第26回 専門点訳講習会  「試験問題(中学用)コース」

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 7月4日から9月5日まで、ほぼ隔週で全5回、標記の講習会を担当しました。(8月1日の第3回は、大阪府立視覚支援学校の国語担当の田中和子先生の講演でしたので、私が担当したのは実質4回でした。)
 以下に、第1回目に配布した資料を掲載します(一部、加筆修正しています)。
 
◆講習会の内容
 主に、高校入試問題、中学の中間・期末試験などの校内試験の問題の点訳の仕方について、全般的な注意点や、各教科ごとの注意点をまとめました。
 当初は問題集や参考書の点訳についても扱うつもりでしたが、今回は時間も足りなくてできません。試験問題の点訳の仕方で参考になる部分を生かしてもらえればと思います。
 
[参考資料]
 『試験問題の点字表記 第2版』(日本点字委員会 発行)
 *おとくに点訳サークルからは、京都府の高校入試の試験問題の原本と点字問題を提供していただきました。また、2人の点訳者に、できる限り原本のレイアウト等が分かるように、5教科(数・国・社・理・英)それぞれ2種ずつ、計10種の模擬試験問題を点訳してもらいました。ご協力に感謝いたします。
  これら10種の模擬試験問題を点訳課題として、各受講者に 1つないし複数を選んで点訳してもらい、それにたいして私がコメントを書くようにしました。
 
1 各教科に共通の注意事項
 
◆問題の書き方の形式
@ふつうは、大問ごとにページを改める。大問番号はふつうは4マス下げ(6マス下げあるいは2マス下げでも良いことがある)。
 (各大問が、いずれも点字1ページ以下で短い時は、追い込んでも良い。)
 
A各大問は、ふつうは、問題の指示文、問題文、設問、選択肢の順とし、それぞれの間は 1行空けにする。(問題の指示文はかならず最初にする。)
 ※問題文が長文の場合は、設問の前でページ換えしたほうが良い。(その場合は、問題の指示文の最後に、設問の始まるページを記したほうが良い。)
 ※設問文と選択肢の間はふつうは1行空けにするが、設問文が短い場合や、小問の場合は、選択肢との間の行飛びは省いても良い。
 ※選択肢が問題文中や設問中に組込まれている場合は、選択肢全体を括弧などで囲み、各選択肢を 2マス空けで記す(あるいは、読点で並置する)。
  (そのさい、選択肢番号が行末になる時は、選択肢番号から強制改行する。)
 
B番号や記号などの扱い
 番号や記号の書き方は原問題にできるだけ合せたほうが良いが、読み取りの時に混乱が生じないように、ピリオドや括弧類を付けたりして、はっきり区別できるようにする。
 ア、イ、ウ、エ、…、い、ろ、は、…など、カナ書きのものには、かならずピリオドや括弧を付けなければならない。
 
C区切り線や囲み枠
 大問と大問の間に実線(25の連続)、設問と設問の間(選択肢の終わりと次の設問の間)に点線(2の点の連続)の区切り線を入れても良い。また、全問題の最後に二重線(2356の全マスの線)を書いても良い。
 問題文中や設問の中に、資料類や表や図がある場合は、それらを枠囲みにしたほうが良い。(ただし、資料類や表や図が、ちょうどうまく1ページに収まる場合は、むりに枠囲みにしなくてよい。)
 
 
◆字数について
@解答者が自らの考えやコメントを書くような設問では、原問の字数の後に、点字に換算したマス数を括弧書きで付け加える。(マス数が多い場合は、行数に換算して記しても良い。)
 換算の仕方:墨字の字数の1.7倍くらいにし、端数は 5または10に切り上げる。(例えば、10字 → 20マス程度、20字 → 35マス程度)
  *同じ字数でも、解答文中で使われる漢字と仮名の割合によって、点字にした時のマス数は変ってくる。仮名書きの部分が多いと予想される場合は、点字のマス数をやや少な目(1.6倍程度)にしても良い。
 行数の示し方:(32マスの点字板を使う場合) 27、8マスで1行と計算する。墨字100字は 7行程度(仮名書きの部分が多いと予想される場合は、6行程度にしても良い)。
 
A問題文中から特定の語句を抜き出して解答させるなど、正解が一つに決まっている設問では、正解を確認してそれを点字にした時のマス数をかぞえ、墨字の字数の後に括弧書きで加える。
 正解が確認できない場合は、できれば出題者に点字の分かち書きの仕方などについて簡単に説明して点字にした時のマス数をかぞえてもらう。(やむを得ない場合は、墨字でカナ書きにした時の字数でも良い。)
 *墨字のカナ文字数と、点字の字数およびマス数が異なることがあるので注意
  濁音や半濁音は、墨字では 1字、点字では 1字で2マス。きゃ・きゅ・きょ・ぎゃ・ぎゅ・ぎょなどの拗音や拗濁音は、墨字では 2字、点字では 1字で2マス。
 
B「最初と最後の○字を記せ」というような設問では、「最初と最後のそれぞれ2文節を記せ」などと書き換える。
 
C「漢字○字で記せ」というような設問では、「漢字○字に相当する語で記せ」などと書き換える。
 
D解答用紙の記入欄にあらかじめ字数分の罫が印刷されているような場合は、必要に応じて、括弧書きでその字数と点字に換算したマス数を書くようにする。
 
 
◆下線部などの扱い
 問題文中の下線部や棒線部などには、第3指示符を使う。
 下線部などに付いている番号や記号と第3指示符開きの間は、続けて書く。
 第3指示符開きとカギ括弧開き、あるいは第3指示符閉じとカギ括弧閉じが接する場合は、その間を1マス空ける。
 
 
◆点訳者注
 同音異義語で点字では誤読のおそれのある場合や、漢字を見れば簡単に意味が分かるのに点字ではなかなか意味が分かりにくいような場合には、点訳者による説明を補うようにする(出題者の了解を得たほうが良い)。
 例: 鉱業[「コー」ワ□コーザン] 薪炭[マキト□スミ] 薪水[マキト□ミズ] 底生生物[「テイ]ワ□ソコ]
 
 
◆検索のためのページと行の入れ方
 設問で、その前の長文の問題中の空欄や下線部などを再度確認する必要がある場合は、その空欄や下線部が始まるページと行を、
p■ l■、あるいは
p■ 下l■
のように、その設問の最後に付記するようにする。
 (行には空白行もふくまれる。また、行を下から数える場合は、実際に書かれている最終行を下1行目とする。なお、行を数える時は、ページ行は入れないで数える。)
 
 
◆注の書き方
 問題文中の注を示す記号には、注記符を使う。
 注記符はふつう、該当語句直後に続けて書く。ただし、原本で注の印が該当語句の直前に記されている場合は、最近は点字でも該当語句の直前に注記符を書いていることもある。
 各注の内容は、各ページごとに脚注にする場合と、問題文の最後にまとめて記す場合がある。
 
 
◆問題の指示文の書き換え
 原問題中の位置の指示や、解答の仕方についての記述などが、そのまま点訳したのでは不適切になるような場合は、点字の問題に合わせ、また点字で解答しやすいように適切な文章に変える。
 原問題 → 点字問題
 上の・下の、左の・右の → 前の・上の、次の・後の・下の・○○ページの[注]
  A群の語句と関係あるものをB群から選び、線で結びなさい → A群の語句と関係あるものをB群から選び、その記号を答えなさい。
 正しければ○を、誤まっていれば×を、それぞれ括弧内に書きなさい [各選択肢の後に○ ×書き入れるための括弧がある] →正しければ「まる」、誤っていれば「ばつ」とそれぞれ書きなさい [選択肢の後の括弧は省略]
 ……を漢字で書け → ……を書け
  [注] 参照ページが、当該ページの直後あるいは直前のページの場合は、○○ページと書くよりも、「次ページ」あるいは「前ページ」と書いたほうが良い。(そのほうが、ページ数をページ行でわざわざ確認しなくてよい。)
 
 *選択肢の数があらかじめ分かっていたほうが良いので、
  下から一つ選べ → 次の1.〜4.から一つ選べ
  などのように補足しても良い。
 *解答用紙あるいは解答欄に解答の仕方がよりはっきりと明記されているような場合は、必要に応じて、その解答の仕方も付記して点訳するようにする。
 
 
◆空欄類
 空欄として墨字では( )などが使われることもあるが、点字ではできるだけ空欄記号を用いるようにする。
 ・空欄を示す番号や記号は、かならず空欄記号の直前にマス空けせずに書く。
 ・空欄が複数あるのに番号や記号が付いていない場合は、点訳では番号や記号を付けるなどして、区別がつくようにする。
  (一般の問題集や参考書の点訳では、とくに番号や記号を付けなくて良い。)
 ・空欄の種類が2種類以上ある場合は、それぞれに番号・記号の種類を変えて付ける。
 ・空欄が1マスずつ数えられるようになっている場合は、「フ」1個の短い空欄記号を、その数だけ並べて書いても良い。
 ・空欄の長さを区別して表現したほうが良い場合には、「フ」の数を増しても良い(「フ」の数は4個、6個のように、2マス単位で増減させる)。
 
 
2 各教科ごとの注意事項
 
◆国語
●漢字問題
 漢字の書き取りや漢字の読みを問う問題は、代替問題を用意してもらうか、削除してもらう。
 削除する場合は、「問○ 漢字問題につき削除」などと明記し、その後の問題の番号は変更しない。
 *代替問題としては、その漢字を含む語の意味を選択肢から選ぶ問題や、その漢字を含む語を選ぶ問題などがある。
 
●古文での仮名遣い
 典型的な古文では、和語は歴史的仮名遣いで点訳する。
  *漢語は現代仮名遣いで点訳することになっているので、漢語に歴史的仮名遣いでルビが付されていても、点訳は現代仮名遣いでする。(「愛敬(アイギヤウ)」 → 「アイギョー」)
 とくに、「わいうえお」と「はひふへほ」、「い、え、お」と「ゐ、ゑ、を」の書き分けに注意。
 [参考資料:「和語の歴史的仮名遣い」  
●下線部を示す第3指示符の使い方
助詞や助動詞など文節の一部だけに下線などが付されている場合は、そのまま1文字だけを第3指示符で囲むと読みにくいので、文節全体を第3指示符で囲むようにする。そして、設問文の表現を適切に変更する。
  (例:「作るのは」の「の」だけに下線が付されている場合、点字では「作るのは」全体を第3指示符で囲み、設問文は、
     「作るのは」の「の」について……
     などのように書き変える。)
 
 
◆社会
●地図
 地図は、必要のない限り、略図のようにできるだけ簡略に表して良い。
  *ただし、答えを出すのに必要な要素(例えば、特定の経線や緯線、特定の都市や島など)はけっして省略しないように注意する。
 また、短時間で触って分かるように、1つの地図を、主題別や地域別などで数枚に分けても良い。
  *ただし、そのような分け方で問題を解くのに支障がないか十分に検討しなければならない。
 また、担当者の了解を得て、短時間にその地図がどの辺りを表しているのかを把握できるように、海洋名や大陸名などを書き入れても良い。
 
 *地図では、東西南北と左右上下の方向が一致しているほうが、触って分かりやすい(メルカトル図法)。しかし、最近の教科書では、例えば東京など、ある地点を中心とした正距方位図法がよく用いられる(その場合は、中心がどこなのかがはっきり分かるように配慮する)。
 
●同音の固有名詞の区別
 同音の国名や地名等について、文脈からだけでは区別がつかない時(とくに選択肢中に並んでいる時)は、その区別がつくように補うようにする。
 
 例:
 晋[ススムノ□シン]:中国の春秋時代の国名。また、三国時代と南北朝時代の間の王朝名。
 秦[ハタノ□シン]:春秋戦国時代の国名。戦国七雄の一国だったが、前221年始皇帝の時に天下を統一。
 新[アタラシイノ□シン]:西暦8年に王莽が前漢を滅ぼして建てた国
 清[キヨイノ□シン]
 *中学で出て来るのは、秦と清だけ。
 
 広州[コーワ□ヒロイ](現地読み:コワンチョウ。広東省)
 杭州(コーワ□クイ](現地読み:ハンチョウ。浙江省)
 膠州[コーワ□ニカワ](現地読み:チヤオチョウ。山東省)
 *最近は現地読みが記されていることが多いので、その場合は点訳者が補う必要はない。
 
 紅海(コーワ□ベニ](アフリカとアラビア半島の間)
 黄海[コーワ□キイロ](中国と朝鮮半島の間)
 
 紅巾の乱[コーワ□ベニ](元末、1351〜1366年)
 黄巾の乱[コーワ□キイロ](後漢末、2世紀末)
 *これは中学では出てこない。
 
●複数の読み方がある場合
 固有名詞や歴史用語で複数の読み方がされているものについては、一方の読みの後に括弧書きで他方の読みも入れるようにしたほうが良い。
 また、中国や朝鮮の固有名詞で現地読みのルビが付されている場合は、現地読みの後に漢字の音読みを括弧書きで入れたほうが良い。
 (出題者や担当者に、どちらの読みで点訳すれば良いのかを確認できる場合は、その読みだけで点訳して良い。)
 例:
 空也 → クーヤ(コーヤ)
 栄西 → エイサイ(ヨーサイ)
 土井晩翠 → ドイ(ツチイ)□バンスイ
 白村江の戦い → ハクスキノエ(ハクソンコー)ノ□タタカイ
 新羅 → シラギ(シンラ)
 
 浙江 → チョーチヤン(セッコー)
 山東 → シャントン(サントー)
 洛陽 → ルオヤン(ラクヨー)
 黄河 → ホワンホー(コーガ)
 長江 → チャンチヤン(チョーコー)
 袁世凱 → ユワン□シーカイ(エン□セイガイ)
 蒋介石 → チャン□チェシー(ショー□カイセキ)
 毛沢東 → マオ□ツォートン(モー□タクトー)
 孫文 → ソンブン(スンウェン)
 
 [参考資料]  ふたつ以上読み方のある地名・人名など(東京書籍 平成25年度発行  「新しい社会 歴史」)  
●仮名遣い
 歴史的資料も、ふつうは現代語と同様な仮名遣いで点訳する。
 
 
◆英語
●略字の使い方に注意
 @問題全体を、フルスペルで点訳するか、略字を使って点訳するか確認する。
 
 A略字を使う場合でも、とくに中学生に関しては、どの範囲までの略字を使って良いのかを確認する。(はっきりしない場合はフルスペルで点訳したほうが安全)
 
 B選択肢では、単独で次のような低下略語は使わない(単独の下がり文字は判読しにくいから)。
  be, by, enough, his, in, into, to, was, were (into は in だけを略す)
 * by, into, to の略字は、空欄記号や第三指示符などの前では使わない。
 
 C発音やアクセントの位置などを問う設問では、略字を使わず、フルスペルで書くようにする。
 
●英文中のアルファベットやカナで示された記号
 括弧に入れるか、ピリオドを付けるようにする。また、アルファベットの記号には、必ずレターサイン 56の点を付ける。
 
●第三指示符
 英文中の下線部などを示す第三指示符には、英文中用に変形されたものを用いる。
 
●語の一部に下線などが付されている場合
 ふつうは、その部分を括弧に入れて書く。
 p(oo)l c(oo)k sch(oo)l
 
●音節の区切り
 音節の区切りには、36の点を使う。
 ta-ble bea-ti-ful math-e-mat-ics
 (この場合は、フルスペルで書く。)
 
●語句の区切りを示す斜線
 並べ替えの問題や正しい語句を選ぶ問題に使われている斜線は、ふつうはコンマに置き換えて点訳する。
 
 
◆数学
●解答として、作図したりグラフを描いたりすることが求められる場合
 @どのようにして作図するかやどんなグラフになるのかを、言葉で説明して答えるような設問に変えてもらう。
 A選択肢として、いくつかの作図例やグラフを作り、その中から正解を選ぶような設問に変えてもらう。
 B場合によっては、その設問を省いてもらう。
 
●立体、とくに複雑な立体の体積や表面積、立体の切り口の形や面積を求める問題の場合
 見取図、立面図、平面図、断面図、展開図などの中で、もっとも問題となっている立体が分かりやすいような図、あるいは答えを出すのにもっとも役立ちそうな図を選ぶようにする。複数の図をセットにしても良い。そして、触図だけでは理解が難しいないし理解するのに時間がかかりそうな場合は、できるだけ、それがどんな立体なのかを(担当者の了解を得て)点訳者注で説明するようにする。可能ならば、簡単な立体模型を用意してもらうようにする。
 【例】 縦、横、高さがそれぞれ a糎、b糎、c糎の直方体のすべての辺の長さの和はいくらか。 (見取図、あるいは直方体の実物が良い)
 
●単位
 数学では、単位括弧は使っていない。
 
 
◆理科
●図について
 @図は、問題の内容をよく読み込んだうえで、できるだけ単純なものにし、言葉でも説明を補うようにする。
 A原図は斜め方向から見た図として描かれていることが多いが、問題でポイントになっている部分がとくによく表わされるような方向から見た図にして描くようにする。
 その他、一般に点図を描く時の注意事項も忘れないように。
  *試験管などにつながっている管は、たとえ栓がしてあって中が見えなくても、点図では管の中は空白にして、管をはじめから終りまでたどれるようにする。
 
 ※参考に付されているような図で、問題を解くのに支障がないようであれば、省略しても良い(担当者の了解を得たほうが良い)。
 
●解答として、図やグラフを描くことが求められる場合
 *数学の場合と同様
 
●解答用紙あるいは解答欄に単位が示されている場合
 問題文中に答えの単位が示されていなくて、解答用紙や解答欄に単位が示されている場合は、かならず問題文で単位を指示するようにする。
 
●単位括弧
 中学理科の範囲では、情報文化センターでは、主に「物質とエネルギー」の分野における組立単位(仕事や密度など)、および原本で単位括弧[ ]を使っている時に、点字でも単位括弧を使っている。その他では使っていない。
 *盲学校の中学理科の点字教科書では、今は単位括弧を使っていないので、試験問題の点訳ではとくに単位括弧は使わなくても良い。
 
(2013年9月15日)