1995年までの3年間全面的に禁漁(最初は漁師さんなどの反対はあった)。そのおかげで、その後資源が順調に回復し、今にいたっている。禁漁して、その効果で漁獲が回復したという典型的な魚として有名。
(ハタハタの写真を見ながら)メダカを大きくしたような感じで、胸鰭が大きいのがとくに目立つ(上から見るとはばたいているように見える)。背中にはまだらの模様がある。
スズキ目ハタハタ科ハタハタ族で、1族1種(あまり仲間のない魚)。住んでいる所は、カムチャツカ半島から、オホーツク海、日本海など、北西太平洋に広く分布している。日本では、日本海全域、北海道、太平洋岸では東北に限られている。成長しても20cmほどにしかならない小さな魚。(写真を見ながら)全体的につるうっとした印象。ハタハタには鱗がなく、そのためつるうっとした感じがするのだろう。
ふつうは成長すると200mから500mの泥や砂の海底に生息する深海魚で、水温が1度から2度、3度くらいまでのとても冷たい所に住んでいる。ちょうど寒くなてくる今の時期、海の(表面の)温度が下がってくると浅い所に産卵のためにやってくる。産卵場は限られていて、日本海だと秋田沖と朝鮮半島の東側、それと北海道に小さな産卵場がある、産卵場が限られているため、そこにどっと集まってくる。ハタハタの寿命は5年くらいで、雄は1年、雌は2年で繁殖できるようになる。1回繁殖したら死んでしまうのではなく、寿命の5年まで数回繁殖する。深い水温の低い所にいるので成長は遅く、1歳で10cm、2歳で15cm、5歳で20cmくらい。
ハタハタの卵には面白い特徴がある。ねばねばして塊をつくり、とてもカラフル。(写真を見ながら)緑、赤、黄、橙など様々。卵塊の大きさはピンポン球くらい(直径3〜4cm)。1つ1つの卵の大きさは2〜3mmで、それが1000〜2000個くらいねばねばで集まって卵塊をつくり、そのねばねばで海藻に付着している。この卵塊はブリコと呼ばれる。それが強風の時には、海藻から離れて海岸に大量に打ち寄せられ、いくつもの卵産が集まった状態になる。卵塊の色は、食べる餌や地域によって違っているようだ。餌は大型のプランクトンで、ヨコエビやオキアミなど。
水族館では、秋田、青森、山形、それに北海道の小樽の水族館で見られるようだ。大きな鰭を動かして泳いでいるところや、砂の中に半分体を入れて目や頭だけを出しているところなどが見られる。
●12月5日「ヒマラヤスギ」
(写真を見ながら)地面に落ちた、渦巻き状のバラの花のようなもの。これは通称シダーローズと呼ばれているもので、クリスマスリースなどに用いられる。シダーローズはバラではなく、ヒマラヤスギという木の実の一部。ヒマラヤスギは公園などによく植えられている木で、高さ20m以上の高木になる。葉は5cmくらいの針のような形で、針葉樹の仲間。その名の通り、原産地はインドやパキスタンのヒマラヤの産地や、隣りのアフガニスタンの産地。原産地では高さ50mを越える大木になる。原産地は限られているが、姿が美しい(樹冠は端正な円錐形で、地面に水平な枝と垂れ下がった小枝がある)ことから、世界各地で広く公園などに植えられていて、世界三大公園樹(ナンヨウスギ、コウヤマキ、ヒマラヤスギ)の1つとされている。日本には明治時代に導入され、全国各地の公園に植えられている。
杉の実は小さな丸い形だが、このシダーローズは直径4cmくらいで独特のバラのような形。ヒマラヤスギは杉ではなく松の仲間で、ヒマラヤスギの実は松ぼっくりに少し似ている。ヒマラヤスギの枝には夏から秋にかけてテニスボールくらいの大きさの丸い実がたくさんなっている。でもヒマラヤスギのこの丸い実は、松ぼっくりのようにそのまま丸ごと地面に落ちていることはあまりない。枝に付いたままばらばらに分解して、種の付いたまま産卵してしまう。その時落ちた実の先端部分が、このシダーローズ。松ぼっくりを上から見ると、きれいな螺旋模様を描いているが、ヒマラヤスギの実の先端部分も螺旋状になっていて、それをバラの花に見立ててシダーローズと言うようになった。
ヒマラヤスギを含むヒマラヤスギ族は、世界に4種だけ知られていて、それぞれ限られた地域に分布している。ヒマラヤスギはヒマラヤ山脈の周辺、それ以外の3種はいずれも地中海周辺に分布している。その1つがレバノンスギでレバノンの国旗にも描かれている。古代エジプトでは、レバノンスギは建物や船の材料として使われ文明に大きく役立った。でも多くの木が伐採され、今では絶滅が危惧されていて、レバノンのレバノンスギの森は世界遺産にも登録されている。そんな貴重なレバノンスギだが、日本でもいくつかの公園などに植えられていて見ることができる。
●12月12日「日本海側のノウサギ」
ノウサギは全国各地にいるが、地方によって様子が変わる。(茶色のままだったり、白くなったり。)今回は、日本海側のトウホクノウサギについて。
新潟は東北地方ではないが、ここに住んでいるのもトウホクノウサギ。50年くらい前、兄と2人で長岡市の悠久山公園に住むノウサギについて調査したことがある。2月の雪がたっぷりある時期を選んで、かんじきをつけて調査した。地図とカメラを持って歩きはじめるとすぐ、ノウサギの足跡が見つかる。前足は、棒でつっついたような小さな2つの円い足跡、後足は細長い大きな2つの足跡。小さな2つの点のような円と大きな2つの長い円がセットになっていて、ノウサギは前足で雪面をピョンと蹴って馬跳びのように進むので、進行方向は細長い後足の足跡で分かる。これをたよりに、地図に印をつけて追跡をはじめる。足跡をたどると、急な斜面を下ったり、下の沢を渡ったり、反対側の急斜面を走って登ったり。追跡はとてもたいへん。(ピョンピョンと飛び去っていくところを横から流し撮りで撮影できた。躍動感のある写真。)こうしてノウサギの足跡を地図に書き込んでいくと、大きな円を描いてもとに戻っていることが分かった。直径約400mの円で、行動圏をあらわしている。
ノウサギの行動圏は直径約400mで、その中で食べたり休んだりしていることが分かった。食べ物は、雪から出ている小枝の先の冬芽(小枝の先をよく見るとナイフでぱっと切ったようになっていることがあっで、これが食べた跡)、桜の冬芽、キリの木の皮、笹など。
ノウサギの毛の色は夏は茶褐色。秋から冬にかけて、1本の毛の真ん中あたりにある色素が抜けて白くなる。白くなることを白化と言うが、日照時間の変化である種のホルモンが分泌されて引き起こされる。白化しない地域もあるので、温度も関係するようだ。1月の平均気温が2度から4度以下だと、みんな白化するようだ。色素が抜けた部分は空洞で、そこに空気が入り、断熱効果があり保温力が高い。ただ最近困ったことがある。それは温暖化。雪が少ないのに白化してしまう。保護色が逆に目立つことになるという現象が起こり、外的に見つかりやすくなっている。野生のノウサギが減ると、イヌワシなどの猛禽類やキツネなどにも影響があるので、心配している。
◆2021年
● 1月2日 「ニシン」
ニシンは数の子の親として有名。全長35cmくらいになる、寒流系の回遊魚。回遊魚は、自分の好きな温度と塩分があり餌を求めて回遊するが、その中で低い温度を好む魚を寒流系と言う。ニシンは、基本的にはほぼ10度以下の所にいる。分布はかなり広くて、北太平洋、ベーリング海からカリフォルニア半島にかけて広く生息している。日本の場合は、日本海では富山湾、太平洋では犬吠埼付近までとされている。
水深数メートルから200メートルくらいの沖合の深い所を群れて回遊している。昼は深い所にいて、夜になると上に上がってきてオキアミなどの動物プランクトンを主な餌にして生活している。
ニシンの産地としては北海道が有名(一部東北地方でも)だが、今はあまり取れなくなっていて、数の子はカナダ産が中心になっている。ニシンの主な産卵場は北海道沿岸と東北沿岸。波の静かな暗い夜に日没前から夜明けにかけて、海藻が繁った岸辺近くで産卵する。卵の大きさは直径1.5mmくらい、卵の膜が厚く硬くできている(プチッとした食感)。産卵は、東北では12月から2月、北海道の石狩湾あたりでは1月上旬から5月上旬くらいまで。
ニシンの産卵行動は、サケの産卵時のようにペアをつくることはせず、雌雄がそれぞれ海藻の間を下から上に泳いでいって、雌が卵を産みつけ、その後雄が来て精子をかける。ニシンの卵は沈性粘着卵で、マグロやタイのように海中を漂い続けるような卵ではない。1尾の産卵数は、大きさによっても異なるが、3万から10万くらい。雌が産んだ後雄が精子を出すが、その精子で海水が乳白色に濁ることがある。この精子の液には雌の産卵を誘因する物質が含まれていて、産卵が誘発されるとそこらじゅうのもの、定置網の網地やロープ、海の中に沈んでいる木とか、所かまわず産卵する。子持ち昆布は、こんな状態で、昆布に何層にも産みつけられた卵。今は、産卵前のニシンがいる所に昆布をたくさん垂らして産みつけさせている(自然界ではあんなに厚くは産みつけていないようだ)。
産卵後はふたたび沖合いに戻って年を越し、翌年また同じ沿岸に来て産卵するというパターンを繰り返す。
ニシンは大正時代に最高百万トンも取れた。昭和28年くらいから現象しはじめ昭和30年には5万トン、昭和50年代には1万トンをきるようになった。資源を増やさねばということで、子を育てて放流する事業が昭和57年から始まった。孵化後3ヶ月くらい、7cmくらいになった幼魚を、最初は10万尾くらい、今は全国で数百万尾を放流している。放流のほかにも、底引き網で漁獲することもあるが、その時には小型魚の割り合いが1割以上になると漁をやめて他の所に向うとか、刺し網の場合は網目を大きくして小型魚を取らないようにするとかして、資源の保護につとめている。その成果で少しずつ漁獲量は増えているが、それでも1万トンくらい。(以前は北海道付近のものだけでなく、サハリン方面から広範囲にやってくるものも漁獲していたが、今は狭い各地域のものをそれぞれ漁獲しているので、漁獲量には限度がある。)
[補足]子持ち昆布の主産地は北太平洋岸で、カナダ・ブリティッシュコロンビア州やアラスカ州。産卵期(4・5月ころ)に沿岸の浅瀬にやって来るニシンの通り道に昆布を並べて垂らしておき、そこに抱卵ニシンを追い込むと、ぶつかった昆布に卵を次々に産つける。ニシンの卵はねばねばしているので、昆布に何層にも数の子がつくことになる。
●1月9日「ヤドリギ」
ヤドリギは、文字通り他の植物に宿って、つまり寄生して生きる植物。けっして土に根を張ることはなく、必ず他の樹木の枝や幹に根を刺し込んで水や養分を得ている。
このヤドリギが寄生する相手のことを寄主と言う。ヤドリギは様々な落葉広葉樹が寄主になるが、関東より西の平野ではケヤキやエノキやサクラなどの落葉樹に寄生することが多いし、山地や北海道など北日本でもコナラやミズナラ、ブナやシラカバやナナカマド様々な木に寄生しているのが見られる。
他の樹木の枝に寄生するヤドリギの生き方の利点の一つは、苦労しないでも木の上の高い位置に枝葉を広げて光を得ることができるという点。逆に、この生き方の困難な点は、どうやって樹木の枝にたどりつくかということ。多くの植物と同じくヤドリギは種子で増える。ヤドリギが生き残るためには、寄主の枝や幹に種子をくっつけなければならない。そのために、ヤドリギには巧妙なしかけがある。
。 ヤドリギには天敵はいるのか?ヤドリギを食べる昆虫はいる。最近、ヤドリギを専門に食べていると思われる昆虫を発見した。それは、フタホシドクガという蛾の幼虫(毛虫)。フタホシドクガはドクガ科に属する有毒な蛾。この蛾の成虫はそんなにめずらしくないが、幼虫についてはどんな姿でどこで何を食べているかなどだれも知らなかった。フタホシドクガの幼虫はヤドリギの葉や枝を餌としていることを、共同研究者と一緒に発見した。樹上で寄生生活をしているヤドリギを食べていたのだから、これまでこの幼虫についてよく知られていなかったのは当然かも。他の昆虫の中にもヤドリギを食べているものはいるようだ。
●1月16日「ウシ」
今年は丑年。家畜のウシの祖先は、オーロックスという野生のウシ。オーロックスは、今は絶滅してしまって存在しないが、その姿は見ることができる。フランスの有名なラスコーの洞窟の壁画に描かれていて、教科書などでも見られる。これは紀元前2万〜1万年くらい前に描かれている。ラスコーの壁画に描かれている姿などから、かなり大きかったようだ。大きいものだと、肩までの高さが185cm、体重は1トン近くもあり、角は大きく細長くて[まず横に広がり、次に前上方に曲がり、先端は上を向き]両端の幅は150cmもある。
体は大きいが、性質はおだやかだったのではないか。そうでないと、人間に飼われなかったのではないか。ユーラシアに広く分布していて、明るい林や開けた草地に小さな群で棲み、木の葉や草を食べていた。彼らはおそらく日中に活動して、1頭の雄と数頭の雌と子どもからなっていた。そしてこの大きな動物を、今から9千年くらい前に、当時ヨーロッパに住んでいた人たちが飼育するようになった。農耕生活が始まったころだから、林を伐採して農地を拡大したことでオーロックスとの接触が増えたのだろう。ただ、オーロックスは1627年に(ポーランドで)絶滅してしまった。
祖先は滅んだが、ホルスタインなどとして残っている。オーロックスから、ヨーロッパの涼しい気候に適したホルスタインの系統が生まれてきた。南アジアでは、暑さに適応したコブウシの系統が生まれたと考えられている。このコブウシから、後に日本にいるいわゆる和牛が生まれたとされている。コブウシは、オーロックス由来の南アジアの野牛から生まれたともされるが、詳しいことは分かっていない。今のところ、アジアにいるすべての牛は、コブウシ由来だろうとされている。
牛は、南北方向を向いて食餌したり休憩したりするという研究報告がある(ドイツとチェコの研究チームが2008年に発表)。グーグルアースの映像を利用したもので、世界の牧草地308箇所の8510頭の牛を調べた結果、大半が北か南を向いており、その方位を平均すると地磁気の南北に近かった。牛だけでなく、シカなど偶蹄類全般が南北を向いて食餌したり休んだりしているそうだ。(牧場でウシの向いている方向を見れば、方位磁石がなくても南北は分かるということ。)
また、牛には、人の指紋のように、個体ごとに異なるシワがある。ウシには2つの鼻の孔があるが、そのつるうっとした所に1頭ごとに異なるシワがあり、このシワを版画のように紙に写し取っり、この鼻紋を個体識別や証明に使っている。血統などの証明書を作るときに、この鼻紋を使う。(和牛では、子牛の時に鼻紋をて
[補足]ウシ、シカ、ブタ、ラクダなど、そしてクジラの仲間は、古第三紀暁新世に共通の祖先にさかのぼれるとされ、鯨偶蹄目と呼ばれる。その中でウシ科は、比較的新しく登場した仲間。ユーラシア大陸で誕生したウシ科の祖先は、2千万年前に陸続きとなったアフリカへ渡り、乾燥化による草原の拡大とともに多様化し、現在では中型・大型哺乳類の中で最大の種数になっている。
[補足]地磁気極(Geomagnetic pole)は、地磁気を地球中心にある双極子による磁場で近似したときの、その双極子の軸と地表との交点のこと。簡単にいえば、地磁気を地球中心にある1個の短い棒磁石で近似したときの、 その棒磁石の軸と地表とが交わる2点のこと。地磁気極の位置は年々変化するが、2020年には、地磁気北極は北緯80.7度、西経72.7度のクイーンエリザベス諸島付近、 地磁気南極は南緯80.7度、東経107.3度の南極大陸内の東南アジア寄りにある。
●1月23日「冬の昆虫観察のススメ」
冬は虫はほとんど活動せず(冬に出る虫もあるが)、越冬している虫を観察することになる。その中でも、回りに合わせて擬態をしているもので見つけやすいものについて紹介する。
(写真を見ながら)木の幹を拡大して撮った写真。中央をよく見ると、ガのような昆虫がとまっている。これはキノカワガという蛾で、木の幹にそっくり、木の幹に体を隠す昆虫。(回りに合わせて)いろんな模様・形のがいて、一定していない。この写真の蛾はわりと見つけやすい模様をしているが、もっと見つけにくいのがたくさんいる。この木はクヌギの木。この蛾は実はカキノキの葉を食べる。ただ、カキノキに限らずいろんな幹にとまる。クヌギ、ケヤキ、サクラなどによくとまっている。真冬、この成虫の姿でずうっと1日中木にとまっている。この蛾は年に2回出て、夏に出るとあまりとまっておらずすぐどこかに行ってしまうが、寒くなるとまったく動けない(小諸では、11月末から3月まで、東京や大阪ではたぶん12月半ばから2月半ばまでは動かないだろう)。いろんな模様は、木の幹の模様のパターンに似せているということ。
次に、コマダラウスバカゲロウというウスバカゲロウの幼虫について(ウスバカゲロウの幼虫はいわゆるアリジゴク)。アリジゴクはふつうは砂地に穴を彫って落ちてくる虫を待っているもの。このコマダラウスバカゲロウは木の幹や苔むした岩などにとまって、そこでじいっとして獲物が来るのを待っている。(写真を見ながら)苔の生えた岩の写真なのだが、なにもいないように見える。よく見ると、中央に牙のようなのが見えていて、これらしい。それが虫をつかまえる大きな口。口を開いた形こそアリジゴクの形はしているが、体はまったく回りの苔と一緒で…。実はこの虫の体の色はまったく違っているが、自分で体に苔を乗せて苔の生えた岩に擬態する。回りの苔と一緒で、現地調達して隠れていることになる。
大きさは1cmか、大きくなると1.5cmくらい。ほとんど動かず、半年も同じ所にいる(すばやく動くことはできない)。近くを小さな虫が通ると食べるが、口を動かすだけなので、触るほどに近付いてくれないと食べることができず、とにかくずうっと待ち続けている。成虫になるのには、餌の量によって異なってくるが、最低でも1年、2年かかることもある。だから、その間、行けばいつでも同じ所にいる。そしてその間、うんちもおしっこもしない。食べた虫の栄養を使い切ってむだにしないために、排泄もしない。
●1月30日「ペンギン」
ペンギンは陸上ではよたよた歩いているが、水中ではまさに飛んでいる、水中を飛ぶように動き回る。水中を泳ぎ回る鳥には、水かきのついた足を動かして泳ぐものと、ペンギンのように翼を使って泳ぐものがある。ペンギンの足には水かきはあるが、その水かきを使って泳ぐことはない。
ペンギンは全世界に19種類[ふつうは18種とされることが多い]おり、南極で暮らしているのはそのうちの5種類しかいない。さらに、南極だけで繁殖するペンギンは2種類しかいない。ペンギンは暖かい所にもいる。
ガラパゴスペンギンは、ガラパゴス諸島に生息しているペンギン。ガラパゴス諸島は赤道直下にある島で、1年を通して暖かくて平均気温も25度くらいある。とは言っても、ペンギン=寒い場所という考えは間違っていない。ペンギンの体は寒さの中で生活しているのに特化している。例えば、ずんぐりむっくりした体形は、寒さ対策のために脂肪を付けた形。脂肪は防寒に役立っても、冷えやすい性質もある。冷えやすい脂肪を暖かく保つために、脂肪の中まで血管が通っていて、暖かい血液を脂肪の中にまで通すことで防寒に役立っている。
暖かい所に住んでいるガラパゴスペンギンでも、脂肪による寒さ対策がされている。なぜかと言うと、餌を取るために寒さ対策は必須だから。ペンギンの食べ物としては、魚やイカのほか、オキアミなどのプランクトンが多い。そういったプランクトンが大量に発生する所は、水温の低い所。ガラパゴスペンギンが暖かい場所で生活できるというのも、島の近くを(はるばる南極から流れてくる)フンボルト海流という寒流[およびクロムウェル深層流:東から西に流れる南赤道海流がアジア大陸にぶつかって深海に潜り込み、赤道の海底付近を反転して戻ってくる海流]が流れていて、そこでプランクトンが発生するから。
こうした体の特徴のほかにも、ペンギンは寒さをしのぐ行動を身につけている。その1つがハドリング、いわゆるおしくらまんじゅう。おしくらまんじゅうしていても、中にいるペンギンは暖かいかもしれないが、外側にいるペンギンは冷たい風が当たって寒いだろう。でも、寒さに耐えられなくなったペンギンは、外側の列からはずれて中にもぐりこむ。それを繰り返しながら協力して寒さをしのいでいる。
ペンギンは、温暖化の影響を大きく受ける可能性がある。その1つは、温暖化によって起こる海流の変化。ペンギンは寒流域で餌を取っているが、温暖化によって海流が変化してしまうと、寒流の位置が変わって遠くなり、餌が取りにくくなる。中には、餌を取るのに数百キロも泳いでいくペンギンもいるが、海流が変わることで餌を取れなくなる。また、南極で雨が降るようになると、暖かいふわふわの羽毛につつまれているペンギンのヒナは、本来防寒の役割をしている羽毛がべちゃっとぬれてしまって(親の羽毛には撥水性があるが、ヒナの羽にはない)、暖かい空気の層がなくなり、凍え死んでしまう。
[補足]ペンギンの種類:エンペラーペンギン、キングペンギン、ジェンツーペンギン、ヒゲペンギン、アデリーペンギン、キガシラペンギン、ハネジロペンギン、コガタペンギン、ロイヤルペンギン、マカロニペンギン、スネアーズペンギン、シュレーターペンギン、イワトビペンギン、フィヨルドランドペンギン、ケープペンギン、マゼランペンギン、フンボルトペンギン、ガラパゴスペンギンの18種。この中で主に南極で暮らしているのは、エンペラーペンギン、アデリーペンギン、ジェンツーペンギン、マカロニペンギン、ヒゲペンギンの5種。さらにこの中で主に南極大陸で繁殖するのはエンペラーペンギンとアデリーペンギン。
●2月6日「カサゴ」
(写真を見ながら)赤褐色の体に白い斑点、見た目はなんだか岩にも見える。目が大きい。体の大きさの割に頭も大きい。潮間帯(波打ち際)から水深80mくらいまでの岩礁域や藻の生えている所に多く生息している。一般的には、小力魚は浅い所、大型魚は沖合の深い所に生息している。磯の岩の割れ目とか大きな転籍の陰などにへばりつくように潜んでいて、ゆるいなわばりを持つ習性がある。分布は、北海道の南から九州まで日本各地、磯の岩礁域に生息する。主に夜行性。昼でも餌になる小さな魚が近付いてくると飛びかかって食べる。夜間は積極的に餌を探しに行って、とくに夏場は夕方の7時から9時、いわゆる夕まずめに活動が活発になる。
成長すると、25cmくらいの大きさで1.5kgくらいに達する。今はちょうど繁殖期というか、子供を産む時期。
カサゴは、他の魚と違っていて、卵胎生魚。カサゴは雄と雌で成熟の時期が違う。雄が雌よりも3、4ヶ月早い。9月から12月くらいで精子が成熟して繁殖能力ができる。このタイミングで雄は雌に求愛して、交尾をする。しかしまだ雌は準備ができていない。つまり、雌の体の中の卵がまだ成熟していない時期に交接を行う。前に話したニシンやハタハタなどほとんどの魚は雌が海藻などに卵を産み、その後雄が精子をかける体外受精だが、カサゴの場合は交尾をして雌が体の中に精子を受け取る。雄は生熟すると閘門の前に角状の交接器(ペニスのようなもの)ができて、この交接突起を通って精子が雌の体の中に入る。しかし雌の卵が生熟していないので、雌は精子を約4ヶ月間体の中に蓄えておいて、卵が生熟すると、生熟した順に何回かに分けて受精させる。受精した卵は雌のお腹の中で1ヶ月くらいかけてどんどん発達して、自分の持っている卵黄から栄養を吸収し、全長4mmくらいで産み出される。産まれた子供は、小さいので遊泳力がなく、透明なシラスのような状態。1、2ヶ月間は浮遊生活をする。全長2cmくらいになってから沿岸の潮間帯のほうに移動し、3、4cmになると底のほうに沈んで底生の生活に入る。
雄は1年で13〜15cmくらいになるが、雌はやや小さくて1年でも12cmくらい、2年で雄は18cmくらい、雌は15cmくらい、というように雌のほうがやや成長が遅い。5歳で雄は25cmくらい、雌は20cmくらいになる。
カサゴは、栽培漁業の対象として九州地方でも500万尾くらい放流が行われている。カサゴはもともと移動の少ない魚なので、同じ所に毎年放流すると、前に放流したものが下のほうで待ち構えていて食べてしまう。1年ごとに放流する場所を少しずつ変えないといけない。
●3月20日 「アケビ」
アケビは今ころ花が咲く。アケビと呼ばれている植物は、日本にはおおまかに言って2種類、アケビとミツバアケビがある。アケビとミツバアケビはよく似ているが、アケビの葉は5つに、ミツバアケビの葉は3つに別れているのが特徴。本州から九州にかけては2種類とも分布しているが、北海道ではミツバアケビだけが分布している。
アケビ類(アケビとミツバアケビ)は、ちょうどお彼岸のころから4月にかけてが、花の時期。アケビ類は樹木などに絡みついてのびる蔓性の植物で、日当たりのよい森の縁などでよく見られる。
(アケビとミツバアケビの花の写真を見ながら)いずれも花は3枚で、アケビの花は桃色で可憐な感じ、ミツバアケビの花は濃い赤紫色で落ち着いたシックな感じ。アケビの花は面白いつくりをしている。ミツバアケビの花を例に説明する。ミツバアケビの蔓からはいくつもの花が房になって垂れ下がっている。このブドウの房のような全体を花序と言う。(花序は、茎についた複数の花の集まりのこと。)アケビ類の花序は、雌花と雄花からなっている(1つの房に、雌花と雄花の両方がある)。写真の上のほうの、2つの大き目の花が雌花、下のほうについている十数個の小さな花が雄花。雌花には3枚の花びらと7本前後のめしべがある。めしべの先端は光沢があり、ここに甘くて粘り気のある液を分泌している。このめしべの1本1本が受粉して成長すると、秋には甘くておいしい果実になる。
雄花は雌花に比べてずっと小さくて、3枚の花びらはあるがあまり目立たず、おしべが6本ある。雄花1つ1つは全体としてミカンの果実のように見える(皮をむいたミカンみたい)。おしべの先がやぶれると薄黄色の花粉が出てくる。花粉には粘り気があって、おとずれた虫のからだに着くようになっている。アケビ類の花は、めしべの先の甘いつゆや花粉を餌としてハナバチなどの昆虫に提供するのと引き換えに、花粉を運んでもらっているようだ。
アケビ類にはいろいろな虫類がやってくる。例えば、アケビ類の蔓を見ていると、これから葉がのびてくるが、チリ紙のようにくちゃくちゃにまるまった葉が見られることがある。これは、ベニキジラミという虫の仕業。この虫は、アブラムシなどに近い昆虫で、体長2mmくらいの小さい虫で、鮮やかな紅色をしている。この幼虫がアケビ類の葉に寄生して汁を吸うが、ベニキジラミに寄生されたアケビ類の葉は丸めたチリ紙のようなくしゃくしゃな形になる。これを虫こぶと言う。この虫こぶの中で、ベニキジラミの幼虫は葉の汁を吸って養分を得ているが、その時、余分な水分と糖分をおしっことして排出する。このおしっこをなめてみると、薄い砂糖水のような甘味がある。したたり落ちたおしっこにはアリが集まってくる。このように、ベニキジラミはアケビ類にとっては害虫だが、観察すると面白い。アケビ類の花や葉は様々な昆虫に利用されていることが分かる。そして、甘くておいしいアケビ類の実は、人だけでなく鳥や猿などの獣にも食べられ、そのおかげで種子をまき散らしてもらっている。こんな風に、植物と動物のかかわりの多様さを見せてくれるアケビ類は、観察して面白い植物。
[補足]
ベニキジラミ
●4月3日 「春にしか出ない虫」
今年の春は早く暖かくなった。先日フィールドの小諸に行ったら、なんと春限定のチョウがもう出ていた。春になれば、菜の花畑にいろいろな蝶が舞っているが、今回はその中から、今の季節、春だけにしか見られない蝶を紹介する。
ツマキチョウ(褄黄蝶):(写真を見ながら)羽はほとんど白で、少し黒い斑点がある。モンシロチョウに似ている(モンシロチョウと同じシロチョウの仲間)。大きさは、モンシロチョウよりもやや小さくて、羽を広げて3.5〜4cmくらい。「褄」(着物の裾のこと)は羽の先のことで、雄だけだが羽の先が黄色いので褄黄蝶と言う(雌はその所は黒い)。羽の裏側を見ると、特有の草のような模様がある。これは、寒くなると羽を閉じてとまってしまうが、その時、周囲は枯草と緑色の葉が入り混じったころなので、羽の模様が周囲と溶け合ってしまう(隠れるのが上手な蝶)。この時期、アブラナ科のムラサキハナナ(諸葛菜 しょかつさい)に来て、蜜を吸ったり卵を産んだりする。
ツマキチョウは、この時期どこにもいる蝶。というのは、ツマキチョウの幼虫はナノハナなどアブラナ科のつぼみや花や実を食べる。そして、アブラナ科植物は夏にはほとんどないので、春にだけ出るように進化してきた。
今年は、桜が異常に早く咲いた。蝶と植物には温度の感受性の違いがあるようで、例えば、蝶が卵を産もうとしたらその植物がなかったとか、受粉してくれるはずの蝶や昆虫が出てこないうちに花が咲いてしまったということがある。長い年月をかけてそういう昆虫と植物の関わりができてきているので、そう簡単にはくずれないと思うが、影響を受けていることもあるだろう。3月末に小諸で、ヒメギフチョウなど春限定の蝶が飛んでいた。30年ほど小諸で観察していて、幼虫の食草であるウスバサイシンがまったく芽吹いていない3月末にヒメギフチョウが出ていたのは初めて。親は花を替えて蜜を吸うことができるが、幼虫は食草を替えることはできないので、幼虫が食べる植物の準備ができないうちに蝶になってしまうと困ることになる。私たちの身近には、温暖化など気候の変化に大きく影響を受ける生き物たちがたくさんいる。昆虫観察を通して、このように環境について考えることもしてほしい。
●4月17日 「シロワニ」
むかしから日本ではサメのことを「ワニ」と呼んでいる。『古事記』の中に出てくる「因幡の白兎」ので、ワニに襲われて丸裸にされたという話があるが、このワニはサメのこと。また「シロワニ」という名前は、他のサメに比べると白っぼいことから(真っ白ではない)。
(写真を見ながら)大きな口にむき出しの鋭利な歯がずらっと並んでいて、いかにも恐ろしいサメの顔という感じがする。シロワニは、成長すると長さ3メートル、体重150キロにもなり迫力はあるが、外見に似合わず、比較的おとなしい性格。世界中の温帯や熱帯の海に生息していて、日本では小笠原に住んでいるのが知られている。でも、人はほとんど襲わない。ダイバーも近くに行って見たりしている。水族館でも人が水槽に入って餌を手渡ししている。
このサメは基本的に夜行性で夕方から活動。昼は岩陰などでじっとしていることが多い。夜になると海底付近でサメやエイなどの魚類、エビ・カニなどの甲殻類、タコやイカの頭足類を食べている。水族館では、日中ゆっくり泳いで水中に止まっていることもあるので、観察しやすい。これはシロワニだけに見られる特徴で、シロワニは時々海面に浮き上がって空気を吸うという、他のサメには見られない行動をする。空気を吸い込むと言っても、呼吸のためではなく、浮力を保つため。吸い込まれた空気を胃にためることで浮力を得ている。他のサメ類は浮き袋がないので、活発に泳がないと沈んでしまう。空気を体内にためることでゆっくり泳ぐことができ、海底の餌をゆっくり探すことができるし、昼は活動的でないので空気をためることでゆっくり泳げる、といった利点がある。
シロワニは観察するのに今がちょうどよい。シロワニは春が繁殖期で、その繁殖行動も見られるかもしれない。シロワニは他のサメ同様に交尾をして体内受精をする。雄は大きな円をえがいて雌に近づいて行って、鼻先や鰭で雌の体をなでるように触ったりして仲よくなる。その後雄は雌の胸鰭に噛みついて体を安定させるようにして、雌と平行して泳ぎながら、1、2分間交尾をする。
シロワニの繁殖形式は特殊。シロワニは、親と同じ形の子を産む胎生型のサメだが、子宮の中で他の胎子を食べる繁殖形式(子宮の中で共生いをする)。親は子宮の中に十数個卵を出し、そこで受精して卵は育つが、孵化した子供同士で共生いをする。卵が孵化して子宮の中で17cmほどになると、(おなかの中にいるのに)歯がそろう。そして、早く大きくなったものが、まだそこまで大きくなっていないものを食べていく。そして、自分の兄弟たちを食べ終わると親の卵巣から排卵される卵、栄養豊富な未受精の卵黄を食べ、最後の1尾が生まれてくる。妊娠期間が9〜12ヶ月、生まれてくる子供の大きさは約1メートルになる。お母さんのおなかの中にいる時から、生き残るための競争がはじまっていると言える。
●4月24日 「ハナミズキ」
ハナミズキは、各地の公園や街路樹として植えられていて、身近な樹木。花は4月末から5月初めの連休ころに咲くが、今年は開花が早くて、千葉では4月前半から咲いている。
(写真を見ながら)白く大きな4枚の花びらが目立つ。この4枚の大きな花びらに見えるものは、じつは葉で、花を守る葉という意味で「包葉」と呼ばれる。写真の包葉は白だが、中には淡いピンクのものもある。ますます花びらっぽいが、植物学的には花とは言わない。花は、包葉の中心をよく見ると、金平糖のようなかたまり(小さい丸い粒がたくさん集まっているように見える)があり、そのひとつひとつの粒が花。小さな花の周りに葉が4枚花のようにある。
植物にはいろんな花が咲くが、多くの花は虫を呼び寄せるためになんらかの仕掛けをつくる。例えば桜の花は花弁だが、ハナミズキではその花弁の役割を葉が果している。植物は虫を呼び寄せたいわけで、虫から見て目立てば何でもよい。だから大きな白い葉を広げて、虫にたいしてここに花があるよと旗を振っているようなもの。
ハナミズキの原産国はアメリカで、日本には大正時代に入ってきた。当時東京市長だった尾崎幸雄がアメリカ・ワシントン市にソメイヨシノを送った。そのお返しとしてアメリカから送られたのが、このハナミズキ。ハナミズキの別名として、アメリカヤマボウシという名がある。これは、日本にあるヤマボウシという樹木の仲間だから。
ヤマボウシは野生のものは山にあるが、街路樹としても植えられているので街中でも見られる。(ヤマボウシの花の写真を見ながら)ハナミズキと同じく4枚の白い花びらのような葉があるが、その包葉の形が少し違う。ハナミズキの包葉は先が少しくぼんでいるが、ヤマボウシの包葉は先がとがっている。花びらに見える包葉の先がとがっているかいないかで見分けることができる。ヤマボウシの花が咲くのはハナミズキより少し遅くて、ふつうは5月から6月(でも今年は半月くらい早く、そろそろ咲くかもしれない)。
ヤマボウシは秋に赤い実をつける。直径2〜3cmくらいの丸いかたまりで、赤くてとてもおいしい。ハナミズキにも同じように実がなるが、まずくて食べられない。実の形も違っていて、ヤマボウシの実はまん丸のボール型だが、ハナミズキの実はラグビーボールのようなのがいくつか集まったような形。
[補足]包葉(bract):花芽を包む葉。苞葉とも書き,単に包(苞)ともいわれる。開花後は花の下に残り,高出葉と呼ばれることもある。また芽やつぼみが展開する前にその周囲を包み保護している鱗片状の葉のうち比較的大きいものをさすこともある。一般に緑色で普通葉より小さいが,ブーゲンビレアの包葉は紫紅色花弁状で美しい。花序を包む包葉は普通多数からなり総包と呼ばれる。キク科の頭状花序の総包は多数の鱗片状の包葉(総包片)からなり,その形,数,配列など分類の特徴にされる。ドクダミやヤマボウシでは総包は 4枚からなり白色花弁状である(ハナミズキも総包)。またミズバショウなどサトイモ科の肉穂花序(→肉穂花)では,その周囲を仏炎包と呼ばれる大型の包葉が包み特異な形となっている。
●5月1日 「アフリカゾウの子ゾウ」
ゾウの妊娠期間は22ヶ月(2年近く)。生まれた時の体重は、10キロから120キロもある。生まれて30分くらいで立ち上がろうとする。
アフリカゾウは以前はアフリカ全土にいたが、今では、南アフリカのケープ地方や中部のケニア、西部の熱帯雨林に住んでいるだけで、北アフリカにはいない(ローマ時代に姿を消したとされている)。
陸上最大の哺乳類。雄は肩までの高さ3.5m、鼻をふくめた頭から胴までの長さが6〜7mある。体重は4トンから7トン。牙は最大で3.5mもある。雌は雄より二回りくらい小さくて、体重は約半分。
ゾウは、子どもをとても大切に育てる。アフリカゾウは群で暮らしているが、子どもは母親の乳を飲んだり、生まれてじきに固形物を口に入れたりする。しばらく経ってから、草や木の葉、木の根、小枝、木の皮などを食べようとするが、まだ噛み砕くことはできない。食べてはいけない物を口に入れようとすると、母ゾウが子ゾウの口の中に向けて鼻で押し上げて食べさせないようにする。をこうして、子ゾウは食べてはいけない物を覚えていく。群のメンバーは食餌の場所に到達すると、夢中で食べ始めて、赤ちゃんゾウはほったらかしになる。そうすると、若い娘ゾウが子ゾウの相手をする。赤ちゃんゾウは好奇心旺盛で、ノウサギやオオトカゲなどを追いかけて群から走り出ようとする。それを、ベビーシッター役の娘ゾウが止める。
子ゾウはよく寝る。20分とか30分、1日に何度も頻繁に寝ることを繰り返す。群で移動している最中でも、眠くなるとばたっと寝てしまう。そうすると、群全体が止まってしまって、赤ちゃんゾウが起きるまで待っている。そして、おとなのゾウは横に立って直射日光があたらないように、日陰までつくってやる。おとなは、1日に2時間から長くて4時間くらいしか眠らない。
群は、2、3頭のおとなの雌のゾウが中心。雌は姉妹か母と娘で、雌のそれぞれに1頭の赤ちゃんがいるので、全体で多くて5頭くらいの赤ちゃんゾウがいる。群全体では、8頭前後。群のリーダーは、年取った、もっとも経験豊かなおばあちゃんゾウ。どこに行けば、おいしい物があるとか水があるとか、経験的に知っている。だから、雌のリーダーに付いて行けば、飢えることはない。
雄は11歳くらいでおとなになる。そのころになると、雄は群を出ていく。雄は、雄だけで小さな群をつくったり、1頭で暮らしたり、雌の群の回りに点々といる。そして、繁殖期だけ雌の群にやってくる。
●5月22日 「コブダイ」
コブダイ(瘤鯛)は、名前に「タイ」が付いているが、タイの仲間ではなく、ベラの仲間(詳しく言うと、スズキ目ベラ科タキベラ亜科コブダイ族)。コブダイ族の静は、カリフォルニアとガラパゴス、それから日本近海のアジアの、3種がいる。成長すると1m余、十数キロに達する魚で、かなり長生きする。今わかっているのは、31歳まで生きたという記録だが、もっと長生きするのではと思われる。
(写真を見ながら)体の色はまさにタイのような色(紅色?)をしているが、目立つのはやはり口の上、おでこの部分で、そこにりっぱな瘤がどんと出ている。この瘤は実は脂肪のかたまり。触るとわりあい軟かくて気持ちいい。水族館でガラスの壁面にぶち当たると、ぺこっとへこんでしまう。
瘤は、以前は雄にだけあると言われていたが、雌も瘤を持つことがあることが最近分かってきた。この魚は、雌から雄に性転換する。コブダイは、最初は雌として成熟する。そしてさらに成長すると、その中で体の大きいものが雄に性転換する。雌としては2歳から産卵に参加し、11歳を過ぎたころから雄になる個体があらわれてくる。(雄になるには、年齢のほかに、体の大きさも影響するので、11歳になったからといって全部が雄に変わるわけではない。)
平均的に、2歳で20cm、5歳で30cm、10歳で40cmほどに成長するが、頭の瘤は25cmくらいから大きくなりだして、70cmくらいまで膨張し続ける。頭に瘤のある魚はコブダイ以外にもいくつかある。その瘤の出来方を分けると、雄にだけ瘤があるタイプと、体の成長に伴って瘤ができるタイプがあり、コブダイは後者のほうで、雌も雌も体の成長にしたがって瘤も大きくなる。その中で、強いものが雄に変わっていく。雄は何匹かの雌と繁殖する。なので、雄がいる中では雌は雄に変われない(=社会的に制圧されている)。そういうなかで、雌は雄に勝たないと雄になれない。
日本にいるコブダイは、3種の中でいちばん北にいるもので、本州以南に生息している(太平洋岸はもちろん、日本海、瀬戸内海にもかなり見られる)。貝を噛み切ったりするほど強い顎を持っているので、不用意に手を出さないほうがいい。ふだんは、サザエやウニ、エビやカニなどを食べている。口を開けて見える前の歯ではなく、のどの奥に牛のような上部な歯があって、それで噛み砕いて食べている。今はちょうど繁殖期だが、縄張りをめぐる雄同士の戦いでも前のほうにある歯を使う(互いに噛み合おうとする)。水族館では1つの水槽で雄同士を飼わないように注意している。4月から6月にかけて縄張りをつくって、そこに雌が来たらその雌と繁殖をする。実際の繁殖は1対1だが、雌は産卵するとそこから離れて行き、また別の雌が来て産卵し、それを繰返して繁殖の期間中ほぼ毎日雌を産卵させる。水族館ではコブダイに餌としてアサリなどを与える。その貝を噛み砕く音が水槽のガラス越しに聞えるかもしれない。
●5月29日 「冬虫夏草」
冬虫夏草は、一言で言うと、虫に生えるきのこ。冬虫夏草は、もともと中国語で、ヒマラヤ山脈やチベットなどの高地で取れるある種のきのこに付けられた名前。それは、コウモリガというガの仲間の幼虫に寄生するきのこで、土の中で草の根を食べて育つおよそ5cmくらいの芋虫の体から、さらに長さ5cmほどの棒状のきのこが生える。そういうことから、冬の間は土の中で暮らす虫なのに、夏になると草になる、という意味で中国では古くから「冬虫夏草」と呼ばれてきた。(きのこは草ではないが、広い意味で草に含められていた。)これが、本家冬虫夏草。このように、本家冬虫夏草は、ある1種のきのこ。しかし、虫に生えるきのこはこのほかにもいろいろあり、それらを全部含めて(総称して)冬虫夏草と呼ばれている。混同を避けたい時には、本家冬虫夏草のことを「シネンシス冬虫夏草」といったりする(シネンシスは、本家冬虫夏草の学名 Ophiocordyceps sinensis の一部)。
日本は、冬虫夏草がとても豊富な地域。広い意味の冬虫夏草は、様々な昆虫やクモにも生え、世界でこれまで知られているものだけでおよそ500種くらいある。このうち、日本では、北海道から沖縄までおよそ400種が記録されている。
冬虫夏草はきのこの種類によって発生する時期が違うので、ほぼ1年中なんらかの冬虫夏草は見られるが、やはり暖かくて湿度の高い梅雨時は冬虫夏草が豊富な季節だ。いくつか紹介する。
(写真を見ながら)地中の断面をとらえた写真。真ん中になにかの幼虫らしきものがいて、そこから白っぽい棒状のものが上に向って、地面を突き破って生えている。この地面の上に生えているものが、セミタケという冬虫夏草の仲間。名前から想像できるように、セミタケの仲間は地中のセミの幼虫から生える。地面の上に爪楊枝から、太い所で割り箸くらいの太さで、長さ数cmの棒状のきのこが生えていて、それを見つけてその下を掘ってみると、セミの幼虫が出てくる。ときには地表から10cm以上も深い所に幼虫がいてそこからきのこが生えていることもあり、それを途中で切れないように掘り出すのはとても難しい(掘り出すのはたいへんだが、やりがいのある楽しいこと)。ほかにも、土の中に巣をつくるクモがいるが、そういうクモの仲間に生えるクモタケというきのこや、落ち葉の下などに転がったスズメバチの体から生えてくるハチタケとか、カメムシから生えるカメムシタケというのもある。ヤンマタケというきのこは、木の枝にとまったトンボの体から生えてくる。地面に倒れた朽ち木の中に住むコガネムシの幼虫から生えるコガネムシタンポタケというきのこがあり、これは鮮やかなオレンジ色でとても美しい。
さらに、今年になって、九州から沖縄の朽ち木の中に住むゴキブリがいるが、それから生えるクチキゴキブリタケという新種が発表された(
日本初のゴキブリに寄生する冬虫夏草の新種〜世界的にも珍しいゴキブリタケはシロアリ寄生菌から進化した!?〜参照)。日本の冬虫夏草の多様さには驚かされる。
最近観察して面白かったものに、アリに生えるタイワンアリタケというきのこがある。アリは小さいのでそれに生えるタイワンアリタケも小さい。このきのこに寄生されたアリは、生きているうちに歩き回って、なぜか決まって地上から数十センチくらいの高さの木の葉や草の葉の裏にとまり、葉の葉脈にがぶっと噛みついた状態で息絶える。やがてこの死んだ体からきのこが生えてきて胞子を飛ばす。アリが噛みついて死んだ数十センチの高さの葉の裏の真下では生きた元気なアリたちが歩き回っていて、まるで胞子をシャワーのように振りかけるような状態になっている。きのこがアリをコントロールして、自分たちの繁殖に最適な位置で死なせているとも言える。
冬虫夏草を探してみると、森に住む多くの虫たちがいかに多様な菌類に寄生されているかということが分かる。森の豊かさのあらわれと言えるかもしれない。冬虫夏草は、深い山の中だけのものではなく、身近な里山でも見られるので、じっくり時間をかけて探すとよい。
●6月5日 エゾナキウサギ (
日本では北海道の山地の岩場だけに見られるウサギ。今、繁殖のシーズンで、エゾナキウサギの活動も活発だ。鳴き声はしばしば聞かれるが、(警戒心が強く)姿はあまり見られない。
日本では北海道にしかいないのには理由がある。およそ7万年前から2万年前の氷河期のころ、エゾナキウサギは大陸からサハリンを経由して北海道に渡って来たとされている。しかし、地球が暖かくなり海人面が上昇して大陸と北海道が寸断され、暑さが苦手なエゾナキウサギは北海道の中でも冷涼な山岳地帯にすむことで生き残ってきた。[エゾナキウサギは、シベリア・中国北部・サハリンにすむ北ナキウサギの亜種。]
暑さにどれほど弱いのかについて、体温が1度上がっただけでも死亡するという研究論文があった。現在は北海道の中でも、中央部の大雪山系、日高山系、夕張山地などの、寒冷な山地の岩がごろごろしている所に生息している。これらの場所のポイントは、永久凍土。1年中氷が融けない永久凍土の地下からの冷気のおかげで、夏でも冷たい風が吹き、エゾナキウサギは生息できている。
私は大雪山国立公園の岩場でエゾナキウサギを何回か観察したことがある。エゾナキウサギは、一見ネズミに似ているが、手のひらに乗るくらいの小さなウサギ。体長は15cmくらい、ウサギだが耳は長くなく、長さは15?mmくらい。尾は5mmくらい。体重は150g前後。毛の色は、夏は茶褐色、冬は暗い褐色になる。ナキウサギは岩場で日向ぼっこをする。岩の上でじいっとたたずむ姿が、まるで瞑想をしているように見える(写真を見ながら、岩場の上にちょこんと乗って、斜め上を見ている)。
運がよいと鳴き声も聴くことができる。鳴き声の録音が放送される。雄は「ピチ ピチ」ないし「ピイ ピイ」というような小鳥のような高い声。これは、雄のなわばりを主張する鳴き声だとされていて、他の雄には「あっちに行け」と聞こえ、雌には「こっちにおいで」と聞こえるとか。雌は、雄の鳴き声に応答するように鳴く。「チュー チュー」というような鳴き声で、雄より低い。
エゾナキウサギは、とくに岩場の狭いすきまが好きで、そこにすんでいる。天敵のオコジョが岩場のすきままで追いかけてくるが、狭いすきまの奥は迷路のようになっているので、逃げ切ることができる。隠れて生きているエゾナキウサギの巣の入口には、面白いものが積み上がっている。それは、糞のピラミッドで、高さ3cmくらい。糞のピラミッドを巣穴の入口の前につくって、他のナキウサギにとられないように、自分の巣であることを主張している。
●6月19日 「ミズナギドリの仲間」
アホウドリは、ミズナギドリの仲間の一つ[アホウドリは、ミズナギドリ目アホウドリ科]。ミズナギドリは、海鳥の代表格。カモメやアジサシなども海鳥と呼ばれるが、彼らは沿岸で見られる鳥。ミズナギドリの仲間は、陸地から離れた遠洋で生活している。
鳥山と言って、海中の魚を求めて鳥が群がることがある。上空で群れていて、魚の群を見つけるとさあっと海面まで降りて行って、くちばしで魚を捕えて上空にまた上がって行く、そういう姿を見ることがあるが、それはミズナギドリの仲間である可能性が高い。
ミズナギドリの仲間は、繁殖期に陸地に降り立つ以外は、ほとんど海上で生活しており、海上生活に適した体のつくりになっている。大きく4つの特徴がある:水上生活に適した脚、細長いくちばし、独特の鼻の形、細長い翼。
脚には水かきがあって、水上生活には適しているが、短い脚をしていて陸上を歩くのは下手。くちばしは、細く長くて、先端が鈎状になっている。これは、ミズナギドリがどんなものを食べているのかに合わせて進化してきたもの。ミズナギドリは、魚やイカなどを食べているが、この細長い、先が鈎状になったくちばしは、水の中に潜ったときに抵抗を少なくし、獲物をつかまえやすくしている(鵜飼の鵜のくちばしと同じような形)。多くの鳥はくちばしに鼻の孔があるが、ミズナギドリは筒状の鼻をしていて、くちばしの上にストローが乗っているような状態になっている。ミズナギドリは一生のほとんどを海上で生活していて、水の補給を海水に頼るしかない。魚やイカを食べた時に一緒に摂取した海水を、目の上にある塩腺という器官で濃縮して余分な塩分を筒状の鼻から吐き出して、水を摂取するという構造になっている(筒状の鼻で塩分を除去しているということ)。
細長い翼ということでは、ミズナギドリの仲間のオオミズナギドリでは、翼を広げた長さは体長の2.6倍もある(例えば、ハシブトガラスではその比率は1.7倍)。ミズナギドリの仲間は空を飛ぶ時にほとんど羽をはばたかせない。海の上では、陸上のように障害物がないので、つねに一定の風が吹いていて、その風をうまく利用して飛んでいる。また、海面すれすれの波間の風と上空の風は強さが違い、上空のほうが強い。その風の強さの違いを使って、海面近くでは翼を広げて風上から風を受けて体を浮かして上昇し、上昇すると今度は風下に向ってグライダーのように滑空する。それを繰り返すことによって、はばたかずにずうっと続けて飛ぶことができる。(苦手な陸地から飛ぶ時は、高い所までくちばしを使いながらよじ登り、そこから飛び下りる。しかも、 1羽ずつ、順番に飛び下りてゆく。)
●7月20日 「コアラ」
一昨年オーストラリアで大規模な森林火災があった時に、コアラが火傷を負った姿の映像があり、その中に助かったコアラがペットボトルの水をごくごく飲んでいる映像があった。コアラはふだんほとんど水を飲まない。そのコアラがあんなに水を飲むのは異常で、そうとう暑くて極度の脱水症状だったのだろうと言われている。ただ、コアラに直に水を与えてしまうと、肺に入ってしまう恐れがあるので、頭が下向きのままぺろぺろなめさせるなど、工夫が必要。コアラは、水分をユーカリの葉についた露からとっているので、ほとんど水を飲まない。
コアラとユーカリには切っても切れない関係がある。ユーカリには、青酸やタンニンなどが含まれている。これらは防虫剤に使われるほどの猛毒で、これを消化するために1日中樹上で寝ている。
ユーカリには600種ほどあるが、コアラ全体でその中の25種くらいしか食べない(厳選して食べている)。さらに、それぞれの個体では、その25種のうち3、4種類くらいしか食べない。ユーカリは、時期によって葉に含まれる青酸の毒の量が多くなる場合があるので、その時に別の種類のユーカリを食べたりする。しかも、フレッシュなやわらかい葉の部分しか食べないので、日本の動物園でコアラを飼育する場合はたいへん。各園とも、コアラが食べるユーカリのうち、最低18種類のユーカリを3万本以上育てている。これがオーストラア側のコアラ輸出の条件の一つだった。
現在東京都多摩動物公園では、雄・雌2頭ずつ、4頭のコアラがいる。飼育員によれば、多摩動物公園では、園内と都内で1箇所、千葉、和歌山、伊豆諸島などで、27種類のユーカリを栽培している。ユウカリは、基本的に挿し木や接ぎ木で殖やすことはできない。種から育てる必要があり、餌として使えるようになるまで3年から5年ほどかかる。コアラが殖えた時にすぐユーカリの本数を殖やすことはできないから、長期的な計画を立てて栽培している。ユーカリをできるだけ良い状態で与えられるように、輸送や保管等にも気を遣っている。苦労して調達したユーカリを、1日に1回、主食として7種類、副食を日替わりで2種類、1本から2本与えている。それでもコアラは全部食べてくれるわけではない。鮮度や状態がよくても、コアラは食べない時がある。これは、発達した嗅覚で、毒の様子を嗅ぎ分けているのだと考えられている。ユーカリの安定供給の確保が、コアラを飼育しているどの園にとっても課題。
コアラはどうやって毒を嗅ぎ分けられるようになるのだろうか。これは、赤ちゃんの時に特別な離乳食を食べるから。お母さんと同じユーカリを食べるという能力を、これで身につける。赤ちゃんは生まれてから6ヶ月間お母さんのふくろ(育児嚢)の中で成長する。そして半年経つと、赤ちゃんは母親の嚢から顔だけ出して、お母さんのお尻に鼻を突っ込んで離乳食を食べる。お母さんは通常ころころのうんちをするが、赤ちゃんの刺激によって特別なゆるい離乳食(軟便)を出す。これは緑色の練り歯磨き状態のもので、パップと言う。パップを赤ちゃんが食べると、2週間も経たないうちに体重が2倍にもなる。パップはお母さんの盲腸でつくられていて、蛋白質など栄養分、ユーカリの葉を消化するのに必要な微生物や酵素、整腸剤・解毒剤などが含まれている。重要なのは、このパップを食べることで、食べても良いユーカリの味を覚えるということ。母親が無事に暮らしてきた味を、子供に伝える。親から子へ命をつなぐためにはぐくまれた手法と言えるかもしれない。
●7月31日 「サンゴ」
植物のように見えるサンゴが、サンゴ同士でけんかをする。サンゴ礁でいろいろなサンゴがどんどん成長していくと、隣りのサンゴとくっつくようになる。そうすると、そこでサンゴの触手同士で攻撃し合う。そして毒の強いサンゴが弱いサンゴに勝って成長してゆく。中には、触手が長くなって毒も強くなったスイーパー触手というのを持っているサンゴもあって、近くにいるサンゴをその毒で攻撃するサンゴもある。すべてのサンゴがけんかしているわけではないが、多くの種類がそういうことをしている。
サンゴは、クラゲやイソギンチャクと同じく、刺す細胞(刺胞細胞)を持っている仲間で、ポリプと呼ばれる小さなイソギンチャクのようなものが集まった動物。それぞれの個体に口と触手があって、それらが石灰質の骨格におおわれている。だから、触ると石のように硬い。
サンゴは、大きく分けると2つのグループに分かれる。1つは、サンゴ礁をつくっているサンゴたちで、これを石サンゴと言う。もう1つは、指輪などの装飾品に加工されるサンゴ(赤くきれいなものが多い)で、これを宝石サンゴと言う。石サンゴは、その小さなポリプの断面が6つに分かれた六放サンゴというものの仲間。宝石サンゴは、体の断面が8つに分かれた八放サンゴの仲間で、骨格が緻密にできているという特徴がある。
サンゴ礁を形成する石サンゴの仲間は、世界で800種くらい、そのうち日本では半分の400種類くらいが確認されている。サンゴ礁の形も色も様々で、円卓のようなテーブルサンゴとか、枝が生えそろっているようなエダミドリイシ、シカの角のようなシカツノサンゴなど、多様な形がある。
サンゴは長い時間をかけて成長する。種類によって異なるが、1年で1cmくらいから、早いものだと10cmくらい。
石サンゴの仲間は、ポリプという小さなイソギンチャクのようなものがたくさん集まった集合体で、そのポリプの分裂によって成長していく。このポリプに付いている触手でプランクトンや小さな有機物をとらえて餌にしているが、これ以外にサンゴの成長に欠かせないのが、日光。サンゴの体の中に褐虫藻という藻類が寄生している。直径が100分の1mmほどの非常に小さなもの。黄色や褐色で、これが光合成をしている。光合成をしてできたいろんな栄養物、自分が成長するのに使った余剰の生産物を、サンゴが栄養として利用している。だから、石サンゴの仲間は光がないと育たない。近年話題になっているサンゴの白化現象は、そのサンゴと共生している褐虫藻がいろんな要因で逃げ出してしまって、骨格が白く透けて見える現象のこと。逃げ出してすぐの、白化直後のサンゴはまだ生きているが、それが長期化するとサンゴ自身も死んでしまう。
水族館でサンゴを飼育するのは難しかった。熱帯から亜熱帯にあるサンゴ礁にすむサンゴ類は、強い日光ときれいな水が必要で、以前は沖縄などの水族館を除いて飼育は難しかった。20年ほど前から、太陽光に近い強い光を出すライトが開発され、また水質をよくする技術の進歩により、水族館での飼育が可能になった。硬い骨格のあるサンゴだけでなく、ソフトコーラルと言われる骨格を持たないサンゴもいて、その仲間は流れになびく様子が水槽で見られる。
[群体(colony):原生生物、刺胞動物(サンゴやクラゲ類)、曲形動物(スズコケムシ類)、外肛動物(苔虫類)、脊索動物(ホヤ類)などに見られる生活型。分裂または出芽によって生じた新個体(個虫)が多数結合したもので、個虫の役割と形態が異なっている場合もある。形や大きさは種類によって異なる。群体を構成する個体同士が体壁の穴を通して原形質によって連絡している場合(真の群体)と、体の外方に分泌した殻などの外骨格によって結合している場合(偽群体)とがある。群体の大部分の個体は単独でも生活できる能力をもつ。外形によって、線状、樹状、球状、叢状などに区別される。]
[補足]8月9日午後11時代のNHKのラジオ深夜便かがく部で放送された、本川達雄(東京工業大学名誉教授、生物学者)の「サンゴ」の話。
サンゴ礁は、信じられないほどきれい。エメラルドグリーンの海の中に、カラフルな熱帯魚がたくさん泳いでいる。
面積にすれば、サンゴ礁は世界の海のたった0.1%しかない。そこに、世界の海水魚の3分の1がすんでいる。
初めてサンゴ礁の海に潜ったとき、回りいちめん魚に取り囲まれて、びっくりした。色がすごい。レモンイエロー、コバルトブルー、エメラルドグリーンなど、伝統的な日本の色名では表現できない。金属光沢でキラッキラッ輝いている。このような魚が、サンゴの林の中で乱舞している。サンゴの中で一番多いのが、木の形をしたミドリイシで、これが林をつくっている。林の根元を見ると、カラフルなビーチパラソルがぱっぱっとあちこちに開いたり(これはゴカイの仲間)、シャコガイも少し殻を開いて中から外套膜を出し、これがメタリックブルー、メタリックグリーンなどきらきら輝き、そこには目玉がたくさんついていて、それも光っている。それから、一抱えもあるような巨大なイソギンチャクの真白い触手がゆらゆら揺らめき、そこにまたメタリックオレンジのクマノミが浮いている。色の大洪水で、生き物がとにかくすごい。生物が多様だということを、心から納得した。
サンゴはごくごく原子的な動物で、イソギンチャクの仲間。とても小さくて、直径数mmくらい。非常に小さいが、体を2つに割ったり、胴の脇から芽を出したりして、どんどん殖えていって、大きな群体をつくる。数mmの小さな個体は、コップのような形をした殻を分泌してその中に入っている。このコップがくっつき合って大きな石のかたまりへ成長したのが、サンゴの群体。
この群体は、平べったかったりまるっぽかったり、形はいろいろあるが、いちばん多いのは木の形。またサンゴは木=植物と同じように光合成をする。もちろんサンゴ自身は動物なので光合成などできないが、体の中に植物=褐虫藻という植物プランクトンを住まわせている。褐虫藻は細胞1個で1つの体で、直径は100分の1mmくらい。これがサンゴの体の中に半分くらいも入っており、サンゴは半分は植物だとも言える。この褐虫藻が熱帯の強い光を浴びて盛んに光合成し、つくった栄養=食べ物をサンゴに分けている。(サンゴは自分でも動物プランクトンをとらえて、蛋白質を得ている。)褐虫藻のほうも、石づくりのサンゴの体の中に住んでいるので、極めて安全。またサンゴは木の枝の形をしているが、これは日当たりをよくして褐虫藻に光がよく当たるようにしている。さらに、サンゴは排泄物を出しているが、これも褐虫藻の肥料になっている。サンゴと褐虫藻のこの共生関係がたいへんうまくいっているおかげで、サンゴはどんどん成長して大きな群体をつくる。
この群体は台風の大波などでも流されないし、しっかりとした構造物で、枝が茂っているので、その間に隠れる場所もいっぱいあり、他の動物にとっても安全な住み家なので、そこにいっぱいいろんな生物が住んでいる。また、サンゴが死んだ後でも石灰質の骨は残るから、そこにも多くの生物が住めるし、サンゴの骨が積み重なってサンゴ礁になると、そのサンゴ礁の島には人間も住める。このように、サンゴは多くの生物に住み家を提供している。さらに、住み家だけでなく食べ物も提供している。サンゴが出す粘液が食べ物になる。サンゴは動かないので、サンゴの上にどんどん塵などがたまってくる。そうするとサンゴの表面が汚れて中の褐虫藻に光が当たらなくなるので、サンゴは透明な粘液で体をすっぽり覆っている。サンゴの表面にほこりがたまってきて汚れると、表面の粘液をはぎ落して、また透明な粘液で覆う。このようにして体の表面をいつもきれいに保っている。この粘液がいい食物になって、サンゴの上に小さなエビやカニや貝が住んでいるが、これらはサンゴの粘液を食べている。また、流れ落ちた粘液はバクテリアの栄養になり、バクテリアが育つと、それを小さな動物や小魚が食べ、さらにそれをより大きな動物が食べるというように、サンゴ礁の食物連鎖が進んでゆく。もともとは褐虫藻がつくった栄養分が、サンゴの粘液になり、他のいろんな動物が育っていく。というわけで、サンゴは(熱帯雨林同様)他の動物に住み家も食べ物も与えている。
しかし、(熱帯雨林と同じように)サンゴ礁も危機的な状態になっている。今や健全なサンゴ礁は世界のたった4分の1しかなく、残りはすでに破壊されたか危機的状況。こうなるのも、やはり人間の活動。まず人口の増加。サンゴ礁の島で人口が増えて農地を開くと、たちまち土砂や農薬が海に流れ込み、また生活排水も海に流れ込む(沖縄の離島でも、屎尿がそのまま海に流されており、またサンゴ礁の国は貧しい国が多く下水処理はきちんとなされていない)。その他、魚の捕り過ぎで生態系も壊されてしまう。小さな島で工場や空港をつくろうとすると、どうしてもサンゴ礁を埋め立て破壊することになってしまう。これらはそれぞれのローカルな問題だが、さらに、世界規模のグローバルな問題もある。それが地球温暖化。沖縄はじめ世界中で夏にサンゴの白化が起こり問題になっている。高温などのストレスがかかると、サンゴと褐虫藻の共生関係がうまく行かなくなって、褐虫藻がいなくなってしまう。そうするとサンゴは褐虫藻から栄養分をもらえなくなるので弱ってゆき、2ヶ月以上白化が続けばサンゴは死んでしまう(それ以前にストレスがなくなれば、褐虫藻は戻ってくる)。通常の夏の最高水温より1℃高い日が1月続くと、高い確率で白化する。だから、サンゴの白化は地球温暖化の鋭敏な検出器と言える。今のペースで温暖化や乱開発が進めば、2050年までには世界のすべてのサンゴ礁が危機におちいる、そしてサンゴ礁に支えられている生物も危機におちいるだろうと言われている。
[関連]サンゴ礁とともに、生態系の保全に重要な役割を果たしている熱帯雨林について、7月12日午後11時代のラジオ深夜便かがく部で放送された、同じく本川達雄さんの話
熱帯雨林は、生物多様性がもっとも高い。この熱帯雨林が今、どんどん減っている。
熱帯雨林が発達するのは、気温が年平均26℃以上、雨が年2000mm以上降る所。このような場所は、世界に3箇所ある。アマゾンを中心とした中南米、東南アジア、アフリカ中部。アマゾンなど中南米の熱帯雨林は世界最大で、熱帯雨林の半分が中南米にある。東南アジアの熱帯雨林は面積こそ中南米に劣るが、固有の種が多いことに特徴がある。インドネシアやフィリピンには小さな島が2万くらいあり、島ごとにそれぞれ異なる生物がいるので、それだけ大事だということになる。
熱帯雨林の面積は、今は世界の陸地面積の6%。しかし、世界にいる全生物種の3分の2から4分の3が熱帯雨林にいる。我々霊長類の仲間に限れば、9割が熱帯雨林にいる。人類の祖先もアフリカの熱帯雨林で生まれて、そこから世界に広がった。熱帯雨林はだから、生命のゆりかごだと言える。植物の種も動物の種も、その半分以上が熱帯雨林で誕生したものだと考えられている。
(植物や動物の種類の半数近くは熱帯雨林で発見され、植物では60%以上、昆虫では80%以上になる。)
このように種の多様性がとても高いのは、陸では熱帯雨林、海ではサンゴ礁で、どちらも熱帯。
なぜ熱帯には種が多いのか。これにはいろいろな説がある。温度が高いと、生物の代謝速度が上がる。そうすると、早く成長して早くおとなになり、早く子孫を残し、どんどん世代交代する。世代交代が速ければ、新しい種を生み出す可能性が高くなる。別の説では、熱帯には冬がないから。温帯や寒帯では、冬に耐えられる種しか生息できず、種の種類が限られてしまう。また、もっと時間を長くとって考えると、地球の過去には氷河期があったが、緯度の高い地域では多くの生物が寒くて絶滅してしまった。例えば、サンゴ礁をつくっているサンゴの種類は、太平洋のほうが大西洋よりも圧倒的に種の数が多い。なぜかと言うと、最後の氷河期に大西洋では大規模なサンゴの絶滅が起こり、それが今でもまだ後を引いている。実際には、これらの要因が関連し合って、長い時間の間に熱帯のほうが格段に種が多くなったと考えられる。
次に、生物多様性の極めて高い熱帯雨林の具体的な姿について。熱帯雨林の特徴は、さまざまな高さの木がそれぞれに層をつくっていて、その層が積み上がって複雑な構造をしていること。1本の木を見ると、(熱帯雨林の中では)葉が茂っているのはてっぺんだけで、下の幹には葉がない。てっぺんに葉を茂らせた枝が横に広がって、ちょうど傘を広げたようになっていて、これを樹冠と言う。隣りの樹冠同士がつながり合って、林全体が大きな冠をかぶっているようになっているので、これを林冠(キャノピー canopy)と言う。熱帯雨林では、高さ30〜40mほどの木が林冠をつくっておおっている。これが、高木層と言われる1つの層になっている。高木層の下に、もう少し背丈の低い木がつくる亜高木層、さらにその下に背の低い低木層があり、一番下に草の層がある。また熱帯雨林では、非常に背の高い、70mにもなるような木がある。ただしこのような木は少なくて、林冠を突き抜けてこちらに1本、あちらに1本というように突出している。これが、突出木層。これで、全部で5層になる。熱帯雨林には5層の階層構造が見られる。
これにたいし、温帯林は、高さは20〜30mくらいで、層の数は多くても3層。熱帯雨林は、木の背丈が高く、層の数も多く、それ分複雑になっている。熱帯は光が強いので、主要な層である上部の林冠で光合成に光を使っても、さらに下の層にも光合成に使えるくらいの光は漏れてくる。そのため、たくさんの層を維持できる。(地上まで到達する光の量は2%くらいととても少ない。)こうして熱帯雨林は複雑な構造を持っているが、それは、その構造を構成している植物の種類が多いということ。そして、その複雑な構造が多様な動物たちに多様な住処を提供している。さらに、植物は強い光を浴びて光合成をして、できた葉や種子、蜜、花粉、樹液などは動物の食物になる。動物にとっては、熱帯雨林は、食餌と住処付きの(冬場も休まない)年中無休のいわばホテルのようなもの。こんなホテルがあるのだから、様々な動物が熱帯雨林に住んで、種の多様性が高くなる。
熱帯雨林で種の数がとても多いことは、次のような研究からも実感できる。ペルーの熱帯で、ある1本の木にいるアリを調べたところ、43種のアリがいた。これは、イギリス1国のアリの種の数に相当する。(日本ではアリの種類はかなり多く、280種くらい。)熱帯雨林の単位面積当たりの木の種の数は、温帯林の10倍もある。また、次のような実験をした人もいる。熱帯雨林の1本の木に上からすっぽり覆いをかぶせ、下から燻蒸した。そうすると、その木にいる甲虫がすべていぶされて落ちてくる。その落ちてきた甲虫を集めて調べたところ、なんとその96%が新種だった。こういう結果をもとにして、かなり大ざっぱな仮定をおいて計算すると、熱帯雨林には約2千万種がいると推定されると言う。この2千万は、これまで調べられて分かっている生物の種数の10倍(これまでに知られている地球上の生物種は約200万種、そのうち昆虫が110万種以上、植物が30万種くらい)。熱帯雨林にはこんなにも多くの種がいて、しかもそのほとんどは記載されていない新種だということ。
このように熱帯雨林では種数が多いというのが特徴だが、ちょっと場所が違うだけでも主要な種が異なってくるというのも熱帯雨林の特徴。例えば、同じ地域内でも山の上と谷底では違うし、また同じような環境に見えても、そこにいる種にかなりの違いが出てくる。だから、大陸が違えば、同じ熱帯雨林と言っても、非常に大きな種の違いが出てくる。(アマゾンの熱帯雨林がだめになっても、ボルネオがあるからいいや、というわけにはならない。それぞれ別のもの。)
ボルネオなど東南アジアの熱帯雨林の林冠は、フタバガキという樹木で構成されている。ところが、中南米にはフタバガキはいっさいない。熱帯雨林の主要な構成員が、まったく違う。このフタバガキ(の一部)は、ラワン材として我々にもおなじみのもの。(フタバガキは、背が高く、幹が真っすぐで、とてもよい材木になる。)値段が安く、ラワン材は盛んに輸入されている。それが、東南アジアの熱帯雨林の減少につながっている。また、フィリピンの熱帯雨林は切り開かれてバナナ農園になり、とても安くバナナを輸入できるようになっている。毎年、北海道と四国と九州を合せた面積の熱帯雨林が減少し、それに伴って毎年5万種もの動植物が絶滅していると言われている。その結果、以前には熱帯雨林は陸地の14%あったが、それが半減して6%になっている。このペースで行くと、あと40年で熱帯雨林は地球から消滅してしまう。これでは、生物多様性は守れないし、森は二酸化炭素を吸収してくれるので、温暖化もますます加速する。なんとかしなければならないが、熱帯雨林のある国はみんな貧しく、そういう国ほど人口がどんどん増えていく。世界の貧困、人口問題、地球温暖化、生物多様性の減少といった大問題が、互いに関連し合いながら、すべてこの熱帯雨林に集中してきている。豊かな国々が知恵とお金を出し合って、この問題に取り組む必要がある。
●8月7日 「ソテツ」
ソテツは、ふつうは高さ1〜2mくらいの低木で、太い幹の先には長さ1mほどの濃い緑色の葉を放射状につけて、全体としては傘を開いたような樹形になる。ときには5mを越えるような大株にもなって、天然記念物に指定されているものもある。ソテツは、この樹形から、ヤシの仲間と勘違いされていることもあるが、ヤシとはまったく別の植物[ソテツは裸子植物、ヤシは単子葉植物]。ソテツの仲間は全世界でおよそ100種が知られていて、アフリカ、オーストラリア、インドなどアジア南部、太平洋の島々など、熱帯から亜熱帯に自生している。その内の「ソテツ」という種が日本に分布していて、これがソテツの仲間の北限になる。
日本でのソテツの自生地は、主に南西諸島(沖縄や奄美群島)。九川にも少しあって、北限は宮崎県の一番南のほうの都井岬。ただ、ソテツは各地に植栽されていて、寒さに耐える力があって東北地方でも冬を越すことができるようだ。
今はちょうどソテツが花を咲かせるシーズン。ソテツにはオスの株とメスの株があって、花もそれぞれ異なった特徴的な見た目をしている。オスの株に咲く花は、50cmもある大きなトウモロコシのような細長い円柱形。メスの株の花は、大きなキャベツのような丸いかたまり。(花の写真を見ながら)花は、放射状に広がった葉っぱの真中についている。見た目は確かにトウモロコシ風にキャベツ風とまったく違うが、どちらも黄褐色の毛のようなものにおおわれている。メス株では、秋になるとこの毛のような花の中にあるたくさんの種子が熟してくる。種子は4cmくらいある卵形で、鮮やかな朱色の皮に包まれているので、とても目立つ。この種子の中には多くの澱粉が含まれており、奄美群島や沖縄の一部には、この澱粉を取り出して、玄米や大豆とともに発酵させたソテツ味噌とかなり味噌と呼ばれる食べ物がある。奄美大島などで食堂に入ると、かならずと言っていいほどこのなり味噌が小皿に盛られて出てくる。甘味のある独特の風味で、おいしい。
しかし、この種子には毒[サイカシン]がある。ソテツの毒は水に溶けやすいので、水に晒して毒抜きをする。また発酵の過程でも毒は分解されるので、なり味噌には毒はない。種子だけでなく、ソテツの幹にも大量の澱粉と毒が含まれている。沖縄や奄美群島には「ソテツ地獄」という言葉がある。これは、明治末期から昭和初めころにかけての時期の、これらの島々を襲った食料難の時代を指す。農業など産業の不振や天候不順などが重なって、これらの島の人々は米や芋などの主食が食べられず、代わりにソテツの澱粉を食べて飢えをしのいだ。ソテツの実や幹に含まれる澱粉はむかしから飢えをしのぐための救荒作物[一般の農作物が不作のときでも成育して、比較的よい収穫をあげられる作物。ソバ・ヒエ・アワ・サツマイモなど]として、毒抜きをして食べられてきた伝統があるが、このソテツ地獄の時代には、毒抜きが不十分で中毒を起こし命を落としたという例もある。
また、これらの南の島々では、むかしソテツの葉を肥料として田んぼに入れたという話もある。ソテツの葉を刈り取って田んぼに入れて、裸足で踏んで泥にぎゅうぎゅうと埋め込んだと言う。しかし、ソテツの葉は先が針のようにとがっていて、足でソテツの葉を肥料として田んぼに入れて踏む時に足の裏が痛かったという古老の話もある。このように、南の島々では、ソテツに命を救われたという記憶や、ソテツに象徴される苦難の時代があったという記憶があったり、ソテツはいろいろな記憶と結び付いている。
ソテツの仲間は、実は、現在地球上に生息する種子植物の中でもっとも起源の古いものと考えられる。その化石は、2億年よりずっと前([おそらくは古生代末]の地層から見つかっている。恐竜が現われるより前から地球上にあって、おそらくその後に地球上に現われた草食恐竜たちの中にはソテツ類を食べていたものもいただろう。
●9月4日 「メガネモチノウオ」
(写真を見ながら)名前の通り、横から見ると、黒縁の眼鏡をしているように見えて、眼鏡の黒いつるの部分が目から横に流れているように見える。この写真は、メガネモチノウオの雌の写真。(次に雄の今真を見ながら)エメラルドグリーンと言うか緑がかった青色の体に出っ張ったおでこ、これはナポレオンフィッシュと言われているもの。(メガネモチノウオはナポレオンフィッシュの和名。)
雄と雌でずいぶん体形に違いがある。おでこが出ているかいないか、色も雄はエメラルドグリーンみたいだが、雌は黄色みがかった褐色、くちびるの形も雄のほうが分厚い。でもこの雄の鮮やかな色も、もとは雌の黄色みがかった褐色だった。メガネモチノウオは、雌から雄に性転換する。メガネモチノウオはベラの仲間だが、ベラの仲間にはこのように雌から雄に性転換するものが多い。8歳以上になると雌から雄になるが、8歳になるとすべてが雄になるのではなく、その中の大きくて丈夫なものだけが雄になり、多くは雄になる前に死んでいるのだろう。この魚はけっこう生きて32歳というのも記録に残っている[その魚の大きさは、体長229cm、体重191kg。メガネモチノウオはベラ科の中でも最大の種]。雌では26歳というのも見つかっている。
今は、メガネモチノウオの産卵期。繁殖は八重山より南で、集団で産卵を行う。パラオで調べられた結果によると、産卵場所はある程度決まっていて、まず雄が現われ、その後小型の雄と多くの雌が集合し、そこでは雄と雌の比率は1対6から1対10くらいで、雌のほうが圧倒的に多い。つまり、雄になれば多くの雌と繁殖できて自分の子供をたくさん残せるのだが、強い優秀な個体だけが雄になれて、全体の1/6から1/10しかいない。
多くの水族館では、このメガネモチノウオの雄=ナポレオンフィッシュは人気だが、手に入れるのは難しい。体長50cmくらいのもので30万円くらいはする高いもの。それだけ貴重な魚。また、中国や香港、沖縄などでは食べる魚として高級魚になっている。それだけ取られる量も多くなってしまって、2004年から絶滅危惧種(Endangered)に指定されている。水族館で繁殖させるのは、今のところ難しい(一度に卵を数十万産むが、卵は0.7mmくらいと小さく、育てるのは難しいようだ。)この魚の性格は、好奇心が強く、人にも慣れやすいので、水族館によっては人の手から餌を取る様子が見られることもある。
●9月11日 「モウセンゴケ」
食虫植物と言えば、壺のような所に虫を落とす落とし穴式、葉を閉じて虫をとる罠式とかあるが、モウセンゴケは鳥黐式で、くっつけて虫をとるタイプ。葉の表面には長い毛がいっぱい生えていて、その先端に小さな玉のようなのが付いていて、この部分はぺたぺたする粘液。この粘液には甘い匂があって、それに虫が引き寄せられて飛んで来て、このぺたぺたでつかまってしまう。この粘液には、くっつけるだけでなくて、虫の体を分解する消化酵素まで含まれており、分解された養分は葉の表面から吸収する。
モウセンゴケの葉は、1枚1枚は1cm弱ほどの円い形で、葉が動く。小さな虫がくっつくと、それをひきがねとして、包み込むようにして葉が徐々に巻いていく(ちょうど、てのひらでなにかをぎゅうと包んでいくような感じ)。その動きは意外と速くて、じいっと見ていると葉がじわじわ巻いていくのが分かる。だから、モウセンゴケは、植物は動くことはできないという常識を覆す存在。虫を食べるだけでなく、動くというすごい側面もある。
モウセンゴケの仲間は世界中に200種近くもあって、南極を除くすべての大陸に分布している。食虫植物の中でももっとも繁栄しているグループと言ってもよい。モウセンゴケの仲間はだいたい湿った場所を好んで生える。湿原や水の垂れている崖などに生えていることが多い。そういう場所は、土の養分が乏しいので、ふつうの植物にはあまり適した場所ではない。モウセンゴケは、そんな場所でも虫を食べて栄養源を補っている。
モウセンゴケの花は、夏、6月から8月くらいに咲く。花自体は直径5mmにも満たない小さな白い花だが、それがとても長い茎の先に咲いている。茎を長く伸ばすのは、おそらく、花を訪れて花粉を運んでくれる大切な虫が、間違って葉にとまって粘液で食べられないようにするため、葉から離れた場所に花を咲かせているのだろう。
モウセンゴケを食べる虫もいる。それは、蛾の仲間の一種で、モウセンゴケトリバの幼虫(小さい芋虫)。この幼虫は、モウセンゴケの実や花、ときには葉を食べてしまう。この幼虫は、葉についている粘液をなめて取ってしまう。モウセンゴケトリバの幼虫は、虫を食べるように進化した食虫植物を食べる虫なので、食虫植物食昆虫と言える。
モウセンゴケは鉢植えでも売られていることがあるが、野生のモウセンゴケは一般に高い山の湿原に生える珍しい植物と思われている。しかし意外と身近な場所で見つかることもあり、例えば千葉県では田んぼのわきの水が滴る土手のような所に生えていることがある。ただ近年はこういった生育地も減っていて、絶滅危惧種に指定している都府県も少なくない。
●9月18日 「アマミノクロウサギ」
アマミノクロウサギは、1921年に国の天然記念物に指定されているので、今年で100年ということになる。さらに、1963年には「特別」がついて、国の特別天然記念物第1号となった。天然記念物の中でも、世界的あるいは国家的に重要なものとして「特別」がついている。
アマミノクロウサギは、奄美大島と徳之島だけにすむ1族1種の固有種。生きているウサギとしては、世界最古のウサギかも知れない。国立科学博物館の調査によると、600万年前のアマミノクロウサギの化石が揚子江の河口付近から出ている。およそ150万年前、氷河期が始まる前に、奄美大島と徳之島は大陸から完全に分離したと言われている。大陸にいたアマミノクロウサギは姿を消したが、運よく島に隔離されていたアマミノクロウサギは、原始的な特徴を備えたまま現在まで生き残っていた。そして「生きた化石」とも言われている。
体の長さは約45cmくらい、毛の色は黒褐色、目は黒、耳は長さ4cmくらいで、とても地味な、環境に合った姿をしている(雪国のノウサギのような、白い毛と長い耳といった姿とはまったく異なる)。ただ爪は1cmから2cmもある大きなかぎづめで、穴を掘るのに適している。この爪で、繁殖や休息のための巣穴を掘ったり、毛繕いをしたりしている。
(耳が小さいところは、北海道のナキウサギと似ている。)アマミノクロウサギは、ナキウサギと同様鳴く(ウサギで鳴くのは、この2種だけ)。(実際にアマミノクロウサギの鳴き声が放送される。「ピー ピー」というかなり高い声で、小さな小鳥のような感じもする。)回りや近くにいる仲間に、自分はここにいるよ、とアピールしている鳴き声。いつもは単独行動だが、繁殖期はペアになる相手を探すので、この鳴き声も重要。
面白い特徴として、アマミノクロウサギは木に登る。野良犬や人など外敵に追いかけられたりすると、避難用の木の穴に隠れる。木の内側が空洞だと、その中を登って上に逃げる。また、母親は子供を土の巣穴に入れたまま閉じ込める。ハブなど外敵から子ウサギを守るため。母親は自分の巣穴とは別に、特別な巣穴を掘ってそこで出産する。そこに赤ちゃんを産むと、入口をふさいでそこから立ち去る。夜だけそこに訪れてきて乳を飲ます。母親は立ち去る時、かならず穴の入口を平らにふさぎ、最後に前足でぽんぽんとたたく。母親は外でススキの若芽とかキク科の植物、シイの実などを食べるために出ていくが、その度にこの作業を繰り返す。
アマミノクロウサギが減少している要因の1つは、交通事故。アマミノクロウサギの生息地に国道や県道・林道などたくさんの道路が伸びていることが要因で、2020年には、死因が分かった60頭のうち50頭が交通事故だった。
●10月9日 「バショウカジキ」
バショウカジキは鹿児島では食用としても人気があり、ちょうど今ごろ産卵を終えた、南からやって来た雌の個体がたくさん取れるので、「秋太郎」と呼ばれている。(泳いでいるバショウカジキの写真を見ながら)カジキ特有の鋭くとがった口先と、なんと言っても長くて大きくて立派な背鰭が目立つ。広げた背鰭は体の幅よりも広い。体の下には細長い、体の3分の1くらいの長さの腹鰭もある。
バショウカジキは、大きいもので3.3m、体重100kgになるようだ。背中にある帆のような大きな背鰭は、餌をとるのに役立っている。バショウカジキは、イワシやアジ、小さなカツオなどの魚やイカ類を餌にしているが、このような群を発見すると、高速で接近して大きな背鰭を立ててその群の前で急旋回して立ちふさがる。そして驚いて混乱した魚の中に長い吻(くちばし)を差し込んで、ちょうどフェンシングの剣を振るように吻を横に振って、餌がその吻で傷付いたところをくわえて頭からまるごと食べる。
バショウカジキが魚に接近する速さは、今まで測れた中では時速100kmと言われている。これはマグロを凌駕する速さで、バショウカジキは魚の中でもっとも速い魚と言われている。バショウカジキの体には、速く泳げる仕組みがいくつもある。その1つは鰭の格納。大きな背鰭は、マグロと同様に、背中にある溝に収めることができて完全に隠れる。そうすることで水の抵抗を極限まで少なくしている。また長い腹鰭も、腹部に切れ込みがあってその中に完全に収まるようになっている(腹鰭は切れ込みの中に完全に収まるので、外からまったく見えなくなる)。また推進力を産むのは尾鰭だが、鎌状の尾鰭で体の割にはマグロよりも大きくなっている。また尾鰭を振る時には力がかかるが、尾鰭の付け根の細くなった所にはキールがあって、鰭を横に振る時に加わる力に耐えられるようになっている。
ちなみに時速100kmという値は、釣り針にかかった時に3秒間にリールの糸が100ヤード(91m)のびたということから計算された値。魚の遊泳速度には、ふつうに泳いでいる時の巡航速度と、餌を追う時や危険から逃げる時の突進速度があって、瞬間的に100kmが出たということで、常時100kmで泳いでいるということではない。
バショウカジキは水族館での展示は難しい。口先が長くて傷付きやすく、輸送が難しい。アクアマリン福島では、昨年80cmほどの個体を2ヶ月展示したが、その後死んだ。いくつかの水族館でバショウカジキの飼育展示を試みている。
●10月16日 「カエデ」
カエデの仲間はとても多様なグループで、北半球の温帯を中心に100種類以上が分布している。日本はカエデの種類がとても多い地域で、野生のものは、分類の仕方にもよるが、30種類くらいはある。代表的なものとしては、例えば、イタヤカエデ、ハウチワカエデ、ウリハダカエデ、それからイロハモミジ、オオモミジなどもみなカエデの仲間。
植物学的に言うと、カエデ(楓)もモミジ(紅葉)もすべてカエデの仲間。カエデの仲間の一部の種類を○○モミジと呼んでいるだけ。ちなみに、かえでももみじも古い言葉で、「かえで」という名は「かえるの手」から来ている(葉の形を、みずかきのあるかえるの手に見立てたもの)。「もみじ」は、古い日本語で葉が赤や黄色に色づくことを「もみす」と呼び、その「もみす」がなまって「もみじ」になったと言われている。とは言っても、カエデの仲間には、「ハナノキ」や「メグスリノキ」のように「カエデ」も「モミジ」も付かないものもある。
カエデの仲間は以前はカエデ科だったが、最近はムクロジ科とされている。この2、30年の間に植物の分類学が大きく進歩して、DNAなどの情報を用いて植物の分類の再検討が行われ[APG分類]、その結果カエデ科はムクロジ科に含めるべきだということになった(正月の羽根突きに使う羽根の重りになっている黒い玉が、ムクロジという木の実)。ムクロジの仲間はムクロジ1種類しかないが、そこにカエデの仲間が吸収合併されてしまったことに違和感を持つ人は多いようだ。(似たような例として、恐竜は爬虫類の仲間と思っていたら、最近は鳥の仲間により近いとされるようになった。)
カエデの仲間にも赤く紅葉するものと黄色く黄葉するものがある。赤いほうの代表はイロハモミジやオオモミジ、黄色いほうの代表はイタヤカエデとかヒトツバカエデなどたくさんある。中間のオレンジ色に色づくような種類もある。このように様々な色が混ざりあって山を彩るので、より複雑で美しい紅葉が楽しめる。
カエデの仲間に限らないが、葉が赤や黄色に色づくのには、いくつかの色素が関係している。夏の間はすべての葉が緑色だが、これはクロロフィルという色素の色(クロロフィルは葉緑素とも言う)。秋になって気温が下がってくると、そのクロロフィルは役割を終えて分解されて、緑色が失われていく。そうすると、実はもともと葉の中にはクロロフィル以外の色素もある。それがカロテノイドという黄色い色素で、緑がなくなって黄色が目立つので、黄色に黄葉する。また別の種類では、クロロフィルの分解と同時にアントシアニンという赤い色素が作られる。その場合は赤く紅葉する。この黄色と赤のバランスによっては、中間的なオレンジ色にもなる。
(カエデの果実の写真を見ながら)カエデの果実は独特の形をしている。種皮(たねをつくる皮(の一部が伸びて翼のようになっている。翼のついた果実が2つ対になって枝についている。それでブーメランのような形に見える。種類によってこのブーメランの角度とか羽の広さや長さがいろいろ違うので、カエデの中でも果実にいろいろあってとても面白い。カエデの果実はこの翼によって風に飛ばされて、親の木から少し離れた場所まで飛んで行ける。
[APG分類体系:1990年代にDNA解析による分子系統学に基づいて新たに構築された被子植物の分類体系。従来の形態や構造に基づく新エングラー体系やクロンキスト体系に替わる分類体系として発表。この体系により、被子植物は原始的な双子葉植物の一群と真正双子葉植物、および単子葉植物の三つに大別された。名称は被子植物系統グループ(Angiosperm Phylogeny Group)という植物学者の団体の頭文字から。
●11月13日 「アカアマダイ」
アマダイには、シロアマダイ、キアマダイ、アカアマダイのほか、スミツキアマダイ、ハナアマダイの5種がいる。スミツキアマダイは、鰭に黒い斑点がある。[ハナアマダイは2012年に沖縄本島近海から発見された。]
日本でアマダイとして流通するのは、シロ、キ、アカの3種で、その中でもほとんどがアカアマダイ。アカアマダイは高級魚で、関西、とくに京都ではグジと呼ばれ、若狭湾で取れたアカアマダイを塩焼きや蒸し物などにしてて愛好されてきた。[大阪ではクズナと呼ばれる。]静岡では一夜干しを古くから食べていて、徳川家康がオキツダイと呼んで気に入っていたという歴史もある。
アカアマダイはふつう30cmほどで成熟するが、最大60cmくらいになるものもある。寿命は10年余あると言われている。住んでいるのは、青森県以内の日本海、千葉県以南の太平洋から朝鮮半島、中国、台湾あたりまで分布している。沿岸の比較的深い、水深30mから150mの砂混じりの泥の底に住んでいる。そして海底にトンネル状の巣穴を掘って生活している。(泥底はこの巣穴を掘るのに適している。)頭から海底に突っ込んで、小石や泥を口にふくんで穴を掘っていくことを繰り返して、トンネル状の巣穴をつくる。昼は巣穴から出てきて、周辺でエビやカニ、ヒトデ、貝、ゴカイなどを食べ、夜には巣穴の中で過ごす。生活リズムがはっきりしている魚と言える。そのうえナワバリ意識も非常に強い。他の魚が近付くと体当たりして追い払う。しかし一匹おおかみというわけではなく、直径200mくらいの範囲にそれぞれが巣穴を掘って集団で生活している。
巣穴が繁殖に使われることはない。ハゼなどは巣穴に卵を産みつけるが、この魚は卵がばらばらになって浮いていく浮遊性の卵で、潮の流れに乗って運ばれるタイプ。また1シーズンに何回も産卵する魚。分離浮性卵を産む魚としてはここまではとくに珍しいものではないが、卵に特徴があって、産卵直後は粘液に包まれている。生まれた卵が粘液に包まれているということは、浮遊性の卵ではとても珍しい。粘液の役割はよく分からないが、この粘液は産卵後20〜30分分すればなくなってしまう(粘液で受精率が上がるということは考えられるが、正確なことは分からない)。
[魚卵には、大きく分けて浮性卵と沈性卵があり、浮性卵には分離浮性卵と凝集浮性卵がある。その他にも、口の中で育てるものや育児嚢で育てるものもある。詳しくは
産卵方法について。]
◆2022年
●1月1日 「トラ」
今年の干支寅にちなんでトラを取り上げる。トラの色としては黄色をイメージするが、実際は住んでいる地域によって色や縞の間隔などが少しずつ違う。おおまかに言うと、北は色が薄くきれいな黄色、南下するほど色がオレンジ色、そして赤っぽいオレンジ色になってくる。
ネコ科最大の動物のトラは、学者によっても異なるが、8つの亜種に分類されている。主に藪や密林に住んでいるが、中国北部やロシアなどの寒い地域(代表的なのはアムールトラ)は、体が大型で、色は淡くて美しい黄色、縞は細くて間隔が広い。インドやベトナム、マレーシア、インドネシアといった熱帯から亜熱帯地域に住んでいるトラ(代表的なのはベンガルトラ)は、中型で、オレンジ色っぽい黄色。東南アジアの島にある密林や湿地のマングローブに住んでいるトラ(代表はスマトラトラ)は、体がやや小さく、濃いオレンジ色、縞は少くて密でびっしりある。密林だと縞も密になって、環境になじむだろうと考えられている。
ホワイトタイガーは、インドに住んでいるベンガルトラの白変種。白変種というのは、ふつうのトラでは黄色になる部分の毛が白もしくはクリーム色で、黒い縞模様の部分も色が薄い。目の虹彩(瞳の周辺)もふつうは褐色だが、ホワイトタイガーでは青い目をしている。ホワイトタイガーはインドでは神聖なものとされている。日本や中国でも白虎として崇められてきた。奈良県明日香村にあるキトラ古墳(7世紀末から8世紀初等につくられたと考えられている)の石室内にある壁画に四方を守護する四神が描かれており、その西を守る神獣として白虎が描かれている。
実際のホワイトタイガーは生き延びることじたいが難しい。自然界ではカモフラージュの効果が少なくなって、目立ってしまって、獲物になる動物に逃げられてしまう。かつてはインド北部や中東部にまれに白変種があらわれた。野生ではもうすでに全部つかまって、絶滅したと考えられている。ホワイトタイガーは今では飼育下でしか目にすることができなくなっている。ただ、白いトラだけでなく、野生のトラじたいの生息数が3千頭前後と言われており、絶滅に瀕している状態だ。
トラはネコ科最大の動物と言ったが、とても力の強い動物だ。アメリカの動物学者のウォーカーによると、700kgもある水牛を12メートルも引きずって行ったトラがいて、また180kgもある牛をくわえて途中にある柵を飛び越えて300メートルも運んでいったという記録もある。ジャンプ力もすごいが、トラの狩りを見ると、得物の近くまでそうっと忍び寄ってダッシュ、そして横か後ろから襲いかかるが、このトラの一飛びが10メートルもある。そして、得物を引き倒して喉にくらいついて窒息させたり、首を噛んで脊髄神経を切断したり、強力な前足のパンチで首の骨を砕いたりする。力はこんなにも強いが、大きいだけにそれほど動きが俊敏でない。狩りの成功率は低く、10回から20回得物に向かって突進してやっと1匹を仕留める程度だ。ネコ科最大の動物でも生き抜くのはたいへんで、それを乗り越えて生きている。
●2月26日 「オヒョウ」
オヒョウは、石川県より北の日本海、北海道、オホーツク海周辺、ベーリング海など北太平洋に分布する大型のカレイの仲間。最大で全長260cm、体重270kgの記録がある。寿命も長くて、雄は27歳、雌は42歳の記録がある。
大きさや寿命などからモンスターのような印象があるが、私たちの生活にもなじみのある魚。例えば、回転寿司のえんがわは、ヒラメの代用品としてほとんどオヒョウが使われている。身はよくしまった白身で淡白な味なので寿司や刺身のほかに、脂肪分が少ないのでフライやムニエルとして食卓に並ぶことがある。
若いうちは水深が10〜50mくらいの沿岸の小石が混じった海底で生活している。エビや小魚、タコや2枚貝などを食べているが、成長して成魚に近付くにつれて、魚をメインに食べるようになる。夏には水深30〜300mくらいの沿岸域でスケウーダラやカジカ類、ギンダラなどもっぱら魚類を貪欲に食べて、冬になると水深200〜500mくらいの深い海域に移動する。この時期が産卵期。
産卵期は11月から3月末まで。この時、水深200〜500mの大陸棚の端の急な落ち込みで産卵する。雄ではだいたい8歳くらい、雌では12歳くらいになると繁殖に加わる。
オヒョウは、1年で10cm、3年で40cm、5年で60cm、10年でやっと1mほどに成長する。なので、産卵に加わる時の雄の体長は80cm、雌では120cmくらいになっている。1個の卵の直径は3〜3.5mmとかなり大きい。(イクラのほうがもっと大きいと思う方もいるだろうが)オヒョウの卵は分離浮性卵と言って、ばらばらになって浮く卵。サケの卵は沈性卵で、川底に尻尾で穴を彫ってそこに卵を産み、その上にまた砂をかけて保護するという習性があり、1つ1つの卵は大きくて数も少ない。オヒョウの卵はばらばらになって海中を漂うタイプで、こういう卵を産むのは、一般的にマグロとかタイとか回遊している魚に多い。例えばマグロは成長すると3mにもなるが、卵の大きさは1mmくらいしかない。だから、分離浮性卵の中ではオヒョウの卵は特別に大きい。そして、産む卵の数は、サケが一生に1度の産卵で3000から4000なのにたいして、オヒョウは1度の産卵で50万から体の大きいものでは400万も産む。さらに、オヒョウは毎年同じくらいの卵を産んでいく。
卵からかえった時は、1cmくらいで、半年くらいはふつうの魚と同様両側に目があるかっこうで、浮遊生活をしている。3cmくらいになると、左側の目が右側に寄ってきてカレーの形になって、海底のほうに着底して海底で生活するようになる。また、成長に合わせてだんだんと深い所に移動していく。幼魚では水深10〜50mの浅い場所で生活しているが、もう少し大きくなると沿岸域で30〜200mの所で5年から7年過ごして、成熟して成魚になると水深200〜500mの大陸棚の端の落ち込むような所に移動する。
北海道の小樽水族館では1.2mくらいの大型のオヒョウを飼育展示しているようだ。
●3月5日 「イタドリ」
イタドリはスカンポとも呼ばれている。(スカンポと呼ばれるのはイタドリだけでなく、スイバというイタドリよりも小さい草をスカンポと言う地方もある。)
子供のころにスカンポをかじったという人は多いだろう。それはイタドリの新芽で、パキッとした感じで、竹のような節があり、細いたけのこのような印象。中は空洞になっていている。この新芽は1日に数センチも伸び、どんどん伸びていく。関東だとこの新芽は3月ころ、雪国だと雪が消えて4月以降に出る。
イタドリはタデ科の仲間で、日本では北海道から奄美群島まで、さらに台湾や中国や朝鮮にも分布している。日当たりのよい平地や斜面などに生える草で、成長すると高さ2mを越えることもある。茎も太くて根元の太さが500円玉くらいになることがある。春からにょきにょき伸びて、一夏でまるで木のように育つ。イタドリは草なので、夏には花を咲かせて、秋には実が成り、冬には枯れてしまう。しかし、地面の下にある太い根茎はずうっと生きていて、翌春またそこから新芽を伸ばす。北海道や本州北部には、オオイタドリと言う近縁種も分布している。見た目はイタドリとよく似ているが、より大きくなって、草丈が3mにもなる大型の植物。ちなみに、このオオイタドリもイタドリ同様新芽が食べられる。
イタドリは、世界の侵略的外来種ワースト100という不名誉なリストに選ばれている。ヨーロッパ、とりわけイギリスではたいへんなことになっている。イギリスにイタドリが渡った経緯は分かっていて、19世紀に日本を訪れたドイツ人の博物学者シーボルトがイタドリをヨーロッパにもたらした。これが、イギリスでは園芸植物として好まれて国中に広まった。その結果今ではイギリスのほぼ全土に広がっていて、英語で Japanese knotweed と呼がれて厄介者になっている。今ではその駆除が法律で義務付けられている。
イタドリは日本ではふつうの草の1種なのに、海外ではなぜ厄介者なのか。おそらくイギリスではイタドリの天敵がいないから。日本にはイタドリを食べる虫がいろいろいる。例えばイタドリハムシという甲虫はイタドリを餌にしている。イギリスにはこのようなイタドリを食べる虫がいないので、イタドリの天国になってしまったようだ。イタドリの例は、生き物を不用意に移動させてはいけないということを教えている。
●5月7日 「ムツゴロウ」
ムツゴロウは、有明海、八代海、東南アジアにも広く分布するハゼの仲間。姿は、ほぼ10cmのトビハゼと似ているが、ムツゴロウは大きくて、平均で15cm、最大で20cmになる。日本で1種類、世界でも6種類が確認されている。
有明海のある佐賀地方などでは、ムツゴロウは、かば焼き、唐揚げ、甘露煮などにして食べられている。また、台湾や中国南部では、高級食材として珍重されている。1キロ2、3000円で取引され、養食も行われている。
ちょうど今ごろが、ムツゴロウの繁殖期、恋の季節。ムツゴロウは、軟かい泥の干潟に直径5cm、深さ1mほどの、数本に枝分かれした巣穴を掘って生活している。潮が満ちてきた満潮時や夜は巣穴に隠れているが、昼の塩が引いた時には、巣穴から出て来て空気中で活動する。
干潟では、胸鰭を交互に動かして這って歩く。時には、全身で飛び跳ねて移動することもある。
ふつうの魚は水の中にいて鰓で呼吸するが、ムツゴロウは、鰓以外に口と皮膚でも呼吸する。というか、鰓呼吸は少し苦手かも知れない。鰓は、他の魚に比べても小さい。
ムツゴロウの口の内側には、毛細血管が隙間なくびっしりと分布している。口の中に空気を含んで、そこでガス交換している[口の中は湿っているないし海水は少しあるので、その水に空気が溶けて、ガス交換できると思われる]。また、ムツゴロウの皮膚をよく見ると、直径0.3mmほどの点が0.1mmほどの間隔でびっしりと並んでいる。その小さな点は、毛細血管が表面に出てきて花が開いたみたいに円形に広がっている。ここで呼吸をしている。
繁殖は、(水のある)巣穴の中で行われる。雄は、泥の中に掘ったトンネルから30cmから50cm下がった所に、特別の部屋、幅7cm、長さ30cmほどの水平な産卵のためのトンネル(産卵室)をつくる。産卵室の準備ができたら、雌を呼ぶアピールタイムになる。遠くにいる雌にたいして、干潟の上に出て来て求愛ジャンプをする(胸鰭を突っ張って頭をちょっと上げ、体を斜めにしてくの字に曲げ、体を伸ばす時にジャンプする)。この時に、背鰭や尾鰭などふつうは体にくっついている鰭をぱっと広げて精一杯アピールする。それに気が付いて雌が近づいてくると、尾部をくねらせながら歩いて雌を巣穴に誘い込む。そして、産卵室の天井に卵を産みつける。卵1個の大きさは、長さ1.4mm、直径0.7mmほどの楕円形で、1回当たりの産卵数は平均6000、最高で15000個ほど。産卵後は雄が産卵室に空気を運び込むなど卵の世話をする。雄は大きな口に空気をいっぱいためて、それを30〜50cm下の産卵室まで運ぶ。巣穴の中の水はあまり動かないので、酸素が少ない。そのままだと卵は呼吸できなくて窒息してしまう。産卵室は水平に掘られているが、運び込まれた空気はその水平な天井部分にたまることになる。
卵はほぼ1週間で孵化する。その後成長して、1歳で9cmほど、2歳で13cm、3歳で15cmほどになる。
●6月11日 「オニヒトデ」
オニヒトデは、太平洋とインド洋のサンゴ礁に棲む大型のヒトデで、日本では、沖縄、鹿子島、黒潮の流れる四国、紀伊半島などに生息しているが、最近は東京湾でも見られたという報告がある。形は、腕が5本程度の一般的なヒトデと違い、腕の数は10〜20本と多くて、大きさは直径30cmほどがふつうだが、最大で60cmにもなる。表面には2〜4cmの刺がたくさん生えていて、この刺が名前の由来になっているとも言われる。この刺はまた実に厄介で、刺の表面には小さな毒腺が所々についていて、刺に刺されると毒が注入されて非常に強い痛みを生じる。またこの刺は脆くて簡単に折れるので、刺された刺が体内に残ってしまうこともある。
海水浴をするのは主に砂浜で、オニヒトデは砂浜にいないので、海水浴では怖がらなくてもいいと思うが、ダイビングなどサンゴのある所に行く時には、注意が必要だ。
オニヒトデは、サンゴを主な餌にしていて、サンゴ礁に被害を与えている。サンゴを食べる時、その組織をかじり取るのではなくて、自分の胃を裏返しにして体の外に出しサンゴにかぶせて、サンゴの組織の軟かい所を直接消化吸収するという方法を取る。ヒトデの仲間はこういう習性を持っているものが多い。注目すべきは、その餌を食べる量。直径20cm程度の1個体のオニヒトデが1年間に食べる量は、5〜13平方メートルと言われている。1個像でそれくらいだから、それが何百何千といたらそれはすごい量になる。実際これまで大きな被害が報告されていて、例えば沖縄では1970年代に沖縄本島の恩納村でオニヒトデが大発生し問題になった。1980年代後半までに沖縄本島のほぼ全域のサンゴ礁が真っ白になる食害を受けた。サンゴ礁を守るために海に潜ってオニヒトデを取り上げるなど精力的な駆除が行われたが、その後も断続的な大発生が続き、被害は沖縄本島だけではなく、2008年には八重山諸島、宮古島でも大発生が起きた。また、和歌山県の串本海中公園では2004年ころからオニヒトデの異常発生が確認されて、サンゴ群落への被害が発生し、毎年駆除活動が行われている。オニヒトデの繁殖期は、沖縄ではちょうど今ころ、6月から7月、串本では7月上旬から8月初めだが、その前に駆除してしまうのが重要だと言われている。
1ぴきのオニヒトデは1年間に卵を数百万から1千万個産む。受精卵は0.2mmと非常に小さいが、孵化するとプランクトン幼生になり、そのプランクトン幼生は数週間海面近くを漂っている。その後サンゴ礁の海底に下りると、変態して0.5mmくらいの稚ヒトデになる。海藻のサンゴ藻を食べて、半年で直径1cmほどに成長し、生後2年の夏には条件がよければ20cmほどに成長して、これくらいから繁殖可能になり、その寿命は7〜8年程度と考えられている。
オニヒトデは飢えにも強い。半年以上なにも食べずに生きていくこともできる。また、移動能力も比較的高くて、1日で70mほど移動できる。だから、ある場所でオニヒトデを駆除しても、他の地区から移動してくる。
サンゴ礁に大被害を与えるオニヒトデの大発生は、人間のせいであるとも考えられている。人間の活動によって、水質が悪化する、栄養塩が出て行って、それで植物プランクトンが増えて、幼生の生き残り率が上がる。卵を1千万個産むといったが、幼生の生き残り率が上がるとたくさん増える。
オニヒトデは、串本海中公園などサンゴ礁生物を飼育している水族館ではよく見られる。今ころから夏にかけてが繁殖期で、産卵が見られるかも。その時は、水槽が真っ白になる。太い刺や、餌に覆いかぶさって食べているところなど見られるかも知れない。
●8月20日 「ナンヨウマンタ」
ナンヨウマンタはエイの仲間。マンタは、エイの仲間では最大級となる種類。日本の水族館には、マンタはオニイトマキエイの1種が飼育されていると言われていたが、2009年にオニイトマキエイともう1種に分かれることが明らかになった。日本の水族館で飼育されているマンタを調べてみると、そのすべてがオニイトマキエイではないもう1種類だったことが分かった[現在ナンヨウマンタを飼育しているのは、沖縄美ら海水族館とアクアパーク品川。以前は大阪海遊館でも飼育されていた]。その後、2010年にその新しい種類に「ナンヨウマンタ」という学名を付けた[学名:Mobula alfredi、英名:Alfred manta、沖縄名:ガマーカマンタ]。
ナンヨウマンタは、熱帯や亜熱帯のサンゴ礁周辺に分布していて、比較的沿岸の、岸から数キロの表層で暮らしている。
ナンヨウマンタはエイの仲間ということだが、エイの仲間のアカエイとはどんな違いがあるのだろうか。まず形が違う。アカエイの仲間は体が円くて、フライパンあるいは団扇のようなかっこうをしている。いっぽうマンタは菱形のようなかたちをしていて、角張った体をしている。生活している場所も違っている。アカエイなどの一般的なエイの仲間は主に海底で生活しているが、マンタは表層で生活している。大きな胸鰭を上下にはばたくように動かして泳ぎ比較的ゆっくり進むが、数匹から十数匹の群で生活していて、泳ぐ姿は優雅で見ごたえがある。そして、住む場所が違うので、食べている物にも違いがある。海底で生活する一般的なエイの仲間は、カニやエビ、貝など海底に住んでいる生き物を食べているが、マンタが餌にしているのは表層に浮いているプランクトン。マンタの口の両側に特殊な1対の頭鰭(とうき)と呼ばれる特別の鰭があって、泳ぐ時はこれを螺旋状に巻いてコンパクトにまとめているが、餌を採る時にはそれを広げて水の流れを口に送り込むようにする。餌となるプランクトンの集団を見つけた時は、速いスピードで泳いで行って、ときには回転したりして、大きな口を開けて海水と一緒にプランクトンを吸い込み、鰓でプランクトンだけを濾しとって余分な海水を鰓孔から出す。
サメやエイの仲間の繁殖用式には、卵生から、胎盤を形成して栄養をもらう胎生までいろいろあるが、ナンヨウマンタの場合は、胎盤はないものの、胎子は子宮壁から分泌される栄養分の高い子宮ミルクを飲んで成長している。そして、生まれてくる時の大きさは、横幅が1.8m、体重60キロで、人の成人並みの大きさで生まれてくる。(生まれてくるのは、1匹だけ。)これらの繁殖用式は、世界で初めて飼育下で繁殖に成功した沖縄の美ら海水族館で初めて確認された。繁殖行動も観察されていて、まずオスがメスの尻尾のほうから追いかけてメスの胸鰭をつかもうとする。何回かトライした後、そのメスの胸鰭の先端を噛むと胸鰭の下側に入り込んでお腹合わせの体勢をとってその後交尾する。交尾時間は20秒程度。さらに、毎年の出産によって出産直後に交尾して、妊娠期間がちょうど1年であることも判明した。
体の模様にも注目。マンタは、お腹側は真っ白でそこに黒い斑点がある。この斑点が個体ごとに異なっていて、個体を識別することができる。この違いは、マンタの生態を野外で研究するのにもとても役立っていて、多くの海域で観察・記録されていて、個体が登録されている。群の構成なども記録されている。インドネシアの研究によると、複数の群を長期間追跡調査した結果、グループをつくっているのは偶然出くわした個体と群れているのではなくて知っている個体と付き合っている、そうした個体との集団をつくり行動していることが判明してきている。これは、擬人化して例えると、友達づくりをして集団で行動するという、魚類の中では複雑で特異な社会性を持つことを示している。ナンヨウマンタの脳の重量を体重との比率でみてみると、魚類の中で最大級ということも分かっている。こうして、発達した脳が先のような複雑な社会性を持つことを可能にしている。このお腹の模様のほかにも、大きな胸鰭をはばたくようにして優雅に泳ぐ姿や、餌をとる時に大きな口を開けて急回転して泳ぐ迫力ある姿など、ナンヨウマンタは見どころがたくさんある。
●8月27日 「カエンタケ」
カエンタケは、猛毒のキノコ。小指の先くらいの小さなかけらを食べただけでも死ぬことがあるくらいで、日本国内でも数例の死亡例が報告されている。また、カエンタケは触っただけでも毒にやられてしまうと言われていて、事実食べていないのに触れただけで手の皮膚に炎症を起こしたという例が報告されている。
カエンタケの名前は、「火炎」からきている。「火炎」と呼ばれる理由はその色と形。カエンタケは全体が鮮やかな赤色で、まさに炎のような色。また、カエンタケの形は、シイタケやマツタケなどのように柄がありカサがあるというおなじみのキノコ型ではなく、単純な棍棒型のものから、中にはいくつも枝分かれして全体として燃え上がる炎のように見えるものもある。大きさも様々で、1cmくらいのものから10cmを越えるものまである。(カエンタケの写真を見ながら、赤いサンゴの枝のように枝分かれしているものもあるし、1本の蝋燭が立っているような単独のものもある。)
カエンタケの分布は、日本国内では北海道から九州まで知られている。国外でも、中国や韓国、インドネシアのジャワ島、オーストラリアでも見つかっている。具体的にどんな場所に生えるかというと、枯れた木の回り。枯木の根元の地面から生えていることが多いが、枯木の幹から直接生えていることもある。
本来カエンタケは珍しいキノコで、以前は探してもなかなか見つけられないものだった。それが近年ニュースでも報じられるくらい増えた理由は、ナラ枯れと関係がある。
ナラ枯れとは、木を枯らしてしまう病気のことで、その直接の病原体はナラ菌というかびの仲間。そのナラ菌の胞子を運ぶ役割を果たしているのが、カシノナガキクイムシという5mmくらいの昆虫で、何百ものカシノナガキクイムシが元気な木に孔を開けて入り込んでナラ菌を感染させると、木が枯れてしまうことがある。1990年ころから、主に本州の日本海側で被害が目立ちはじめて、最近では太平洋側にも拡大している。昨年度の林野庁の統計では、被害がなかったのは北海道と沖縄など5道県だけで、ほぼ全国的に広がっていると言っていい状態。ナラ枯れの被害を受けるのは、ナラ類やカシ類、それからクヌギ、クリなどといった、いずれもブナ科に属する樹木だが、そのナラ枯れで枯れた木の周辺でカエンタケが発生することがよくある。
近年は都市部の公園などでもナラ枯れの被害が増えて、同時にカエンタケの発生も増えている。そのため、「猛毒のカエンタケに気をつけましょう」という注意喚起情報が各地の自治体から出されたり、ニュースで取り上げられたりする機会が増えている。なぜナラ枯れ被害木の回りにカエンタケが発生するのかはまだ詳しくは分かっていないが、なんらかの関係があることは確かなようだ。カエンタケは、ちょうど今ころ、夏から秋にかけて発生する。
●10月1日 「セイタカアワダチソウ」
セイタカアワダチソウは、大きいものでは高さ2mを越え、空き地や放棄された農地などに繁茂している。よく見るなじみのある植物だが、セイタカアワダチソウは北アメリカ原産の外来植物。日本に入ってきたのは明治の終りころで、初めは観賞用だったという。今では日本全国に分布している。ただ北海道などの北日本では、セイタカアワダチソウもあるが、これとよく似たオオアワダチソウという植物が多いようだ(これも北アメリカ原産の外来種)。
そんなやっかいな植物だが、その花は見ごたえがある。セイタカアワダチソウの花は、10月から11月ころに咲く。背の高い茎の先端付近にいくつもの横枝を出して、その枝に多数の小さな花を咲かせるので、全体としては茎の先が黄色い円錐形のような形に見える。この花に蜜を求めてミツバチの仲間やハナアブの仲間などたくさんの昆虫が訪れ、晴れた小春日和などにはセイタカアワダチソウの花の回りを飛び回る昆虫の羽音がブンブンブンブンうるさいくらい響くほどだ[セイタカアワダチソウは虫媒花]。
花を訪れるもの以外にも、セイタカアワダチソウを利用する昆虫はけっこういる。例えば、セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシは、セイタカアワダチソウ専門のアブラムシ。大きさは3?mm前後、全身が鮮やかな赤色で、セイタカアワダチソウの茎に密集していることがある。もう1種アワダチソウグンバイという昆虫も、セイタカアワダチソウを利用する。こちらも体長3mmくらいの小さな昆虫で、セイタカアワダチソウの葉から汁を吸っている。この虫はとてもきれいな姿をしていて、まるで繊細なレース編みのように見える。
これらセイタカアワダチソウを専門に利用するセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシとアワダチソウグンバイは、どちらも北アメリカ原産の外来昆虫で、20世紀末に日本でも見つかって、今は各地に広がっている。つまり、100年くらい前に来日したセイタカアワダチソウを追いかけるようにやってきた昆虫たちと言える。このように外来植物とそれを利用する外来昆虫が日本の野原で生態系をかたちづくっているという状態を目の当たりにすると、少し複雑な気持ちになる。この季節になると、日本各地の野原や道端でセイタカアワダチソウの黄色い花が咲き乱れ、もはや秋の風物詩と言っても過言ではないほどだ。
[アレロパシー(allelopathy):モーリッシュ(Hans Molisch: 1856‐1937)が1930年代に提唱した用語で、他感作用、遠隔作用などと訳されることもある。特定の種の植物が生産する物質が同種あるいは異種の植物に対して及ぼす作用のことをいう。その作用は、阻害の場合も促進の場合もあるが、結果としては有害なものが多い。アレロパシーを引き起こす化学物質を他感作用物質という。クルミの木やマツの木の根本に雑草が生えにくい現象や、アスパラガスの連作障害などによる忌地(いやち)現象もアレロパシーによるものである。クルミの木のジュグロンや、セイタカアワダチソウのポリアセチレン化合物などが他感作用物質として知られている。]
[アワダチソウグンバイ:カメムシ目カメムシ亜目グンバイムシ科に属する昆虫。北米原産の外来種で、1999年に兵庫県西宮市で確認されたのが日本での初記録とされている。体長3-4mm前後。全体に半透明で、他のグンバイムシ科と同様に前翅・前胸・小楯板などが網目状となり、褐色の紋をもつ。頭部前縁・前胸側縁および背面・前翅が板状に張り出し、細かなトゲを生じる。発生時期は4-11月頃。セイタカアワダチソウについて吸汁する。その他のキク科植物(アレチノギク)にもつくことがあるほか、農作物ではキク、ヒマワリ、ナス、サツマイモを加害する。]
●12月10日「マンリョウ」
マンリョウはセンリョウと並んで正月の縁起物とされている。どちらも、濃い緑色の葉と真っ赤な実のコントラストが美しい植物。(マンリョウ(万両)のほうが実がたくさん成るので千両よりも価値が高いということで、万両という名前になった。さらに、百両、十両、一両という植物もあって、百両はカラタチバナ、十両はヤブコウジ、一両はアリドオシという植物。どれも、冬に緑の葉と赤い実をつける点で共通している。)
万両の実は、10月くらいまでは緑だが、12月になると真っ赤になる。千両も同様だが、冬に成る赤い実はだいたい鳥に好まれる。(鳥にとっては冬の間の大切な食料。)
マンリョウは常緑性の低木で、大きくても1mくらいの高さ。以前の図鑑ではヤブコウジ科に含まれていたが、最近は分類が変わって(APG分類)サクラソウ科の仲間に含められている。亜熱帯を中心に分布する植物で、日本以外にもインドから東南アジア、東アジアに広く分布している。その中でも北限に近い日本では、関東地方よりも西の本州、四国や九州、沖縄まで分布している。これ以外の地域でも、庭木や鉢植えで育てられることがよくある。
いっぽうで、フロリダ州などアメリカ南部では、園芸植物として日本から持ち込まれたマンリョウが野生化して問題になっている。森の中の地面を覆い尽くすほどマンリョウが繁って、もともとあった土着の植物が生えられなくなるほどだという。(セイタカアワダチソウは、アメリカから日本に入って来て厄介になっている外来植物だが、マンリョウはその逆の例。)
花は7月ころに咲く。8mmほどの小さな白い花で、花びらにえんじ色?の斑点が見られる(大きな花だが百合の斑入りの花に似ている)。花びらは5枚(百合は6枚)。花の中心に黄色のつぼみのように見えているのは、5本の雄しべが寄り集まったもの
葉は細長い楕円形だが、縁は波打つような凹凸になっていて、その凹んだ部分に1?mmあるかないかの小さなこぶがある。これを葉粒と言う。この葉粒の中には細菌が住んでいて、その名は Burkholderia crenata。この細菌は、細菌だけで単独で生活できない生き物で、マンリョウに住みついて生きている。この細菌がいったい何をしているのかまだ不明の点も多いが、どうやらマンリョウと共生しているということは分かっている。近年はDNAを調べる技術が進歩していて、このような植物と細菌の不思議な関係も少しずつ解き明かされつつある。
[1950年代に、マンリョウの葉粒菌は Bacillus foliicola とされ、この細菌は根粒菌と同様窒素固定能力を持っているので、マンリョウの葉の中でも窒素固定を行ってマンリョウと共生関係にあるのだろうと考えられていた。2010年代にマンリョウの葉粒菌のDNA配列が明らかにされ、葉粒菌は Burkholderia crenata という細菌の1種であることが分かり、この細菌には窒素固定能力はないことが明らかにされた。
マンリョウの葉に棲む「謎の細菌」の話]
◆2023年
●1月28日「雪の上で見つかる虫」
雪の上で見つかる虫として、以前ガガンボの仲間を紹介した。[ガガンボは、蚊を大きくしたような形で、蚊の母という意味でカガンボ(蚊ヶ母)とも言う。雪上で見られるのはユキガガンボ(ニッポンユキガガンボあるいはクモガタガガンボとも)で、体長5mm余と小さく、翅もない。]
まず、ナライガタマバチ。(写真を見ながら)白い雪の上に1匹の昆虫がいる。見た目は黒いハチのようにも思えるが、翅は見当たらない。これは、ナライガタマバチというタマバチの仲間。タマバチは、雄には翅があるが、雌には翅はない(これは雌)。冬は寒いので体温を逃がしたくないという、以前に話したユキガガンボとほとんど同じ理由で、翅がない。この時期に、コナラの冬芽に雌が卵を産む。その途中で木から雌が風で落ちてしまったというのが、この写真。かなりたくさん落ちてきて、それでこの虫がいることに気がついた(体長は5mmもないのでは)。
ナライガタマバチは、成虫が冬に出てきて、コナラなどに冬に卵を産み、その植物が4月末に成長し、5月に緑の葉が大きくなると、そのころ栗のイガを小さくしたような、2〜3cmくらいある虫こぶをつくる。虫こぶは、虫が植物に産卵すると、それを嫌がってその植物のその部分が膨れたり大きくなったりする。中は軟かくなっていて、その中を幼虫が食べて成長する。(虫こぶは私たちの生活にも関わっていて、インクの元になっていた。虫こぶにはタンニンが高濃度に含まれていて、そのタンニンを使ってインクを作っていた。これは没食子インクという特別なインクで、化学染料がなかった時代には、退色しにくく水にも強いということでたいへん重宝されたインク。)
次に、とても小さな虫でトビムシ。大きさは2mmくらい(ゴマ粒を細くしたような虫)。トビムシは、雪の上にものすごい数が群れていることがある。寒さにもとても強くて、南極大陸にもいると言われている。(離れた所から広い範囲を映した写真を見ながら)雪の上に、細かい細いゴマを散らしてしまったというような感じ。(アップの写真を見ると)実際に虫の形をしている。これが、飛ぶというより跳ねる。バッタのように後ろ脚で跳ねるとかではなくて、体をつの字型に曲げて、エビなどのように、ぽんと跳ねる。(高速度カメラで撮ってみると、くるくる空中で回りながら落ちるという面白い飛び方。)
この虫はもともと落ち葉の下にいて、落ち葉を分解するとても有能な昆虫。これはボクシトビムシという名前だが、このトビムシは真冬によく雪の上で見られる。いつも決まって天気のよい日に、雪と雪でない所との境目あたりからわっとわくように出てくる。
[虫こぶ:おもに昆虫が産卵、寄生することによって植物体組織が異常肥大成長してできるこぶ。虫えい(ちゅうえい)ともいう。こぶの典型的なものでは、中央の空間に虫が生息し、周囲は厚い組織に発達する。枝、茎、葉のほか、根、花、芽および果実にも形成される。奇形への誘発は、寄生者の分泌する物質による細胞の増殖と分化の異常、局部組織におこる生理調整の破綻(はたん)などが考えられている。クリタマバチのこぶでは植物ホルモンであるオーキシンの含量が高い。こぶをつくる虫には、ワムシ、線虫、クモ、ダニもあるが、昆虫が圧倒的に多い。なかでも、膜翅目のタマバチ科と双翅目のタマカ科の昆虫類は、虫こぶの本質からも、実用面からも、もっとも重要である。前者では複雑な形のこぶ、後者では変異に富んだこぶが多い。 有用な虫こぶとしてよく知られるものに、没食子(もっしょくし)(小アジア産のカシの枝にできるインクフシバチによるこぶ)、五倍子(ごばいし)(ヌルデの葉にできるアブラムシによるこぶ)があり、いずれもタンニンの材料として用いられる。しかし、クリタマバチなど、農林業に与えている害のほうが、有用なものよりもはるかに大きい。]
[ボクシトビムシ:放送ではボクシトビムシと言っていたが、たぶんボクシヒメトビムシという種だと思う。この名前の「ポクシ」は、江戸時代後期の越後の商人で文筆家・文化人として知られる鈴木牧之(1770〜1842年)からとられているようだ。牧之は『北越雪譜』(初編1837年、2編1841年)を著し、越後の自然や生活・風俗などについて記しているが、その中の「雪中の虫」という項で「雪蛆」としていわゆる雪虫についてふれているとのこと(ただし、それはトビムシについてではないようだ)。]
●2月11日「ホッケ」
ホッケがよく食べられるようになったのはわりと最近のこと。というのは、鮮度が落ちやすい魚だったために、以前は食用としてはほとんど流通していなかった。戦後の食料難時代に流通したが、臭いが強くて不評だった。だから、まずい魚というような代名詞があった。しかし最近は保存技術が発達して、干物として広く流通するようになった。
ホッケは、カサゴ目アイナメ科ホッケ族の魚で、太平洋側は茨城県、日本海側は千島海峡の北から北の、南カラフト辺りまで分布していて、主に北海道で漁獲される。成魚は海岸の水深100m辺りの海底近くに生息しているが、最大で60cm、寿命は8年から9年と言われている。
(写真を見ながら)体の色は、白に茶のまだら模様。やや細長いスマートな体形。背鰭が前のほうから後ろのほうまで続いていて、写真では少し折りたたまれているが、広げるととても大きな鰭。
ホッケの特徴としては、うきぶくろがないこと。うきぶくろは、気体の詰まった袋状の器官で、浮力を調整して無駄なエネルギーを使わないようにするためのものだが、ホッケは海底でじっとしていることが多いので、うきぶくろをあまり必要としていないのだと思われる。そして、うきぶくろがないことと関連したとても変わった生態が最近明らかになった。それは、春から初夏にかけて、奥尻島など北海道日本海沿岸ではホッケ柱という大群をつくる。潮目近くに3万匹以上のホッケが密集して、水面よりも約1m下に、直径が3m、高さが10mあるいは15mもある柱状の群を形成することがある。その時、ホッケはうきぶくろがないので、たえず上に向かってゆっくり泳いでいる。その反作用で柱の中心部にゆるやかに下向きの流れが生じて、その結果水面近くでは流れの中心に渦ができる。そしてその渦で周辺のプランクトンを集めることができる。こうすることで、ホッケは海面に近づくことなく水中に留まって渦が運ぶプランクトンを食べられる。これにより、水面に上がると海鳥に襲われることがあるが、そういう危険を回避できる。
この現象は春から初夏にかけてだけ。春はプランクトンがとても増える時期。比較的若いホッケが浅い所で盛んに餌を採るので、この時にできるのだと思う。その後は、水深100m前後の大陸棚の上に着底して、比較的平坦な海底付近を群をなして回遊する。餌もプランクトンだけでなく、魚、魚の卵、イカ、オキアミ類やカニ類、スケソウダラやイカナゴの幼魚など、様々な種類の動物を食べて生活している。
ホッケは、この他にもいろいろ見所がある。例えば、体の色。茶の模様があるが、雄は産卵期になると体の色が白っぽくなってこのような模様がなくなり、頭の上と尾鰭の先だけによりはっきりした黒の模様が浮き出る。ホッケの産卵期は、北海道周辺では9月中旬から12月中旬ころ、本州沿岸では12月から2月ころと言われているが、水温が一定に保たれている水族館では決まった産卵期はなくて、いろんな時期に観察するチャンスがある。そしてタイミングが合えば、産卵行動も見られる可能性がある。ホッケの海での産卵場は水深5〜30mの岩場で、雄は岩の割れ目や窪みのある岩礁域あるいは石と石の間の隙間がある所をなわばりとする。そのなわばりに雌が近づくと、雄は鰭を広げて下半身を振わせて求愛する。雄の求愛行動が激しくなると、やがて雌は一瞬のうちに窪みに卵塊を産卵する。そこへ続いて雄が腹部を接触させるように通過しながら精子を出し、受精させる。この後、雄はそこに留まって卵が孵化するまで近づく魚を追い払ったり卵に新鮮な海水を吹きつけたり、保護行動を続ける。卵が孵化するまで50日から65日程度かかるが、雄はこの間いっさい餌を口にせず頑張る。
[うきぶくろ(鰾、Swim bladder):硬骨魚が持つ、気体の詰まった袋状の器官。気体で浮力を得るほか、いくつかの補助的な機能を持つ。魚の体は周囲の水より密度が大きく、何もしなければ沈降してしまう。そこで、簡単に浮力を得るために鰾を発達させている。鰾は伸縮性に富む風船のような器官で、ガスを溜めたり抜いたりして浮力調節を行う。軟骨魚にはうきぶくろはない。また硬骨魚でも、底生性のアイナメ、ハゼ・カサゴ類の多く、カレイ目の成魚、活発に遊泳しないアンコウやコバンザメ、高い水圧のため気体での浮力の調節が困難な深海魚は、うきぶくろを失っている。]
●2月18日「ハンノキ」
ハンノキは身近な場所に生える樹木。ハンノキは、シラカバなどと同じカバノキ科に属する落葉広葉樹で、日本中、北海道から沖縄まで分布している。日本以外でも、朝鮮半島や中国などアジア東部にも広く分布する。成長すると、高さ10m以上になり、時には20mを越える大木になることもある。
ハンノキの特徴としては、池や川の畔などの湿った土地を好むことがあげられる。浅い水に浸るような湿地にも生えることができる。谷底の湿地に生えることから、別名ヤチハンノキとも言われることもある。近年では耕作を止めてしまった田んぼ、湿った泥の田んぼにもハンノキが生えてきてハンノキ林になることがある。
多くの樹木は水に浸ると根が呼吸できずに枯れてしまう。ハンノキは、空気が少ない水浸しの土の中でも根に酸素を送る仕組が発達している。例えば、水位が変動して、時に水位が上がって幹の根元のほうまで水に浸ってしまうような場所に生えているハンノキの幹には、ひげのような根が生えることがある。これは不定根と言って、地中の根に酸素を送るしかけの1つだ。[またハンノキの根際の幹や根には、気孔の代わりをする肥大皮目という突起がたくさんあって、酸素を取り込む通気口の役割をしている。]
さらに、ハンノキの根には根粒がたくさんあって、その中に墨ついている細菌のおかげで空気中の窒素を固定できる。これはマメの仲間と同じ能力で、そのおかげでやせた土地でもよく成長できる。厳しい環境で生きられる最強の樹木と言ってもよいかもしれない。
今はハンノキの花の季節。ハンノキは秋の終わりころから4月ころまで長い期間にわたって花をつける。ハンノキには雄花と雌花があり、目立つのは雄花で、長さ5cm前後の太い紐状の花が枝先にたくさん垂れ下がって咲く。(雄花の写真を見ながら)色は赤茶色、形状は穂のようだ。花というより、確かに太い紐が垂れ下がっているよう。じつはこれは、小さな雄花が何十個も集まった花序。いっぽう、雌の花序は小さくて成長しても1cmくらいにしかならない。雌花が開くのはちょうど今ごろからで、花粉を受け取ってやがて実になる。ハンノキの実は、長さ2cm前後の俵型で、一見ちいさなまつぼっくりのように見える。熟すとまつぼっくりと同じように開いて、その隙間から3mmくらいの平たい種をたくさんばら散く。種と言ったが、正確に言うと種に見える小さな粒の1つ1つが果実で、まつぼっくりのような実に見えるものは花序が変化したもので、専門的には花穂というもの。
ハンノキは自然界では様々な生き物に利用されている。例えば、ハンノキの果実は小鳥たちの餌にもなっていて、秋から冬にかけてはいろんな鳥がやってきてこの果実をついばんでいる。昆虫では、例えばハンノキカミキリやハンノキハムシといった甲虫の幼虫や成虫がハンノキを食べる。また蝶の仲間のミドリシジミや蛾の仲間のオナガミズアオ、蜂の仲間のヒラアシハバチなどの幼虫もハンノキの葉を食べる。このように、他の樹木が育ちにくい湿地に生えて多くの生き物を支えているハンノキは、自然界で重要な地位を占めていると言える。
●4月15日 小笠原の「メグロ」
*今回から鳥の分野は、小笠原諸島など長年島の鳥を研究している川上和人先生が担当、NHKの子供科学電話相談にも登場していて、なじみの先生です。
空を飛ぶということが、鳥の最大の特徴。しかもその距離がとても長く、場合によっては1日に何百しまってキロも飛ぶことがある。だからこそ生態系の中で他の生物が持っていない特別な役割を果たしているのではないかと考えている。
メグロは、名前の似ているメジロの仲間。世界中で小笠原にしかいない鳥。江戸時代の文献では、シマメジロとかクロメジロと書いていることもある。メジロをちょっとだけ大きくして、お腹を真っ黄色にして、目の前に三角形の黒い模様をつけると、メグロのようになる。
鳥では、小笠原には4種の固有種がいると言われていたが、残念ながらメグロ以外の3種類は絶滅してしまって、現在はメグロの1種だけになったと考えられていた。ところが、研究を進めると、今までは固有種ではなく世界中に広く分布していると思われていた鳥(セグロミズナギドリ)が、DNAを調べた結果、実は小笠原の固有種(オガサワラヒメミズナギドリ)だということが分かってきた。また、DNAの分析から、小笠原にいるカワラヒワは本州のカワラヒワとは別種であることが分かり、固有種が増えている。
メグロは、もともとは小笠原諸島の全域(聟島列島、父島列島、母島列島)広く分布していた。しかし残念ながら絶滅が起こって、今は母島列島の母島、向島、妹島の3つの島にしか生き残っていない。
絶滅した理由は完全には分かっていないが、様々な理由、例えば外来種であるネズミに食べられてしまった、外来種のヤギが入ってきて森林がなくなってしまったというような場合もある。ただ、母島列島の他の島をみると、メグロが住むことが十分にできるような環境が今も残っている。なので、何らかの理由で絶滅してしまって、その後で近くの島から飛んで行っていないのだと考えている。ふつうの鳥だったら飛んで行けるような4キロとか5キロしか離れていない距離なのだが、メグロのDNAを調べてみると、とても近い島でも海を越えて移動していないということが分かった。例えば、海の真中の島にいて、そこから移動能力があると、海の向こうに出て行ってしまいそうになる。でも海の向こうに陸地があると限らないので、あまり移動しなくなってくると考えられる。また、競争相手や捕食者が少ないような所なので、なわばりがぎゅうぎゅうになっている。そういう密度が高い所にいると、移動した先に行ってもなかなか新しく自分のなわばりを持てないかも知れない。そうすると、自分が生まれ育って地の利がある場所のほうが生き残りやすい可能性がある。そういういくつかの理由によって、鳥は島に行くと移動しなくなるという進化のパターンがある。
もちろんメグロの先祖は海を越えてやってきたはず。メグロに一番近い仲間は、マリアナ諸島のサイパンの辺りにいるオウゴンメジロ。この鳥が何百キロも離れた所からやってきたことは間違いない。先祖はそれだけ移動力があったにもかかわらず、移動するのを止めてしまった。(鳥は、飛ぶのはすごく疲れることなので、できれば飛びたくないと思っている。)メグロのような島の鳥は、一度ある島からいなくなると、外から入ってこないということなので、簡単に絶滅してしまう。その点は十分に注意しなければならない。
[参考:
「メグロ」が小笠原諸島にしかいない意外な理由]
●4月22日「ガザミ」
ガザミは、甲殻類ワタリガニ科ガザミ族のカニの仲間で、食材としてよく知られている。ワタリガニとも呼ばれる。ガザミは、函館から南の日本全土、および韓国・中国・台湾に分布するカニで、寿命が2〜3年、成長すると横幅が20cmほどになる。
(写真を見ながら)甲羅は横幅が広い菱形の形をしていて、その縁にぎざぎざのトゲがたくさん並んでいる。なんといっても特徴は脚で、舟を漕ぐオールの先端のように団扇のようなのが付いている。ガザミの脚は扁平で、とくにとくに一番後ろの第5脚が櫂状の平べったい遊泳脚になっている。危険が迫ったりすると、この平たくなった一番後ろの脚を体の上くらいまで上げ、他の脚も広げて櫂を漕ぐようにして泳ぐ。他のカニは海底を這って逃げるが、このカニは泳ぐこともできるので這うだけの他のカニと比べると有利だ。
ガザミは、波の穏やかな内湾の比較的浅い、水深30mほどまでの泥混じりの砂地に生息している。昼はその砂の中に潜って目だけを砂の上に出してじっとしていることが多いが、夜になると砂底から出てきて、小さな魚とかゴカイや貝などいろいろな小動物を捕食する。そうした捕食のさいに両手についたハサミを使うが、ガザミは利き手があるということが最近の研究で分かった。カニの仲間は左右でハサミの大きさが違うものもいるが、そういう種類は大きいはさみのほうで餌をつぶすということが想像できる。ガザミのはさみは左右の大きさはほとんど変わらない。それなのに左右を均等に使うのではなく、利き手が存在する。岡山県の水産研究所の研究によると、どちらのはさみ脚で貝を割るかの実験で、右のはさみを使用する右利きの個体が約8割、左利きが約2割。また1年2ヶ月後に同じ個体で同様の実験をしたが、利き手は変わらないということが分かった。1年2ヶ月後といえば、その間に何べんか脱皮をしているが、脱皮をしても利き手は変わらない(個体ごとに利き手が決まっているということ)。
ガザミの繁殖方法も面白い。夏から秋にかけて交尾した後、いったん深場に移って冬眠する。冬眠を経て、翌年の春から夏にかけて浅い所に移って産卵する。(卵が孵化するのにこれだけの時間がかかっているということではない。)ガザミは交尾のさいに、雄が交尾針を雌の生殖孔に挿入して精子の入った鞘(精鞘)を雌の受精嚢の中に送り込む。雌はこの状態、つまり精子を体の中に貯めたまま越冬し、産卵の時に受精させる。そして春の水温が15度くらいになると3月下旬ころから浅瀬に移動し始める。産卵は4月から9月にかけて。孵化までには2、3週間かかると言われている。孵化は通常夜間に行われて、孵化した直後のゾエア(zoea)幼生は、非常に顕著な、光に集まる正の走光性を示す。ゾエアは、エビやカニ[十脚目]の幼生の段階に与えられた名前で、頭のとがったエビのようなかっこうをしたプランクトン生活をしている状態のものを指す。孵化したゾエア幼生は1mm足らずで、1ヶ月ほど海中を漂うプランクトン生活をするが、この間に数回脱皮して、3mmほどのメガロパ幼生になる。メガロパは、形が親の姿に少し近づいた幼生で、頭はカニだがお尻のほうはエビのように細長いかっこうをしている。メガロパになると、もう1度脱皮して、小さなカニになる。そして海底に着生する。春に孵化した稚ガニは急速に成長して、秋までに12回から13回脱皮して、13cmくらいになると成体となって繁殖に加わる。
●4月29日「ハマエンドウ」
ハマエンドウは海岸に生える植物。マメ科の仲間だが、作物のエンドウ豆とは少し違って、スイートピーに近縁の種類。ハマエンドウは、世界各地の温体の海岸に生育している植物で、日本では北海道から沖縄まで各地の砂浜で見られる。砂浜の、直接波をかぶらない辺りから、さらにもっと内陸側、よく海岸にある松林の中などにも生育していて、砂浜に生えているものだと草丈10〜20cm程度、松林の中などでは50cmくらいまで育つ。
これから初夏にかけてはハマエンドウの花の季節。ハマエンドウの花は紫色で、たくさん生えている場所では砂浜が紫の花畑のようになって見事な光景。(ハマエンドウの花の写真を見ながら)花びらの様子が左右に別れていてフリフリしていて、スイートピーに似ている。
花が終わった後には実がなる。ハマエンドウの実はエンドウ豆とよく似た形の長さ5cmくらいの鞘に入っていて、中に直径4mmくらいの球形の種が3個か4個くらい入っている。ハマエンドウは世界各地の温体の海岸に生育していると言ったが、その秘密はこの種にある。ハマエンドウの種は、海水に浮かぶことができて、しかも何ヶ月も海の上を漂うことができる。また長い間海水に浸っていても発芽能力を保っている。つまり、ハマエンドウの種は海に浮かんで離れた場所の海岸まで運ばれて、新たな生育場所に分布を広げるという能力がある。これを海流散布と言う。この海流散布能力のおかげで、世界各地の海岸に分布している。
ハマエンドウにやってくる昆虫も楽しい。ハマエンドウのきれいな花には蜂や蝶など様々な昆虫が蜜を求めて訪れる。それ以外にも様々な昆虫がハマエンドウを利用している。例えば、ハマエンドウにはよくアブラムシがついている。中には、ハマエンドウフクレアブラムシと言う名前のハマエンドウ専門の珍しいアブラムシもいる(このアブラムシは今から9年前に発表された新種)。また、ハマエンドウの種を食べるクロマメゾウムシという甲虫の仲間がいる。クロマメゾウムシの幼虫はハマエンドウの種の中身を食べて育って、種の中で成虫になる。ということは、クロマメゾウムシはハマエンドウの種に乗って浜から浜へ運ばれてきた可能性がある。クロマメゾウムシはハマエンドウの種をもしかして乗り物として利用しているのではないかとも考えられる。
さらに、ハマエンドウの葉を食べて育つイモムシがいる。このイモムシは、ハマエンドウの向かい合ってつく2枚の葉(正確には小葉)をちょうど手のひらを合わせるような形に糸でつづって部屋をつくって、その中の葉の表面をかじって食べる。天敵から身を守ることもできるし、おそらく潮風などの環境からも守られると考えられる。このイモムシはハマキガと呼ばれる仲間の一種の幼虫だが、隠れ家と食べ物を兼ねた部屋を上手につくるものだと感心している。このように、ハマエンドウを利用している昆虫を見ていると、風で飛んでくる砂や塩分、直射日光など、厳しい環境にさらされる砂浜という場所で生きる生き物のしたたかさを感じる。
●6月3日「ヤブカラシ」
ヤブカラシは、ブドウ科のつる植物で、北海道の南西部から沖縄までほぼ全国に分布して、国外でも東アジアから東南アジアやインドまで広く分布する。
藪を枯らす植物なので、ヤブカラシと呼ばれる。植物がはびこって立ち入ることもままならないような場所を藪と言うが、それを枯らすほどの勢いではびこるのだから、なかなか手強い植物だ。
(写真を見ながら)茎から、5枚一組の葉が複数組ついている。1枚1枚の葉は縁がぎざぎざしている。そして、茎の途中からだろうか、くるくるとしたつる状のものが伸びている。この巻きひげが特徴で、いろんなものに絡みつく。この巻きひげを他の植物やフェンスなどに絡みつけてどんどん這い上がっていく。
この巻きひげは、巻きつく相手を味で識別することができる。ヤブカラシのつるは、細くて軟かいので自立することはできない。だから高く成長するには他の植物に巻きついて登る必要がある。そのために、巻きひげには触れた物には何でも巻きつくという性質があるが、なぜかヤブカラシ自身にはあまり巻きつかない。ヤブカラシの巻きひげについて研究した深野祐也によれば、巻きひげがなにかに触れた時、ヤブカラシは自分と他の植物の化学成分の違[蓚酸化合物の濃度。ヤブカラシは蓚酸化合物の濃度が高い]を感じ取ることができる。そして自分と違う物にぐるぐると巻きつく。これは、動物に例えるなら味覚に近い感覚。(詳しくは、
「ペロ・・・これは同種の味!!」 つる植物は接触化学識別(味覚)を使って同種を避けている)
また、ヤブカラシの花にも興味深い性質がある。ヤブカラシは、地域にもよるが、6月から8月に花を咲かせる。花はけっして目立つものではなく、直径3mmほどの赤っぽい点のようないくつかの花が緑色の蕾の中に点在するような咲き方をする。(写真を見ながら)細かい点が散っているような、線香花火のように見える。小さい花だが、たくさんの蜜を出すので、ヤブカラシの花にはこの蜜を求めて様々な虫が訪れる。赤っぽい花と言ったが、ヤブカラシの花にはよく見るとオレンジ色がかったものとピンク色のものがある。種類が違うのでなく、ヤブカラシの花の色は、咲き初めはオレンジ色、次にピンク、それから再びオレンジ、さらにピンクへと変化する。
ヤブカラシの花の色について研究した古川友紀子等によると、1度目のオレンジの時は花は雄しべに発達した雄の役割、2度目のオレンジの時には今度は雌しべが発達した雌の役割を持っている。雄から雌に変わる時に途中段階があって、その間はピンク色になる。そしてオレンジ色の時には蜜をたくさん出し、ピンク色の時には蜜を減らす。すなわち、オレンジ色の時は花は営業中、ピンク色の時は準備中のサインだと考えられる。このようにヤブカラシは花の色を調節することによって花粉を運んでくれる虫たちを高率よく呼び寄せていると考えられる。(詳しくは、
ヤブカラシの花色は3度変わる)
ところで、ヤブカラシの花は授粉してくれる虫たちを集めるのにこんなに工夫しているのに、関東より北の地方ではヤブカラシの実はごくごくまれにしか見つからない。それは、この地域に分布するヤブカラシはほとんど3倍体ばかりだからだ。3倍体とは、細胞の中にある染色体が3組あるもののことで、実はうまく実ができない。しかし実ができなくても地下茎を伸ばすことで殖えて広がっていく。いっぽう、中部地方より西の地方には繁殖能力のあるヤブカラシが分布していて、これには実がなるから、おおよそ日本の西半分の地域ではヤブカラシの実を見ることができる。どうやら、ヤブカラシとしてひとくくりにされている植物には、実は様々な起源のものが含まれているようだ。ヤブカラシは厄介者扱いされがちな植物だが、見方を変えれば生物の奥深さを教えてくれる存在でもある。
●6月24日「アナドリ」
アナドリは、ミズナギドリの仲間の海鳥。この鳥は、太平洋や大西洋、インド洋などの熱帯から亜熱帯地域に広く分布している鳥。太平洋では、ハワイや、日本の小笠原諸島や南西諸島で繁殖している。全身が真っ黒で、大きさはハトよりも少し小さくヒヨドリくらい、27cmくらい。翼を広げると、60〜70cmくらい。日本では小笠原や南西諸島など狭い範囲に分布しているのであまりなじみがないが、世界的に言うと広く分布している鳥。
最近この鳥について面白い研究成果が出たので、それについて紹介する。
まず、海鳥、とくにミズナギドリの仲間は海の広い範囲を移動している移動性の高い鳥。このミズナギドリの仲間は、繁殖期の巣をつくる時以外はほとんど陸上に来なくて、海の上でふだん生活している。場合によっては1日に数百キロ移動することもあるような移動性の強い鳥。太平洋、大西洋、インド洋などに広く分布しているが移動性も強いので、地域的な集団には別れていなくて、1つの大きな集団なのだろうと今までは考えられていた。
ところが、私たち森林総合研究所とポルトガルのリスボン大学などの研究グループと共同研究して、世界中のアナドリのDNAの分析をした。その結果、小笠原で繁殖しているアナドリは、ハワイや大西洋にいるアナドリとは古い時代に分岐したとても固有性の高い集団だということが分かってきた。日本とハワイの間は約4000kmで、この距離は彼らにとってはほぼお隣りと言えるような近い距離だが、交流がなかったということになる。分岐したのは85万年くらい前と考えられ、その後は交流がなかったと考えられる。
詳しく説明すると、私たちの研究では、小笠原と、ハワイの2つの島、それから大西洋の4つの諸島、計7箇所の島々からサンプルをとり、合計105個体のDNAの分析をした。予想としては、それほど違いはないか、あるいは太平洋と大西洋の間には陸地があるのでその間で少し違いが出るかだった。ところが、小笠原の集団だけが別れて、小笠原と、ハワイと大西洋を含む大きな集団の、2つの集団に別れた。系統関係を分析してみると、アナドリ全体の中で、小笠原の集団はもっとも古い時代、85万年前に他の集団から別れた。(今回は沖縄の集団のDNAを分析していないが、小笠原と沖縄は近いのでおそらく両方合わせて日本の集団と言ってよいだろう。)また、ハワイと大西洋の集団は、それほど古くなく16万年前に分岐したと推定された。
ハワイと日本の間には陸はなく海でつながっていて距離も4000キロと海鳥にとっては遠くはないが、ハワイと日本の間はプランクトンなどの栄養になる食べ物があまり多くない海域だ。小笠原とハワイのそれぞれの集団は、栄養分の少ない所を避けて、小笠原の集団は南西方向に、ハワイの集団は南東方向に移動していることが分かっている。このように繁殖地は近いが、渡る方向が逆方向になっているために、交流がなくなったのではと考えられる。海にはどこにも障壁画ないように見えるが、食べ物があるかどうかが海鳥にとっては見えないバリアになっているのではないか。
●7月8日「エゴノキ」
エゴノキはエゴノキ科に属する落葉樹で、高さ5mから7mくらいの樹木。庭や公園にもよく植えられている。一方、山中の森に生えていることもよくあって、高さ10数m、太さ30cmを越えるような樹になることもある。日本では、北海道から沖縄まで全国に分布しているし、国外でも東アジアに広く分布する。
エゴノキは、例えば千葉の平地では5月ころ花を咲かせる。1つ1つの花は10円玉くらいの大きさで、純白の5枚の花が星のように開く。この花をたくさんつけて、樹木全体でみると、可憐な涼しげな印象がある。気候により花の時期がずいぶん異なっていて、北海道では7月ころ、沖縄では冬の時期に花が咲く。
エゴノキの名前は、「えぐい」に由来する。エゴノキの実にはサポニンという物質が含まれていて、これを口にするとえぐみを感じ、口から喉がしびれたようになる。
サポニンはムクロジにも含まれ、サポニンを含むムクロジの実がシャボンとも呼ばれたように、サポニンには油汚れを落とす効果があって、石鹸として利用された。同じように、エゴノキの実も水に濡れてもむと泡立つのでシャボン玉遊びなどに利用されたとか。
エゴノキの実は長さ1cmくらい、卵型で先がちょっととがっている。この実には昆虫がやってくる。エゴヒゲナガゾウムシという体長4〜5mmの甲虫の仲間で、別名ウシヅラヒゲナガゾウムシとも呼ばれる。本州から九州に分布していて、その名前の通り牛のような顔と長い触角が特徴(写真を見て、牛のお面のような感じ)。エゴヒゲナガゾウムシは、エゴノキの未熟の実に産卵しにやって来る。幼虫はエゴノキの種子の中身を食べて成長する(ずんぐりしたイモムシのような姿で、川魚の釣り餌として利用されている)。
エゴノキの枝先に、10本前後のバナナが集まった房のような変な形のものが付いていることがある。色は薄い緑色で、表面には短い毛が密生している。これは、エゴノネコアシと呼ばれるもので、アブラムシによるもの。エゴノネコアシアブラムシというアブラムシがいて、このアブラムシがエゴノキの枝に寄生すると、植物の組織が異常な成長を起こしてこのような物体を形成する。このように、昆虫の寄生によって植物の体の一部に形成される物体のことを「虫こぶ」と言う。(エゴノネコアシは、ネコパンチの足先のようにも見えてこの名がある。)虫こぶの中身は空洞で、割ってみると中にたくさんアブラムシがいる。このアブラムシは夏のうちに虫こぶから飛び出して他の植物に移動し、あとには空になった虫こぶが残される。
●7月29日「オガサワラカワラヒワ」
オガサワラカワラヒワは、小笠原諸島にしかいない(固有種)鳥。アトリ科のグループに属していて、スズメと同じくらいの鳥。見た目は褐色で、雌のほうは少しオリーブグリーン、雌は薄い褐色をしている。翼に黄色の模様が入っていて、きれいでかわいい。本土にもカワラヒワという鳥がいて、そのカワラヒワに近い仲間だが、本土のものに比べると体が小さくてくちばしが大きいというのが特徴になっている。この大きなくちばしで植物の種子をよく食べる、種子に依存している鳥。
この鳥は、以前は小笠原諸島の[北から順に]聟島列島、父島列島、母島列島[これらを合わせて小笠原群島という]、そして火山列島[小笠原群島の南西約200kmに位置し、硫黄列島とも呼ばれる]に広く分布していたが、今は母島列島の属島の小さな無人島(向島、姉島、妹島、姪島、平島)と、火山列島の南硫黄島の2箇所でしか繁殖していない。このため、100年前に比べるとその分布している範囲が10分の1くらいに減ってしまい、日本でもっとも絶滅に近いような鳥だと考えられる。
小笠原で調査を始めた25年くらい前もこの鳥は現象していると言われていたが、当時は母島列島の母島という人の住んでいる島でもふつうに観察できた。まだまだたくさんいて、そんなに簡単に絶滅するようにはみえなかった。しかしここ10年くらい非常に減って、母島ではほとんど見られなくなった。ここ25年くらいの間でも、母島列島で個体数が10分の1くらいに減ってしまった。面積で考えると100年前に比べて10分の1、さらにその残った中でも数が10分の1くらいに減っているので、100年前に比べて100分の1くらいに減っているという、とんでもない状況になっている。
減少の原因として、人間が住みはじめることで様々な影響があったと思われるが、1つ確実に言えるのは、外来の哺乳類の影響が大きかったということ。とくにクマネズミが大きな影響を与えていると考えている。クマネズミは木登りをするのが上手なネズミで、このためきに登って木の上にある鳥の巣を襲って卵やヒナを食べてしまうことが知られている。小笠原諸島の中でクマネズミが野生化してしまった島では、すべてオガサワラカワラヒナが繁殖しなくなった、いなくなったということが分かっている。そして今生き残っている母島列島の属島と南硫黄島は両方とも、まだクマネズミが進入していない、野生化していない数少ない島。そういう所でしか生き残っていないということは、間違いなくこのネズミの捕食の影響が大きいと考えている。
しかし、クマネズミが入り込んでいない東島属島でも問題が起きている。それは、もう1種のネズミ、ドブネズミ。これが母島属島で野生化している(やはり外来種)。ドブネズミはクマネズミほど木登りは上手でないが、やはり木に登って果実を食べたり鳥の巣を襲うことがあることが分かっている。このため、クマネズミほど急激に影響を与えるわけではないが、ドブネズミの影響でオガサワラカワラヒワが徐々に減少していると考えている。
今年は6月29日から7月10日まで、調査に行っていた。この調査では、捕獲調査をしている。鳥をつかまえて足環をつけて、足輪をつけた状態で逃がす。足輪は色の組み合わせで個体識別ができるようになっている。その後で観察したり自動撮影カメラで撮ることにより、この鳥がどのくらい移動するかとか寿命がどのくらいなのか、個体数がどのくらいなのか、モニタリングしている。毎年調査をしながら、少ないなあ少ないなあと思っていたが、今年は比較的多くの若鳥を見ることができて、ちょっと安心して帰ってくることができた。小笠原では今ドブネズミを根絶するために各行政機関や地元の人たちががんばっていて、その効果がたぶんようやく出てきたかと思う。今年は若鳥の巣立ち率がとても高かったことが分かっている。
また、上にも記したようにこの鳥は木の種や植物の種子を食べる。小笠原には台風がよくくるが、直撃してしまうと花が落ちて食べ物が減ってしまうということもよくある。ここ数年台風の影響があまりなくて、直撃を受けていなくて、おそらく食べ物も順調にあるのだと思う。そのおかげで今若鳥が増えているので、この間に対策を進めることでオガサワラカワラヒワをなんとか絶滅から救っていかなければと考えている。[詳しくは、
オガサワラカワラヒワ〜絶滅阻止限界点への挑戦〜]