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 11月20日、日本ライトハウス情報文化センターの4階会議室を使って「触れる仏像展」を開催しました。
 きっかけは、触る研究会・触文化研究会のメンバーで、仏像彫刻もしておられる太田さんが、自身の彫った十二神将を触ってみる体験会をしてみないかとの提案でした。せっかくの申出なので、会のメンバーに限らず、一般公開とし、さらに十二神将以外にも伝統的で有名な仏像類もできるだけ用意して、「触れる仏像展」として計画しました。
 私が個人的に集めてきた数展の仏像のほか、今話題になっている阿修羅像もぜひ展示したいと思い、仏像などのレプリカ製作をしておられる奈良の美術工芸ナベ九にも出展協力をお願いしました。
 また、来場者の方々の触っての鑑賞のガイド・解説役は、主に触る研究会の皆さん数人にお願いしました。私と太田さんをふくめ、スタッフは全部で7人、1人で数点の仏像を担当することにし、事前に解説のための参考資料を作り、また担当する仏像を中心に予め下見の機会も設けました。

 開催期間がわずか1日で、話題の阿修羅像なども展示するということもあり、来場者が多くなり過ぎては困ると思い、あまり宣伝はしませんでした。それでも、当日は全部で50人以上(見えない・見えにくい方々は30人前後くらいだったと思います)も来られ、とくに午後は待ち時間が長くなり、ほんの一部しか見られずに帰った方々もおられ申し訳なく思うほどでした。
 来場者からはかなり好評だったようで、もっと開催日を増やしてほしいとか、このような触れる展覧会をもっとしてほしいなどの声も聞かれました。また、12月5日号の点字毎日にも触れる仏像展の記事が掲載されました。記事中には、来場者の声として「分かりやすい説明を受けながら触れる機会のない仏像に触われてとてもよかった」、また私のコメントとして「一般の会場でもこのような展示会を開き、触って分かるという方法が見えない人にはあるのだということを広く知ってもらいたい」とあります。今回の貴重な経験を参考に、今後もこのような企画をぜひ別の所でもしたいと思っています。

 以下に、スタッフの方々に事前に配った資料、および来場者のアンケート集計結果を掲載します。スタッフ用資料の「8 仁王」と「9 十二神将と薬師如来」は大部分太田さんによる文章です。アンケート集計報告は、スタッフのMさんがまとめてくださいました。

◆触れる仏像展 スタッフ用資料

1 阿修羅(全身像)
 ブロンズ。高さ 約50cm (実物の三分の一ほどの大きさ)

●阿修羅について
 制作時代:奈良時代(天平6年、734年)
 場所:興福寺(国宝館)
 乾漆造 彩色 (八部衆の一つ)
 像高 153.4cm
 像は三面六臂、上半身裸で条帛(じょうはく。左肩から右脇腹にかけて斜めにかける細長い布)と天衣(てんね)をかけ、胸飾りと臂釧(ひせん。上腕の飾り)や腕釧(わんせん。ブレスレット)をつけ、裳(も)をまとい、板金剛(いたこんごう)をはいて、洲浜座(すはまざ。波打ち際の岩を表現した台座)の上に立っています。
 三面について:哲学者?の梅原猛は「三面の顔は、それぞれ日常の顔と、怒りの顔と、笑いの顔を示すのであろうか」(『名文で巡る阿修羅―天平の国宝仏』)と書いていますが、どうでしょうか。いろいろな見方、見え方があるようです。(太田さんの阿修羅を触ってもらいましょう。)
 六臂について:肩の付け根で見て、前についているものから順に第一手、二手、三手と呼ぶそうです。第一手は合唱。第二手と第三手の持ち物は失われていますが、興福寺の仏像群を描いた仏画である「興福寺曼荼羅」によると、第二手は太陽と月(日輪と月輪)を、第三手は、右で宝矢・左で宝弓を持っています。

●八部衆
 もともとはインドで古くから信じられてきた異形の八つの神々を、仏教に帰依し仏法を守護する天の神々としたものです。阿修羅をはじめとする興福寺の八部衆はいずれも乾漆像で、軽くて持ち運びやすく、幾度かの火災などを免れて、奈良時代に作られた物が現存しています。
 八部衆像は、十大弟子像とともに、本尊の釈迦如来像の周りに安置されていたものです。
 興福寺の八部衆は、五部浄(ごぶじょう)、沙羯羅(さから)、鳩槃荼(くばんだ)、乾闥婆(けんだつば)、阿修羅(あしゅら)、 迦楼羅(かるら)、緊那羅(きんなら)、畢婆迦羅(ひばから)です。

●乾漆造
 奈良時代に行われた手法です。
 まず心木を立てて、塑土(粘土)を用いてだいたいの形を造り、その上に漆で麻布を数枚貼り重ね、ある程度乾いて固くなってから、背中を切り開いて、中の土を取り出します。このように空洞になった内部に板や角材を補強材として入れ、その後木粉などを混ぜた漆で表面を整え、金箔や彩色を施して仕上げます。中は空洞が多いので軽いですが、金属や木に比べて破損しやすいです。実際、八部衆の中には体の一部が失われているものが多く、胸の上の胴と頭部しか残っていないものもあります。
 私は一度乾漆像に触ったことがありますが、つるつるしていて、むかし触ったセルロイドみたいだと思いました。

2 阿修羅(胸像)
 木製(太田さんの制作) 高さ12cm
 胸から上の像で、手はなく、頭部に3面が表現されています。顔の表情はやや強調して作られたようです。
 上のブロンズの阿修羅像と顔の大きさはほぼ同じで、手に持って3面のそれぞれの顔をよく触察してもらえそうです。

3 釈迦如来
 木製 高さ約45cm (インドネシア・バリ島の職人がタンガルブアヤという木で作ったとのこと。丸太を縦に半分に切り、その切断面から彫り込んだような作り方)

 釈迦は、大きな蓮の花の台の上に堂々と腰掛けているような姿勢です(花の向かって左には蕾もいくつかあります)。左足は足指が外に向くような形で下に降ろし、右脚は足の甲を左太股の上に乗せる形で外にひろげています(いわゆる半跏倚坐)
 左手は、肘を曲げて手のひらを上にし手の先を右に向けて、右足の上に乗せています。親指と人差指で輪を結び、その他の3本の指は横にまっすぐ伸ばしています。右手は、肘を曲げて手のひらを前に向け、親指と人差指で輪を結び、その他の3本の指は上に伸ばしています(安慰印のようです)。これら3本の指は、背面でつながっていて、全体でなにか掬えるような形になっています。
 顔は全体に引き締まった丸顔のように感じます。眉間の間には小さな丸い凸(白毫)があります。頭の上には一回り小さな盛り上がり(肉髻)があり、髪はぶつぶつした感じで表されています(螺髪)。
 左肩から衣を斜めにかけていて、その襞もよく触って分かります。右脚からは衣が垂れているようです。如来にしては、衣はかなり厚く襞も多いように思います。
 木彫の背面は、きれいな曲面になっていて、触って気持ち良いです。

 白毫: 仏陀の三十二相の一つ。眉間にある右回りに縮れたごく細い白毛で、これが光明を放って三千世界を照らすとされています。

4 観音像
 木製 高さ約45cm (インドネシア・バリ島の職人がタンガルブアヤという木で作ったとのこと。丸太を縦に半分に切り、その切断面から彫り込んだような作り方)

 観音像は、蓮華の台の上にゆったりと衣を着て立っている姿です。台にはきれいに花(葉かも知れません)が垂れ下がるように彫られています。
 首から胸にかけて首飾りや胸飾りのようなものを着け、さらに腰まで飾り紐のようなのが垂れています。また、両肘を曲げていますが、その腕から衣の裾が長く垂れ広がり、さらに足先まで衣でほとんど隠れるくらいになっています(左足の指先だけが衣から出ています)。
 顔はやや左に傾け左下を見ているようです。面長で、とてもきれいな顔のように感じます。額には小さな白毫のような凸があります。頭には長い冠を着けています。
 右てには、上がすうっと細くなった、角張った瓶のようなのを持っています。この瓶のようなものについて私が購入した店の方に尋ねてみたところ、これは水瓶ではないかとのこと、そして、水瓶を持っているのは、「私たちの心も汚れる時もありますが、これを綺麗にしてくださるためにそのお水ですべての汚れを取り除いてくれるためらしい」とのことです。左手は、手のひらを右に向け、親指と人差指で輪を結び、その他の3本の指は上にまっすぐ伸ばしています。
 観音の立ち姿全体を上から下にたどってみると、体がゆるやかにカーブしていて、それも美しい姿に感じます。
 また、観音像の周りには、光輪を思わせる多数の輪や渦巻き型の模様が全面にわたって彫られています。触ってとてもきれいに感じます。
 木彫の背面は、木の表面がそのままになっていて、触って痛いほどとげとげのようなものがあります。

 なお、「観音」という呼び名は法華経の中に「人々が一心にその名をとなえると、直ちにその音声を聞いて救う」とあることに由来しているとのことです。

5 文殊菩薩
  木製 高さ 約20cm
 (太田さんが行っている教室の先生の若いころの作品。粗仕上げのようです。)
 腰掛けている姿勢です(実際は、この姿勢で、獅子の背に乗っているのでしょう)。右脚は下に垂らし、左膝を外に広げて左足裏を右腿の内側に付けています(いわゆる半跏倚座)。
 右手に剣のようなのを持ち、左手にはなにか円い物(蓮の花になにかがのっているようです)を持っています。頭には 5つの髻があります。顔形はとてもくっきりしていて触って分かりやすいです。耳が長く下に垂れています。右肩から斜めに衣をかけていて、衣の襞もよく分かります。

 *文殊菩薩は、しばしば釈迦三尊像において中央の釈迦如来の向かって右側に獅子に乗った姿で安置されています(如来の向かって左は象に乗った普賢菩薩です)。なお、「文殊」はサンスクリットの「マンジュシュリー」の音を略したものです。「マンジュシュリー」は実在の人物のようで、一説では釈迦十大弟子とも親しく仏典結集にも関わった人ということです。

6 聖観音(首から上)
 木製 高さ 約20cm
 (太田さんの初期の作品だとのことです。)
 触った感じは、表面の手触りもきれいですし、形も均整が取れていて、なにか円満な雰囲気を感じさせます。
 髪を高く結い上げているようです。結い上げた髪の束の正面には髪飾りのようなものがあります。顔はとてもきれいです。額には白毫があります。耳はとても長く下に垂れていて、耳たぶに大きな細長い穴があいています。

 聖観音:六観音・七観音の一。本来の姿の観音のことで、変化の観音と区別して聖(または正)の字を冠する。大慈悲を円満な相に表し、宝冠中に無量寿仏を有し、蓮華を持つ姿などに表す。
 六観音:聖観音、十一面観音、如意輪観音、馬頭観音、准胝観音、千手観音。(七観音はこれらに不空羂索観音が加わる)

7 風神
 木製 高さ 25cm
 (太田さんが行っている教室の生徒さんの作品)
 4cmほどの雲の台の上に立っている、とても愛らしい感じの風神です。
 風神は、子供が腕組みをするように両手を胸に当てて、ちょっと反り返ったような姿勢でほっぺを膨らませ口をすぼめています(今にも口から強く息を噴出そうとしているようです)。上半身裸で、おなかには臍もあります。
 頭にツノが1本、手の指が4本、足の指が3本あります。足指はぎゅっと下に向いていて、雲の台にしっかりつかまっている感じです。

8 仁王
 木製 阿形(あぎょう)と吽形(うんぎょう) 高さ 30cm
 (太田さんの制作。四天王寺南大門の仁王を見本に、表情をより激しく表現して制作したとのことです。
 台の上に、向かって右側に口を少し開いている阿形、左に口を閉じている吽形が立っています。
 阿形は、右手を地面に向かって下に力いっぱい伸ばし、掌を地面と平行にして指をピント伸ばして広げています。左手は、肘を肩の高さまで持ち上げて内側に曲げ、逆手のような形で独鈷という武器を握っています。
 吽形のほうは、右手は、肘を前に曲げて掌を正面に向け指をおもいきり伸ばし広げています(まるで入ってくる者を強く制止しているかのようです)。左手には、腕にはさむようにして長い柄の武器(金剛杵の一種?)を持っています。
 阿形吽形とも、腰の当たりに裳のようなのを着けているだけで、上半身は裸です。胸、腕、さらに指の筋肉まで力が入っている感じがします。阿形の裳は向かって左側に、吽形の裳は右側になびいています(左右対称になっている)。ともに裸足ですが、吽形の左足の親指は上に向いています。とにかく2体とも、とても力強さを感じる像です。

 独鈷(とっこ):金剛杵(こんごうしょ)の一種で、短い棒の両端に槍状の刃が一つずつ付いたもの。金剛杵としては他に、三鈷杵(刃がフォークのように三本に分かれたもの)、五鈷杵(中央の刃の周囲に四本の刃を付けたもの)、七鈷杵(中央の刃の周囲に六本の刃を付けたもの)、九鈷杵(中央の刃の周囲に八本の刃を付けたもの)、宝珠杵(柄の上下に刃ではなく如意宝珠を付けたもの)、宝塔杵(柄の上下に刃ではなく宝塔を付けたもの)がある。

●仁王像について
 元来は1体の金剛力士像であったものが、阿形と吽形の対で作られるようになり、二王、あるいは仁王とも呼ばれています。
 ・口を開いている方を阿形、閉じている方を吽形といい、阿吽の呼吸という言葉の語源にもなっています。
 ・一般には、口を開いた阿形が右に、閉じている吽形が左に、ともに前向きで配置されています。ところが、東大寺南大門の仁王だけは配置が逆で、しかも向き合う形に置かれています。
 *東大寺南大門の仁王像はともに8メートル以上もあり、わが国最大の木彫像です(もちろん寄木造で、それぞれ約三千もの部品を組立てているとのことです)。

9 十二神将と薬師如来
 木製。新薬師寺の十二神将と薬師如来をモデルに、太田さんが製作したもの。

 十二神将は、いずれも高さは20cmくらい。実物は等身大で、塑像。

 薬師如来(座像)は、高さ 20cm弱。新薬師寺の本尊の薬師如来は、像高190cmもあり、座像としてはかなり大きいようです。カヤノキの一本造。
 阿弥陀如来が西方極楽浄土(死後の世界)を約束しているのに対し、薬師如来は東方浄瑠璃世界(生きている今の世界)を約束するとされます。今世界で様々な病苦に悩み苦しんでいる人たちの願いをかなえるというわけです。右手は施無畏印(掌を前に向けて立てている)、左手は与願印(左手を膝の上に乗せ掌を上に向けている)で、さらに左手には薬壷(やっこ)を持ち、人々の願いに応えようとしているようです。
 とくに新薬師寺の薬師如来は、他の仏像に比べ眼が大きく、また首も短かいとのことです。

 本尊の薬師如来の回りに、十二神将の12体が外向きになって円形に配置されています。十二神将の配置図は点図化し、当日数部置いておきます。

●新薬師寺の12神将について
  十二神将は、薬師如来を警護する12名の大将です。一人の大将は7000名の部下を従える警備隊長です。
 今日並べている十二神将は新薬師寺の十二神将をモデルにしたものです。(このほかにも、興福寺や広隆寺にもあります。)
  ・新薬師寺の十二神将は日本で一番古く、土で作られた等身大の塑像です。
  ・薬師如来の周囲を取り囲むように、 12体がほぼ円形に、外側を向いて配置されています。
  ・新薬師寺は、聖武天皇の妃である光明皇后が建立したもので、目を患っていた聖武天皇の目の回復を願って、薬師如来の目が特に大きく作られています。

●十二神将の姿勢の説明
1.バサラ大将
  左腕は、下に伸ばし、力を込めて手の平を広げている。
  右手に剣を持ち、剣先は、左手のやや下方に向けている。
  髪の毛は炎のように逆立ちさせて、顔を右肩前方に向けている。
  左足を外向けにやや広げている。口を大きく開けている。

2.アニラ大将
  両手で矢を持っている。左手を下方に伸ばして矢の先を支え、右腕は手首を胸付近にして矢の中央よりも羽根に近い部分を支えている。
  頭にヘルメットのような兜を被り、手に持った矢を眺めている。
  右足をやや外向けに広げている。

3.ハイラ大将
  両手を下げた状態で、左手に弓、右手に矢を持って、構えている。
  頭は、ヘルメット状の兜をつけ、正面向き。
  右足をやや外向けに広げている。

4. ビキャラ大将
  左手を腰に当て、右手は上方に挙げて、三鈷杵(さんこしょ)という小さな武器を持っている。腰をやや右手方向に突き出している。
  髪の毛は、焔髪(えんぱつ)といって、炎のように逆立ちしている。

5.マコラ大将
  左手を腰に当て、右腕を下方にして斧を持っている。
  頭は、焔髪(えんぱつ)を束ねて、正面を向いている。

6.クビラ大将
  左てをお腹に当て、右手は、横水平にした腕を曲げて、剣を構えている。
  頭は、2段になった焔髪(えんぱつ)で、首を右肩の方向にやや傾けている。
  口を大きく開けている。

7.ショウトラ大将
  左腕を下方にして斧を持ち、右手の平を開いて腰の前に当てている。
  頭は、2段になった焔髪(えんぱつ)を束ねている。

8.シンタラ大将
  体の重心を左足にかけた状態で、右足を石の上に乗せている。
  右腕を右脚の太ももの付け根辺りに乗せ、右手に宝珠を持つ。
  左手は、斜め下方に延ばして宝棒を持つ。
  頭は焔髪で、顔は左前方を向きやや下を見ている。

9.サンテラ大将
  左手を腰に当て、右手を頭より高く上げて三又の槍を立てて持つ。
  首を左肩方向にやや傾け、頭は焔髪で、顔は左前方を向きやや下を見ている。
  右足がやや前。

10. メキラ大将
  体の重心を右足にかけた状態で、右足のかかとを石の上に乗せている。
  右手を腰に当て、左手を左斜め上方に向って伸ばしている。
  焔髪で、口を大きく開けている。 (武器は持っていない。)

11. アンテラ大将
  両手を前にして、先を覆った短い槍を持つ。左手が槍の上方、右手は下方。
  頭は、ヘルメット状の兜をつけ、正面向きでやや下方をにらんでいる。

12. インダラ大将
  左手を腰に当て、右腕を水平よりやや上に上げて三又の槍を立てて持つ。
  頭は、ヘルメット状の兜をつけ、正面向き。
  右足がやや前。

*当日実際に触っていただく物は、次の6点です。
 1. バサラ 4. ビキャラ 5. マコラ 8. シンタラ 11. アンテラ 12. インダラ


10 音声菩薩(東大寺金銅八角燈籠、銅製)
 鉄製 30×20×1.5cm(レリーフ 小)
 鉄製 40×25×1.5cm 大)

●八角灯籠
 金銅八角灯籠は、大仏殿の正面に立つ灯籠です。大仏殿の灯籠に相応しく、高さ4.6メートルもある大きなものです。でも、実際に大仏の前で見るととても小さく見えるとのことです。
 八角灯籠は、2度にわたる大仏殿の炎上を無事にくぐり抜けた歴史的な遺品で、度々修理されていますが、天平時代の工芸技術の粋を今に良く伝えています。
 東西南北の4面の扉には唐獅子が半肉彫(頭部は高肉彫)で浮彫りされています。
 南西、北西、北東、南東の火袋の窓の羽目板には、それぞれ順に、横笛、尺八、銅跋子(どうばっし、シンバル)、笙を奏する音声菩薩が斜め格子の上に浮彫りされています。

●音声(おんじょう)菩薩
 音声菩薩として、小と大の二つ用意しました。ともに南西面の、横笛を奏する音声菩薩です。
 実物の大きさははっきりは分かりませんが、美術工芸ナベ九で触った胸から上の実物大の音声菩薩の大きさから想像すると、高さは120〜130cmくらいではないでしょうか。
 この音声菩薩の小のほうは、雲や衣のなびいている様子など細かい所までよく表現されてはいますが、触ってすぐ理解するのは難しいです。大のほうは、周りの雲などは省略されていてシンプルにはなっていますが、音声菩薩の姿は触ってかなり分かりやすくなっています。
 私が、小のほうを触ってよく分かることは、やや左を向いている顔、両手で横笛を持って口に当てている所と、足先がぴんと伸びていて、今地上に降り立った感じを想像できるくらいです。その他、触って何かはよく分かりませんが、緩やかな曲線や渦巻きのようなもの(衣のなびいている様や雲のようだとのことです)がいくつも触って分かります。また、それぞれの足先の下には、花を連想させる円い輪のようなのも分かります。
 音声菩薩も、飛天の一つと言っていいように思います。
 *音声菩薩の「音声」とは、辞書によると「音声楽」すなわち「雅楽で管弦の音楽」のことです。したがって、「音声菩薩」とは管弦の楽を奏する菩薩ということになります。

 以下、ネット上からの引用です。(「飛天像のお話」より)
 「ふわふわとした雲上の踏割蓮華座*に乗りふくよかな体付き、端正な顔立ち、豊頬で無邪気な溌剌とした少年のようで爽やかな印象です。像全体が丸味を帯びているのに対し背景の斜め格子とは見事なコントラストを描き出しております。
 手を体の前に持ってくることで奥行きを構成し立体感を出しております。菩薩像が腰を振りだんだんと女性らしくなって参りますのに合わせており本像も腰を振っております。」
 * それぞれの足が別々の蓮華の上に乗っている場合を言うようです。両足が一つの蓮華座にあるより、動きを感じられるのではないでしょうか。

11 飛天(法隆寺金銅内陣小壁画)
 アルミ製 25×30×5cm

 1949年の法隆寺の火災で、金堂外陣の壁画などは焼失してしまいますが、内陣の長押上の小壁にあった20面の飛天は、その時取り外されて別に保管されていたため難をまぬがれたとのことです。
 20面とも図様はまったく同じで、飛翔する天人2体を表しています。すべて同じ下絵を用いて制作されたようです。サイズは縦約71cm、横は約136cm。直射日光があまり当たらなかったと思われる北面の飛天が保存状態が良く、たぶんそれを基に浮出しのレプリカを製作したと思われます。
 触ってみると、はっきりと、ふっくらした顔、手、背中から足にかけて分かります。一人の顔は右を向き、もう一人の顔はやや左を向いています。手になにか持っていることも分かります。雲も分かります。

 以下に、ネット上にあった飛天の見た目の解説を引用します。(上記「飛天像のお話」より)
 「飛天が二体並んで楚々たる美しさで舞い降りてきております。丸顔、上半身は裸、胸飾り、臂釧、足釧を着け天衣は長く曲線状に棚引きスピード感にあふれております。頭を挙げて本尊に視線を送りながら右回りに回る右繞(うよう)礼拝であります。
 足裏を見るとスピードをつける為キックしているように見えます。二体とも白魚のような美しい左手に華盤を捧げて散華供養をしております。瑞雲の霊芝雲*が躍動感あふれる天衣に寄り添って流れております。 
 飛天の視線が水平方向にあるように見えるのは本尊の高さ近くまで降下してきたのでしょう。
 顔付きをみるとどうも男性らしいですが時代が進むにつれて我が国では三保の松原の天人のイメージが強くて天人と言えば女性と決め付けており圧倒的な男性世界の仏の世界を荘厳するのに女性の天人は適任でしょう。菩薩も釈迦の王子時代の姿と言われておりましたのが時代とともに女性らしく変わってまいります。」
 * 雲の形が、霊芝(マンネンタケ)というきのこの一種に似ていることから霊芝雲(れいしぐも)と呼ばれ、不老を象徴する瑞雲だとのことです。

12 奈良の大仏
 鉄製 約15×15×20cm

 大仏を連想するには小さ過ぎる模型です(物差しで測ってみると、実物の1/140くらいのようです。2cmが約3mといったところでしょうか)。触った感じは、ただの如来像といった感じです。(大仏は、姿は如来像ですが、華厳経の盧舎那仏像だということです。その形像は千葉蓮華に座し、右手は施無畏印、左手は与願印になっているということです。)
 私は台座と光背が良さそうだと思って買いました。台座は、回りに蓮華の花弁がきれいに並んでいます。光背は、小さな座像の仏(化仏)がいくつもほぼ円形に配され(数えてみたら16体ありました)、また何本も放射状に線が伸びています。
 如来はもちろん結跏趺坐の姿勢なのでしょう、両側に膝をひろげて座しています。薄い衣を着けているようで、胸から腕、膝当たりまで衣に覆われ小さな襞のようなのも触って分かります。両手指が独特のポーズをしていること(右てのひらは立てて前に向け、左てのひらは膝に乗せて上に向けています)もよく分かります。

 皆さんはよく知っているのでとくに書く必要はないと思いますが、念のため数値などを書いておきます。

●大仏の大きさ
 像高14.98m、台座3.05m、台座約130t、台座の周囲約70m、下から見上げたときの高さ18m、重さ約250t

●大仏殿(東大寺金堂)の大きさ
 高さ46.1m、幅57m、奥行き50.5m(当初の大仏殿の幅86.1m)

●大仏の建造期間
 聖武天皇により天平15年(743年)に造像が発願された。実際の造像は天平17年(745年)に始められ、天平勝宝4年(752年)に開眼供養会が行われた。
 開眼供養の時点では大仏の仕上げはまだ完了していなかった。補鋳と仕上げが終わり、金鍍金が終わり、さらに光背が完成したのは宝亀2年(771年)。発願から完成まで、28年かかったことになる。
 大仏と大仏殿は、その後治承4年(1180年)と永禄10年(1567年)の2回焼失して、その都度、時の権力者の支援を得て再興されている。
 現存の大仏は、頭部は江戸時代、体部は大部分が鎌倉時代の補修で、台座、右の脇腹、両腕から垂れ下がる袖、大腿部などに一部天平時代の部分も残っている。台座の蓮弁に線刻された、華厳経の世界観を表わす画像も、天平時代の造形遺品として貴重だとのこと。
 奈良の大仏の鋳造には、原型を造るのに1年2ヶ月、銅の流し込みに3年、補鋳と仕上げに5年、金を塗るのに5年、光背造りに8年、大仏殿の建造に4年、のべ260万人の人が28年かけて作ったとのことです。

●材料
 これだけ大きな大仏を作るため、日本各地から多量の銅や金などが集められました。以下に、その量と産地を示します。
銅: 499トン 埼玉、鳥取、山口、京都、岡山、広島、福岡
錫: 8.5トン 愛媛、三重、京都、兵庫
金: 440kg 宮城、対馬、静岡
水銀: 2.5トン 三重、茨城、岡山、愛媛、宮崎 
 ちなみに、当時の鍍金法は、金の小片や砂金を水銀に溶かし金アマルガムとし、これを大仏の表面に塗りこんだ後、350度くらいの温度で熱して水銀だけ蒸発させて、金を銅表面に固着させる方法で行われました。当然、水銀の蒸気でひどい被害が発生したことでしょう。


◆2010年11月20日「触れる仏像展」アンケート集計報告

 回収件数:21件(複数回答あり)
 以下のアンケート回答は原文をそのまま転写し、補足は口頭で聞いたものです。
 また、同様の回答はまとめて何件としました。

@この展覧会でよいと思われた点
 ・触ることができる 10件。
 ・細かい説明があるのが良い 8件。
 ・仏様が中性だったことを知りました。
 ・もう1度勉強したい。
 ・雰囲気が伝わった。
 ・立体的なものを触ることができて良かった。
 ・音が出るものなら音も聞けたら(補足:叩いてみたらどんな音がするのか聞いてみたいと言うことでした)。
 ・43歳で中途失明です。何回も見ているのに、ここで触ってはじめて知った。見えていても知らないことがいかに多いかを知った。触って実感できて本当に良かった。
 ・実物と同様の形のものを手で触ることによって細かな点まで仏像がどのようなものかが良くわかった。いろいろと仏像のことを調べてくださって、言葉で説明するよう工夫してくださっていたので、頭にイメージをしやすくわかりやすかった。
 ・こういう、触れる仏像は初めてでありがたかった。
 ・今まで見たことのない仏像の形をはじめて見ました。
 ・めったに触れない仏像を触れたことがよかった。

Aこの展覧会で改善してほしい点
 ・特になし 6件。
 ・待ち時間が長い 5件。
 ・一人のゾーンに一人のスタッフが必要と思いました。(補足:仏像1体ないし2体で一人と言うことでした。) 
 ・場所への誘導が遅かった(補足:待ち時間が長かったということ。)
 ・完全レプリカがあると思っていたので、実物のレプリカがほしい。(補足:阿修羅像のような文化財ということでした。)
 ・特にありませんが、回数を増やしてほしい。
 ・もう少し大きいものが見たい 3件。
 ・細部がわかりにくいので、もう少し大きいものがあったらよい。
 ・常設してほしい。
 ・説明を簡潔に。
 ・リストは先にほしい(補足:この要望の後にそのように対処しました。)
 ・説明者がもっと多い方が良い。
 ・めちゃくちゃこれは良いので、改善してほしい点はない。浮かばない。説明もよかった。学生の研究かと思った。かんしんしました。皆さん勉強されていてびっくりしました。
 ・もっとたくさんの仏像が展示されているのかと思った。展示会が一日のみではなく、三日間ほどしていてほしかった。

B今後、触れる展覧会としてどのようなものを希望されますか?
 ・絵画の立体化したもの 2件。
 ・触れるものなら何でも良い。 
 ・絵画・書や日光東照宮の三猿を触って見られるようにしてほしい。
 ・楽器や梵鐘に触ってみたい。
 ・特にない(補足:あまり触ったことがないのでどういうものがと言われてもすぐに浮かばないそうです。)
 ・有名な仏像が触りたい。
 ・天体図。
 ・スカイツリーなど、話題になっている建築物。
 ・仏像をもっと触りたい。
 ・ジンベイザメ。
 ・仏像を飾ってある背景。(補足:ドールハウス的なもの。)
 ・生き物のレプリカ。(補足:日常では触る機会のないような動物)
 ・全体が把握できにくい作業車両。
 ・ヘアスタイル。
 ・子供のころ、街角で見かけたお地蔵様いろいろ。
 ・観光地の目玉みたいなもの。(補足:観光地に行って「○○が見えます」などと案内されても、分からないから)
 ・海外の仏像。
 ・普段触れないようなものならなんでも。
 ・さまざまな鉄道や車、各地の城などをじっくり触ってみたい。
 ・建築物(たとえば有名建築物)。一般の建築物でも可(補足:屋根の形が何種類かあると聞いているので)。
 ・仏像に限らず、国宝のレプリカを触ってみたい。
 ・茶道具。
 ・風景画の立体化したもの。

(2010年12月9日)