触って知るとは――触って分かる触図作成のために――

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 *この文章は、2013年8月3〜4日に開催された「平成25年度点字技能師研修会」(日本点字技能師協会主催)で私が担当した講座(8月4日 9:30〜12:30)の内容を、そのレジメを修正・加筆してまとめたものです。
 
●今日の話の内容
 触って知るとは、触って分かるとはどういうことなのかを踏まえたうえで、図やグラフ・写真などの視覚的な情報を、どのようにして触図や言葉による説明(あるいはそのセット)として見えない人たちに伝えることができるかについて話します。
 
 
§1 触って何が分かるの?
 触覚は、見える・見えないにかかわりなく、すべての人に備わっている感覚。見えない人の触覚そのものがとくに敏感だということはない。
 見える人の場合には、とくに意識しなくても視覚の助けで触覚や手の器用さが発達することがある。例えば、慣れた人は、手元をそんなに見なくても線切りができるし、視力がかなり衰えても針穴に糸を通すこともできる。また職人さんたちは、見えない人たちが触ってもふつうはよく分からないような、ごくゆるやかな湾曲や細かい凹凸、重さの違いなどを区別できる。
 見えない人の場合は、意識して訓練しないと、手の動かし方や、とらえられた触覚情報が何を意味するかなどについて、身に付けることが難しい場合がある。(触覚教育の必要!)
 
§1.1 触覚を中心とした私の見方と、回りの人たちの見え方との違い
エピソード1 木の形を描く
 6歳ころ、妹とクレヨンを使ってお絵描きをしていた時のこと(色は妹に教えてもらい、クレヨンで描いた跡は触って微かに分かったので、輪郭はそれなりに自分で描いた)。私は木を、触った印象通りに、まず縦棒を描き、その途中から何本も枝分かれしているように斜め上や横にいくつも線を引いた。それを見ていた妹は「それは木じゃない」と言い、私の手を取って木を描かせてくれた。それは、縦棒の真中当たりから上にまず大きな円を描き、その中に細かくなにか描くようなものだった。触っては木のどこにもそんな大きな円はないのに……、とても不思議に思った。
 このような触覚印象と視覚印象との違いをそれなりに受け入れられるようになったのは、それから 10年近く経った、中学の終わりころ。視覚の場合、点と点の間に簡単に線を引いて全体の輪郭を直ちに〈見る〉ことができるらしい、そして、上の例では、整った形の木を遠くから見た場合、枝葉の先端を結べばほぼ円に近い形になるのだろう、と自分なりに納得した。(そのころには、直接触って得られた部分部分の情報を結び付けて、少し時間はかかるが、頭の中で全体的な形をイメージすることができるようになっていた。)
 触覚では、触れた物は存在するが、たとえ1ミリでも離れていれば存在しない、というのが直接の感覚体験。触覚では、存在と非存在が極めて明瞭に分割される。空白部(非存在部分)に線や面、さらに立体を想像できるようになるためには、イメージトレーニングが必要。
 
エピソード2 バケツの点図を触る
 小学5年か6年の算数の点字の教科書に載っていたバケツの図。その図は、斜め上から見た図をそのまま点図化したようなもので、台形の上と下に楕円形がくっついたような図だった。私の第一印象は、「これはバケツではない。というのも、バケツは触ってまず円いと感じるのに、その円はこの図のどこにもないではないか」。
 この図の台形の部分については、1日くらい考えて理解できた。バケツを縦に切った時の切り口の形を想像することで、納得できた。
 しかし、楕円形の部分については、いくら考えてもなかなか分からなかった。数年後ようやく、見る方向と円との角度によって、その〈見える〉形が、円から楕円形、さらに一直線にまで変化して行く、ということに気が付いた。
 視覚では、見る角度によって投影される物の形は大きく変化するが、触覚では、触る角度によって物の形が大きく変化して感じられるということはほとんどない。
 
〈触知体験〉
 見える人たちは、実際にあまり触ったことはなくても、多くの物を写真や映像などで見ているので、見えない状態でもちょっとした触覚的手掛りからその物が何であるかを推測できることがある。
 触覚で分かることの豊富さ:形だけでなく、物の様々な特性・性質(例えば、表面の様子、重さ、弾力、中が空洞化詰まっているか、温度やときには熱伝導度など)が把えられる。
 *触覚でとらえられる様々な情報のうち、触図(点図)で利用できているのはその中のごく一部(形中心)。触図を触って得られる触覚情報は、実物を触って得られる様々な情報に比べればほんのごく一部に限られる。(視覚では、実物を見た時とその写真や図を見た時とのギャップはそんなにないようだ。)
 
 
§1.2 視覚と比較しての触覚の特徴
●視覚は形や動き、触覚はテクスチャや温度
 視覚は、形や色、動きが中心。
 触覚では、物の表面の硬軟、乾湿、つるつるやざらざらなどのテクスチャ、および温度や重さなどはすぐに分かる。
 触覚で形を知るには、上手に手指を動かし、かつ時間をかけなければならない。また、触覚で全体的な動きを直接とらえるのは困難。
 
●視覚は全体的・遠隔的、触覚は部分的・直接的
 視覚では、視野の範囲にある全体を見渡し把握できるようだが、触覚では、とりあえず指先や手のひらが直接触れている所しか分からない。 1ミリでも離れていれば、まったく分からない。
 触覚では、全体をもれなく触り、かつそのさいの手指の動きを頭の中でイメージし、それを全体にまとめ上げていこうとしなければならない。触覚ではそれだけ、能動的・意識的に観察が行われることが多い。
 
●視覚は同時的、触覚は継時的
 視覚では、同時に一瞬で各部の情報が入ってくる。
 触覚では、指を連続的に動かすことで、その時々に得られる各部分の情報を頭の中でつなぎ合わせ、全体のイメージに近づくことができる。そのためには、かなり時間がかかる。
  *視覚に置き換えれば、直径1cmくらいの筒を通して物を見ている状況と似ているかも知れない。
 
●分解能が大きく異なる
 触覚ではっきりと区別できるのは 2mmくらいまでが限度。視覚では、30cm離れた所からで、その1/10くらいまでは十分に識別できる。(面=二次元だと、視覚は触覚の少なくとも百倍以上になる。)
 ・2、3mm以下の変化を正確に触図化しても、触覚でははっきり分からず、ただ邪魔な情報にしかならないことがある。
 
●視覚は一方向的、触覚は多方向的
 視覚ではふつうはある決まった方向から見ていることが多いようだ(博物館などでの展示は一方向から見られることを前提にしていることが多い)。触覚を使った観察では、物の内側や裏側など普通に見ただけでは見えないような部分もふくめ、可能ならばあらゆる方向からあらゆる部分を触ろうとする。そのため、触察によって、しばしば、視覚では気付かないようなことまで明らかになることがある。
 
【補足1】触察の弱点
 ・離れている点や線をつなげて、全体の形などを理解するのは難しい
  (例:離れている3点 → 3角形。各辺がつながっていない4本の線 → 長方形)
 ・離れている2つの図形を比較するのは難しい
  (例:同じ大きさ・形の直角3角形がいろいろなかたむきで 2つ以上描かれている時。アフリカの西海岸と南米の東海岸の海岸線の形がよく対応していることを示す図。)
 
【補足2】触察教育の必要
  見える人たちは、視覚の使い方についてごく自然に身に付けて行ける。また、見よう見まねができる。
 見えない人たちは、意識的に触る体験をし、自分なりに、ないしは他の人から教えられて、触り方を工夫して身に付けなければならない。
 
 
§1.3 どのようにして触るか:触知の方法
 
◆点字
●基本
 1字1字読むのではなく、指を横方向に滑らかに動かすことで、次々に変化する点パターンの変化を連続的に読み取っている。(電光掲示板などに流れ行く文字列を読むのに似ているかも。)文脈に合わせてかなり推測読み(先を予想して読んだり、すでに読んだ所を訂正したり)もしている。
 主に利き手の人差指を使うが、私は中指や薬指も添えている。
 
●両手読みのメリット
 行の 半分くらいまでは右手と左手を並べて読み、その後行末までは右手だけで読み、同時に左手は次の行の行頭を確認しその行の初めを読み始める(右手で行の終わり付近を読みながら、同時に左手で次行を読み始めている)。こうすることで、片手だけで読むよりはかなり速く読める。
 *両手読みが出来れば、触図を触って理解するのにも有効。
 
●検索
 大きな区切り目を探すには、点字用紙の左側を縦にたどる。そうすると、行飛び、 6マス下げ・4マス下げなどの見出し、段落などが簡単に分かる。
 (表形式の書き方では、縦に行頭を触っていくと、大きな項目・小さな項目の違いがよく分かる。)
 *重要な語などを文章中から探したい場合は、私は、その点字パターンを思い浮かべ、両手を使って用紙をスキャンするように動かしている。
 
◆平面の場合(主に触図)
 〈触図体験〉
 
●上下方向の確認
 視覚ではどういう方向で見るかは多くの場合瞬時に判断できると思う。触図では触る方向を決めるのに数秒から10秒くらいかかることが多い。
 点字が書いてあれば、点字の読める方向が正しい方向だと分かる。ときには、上や北を示す矢印なども有効なことがある。
 もっとも確実な方法は、図のタイトルの後に、図の方向や図の簡単な構成・見方を書くこと。
 
●両手の指と手のひらを使う
 点字の触読では、主に人差指の指先が使われるが、平面を効率よく触知するには、両手を使い、かつ指先だけでなく、手のひら全体も使うほうがよい。
 手のひら全体を使うことで、ごく大ざっぱではあるが全体の大きさや形を短時間に知ることができる。
 ただし、手の部位によって、触覚の鋭敏さが異なる(2点弁別閾では、指先 1.6mm、指のそれ以外の部分 3.7mm、手掌 7.7mmというデータもある)。また、手全体を乗せただけでは、指と指の間、掌の中央部などは、まったく対象物に触れていない。さらに、手を動かさない状態が続くと、順応によって触感覚の強さが弱まってくる。
 このような、両手全体を使った触知の弱点を補うには、手指を系統立って動かす必要があり、そのためのノウハウも必要。
 
●手がかりの発見
 手指を系統的に動かすためにも、対象物の何らかの特徴・手がかりを把えることが大切(部分的な特徴・手がかりでよい)。
 手がかりの例: 上下・左右のどちらに広がっているか、全体として円っぽいか角張っているか、対称的になっているか、基準となるような線や形があるか、幾つかのまとまりに分かれているか
 
 ※例えば植物を表した図で、上向きの葉の形が分かれば、そこから葉の付け根、茎、根元、花の位置などを予想しつつ触知できる。
  (もちろん予想が外れることもある。その場合は、自分の予想との違いを手がかりに、全体的なイメージに修正を加えることを繰り返すことになる。)
 
●手指の動かし方の例
ごく一般的な場合:
 @図全体をざっと触っておおよその形、特徴などの情報を得たうえで、それと関連づけながら各部分の情報を得るようにする
 A基準となる場所を決めて、それとの位置関係を把握しながら他の地点の部分の情報を得、それらをつなぎ合せまた各部分の関係を考慮しつつ、全体の形や特徴を把握する
 
左右対称な図の場合:
 B左右の互いに対応する部分に、左・右の手指を置き、両手指を同時に水平または垂直にスキャンするように動かして、面的に漏れなく情報を得るようにする
 
左右・上下・別ページに描かれた図(あるいは図の各部分)を比較する場合:
 C(両手読みが出来る場合は)対応する線を各手の指で同時にゆっくりたどり、共通点・相異点を把握する。
  または、まず1つの図・部分に集中してその特徴を記憶し、それと比較しつつ他の図・部分の特徴を調べる
 
◆立体物の場合
●大きさによる触知の仕方の違い
@片手にすっぽり入るくらい(10cm以内)
 大まかな形は片手だけでも分かるが、形を詳しく知り、またその物の特徴をより正確にとらえるには、両手指を使わなければならない。
 
A両手にすっぽり収まるくらい(20cm以内)
 このくらいまでの大きさだと、両手をそんなに動かさなくても全体の大まかな形は知ることができる。そのうえで、両手指をこまかく動かして細部を知る。
 *@、Aくらいの大きさの物だと、その物を手に持って触察すると、質感をはじめその物全体のより詳しい触覚情報が得やすい。
 
B肩幅くらいの物(40cm以内)
 まず、縁に沿って手を動かしてごく大まかな大きさや形をつかむ。それから、中央から回りへ、あるいは回りから中央へなど、両手指を系統的に動かし、それに合わせて、頭の中でも意識的に各部分部分を組み上げ全体にまとめたり、また全体の中に各部分を位置付けるなどの作業を行う。
 
C両手を広げた範囲(1m以内)
 まず両端を確認し、その真ん中あたりに身体を置いて触るようにする。
 手の運動の制限(手の届く先は円弧を描くように動く)のため、とくに手の先端部の形の認識には注意が必要。
 
Dそれ以上の物
 水平方向については、ゆっくり歩きながら順番に触っていくことで、ある程度変化の様子や全体的な流れは分かる。垂直方向については、足元部や手の届く先端部は把えにくいし、それ以上の高さについては言葉による説明によらなければならない。全体の形を頭の中でイメージするのはかなり困難。ミニチュアの模型があればいちばん良いが、言葉での説明により、日常触り慣れている物をいくつか頭の中で組み合せたりなどすることで、類似のイメージを作り上げることができる場合もある。
 
※いずれの場合でも(とくにB以降)、部分から全体を組み上げ、また全体の中での部分の位置を確認するという、繰り返しの過程が必要である。また、ごく簡単なものでいいので、手ごろな大きさの模型があると、とても理解しやすくなる。
 
〈立体物の触察の例〉 切頂 6面体
 どの方向で触るかで分かり方が異なる。(この場合は、正方形が、上下・左右・前後になるようにして触ると分かりやすい。)
  [切頂 6面体:正方形6枚と正3角形8枚でできる準正多面体。立方体の8つの各頂点を切り落した形。]
 
【触察のガイドをする時の注意】
 @自分で触れ、自分で手指をコントロールしながら触らないと、よくは分かりません。見えない人の手指をむりやり動かして触らせるのではなく、見えない人の腕や手にかるく触れながら言葉かけをしながら手指をガイドするようにしてください。とくに、今手を触れている所が全体のどの部分かを説明してください。
 A皆さんは多くの場合もっとも触ってほしいところ、例えばきれいな花弁とか、彫刻だったら顔の特徴的な部分とかを直接触らせようとします。そういういわば見所・触り所と言える部分は、複雑な形をしていたりときには尖っていたり壊れやすかったりして、触るのに難しい所です。まず、花の付け根や茎、人物像だったら肩とか頬とか、できるだけ安定した、触りやすい場所に指を置いてもらい、それからどの方向に指を動かせば何があるのかを説明したり、またかるく指の動きをガイドしながら説明したほうが良いです。
 B触る物と本人との位置関係にも気を付けてください。できれば、対象物の正面が良いですが、そのような位置が取れない時は、位置関係についても説明してください。
 
§2 写真や図などの扱い:主に言葉による説明
 
§2.1 本の中での図的表現の役割
 @図・写真などを主として本が構成されている。(写真集・画集・図鑑など)
 A図・写真などがなければ本文の理解が難しい。(本文の説明が、図・写真などを前提にしている。)
 B図・写真などは本文の説明を補強するものである。(図や写真等をとくに参照しなくても、本文の説明だけでほぼ理解できる。)
 C(さし絵などのように)本文のイメージを膨らませるもの。
 D(項目の変わり目のイラスト・ページを飾る模様など)本文の内容と直接には関係のないもの。
 
 @の画集や図鑑などは一般に点訳・音訳には不向きとされており、見えない人たちがこのような本からの情報を得ることは現状ではかなり難しい。しかしもちろん、私もふくめ、このような本に興味を持っている見えない人たちはいる。
 写真集や画集・図鑑などの中には、文章だけを読んでもそれなりに興味を持って読むことのできる本もある。文章中心に点訳し、写真や絵などについては可能であれば簡単な説明文を加えたり簡単な点図などを補えば、読者にとってはかなり役立つ点訳書となる。さらに、学芸員など専門家の協力が得られるならば、なお良い点訳書になると思う。
 
 Aについては、図などで示されている内容を説明文や触図(あるいはその組み合わせ)で読者に知らせるようにしなければならない。
 
 Bの場合、図などが本文の内容とほぼ同じ事を示しているならば、触図化あるいは説明文への置き換えはかならずしも不可欠だとは言えない。ただし、本文の複雑な内容を簡潔に示していたり、本文での部分的な説明を補っていたり、本文のあちこちに散らばっている内容を整理しまとめて示しているなどの場合は、触図化あるいは文章による説明があったほうが良い。
 
 CDについては、触図化あるいは文章による説明はとくに必要ないと言える。ただし、児童向けの図書における挿絵的な図や模様については、一部触図として分かりやすいものに変えたりすれば、本文のイメージを膨らませるのに役立つこともある。
 
 
§2.2 言葉による説明の留意点
 まず、原本の図・写真等に付されているタイトルや説明文に注目する。次のような場合がある。
 @原本に書かれているタイトルと説明文だけで、十分に内容が理解できる。
 A原本の説明文は、図や写真の一部分の説明だけである。
 B図や写真を直接説明するものではなく、背景的な説明や関連情報が記されている。
 *AとBの場合に、点訳者による説明が必要になる。
 
 以下、図や写真等の説明文を作るさいの要点を示す。
@何の図・写真なのか分かる説明
 初めに図全体が何を表わしているのかを説明する。(できれば点字 3行、墨字百字くらいまでで、図全体についての簡潔な説明文を作る。)
  *とくに、図や写真のタイトルがない場合には、点字1行前後で「……の図」「……の写真」などのような簡潔な文を初めに付ける。
 細部から説明を始めても、何についての説明かわからないと理解しにくい。(説明をすべて読み終わってからようやく何についての図なのかがわかることもある。)
 
A図の内容・意味をコンパクトに伝えるように
 図の形を再現出来るような説明が必要な時もあるが、多くの場合必要なのは図の示す内容、図から読み取れる意味である。
 形の説明にこだわって、かえって内容をわかりにくくすることもある。(形を言葉で説明するのは難しい!)
 図を通して著者が特に伝えたいであろう内容・意味を数個のポイントに要約しておき、そのポイントを中心に説明文を作る。
 
B説明する時の言葉
 説明する時に使う言葉は原本の対象となる読者層を考慮して選ぶ。またできるだけ本文に出てくる言葉を使う。
 *図や写真を理解するために点訳者が別の資料やインターネットなどを参照した場合も、それらの資料に書かれている説明を丸ごと使うようなことわしない。
 ※専門書では、適切な専門用語を使えば説明が簡潔になり、また理解もしやすい。
 
Cポイントをしぼった説明
 地図や案内図、配線図、装置の見取り図などでは、本文の理解に特に必要と思われる部分について詳しく説明し、図全体についてはごく簡単に(例えば「○○についての図」というように1文で)概略を示すだけにしたほうが良いこともある。
 (図全体についてメリハリなく詳しく説明すると、読者はしばしば本文との関連を見失い、何のための説明だったのか分からなくなることがある。)
 
D網羅的な説明が必要な場合
 図全体について詳しく説明する必要がある場合、まず図の概略を述べ、次に図全体をいくつかの部分に分け(各部分間の関係の説明も必要)、それぞれの部分について詳しく説明すると良い。
 
E専門的な図では、背景知識が必要
 専門的な図を説明する時には、本文を熟読すると共に、百科事典や参考書などを積極的に活用し、図の意味の読み取りに間違いのないように注意する。(知識がないままで、ただ見えたままを述べただけでは、図の伝えようとする内容をほとんど説明していないことになる場合が多い。)
 ただし、百科事典などからの知識が前面に出てしまって説明が原図から離れてしまわないように注意する。
 
 
§2.3 写真・イラスト等の扱い
 原本に写真等がふくまれている場合、文章のみならず写真等もその本を理解するうえで必要な情報だといえる。写真そのものは点訳できないが、原本に写真のタイトルや説明文が載っている場合は省略せず点訳するようにする。また、原本に写真の説明文がない場合、必要があれば点訳者が説明文を作り、読者に写真から得られる情報も伝えるようにする。なお、説明文に加えて写真やイラストをごく簡単な点図で示しても良い。
 
 写真等の扱い方としては、次の 4つの方法がある。
 
@写真等を省略する場合
 原本に写真等のタイトルや説明文がまったくなく、本文との関連でその説明を加える必要もない場合。
 点訳者挿入符を使ってその都度[写真省略]などと入れるか、点訳書の初めに点訳書の凡例として写真は省略する旨の断り書きを入れる。
 
A原本に書かれている写真やイラストのタイトルや説明文のみを点訳する。
 *新聞や雑誌や看板などが写真になっている場合、その文字がはっきり読み取れ十分に意味のある内容ならば、できるだけ点訳するようにする。
 
B写真やイラストのタイトルや説明文に加えて、点訳者が簡単な説明を付け加える。
 
C点訳者が写真・イラストの説明文を作る。
 以下に、その際の要領や注意点を示す。
 ・主観的な表現は避け、客観的な説明に努める。
 ・まず、何の写真やイラストなのか、そのテーマをできるだけ短く書く。
 ・写真等のテーマとなる所、ポイントの部分は詳しく説明し、周辺に属する部分は簡略化したり省略する。
 ・全体として簡潔なまとまりのある説明文となるように努める。(できれば別の人に、その説明文が分かりやすいかどうか、適切かどうか、チェックしてもらう。)
 ・写真やイラスト中、確定的でないものには断定的な表現は避け、「……のような」「……らしい」などの表現を工夫する。
 
D原本の説明文あるいは点訳者の説明文とともに、簡単な点図も添える。
 
[絵画の説明文の例] (『大原美術館名作選』より)
ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ『幻想』1866油彩、画布263.5×148.5p
(原本の解説文)
 (前略)この『幻想』も、もともとは彫刻家クロード・ヴィニョンの邸宅のために描かれた4点の装飾画のひとつである。他の3点は、『瞑想』、『歴史』、『緊張』(いずれもトゥルコワン美術館蔵)で、これらの主題の選択にもピュヴィスの芸術観がよく表れている。画面の天馬は人間の想像力の働きを、花を摘む少年は美への感受性を暗示しているのだろう。象徴性と装飾性を見事に統一した明澄な造形の詩がここにある。1866年のサロン出品作品。
(点訳者による絵の説明)
 画面に向かって左に少女、右に天馬。左側の少女は裸体で、腰のあたりにだけ青い布がかかっている。彼女は背中を向けて座り、右肩のほうを向き、蔓草を持った右手を頭くらいの高さまで上へ伸ばしている。蔓草は画面の中央あたりで少女の手からさらに上に向かって鞭のように伸びている。
 右側の白い天馬は、翼を広げ、画面右側に向かって駆け出そうとするかのように右足を上げているが、首は左へ振り向くようにそらせて、少女の持つ蔓草のほうに鼻先を向けている。
 少女の右足の足元(天馬の下手前)には、幼い少年が正面を向いて裸で座っている。少年は、右腕を地面に伸ばして一輪の白い花の茎を指でつまみ、左手で花の首飾りを持っている。短い金色の髪をした少年の顔は、一輪の花のほうに向けられ、無心に見つめているようだ。
 
 *点訳者が画集などの絵を説明する時のポイント:原本の解説文では、絵の背景的な説明や画家についての説明が主になって、絵そのものの構成などについて直接説明していることは少ない。まずできるだけ簡潔に絵の全体的な構図を説明する。その後で各部分の説明をする。原本の解説文で言及されている絵の特徴や構成要素(この解説文では「天馬」と「少年」)については、たとえ周辺的なことのように思えても、点訳者の説明文でもできるだけ触れるようにし、原本の解説文と点訳者の説明文に矛盾がないようにする。点訳者の説明は点字1ページくらい(300字程度)までにおさめるようにする。
 
 
§3 図やグラフの描き方
 
§3.1 触って分かりやすい触図とは?
●大きさ
 一般的には、細かい所も触って分かるように拡大して触図化する。
 ただし、図が大きくなればなるほど、触って全体を理解するのに時間がかかる。
 単純な図は、手のひらくらい前後の大きさで良い。
 
●方向
 効率よく触図を理解するには両手指を使うのが良い。
 ・両手指を使った触図の見方には、左右対称の図がもっとも分かりやすい。
 例:直方体の展開図は、縦長の左右対称の形がもっとも適している(教科書などでは横長の展開図が多い)。蝶など昆虫は頭を上にした、左右対称になった描き方が分かりやすい。
 *地図では、東西南北と左右上下の方向が一致しているほうが分かりやすい(メルカトル図法)。 (最近の地理などの教科書では、例えば東京など、ある地点を中心とした正距方位図法がよく用いられる。)
 
●配置
 点字でも触図でも、上から下へ、左から右へ、順番に触ることが多い。
 ・そういう指の動きも考慮して、説明文や図の配置を考える。
 ・重要なものほど、初めに(上または左に)。 (例外もあるが)
 
●情報は必要最小限に
 原図に描かれていることをそのまま忠実に触図化する必要はない。 (そのまま触図化しても分からないことが多い)
 原図が特に伝えようとしている内容を精選して、それを触図化し、さらに必要なら説明文で補足するようにする。
  ・付属的・周辺的なことについては、無理に伝えようとしなくても良い。(必要なら説明文を加えればよい。)
 
【注意】
 触図製作者は、原図を見ながら触図を見ている。読み手は触図だけを見ている。
 ・製作者も、原図を見ないで、触図(および説明文)だけを見てどの程度分かるだろうかをチェックしてほしい。また、製作者もできれば実際に触図を触ってみて、その分かりやすさ・分かりにくさを確認してほしい。
 
§3.2 分かりやすい点図の要件
●点の種類の違い
 点の大きさ・高さの違いにより、点の種類をはっきり触り分けられる
 *エーデルでは、点の大きさについて、小・中・大の3種の点があるが、触ってはっきり区別できるのは、小と中、または小と大の点で、中と大の点の区別は(打出しの状態にもよるが)かなり難しいことが多い。また、点の高さの違いはエーデルではコントロールできない(プリンタ任せ)。本来は、小さな点ほど高さも低く、大きな点ほど高さも高いのが望ましいが、エーデルでは小の点は高く(それだけ刺激が強い)打出されるのに、大の点の高さはそれほど高くならず、それだけ点の種類の違いが際立たない。
 
●線種の違い
 実線、点線、破線等。さらに、実線・点線・破線等についても、いくつかの種類を使い分けられる。
  *ただし、一つの図で使う線種は 3、4種くらいまでにしたほうが良い。線が交差していなければ、数本の線に同じ線種を使っても多くの場合十分に区別できる。
 
●輪郭がしっかりたどれるか
 @点が一定の間隔で連続していることが必要
  *エーデルでは、急激にカーブする所では点間隔が広がってしまう。また斜め線は、しばしばぎざぎざになってしまうことがある。
 A輪郭線を貫いて何本も引出線があると、全体の輪郭がたどりにくくなる。触図では、このような引出線はできるだけ避けるように工夫する。
 
●図要素とそれに添えられている点字がしっかり区別でき、また対応が分かりやすいか
 図要素と点字の間には、最低1点以上の空白が必要。ただし両者が離れすぎると、対応がよく分からなくなることがある。
 
 
§3.3 触図化する時のポイント
 原図が少し複雑になると、原図をそのまま点図化しただけでは、触覚ではほとんど判別できないことが多い。
 
●精選と単純化
 ・図の意味を理解するのにたいして関係ない部分は、思い切って簡略化したり、省略する
  *多くの場合、グラフの縦軸は左側だけ、横軸は下側だけとし、右側と上側の軸は省略して良い。また、地図など、図全体が枠で囲まれている場合、その外枠は多くの場合省略して良い。(そのほうが、図中に点字を入れやすい。)
 ・輪郭の細かい部分は、必要なければ、省略し滑らかにする
 *あまり重要でなければ、そのような細かい変化は簡略化して滑らかな線で表したほうが良い。
 (参考図) 伊勢湾の海岸線の図。上は小点の点間隔3で、できるだけ正確に描いている。下は中点の5で、大まかに描いている。小点でいくら正確に描いても触ってはほとんど識別不可能。中点で描くと、触ってはっきり湾だと分かるのはせいぜい3〜4mmくらいまで。
 
●典型的であること
 ・似たような図・写真がいくつかある時もっとも特徴がはっきりしている典型的な物を触図化する
 ・その物の特徴がもっともよく表われるような方向から見た図を描く(対称、とくに左右対称の形が分かりやすい。また、例えば昆虫について足の様子までしっかり表現したければ、腹側から見た図にすると良い。)
 
●特徴的であること
 ・他の物との違いがよくわかるような特徴を触ってはっきり分かるようにする
 
●クリアであること
 ・輪郭線、領域の境界、点字と図の線や点などが、触ってはっきり識別できるようにする
 
●予測しながら図を触れるようにする
 ・図を触る前に、その図が何の図なのか、どの方向から見た図か、全体のどの部分を表わした図なのかなどについて、できるだけ言葉で説明するようにする(図のタイトルあるいは本文にそのようなことが書いてあれば良いが、書いていない場合は点訳者注で説明する)
  (例:3つの円が一部重ねて描かれている図では、何の説明もなしに触ると、たとえ線種を変えていても、それぞれの円をたどるのはかなり難しい。「同じ大きさの円3つが一部重なって描かれている図」などと点訳者注があると、予想しながら安心してそれぞれの円をたどることができる。)
 
●必要に応じて、原図には書かれていない言葉、描かれていない(見えていない)部分を補う
 言葉の例:例えば地図で、地名が書かれていなくても見てすぐどの地域か分かるような場合、しばしば触っては分かるのに時間がかかることが多いので、手掛りとなるような地名(海洋・大陸・国名など)を入れたほうが良い場合がある。
 描かれていない(あるいは見えていない)部分の例:
  @地図で海岸線が少しだけ描かれている場合、それがどこの海岸線なのか分かりにくいので、もっと範囲をひろげて海岸線を伸ばして描く。
  Aコイルのように螺旋系に巻いている図や、立体を見取図で示すような場合、見えていない向こう側の線まで触ってたどれるようにすると分かりやすくなることがある
  B理科の実験装置などの図で、例えば管は、途中のコルク線などに遮られずに全部つながってたどれるようにする
 
●触図では一つの図として描くのが難しい場合
 次のように数個の図に分けて触図化すると良い。(その場合は、原図を触図ではどのように分割し配置してあるのかを点訳者注ではっきり説明するようにする。)
 @全体図と、その中の一部の拡大図
 A上から見た図と断面図など、異なった方向から見た図
 Bエネルギーの流れと物質の循環、地勢図と行政図といったように、視点別に分けた図
 C各部分ごとに分割した図
 Dとくに絵画では、まずその絵の中心的な要素あるいは触って分かりやすい要素のみを描いた図版を提示し、それに順次他の構成要素を重ね描いた図版、そして最後に全体の図版を示す手法が有効なこともある。
  例:ゴッホの「ひまわり」(立体コピー3枚構成)、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」(立体コピー4枚構成)
 
 
§3.4  グラフ
 
●グラフの軸
 多くの場合(グラフの左右の縦軸および上下の横軸がそれぞれ同じ意味の時)、グラフの縦軸は左側だけ、横軸は下側だけとし、右側と上側の軸は省略して良い。
 【補足】雨温図などのように左の軸と右の軸が異なっている場合は、もちろん左右の軸を入れる。また、HR図のように図全体の中での相対的な位置が重要な場合は、右や上の軸も入れたほうが相対的な位置が分かりやすくなる。
  [雨温図: 左の軸に降水量を、右の軸に気温をとり、各月の降水量を棒グラフで、各月の平均気温を折れ線グラフで示したもの。
   HR図: 縦軸に恒星の明るさを、横軸に表面温度をとって、個々の恒星がその図表上でどの位置にくるかをプロットしたもの。]
 
 グラフの縦軸・横軸の目盛は、軸の外側に付ける。(縦軸の各目盛に付ける数値などは、最後のマスを揃えるようにする。)
 
●2本以上の線が交差して分かりにくい時
 @線の種類を変える
 A交差する所で、どちらかの線を空白にして、もう一方の線をスムーズにたどれるようにする
 B線の両端にその線を示す言葉を入れる
 (各線が交差しない時は、同じ線種を使っても良い。)
 
●グラフの線が多い時
 グラフの線の数が多い時は、できるだけグラフの線が交差しないような組み合わせにして、2枚以上の図に分けても良い。
 (ただし、本文の理解を妨げないように、また問題集では問題を解くのに支障がないように、その分け方には十分注意する)。
 
●2本以上の線が部分的にほとんど重なり合っている時
 @縦または横に拡大(1.5倍くらいまで)して、各線を触覚で区別できるようにする
 Aどれか1つの線を優先し、必要があれば点訳者注でどの線がどの範囲で重なっているかを説明する
 
 
§3.5 立体図
 斜めから見た投影図や見取図はできるだけ避け、上から見た図、前から見た図、横から見た図、断面図、展開図、またはそれらの組み合わせで示すようにする。
  (参考図) 電力の大きさと発熱の関係を調べる実験装置の図
 
 数学では平面図と立面図で示すのが良い(この場合、平面図と立面図で対応する点を補助線で結ぶとより分かりやすくなる)。
 理科では横断面と縦断面で示すと分かりやすい場合がある(例えば茎の構造など)。
 絵画でも、水平方向と垂直方向の境目で直角に折り曲げて触るようにすると、理解しやすくなることがある。
 
【参考】
 1. 直接触った感じにもっとも近いのは展開図的な表現である。低学年ではできるだけ展開図も示し、実際にいろいろな展開図から立体を組み立てる経験を積むのが望ましい。
 2. 立体的に描かれている図を、横から見た図と上から見た図などのセットで理解できるようになるためには、頭の中で空間的に図を組み立てイメージする力が必要になる。このような方法で立体物を理解できるようになるのは、少なくとも小学高学年以上。具体的な物を触図化する場合は、その物の特徴がもっともよく現われる方向から見田図(例えば、昆虫ならば真上から見た図、四足動物なら真横から見た図)として描くと良い。
 3. 見取図を触って分かりやすく表現するには、見取図で示されている各面(例えば直方体では上面・手前の面・右の面の3面)を平面に広げた展開図として示すと良い。(そうすることで、角度や長さの割合が実物と違わなくなり、とても理解しやすい。)
  *見取図とはどんなものなのかを知識として知らせるために、簡単な見取図については原図通りそのまま点図化しても良い。また、見取図で示したほうがその図でとくに知らせたい内容をより正確に伝えられたり、あるいは問題を解くためには見取図のほうが適している場合もある。
   例: 縦、横、高さがそれぞれ a糎、b糎、c糎の直方体のすべての辺の長さの和はいくらか。 (このような問題に付ける図としては、展開図などよりも見取図のほうが適している)
 
※一般には、触図では斜めから見た投影図や透視図のままではほとんど分からないとされている。ただし、投影図法・透視図法の意味をよく理解し、また触経験を積むことにより、簡単な図では投影図・透視図のままでも分かるようになる。(見取り図などについても同様のことが言える。)
 
 
§3.6 図の注の書き方について
 注はできるだけ実際の図の前にまとめる。
 順序は、原本の注、点訳者の注(必要に応じて、図の位置や見方、図の概略、図で省略した部分や大幅に手を加えた所など)、略記や凡例等。
  (出典については、原図で図の下に書かれている場合、触図でもとくに位置を変えずにそのまま図の下に書いても良いが、スペースに余裕がなければ図の前に移動しても良い。)
 原本の注と点訳者の注を分けずにうまく組み合せたほうが分かりやすくなることもある。
※とくに図の見方や概略をうまく説明できれば、読み手はそれに従って図を見ることができるので、安心して効率よく図を理解できる。
 
●略記・凡例
 ・一般の略記は点字2マス以上が良い。
  略記としては、実際の言葉の語頭の文字など、記憶・想起しやすいものが望ましい。(安易にアルファベット順や数字順の略記を多用しないほうが良い。)
 ・図記号による凡例はできるだけ少なく(4、5種程度まで)。
  (一般に、図記号による凡例よりも、それを示す文字ないしその略記を使用したほうが望ましい。)
 
●略記の説明の仕方について
 @数が少ない時(10個以内)は、図で触るであろう順番(上から下、左から右)に
 A数が多い時は、五十音順やアルファベット順に
 B略記の種類をいくつかに分類し、その小分類ごとに説明する (そのほうが、理解しやすいし、記憶にも残りやすい)
 
※図中における略記等の文字の位置は、図記号の上ないし左側が原則 (余裕のない時は、下あるいは右側でも良い。)
 
 
§4 おわりに
 見えない人たちも、触覚を通して、実際に触れた物だけでなく、実際には触れられないような世界、見えないような世界についてまで、イメージをもつことができる。
 見える人たちも、実際に触って、触覚を通して体験できる世界、多様な感覚でとらえられる世界を楽しんでほしい。
 触図についても、実際に触ってみて、どの程度分かりやすい図なのか、制作者自身でも確かめられるようになってほしい。
 触図は、図だけで考えるのではなく、その説明文とセットで考え提供するようにしてほしい。
 
 
[以下の資料は、希望者のみに配布したものです。]
[資料] エーデルを使った作図法の目安―点種と点間隔を中心に―
 
 エーデルの点の種類は、小、中、大の3種。各点の大きさ(基部の直径)は、小が 0.7mm、中が 1.5mm、大が 1.7mm。各点の高さはエーデルではコントロールできない。
 点の間隔は、小が3〜20、中が4〜21、大が5〜22で、各点につき18通り。 (初期設定は、小点が6、中点が 7、大点が 8。適宜変更して使わなければならない。3ドットで約 1mm。点字1マス分は15ドット)
 
【補足】
 このほかに、「補」という点種(点間隔は 6〜23)が用意されている。これは画面にだけ現われ、印刷はされない。実際の点図を描く時の補助的な線として使ったり、回転や移動・複写などを行うさいの基準点・基準線として使うなど、有効に活用してほしい。
 厚い用紙を使って打ち出したほうが、小・中・大の点の区別がしやすいことが多い。
 
【注意】以下に示す〈目安〉は、エーデルの特徴と、私がこれまでエーデルもふくめいろいろな種類の多くの点図を触ってきた経験とを考え合せて提案するものです。個人的な好みや私自身の触知の特徴もかなり反映しているはずですので、この目安は参考程度のものとして活用していただければと思います。
 
 (参考図) 線種のサンプル
 
1 実線
●小点
 縦・横の直線、斜め線、滑らかな曲線: 点間隔 5
 カーブのはげしい曲線や折れ線: 点間隔 4
 (入り組んだ海岸線、生物体の複雑な部分などには、一部、点間隔 3を使っても良い。)
 引出線: 点間隔 7または8
 グラフの格子線: 点間隔 7、または 3
【注意】
 1. グラフの格子線は、数学の座標平面を示す方眼などを除き、ふつうはグラフ上の特定の点の数値を読み取るために必要な特定の限られた線だけにしたほうが良い。また、小点で格子点だけを示す方法もある。
 2. グラフの数本の線とともに、数値の読み取りのために格子線をすべて入れたほうが良い場合は、格子線を裏に出した点(中点で点間隔 7)で示すのが良い。それが難しい場合は、点間隔 3または 7の格子線を使っても良い(グラフの線が目立つように格子線を点筆の背などで軽く消して弱めると、触知しやすくなる)。
 
●中点
 縦・横の直線、斜め線、滑らかな曲線: 点間隔 6
 カーブのはげしい曲線や折れ線:点間隔 5
【補足】
 1. 主要な輪郭線には、中点の実線がもっとも普通。ただし、図中で数種の線種が使われている場合、図中での重要度や触覚による判別のしやすさなどを考慮して、小点(ときには大点)を使ったほうが良い場合もある。
 2. グラフの縦・横軸は、普通は中点(点間隔 7)の実線を使う。ただし、中点の実線をふくめグラフの線が数本あるような図では、グラフの軸を小点(点間隔 6)の実線にしたほうが良いこともある(とくに中点の実線がグラフの軸とほとんど平行で区別しにくいような場合)。
 3.グラフの軸に付ける目盛は軸の外側にする。グラフの軸が小点の時も、目盛点は中点にしたほうが良い。
 
●大点
 縦・横の直線: 点間隔 8 (棒グラフの棒に使っても良い)
 斜め線・滑らかな曲線: 点間隔 7
 【注意】カーブのはげしい曲線や折れ線に大点の実線や点線を多用するのは避けたほうが良い。
 
【注意】実線の点間隔が非常に狭いと(小の 3、中の 4、大の 5、6)、隣り合う点が緩衝し合って全体として触刺激の弱い線になることが多い。この現象はとくに大点の場合に顕著で、中点と大点の区別が極めて困難になる。
 
2 点線
●小点
 縦・横の直線: 点間隔 11
 斜め線・滑らかな曲線: 点間隔 10
 はげしく変化する曲線・折れ線: 点間隔 9
 
●中点
 縦・横の直線: 点間隔 12
 斜め線・滑らかな曲線: 点間隔 11
 はげしく変化する曲線・折れ線: 点間隔 10
 
●大点
 縦・横の直線: 点間隔 14
 斜め線・滑らかな曲線: 点間隔 12
 
【注意】
 1. 点線中の急激に変化する部分は、点間が大きく空くことがあるので、その間は点間隔を 2くらい狭くして描くか、フリーハンドで1点ずつ点を入れて、きれいに点線をたどれるようにする。
 2. 点線の場合、始点と終点の距離が短くなるほど、同じ点間隔を指定しても、実際の点間がしばしば広くなることがある。
  *図の凡例で点線を示す時は、点線の長さが短いと、その点間隔が実際の図中の点線での点間隔より広くなってしまうので、凡例中での点線は 2cm以上(4、5マス分以上)の長さがあったほうが良い。
 
【補足】立体的に図を表す時、見えている部分は実線で、見えていない部分は点線で示している。また、小点の点線は図中の補助的な線にも使っている。
 
【注意】
 線の種類をしっかり区別する必要がある場合は、
中点の実線と大点の実線
中点の点線と大点の点線
の組み合せはできるだけ使わないようにする。
 
3 破線
 (エーデルでは 3種の破線が用意されているが、実際に使うのは 2点置きに 1点切るのみの破線だけにしたほうが良い。)
小点: 点間隔 5
中点: 点間隔 6
大点: 点間隔 8
【注意】破線では一般に、複雑な曲線や急なカーブは描くのは難しい。小点の破線は、図中の補助的な線や、範囲を示す引出し線に使ってもよい。中点や大点の破線は、グラフの複数の線をどうしても識別しなければならない時や、鉄道路線や道路などに限ったほうが良い。
 
4 二重線(太線)
小点: 点間隔 5、幅 5(または6)
中点: 点間隔 6、幅 6(または7)
大点: 点間隔 8、幅 8
【注意】幅をこれ以下にすると、画面上ではきれいな二重線として描かれていても、打ち出されると二重線にはならず一本線に近くなっていることがよくある。
【補足】小点の二重線は構造式中の二重結合などに使う。また中点や大点の二重線は、棒グラフの棒、山脈、太矢印などに使っても良い。
 
5 矢印
 矢印の先の3角部分(矢羽部分)は、矢印の線が実線・点線いずれの場合も、実線にする。そして、矢印の先端の頂点をふくめ、両側に最低 3点は必要。矢印先端の頂点の角度は90度が望ましい。
 また、矢印の先端の頂点の手前は 1点(ないし2点)分空白にする。
 実線の途中に矢印が入り込んでいる場合も、矢印の頂点の前後をそれぞれ 1点(ないし 2点)分ずつ空白にする。
 矢印の線が小点の実線または点線の時、矢印の先の3角部分だけを中点に変えると、矢印がより見やすくなる。
 
6 面記号
 面記号にはふつう小点を使う。
 面の違いを示すために、エーデルでは領域を塗りつぶすペイントの記号として15種が用意されている。この内、範囲がある程度広い領域(縦・横とも1〜2cm以上)には、次の5種を優先して使うと良い。
べた塗り(密と粗)
縦線(粗)
横線(粗)
右上がり斜線(粗)
右下がり斜線(粗)
 また面記号として、正方格子を点間隔を変えて(例えば、 6、12、18の3種など)使っても良い。(触読上は、各種のペイントを使うより正方格子のほうが見やすくなることも多い。)
 海など広い領域については、裏に出した点(中点)を用いても良い。
 面の範囲が狭い場合には、べた塗り(密)を用いると良い。
 とくに理科の図で、液体の範囲を示すのには、ペイントの−(横3点)を使っても良い。
 地層などのように、幅が数ミリくらいの細長い部分には、(ペイントではなく)中点や大点を適宜並べても良い。
【注意】一つの図で面記号は 3、4種類くらいまでに限ったほうが良い。それ以上になると、触読で区別するのはかなり困難になる。
 
●面記号と境界線
 複数の面記号が直接接していると、各面の輪郭をたどりにくく、面の境界が不明瞭になる。できるだけ面の境界線を中点(ときには大点)の実線で描くようにし、さらに境界線と面記号の間にわずかに空白部を置くようにすると、触読しやすい図になる。
【補足】小点の面記号はしばしば触刺激としてかなり強く感じるので、そのようなときは面記号全体を軽く消したほうが触読しやすい図になる。
 
●面記号を使わない方法
 面が広い場合には、面記号を使わずに境界線だけを示し、各面の示す内容を言葉で書き入れても良い。
 面記号の種類が多い場合にも、同様に境界線だけを示し、各面記号を例えば「a、b、c…」「1、2、3…」などの略記で示しても良い。
 また、地層の分布や作物の分布などの図では、それぞれ該当する言葉の頭文字を1字採ってその文字を複数個並べても良い。
 *触読上は、面記号による区別よりも、境界線だけにして直接言葉を書き入れたほうが便利なことが多い。
 
7 文字と図記号の距離
 文字と図の線や点などとの間は、ふつう中点 2点分くらいスペースを置く。(最低でも中点 1点分のスペースは必要。とくに、 5、6マス以上の文字列と図の線が平行になっている時は、最低でも中点 1点半分以上のスペースを置くようにする。)
 枠の中に文字を入れる時は、上下左右とも最低中点 1点半以上スペースを入れるようにする。また枠線としては中点よりも小点を使ったほうが、中の文字が読みやすくなる。
【補足】原図で枠囲みなどで強調されている言葉を、枠を使わず、「 」等の中に入れて示す方法もある。
 
8 線の交差のさせ方
 実線どうしの交差によって線がたどりにくくなりそうな場合は、どちらかの線を優先し(ふつうは、小点よりも中点、中点よりも大点を優先、あるいは、変化が少なくてたどりやすいほうの線を優先)、もう一方の線を 3点ないし 4点分(20〜30ドットくらい)切って、その空白部を通すようにする。2本の線が鋭角に交わるほど、空白部を広くしたほうが良い。
 線種が異なっており、交差部を越えて各線をなめらかにたどり得る場合は、とくに空白部をもうけなくても良い。
 点線と点線、または点線と実線が交差する時は、できるだけ交点を共通にすると見やすい図になる(交点を各線の始点または終点にすれば良い)。
【補足】
 1. 1点で数本の線が交わったり、 1点に数本の線が集中している時は、その点の回りの密集している点を適宜間引いたほうが良い。
 2. 交わる各線にA、B、…等の記号が付いている時は、各線の両端にその記号を付すと分かりやすい。
 
9 裏面用のデータの作り方
 エーデルで裏に出した線や点を使うには、表面用のデータと裏面用のデータを作らなければならない。打ち出す時は、裏面用のデータから始めたほうが良い。
@表面用のデータを作製する。
A表面用のデータに、裏に出す線や点を補線・補点としていれる。(表面用のデータのグラフや文字と重なる部分は、消しておく。)
B裏に出す補線・補点以外を消して、縦の中心線を基準にして、それを左右対称移動させる。
C補線・補点を、実際に打出される点種(ふつうは中点。大点にしても良い)に変える。そしてそれを裏面用データとして保存する。(裏面用データを小点にすると、表から触ってほとんど分からなくなる。)
※裏面用のデータを、表面用のデータと重ならずずれないようにうまく打ち出すには、プリンターまたはデータファイルの調節が必要
 プリンターであわせる時: 用紙のとめ位置をかえる。
 データファイルであわせる時: 左右対称移動させる時に中心位置をプリンターに合わせて変える。
【補足】裏に出した点や線は、表から触って微かに分かる程度。裏に出した点は、海など広い領域を表すのに適している。裏に出した線の使用は、グラフの格子線、経線や緯線など、単純な線に限ったほうが良い。
 
10 その他
●線上の点
 実線・点線の途中にある特定の点は、大点で示す。そしてその大点の前後にそれぞれ1点分ずつくらいの空白をもうける。
 【補足】大点を触ってより分かりやすいように、最大点用の加点器(市販されてはいない。箸の先などを使って手作業でもできる)を使って、より大きな点にしても良い。
 
●1本の連続した線上で点種を変える時
 例えば、同じ線上の途上で、中点の実線から小点の実線に変化させたい時は、変化する所で、1点分くらい空白を入れる。
 
●拡大や点種変更の際の注意
 エーデルでは簡単に図を拡大・縮小できるが、一部の場合を除き、点間隔もそのまま拡大・縮小される。拡大・縮小が ±0.1くらいの割合だと点間隔をそのままにしておいて良いが、それ以上だと点間隔を補正したほうが良い。 (拡大・縮小する時に補点に変え、それから元の点種・点間隔で描き直さなければならない。)
 また点種の変更も簡単にできるが、それぞれの点種に応じた適切な点間隔に直したほうが良い。(この場合も、いったん補点に代え、それから適切な点間隔でなぞらなければならない。)
 【補足】拡大・縮小は、縦・横別々に 0.01倍刻みのスケールで細かくできるので、@B5版に図全体がうまく収まるように大きさを調整する、A数本のグラフの線が込み合って分かりにくそうな場合に例えば縦方向だけに拡大する(ただし、拡大率は 1.5倍以内にしたほうが良い)、B図記号の間に点字がうまく入るように調整する、などいろいろと活用できる。
 
●正確な図を描くために
 とくに理科や数学の図では、作画コマンドの中の平行・対称・回転(いずれも複写と移動)機能や、放物線・サインカーブなどの曲線をうまく使うと、正確できれいな図が描ける。
 【注意】回転は、角度に合わせて正確にできるが、元の図をそのまま回転させると点が乱れることが多いので、まず補点で回転を行い、それから指定の点種で描くのが良い。
 
 ・グリッド機能の利用
  グリッド機能を ON にすると、画面上に正確な格子状のメモリが表われ、点がそこにしか打てなくなる。グリッドの間隔 は 3〜45までで調節できる。(グリッドの表示を目印としてだけ利用し、自由に曲線を描きたい場合は、「グリッド表示のみ」にすればよい。)これにより、縦・横の点がきれいに並び、また左右対称の図などを正確に描ける。
 
●その他の便利な機能
Backspaceキー: 取り消し
 例: 斜線を描いた後に、このキーを押すと斜線が消える
 (Shift + Backspace キーで、直前に取り消した図形が復活します)
 
右クリック: 確定前のときは、右クリックで直前の操作がキャンセルされ、一つ前の操作手順に戻ってやり直すことができる。(何回もさかのぼってやり直すことができる。)
 
Ctrlキー: 前の操作の始点を始点に指定できる
 例: 斜線を描いた後に、このキーを押すと斜線の始点から続けて斜線が引ける。同心円がきれいに描ける。
 例: 折れ線や連続曲線を使っているとき、最後にこのキーを押すと図形が閉じる
 
Shiftキー: 前の操作の終点を始点に指定できる
 例: 斜線を描いた後に、このキーを押すと斜線の終点から続けて斜線が引ける
 
ファイルの参照・合成 (メニューバーの[ファイル] → [EDLファイルの参照・合成])
 別のエーデルファイルの図を表示し、それを参考にして作図したり、その図内の指定する領域を作図領域に複写することができる。
 
下絵の利用
 画像データを作図領域に背景(下絵)として表示し、その上で自由に作図操作ができる。
 
《参考》
エーデルをはじめよう! −Web編−  
(2013年8月14日)