触る研究会・触文化研究会第10回報告

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日時: 2006年6月3日(土) 13:30〜16:00

場所: 盲人情報文化センター 2階ITワークセンター

参加者: 19名(全盲4名)

◆展示品
 今回は、触ってわかる図鑑を数点用意しました。

●宇都宮美術館「手で見る作品ガイド」(2002年)
 これは第1回の研究会でも紹介したものです。各作品について、作品データと作家略歴、観賞のポイント、触図版、墨字の作品解説カードの4ページ構成。集録作品は次の8点。
中村彝「自画像」
海老原喜之助「雪」
米陀寛「風」
ルネ・マグリット「大家族」
マルク・シャガール「静物」
ワシリー・カンディンスキー「横切る赤」
エル・リシツキー「赤き楔で白を撃て」
ペーター・ベーレンス「電気ケトル」(真鍮の立体作品)

●岐阜県美術館「所蔵品ガイドブック2」
 彫刻3点(エミリオ・グレコ「マリア・バルダッサーレ」、ヴァレリアーノ・トルッビアーニ「夜の番人」、ジャン・アルプ「紙おもちゃから」)と絵画2点(オディロン・ルドン「眼をとじて」、熊谷守一「ヤキバノカエリ」)について、触図版とともに、「おおよそのイメージ」「鑑賞の手引」「解説」の文章が付されています。文章からは、絵の雰囲気や背景も分かります。
 とくに熊谷守一の「ヤキバノカエリ」では、まず全体図を示し、次にそれを人物と風景の2枚の図版に分けて示しており、触図化の方法として優れていると思います。

●点字絵本の会「世界の名画(西洋編)」
 徳島県の点字絵本の会(http://homepage2.nifty.com/tenjiehon/)がエーデルで製作し、北島町立図書館が郵送で貸し出しているものです。
 古代エジプトから現代までの30点ほどの絵の点図を集録。絵の点図としてはよく描けているようです。ただ、作者と絵のタイトルだけで説明文はまったくなく、見える人たちにはおおよそ何の絵かは分かるようですが、見えない人には点図だけでは絵は理解できないという意見がほとんどでした。また、実際に点図化されているのは人物像がほとんどだったことも気になるところです。

●葛飾北斎「富士山と大きな波」
 研究会メンバーの太田さんが、北斎の有名な絵(版画s)をエーデルで点図化してみました。
 北斎の描く、迫力のある大波の絵ですが、そのままでは理解しにくいだろうということで、同じ場所から見た次の3枚の図を用意しました。(以下はほぼ太田さんの説明文です。)
・1枚目は、静かな海の沖合いから眺めた富士山で、手前に船が浮かんでいます。
・2枚目は、同じ場所から富士山を見た絵で、海が荒れだして、高さ2mほどの波が発生している状態です。(普通に考えられる荒れた海の絵なら、この状態でしょう。)
・3枚目が、北斎の「富士山と大きな波」の絵で、大波で船も富士山も飲み込まれそうな、迫力のある絵です。
 確かに、3枚目の絵だけだと、船は真ん中で大きく切れていますし、富士山も大きな波の中であまり目立たなくなっていて、1枚目・2枚目の図も絵全体のイメージを作るのに役立ちそうです。

●C.W.ニコル・アファンの森財団「Afan Field Notes」(点字版)
 画集ではありませんが、点図がとてもきれいなので紹介しました。
 アファンの森(長野県黒姫山)の主な木や鳥や甲虫が、20数枚の点図と簡単な解説文で紹介されています。点図は、点種はほとんど小さな点1種だけしか使っていませんが、点間が一定していて、樹形や葉の細かい様子など、よく分かります。見える人たちにも好評でした。


◆テーマ: 言葉による説明による絵画理解の可能性
 最近、美術館における視覚障害者の鑑賞の方法として、ガイドの方による言葉による解説ないしガイドの方と鑑賞者との対話を通しての鑑賞が行われるようになりました。この方法は、中途失明の方々、とくに見えていた時に絵などに興味のあった方々にはかなり有効なようです。
 しかし、画集など美術教材の点訳や音訳についてはまだほとんど行われていないようです。私のように視覚経験がほとんどなく美術の世界からは縁遠かった者には、一般の美術館での鑑賞を実のあるものにするためにもこのような美術教材は必要ですし、またもちろん現在盲学校や通常校で教育を受けている視覚障害児のためにも必要でしょう。
 今回は、数点の絵について、主に文章による説明で、見える人たち・見えない人たちがどの程度どんな風にイメージするのか、試みてみました。(点図や立体コピー図も用意しましたが、これらは私の考えでは参考のためであって、メインは文章です。)

 まず、見えない参加者にこれまで体験した言葉を通しての鑑賞についてたずねてみました。
MRT(中途失明): もっとも良かったのは、ガイドの方が中学の元美術の先生だったという時で、その方はまずどのように説明したら良いかをたずね、希望した説明の仕方、どんな構図で、視点はどこで、どんな色で(赤でもりんごの赤とか具体的な物の色で)説明してもらって、十分に想像できた。
OS(少し見えた経験がある): 絵を見るのも描くのも好き。モネの絵を見に岡崎に行った時は、言葉による説明で構図や色などよく分かった。
TK(ぼんやり見えた経験がある): 折紙のワークショップに行って、展示されている折紙についてどんな物かたずねたら「悪魔的」と言われてそれ以上説明してもらえずよく分からなかった(「鬼」とかだったら少しは分かるんだけど)。
小原(光の明暗の記憶がある): どんな人がガイドしてくれるかでぜんぜん違う。一番良くなかったのは、本人は絵を見て感動しているようだがそれをほとんど言葉に出せない人といっしょの時だった。仕方なく前後にいる人たちの説明を聞いていた。 (どんな角度から見ていて光や色合いがどんなかを事細かに説明されてもあまりぴんと来ず、全体の構図や雰囲気などについて説明してくれたほうが分かった気になる。)

1 岡部昌幸『すぐわかる画家別西洋絵画の見かた』(東京美術、2002年)
 盲人情報文化センターの点訳ボランティアが現在この本を点訳中です。
 14世紀から20世紀までの、西洋美術を知るうえで欠かせない画家53人(ダ・ヴィンチ、レンブラント、ゴヤ、セザンヌ、ゴッホ、マチス、ピカソ、ミロ、ウォーホール等 )を取り上げ、画家の絵の特徴や人生、その代表作品のポイントや見方を簡潔に解説した本です。
 各画家の代表的な作品には、その鑑賞のポイントや絵の見方について簡単な解説文があるのですが、さらにそれに点訳者が説明の文章を書き加え、本文の解説と点訳者の説明文を合せ読むことにより、絵の全体の構図が分かりどんな絵なのかイメージできるようにしよう、そしてできる物についてはエーデルの点図も入れようという方針で点訳しています。
 今回はこの点訳をしている3人に参加していただき、3点の絵について文章による説明でどの程度どんな風にイメージするのか試してみました。
 手順は次のようです。
 まず初めに本文の解説文と点訳者の説明文を配り、点訳者の方々にその文章を朗読してもらいます。各人はそれを聴きながら(あるいは同時に目や手で文章を追いながら)絵を想像します。そしてできる人はそのイメージを鉛筆などで簡単になぞります。最後に各絵の原図と点図を配り、自分のイメージとの異同を確かめてもらいます。

@アンリ マティス (Henri Matisse)
 「音楽」 1910年  油彩・カンヴァス 260×389cm
       サンクト・ペテルブルク  エルミタージュ美術館

【本文の解説】
●形態と色彩の調和と見事な配置
 有名な「ダンス」と対で描かれた作品だ。「ダンス」が躍動的なのに対し、この「音楽」は静的である。左の人物がト音記号、残りの4人は五線譜の上の音符を表すと考えられる。単純化された形態、そして色彩も、人物の赤、背景の青と緑というように、徹底的に単純化され、それだけに画面上での調和が見事である。もちろん人物の配置も、綿密に計算しつくされ、これ以外には考えられない。まさにマティスらしさに満ちた作品である。

【点訳者の説明】
 横長の図版。全裸の人物が正面向きに5人描かれており、みな黒い短髪でほぼ等間隔に配置されている。
 左端の人物は直立でバイオリンを弾いている。二人目は上下の中央に左ひざを立てて座り、縦笛を吹いている。3人目は上下の中央よりやや上、4人目はそれよりさらに上、5人目は図版右下にそれぞれ配置されている。この三人は三角座りをし、口を開けていて歌っているように見える。
 背景は、1人目から4人目までの体のほぼ中心を結んだなだらかな線が左端から右端まで引かれており、その上部が青、下部が緑で色分けされている。

*意見など
 最初のうち点訳者の説明文だけで絵を理解しようとして戸惑った人がいました。(赤・青・緑の色の使い分けは、本文の解説文と点訳者の説明文の両方を合せ読まないとはっきりは分からない。)
 点訳者の説明文では、「上下の中央」という表現がよく分からなかったり、「なだらかな線」でなにか特別な線が引かれているような印象をもつ方もいました。
 また「三角座り」という表現について、実際にどんな座り方なのか、互いに確かめ合っていました。
 しかし全体としては絵の構図はよくわかったようです。

Aカスパル ダーヴィト フリードリヒ (Caspar David Friedrich)
 「人生の諸段階」 1835年  油彩・カンヴァス 73×94cm
     ライプツィヒ美術館

【本文の解説】
●風景画に迫りくる死の影を暗示
 フリードリヒの生まれ故郷近くの海を描いたこの作品は、日没の光の中を岸辺に近づいてくる船の姿を通して、いつか訪れる人生の終わり、つまり迫りくる死の影を暗示している。海岸にいる5人の人物もまた、子供から老人までの「人生の諸段階」を象徴している。詩的で繊細な色彩感覚に溢れた風景画だが、まず最初に広々とした空間を表現しながら空と海の風景だけを描き、そのあとに個々の船と人物を描き込んだといわれる。

【点訳者の説明】
 海に浮かぶ5隻の船と、海岸にいる5人の人物が描かれている。
 図版上下2分の1よりやや下に、くっきりと水平線が描かれ、空は黄色に光った日没後の美しい夕焼けである。海面は碧みのある灰色の暗い色調で、静かに見える。図版下部は海岸である。
 ほぼ中央に大きな帆船が1隻、その右側にもう1隻の帆船が小さく描かれている。さらにその右側水平線上には、より小さくもう1隻の帆船が描かれている。3隻とも手前の岸に向かっているように見える。中央の大きな帆船の左右には、小舟が浮かんでいる。
 海岸には遊んでいる男の子と女の子、その右側で子供たちを見ている若い女性がいる。子供たちの左側少し手前に、山高帽をかぶった男性がこちらを向いて立っている。その男性の左側手前に、帽子をかぶり右手に杖を付いた白髪の男性が、背中を向けて立っている。

*意見など
 「遊んでいる男の子と女の子」という表現から、なにか明かるい雰囲気が感じられ、さらに海岸も砂浜のようなのを想像しやすい。海岸が岩場のような所であることをはっきりさせたほうが良い。 (解説文および説明文の前半部からは絵全体が暗い色調であることは十分分かると思う。)
 「小舟」という表現からは、他の帆船とは違う形を想像する。(ヨットのような小船と表現したほうがいいかも。)
 点図では、2人の子どもはかなり小さくて触ってはなかなか分かりにくい。
 5人の人物の説明文は、「人生の諸段階」というこの絵のテーマをよく伝えているように思う。

Bホアン ミロ Joan Miro
 「太陽の前の人と犬(逆立ちした人物)」 1949年 油彩・カンヴァス 81×54.5cm  
    スイス  バーゼル美術館

【本文の解説】
●晩年に取り戻したユーモアと詩情
 大きな赤い円は太陽、その前にふたりの人物と1匹の犬が描かれている。黒を多く使ってはいるが、そのほかの色彩は鮮やかで、全体から受ける印象も軽やかだ。スペイン内戦などの歴史的な事件を目にすることで一時期は野蛮で激しい作品を描いたミロだが、56歳で描いたこの作品では、再び本来の詩情とユーモアを取り戻している。形態も色彩も無造作で、偶然性に満ちた画面のように見えるが、しかしつねに多種多様な表現に取り組んできた彼らしく、緻密な表現と豊かなイメージの追求を試みた作品だ。

【点訳者の説明】
 縦に長い図版。左上に大きな赤い円(太陽)がある。中央に正面向きでこの太陽に右頬をくっつけて人物が立っている。頭は小さく毛が3本立っている。その右横にもうひとり、逆立ちしている人物が描かれている。正面を向き、毛が3本立ち、頭は大きい。ふたりは少し重なっている。図版左下には犬が1匹、頭を左にして描かれている。いずれも全く写実的ではない。

*意見など
 抽象画は、形や色の配置が分かれば、自由に想像しやすくてかえって良いかもしれない。
 点図では色の違いをもっと塗りつぶしを使って表現していいのでは (エーデルを使った点図ではけっこう難しい。)
 よく見てみると、逆さの人物の顔と犬が一部重なっていたり、絵全体を逆さにしてみるとまた違って見えたり、いろいろに見えてくる。


2 三重県立美術館の「鑑賞ファイル」
 三重県立美術館では〈アートカードみえ〉という小中学校で活用できる美術支援教材を作っています。そしてその中に「触ってセット」という視覚障害児の触覚を使っての鑑賞を支援する教材があります。(詳しくは、http://www.pref.mie.jp/bijutsu/hp/study/study04/study4-simo.htm を参照してください。)
 「触ってセット」は「鑑賞ファイル」「素材コレクション」「はめ込みパズル」の三つから成っています。
 「鑑賞ファイル」には絵画編と立体編(彫刻)があります。各編とも、三重県立美術館所蔵作品の中から十数点を選び、その立体コピー図版とその簡単な解説文(点字付)をファイルしたものです。
 素材コレクションは、所蔵作品に使われているいろいろな素材(石・金属・紙・布など)を集めたものです。
 はめ込みパズルは、厚さ5ミリくらいのボードにくり抜かれた形をはめ込んで行って画面を完成させるパズルです。くり抜かれた各ピースの形は絵の中のある部分の形に合せていて、絵全体のイメージ作りに役立つように考えられています。
 私はこれまでに2回三重県立美術館を訪れ、柳原義達記念館で多数の彫刻を鑑賞する(見えない人は触って良いことになっています)とともに、欅の会というボランティアグループの方々および「触ってセット」の製作に携わったスタッフの方の案内で、鑑賞ファイルも使って絵画も鑑賞しています。
 一般の美術館での見えない人たちの絵画鑑賞の方法として、主にボランティアのガイドによる言葉による説明ないし対話を通しての鑑賞が少しずつ行われるようになりましたが、私は立体コピー図版や解説文も必要だと思っています。それは、とくに視覚経験の乏しい者の場合言葉だけの説明でははっきりした構図をイメージしにくく、立体コピー図と解説文はぼんやりした絵のイメージをより確実なものにしますし、またガイドにとっても見えない者にとっても、対話の確実な手がかりとなるからです。
 今回は、文章による説明と立体コピー図版で絵の雰囲気がどんな風に伝えられるのか、私が三重県立美術館で実際に鑑賞したシャガールの「枝」について試みてみました。美術館で用意している解説文は、おそらくガイドによる説明との併用も考えられてのことと思いますが、かなり簡潔で絵の雰囲気までは伝え切れにくいようなので、私が実際にガイドの方の説明を通して想像している絵のイメージを、解説文も参考にしつつ、文章化してみました。
 まず私の説明文を解説文と共に配り、説明文を読み上げます。その後で 原図と立体コピー図を配りました。

マルク・シャガール 1887−1985 ロシア
 「枝」1956−62年 油彩・キャンバス 縦150×横120cm

【小原の説明文】
 身長近くもある大きな画面。画面全体は透明感をも感じさせるブルーの色調で、その色合いが見る者に印象的なようだ。
 画面左下から右上にかけて大きく斜めに、宙に舞うようにカップルが描かれていて、左側の白いドレスを着た女性(2番目の妻)が男性(シャガール)に手を伸ばして寄り添っている。
 画面左上端に黄色い太陽、その外側に赤のリング、その右下に赤の花々、画面右下には花瓶と花束が描かれている。
 そのほかに、画面のあちらこちらに青の濃淡で色々なモチーフが見えている。まず、左上端の太陽の中に笛を吹く男の姿や動物、太陽の真下に大きな木の枝、画面上部に数羽の鳥、そして画面中央部には、左から、エッフェル塔、セーヌ川、三日月、女(最初の妻ベラ)の姿などが見える。
 この画面中央部の風景は、カップルの男女が振り向いている視線の先にあるようで、2人の過去の思い出のイメージをあらわしているようだ。

参考: 立体コピー図版の解説文
 全体的に青い色調であり、画面左上に黄色い太陽が配置され、画面右斜め上から左斜め下にかけて、白いウエディングドレスを身にまとった女性が右側にいる男性に寄りそうカップルの姿が描かれている。
 青い背景には、あちらこちらに赤い花がちりばめられているが、青い背景そのものも、単にブルーにぬられているわけではなく、よく観察すると、木の枝や宙を舞う鳥の姿、サーカスをする少年の姿、エッフェル塔やセーヌ川、川に浮かぶ船や三日月などのモチーフが描かれている。また、左上の太陽の中にも、笛を吹く男性の姿や子牛のような動物の姿が描かれている。

*意見など
 私の説明文でも、雰囲気は少しは伝えられたようだが、画面中央の当たりの説明は分かりにくかったようだ。
 立体コピー図は輪郭がひじょうにしっかりしていて、原図の雰囲気とかなり違うかもしれない。
 美術館で作った解説文だけだと、あちこちにいろいろなモチーフが描かれているという印象が中心になりそうだ。


3 全体の感想
 以下、当日の参加者の感想およびメールで寄せられた感想を紹介します。

●TDさん
 このような言葉を通しての鑑賞は、これまでしていたようなのとは違って、絵について深く見ることになるようだ。

●NSさん
 美術館にも時々行くが、その時にこのような解説・説明文があると良い。

●FRさん
 美術の教科書を点訳している。書道などは立体コピー図版も付けるようにしているが、絵画は文章による説明だけにしている。

●OTさん
 今回は言葉で絵を表そうということだが、音楽で絵を表現する人がいる。 [私は、見えない人で、色やその組み合わせを旋律や和音で感じる人について聞いたことがある。]

●OSさん
 一つの絵について、時間が経つとともによく分かってくること、新しい見え方に気付くことがある。

●MRTさん
 解説と説明文で作品をイメージすることはできる。(点図・立体コピー図に触れての鑑賞は初めてだったが、ほとんどわからなかった。)あまり細かい所にこだわらなくていいと思う。
 点字の文章だと、自分なりに感情を読み込み想像できる。録音だと、言葉が通り過ぎ、また朗読者の読み方にも影響されてしまう。

●KWさん
 何度か鑑賞ツアーにボラで参加してるのですが、言葉で伝えるのはとてもむつかしいです。でも今日のように解説と具体的な構図をセットで用意してもらうと意外にイメージできるものなんですね。特に抽象画は作家の頭の中にあったものを再イメージするわけで、ある意味やりやすいのかもしれません。……
 でもひとつの作品でも観る人それぞれの感じ方があってどれが正しいというものでもないわけで、同じ絵も鑑賞する人の組み合わせを替えると新しい見方もできるのではないでしょうか。

●KSさん
 点図の理解については個人差があると聞いていたのですが、目で見るとよくできている図であっても、自分で触ってみると、たしかに細かい部分など非常に判別しにくいことがわかりました。点字を触りなれている方にとっても細かすぎるとわかりづらいのですね。一方で、言葉で的確に説明されますとイメージがわいてきて、たとえその絵画を正確に思い描けなくてもそれはそれでたいへん楽しかったです。……
 私は絵の背景の説明を聞かせてもらったほうがより楽しめました。イメージを楽しむという意味では目が見える方、見えない方、同じように感じました。

●FJさん
 私自身は解説でその絵画を想像することに面白さを覚えました。詳細より全体の雰囲気が、分かればよいではないかと。
 視覚障害者の皆さんのお話を伺っていて、三人三様、触図に慣れておられる方、中途失明である程度実際の絵を鑑賞されている方、想像の世界だけでは心もとなく感じられ、全体の構図をしっかりつかみたいと思われる方…。
 1対1で点訳する場合と違って、不特定多数を対象とする今回の画集の点訳の場合は、「説明」と、「触図」の両方が必要だと思いました。鑑賞者は自分の好みによって選択できるように。

●SKWさん(点訳者)
 長らくもやもやしていたものが少し解消された有意義な会でした。というのは、解説と説明とを頼りに描かれた絵[参加者の見える・見えない人たちがその場で鉛筆などで描いた絵のこと。とくに大崎さんの描いた絵には皆さん感心していました。]がかなり正確だったので、点訳者による説明の方向性が大幅には間違っていなかったかなと思えたからです。
 でも、点図が盲人の方の絵の理解には必ず少しは役立つものだと思い込んでいましたので、むしろ無いほうが想像ができて良いかもしれないというある方の生の声を聞かせてもらってちょっとショックでした。むやみに点図化にせいを出さずに厳選する必要があるのだということを感じています。
 いま一度説明文を見直そうと思っています。


(2006年6月18日)