和語の歴史的仮名遣い

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 11月初めから12月初めにかけて、全6回で、第24回専門点訳講習会「漢文コース」が開催されました。私は古文や漢文にはまったく疎いのですが、 3人の講師の 1人としてやむなくごく一部を担当することになりました(これが文字通りの名ばかり講師ですね)。
 第1回から第4回までは、音訳ボランティアのSさんの指導で、漢文の基礎、および実際の漢文(訓点や送り仮名は付いている)、および一部漢文(的表現)を含んだ江戸時代の古文書の読み方の練習をしました。私も受講者の1人として、漢点字を使って漢文をいっしょに読んでみました。できることなら、白文を少しでも読めるようにならないかなと思って参加したのですが、ある程度意味は理解できても白文を訓読するのは私にはとても無理であることを実感しました。
 その後、第5回と第6回で、第1〜4回で読んできた漢文を実際にどのように点訳すれば良いのか、主に点訳ボランティアのSさんが指導し、私がそれにちょっとコメントなどするというかたちで行いました。
 
 漢文の点訳の仕方としては、大きく分けて次の4つの方法があります。
@ごく普通の一般書で一部に漢文が引用されている場合は、まず漢文を書き下し文に直し、それを和語・漢語の別なく現代文に準じて点訳する。
A中学・高校の教科書および関連する問題集や参考書の場合は、漢文を書き下し文に直し、古文の点訳と同様に、和語は歴史的仮名遣いで、漢語は現代語に準じて点訳する。
B漢文学習の導入部や漢詩の構造を示したいときなど漢文の構造を正確に理解してほしい場合は、点字で特別に定められている訓点符号等を使って、原文の文字順に、各漢字に訓点や送り仮名等を付けてそのまま点訳する。
C原文が白文で、しかもどうしても書き下し文に直せない場合は、原文の順番通りに 1字ずつ各漢字を音読みしてマス空けして書く。(この方法では読み手にはほとんど意味が分からないので、できる限り避けて欲しい。)
 以上のうち講習会では主にAとBの点訳方法について、実際の点訳例も示しながら説明しました。この方法で難しいところは、和語と漢語を区別し、さらに和語のみ歴史的仮名遣いで点訳することです。
 そこで、まったくの素人ながら、ボランティアの方々の参考資料になるかと思い、以下の資料を作ってみました。これは、漢文の点訳だけでなく、古文の点訳にも役立つはずのものです。
 
 
和語の歴史的仮名遣い
 
●和語が仮名で表記されている場合は、原文の表記通り点訳する。
 あきうど(商人) むま(馬) もつて(以て) あらはす をかし あふれども あさましうて やうやう やうやく(漸く)
 〔注意〕 「やう」が「様」の意の時は、点訳では「ヨー」と表記することになっている。
     例:さやうに → サヨーニ 夢のやうなり → ユメノヨーナリ べきやう → ベキ□ヨー
 
●送り仮名がある場合は、原文の表記通り点訳する。
 例:思ふ(おもふ)、思へず(おもへず) 向ふ(むかふ)、向ひて(むかひて) 覚ゆ(おぼゆ)、覚えず(おぼえず) 老ゆ(おゆ)、老いたり(おいたり) 言ふ(いふ)、言はず(いはず) 給ふ(たまふ)、給うて(たまうて) 能ふ(あたふ)、能はざる(あたはざる) 与ふ(あたふ)、与ふる(あたふる) 出づ(いづ)、出ず(いでず) 食ふ(くふ、くらふ)
 
●現代仮名遣いで語中・語尾の「わ い う え お」は「は ひ ふ へ ほ」になることが多い。
 粟(あは)、粟(あは)、淡し(あはし)、岩(いは)、川(かは)、童(わらは)、謂れ(いはれ)、哀(あはれ)、戯(たはむれ)、偽(いつはり)、曰く(いはく)、即ち(すなはち)、傍(かたはら)、極む(きはむ)、齢(よはひ)、幸い(さいはひ)、禍(わざはひ)、夜半(よは)
 相(あひ)、間(あひだ、あひ)、飯(いひ)、貝(かひ)、甲斐(かひ)、杭(くひ)、恋(こひ)、鯉(こひ)、宵(よひ)、今宵(こよひ)、憂(うれひ)、終に・遂に(つひに)、思出(おもひで)、冀ふ(こひねがふ)、小さし(ちひさし)、縱(たとひ)
 夕(ゆふ)、夕顔(ゆふがほ)、陽炎(かげろふ)、蜻蛉(かげろふ)
 家(いへ)、上(うへ)、前(まへ)、古(いにしへ)、妙(たへ)、帰る(かへる)、一重・単(ひとへ)、偏に(ひとへに)、敢て(あへて)、以為(おもへらく)
 顔(かほ)、蟋蟀(こほろぎ)、尚(なほ)、頬(ほほ)、庵(いほり)、匂(にほひ)、郡(こほり)、氷(こほり)、凍る(こほる)、通る(とほる)、覆ふ(おほふ)、遠い(とほい)、大き(おほき)、大君(おほきみ)、多し(おほし)、直し(なほし)
 *現代仮名遣いと同じものもあります: 泡(あわ)、皺(しわ)、慌てる(あわてる)、弱い(よわい)、鰯(いわし)、騒ぐ(さわぐ)、座る(すわる)、撓む(たわむ)、断る(ことわる)、理(ことわり)、乾く・渇く(かわく)など

●現代仮名遣いの「い え お」が歴史的仮名遣いでは「ゐ ゑ を」になることがあります(とくに語頭・語尾の場合)
  *現代仮名遣いの「い え お」は、歴史的仮名遣いでは「ひ へ ほ」「ゐ ゑ を」「い え お」のいずれかになる。
 居る(ゐる)、率ゐる(ひきゐる)、率る(ゐる)、参る(まゐる)、用ゐる(もちゐる) (「参る」はラ行四段、それ以外はワ行上一段活用の動詞)
  *「用ふ」はハ行上二段活用で、この場合は、用ひ、用ふ、用ふる、用ふれと活用する。さらに「用ゆ」と表記されることもあり、この場合は、用い、用ゆ、用ゆる、用ゆれとヤ行上二段に活用する。
 居住まい(ゐずまひ)、居待月(ゐまちづき)、鴨居(かもゐ)、敷居(しきゐ)、芝居(しばゐ)、鳥居(とりゐ)、留守居(るすゐ)
 井(ゐ)、井戸(ゐど)、亥(ゐ)、猪(ゐのしし)、囲炉裏(ゐろり)、田舎(ゐなか)
 藍(あゐ)、位)くらゐ)、乾(いぬゐ)、紅(くれなゐ)、基(もとゐ)

 笑む(ゑむ)、彫る(ゑる)、植ゑる(うゑる)、酔ふ(ゑふ、よふ)、飢ゑる(うゑる)、据ゑる(すゑる)
 餌(ゑ)、礎(いしずゑ)、声(こゑ)、梢(こずゑ)、末(すゑ)、杖(つゑ)、故(ゆゑ)、所以(ゆゑん)
 〔注意〕「絵馬」「知恵」「節会」などの「え」は歴史的仮名遣いでは「ゑ」だが、これらの「え」は音読みなので「え」のままで良い。

 尾(を)、尾張(をはり) 緒(を)、鼻緒(はなを) 小〜(を〜):小倉(をぐら)
 甥(をひ)、叔母(をば)、叔父(をぢ)、長(をさ)、男(をとこ、をのこ)、女(をんな、をうな)、夫(をつと)、縅(をどし)、緋縅(ひをどし)、乙女(おとめ)、早乙女(さをとめ)、尾根(をね)、斧(をの)、檻(をり)、大蛇(をろち)、俳優(わざをぎ)
 幼し(をさなし)、惜しい(をしい)、惜しむ(をしむ)、踊る(をどる)、戦く・慄く(をののく)、折る(をる)、手折る(たをる)、居る(をる)、終る(をはる)
 青(あを)、勲・功(いさを)、魚(うを)、竿(さを)、十(とを)、十日(とをか)、操(みさを)、〜男・〜雄・〜夫(人名)(〜を)

●現代仮名遣いの「じ ず」が歴史的仮名遣いでは「ぢ づ」となることがよくあります。
 路(ぢ)、小路(こうぢ)、淡路(あはぢ)、味(あぢ)、恥(はぢ)、筋・条(すぢ)、氏(うぢ)、肘(ひぢ)、紅葉(もみぢ)、草鞋(わらぢ)、紫陽花(あぢさゐ)
 閉ぢる・綴ぢる(とぢる)、怖ぢる(おぢる)、いぢる、ねぢる
 *籤、匙、虹などは「じ」

 東・吾妻(あづま)、徒(いたづら)、水(みづ)、雫(しづく)、葛(かづら)、静か(しづか)、沈む・鎮む(しづむ)、小豆(あづき)、泉(いづみ)、和泉(いづみ)、出雲(いづも)、伊豆(いづ)、自ら(みづから)、壬(みづのえ)、僅か(わづか)、先づ(まづ)、八百万(やほよろづ)
 何方(いづかた)、何れ(いづれ)、安んぞ(いづくんぞ)
 恥かし(はづかし)、訪れ(おとづれ)、煩ふ・患ふ(わづらふ)、築く(きづく)
 *数、傷、葛(くず)、鈴、鼠、筈などは「ず」

●現代仮名遣いの「オ列+う」が歴史的仮名遣いでは「ア列+う/ふ」になることがあります。
 頭(かうべ)、被る(かうむる)、葬る(はうむる)、上野(かうづけ)、峠(たうげ)、仲人(なかうど)、申す(まうす)、詣(まうで)
 逢瀬(あふせ)、逢坂(あふさか)、扇(あふぎ)、候(さふらふ、さうらふ、さぶらふ)、放る(はふる)、尊し(たふとし)、近江(あふみ)、遠江(とほたふみ)

●その他
 葵(あふひ(、仰ぐ(あふぐ)、扇ぐ(あふぐ)、煽る(あふる)、倒す(たふす)
 手水(てうづ)、赤穂(あかほ)、なでふ(読みは「なじょう」)

〔補足〕和語と漢語が結合した混種語では、和語の部分は歴史的仮名遣いで、漢語の部分は現代語に準じて書く。
    例:「間狂言」は歴史的仮名遣いでは「あひきやうげん」、点訳では「アヒキョーゲン」。「絵合せ」は歴史的仮名遣いでは「ゑあはせ」、点訳では「エアハセ」。

(2011年12月6日)