趣味も役立つ――鉱物の展示と販売

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 11月23日は、娘の行っている愛農高校の収穫感謝祭でした。(愛農高校は、三重県青山町にある、私立の、キリスト教精神に基づく、全寮制の農業高校です。娘は今年の4月にこの学校に入りました。)
 前日の夜から家内といっしょに出かけました。生徒や保護者や卒業せいたちそれぞれに、それぞれの所で作った農産物やそれを食材にした食べ物を売り、また雑貨や衣服や食器類などのバザーもありました。私たち1年生の親は、美味しいコーヒーとクッキーをたのしめる喫茶コーナーを中心に、ゲームのコーナー、そして私の鉱物の店が並びました。
 天気も予報に反して良くなって、外部の一般の人たちも多かったのでしょう、どこもとても繁盛していたようです。鉱物の展示と販売のほうも、家内に手伝ってもらいながらしたのですが、とても順調で、販売用に持って行った物はほぼ完売でした。私の趣味もはじめて貢献できたように思います。
 
 だいぶ長くなりそうですが、私がどうして石や鉱物に興味を持つようになったのか、その経維についてまずはじめに書きます。
 私は6歳の時から盲学校に入りました。家を離れ、ずうっと18歳まで寄宿舎生活でした。同じように家を離れ盲学校で暮らしていた多くの見えない人たちはそれなりにけっこう楽しくあかるく過ごせていたのかもしれませんが、私の場合はそうではありませんでした。
 盲学校に入るまでとそれ以後とでは、比喩的に言えば〈光〉と〈闇〉と言うほどの違いがありました。その理由は説明すると長くなりますので止めますが、私の性格形成にも大きな影を落しているように思います。
 そういう暗い盲学校生活の中で、私は小学3、4年ころ、よく1人で土曜日や日曜日にこっそり校庭に出てあちこち這い回ってはその辺に生えている草を触ったり、クローバーでいろいろ編んだり、時には偶然触った変った感じの石を拾い集めたり、ただ独りの世界を楽しんでいました。そして、そうして拾った石を部屋のベッドの下などにため込み、ごくたまにでしたが、理科の先生に見てもらうことができました。何となく変っていると思って集めた石の中には、例えば凝灰岩のような物とか、まったく聞いたこともないような石が意外とありました(そのころは石の名前は何も知らなかったので、何でもとても新鮮に思えたのでしょう)。その他、これは水成岩(堆積岩)の一種で火打ち石になる、と先生が言って、私には見えないのですが、先生が電気を消して実際にたたいて、火花が出ていると教えてくれたりしました。また小学5、6年ころには、磁石にくっつく石を見つけたり、おそらく化石の一種だと思うのですが、ガラスノ表面のようにすべすべしていてドングリのような形をした石を見つけたりしました。普段はいろいろ問題を起してばかりで、自分をまったく出せずに抑圧された生活の中で、このような私だけの世界は本当に心を癒してくれたと思います。
 小学6年の時、授業で岩石や鉱物の標本をはじめて触り、とくに水晶など鉱物には興味を持ちました。その後は、中学のころ水の浸食作用で地形の変化していく様子などに興味を持ったくらいで、長い間岩石や鉱物と接する機会はありませんでした。
 
 次の石との出会いは、それから20数年後、今から10年くらい前のことになります。たぶん娘が小学1年の時だったと思います。娘が1人で、自分の通っていた保育園で催されていたバザーに行っていました。そして走って家に帰ってきて、「石を売っているよ」と私に教えてくれました。たぶん娘は私が石に興味を持っていることをそれとなく分かっていたのでしょう。川原で2人で遊んだりする時、たまに石を割ってその割れ目を見たりしていたこともありました。
 「石」と言っても、いったい何の石なのだろうかと思いつつ娘といっしょに保育園に行ってみると、水晶や黄鉄鉱などの鉱物10数種と化石も少し売っている店がありました。そして店主が来るのをすこし待って話しを聞くと、その方は石を売ることよりも石(鉱物)そのものにとても興味があるようで、各鉱物について詳しく説明してくれて、とても良い印象を受けました。その時は、立方体の形をした黄鉄鉱の結晶などを買いました。とても正確な立方体で、これが自然の産物なのだ、ととても感動しました。そしてその方に店の場所を詳しく教えてもらい、それから時々その店に行くようになりました。
 当時はまだ、石の販売だけでは生活がきびしいのか、昼は店舗なのですが、夕方からはそこでご夫婦で塾もしていたようです。石とともに机や椅子、本などもあり、面白い雰囲気でした。
 また、その方が主催する石の採集会にも娘といっしょに行ったりもしました。川底の泥をすくい、それを篩を使って水で洗い流しながら数mmくらいの錫石や黄鉄鉱などを選り分けていくのです。少し比重の違いはありますが、触っただけではほとんど選り分けられず、周りの子供たちの目を借りていました。娘はすぐ厭きてしまってどこかへ行ってしまい、私はただそれらしき物を分けていました。熱中するのは私のようなおじさんたちで、みな黙々と作業をしていました。今も、部屋のその辺を捜せば、その時に採集した錫石や黄鉄鉱や高師小僧の1種(木津川で採集した針鉄鉱)や大きな水晶のかけらなどが見つかるはずです。
 しばらくしてその方が忙しくなって、採集会は2、3回で終りになり、私の石の採集もそれでおしまいになりました。
 その後も、娘の自由研究にかこつけて、家のすぐ近くの安威川や嵐山近くの桂川の川原でちょっと変わったような石を探し、それを主に教材用に岩石や化石の標本を販売している専門店に持って行って調べてもらったりしました。その店では、明治時代に見つかった、野球のボールくらいもある大きな日本産の石榴石とか、太さ6、7cm、長さ30〜40cmくらいの輝案鉱とか、数万円から中には百万円以上もするようないろいろ珍しい日本の鉱物を見せてもらいました。田上山(滋賀県)産の、正長石の間にトパーズがはまり込んだ標本など、かなり安くしてもらって貴重な標本も買うことができました。
 近畿地方では、春に大阪、秋に京都で鉱物と化石の展示会があり、都合がつけば今も出かけています。展示会に行ったり、鉱物の専門店に行くのは今は年に数回ですが、その時はなにか心が洗われたような気になります。日常の世界とは違った、たのしい時です。
 ただ、私は気に入った鉱物をいったん手に入れて家に持ち帰ると、ちゃんと整理することもなく適当な箱などに入れてそのまましまい込んでしまい、めったに触ることはありません。ですから、長い時間が経つと、はじめは触って十分見分けられていた物もしばしば触っただけでは分からなくなり、ラベルを見てもらわなければならなくなります。家にはおそらく数百点、少くとも百種以上の鉱物はあるはずですが、触っただけで分かるのはそのうち半数にも満たないと思います。家に訪ねて来た人でとくに鉱物を見たいとかいう人がいれば、いろいろな箱を開けては鉱物との再会をたのしみながら、良い標本を選んでいます。
 
 私と石とのこれまでのつきあいの話はこれくらいにして、本題の収穫感謝祭での鉱物の展示販売の話に移ります。
 「収穫感謝祭」なのですから、できることなら農産物などそれぞれの家で作った物が相応しいのでしょう。娘と同学年の家庭のおそらく半数近くは農業に関係していて、そういう家では実際に自分の所で作った農産品を出していました。でも私たちはまったく農業とは関係ありませんし、手作り品といってもたいした物は作れませんので、ちょっと困ったなあと思っていました。それで鉱物はどうだろうと考えました。私のたのしみにもなりますし、もし売れれば少しは貢献できることになります。でも、どうすれば子供たちもふくめ多くの人たちに買っていただけるのでしょうか。
 まず、ちょっと見ただけでもとても分かりやすく、「きれい」とか「ふしぎ」とか「すごい」とか思えるような物を展示して鉱物に興味を持ってもらい、そして安くて良い物を買ってもらえれば、と考えました。展示品は私のコレクションの中から選べばいいです。販売品は、11月初めに京都の専門店(クリスタル・ワールド)に家内といっしょに行って、とにかく安くて(数百円程度、多くは100円から300円くらい)きれいな物、実際に飾りなどに使える物、変った物、できれば高校のある三重県近郊で採れた物などもと思って仕入れました。(その店は他の鉱物を扱っている店よりもともと安いのですが、定価の3割引きで仕入れることができました。)展示品と販売品のリストは最後に付けましたので、興味のある方は目を通して見てください。
 
 当日は、私は主に展示品の詳しい説明と販売への誘導、家内は主に実際に販売しお金を管理するといった分担になりました。展示品はできるだけ実際に触ったり持ってもらうようにしました。はじめは子供たちがちょっと買ってくれる程度で、半分くらいしか売れないかなと思っていましたが、次第に大人たちも寄って来て展示品をよく見るようになり、ちょっと売れそうにないかなと思っていた千円のルビーの原石もふくめほぼ全部売れてしまいました。最後のほうに来た人は、ほとんど選ぶ物がなくなって、ちょっとかわいそうなことになってしまいました。
 多くの人たちが自然銅を持ってその重さを実感し、また琥珀の軽さにも驚いていました。虫入り琥珀の中に見えている虫たちが700万年くらい前のものだと聞いて、時の流れに思いを馳せている人もいました。水晶などの結晶のでき方を説明すると、地球のはたらきなどにとても感心する人もいました。大きな蛍石と販売用の小さな蛍石を見比べて、大きさはとても違っていてもその形が同じなのに納得している人もいました。まるで「石の博物館」みたいと言う人、「来年も来ますか」と言ってくれる人、さらには「こういう関係の仕事をしているんですか」という人までいました。
 小学生になるかならないかくらいの子供で、親は「そんな物買ってもすぐなくすから、だめ」と何度も言うのに、どうしてもアメシストがほしくてじっと立ち尽し、やむなく親が買ってやるといった光景もありました。子供の純真な心を感じさせられました。子供たちにはやはり水晶が人気のようでした。また、ペンダント・トップも早くに売り切れてしまいました。
 
 私は展示品はできるだけ手に取ってもらい触ってもらうようにしていました。これには、観察は見るだけではなく触らなければ十分ではない、という私の密かな願いが込められているのですが、ただひとつ困ったことがありました。持った物を返す時、しばしば初めに置いてあった場所と違う所に置くことがあり、そのうち私は何がどこにあるか分からなくなってしまうのです。今回は大部分の展示品は布の上に直接置いていましたので、次回からはそれぞれを箱に入れて置こうと思います。
 自分の好きなものを他の人に説明するのはたのしいことです。そして、鉱物ファンが増えるかもしれないと思うと、なおのことうれしくなります。また、売り上げも12,000円ほどあり、原価もふくめ寄付できました。もし来年もできるのであれば、展示品は全面的に入れ替えて、再び来てくださる人たちにも十分たのしめるようにしたいと思っています。
 鉱物の展示・販売に来てくださった多くの人たち、またこのような機会を与えてくださった同学年の保護者の皆さんにも感謝しています。
 
 (以下は、展示品と販売品のリストです。触った感じを中心に簡単な説明も付けました。)
●展示品
 ・アンモナイト: 直径10cm弱の少し扁平な黒い石ですが、アンモナイトの雄型と雌型がぴったりと合わさった物です。その部分で開くと、皆さん感嘆します。
 ・ラピスラズリ: 10cm足らずの塊で、磨かれていて、すべすべしています。和名の「青金石」そのままに、ラピスの青とともに黄鉄鉱の金色がよく見えてきれいなようです。
 ・貝オパール: 4cmくらいの2枚貝の化石でいくつもの筋のようなものもはっきり触知できます。その一部が潰れまた欠けていて、その欠けた部分はガラスのようにつるつるしていてオパールの輝きも見られるようです。
 ・トパーズ: 日本のトパーズの産地として有名な滋賀県田上山産です。すでに上でも紹介したように、正長石の間にトパーズがはさまっていて、また長石の面に2箇所トパーズの結晶の頭の部分がのぞいています。
 ・水晶の群晶: 大分県尾平鉱山産です。多数の細長い結晶が中心から放射状に伸びていて、根元の部分には鉄錆がだいぶ残っていますが、先のほうは透明ないし白でとてもきれいなようです。
 ・虫入り琥珀: 長さ10cm余、幅5cm余はあるかなり大きなものです。700万年前とされていて、琥珀としては新しく、触ってもかなりなまなましい感じがします。1、2cmくらいのクモのような虫と、ごく小さなブヨか蚊のようなものが数個見えるそうです。
 ・自然銅: 長さ15cmくらい、幅5cmくらいはある平たいものです。水飴を流したようなあるいは捻ったような感じで、触ってもとても面白い形です。これだけの大きさがあるので、だれでもその重さにはびっくりします。
 ・蛍石: 劈開によってできた 1辺が4cmくらいの正8面体です。薄紫の部分、薄黄色の部分、中には金属のように見える部分もあるそうです。表面には劈開になるような多数の筋が交わっているのが触って確認できます。
 ・方解石: 透明方解石となっていますが、薄くピンクがかっていてとてもきれいなようです。縦5cm、横4cmくらいの平行四辺形の面を持つ方解石特有の劈開です。これを通して文字を見ると、副屈折により向ける面の方向によっていろいろに文字が見えるそうです。
 ・アメシスト: 1辺が10数cmの3角形のような形で厚さは3cmくらいです。全体は大きな球の一部のような丸みを帯びていて、その石の内側に、アメシストの小さな結晶が多数密集しています。表のほうは普通の石のようにざらついています。その全体の形はまるで恐竜の卵の化石の大きな破片のようで、私はとても気に入っています。
 ・ダンブリ石: 1辺が2cmくらいの菱形をした長さ6、7cmくらいの柱状です。縦には多数の筋のようなものがはしっていて、ガラスのようにつるつるしています。上の部分は、菱形の長いほうの対角線がちょうど屋根の天辺になるように両側から錐面が合わさっています。
 
●販売品
 ・水晶: 安いですが、形はきれいな物を選びました。
 ・アメシスト
 ・ローズクォーツ: 結晶面も表われていて、かなりきれいです。
 ・ルビーの原石(コランダム): 1辺2cm近く、高さ2cmくらいの6角柱状の、ずっしりとした感じです。
 ・コパル・アンバー研磨セット(約百万年前の虫入り): 琥珀のようには完全に化石化していない天然の樹脂。不透明な塊ですが、水を付けながらペーパーで磨けば、透明度が増し、中に入っている虫が見えてくるかもしれません。
 ・ラピスラズリ
 ・錫石: 京都府亀岡産。典型的な形とは言えませんが……。錫石は比重はとても大きいのですが、大きさが小さいため重さを実感するのは難しそうです。
 ・滑石: 名の通りとてもすべすべした感じです。
 ・蛍石: 小さな正8面体の劈開です。
 ・藍鉄鉱: 三重県四日市産。学校が三重県なので、何とか探しました。
 ・クリソコラ(珪クジャク石):青緑色のすべすべした塊です。
 ・人工テレビ石: 天然のテレビ石より文字がとても浮び上がって見えるそうです。
 ・オレンジ方解石
 ・グリーン方解石
 ・ヘマタイト(赤鉄鉱): 名前は赤鉄鉱でも黒く光っているようです(たぶん条痕は赤っぽいと思いますが)。
 ・ペリドット(橄欖石)
 ・トルコ石
 ・瑪瑙やアンモナイトや三角貝のペンダント・トップ(三角貝は中生代の2枚貝の化石)
 
(2002年11月25日)