触る研究会・触文化研究会 第1回例会報告
触る研究会・触文化研究会 第1回例会報告
日時: 2003年4月26日(土) 13:30〜15:30
場所: 盲人情報文化センター 9階ホール
参加者: 12名
([ ]内は補足的な説明。初めての会ということで、会員の自己紹介が中心になりました。なお、この文書は、会員に配布しているものとは一部異なります。)
◆展示品
あらかじめ、次の品を用意しました。
●触る地球儀
直径 65cm、周囲約 2mの塩化ビニル製のボールをベースにして作った地球儀。縮尺は2千万分の1、 1cmは200km。
陸部分はフェルト地の布、国境は紐、都市はビーズを張り付ける。
見える人・見えない人双方にとても好評でした。
●タッチカービング(カワセミ、キジバト)
鳥の鳴き声と解説の録音されたテープ、カラーイラストと写実に彫られた鳥の彫刻が、青森ヒバ製の箱にセットされている。製作は、有名な野鳥彫刻家の内山春雄さん。
●合掌造りの模型
『4年の学習』 2003年2号(学習研究者)の中の「世界遺産をつくろう!白川郷の合掌造り 160分の1モデル」。内部の構造も触って知ることができる。
●点図による歴史上の人物(17名)の似顔絵
会員の太田博さんが、エーデルを使って描いたもの。特徴をよく把えていて、見える人たちには高評だが、見えない人たちにはどうなのか。
●指と音でたどる飛騨高山観光マップ
飛騨高山観光誘致東京事務所が企画し、高山市が視覚障害者に無料配布している、音声ガイド付触地図。
A4版の極めてシンプルな触地図とCDのセット。高山駅周辺の観光名所等を、主な道路や川を手がかりにたどることができる。地図上の名所等には番号が付され、
CDでそのトラック番号を選んでその詳しい解説を聞くようになっている。
●京都市営地下鉄東西線案内マップ
京都の点訳サークル「こすもす」のOOさんを中心としたグループが製作。エーデルを使い、横書き見開きで、左右のページが1つの連続した図になるように工夫されている。また、各駅とも、地下鉄駅の構内図と地上図とがセットになっている。
●大陸の移動の図
会員のNSさんがエーデルで作成したもの。
約2億年前、6500万年前、現在、5000万年後の、大陸の分布の様子を示した4枚の図。
表面のデータと裏面のデータを作り、1枚の用紙に2回プリントアウトしている。表面は大陸の分布を示し、裏面は緯度・経度を示している。
各図の同じ大陸部分と思われる所には同じ面記号を使い、移動の様子が分かるようにしている。
(以上 7点。詳しくは「資料室」 も見てください)
また、当日は、MEさんが自作のバードカービング、TRさんが前の職場で作製した「手で見る作品ガイド」を持って来てくださいました。
MEさんは、エナガ、コルリ、10分の6の大きさの素彫りのこがも、3分の1の大きさの陶器製の尾長がもを持って来てくださいました。エナガは、羽を素彫りしただけのものと、羽の筋まで細かく彫ったもので、私は素彫りのほうがかえって羽の重なり具合がよく分かるように思いました。また、コルリは枯れ木に立っている姿勢で、体に比べて足が長いように感じました。
TRさんがお持ちいただいた作品ガイドは、私は少ししか触っていませんが、TKさんが丁寧に説明文を読みながら触っていて、そこに描かれている動物や水差しなどとてもよく見分けられていたようです。この作品ガイドについては、別の機会にTRさんに詳しくご報こくしていただきたいと思っています。
◆参加者の自己紹介
●KW
点訳ボランティア。ほかに、さわる絵本の会とバリアーフリー映画の上映を進める会にかかわっている。盲学校への読み聞かせや「点字教科書を求める会」の夏の合宿などに参加して子どもたちとの交流も楽しんでいる。
一番の関心は、つくったものがどのように受け取られ、どのようなものが求められているか。技術的にはまだまだですが、フットワークだけは多少自信あり。
●NS
点訳ボランティア。普通の点訳よりも図を描くのが好き。旧版の点訳の手引きに柿の種の図があって、こういうのを点訳したい、図を描きたいと思いながらずうっと続けてきた。今は京都の公立中学校に通っている全盲の子の理科の教科書と副読本の点訳をしている。
●OS
点字の教科書などの校正の仕事をしている。図をみるのは好きだが、理数系の図は苦手だった。ほんとうは本物を触われればうれしいが、そのようにできる機会は少ないので、図をじゃんじゃんみて理解しようとしている。[ということは、図を触って実物をかなりイメージできるという事、素晴しい!]
これからこの会で具体的に何ができるかわからないが、なにか物を根気強く作ることも好きなので、そういうことでも貢献したい。
●SS
点字の教科書などの校正の仕事をしている。図をみるのは苦手だけど、触るのは好きで、旅行に行った時などできるだけ触る機会を見つけようとする。日本では博物館などで触われることがほんとに少ないので、もっともっと触われるようになればと希望している。
初めてイタリアに旅行した時、たまたまスカラ座に寄ったが、そのとき係の者が、私が触われるようにと、建物のレリーフやフクロウをみせてくれた。その気持ちがとてもうれしかった。日本だとちょっとでも触りかけたら、やめなさいと言われたりするのと比べて、とても感動した。(さらに係の人がリストのピアノがあるので弾いてみませんかと言ってくれたが、それはさすがに弾けそうにないのでお断りした。)
●TK
改めて何かを触ることを考えてみると、あまり触ったことはなくて、興味を持って手を出すのは、花とこわくない動物。小犬は小さすぎてどこに何があるか触っても分からなくて、かえって盲導犬のように大きい犬だったら、背中からだんだん首のほうへ触っていって、耳と尻尾を触るのが好き。耳では、垂れている耳と立っている耳とか、尻尾では、さらーとした尻尾とくるんとした尻尾とかあって、それらの違いで犬の種類を触って見分けるのが好き。そして[TRさんの持ってきた美術館ガイドの]絵を見る時に、尻尾と耳を手がかりに触っていた。
鳥はくちばしがこわいので触らない。家でインコを飼っていたときも、インコが寿命が終わったとき初めて触った。
そのくらいしか触るということはなかったが、今からでもいろいろな物に触りたいと思っている。
私は視覚障害者の文化を育てる会を主宰している。そこでも触るということをテーマに、6月14日(土)午後、光島さん[全盲の美術作家]をお呼びして、盲人情報文化センター9階ホールで講演会・交流会をするので、参加してください。
●MY
リハビリテーションセンター職員。
中途障害、後天性の方がほとんど。触ることについて、うまく指導するのは難しい。
今担当している利用者の中に、先天性で点字も裏からでも逆さでも読めるような[触覚の優れた]方がいる。が、その方は、ダイヤル式の電話器は使えるが、プッシュホン式は使えない。家ではずうっとダイヤル式で、プッシュホンの配列を教えても、ボタンの位置が分からず使えない。やむなく、紙の上で、点字で1から0までの数字を配置して点字を触りながら練習し、次の段階で点字で「メ」を配置して練習するが、プッシュホンの
1、2、3、4、5、、、、、の配置が分からない、 1は5の左上だというようなことが分からず、探している。
そのへんがどういう風になっているのか、私には分からない。触った所がすべてで、その前後の関係がぱっと頭に入ってこない。それは、その方のたぶん生活体験に拠るのだと思う。だから、もちろん先天性の方がみなそうだというのではない。そういうことについて、なにかヒントがあるのではと思い参加した。日常生活の中で、どのように触りどのように知るか、そういうことを考えている
●ME
バードカービングをしている。私は、鳥を見て感動し、それを作品に表現しようとしている。作品を通じて感動を見えない人たちにも伝えることができればと思っている。
●TR
元学芸員。勤めていた美術館で、今日持参した「手で見る作品ガイド」の作成を担当。
美術館として、所蔵している作品を多くの方に楽しんでいただくために、手で触れることで鑑賞する方法について模索しはじめた。彫刻の中には直接触ることの可能なものもあるが、今特に関心があるのは、触ることのできない平面作品をどのようにして触って鑑賞することに結び付けられるかということ。
平面作品を立体的な鑑賞資料におこすための基準のようなものは確立されておらず、美術館それぞれが手探りでやっている状態だと思う。
触る鑑賞教材のようなものを作っていけたらと思っている。
●TT
点訳ボランティア。本の点訳中心だが、触る地球儀の作製にも参加。本の点訳では、図などが出てきたとき、これはやり難いからとかで抜いたりせず、エーデルや立体コピーを使ってできるだけ伝えたいと思っている。
地球儀などを作っているなかで、触覚と視覚の違いとか考えるようになった。見える人は視覚に頼る部分が大きく、視覚にごまかされている場合もあるとこのごろ感じる。
●FR
長く点訳ボランティア、今は施設職員。未熟児網膜症の子どもたちが一般の小学校に行くようになったころ、その理科の教科書の点訳をするようになり、触図にも興味を持つようになる。
伝えるべき事が伝えられれば良いのであって、見て楽しみ把握することと、触ってそうすることとが同じである必要はない――そういう視点で理科の教科書は作ってきた。一番悲しかったのは、技術的にできないからということで省かれてしまうことがあることで、それだけはなくしたいと思って点訳した。
最近、企業などがバリアフリーチェックと称して、視覚障害の人たちが見学コースなどのモニタをする仕事に関わるようになった。そういう時につよく感じるのは、これまでは目で見て知識を再確認する程度だったのに、視覚障害の方といっしょだと、触ることから始まって、いろいろな感覚を使ってじっくり深く楽しむことができるということ。博物館も、見えるから見る、見えないから触るといったことではなく、見える人たちも触ったりなどいろいろな楽しみ方ができるようにしてほしい――それこそがユニバーサルではないか。
●MT
点訳ボランティア、退役した盲導犬の面倒も見る。
全国に視覚障害の知り合いがいるが、これまで同じ土俵で楽しめることが少なかった。10年ほど前、自由に触って良い博物館に行った時、いっしょに触りながら同じ土俵で話し合え、触ることの楽しさ・大切さを知った。さらに、5年ほど前、近くのバラ公園に友人と遊びに行ったとき、1枚1枚の花びらの感触が違うことを教えてもらい、それから触ることにはまってしまった。
今は博物館でボランティアをしているが、いかに触る物を増やしてもらうか、また学芸員に視覚障害の人の触り方を伝えていきたいと思っている。
【参加されなかった会員の紹介】
●HT
学芸員。触ることのできる展示の多いミュージアム。
「視覚障害者ガイド研修会」を開くなどしている。
●IT
リハビリテーションセンター職員。
●IK
デザイナー。全盲と重度の肢体障害を併せ持つ子供の父。
●US
東京芸術大学美術学部先端芸術表現科の学生。
「触覚・アート・プロジェクト」のリーダー。大型点図ディスプレイによる表現と音楽を組合せたり、大学の作品展に視覚障害者を招いたり、触る絵本を試作したりなど、様々な活動をしている。
●OH
コンピュータ・情報関係の教育。
一般の小学校に通っている視覚障害児の教材、とくに触地図を担当。今回展示した「触る地球儀」のアイディアも原形もOHさんによるもの。[作り方もインターネットで公開している]
原則や理想を大切にし、アイディアいっぱいの方。
◆会の趣旨等(小原:自己紹介もふくむ)
(以下、当日の配布資料より)
●趣旨
触って知り、触って楽しむことについて、見えない人たちはもちろん、見える人たちにも広く考えていただき、そのための方法を普及させる。また、実際に触って知り楽しむことのできる環境を整えるための活動を行なう。
ハートビル法もあり、かなりのミュージアムですこしは見えない人たちのことも考えなければならないと思ってくれるようになりましたが、それが実際に見えない人たちにできるだけ役に立つものになるようにしたいものです。また見える人たちにも触って知ることの大切さを見直してほしいです。さらに、見える人もふくめ、上手に触る方法を広めることで、ミュージアム側の触る展示への躊躇をすこしでも和らげられればと思います。
●目的
・触知覚の特性の基本的理解
・触知のさまざまな可能性(と限界)
・ミュージアム等が視覚障害の人たちのために展示するさいのアドバイスないしガイドライン
・触って知るのに適した展示品の制作方法の研究
・見えない人・見える人たち双方にたいする実際に上手に触って知る方法の普及
【補足】
・見える人たち(主に情報を提示する側)と見えない人たち(情報の受け手)のコミュニケーションの問題、経験の違い
・触知の方法について、見えない人同士の交流
(ここまで)
上の趣旨等は、いくらか外向けということもあり、網羅的に書いていて、たぶん多くの方々の賛同を得られるのではと思っている。
まず、状況が変りつつあることは確かだ。見えないことだけを理由に、頭から入場を断るといったことは少なくなり(あるいはそうしにくい状況になっていて)、いろいろな場所に入れるようにはなってきた。このような変りつつある状況をうまく利用して、いろいろな場で、実際に触るなどしてよく知ったり楽しんだりできるようになればと思う。
個人的なことで言うと、私は視覚経験はほとんどない(光の記憶はあるが、色や形についてはない)。数のうえでは、中途・高齢で失明する人たちが増えていて、最初から見えないあるいはほとんど視覚経験のない人の割合はますます少なくなっており、それだけその存在は大事で、価値があるように思う。
視覚経験のない人たちも、もちろん長い生活の中でそれなりのイメージの仕方、世界の把え方をするようになる。ただ、その具体的な内容・方法は、その人の生活の〈質〉のようなものに大きく関係していると思う。MYさんの話の中に出てきた人のように、触った所だけがすべてで、それらの位置関係のイメージができないかもしれない人たちもいるだろうが、その人たちもそれなりに生活はできていたはず。歩く時でも、地図が頭の中になく全体の配置が分からなくても、安全に目的地にたどり着くことはできる。
私の場合、急激な上下運動など、身体の運動感覚と結び付いて空間的なイメージがつくられてきたように思う。また、頭の中にあるものを手の動きで描くとかいった練習も大切だったように思う。こういうこともふくめ、視覚経験のない人たちの可能性はかなり拡がると思う。
私の若いころ、もう30年以上前は、デパートが触るのにはとてもいい所だった。欲しそうにすれば、ケースの中の物でも、ガラス細工とか高価な壷とか、出してもらって触われた。まずこちらが興味を示すこと、また、実際に上手に触って相手を安心させることができれば、かなり触わらせてもらえることがある。
触ることもふくめ、見えない人の生活の〈質〉は、家族の者をはじめ、周りの人たちの対応にかなり依存せざるをえない。
私がこの会でとくに期待しているのは、上の【補足》に書いたように、見える人と見えない人の、また見えない人同士のコミュニケーション。
今日の展示品についても皆さんそれぞれに感じておられたことだと思うが、見える人たちは見えない人たちにどのように受け取られるか十分分からないまま触図などを作り、一方、見えない人たちはどのようなのが自分たちにとって分かりやすいのか、知識の上でも技術的にも、見える人たちにうまく表現できないことが多い。とくに、見えない人たちが自分たちに分かりやすい方法を見える人たちにはっきり表現できる力をつけることが大切。
また、見えない人たちは、点字は別として、一般に触って知り楽しむやり方について、学校などでとくに教えられることは少なく、それぞれ自分なりに工夫してやっている。しかも、互いにどんな仕方で触知しているのか知らないままになっている。見えない人たちがそれぞれの触り方を示し合う中から、互いに使えそうなのは取り入れ、また多くの見えない人たちに共通して使えそうな方法もはっきりさせることができればと思う。
◆会の運営等
小さな会なので、できるだけ簡素な組織のままがいい。
ただ、会員には、コア(中心になるメンバー)、一般(例会などで報告もする人)、協力(興味のあるテーマにつき会に参加する)といった区別があっても良いのでは。とくに、事務的な処理やアイディア・企画などについて、コア、中心になる人が必要。
●話し合いの結果
主に記録:小原
事務(編集もふくむ):MT
アイディア・企画(実験的な試みや下見もふくむ):FRをはじめ、できるだけ多くの会員。とくに見えない会員の企画に期待。[今回参加できなかった人たちからのアイディア・企画も大いに歓迎]
アイディア・企画などの相互交換のために、名簿を作る。
例会などに参加できない人たちのためにも、できるだけ丁寧に記録を作り、送付する。
●活動
2ヶ月に1回くらいの割で例会をもつ。今年は、6月末、9月、11月を予定。
例会では、各会員の報告ないしプレゼンテーションを中心とする。
第2回の例会は、 6月28日(土曜)午後、盲人情報文化センターで、MYさんに触知覚の基礎的な事柄について報告してもらう(予定)。
【当日配布資料の中の報告例】
視覚と触知覚の違い、触知覚の基礎(物理、生理、心理学的特性)、見えない人たちの実際の触知のプレゼンテーション、各会員の製作した図や模型などの発表、ミュージアムなどでの実践例や体験報告等
その他、興味と時間のある方は、随時触って楽しめそうなイベントや触知覚に関連した講演会などに参加。
(5月7〜12日に開催された関西バードカービング展について紹介)
〈その他、話題になったこと〉
・ FRより: 盲人情報文化センター近くの靫公園に、4月中旬、OBといっしょに、植物などをどんな風にともに触って観察・楽しむことができるか、下見に行ったときの様子
・ MYより: 光島さんの作品、奈良の全盲の方の陶芸作品、ダイアログ・イン・ザ・ダークなどを例に、視覚とは異なった触覚の世界、および、見える・見えない人が共有できる世界について
・ OBより: 「触るギャラリー」のようなものの必要性
・ OS・OB・MYより: 指先を中心とした触り方など、見えない人の触り方の特徴
(以上)
(2003年5月12日)