デンマークに学ぶ――エネルギー政策の転換のために

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 このたび、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/main.html)で、内村鑑三の『デンマルク国の話』(http://www.aozora.gr.jp/cards/danmark.html)を読みました。 
この本を知ったのは、メールマガジン「エコロジーオンライン」(登録は http://www.mag2.com/m/0000012696.htm でできます)の NO.229(2000年12月8日号)を読んだ時です。旧い本のようでしたので、もしかすると青空文庫で公開されているのではと思い調べてみましたら、幸運にも読むことができました。
 デンマークと言えば、なんといっても童話作家のアンデルセンの国、そして私の趣味でいえば原子物理学のボーアの国です。一般には、小国(九州よりすこし狭い国土に 530万人)でありながら、高い生活水準と高福祉の国として知られており、また最近では風力発電のことでよく新聞記事などでも見かけます。
 この本は、 1911年に行われた講演が元になっていて、とても説得力があります。短編なので内容を詳しく紹介するまでもありませんが、まず、今日のデンマークの基礎を作った人たちの例として、ダルガス父子の業績が語られます。 1864年にプロシアとの戦争に敗れ疲弊していた中で、ダルガス親子は、富を外に求めるのではなく、氷河に削られてやせた土地にモミを植えて農耕に適した土地に変えてゆきます。それには、 40年にわたる多くの工夫と農民たちへの説得が必要でした。そして次に、かれらの足跡から三つの教訓が説かれます。
 第1は、敗戦はかならずしも不幸ではないということです。「牢固たる精神ありて戦敗はかえって善き刺激となりて不幸の民を興します。」
 第2は、天然の無限の生産力です。「国の小なるはけっして歎くに足りません。これに対して国の大なるはけっして誇るに足りません。富は有利化されたるエネルギー(力)であります。しかしてエネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤にもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります。……外に拡がらんとするよりは内を開発すべきであります。」
 第3は、信仰の力です。「国の実力は軍隊ではありません……金ではありません……信仰であります。」
 とくに私が注目したいのは、第2の点です。今日のデンマークのエネルギー政策は奇しくも内村鑑三の示した教訓の通りになっています。
 本の内容とは離れますが、ここで最近のデンマークのエネルギー政策を簡単に振り返ってみます。(以下の記述は主に「エコロジーオンライン」 NO.230によっています。)
1976年 「エネルギー計画1976」
 1973年のオイルショック時(当時エネルギーの 90%を輸入原油に頼っていた)の経験をふまえ、エネルギー源を分散し、産油国への依存度を減らすことを目標にして、その手段として次の施策を掲げる。
 ・北海油田の開発
 ・発電余熱と天然ガスを利用した給湯計画の実施
 ・補助金制度を導入した省エネの奨励
 ・エネルギー税の導入

1985年 原子力発電に依存しない公共エネルギー計画を議会が決議
 1985年当時、建設計画中の原発が2つあったが、翌年のチェルノブイリ原発事故後凍結。

1990年 「エネルギー2000年」
 地球が持続可能な発展を維持するため、デンマークの果たすべき目標として、
 ・エネルギー消費量を2005年までに1988年水準比15%削減
 ・二酸化炭素排出量を2005年までに同20%削減
を掲げ、この目標達成のための方策として次の施策を掲げる
 ・エネルギー消費量の削減
 ・エネルギー供給体制の効率化の改善
 ・クリーンエネルギーへの切り替え(その中で、風力発電は、電力消費量の 10%にまで高める)
 ・研究開発の奨励

1995年 炭素税(環境税の一つ)導入
 石油・石炭などのエネルギーから、風力やバイオガス(家畜の糞尿を利用)などのクリーンエネルギーへの転換を促進するため

1996年 「エネルギー21」(エネルギー2000の改正)
 2030年までに海上風力発電所を合計400万キロワット建設し、2000年の設備量170万キロワットと合わせて電力消費量の50%を風力発電で賄う計画
 このような一貫した政策は、食料とエネルギーは自給するという基本理念の下に、人の生活に欠かせない「水と大気」を守り、後世代にツケを回さず、農業と調和した形で新しい産業を起こそうとするものです。その成果として、エネルギー自給率は 1972年の2%から 1999年の118%に大幅に増えました。(なお、食料自給率のほうは 300%になっています。)また、1998年では総エネルギー消費量の約9%を再生可能エネルギー(風力、バイオガス、バイオマスなど)が占めています。さらに注目すべきは、デンマークは世界の風力発電器の 50%以上を生産しており、それが重要な輸出品になっていることです。
 デンマークのこのようなエネルギー政策の転換は、国家主導で行われたというよりも、各地の市民の共同事業がまず先行し、それを政府が政策的に支え促進するといった形で行われました。その結果、国ないし大企業中心の大規模で集権的なエネルギー供給体制でなく、各地に分散した、小規模な、循環型の持続可能な多様なエネルギー厳が確保され、それがまた地域に根差した新しい産業や雇用につながるといった、一つのモデル・ケースが実現されつつあります。こうして今では、デンマークは、小国でありながら、エネルギーや環境問題ではEU内で指導的な役割を果しうる国になっています。(詳しくは、下に掲げた参考 URLをぜひ見てください。)
 これに引き換え、日本のエネルギー政策はいったいどうなっているの、と言いたくなります。エネルギー政策に関するかぎり、けっして〈先進国〉とは言えません。いまだに、エネルギー消費量の増加とエネルギーの安定供給を無条件の前提にして、温暖化防止のための2酸化炭素削減には原発の増設がもっとも有効だというような、科学に名を借りた一面的な見方を押し付け、結局は既存のエネルギー関連メーカーの利益を保護する政策を踏襲し続けています。国ばかりではなく何よりも国民一人一人が市民の立場で、先の内村鑑三の教訓、そして、国情は異なるとはいえ、上に示したデンマークの例、さらには最近日本で起こった数度の原発事故(1995年末のもんじゅでのナトリウム漏れ、 1997年3月の動燃の再処理工場での爆発、 1999年9月末のウラン加工施設・ジェー・シー・オーでの臨界事故)から学び得るものはしっかりと学び、厳しい選択ではあっても、今よりも将来を見据えて、エネルギー政策にしっかりとした方向性を持てるようにしたいものです。
 いわゆる書評の範囲をすっかり越えてしまいましたが、そのうち日本のエネルギー政策、特に原子力政策について改めて書きたいと思います。


[参考 URL]
エコロジーオンライン
 http://www.eco-online.org/

環境先進国レポート――デンマークのエネルギー政策
 http://www.nikkan.co.jp/html/green/denmark.html

デンマークの風力発電・フォルケセンター
 http://210.171.131.66/trust/hsizume.html

Europe ecocity Tour
 http://www.univcoop.or.jp/ecocitytour/ecocitytour.html

風力発電について
 http://www.nedo.go.jp/foreign-info/html9908/08229.html